タイトル: | 特許公報(B2)_ポリガラクツロン酸の製造方法 |
出願番号: | 2000151653 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | C07C 51/353,C07C 51/43,C07C 59/147,C09D 11/00 |
ウィリアム マリット JP 3888025 特許公報(B2) 20061208 2000151653 20000523 ポリガラクツロン酸の製造方法 セイコーエプソン株式会社 000002369 上柳 雅誉 100095728 須澤 修 100107261 ウィリアム マリット 20070228 C07C 51/353 20060101AFI20070208BHJP C07C 51/43 20060101ALI20070208BHJP C07C 59/147 20060101ALI20070208BHJP C09D 11/00 20060101ALN20070208BHJP JPC07C51/353C07C51/43C07C59/147C09D11/00 C07C 51/353 C07C 51/43 C07C 59/147 特開平11−255808(JP,A) 特開昭52−142018(JP,A) 特開平03−261794(JP,A) 特開2002−047302(JP,A) 特開2000−248001(JP,A) 特開2000−034302(JP,A) 特開平06−279504(JP,A) 11 2001335532 20011204 11 20040107 守安 智 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、重合度が20未満の、非ガラクツロン酸系糖類不純物を実質的に含まないポリガラクツロン酸を製造する方法に関する。【0002】【従来の技術】ポリガラクツロン酸は、カルシウムイオンに対して高い親和性を有するために、スケール形成防止剤およびスケール除去剤としての有用性が期待される。ポリガラクツロン酸が生分解性であることは、環境保全および廃棄物処理の観点から特に有益である。さらに、ポリガラクツロン酸は、分裂活性、アジュバント活性、インターフェロン産生能、マクロファージ活性化能および抗腫瘍活性といったマウスの免疫調節活性を示すことが明らかにされている(Y. Kumazawa, K. Mizunoe, Y. Otsuka,"Immunostimulating Polysaccaride Separated from Hot Water Extract of Angelic Acutiloba Kitagawa Yamato Tohki," Immunology, 47, 75-83 (1982))。また、ポリガラクツロン酸は植物防御刺激活性を示すことが明らかにされている(E.A. Nothnagel, M. McNeil, P. Albersheim, A. Dell, "Host-Pathogen Interactions XXII, A Galacturonic Acid Oligosaccharide from Plant Cell Walls Elicits Phytoalexins," Plant Physiology, 71, 916-926 (1988))。さらに、ポリガラクツロン酸の還元末端に疎水性基を共有結合させた誘導体は、インクジェットプリンタに使用される顔料を分散させた水性インク組成物用の分散剤として有用である。【0003】ポリガラクツロン酸が得られるペクチンは、レモン、ライム、グレープフルーツ、オレンジ、マンゴー、リンゴ、ヒマワリおよび甜菜などの果実に含まれる天然由来の水性コロイド成分である。ペクチンは主に1→4結合α-D-ガラクツロン酸メチルエステルと1→4結合α-D-ガラクツロン酸からなる。ペクチンを構成するガラクツロン酸メチルエステルとガラクツロン酸を合わせた含有量は典型的には約70%を超える。ポリガラクツロン酸塩の配列は1→2結合 L-ラムノース単位によって遮断され、それが高分子主鎖にねじれをもたらしている。ペクチンには、主にアラビノース、ガラクトース、キシロース、フコースといった中性糖単位で構成された分岐鎖も含まれている。【0004】ペクチンはプロトペクチンと呼ばれる非可溶性の形で果物に存在している。ペクチンは柑橘類の皮、リンゴの搾りかすまたは甜菜パルプを熱希酸水溶液で抽出することによりプロトペクチンから得られる。酸性抽出の過程でガラクツロン酸メチルエステル単位の一部は脱エステル化されてガラクツロン酸単位に変化する。抽出工程を注意深く制御すれば、ガラクツロン酸メチルエステル単位とガラクツロン酸単位の比が20:1程度のペクチンを得ることも可能である。しかし2:1程度の比が普通である。ペクチンをさらにアルカリ水溶液または酸性水溶液で処理すると、脱エステル化がさらに進む。メチルエステル単位とガラクツロン酸単位の比が1:19以下のペクチンは伝統的にペクチン酸と呼ばれている。ペクチン酸は水にはほとんど溶けない。しかし、適当な塩基で中和すると水にかなり良くとけるペクチン酸塩が得られる。ペクチンという用語は、伝統的に、ガラクツロン酸単位が酸の形で存在しているペクチン多糖類、またはガラクツロン酸単位が塩基で中和された塩の形で存在しているペクチン多糖類、またはそれらの混合物を指している。【0005】適当な原料を酸、アルカリまたは酵素で加水分解すれば、エステル化度が低くポリガラクツロン酸含有量の高い低分子量のペクチンを得ることができることは先行技術でよく知られている。次に、これらの方法の実例をやや詳細に述べる。【0006】酸性加水分解の代表的な方法は R. Kohn, "The Activity of Calcium Ions in Aqueous Solutions of the Lower Calcium Oligogalacturonates," Carbohydrate Research, 20, 351-356 (1971)に記載されている。そこに記載されている酸性加水分解では、ペクチン酸を水酸化ナトリウムで中和してペクチン酸ナトリウム塩の1重量%溶液を調製する必要がある。ペクチン酸原料は、アルカリ脱エステル化処理を繰り返すことによって市販のリンゴペクチンから得られる。次に、ペクチン酸ナトリウム塩溶液に希硫酸を滴下してpH3.3にする。前記希硫酸を定期的に添加して溶液のpHを3.3に保ちながら、生成する溶液を加熱し、17時間100゜Cに保つ。冷却した溶液を濾過し、濾液を可能な限り少量の炭酸バリウムで中和する。次に、中和した溶液をH形イオン交換樹脂のカラム(Zerolit 225-H+)に流す。集めたイオン交換溶液を回転式蒸発器(ロータリー・エバポレーター)によって最初の溶液の1/3の体積まで濃縮する。次に、4倍体積のエタノールを加えるとオリゴマー生成物が沈殿してくる。生成物を濾取し、エタノールで洗い、乾燥する。【0007】前記の酸性加水分解法はポリガラクツロン酸を実験室規模で調製するには有用であるかもしれないが、工業生産に使用する場合のように大規模で実施するには困難を伴うものと思われる。その理由は、原料ペクチン酸の濃度が1重量%にすぎないという点にある。しかも、前記酸性加水分解法は多段階からなり、そして複雑である。【0008】代表的なアルカリ加水分解法は、欧州特許出願 EP 0 487 340 A1,"Coating for Food Composition Limiting Fat Absorption upon Frying"に記載されている。そこに記載されているアルカリ加水分解は、60%イソプロパノール中の10重量%ペクチンのスラリーを調製する必要がある。次に、タイプ(エステルか酸か)に関係なくガラクツロニド1当量当たり3当量の固体水酸化ナトリウムをスラリーに加える。スラリーを25゜Cで5日間攪拌して解重合と脱エステル化を行う。生成物をろ過し、濾過ケーキを60%イソプロパノール水溶液で洗って過剰のアルカリを除く。鉱酸を加えてフィルターケーキのpHを4ないし6に調節する。酸性にした生成物を乾燥する。この方法によれば、粘度測定で決定したポリガラクツロン酸製品の分子量は2,000から20,000の範囲にある。この分子量範囲は11ないし114の重合度に相当する。【0009】前記アルカリ加水分解法はポリガラクツロン酸を実験室規模で調製するには有用であるかもしれないが、工業生産に使用する場合のように大規模で実施するには困難を伴うものと思われる。その理由は解重合と脱エステル化が不均一系で行われる点にある。大規模では不溶性のペクチンとアルコール性水酸化ナトリウムとの不均一混合物の混合が不十分となり、分子量分布の広い製品ができるものと予想される。また、上で述べたようにポリガラクツロン酸製品の重合度は11ないし114の範囲にあり、20より小さい本発明のポリガラクツロン酸の重合度とほとんど重ならない。加水分解の時間を長くすれば平均重合度は減少するはずであるが、広い分子量分布が狭くなって本発明が指定する範囲内の平均重合度が得られる見込みはないだろう。【0010】代表的な酵素加水分解法は、Y. K. LiuおよびB. S. Luh,"Quantitative Aspects of Pectic Acid Hydrolysis by Endo-polygalacturonase from Rhizopus Arrhizus," Journal of Food Science, 45, 601-604 (1980)に記載されている。そこに記載されている酵素加水分解法では Rhizopus Arrhizusを感染させたアプリコットから分離したendo-polygalacturonase (RAPG)が使用される。加水分解には、pH5の0.03 M 酢酸/0.06 M 塩化ナトリウム緩衝液に溶かしたペクチン酸ナトリウム塩の0.45重量%溶液が必要である。ペクチン酸溶液10mL当たり、精製したRAPG0.1mL(標準検定法で決定されたpolygalacturonase 0.62単位)が使用される。RAPGによって30゜Cで48時間加水分解後の生成物は、ガラクツロン酸(GAと略記、6.5%)、GA2量体(18%)、GA3量体(55.0%)、GA4量体(6.6%)、GA5量体(5.1%)、GA6量体(3.0%)および少量のその他のオリゴマーである。上記報告書に記載されている分析によると、RAPGは、重合度が約24のペクチンで最も速く反応する。【0011】前記の酵素加水分解法は実験室規模で調製するには有用であるかもしれないが、工業生産に使用する場合のように大規模で実施するには困難を伴うものと思われる。その理由は、原料ペクチン酸の濃度が0.45重量%にすぎないという点にある。その上、酵素から生成物を分離することはささいなことではないと予想される。また、上で述べたように、生成物の重合度が3ないし6の範囲にあり、かなりの量のガラクツロン酸とガラクツロン酸の2量体を含んでいる。この生成物は本発明の対象生成物であるポリガラクツロン酸というよりも、オリゴガラクツロン酸に分類した方が適当である。【0012】上で述べたペクチンおよび/またはペクチン酸の酸性加水分解、アルカリ性加水分解および酵素加水分解以外に、ペクチンおよび/またはペクチン酸の過ヨウ素酸酸化がいくつかの異なる立場から研究されている。ただ、これらの研究では低分子量のポリガラクツロン酸を得ることが目的であると明記されている訳ではない。J. Szejtli, "Periodate Oxidation of Alginic Acid," Acta Chimica Academiae Hungaricae Tomus, 49, 205-216 (1966)では、ペクチンの過ヨウ素酸酸化が、この反応の酸化の限界を明らかにする観点から研究されている。そして、ガラクツロニド1 mole当たり消費される過ヨウ素酸の mole数の形で表したペクチン酸の酸化限界は 0.69であると報告されている。Z. D. Ashubaevaおよび V. A. Afanas'ev, "Destruction of Polygalacturonic Acid under Periodate Oxidation Conditions," Izv. Akad. Nauk Kirg. SSR, 44-46 (1978)には、過ヨウ素酸酸化の機構がアルデヒド含有量と生成物の重合度との関係の観点から論じられている。この機構研究では鎖の開裂が示唆されている。C. Cessa, M. L. De Cherchi, S. Deiana, A. Dessi, G. Micera,"High-Performance Liquid Chromatographic Determination of Formic Acid in Cleavage Reactions of Carbohydrates," Journal of Chromatography, 268, 539-542 (1983)では、ポリガラクツロン酸の還元性末端基の分析に過ヨウ素酸酸化が使用され、還元性末端基当たり3モルのギ酸が生成することが同定された。上で述べたZ. D. Ashubaevaおよび V. A. Afnas'evの研究とは異なり、鎖の開裂については言及されていない。【0013】日本公開特許出願第 6-279504号には酸化オリゴ糖の製造方法および洗浄剤組成物への使用が記載されている。そこに記載された方法では、まず、多糖を酸化してポリカルボン酸多糖を得る。次に、アルカリ条件下でポリカルボキシル化多糖を加水分解して、金属イオンに高い親和性を有する生分解性オリゴマーを得る。ポリカルボキシル化多糖を酸性加水分解すると異なる構造の混合物からなる生成物が生成すると述べられており、それゆえ、記載された方法には有用ではない。日本公開特許出願第 6-279504号に記載されている実施例では、第1段階で、部分的に中和したペクチン酸の5重量%のスラリーを過ヨウ素酸ナトリウムで酸化し、部分的にジホルミル化されたペクチン酸をナトリウム塩として得る。次の段階で、部分的にジホルミル化されたペクチン酸を亜塩素酸ナトリウムで酸化し、部分的にジカルボキシル化ペクチン酸をナトリウム塩として得る。さらに次の段階で、部分ジカルボキシル化ペクチン酸をアルカリ水溶液中で27時間還流させ、低分子量ジカルボキシル化ペクチン酸をナトリウム塩として得る。GPC法で決定された低分子量生成物の数平均分子量は1,700、重量平均分子量3,400と報告されている。13C-NMRによるこの生成物の分析は、酸化されていない最初のガラクツロニドと酸化開環されたガラクツロニドの両方が存在することを示唆している。この13C-NMRデータによると生成物は単にポリガラクツロン酸だけでないことは明らかである。【0014】【発明が解決しようとする課題】上記の例から分かるように、重合度が20未満の、非ガラクツロン酸系糖類不純物を実質的に含まないポリガラクツロン酸の製造を工業的規模で実施する方法は今なお必要とされている。具体的には、出発物質がペクチン、ペクチン酸またはペクチン酸塩のいずれであっても、その濃度が5重量%より高い製造方法が必要とされている。【0015】【課題を解決するための手段】本発明の目的は、重合度が20未満の、非ガラクツロン酸系糖類不純物を実質的に含まないポリガラクツロン酸を製造する実際的な方法を提供することにある。本発明者は、過ヨウ素酸 H5IO6および過ヨウ素酸塩がペクチンまたはペクチン酸塩の濃厚溶液を酸化し、酸性条件下で容易に加水分解される中間生成物質を生成することを発見した。ここで言う過ヨウ素酸塩には過ヨウ素酸ナトリウム(メタ過ヨウ素酸ナトリウム)NaIO4、パラヨウ素酸ナトリウム Na3H2IO6および過ヨウ素酸カリウム KIO4が含まれるが、もちろんこれらに限定されるものではない。酸化反応で生成する主要なヨウ素含有生成物はヨウ素酸でなく、遊離ヨウ素であることが明らかにされている。この知見は、1つの酸化剤で多重の酸化段階が行われることを暗示している。これらの発見が本発明の基礎となっている。【0016】本明細書に記載した発明によれば、次に挙げる段階で構成される、重合度が20未満の、非ガラクツロン酸系糖類不純物を実質的に含まないポリガラクツロン酸の製造方法が提供される。第1段階ではペクチンまたはペクチン酸を水に溶解してペクチンまたはペクチン酸を5重量%以上含む溶液を調製する。第2段階では化学量論量より少ない過ヨウ素酸または過ヨウ素酸塩を加えて、ペクチンまたはペクチン酸塩を酸化する。第3段階では酸化反応を完結させ遊離ヨウ素を反応混合物から分離させる。第4段階では遊離ヨウ素を分離する。第5段階では反応混合物を酸性にして加熱し、ポリガラクツロン酸を含む低分子量の成分を得る。第6段階では低分子量のアルコール、低分子量のカルボン酸、またはそれらの混合物を加えてポリガラクツロン酸を選択的に沈殿させる。最後にポリガラクツロン酸を常法によって分離する。【0017】【発明の実施の形態】重合度が20未満の、非ガラクツロン酸系糖類不純物を実質的に含まないポリガラクツロン酸の実際的な製造方法を以下に説明する。非ガラクツロン酸系糖類不純物を実質的に含まないという表現は、試料をD2Oに溶解した10重量%溶液の13C-NMRにおいて、ポリガラクツロン酸のC-1、C-2、C-3、C-4、C-5およびC-6に相当する6つの主要ピークのみが観察できるという意味である。【0018】上で述べたようにペクチンおよび/またはペクチン酸の過ヨウ素酸塩酸化はいくつかの立場から研究されているが、低分子量のポリガラクツロン酸を得ることを目的とする記述は見られない。日本公開特許出願第 6-279504号において、ペクチン酸を出発原料として低分子量のポリカルボキシル化ペクチン酸を製造するための3段階法が報告され、第1段階で過ヨウ素酸ナトリウムが使用された。酸化剤として過ヨウ素酸ナトリウムが使用され、第1段階ではペクチン酸の隣接グリコールが酸化的に切断され、カルボニル化合物が同時に生成した。その酸化生成物は単離され、部分的にジホルミル化されたペクチン酸であると確認された。この酸化反応の化学量論に基づけば、ヨウ素酸ナトリウムが予想される含ヨウ素生成物である。第2の酸化段階では、部分的にジホルミル化されたペクチン酸が亜塩素酸ナトリウムで酸化された。この段階ではカルボニル官能基の一部または全部がカルボン酸官能基まで酸化された。生成したペクチン酸酸化生成物が単離され、部分的にジカルボキシル化されたペクチン酸であると確認された。【0019】理論的にはどうであれ、本発明では、上述の2つの別個の酸化段階がただ1種類の酸化剤、すなわち過ヨウ素酸または過ヨウ素酸塩によって行われるものと推定される。この結論は、本発明の条件ではヨウ素酸塩でなく遊離のヨウ素が主要な含ヨウ素生成物であるという観察に基づいている。また、理論的にはどうであれ、2つの酸化反応は過ヨウ素酸を酸化剤として使用する下記の化学量論式に従って進行するものと信じられる。過ヨウ素酸または他の過ヨウ素酸塩に対しても同様な式を書くことができる:−CHOH−CHOH− +NaIO4 → 2[−CHO] + NaIO32[−CHO]+NaIO3 + 2/5H2 → 2[−COOH]+2/5I2+4/5NaOH+1/5NaIO3最初の酸化で生成するヨウ素酸ナトリウムは、さらにヨウ素まで還元され、部分的にジカルボキシル化されたペクチンまたはペクチン酸塩を生成する。上記の式によれば、第2の酸化でヨウ素酸の全量が還元されるわけではない。【0020】過ヨウ素酸または過ヨウ素酸塩とペクチンまたはペクチン酸塩との反応がたとえ上記の式通りに進行しなくても、ペクチンまたはペクチン酸塩を酸化して容易に加水分解される中間生成物に変換するのに過ヨウ素酸または過ヨウ素酸塩が有用であるという点が本発明の重要な点である。この容易に加水分解可能な中間生成物は酸化反応を完結させた時に得られ、一定量の遊離ヨウ素が反応混合物から分離する。【0021】本発明で出発原料として使用されるペクチンまたはペクチン酸塩は市販品であればいかなるペクチンまたはペクチン酸塩であってもよい。ポリガラクツロン酸が目的生成物であるので、出発原料にはガラクツロン酸に富むペクチンまたはペクチン酸塩が好ましい。一般に、柑橘類の皮から抽出されたペクチンがガラクツロン酸に富んでいる。加水分解溶液の粘度を比較的低く保つためには平均分子量の低いペクチンまたはペクチン酸塩が出発物質として好ましい。本発明では分子量が50,000 g/mole以下のペクチンまたはペクチン酸塩が好ましい。好ましいペクチンまたはペクチン酸塩としてはトーメンケミカル(東京、日本)から入手できる「超低粘度ペクチン酸」や三晶(大阪府枚方市、日本)から入手できる「超低粘度ペクチン酸、ナトリウム塩」がある。【0022】本発明の重要な点は、ペクチンもしくはそのリチウム塩、またはペクチン酸リチウム塩を使用することでペクチンまたはペクチン酸塩の5重量%以上の溶液が容易に過ヨウ素酸塩酸化用として得られることである。すなわち、ペクチンまたはペクチン酸に会合する陽イオンはリチウムである。ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩など、その他のアルカリ金属塩も本発明に使用することができる。しかし、出発物質であるペクチンまたはペクチン酸には関係なく、リチウム塩は他の相当するアルカリ金属塩より水に良く溶ける。従って、本発明の好ましい例は、ペクチンまたはペクチン酸に会合する陽イオンが主としてリチウムのものである。ペクチンのリチウム塩を調製する最も簡単な方法は、まず、ペクチンの溶液を酸性にして酸の形で沈殿させることである。次に、この固体を分離し、水酸化リチウムで中和して水に溶解する。同様に、ペクチン酸のリチウム塩溶液を得る簡単な方法はペクチン酸を水酸化リチウムで中和して水に溶解することである。これらの中和反応に使用する場合、水酸化リチウムより水酸化リチウム1水和物の方が使い易くて好ましい。【0023】本発明は第1段階として、ペクチンまたはペクチン酸塩を水に溶解し、ペクチンまたはペクチン酸塩を5重量%以上含む溶液を調製する。生成する溶液のpHは 2.8以上、5.0以下でなければならない。溶液のpHは無機酸またはアルカリ金属水酸化物の水溶液を加えることによりこの範囲内に設定することができる。無機酸水溶液としては6 moles/liter以下の濃度の塩酸が好ましい。アルカリ金属水酸化物の水溶液としては5重量%以下の水酸化リチウム1水和物の水溶液が好ましい。市販品ペクチンまたはペクチン酸塩の場合、指定のpH範囲で調製した溶液は少量の不溶性不純物を含んでいる。もし必要と判断すれば、過ヨウ素酸または過ヨウ素酸塩を加える前に濾過し、これらの不純物を容易に除くことができる。2.8より低いpHでは、多くのペクチンまたはペクチン酸塩出発物質において、ペクチンまたはペクチン酸塩は、完全には溶解しないが、5.0より高いpHでは、過ヨウ素酸または過ヨウ素酸塩とペクチンまたはペクチン酸塩との反応は、含ヨウ素生成物として遊離ヨウ素を生成するが、容認できないほど進行が遅い。サンショーから入手できる「超低粘度ペクチン酸、ナトリウム塩」の場合、通常、pH約4.1の溶液が得られる。【0024】次の段階では、化学量論量より少ない過ヨウ素酸または過ヨウ素酸塩を加えることによってペクチンまたはペクチン酸塩を酸化する。過ヨウ素酸は次のような分子式を持っている: H5IO6。過ヨウ素酸塩としては次のものが挙げられるがこれらに限られるものではない:過ヨウ素酸ナトリウム(メタ過ヨウ素酸ナトリウム)NaIO4、パラヨウ素酸ナトリウム Na3H2IO6および過ヨウ素酸カリウム KIO4。本発明において、化学量論量より少ない過ヨウ素酸または過ヨウ素酸塩とは、5 mole%より多く、50 mole%より少ない量を意味する。5mole%より少ない化学量論量の場合、酸性加水分解で得られるポリガラクツロン酸は平均重合度が20より大きい。50mole%より大きな化学量論量の場合、ポリガラクツロン酸の典型的な収率は5%にも満たず、受け入れられない。過ヨウ素酸または過ヨウ素酸塩を加える場合、固体で加えても良いし水溶液で加えても良いが、固体で加える方が好ましい。過ヨウ素酸または過ヨウ素酸塩を加える時および反応初期は、ペクチンまたはペクチン酸塩の溶液を激しく攪拌し冷却すべきである。第1段の酸化は発熱反応であるため、冷却することは重要である。【0025】次の段階では酸化反応を完結させ遊離ヨウ素を反応混合物から分離させる。発熱を伴う最初の酸化反応が終了し、反応混合物を室温まで戻すとヨウ素が沈殿し始める。反応を進めて一定量の遊離ヨウ素を反応混合物から分離させる最も簡単な方法は、反応混合物を加熱することである。固体ヨウ素は蒸気圧が高いため、加熱は閉鎖系か排気系で行うのが最も良い。排出されるヨウ素はヨウ素専用の洗浄吸収溶液を通過させる。反応混合物の加熱温度は中間酸化物が速やかに遊離ヨウ素に変換されるよう、40゜Cより高くすることが好ましい。本発明の発明者は中間酸化物から遊離ヨウ素への変換を促進する可能性のある触媒については検討しなかったが、触媒の添加は確実に本発明の範囲内にある。【0026】反応を終結させた後、遊離したヨウ素は常法によって分離される。そのような方法として、濾過、遠心分離、および水蒸気蒸留を挙げることができる。ヨウ素を過ヨウ素酸または過ヨウ素酸塩に再生する精製回収工程は米国特許第 3,607,694号、米国特許第 3,681,213号および米国特許第 3,703,508号に開示されている。【0027】次の段階で、酸化された中間生成物が、ポリガラクツロン酸を含む低分子量成分に加水分解されるように、反応混合物が酸性化され、加熱される。上で指摘したように、酸化中間生成物の酸性加水分解が容易であることが本発明の重要な点である。加熱中または加熱前に反応混合物を酸性にしてpH3.5以下とする。pHが3.5より高いと加水分解は容認できないほど遅くなる。一般に、酸性加水分解の速度を上げる意味からpH値は低いほど良い。【0028】この段階では、酸性化された反応混合物は、中間生成物がポリガラクツロン酸を含む低分子量成分に加水分解されるに十分な時間、80℃以上に加熱される。80゜Cより低い温度を使用することもできるが、加水分解速度はそれに対応して遅くなる。大気圧の水の沸点より高い温度が使用できるように、圧力容器で加水分解を行うこともできる。一般に約120゜Cを超えると、加水分解と平行して起こる多糖生成物の分解が無視できなくなるため、約120゜Cより低い温度が好ましい。加水分解は通常の環境雰囲気で行うこともできるし、不活性雰囲気で行うこともできる。しかし、生成物の空気酸化を最小限に抑えるためには不活性雰囲気中で行う方が好ましい。コストの観点から高純度窒素の雰囲気が好ましい。【0029】中間生成物を加水分解してポリガラクツロン酸を含む低分子量成分に変換するに足る時間はいくつかの要因によって左右される。1つの要因は酸性にした反応混合物の温度である。第2の要因は出発ペクチンまたはペクチン酸塩の濃度である。第3の要因はペクチンまたはペクチン酸塩を酸化するために、出発原料ペクチンまたはペクチン酸塩の量に対して使用される過ヨウ素酸または過ヨウ素酸塩の量である。上で指摘したように、第4の要因は酸性にした反応混合物のpH値である。加水分解反応が完結したかどうかを決定するには、様々な分析技術が使用できる。その代表的な方法は、酸性にした反応混合物の分取を一定時間おきに抜き取ってポリガラクツロン酸を単離することである。分離したポリガラクツロン酸は NMR、ゲル浸透クロマトグラフィ、および末端基分析を含め、様々な方法で分析することができる。【0030】加水分解が完結したと判断されると、酸性反応混合物を室温まで冷却する。次に、低分子量のアルコール、低分子量のカルボン酸またはそれらの混合物を反応混合物に添加してポリガラクツロン酸を選択的に沈殿させる。好ましい低分子量のアルコールとしてはメタノール、エタノールおよびイソプロパノールの群から選択されたアルコールが含まれる。好ましい低分子量のカルボン酸としては酢酸およびプロピオン酸の群から選択されたカルボン酸が含まれる。ポリガラクツロン酸を選択的に沈殿させるために使用される低分子量のアルコール、低分子量のカルボン酸またはそれらの混合物の量は、反応混合物の体積に等しいかそれ以上、そして反応混合物の体積の5倍以下が好ましい。【0031】選択的に沈殿させた後、ポリガラクツロン酸は常法によって分離される。その様な分離法として濾過や遠心分離を挙げることができる。続いて生成物を低分子量のアルコールで洗浄し、常法に従って乾燥する。【0032】本発明の方法に従って調製されるポリガラクツロン酸は、非ガラクツロン酸糖類不純物を実質的に含まない。非ガラクツロン酸系糖類不純物を実質的に含まないという表現は、試料をD2Oに溶解した10重量%溶液の13C-NMRスペクトルにおいて、ポリガラクツロン酸のC-1、C-2、C-3、C-4、C-5およびC-6に相当する6つの主要なピークのみが観察できるという意味である。【0033】本発明の方法に従って調製されるポリガラクツロン酸の重合度は20より低い。平均重合度は、P.A.SchafferおよびM.Somogyi(J. Biol. Chem., 100, 695-713 (1933))の方法に従い、銅−ヨウ素滴定法によって決定される。この方法ではガラクツロン酸1水和物が基準糖として使用される。【0034】【実施例】以下に挙げる実施例によって本発明をさらに説明する。すべての操作は換気に優れたドラフト下で行った。【0035】ポリガラクツロン酸の調製【0036】ペクチン酸150 g(超低濃度ペクチン酸、トーメンケミカル、東京、日本)を1000 mLビーカー中の脱イオン水600 mLに加えてスラリーにした。オーバーヘッド式攪拌機でスラリーを攪拌しながら水酸化リチウム1水和物27 gをこのスラリーに加えた。ペクチン酸は溶け、pH約4の溶液が得られた。脱イオン水を加えて全液量を750 mLにした。次に、溶液を氷浴で5゜C以下まで冷却した。冷却した溶液を攪拌機で激しく攪拌しながら、過ヨウ素酸ナトリウム43.7 gを速やかに加えた。冷却溶液を1時間激しく攪拌した後、氷浴を取り去り攪拌溶液を室温に戻した。次に、攪拌しながら濃塩酸8 gを加えた。ビーカーに蓋をして12時間放置した。この間にいくらかの遊離固体ヨウ素がビーカーの底に沈積した。反応混合物を2Lの蓋付き肉厚PFA容器に移した。容器の口の部分のネジにテフロンテープを巻きしっかり蓋をした。容器に鉛のおもりを付けて水浴中に沈め、90゜Cで12時間保温した。室温まで冷却した後、容器の蓋を開け、混合物をワットマンの4号濾紙で濾過した。濾紙上に集めたヨウ素は標準的な方法で処分した。濾液を丸底フラスコに移し還流冷却器を取り付けた。溶液にn−オクチルアルコール2 mlを加えた後、混合物を磁気攪拌器で攪拌しながら2時間加熱還流させた。攪拌と還流を続けながら、濃塩酸を還流冷却器を通してゆっくり加え、混合物のpHを1.0にした。pH値は、測定範囲が0.8−2.0の Hydrion Microfine pH試験紙で評価した。酸を添加すると白色の沈殿が少量生成した。混合物をさらに9時間還流させた。混合物を室温まで放冷し、孔径の微細な(孔径:16−40ミクロン)溶融ガラス濾過器で吸引濾過し濾液を濾過瓶に集めた。濾液を3 Lビーカーに移した。溶液を激しく攪拌しながら酢酸2 Lを溶液に加えると白色固体が沈殿した。固体を孔径の微細な(孔径:16−40ミクロン)溶融ガラス濾過器で吸引濾過した。固体を1−プロパノールで数回洗浄し、空気中に放置して乾燥させた。最後に、固体を恒量になるまで真空乾燥した。生成物の収量は18 gであった。生成物の重合度は P.A.SchafferおよびM.Somogyi(J. Biol. Chem., 100, 695-713 (1933))の方法で決定した。この方法の基準糖にはエタノールと水から再結晶したガラクツロン酸1水和物を使用した。ポリガラクツロン酸試料の実測重合度は18であった。生成物の純度は13C-NMRによって評価した。すなわち、試料約45 mgを重水0.4 mlに溶かし、室温でスペクトルを測定した。標準的な13C-NMRパルスシーケンスを使用して13,000回スキャニングをくり返してデータを集めた。得られたスペクトルを図1に示す。ポリガラクツロン酸のC-1、C-2、C-3、C-4、C-5およびC-6に相当する6つの主要なピークが、C-2とC-5のピークがはほとんど重なって観察された。化学シフトを下の表1にまとめた。【0037】【表1】【図面の簡単な説明】【図1】図1は室温で測定したポリガラクツロン酸試料の13C-NMRスペクトルである。60 ppmから180 ppmまでの範囲のスペクトルが示してある。 以下の工程からなることを特徴とする、重合度が20未満の、非ガラクツロン酸系糖類不純物を実質的に含まない、ポリガラクツロン酸の製造方法。(a)ペクチンまたはペクチン酸塩を水に溶解してペクチンまたはペクチン酸塩を5重量%以上含む酸性溶液を調製する工程と、(b)化学量論量以下の過ヨウ素酸または過ヨウ素酸塩を加えることによってペクチンまたはペクチン酸塩を酸化する工程と、(c)遊離したヨウ素が反応混合物から分離するように、酸化反応を完結またはほぼ完結させる工程と、(d)遊離したヨウ素を反応混合物から分離する工程と、(e)ポリガラクツロン酸を含む低分子量成分が得られるように反応混合物を酸性化し加熱する工程と、(f)ポリガラクツロン酸を選択的に沈殿させるように低分子量アルコール、低分子量カルボン酸またはそれらの混合物を加える工程と、(g)ポリガラクツロン酸を反応混合物から分離する工程。 ペクチンまたはペクチン酸塩と会合する陽イオンが主としてリチウムであることを特徴とする請求項1に記載の方法。 ペクチンまたはペクチン酸塩を5重量%以上含有する酸性溶液のpH値が2.8以上、そして5.0以下であることを特徴とする請求項1に記載の方法。 化学量論量より少ない過ヨウ素酸または過ヨウ素酸塩が5mole%より多く、50mole%より少ないことを特徴とする請求項1に記載の方法。 過ヨウ素塩が、過ヨウ素ナトリウム NaIO4、パラ過ヨウ素ナトリウム Na3H2IO6、過ヨウ素カリウム KIO4の群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。 反応混合物を加熱することによって酸化反応を完結させることを特徴とする請求項1に記載の方法。 反応混合物を酸性にしそのpHを3.5以下とすることを特徴とする請求項1に記載の方法。 酸性にした反応混合物を80゜C以上の温度に加熱することを特徴とする請求項1に記載の方法。 ポリガラクツロン酸を選択的に沈殿させるために使用する低分子量アルコールが、メタノール、エタノールおよびイソプロパノールからなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。 ポリガラクツロン酸を選択的に沈殿させるために使用する低分子量カルボン酸が酢酸およびプロピオン酸からなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。 ペクチンまたはペクチン酸塩の分子量が 50,000 g/mole以下であることを特徴とする請求項1に記載の方法。