タイトル: | 特許公報(B2)_ムスカリン性アセチルコリン神経系標識化合物及びその製造方法 |
出願番号: | 2000118301 |
年次: | 2010 |
IPC分類: | C07D 211/42,A61K 51/00,C07D 211/46 |
塚田 秀夫 佐藤 謙吾 西山 新吾 原田 典弘 JP 4592869 特許公報(B2) 20100924 2000118301 20000419 ムスカリン性アセチルコリン神経系標識化合物及びその製造方法 浜松ホトニクス株式会社 000236436 長谷川 芳樹 100088155 塩田 辰也 100089978 寺崎 史朗 100092657 塚田 秀夫 佐藤 謙吾 西山 新吾 原田 典弘 20101208 C07D 211/42 20060101AFI20101118BHJP A61K 51/00 20060101ALI20101118BHJP C07D 211/46 20060101ALI20101118BHJP JPC07D211/42A61K49/02 CC07D211/46 C07D 211/42 C07D 211/46 A61K 49/02 CAplus(STN) REGISTRY(STN) 特開平11−152270(JP,A) TAKAHASHI, K.,Synthesis and autoradiographic localization of muscarinic cholinergic antagonist (+)-N[11C]methyl-3-piperidyl benzilate as a potent radioligand for positron emission tomography,Applied Radiation and Isotopes,1999年,50(3),p. 521-525 MULHOLLAND, G. K.,Synthesis, In Vivo Biodistribution and Dosimetry of [11C]N-Methylpiperidyl Benzilate ([11C]NMPB), a Muscarinic Acetylcholine Receptor Antagonist,Nuclear Medicine and Biology,1995年,22(1),p. 13-17 SHANAZ, M.,N-substituted derivatives of 4-piperidinyl benzilate: affinities for brain muscarinic acetylcholine receptors,LIFE SCIENCES,1990年,47(10),p. 841-848 2 2001302632 20011031 21 20061108 早乙女 智美 【0001】【発明の属する技術分野】本発明はムスカリン性アセチルコリン神経系標識化合物に関し、詳しくはポジトロンエミッシヨントモグラフィ(PET)計測用ムスカリン性アセチルコリン神経系標識化合物に関する。【0002】【従来の技術】高齢化社会を迎えて、痴呆患者数の増加による経済負担の増加が社会的な問題となってきており、かかる痴呆の病態解明とともに効果的な抗痴呆薬の開発が必要とされている。【0003】痴呆の病理は未だ解明されていないが、従来の研究からアセチルコリン神経系の機能低下がその原因の一つであることが示唆されている。従って、痴呆の病態解明及び抗痴呆薬の開発においては、アセチルコリン神経系の機能を評価することは極めて重要な役割を果たすものであり、その評価を行うための非侵襲的方法、及びその方法に使用するのに適した標識化合物の開発が強く望まれている。【0004】アセチルコリン神経系の機能を評価する非侵襲的方法としては、陽電子(ポジトロン)放出核種を有する標識化合物を用いてポジトロンエミッショントモグラフィ(以下、PETという)測定を行う方法が知られている。この方法は、標識化合物を用いてアセチルコリン神経系の受容体を標識化し、放出核種から放出された陽電子と物質構成電子との結合、消滅に伴い放出されるγ線を計測することにより、前記受容体の分布を測定するものである。【0005】前記PET測定に使用するムスカリン性アセチルコリン神経系標識化合物としては、[11C]N−メチル−4−ピペリジルベンジル酸エステル(以下、[11C]4-NMPBという)が提案されている。しかしながら、[11C]4-NMPBを用いたPET測定においては、(i)血中においてイオン性が低いため、脂溶性が大きく、組織への移行性は良いが、組織内においてムスカリン性アセチルコリン神経系の受容体に非特異的に結合する[11C]4-NMPBの量が多いため、前記受容体と特異的に結合する[11C]4-NMPBの量を計測する場合に誤差を生じやすい傾向にある;(ii)光学異性体の存在しない構造を有するため、ムスカリン性アセチルコリン神経系の受容体と特異的に結合する[11C]4-NMPBの量を計測する場合に誤差が生じやすい傾向にある;(iii)受容体に対する親和性(アフィニティ)が高く解離定数(k4)が非常に小さいため、その脳内動態が局所的な血流量の変化に影響を受けやすく、脳循環量の低下を伴う病態あるいは疾病モデルでは、計測された結果が真のムスカリン性アセチルコリン神経系の受容体の活性の変化によるものなのか、単に局所的な脳内血流量の変化によるものなのか、を弁別することが困難である;(iv)ムスカリン性アセチルコリン神経系の受容体に対する親和性(アフィニティ)が、内在性の神経伝達物質であるアセチルコリンに比較して非常に高いため、神経伝達によって惹起される節前神経から放出されたアセチルコリンと、標識化合物と、の受容体上での競合を計測することが困難である、等の問題点があった。【0006】一方、特開平11−152270号公報にはムスカリン性アセチルコリン神経系標識化合物として[11C](±)N−メチル−3−ピペリジルベンジル酸エステル(以下、[11C](±)-3NMPBという)を用いることにより、[11C]4-NMPBを用いた場合に比べて高い精度でのPET測定が可能であることが記載されている。しかしながら、[11C](±)-3NMPBを用いた場合であっても、より高い精度でPET測定を行う上では未だ十分なものではなかった。【0007】【発明が解決しようとする課題】本発明は上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、脳内の関心領域における血流量変化の影響を受けず、より高い精度をもって、効率よくPET測定を行うことを可能とする、ムスカリン性アセチルコリン神経系標識化合物を提供することを目的とする。【0008】【課題を解決するための手段】本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の構造を有する11Cラベル化ベンジル酸アルキルピペリジルエステルをムスカリン系アセチルコリン神経系標識化合物に用いることにより上記課題が解決されることを見いだし、本発明を完成するに至った。【0009】すなわち、本発明のポジトロンエミッショントモグラフィ計測用ムスカリン性アセチルコリン神経系標識化合物は、下記一般式(I):【0010】 すなわち、本発明のポジトロンエミッショントモグラフィ計測用ムスカリン性アセチルコリン神経系標識化合物は、下記一般式(I):【0011】[式中、Wは下記式(II)又は(III):【0012】【化10】【0013】【化11】【0014】(式中、Rは11Cラベル化エチル基又は11Cラベル化プロピル基を表す)で表される基を表し、Wが上記式(II)で表される基のとき上記式(I)は(+)−体である]で表される構造を有することを特徴とするものである。【0015】 また、本発明のポジトロンエミッショントモグラフィ計測用ムスカリン性アセチルコリン神経系標識化合物の製造方法は、下記式(IV):【0016】【化12】【0017】で表される11Cラベル化ハロゲン化アルキルと、下記式(V):【0018】【化13】【0019】で表されるベンジル酸ピペリジルエステルと、から下記式(I):【0020】【化14】【0021】で表される化合物を得るステップを含むことを特徴とするものである。[式中、Rは11Cラベル化エチル基又は11Cラベル化プロピル基を表し、Xはハロゲン原子を表し、W’は(+)−3−ピペリジル基又は4−ピペリジル基を表し、Wは下記式(II)又は(III):【0022】【化15】【0023】【化16】【0024】(式中、Rは11Cラベル化エチル基又は11Cラベル化プロピル基を表す)で表される基を表す。]本発明によれば、上記式(I)で表される標識化合物を用いることによって、PET測定において、血流量変化の影響を受けずに標識化合物と前記受容体との特異結合に対応するγ線量が高感度で計測される。従って、脳内の所定の関心領域におけるアセチルコリン神経系に関する情報を高い精度で得ることが可能となる。また、本発明の標識化合物の前記受容体に対する親和性は従来の標識化合物に比べて低く、標識化合物の受容体との結合及び受容体からの解離が比較的短時間で起こるので、効率よくPET測定を行うことができる。【0025】【発明の実施の形態】以下、場合により図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。【0026】本発明の標識化合物は、下記一般式(I):【0027】【化17】【0028】[式中、Wは下記式(II)又は(III):【0029】【化18】【0030】【化19】【0031】(式中、Rは11Cラベル化エチル基又は11Cラベル化プロピル基を表す)で表される基を表し、Wが上記式(II)で表される基のとき上記式(I)は(+)−体である]で表される構造を有するものであり、より具体的には、図1(a)に示す[11C](+)−N−エチル−3−ピペリジルベンジレート([11C](+)N-ethyl-3-piperydil benzilate、以下、[11C](+)3-NEPBとする);図1(b)に示す[11C](+)N−プロピル−3−ピペリジルベンジレート([11C]N-propyl-3-piperydil benzilate、以下、[11C](+)3-NPPBとする);図1(c)に示す[11C]N−エチル−4−ピペリジルベンジレート([11C]N-ethyl-4-piperidyl benzilate、以下、[11C]4-NEPBとする);及び、図1(d)に示す[11C]N−プロピル−4−ピペリジルベンジレート([11C]N-propyl-4-piperidyl benzilate、以下、[11C]4-NPPBとする)、である。 [11C](+)3-NEPB及び[11C](+)3-NPPBには、それぞれ光学異性体([11C](−)3-NEPB及び[11C](−)3-NPPB)が存在するが、本発明の標識化合物である(+)-体は(−)-体との混合物、すなわち、[11C](±)3-NEPB及び[11C](±)3-NPPBの形態で用いてもよく、混合物から(+)−体を分離して用いてもよい。なお、これらの光学異性体の混合物から(+)−体を単離する方法としては、シリカゲルに多糖誘導体を担持させたカラムを用いた光学分割カラムクロマトグラフ等が挙げられる。【0032】また、[11C](−)3-NEPB及び[11C](−)3-NPPBは前記受容体に対する特異結合能を有さないので、例えば[11C](+)3-NEPB又は[11C](+)3-NPPBを単独で用いてPET測定を行い、それぞれ[11C](−)3-NEPB及び[11C](−)3-NPPBを単独で用いた場合の測定結果と比較することにより、受容体と特異的に結合している標識化合物の量をより高い精度で見積もることができる。【0033】次に、本発明の化合物(I)の製造方法について説明する。【0034】本発明の化合物(I)は、下記反応式(A):【0035】【化20】【0036】[式中、Rは11Cラベル化エチル基又は11Cラベル化プロピル基を表し、Xはハロゲン原子を表し、W’は(+)−3−ピペリジル基又は4−ピペリジル基を表し、Wは下記式(II)又は(III):【0037】【化21】【0038】【化22】【0039】(式中、Rは11Cラベル化エチル基又は11Cラベル化プロピル基を表す)で表される基を表し、Wが上記式(II)で表される基のとき上記式(I)は(+)−体であり、W’が(+)−3−ピペリジル基のときWは上記式(II)で表される基であり、W’が4−ピペリジル基のときWは上記式(III)で表される基である]で表される方法、すなわち、11Cラベル化ハロゲン化アルキル(IV)とベンジル酸ピペリジルエステルと(V)とを反応させることにより得ることができる。ここで、上記式(IV)中のX(ハロゲン原子)としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられるが、好ましくはヨウ素原子である。11Cラベル化ハロゲン化アルキル(IV)のハロゲン原子がヨウ素原子であると、容易にしかも効率よく反応を行うことができる傾向にある。また、上記反応の方法及び反応条件に特に制限はなく、それぞれ従来より公知のものを使用することができる。例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)溶媒中、反応温度100℃、反応時間3〜6分で上記の反応を行うことにより目的化合物(I)を得ることができる。更に、上記反応においては、ジメチルホルムアミド(DMF)の他にジメチルスルホキシド(DMSO)等を溶媒として使用することができる。なお、上記の反応により得られた化合物(I)の同定は、カラムクロマトグラフ、光学異性シフト試薬を用いた核磁気共鳴吸収スペクトル(NMR)、旋光度の測定等により確認される。【0040】上記反応式(A)で表される反応の出発原料である11Cラベル化ハロゲン化アルキル(IV)の合成方法について特に制限はなく、例えば11Cラベル化ヨウ化化アルキル(IV−a)は、下記反応式(B):【0041】【化23】【0042】(式中、R’はメチル基又はエチル基を表す)で表される方法、すなわち、11Cラベル化二酸化炭素(VI)と臭化アルキルマグネシウム(VII)との反応により得られた化合物(VIII)をLiAlH4等の還元剤を用いて還元し、更にヨウ化水素酸で処理することにより得ることができる。なお、上記の反応において、11Cラベル化二酸化炭素(VI)は市販品を使用してもよく、14N(p, α) 11C反応等の方法を用いて合成したものを使用してもよい。また、臭化アルキルマグネシウム(VII)についても、市販品、又は従来より公知の方法により合成したものを使用することができる。【0043】また、上記反応式(A)で表される反応の出発原料であるベンジル酸ピペリジルエステル(V)の合成方法について特に制限はないが、例えば、下記反応式(C):【0044】【化24】【0045】(式中、R”はアルキル基を表し、W’は3−ピペリジル基又は4−ピペリジル基を表す)で表される方法、すなわち、ベンジル酸エステル(IX)とピペリジノール(X)との反応により得ることができる。ここで、ベンジル酸エステル(IX)としては、ベンジル酸メチルエステル、ベンジル酸エチルエステル、ベンジル酸プロピルエステル、ベンジル酸ブチルエステル等が挙げられる。また、ピペリジノール(X)が3−ピペリジノールである場合には光学異性体が存在するが、予め光学分割により単離された(+)3−ピペリジノールを用いてもよく、光学異性体の混合物である(±)3−ピペリジノールを用いてもよい。(±)3−ピペリジノールを用いる場合には、上記(A)又は(C)の反応後に光学分割カラムクロマトグラフ等により光学分割して(+)−体を得ることができる。【0046】このようにして得られた本発明の標識化合物を用いることによって、PET測定において、血流量変化の影響を受けずに標識化合物と前記受容体との特異結合に対応するγ線量が高感度で計測される。従って、脳内の所定の関心領域におけるアセチルコリン神経系に関する情報を高い精度で得ることが可能となる。また、本発明の標識化合物の前記受容体に対する親和性は従来の標識化合物に比べて低く、標識化合物の受容体との結合及び受容体からの解離が比較的短時間で起こるので、効率よくPET測定を行うことができる。【0047】なお、本発明の標識化合物を用いたPET測定方法に特に制限はなく、従来より公知の方法に準じて実施することができる(H. Onoe, O. Inoue, K. Suzuki, H. Tsukada, T. Itoh, N. Mataga, Y. Watanabe, Brain Research 663, 191-198(1994))。具体的には、無麻酔アカゲザル等の被検体について核磁気共鳴断層画像装置(MRI)を用いて脳の断層画像を得、この断層画像に基づき関心領域(ROI)を決定する。次に、前記被検体の静脈から本発明の標識化合物を投与し、PETシステムを用いて各関心領域についてPET計測を行う。PETシステムにおいては、前記標識化合物の有する放出核種から放出された陽電子と周囲の物質構成電子との結合により放出される消滅光子、すなわちγ線が計測される。更に、必要に応じて、得られた計測データを画像再構成ソフトにより処理して前記関心領域のイメージ画像を得ることが可能である。ここで、空間分解能に優れたPETシステム(例えば浜松ホトニクス(株)製 SHR-7700)と画像再構成ソフト(例えば浜松ホトニクス(株)製 SHR Controll II)とを組み合わせて使用することは、被検体の脳が小さい場合であっても、脳の細部まで弁別できるという点で好ましい。【0048】【実施例】以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。【0049】実施例1以下の手順に従い、[11C](+)−N−エチル−3−ピペリジルベンジレート([11C](+)N-ethyl-3-piperydil benzilate、以下、[11C](+)3-NEPBとする)を合成した。【0050】(11Cラベル化ヨウ化エチル([11C]ethyl iodide)の合成)Japan Steel Works BC-168サイクロトロンを用いて14N(p, α)11C反応により製造された11Cラベル化二酸化炭素と、臭化メチルマグネシウムと、を反応させ、得られた生成物を更に水素化リチウムアルミニウムで還元し、ヨウ化水素酸で処理して11Cラベル化ヨウ化エチルを得た。この合成は住友重機械工業(株)製自動合成装置を用いて行った。得られた11Cラベル化ヨウ化エチルはガスクロマトグラフィー(ジーエルサイエンス製 Chromosorb W HP 80/100カラム)を用いて精製した。【0051】((+)−3−ピペリジルベンジレート((+)-3-piperydil benzilate, (+)3-PBの合成)攪拌器と、還流冷却器と、還流冷却により滴下する溶媒からメタノールをトラップするためのモレキュラーシーブ4A(15g)管及びソーダライム管と、を備えた50ml三ツ口フラスコに、ベンゼン30ml、3−ピペリジノール(3-piperidinol)0.4g(4mmol)、及びベンジル酸メチルエステル(methyl benzilate)1.0g(4mmol)を入れ、この混合物を攪拌しながら加熱還流した。ベンジル酸メチルエステルの全量が溶解した後、ナトリウムメトキシド(sodium methoxide, Aldrich社製)20mgをこの溶液に加えて3時間反応させた。反応終了後、反応液を室温に冷却し、1N塩酸50mlを加え、有機溶媒層を除去した。得られた水溶液層エーテル50mlで2回洗浄し、更に28%水酸化アンモニウム水溶液を用いて塩基性にした。この水溶液にエーテル抽出を行い、得られたエーテル層を水50mlで2回洗浄し、無水炭酸カリウムを用いて乾燥させた。乾燥剤を除去した後、溶媒を減圧流挙して油状の残渣を得、この残渣をエーテル−ヘキサンから再結晶して(±)−3−ピペリジンベンゾエート((±)3-PB)を結晶として0.5g得た(収率40%)。【0052】得られた化合物の構造は1H-NMR及び質量分析により確認した。【0053】1H-NMR(δppm):7.36 (m, 10H), 4.92 (m, 1H), 2.94 (m, 1H), 2.70 (m, 4H), 1.82 (m, 1H), 1.71 (m, 1H), 1.47 (m, 2H), 1.26 (m, 4H)質量分析(m/z(相対強度)):312 (0.16), 183 (35.5), 105 (45.1), 83 (100), 77 (30.0)。【0054】この化合物を以下に示すHPLC系(A)を用いて光学分割した。【0055】HPLC系(A):カラム:ダイセル化学キラルセルOJカラム(Daiseru Chemicals Chiralcel OJ column)(4.6×250mm)溶媒:ヘキサン/エタノール混合溶媒(混合比:80/20, v/v)流速:0.5ml/分。【0056】(11C](+)−N−エチル−3−ピペリジルベンジレート([11C](+)N-ethyl-3-piperydil benzilate、 [11C](+)3-NEPB)の合成)P2O5及びソーダライムトラップを通じたヘリウム流(150ml/分)中で、DMF200μlに溶解させた(+)3-PB0.5mgの入った2ml反応バイアルに、11Cラベル化ヨウ化エチルを-40℃でトラップした。放射線量が最大値に達したときに、バイアルを100℃で3分間加熱した。その後バイアルを冷却し、以下に示すHPLC系を用いて反応混合物を精製した。【0057】HPLC系(B):カラム:日本分光製 MegaPak SIL C18-10カラム(7.8×300mm)溶媒:アセトニトリル/30mM酢酸アンモニウム/酢酸混合溶液(400/600/2, v/v/v)流速:6ml/分。【0058】このようにして得られた画分から溶媒を除去した後、残渣を生理的食塩水10mlに溶解し、0.22μmの滅菌フィルターを通じて10mlマルチドースバイアルに濾過して目的化合物を得た。得られた化合物の11Cラベル化ヨウ化アルキルを基準とした収率、放射活性収量 (radioactivity yield)、比活性 (specific radioactivity)及び放射化学純度 (radiochemical purity)は上記のHPLC系(B)及び以下に示すHPLC系(C)を用いて測定した。【0059】HPLC系(C):カラム:日本分光製 FinePak SIL C18Sカラム(4.6×150mm)溶媒:アセトニトリル/酢酸アンモニウム/酢酸混合溶液(500/500/1, v/v/v)流速:2ml/分。【0060】実施例2以下に示す手順に従い、[11C](+)−N−プロピル−3−ピペリジルベンジレート([11C](+)N-propyl-3-piperydil benzilate、[11C](+)3-NPPB)を合成した。【0061】(11Cラベル化ヨウ化プロピル([11C]propyl iodide)の合成)住友重機械工業(株)製 Cypris HM-18サイクロトロンを用いて14N(p, α)11C反応により製造された11Cラベル化二酸化炭素と、臭化エチルマグネシウムと、を反応させ、得られた生成物を更に水素化リチウムアルミニウムで還元し、ヨウ化水素酸で処理して11Cラベル化ヨウ化プロピルを得た。この合成は住友重機械工業(株)製自動合成装置を用いて行った。【0062】([11C](+)−N−プロピル−3−ピペリジルベンジレート([11C](+)N-propyl-3-piperydil benzilate、[11C](+)3-NPPB)の合成)11Cラベル化ヨウ化エチルの代わりに上記の合成により得られた11Cラベル化ヨウ化プロピルを用いたこと以外は実施例1と同様にして、[11C](+)−N−プロピル−3−ピペリジルベンジレートを合成した。得られた化合物について、実施例1と同様にして11Cラベル化ヨウ化アルキルを基準とした収率、放射活性収量、比活性及び放射化学純度を測定した。【0063】実施例3以下に示す手順に従い、[11C]N−エチル−4−ピペリジルベンジレート([11C]N-ethyl-4-piperydil benzilate、[11C]4-NEPB)を合成した。【0064】(4−ピペリジルベンジレート(4-piperydil benzilate)の合成)3−ピペリジノールの代わりに4−ピペリジノールを用いたこと以外は実施例1と同様にして、4−ピペリジルベンジレートを得た。但し、得られた化合物には光学異性体が存在しないので、実施例1における光学分割は行わなかった。【0065】([11C]N−エチル−4−ピペリジルベンジレートの合成)(+)−3−ピペリジルベンジレートの代わりに上記の合成で得られた4−ピペリジルベンジレートを用いたこと以外は実施例1と同様にして、[11C]N−プロピル−4−ピペリジルベンジレートを合成した。得られた化合物について、実施例1と同様にして11Cラベル化ヨウ化アルキルを基準とした収率、放射活性収量、比活性及び放射化学純度を測定した。【0066】実施例4([11C]N−プロピル−4−ピペリジルベンジレートの合成)11Cラベル化ヨウ化エチルの代わりに実施例2で得られた11Cラベル化ヨウ化プロピル、(+)−3−ピペリジルベンジレートの代わりに実施例3で得られた4−ピペリジルベンジレート、をそれぞれ用いたこと以外は実施例1と同様にして、[11C]N−プロピル−4−ピペリジルベンジレートを合成した。得られた化合物について、実施例1と同様にして11Cラベル化ヨウ化アルキルを基準とした収率、放射活性収量、比活性及び放射化学純度を測定した。【0067】比較例1([11C](+)−N−メチル−3−ピペリジルベンジレートの合成)11Cラベル化ヨウ化エチルの代わりに11Cラベル化ヨウ化メチルを用いたこと以外は実施例1と同様にして、[11C](+)−N−メチル−4−ピペリジルベンジレートを合成した。得られた化合物について、HPLC系における溶媒としてアセトニトリル/0.1M酢酸アンモニウム/酢酸混合溶液(500/500/5, v/v/v)を用いた以外は実施例1と同様にして11Cラベル化ヨウ化アルキルを基準とした収率、放射活性収量、比活性及び放射化学純度を測定した。【0068】比較例2([11C]N−メチル−4−ピペリジルベンジレートの合成)11Cラベル化ヨウ化エチルの代わりに11Cラベル化ヨウ化メチル、(+)−3−ピペリジルベンジレートの代わりに4−ピペリジルベンジレート、をそれぞれ用いたこと以外は実施例1と同様にして、[11C]N−プロピル−4−ピペリジルベンジレートを合成した。得られた化合物について、実施例1と同様にして11Cラベル化ヨウ化アルキルを基準とした収率、放射活性収量、比活性及び放射化学純度を測定した。【0069】このようにして得られた実施例1〜4及び比較例1〜2の各化合物について、HPLC系(B)における分離カラムの保持時間、HPLC系(C)における分析カラムの保持時間、11Cラベル化ヨウ化アルキルを基準とした収率、放射活性収量、比活性及び放射化学純度を表1に示す。また、各実施例及び比較例において得られた、11Cラベル化ヨウ化アルキル及び最終生成物のHPLC分析の結果を図2〜図4にそれぞれ示す。【0070】図2(a)〜(e)はそれぞれ11Cラベル化ヨウ化アルキルのHPLC分析結果を表すグラフであり、(a)はガスクロマトグラフィーで分離する前の11Cラベル化ヨウ化エチル、(b)はガスクロマトグラフィーで分離した後の11Cラベル化ヨウ化エチル、(c)はガスクロマトグラフィーで分離する前の11Cラベル化ヨウ化プロピル、(d)はガスクロマトグラフィーで分離した後の11Cラベル化ヨウ化プロピル、(e)は11Cラベル化ヨウ化エチル、の測定により得られたものである。【0071】図3(a)〜(c)はそれぞれ実施例1、2及び比較例1で得られた最終生成物のHPLC分析結果を表すグラフであり、(a)は[11C](±)3-NMPB、(b)は[11C](±)3-NEPB、(c)は[11C](±)3-NPPB、の測定により得られたものである。【0072】図4(a)〜(c)はそれぞれ実施例3,4及び比較例2で得られた最終生成物のHPLC分析結果を表すグラフであり、(a)は[11C]4-NMPB、(b)は[11C]4-NEPB、(c)は[11C]4-NPPB、の測定により得られたものである。【0073】【表1】【0074】次に、実施例1〜4及び比較例1〜2の化合物を用いて、下記文献:H. Onoe, O. Inoue, K. Suzuki, H. Tsukada, T. Itoh, N. Mataga, Y. Watanabe, Brain Research 663, 191-198(1994)に記載の方法に準じてPET測定を行った。【0075】先ず、被検体である体重約5kgの無麻酔アカゲザルをPET装置(浜松ホトニクス(株)製SHR-7700)に固定し、PET測定の吸収補正のためにトランスミッションを計測した。その後、実施例1〜4及び比較例1〜2の化合物約200MBqをそれぞれ被検体の静脈より投与し、91分間のダイナミック計測を行った。なお、各測定においては、それぞれ同一被検体について予め核磁気共鳴断層画像装置(MRI)を用いて測定を行い断層画像を得、その断層画像に基づき小脳(cerebellum)、海馬(hippocampus)、後頭葉(occ ctx)、基底核(Striatum)、側頭葉(temp ctx)、前頭葉(frt ctx)、帯状回(cingulate)の位置を決定し、各関心領域におけるγ線の経時変化を測定した。その結果を図5(a)〜(c)及び図6(a)〜(c)に示す。【0076】図5(a)〜(c)において、(a)は[11C](+)3-NMPB、(b)は[11C](+)3-NEPB、(c)は[11C](+)3-NPPBを用いた場合の各関心領域における時間と放射能濃度との関係を表すグラフである。【0077】図6(a)〜(c)において、(a)は[11C]4-NMPB、(b)は[11C]4-NEPB、(c)は[11C]4-NPPBを用いた場合の各関心領域における時間と放射能濃度との関係を表すグラフである。【0078】図5(b)、(c)及び図6(b)、(c)に示すように、本発明の化合物を用いた場合は、基底核及び後頭葉において標識化合物の分布に対応した放射線濃度が高く、更に前頭葉及び側頭葉においても放射線濃度が比較的高いという結果が得られた。これらの結果は、従来より知られているアセチルコリン神経系のムスカリン受容体の分布と非常によく一致しており、本発明の化合物が前記受容体に対して特異結合能を有することが確認された。なお、本発明の化合物の脳内への取り込み量の絶対値が比較化合物に比べて小さいのは本発明の化合物の脂溶性が低いことによるものである。各関心領域における標識化合物の取り込み量を小脳における取り込み量に対する相対値(受容体に対する特異結合能を有する化合物の量に対応する)で比較すると、本発明の化合物を用いた場合により高い値が得られた。【0079】また、本発明の化合物を用いた場合の結果である図5(b)、(c)及び図6(b)、(c)と、従来の標識化合物を用いた場合の結果である図5(a)、図6(a)と、の比較からも明らかなように、本発明の化合物の脳に対する親和性はより低くなっており、本発明の化合物と受容体との間の結合及び解離が比較的短時間で起こっていることが確認された。【0080】次に、予め内在性アセチルコリンの分解酵素阻害薬剤E2020(アリセプト)を被検体に投与したこと以外は上記の方法と同様にして、実施例2で得られた[11C](+)3-NPPB及び比較例2で得られた[11C]4-NMPBを用いてPET測定を行った。なお、E2020は、被検体に投与することによってシナプス間隙のアセチルコリン量を増加させ脳内血流量を増加させる機能を有しており、この薬剤を用いたPET測定により標識化合物の脳内血流量に対する依存性を評価することができる。【0081】図7(a)〜(c)はそれぞれ、[11C](+)3-NPPBを用いたPET測定により得られた、測定時間と放射能濃度との関係を示すグラフであり、(a)はE2020を投与しなかった場合、(b)はE2020を50μg/kg投与した場合、(c)はE2020を250μg/kg投与した場合のものである。【0082】また、図8(a)〜(c)はそれぞれ、[11C]4-NMPBを用いたPET測定により得られた、各関心領域における測定時間と放射能濃度との関係を示すグラフであり、(a)はE2020を投与しなかった場合、(b)はE2020を50μg/kg投与した場合、(c)はE2020を250μg/kg投与した場合のものである。【0083】[11C]4-NMPBを用いた場合には血流量の増加に伴い標識化合物の脳への取り込み量の増加が認められた。一方、本発明の標識化合物である [11C]4-NPPBを用いた場合には脳内血流量の増加による影響は認められなかった。また、[11C]4-NPPBを用いた場合には、E2020の投与量の増加に伴い[11C]4-NPPBの受容体からの解離速度が増加し、内在性アセチルコリンと[11C]4-NPPBとの間で受容体との結合における競合が起こっていることが確認された。【0084】【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、関心領域における血流量変化の影響を受けず、より高い精度をもって、効率よくPET測定を行うことを可能とする、ムスカリン性アセチルコリン神経系標識化合物が得られる。【図面の簡単な説明】【図1】(a)〜(d)はそれぞれ、本発明のムスカリン性アセチルコリン神経系標識化合物の構造を示す説明図である。【図2】(a)〜(e)はそれぞれ実施例1〜4及び比較例1〜2において得られた11Cラベル化ヨウ化アルキルのHPLC分析結果を示すグラフである。【図3】(a)〜(c)はそれぞれ実施例1、2及び比較例1で得られた標識化合物のHPLC分析結果を示すグラフであり、各グラフにおいて、実線は放射活性モード、破線はUVモード(波長235nm)で分析した結果を表す。【図4】(a)〜(c)はそれぞれ実施例3、4及び比較例2で得られた標識化合物のHPLC分析結果を示すグラフでああり、各グラフにおいて、実線は放射活性モード、破線はUVモード(波長235nm)で分析した結果を表す。【図5】(a)〜(c)はそれぞれ[11C](+)3-NMPB、[11C](+)3-NEPB及び[11C](+)3-NPPBを用いたPET測定により得られた、各関心領域における測定時間と放射能濃度との相関を示すグラフである。【図6】(a)〜(c)はそれぞれ[11C]4-NMPB、[11C]4-NEPB及び[11C]4-NPPBを用いたPET測定により得られた、各関心領域における測定時間と放射能濃度との相関を示すグラフである。【図7】(a)〜(c)はそれぞれ被検体へのE2020の投与量が0μg/kg(未投与)、50μg/kg及び250μg/kgである場合の、[11C](+)3-NPPBを用いたPET測定により得られた、各関心領域における測定時間と放射能濃度との相関を示すグラフである。【図8】(a)〜(c)はそれぞれ被検体へのE2020の投与量が0μg/kg(未投与)、50μg/kg及び250μg/kgである場合の、[11C]4-NMPBを用いたPET測定により得られた、各関心領域における測定時間と放射能濃度との相関を示すグラフである。 下記一般式(I):[式中、Wは下記式(II)又は(III):(式中、Rは11Cラベル化エチル基又は11Cラベル化プロピル基を表す)で表される基を表し、Wが上記式(II)で表される基のとき上記式(I)は(+)−体である]で表される構造を有することを特徴とする、ポジトロンエミッショントモグラフィ計測用ムスカリン性アセチルコリン神経系標識化合物。 下記式(IV):で表される11Cラベル化ハロゲン化アルキルと、下記式(V):で表されるベンジル酸ピペリジルエステルと、から下記式(I):で表される化合物を得るステップを含むことを特徴とする、ポジトロンエミッショントモグラフィ計測用ムスカリン性アセチルコリン神経系標識化合物の製造方法。[式中、Rは11Cラベル化エチル基又は11Cラベル化プロピル基を表し、Xはハロゲン原子を表し、W’は(+)−3−ピペリジル基又は4−ピペリジル基を表し、Wは下記式(II)又は(III):(式中、Rは11Cラベル化エチル基又は11Cラベル化プロピル基を表す)で表される基を表す。]