生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_特異的IgE抗体測定方法
出願番号:2000099666
年次:2009
IPC分類:G01N 33/543,C07K 17/02,G01N 33/53


特許情報キャッシュ

門岡 幸男 松原 博美 持地 恭子 JP 4363740 特許公報(B2) 20090828 2000099666 20000331 特異的IgE抗体測定方法 雪印乳業株式会社 000006699 藤野 清也 100090941 門岡 幸男 松原 博美 持地 恭子 20091111 G01N 33/543 20060101AFI20091022BHJP C07K 17/02 20060101ALI20091022BHJP G01N 33/53 20060101ALI20091022BHJP JPG01N33/543 501HG01N33/543 501BG01N33/543 501JG01N33/543 501MC07K17/02G01N33/53 Q G01N 33/48-33/98 特開平03−025366(JP,A) 特表平10−508692(JP,A) 特表2002−518675(JP,A) 3 2001281249 20011010 12 20070320 白形 由美子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、特異的IgE 抗体の測定方法に関するものである。より詳細には、本発明は、通常のELISA 用プレートを用いて、それに固定化した任意の抗原に対する血清中の特異的IgE 抗体を、共存する特異的IgG 抗体の競合およびIgG 抗IgE 自己抗体によるIgG-IgE 複合体の存在による妨害を受けずに測定する方法に関するもので、アレルギー原因抗原のより詳細な解析に有用である。【0002】【従来の技術】アレルギー反応において決定的な役割を担う抗体であるIgE抗体が発見されて以来、その測定方法に関する数多くの研究が報告されており、アレルギー反応における特異的IgE抗体を測定することの臨床的な重要性も広く認識されている。その特異的IgE 抗体の測定には、臨床検査ではキャップラスト(CAP-RAST)システムが広く用いられている。そのCAP-RASTシステムで測定された値はそれぞれのアレルゲンに対するRASTユニット(Ua/ml) として事実上のスタンダードとなっているが、CAP-RASTシステムではアレルゲンの測定のために専用のアレルゲンキャップが必要である。そのため、アレルゲンキャップとしてCAP-RASTシステム用に商業的に供給されていない種類のアレルゲンに対する特異的IgE 抗体を測定することは実際には困難である。したがって、原因となるアレルゲンをより詳細に解析するためには任意のアレルゲンを用いて簡便に特異的IgE 抗体を測定できる方法を開発することが必要である。【0003】任意のアレルゲンを用いて測定を行うためには、通常の96ウェルマイクロプレートを用いたELISA 法を用いる必要がある。しかしながら、血清中の特異的IgE の測定は通常の96ウェルマイクロプレートを用いたELISA では容易ではない。その理由として、血清中のIgE 抗体はIgG 抗体に比べて通常数万分の1 という極めて低い濃度でしか存在せず、さらに、血清中には測定する特異的IgE抗体と特異性が同じであるIgG 抗体が共存していることにより、その特異的IgG抗体との競合という問題が生じるためである。【0004】例えば、通常の96ウェルマイクロプレートを用いたELISA によって、プレートに固定化されたアレルゲンに対する血清中の特異的IgE 抗体を測定する場合を考えてみる。96ウェルマイクロプレートではアレルゲンの固定化密度、すなわち単位面積あたりの固定化アレルゲンの量は高くない。また、低い濃度の特異的IgE 抗体を測定するためには血清の希釈率をあまり高くできない。そのため、共存する特異的IgG 抗体の濃度が相当高い状態となり、IgG 抗体及びIgE 抗体を合わせた特異的抗体量が固定化アレルゲンの量に対して過剰な状態となる。この状態では、固定化アレルゲンは優勢に存在する特異的IgG抗体 によってほとんど占められてしまうため、特異的IgE 抗体は固定化アレルゲンと結合することが困難となる(Zeiss et al., J. Allergy Clini Immumol. 67, 105(1981))。しかも、特異的抗体量が固定化アレルゲンの量より少ない状態にするために血清を高倍率に希釈すると、IgE 抗体の濃度が非常に低くなり検出が困難となる場合が多い。【0005】このような特異的IgG 抗体との競合によって生じる問題を回避し、血清中の特異的IgE 抗体を正確に測定するために、従来、以下に示すような方法が考えられている。【0006】一つは、固定化アレルゲンの結合量を多くすることによって、希釈率の低い血清を用いた場合でも固定化アレルゲンの量が特異的抗体量より多くなる状態で測定できる方法である。これは、アレルゲンを高密度に結合させたスポンジ様物質であるセルロースポリマーを用いる方法である(Ceska et al., J. Allergy Clini Immumol. 49,1(1972))。この方法は、現在、アレルギーの臨床検査の分野で広範に用いられているCAP-RASTシステムに応用されており、そのデータはRASTユニットとして一般に知られている(Bousquet et al., J. Allergy Clin. Immunol., 85, 1039(1990))。しかし、アレルゲンが高密度に固定化されたスポンジ様物質であるアレルゲンキャップを作製することが容易でないため、CAP-RASTシステム用に商業的に供給されていないアレルゲン、例えば熱変性、酵素分解、化学修飾等を受けたアレルゲンに関して詳細な検討を行うことは困難である。また、CAP-RASTシステムで測定を行うためには通常のELISA とは異なる専用の装置が必要である。【0007】また、キャプチャーELISA という方法が用いられており、これは固定化抗IgE抗体で血清中のIgE 抗体を選択した後、標識されたアレルゲンを反応させることによって特異的IgE 抗体を検出する方法である(Plebani et al., J Immunol Methods.90, 241(1986); Sakaguchi et al., J Immunological Methods, 116, 181(1989); Olivieri et al., J Immunol Methods, 157, 65(1993)) 。この方法では、まず、IgE クラスの抗体のみが捕獲されるためIgG 抗体との競合は起きない。しかし、IgE クラスの抗体の中にはアレルゲン特異的IgE 抗体と特異的ではないその他のIgE 抗体、すなわち非特異的IgE 抗体が存在する。そのため、特異的IgE 抗体と特異的IgG 抗体との競合は避けられるが、新たに特異的IgE 抗体と非特異的IgE 抗体との競合という問題が発生し、特異的IgE 抗体の検出が妨害される可能性がある。さらに、この方法は、調べるアレルゲン毎に標識体を作製する必要があると同時に、標識を行うことによるアレルゲンの修飾が問題となる可能性もある。【0008】さらに、IgG 抗体を硫安塩析で減少させた後に特異的IgE 抗体を通常のELISA で測定する方法も報告されている(Haba et al., J. Immunological Methods, 85, 39(1985))。しかしながら、この方法では硫安塩析を行うことができる条件が限られており、また、少量の血清ではその処理は困難である。【0009】そして、分子活性の極めて高い酵素であるアセチルコリンエステラーゼで標識した抗IgE 2次抗体を用いる方法も報告されている(Wal et al., Food & Agricultural Immunology, 7, 175(1995); Grssi et al., J. Immunological Methods, 123, 193(1989))。この方法では、特異的抗体量が固定化アレルゲンの量より少ない状態にするために希釈した血清を用いるが、IgE抗体が分子活性の極めて高い酵素で標識されているので、固定化アレルゲンに結合した特異的IgE 抗体が極微量となった場合でも検出できる方法である。しかしながら、アセチルコリンエステラーゼは通常のELISA に一般的に使用されている酵素ではなく、現在、その酵素で標識されている抗IgE 抗体は容易に入手できない。交差反応性の問題がなく現実的に使用可能な抗IgE 抗体は限られており、新たにアセチルコリンエステラーゼ標識抗IgE 抗体を作製することは時間と手間が非常にかかる作業となる。また、極微量の物質を検出することになるため非特異的なシグナルによる影響をいかに抑制するかということも大きな問題となってくる。【0010】このように従来いくつかの測定法が提案されているが、任意のアレルゲンに対する特異的IgE 抗体を通常のELISA プレートを用いて簡便に測定することは、いずれの方法でも困難であった。そこで、本発明者らは、競合する血清中のIgG 抗体を、それに特異的なリガンド、例えば固定化プロテインG等によって予め除去することで特異的IgG と特異的IgE 抗体との競合を防ぐことが可能であることを見出した。例えば、固定化プロテインGは殆どの哺乳類のIgG に結合することができ、結合力も高く、また、遠心分離等による除去も容易であるから、予め競合するIgG抗体を除去するために用いられる。この方法によって、通常のELISA プレートを用いて任意のアレルゲンに対する特異的IgE 抗体を測定することが可能となった (特願平11-069483号) 。【0011】しかし、アレルギー患者血清の中には、時として自己のIgE 抗体に対する自己のIgG 抗体、すなわちIgG 抗IgE 自己抗体の存在するケースのあることが知られており(富岡、アレルギー、38、305(1989))、それはIgE 産生やアレルギー反応の調節に関与する可能性が示唆されている(Shakib, Immunology and Cell Biology, 73, 109(1995))。また、その自己抗体は血液中でIgG-IgE 複合体として存在し正確な特異的IgE の測定を妨げていることが指摘されている(Jensen-Jarolim. J. Allergy Clin Immunol, 89, 31(1992)) 。【0012】そのIgG 抗IgE 自己抗体と結合したIgE 、すなわちIgG-IgE 複合体は、複合体を形成していない通常のIgG 抗体と共に固定化プロテインG等のIgG 抗体に特異的なリガンドによって除去されてしまう。そのため、IgG-IgE 複合体の存在量の高い血清では、IgG 抗体除去処理を行った場合にIgE抗体の測定値に影響が出てしまうことは避けられない。このようなことから、アレルギー患者血清に対して、固定化プロテインG等のIgG 抗体に特異的なリガンドによる処理を行った場合でも、さらに測定しようとする特異的IgE 抗体に影響を及ぼさない測定法の開発が切望される。【0013】【発明が解決しようとする課題】本発明は、以上に述べたような問題を解決するためになされたものであって、通常のELISA 用プレートを用いてプレートに固定化したアレルゲンに対する血清中の特異的IgE 抗体を測定する場合に、競合するIgG抗体のみでなく、IgG-IgE複合体の影響も排除できるような、血清中の特異的IgE 抗体の測定法を提供することを課題とする。【0014】【課題を解決するするための手段】本発明は、血清中の特異的IgE 抗体を、予めIgG 抗体除去処理を行った血清を用いて測定する方法に関する。具体的には、(1) IgG 抗体を特異的に吸着するリガンドを用いて、特異的IgE 抗体と特異性を同じくする特異的IgG 抗体を、特異的IgE 抗体との競合が起きない程度まで予め除去した後に、特異的IgE 抗体を測定することからなる血清中の特異的IgE 抗体測定方法において、特異的IgG抗体を予め除去する工程が、血清とIgG 抗体を特異的に吸着するリガンドとをpH6.0〜7.5にて反応させた後、そのIgG 抗体を特異的に吸着するリガンドのIgG 抗体結合部位をIgG 抗体によって飽和させ、さらに、そのIgG 抗体を特異的に吸着するリガンドを酸処理することを特徴とする方法、(2) IgG 抗体を特異的に吸着するリガンドのIgG 抗体結合部位をIgG 抗体によって飽和させ、さらに、そのIgG 抗体を特異的に吸着するリガンドを酸処理する工程の酸処理条件が、pH2.7〜3.3で2〜8分間である上記(1)の特異的IgE 抗体の測定方法、(3) IgG 抗体を特異的に吸着するリガンドが、プロテインGである上記(1)又は(2)記載の特異的IgE 抗体の測定方法、(4) IgG 抗体を特異的に吸着するリガンドが、不溶化担体に固定化されたリガンドである上記(1)〜(3)のいずれかに記載の測定方法、に関する。【0015】すなわち、アレルギー患者血清と反応させた後のIgG抗体を特異的に吸着するリガンドに対して、試薬IgG 抗体によるIgG 抗体結合部位の飽和処理および酸処理を行い、リガンドに結合したIgG-IgE 複合体からIgE抗体のみを遊離させる。この遊離されたIgE 抗体をリガンド処理を行った元の血清に戻すことによって、IgG-IgE 複合体の存在量の高い血清でも正確な特異的IgE 抗体の測定が可能となる。以上によって、本発明は、アレルギーの原因抗原のより詳細な解析に有用となるのである。【0016】【発明の実施の形態】以下に本発明を詳細に説明する。特異的IgE 抗体を測定する際に考慮しなければならない重要な点の一つとして、特異性が同じ特異的IgG 抗体との競合によって正確な測定が妨害されてしまう可能性のあることが指摘される。通常のELISA プレートを用いて固定化された抗原に対する血清中の特異的IgE抗体を測定している報告がしばしばみられるが、その場合、ELISA プレートに固定化できる抗原量は比較的少ないために特異性が同じ他の種類の抗体との競合が生じ、正確な特異的IgE抗体の測定が妨害されている可能性がある。そのような妨害は、血清を固定化プロテインG等のIgG 抗体に特異的なリガンドによって処理した後に消去することができた (前記特願平11-069483号)。【0017】しかしながら、その一方で、固定化プロテインG処理を行ったいくつかの血清においてIgE 抗体の減少が認められた。固定化プロテインGはpH6.0〜7.5においてはIgG 抗体のみを結合しIgE 抗体は結合しない。本発明者らは、血清の固定化プロテインG処理をpH6.0〜7.5 で行っていることから、固定化プロテインG処理によるIgE抗体の減少は、IgE抗体の固定化プロテインGへの結合によるのではなく、IgE 抗体が固定化プロテインGに結合した抗IgE自己抗体であるIgG抗体と結合することによって生じていると考えた。したがって、血清中の特異的IgE抗体を正確に測定するためには、この固定化プロテインG処理によるIgE 抗体の減少分の補正を行う必要がある。【0018】一般的に、抗原抗体反応複合体は低pH処理によって乖離させることができる。そこで、本発明者らは、固定化プロテインGに結合したIgE-IgG 複合体も低pH処理によってIgE 抗体のみを遊離させることができるのではないかと考え、次のような試験を行った。最初に、固定化プロテインGとIgG またはIgE 抗体との反応のpHによる影響を確認した。その結果、pH6.0〜7.5 においては固定化プロテインGはIgG 抗体のみを結合し、IgE 抗体は全く結合しないことが分かった。しかし、pHが6.0 未満では固定化プロテインGはIgG 抗体のみならずIgE 抗体をも結合することが判明した。【0019】このことは、酸処理を行いIgE 抗体を遊離させても、その遊離したIgE 抗体が固定化プロテインGと再び結合してしまうことを示している。そこで、このような低pHにおけるIgE 抗体と固定化プロテインGとの再結合を防ぐために、固定化プロテインG上のIgG 抗体結合部位を高濃度の試薬IgG 抗体によって飽和させる操作、すなわちブロッキングを行う必要がある。このブロッキングはIgE 抗体遊離のための酸処理の前に行う必要がある。ブロッキングを行った場合には固定化プロテインGは低pHにおいてもIgE 抗体と結合しなくなる。【0020】酸処理の条件に関しては、実際にIgE-IgG 複合体を含んでいる血清を用いてIgE 遊離条件をより詳細に検討した結果から、pH2.7〜3.3 で2〜8分間の低pH処理が効果的であることが分かった。なお、この条件においては、固定化プロテインGに一旦結合したIgG 抗体はほとんど遊離しないことが確認できた。以上の試験の結果は、後述の試験例1〜4において詳しく説明する。【0021】実際に、この固定化プロテインG処理、試薬IgG 抗体によるブロッキングおよび酸処理を組み合わせることで測定した特異的IgE 抗体の測定値は、実際の臨床検査で測定されたRASTユニットと高い相関性を有することも分かり、その方法の有効性も確認できた。このように、固定化プロテインG処理と酸処理の組み合わせによって、通常のELISA 用マイクロプレートを用いて、競合するIgG 抗体及び抗IgE 自己抗体の影響を大きく受けずに任意の抗原に対する血清中の特異的IgE 抗体の反応性を簡便に解析することが可能となる。また、CAP-RASTシステムのような通常のIgE 検査法では抗IgE 自己抗体の存在量を知ることはできないが、その測定方法に本発明の方法を応用することで、より詳細なIgE 検査を行うことも可能となる。【0022】以下、実施例によって、本発明が、実際の臨床検査で測定されたRASTユニットと高い相関を有すること、通常のELISA用マイクロプレートを用いて、詳細なIgE抗体検査が可能であることを示す。【0023】【実施例1】血清の固定化プロテインG処理:試験に用いた牛乳アレルギー患者血清は41サンプルであり、牛乳アレルゲンに関してRAST検査があらかじめ行われたものを用いた。RAST検査による牛乳RASTユニットの範囲は1.01から85.67 であった。牛乳アレルギー患者血清をリン酸緩衝生理食塩水 (PBS)で2倍に希釈したもの、および固定化プロテインGゲル(Pierce) をPBS で2倍に希釈したものを等量混合し、pH7.0、室温で1時間、振盪しながら反応させた。反応後、その混合溶液を遠心分離(15000 rpm 、1 分間) し、固定化プロテインGを沈澱させた。【0024】固定化プロテインGビーズの酸処理:上述した血清の固定化プロテインG処理によって残った固定化プロテインGビーズを含む懸濁液30μl に、40mg/ml のウシIgG (Reagent grade, Sigma社, USA)を10μl 添加し室温で1 時間反応させ固定化プロテインGのIgG 結合部位を飽和させた。その懸濁液に40μl の0.1Mクエン酸緩衝液(pH3.0) を添加し、振盪しながら室温で5 分間酸処理を行った。その後直ちに15000rpm.1分間遠心分離し上清50μl を採取し、上述した血清の固定化プロテインG処理によって得た上清50μl と混合した。混合して得られた上清100 μl に50μl の0.2Mリン酸水素二ナトリウム一水酸化ナトリウム溶液(pH11.5) を添加し中和した。【0025】特異的IgE 抗体の測定:上述のように固定化プロテインG処理およびその酸処理を施した牛乳アレルギー患者血清中の牛乳タンパク質特異的IgE 抗体をELISA によって測定した。96ウェルマイクロプレート(Nunc)の各ウェルに、0.1M炭酸緩衝液 (pH8.7)に溶解した10μg/ml濃度の脱脂乳溶液を50μl ずつ分注し、5 ℃で16時間以上固定化した。非特異的吸着を減少させるブロッキング操作として、0.05% Tween20 含有リン酸緩衝生理食塩水(PBS-T) に溶解した1%BSA 溶液(PBS-TB)を各ウェルに0.2ml ずつ分注し、室温で1 時間静置した。各ウェルをPBS-T で3 回洗浄した後、固定化プロテインG処理およびその酸処理を施したアレルギー患者血清50μlを各ウェルに添加し、室温で2時間反応させた。各ウェルをPBS-Tで3回洗浄した後、PBS-TBで1000倍に希釈したホースラディッシュペルオキシダーゼ結合抗ヒトIgE 抗体 (生化学工業社製) を各ウェルに50μl ずつ分注し、室温で2 時間反応させた。各ウェルをPBS-T で3 回洗浄した後、発蛍光性ペルオキシダーゼ基質(Pierce)を各ウェルに0.1 mlずつ添加し30分間〜1 時間反応させた。その後、反応停止液を各ウェルに0.1 mlずつ添加し励起波長 320nmおよび発光波長 440nmにおける蛍光強度をサイトフロー4000 (日本パーセプティブ社製) を用いて測定した。測定した蛍光強度は、抗ヒトIgE 抗体を固定化したウェルに標準ヒトIgE を添加して測定したスタンダードを用いてユニット(Ua/ml)として表した。固定化プロテインG処理および酸処理の効果を表1に示す。表1は臨床検査項目として測定された牛乳RASTユニット(Ua/ml) と、上述した測定法による脱脂乳特異的IgE 抗体との相関分析を行った結果である。【0026】【表1】【0027】表1に示すように、未処理に比べて固定化プロテインG処理によって相関性が上昇し、さらに酸処理を加えることで相関性がより上昇した。なお、酸処理を加えたことによる効果が小さく見えるが、これは、すべての血清がIgE-IgG 複合体を含んでいるわけではなく、また、その複合体の存在量が血清によって異なることによるものと考えられる。実際の問題として、測定しようとする血清のIgE-IgG 複合体含有量をあらかじめ把握しておくことは困難なため、固定化プロテインG処理および酸処理を行うことが必須の操作と考えられる。【0028】【実施例2】実施例1で測定した脱脂乳アレルゲン特異的IgE 抗体に加えて、カゼイン、αラクトアルブミン、およびβラクトグロブリンに対する特異的IgE 抗体を実施例1と同様に測定した。測定した特異的IgE 抗体の値について、牛乳アレルギー患者血清の情報としてあらかじめ分かっている牛乳RASTユニットとの相関性を検討した。その結果、図1に示すようにピアソンの相関係数は脱脂乳では0.915 、カゼイン0.875 、αラクトアルブミンでは0.476 、βラクトグロブリンでは0.467 であった。このように、牛乳RASTユニットとの相関性は、脱脂乳およびカゼインに対する特異的IgE 抗体量と非常に良く対応した。しかし、αラクトアルブミンおよびβラクトグロブリンに対する特異的IgE 抗体量とは相関性が低かった。【0029】この結果から、牛乳RASTユニットは牛乳タンパク質のうち主にカゼインに対する特異性を示している値であることが分かる。これは、CAP-RASTシステムで用いられている牛乳アレルゲンキャップは脱脂乳(そのタンパク質の約80% がカゼイン、約20% がαラクトアルブミンおよびβラクトグロブリン等のホエータンパク質)が固定化されているためと考えられる。さらに、このことは実際の臨床検査における牛乳RASTユニットの解釈を行う場合に特に留意しておかなければならない重要な点であると考えられる。このように、ここでは代表的な牛乳タンパク質を用いた結果を示したが、これは一例に過ぎない。他にも酵素処理、加熱処理、あるいは化学修飾されたアレルゲン等を用いた検討が可能であり、より詳細なアレルゲン解析に応用することが可能である。【0030】【実施例3】実施例1および2において検討したアレルギー患者血清のうち、固定化プロテインG処理によってIgE 抗体の減少が大きかった血清、すなわち、抗IgE 自己抗体の存在量が多いと考えられるいくつかの血清に関して以下の検討を行った。未処理の血清と実施例1に示した方法で処理した血清について、CAP-RASTシステム (ファルマシア社製) を用いて牛乳特異的IgE 抗体を測定した。その結果、未処理の場合を100 として表すと、表2 に示すように固定化プロテインG処理と酸処理を行った方が特異的IgE 抗体の検出性が上昇した。なお、血清No.1〜3は、それぞれ別々のアレルギー患者に由来する血清で、これらの血清は、それぞれ固定化プロテインG処理によるIgE抗体の減少量が異なるものである。【0031】【表2】【0032】IgE に対する自己抗体は、IgE 産生の調節、アレルギー反応の促進あるいは抑制作用、および生体防御への関与等さまざまな生理機能を果している可能性が考えられている。また、実際のIgE 抗体検査においてもIgE に対する自己抗体がIgE 抗体の検出を妨害している可能性も指摘されている。しかし、臨床検査で広く用いられているCAP-RASTシステムにおいてIgE 抗体の検出がどの程度妨害されているかは不明である。すなわち、抗IgE 自己抗体が生体において実際にどのような働きをしているか、また、IgE 抗体検査において抗IgE 自己抗体をどのように取り扱うべきか等の問題はこれからの検討課題と言える。したがって、通常のIgE 抗体検査法に加えて本発明のような固定化プロテインG処理および酸処理を応用した検査法を併用することで、より詳細なIgE 抗体検査が可能になると考えられる。以下の試験例1〜4では、本発明において予め特異的IgG抗体を固定化プロテインGにより除去する工程の処理条件を検討した結果を示す。【0033】【試験例1】通常はIgG 抗体のみを結合すると言われているプロテインGが、低pHではIgE 抗体も結合するようになることを表3に示す。低pHにおいて固定化プロテインGとIgG 抗体、あるいはIgE 抗体を反応させ、遠心分離によって固定化プロテインGを除いた後の上清に残る抗体量を測定した。表3には初めに加えた抗体量を100 として、それからどれだけ減少したかを計算し、抗体結合率として表した。抗体量の測定にはELISA を用い、96ウェルマイクロプレートには初めに抗IgG 抗体あるいは抗IgE 抗体を固定化した。その他の操作は実施例1と同様に行った。【0034】【表3】【0035】【試験例2】試験例1に示すように低pHではプロテインGはIgE 抗体も結合するようになる。このことは、酸処理によって遊離させたIgE 抗体が酸性の状態では再びブロテインGに結合することを意味する。そこで、その再結合を防ぐために、IgG 抗体によってプロテインGのIgG 抗体結合部位を飽和させる処理(IgG 抗体ブロッキング)を実施例1の中で述べた手順にしたがって行った。その後、pH3.0 においてIgE 抗体を添加し固定化プロテインGと反応させ、上清に残存するIgE 抗体を測定した。抗体量の測定は試験例1 と同様に行い、測定結果は抗体結合率として表した。表4に示すように、IgG 抗体ブロッキングを行った場合、固定化プロテインGは低pHにおいてもIgE 抗体を結合しなくなった。【0036】【表4】【0037】【試験例3】表5は、実施例1において行ったpH3.0 で5分間という酸処理の条件が最適条件であることを示す。IgE-IgG 複合体を含んでいる血清を用いて、表5に示した条件で固定化プロテインGに対する酸処理を行った。IgG 抗体ブロッキングを含むその他の条件は実施例1と同様であり、抗体量の測定は試験例1と同様である。表5に示した値は、固定化ブロテインG処理を行わなかった時に測定されるIgE 抗体量を100 とした時に酸処理によってIgE 抗体の検出がどの程度回復したかを示す。【0038】【表5】【0039】【試験例4】表6は、実施例1において行ったpH3.0 で5 分間という酸処理の条件が、固定化プロテインGに一旦結合したIgG 抗体には実質的な影響を及ぼさないことを示す。0.1 mg/ml の濃度のヒトIgG 抗体をpH7.0 において固定化プロテインGに結合させた後、pH3.0 で5 分間の酸処理を行い上清に遊離されたIgG 抗体を試験例1と同様に測定した。表6の値は、最初に添加した抗体濃度を100 としたときの相対値で表した。表6に示すように、pH3.0 で5 分間の酸処理によって、固定化プロテインGに一旦結合したIgG 抗体の遊離率は増加するものの、約2%にとどまり、大きな影響は及ぼさなかった。【0040】【表6】【0041】【発明の効果】本発明の方法によれば、通常のELISA 用マイクロプレートを用いて競合する特異的IgG 抗体および抗IgE 自己抗体の影響をほとんど受けずに任意のアレルゲンに対する血清中の特異的IgE抗体 の反応性を簡便に解析することができる。また、この方法を応用することによって、通常のIgE 抗体検査法では知ることのできない抗IgE 自己抗体の存在程度も測定可能であり、さらに、CAP-RASTシステムのような既存の測定法に本発明の方法を応用することでより詳細なIgE抗体 検査を行うことも可能である。【図面の簡単な説明】【図1】実施例2における牛乳アレルギー患者血清の脱脂乳、カゼイン、αラクトアルブミン、およびβラクトグロブリンに対する特異的IgE 抗体量(縦軸)と、臨床検査の値である牛乳RASTユニット(横軸)との相関性を示す図である。 IgG抗体を特異的に吸着するリガンドを用いて、特異的IgE抗体と特異性を同じくする特異的IgG抗体を、特異的IgE抗体との競合が起きない程度まで予め除去した後に、特異的IgE 抗体を測定することよりなる血清中の特異的IgE抗体測定方法において、特異的IgG抗体を予め除去する工程が、(1)血清とプロテインGとをリン酸緩衝液中で反応させた後、(2)そのプロテインGのIgG抗体結合部位を前記特異的IgG抗体とは特異性の異なるIgG抗体によって飽和させ、(3)さらに、そのプロテインGを酸処理することを特徴とする方法。 工程(3)の酸処理条件が、pH2.7〜3.3で5分間である請求項1記載の特異的IgE抗体の測定方法。 プロテインGが、不溶化担体に固定化されたものである請求項1又は2に記載の測定方法。


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