タイトル: | 特許公報(B2)_渋味、苦味または収斂味検査方法および渋味、苦味または収斂味に対する相乗効果または抑制効果を検知する方法 |
出願番号: | 2000077296 |
年次: | 2010 |
IPC分類: | G01N 27/416,G01N 27/333 |
東久保 理江子 小林 義和 池崎 秀和 JP 4480839 特許公報(B2) 20100326 2000077296 20000317 渋味、苦味または収斂味検査方法および渋味、苦味または収斂味に対する相乗効果または抑制効果を検知する方法 株式会社インテリジェントセンサーテクノロジー 502240607 早川 誠志 100079337 東久保 理江子 小林 義和 池崎 秀和 20100616 G01N 27/416 20060101AFI20100527BHJP G01N 27/333 20060101ALI20100527BHJP JPG01N27/46 341MG01N27/30 331C G01N 27/26-27/49 JSTPlus(JDreamII) 特開平11−132990(JP,A) 特開平04−297863(JP,A) 特開平10−253583(JP,A) 特開2001−264286(JP,A) 国際公開第96/030753(WO,A1) 4 2001264289 20010926 16 20070216 黒田 浩一 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、内服薬や食品等の渋味、苦味または収斂味の強さや、添加物による渋味、苦味または収斂味の相乗抑制効果を正確に且つ効率的に把握するための技術に関する。【0002】【従来の技術】例えば、医薬品には、外用または内服により粘膜や創面の蛋白質に作用し、不溶性の被膜を形成して局所を保護するための薬剤として収斂剤(しゅうれんざい)が用いられている。【0003】薬用の収斂剤の代表的なものとして、タンニン(カテキン類の総称)の原料である没食子酸が知られている。なお、タンニン系の物質の味は、一般的に渋味とされているが、欧米では収斂性のある味と表現され、この渋味が薄い場合には苦味と感じる。また、タンニンは茶の成分としても知られ、茶に含まれるカテキン類にも強い苦味と渋味を呈するものがある。つまり、タンニン系の物質は渋味、苦味または収斂味を呈し、特に収斂剤として用いられるタンニン系の物質には、強い渋味、苦味または収斂味がある。【0004】このため収斂剤を含む内服薬は、収斂剤による強い渋み、苦味または収斂味によって、非常に飲みにくいものとなっている。【0005】これを解決するために、この種の内服薬を製造する場合、従来では、その薬に渋み、苦みまたは収斂味を抑制する物質を添加している。【0006】このように内服薬の渋味、苦味または収斂味を添加物で抑制する場合、無添加のサンプルや、添加物の種類や量を種々変えたサンプルの渋味、苦味または収斂味の強さを検査する必要があるが、従来では、この検査を官能検査、即ち、パネラーと呼ばれる味覚の評価の訓練を受けた者が実際にサンプルを味わってその味の強さの程度を評価し、この官能検査の結果によって添加物の種類や量等を決めていた。【0007】【発明が解決しようとする課題】しかしながら、官能検査による評価は、パネラーの個人差や体調等でバラツキがあり、しかも、渋みや苦みを呈する物質は舌の表面に強く吸着するため、添加物の量の僅かな変化に対する味の変化を正確に把握することができず、再現性の高い検査が行えない。【0008】また、検査対象が医薬品の場合、パネラーの健康のために検査できる量も限られてしまい、効率的な検査が行えないという問題があった。【0009】本発明は、これらの問題を解決して、渋味、苦味または収斂味の強さや、添加物による渋味、苦味または収斂味の抑制効果あるいは相乗効果を正確に把握できる方法を提供することを目的としている。【0010】【課題を解決するための手段】 前記目的を達成するために、本発明の請求項1の渋味、苦味または収斂味検査方法は、 高分子材PVCとプラスの電荷をもつ脂質TOMAと可塑剤DOPPとを混合して所定厚さに形成した分子膜で、前記高分子材約800mgに対して前記脂質が0.0005mmol〜0.69mmol、前記可塑剤が1mlの割合で含まれた分子膜を有する分子膜センサを用いて、検査対象液の渋味、苦味または収斂味の強さを検査する渋味、苦味または収斂味検査方法であって、 前記分子膜センサを基準液に浸けて第1の出力値を得る段階と、 前記分子膜センサを検査対象液に浸ける段階と、 前記検査対象液に浸けた前記分子膜センサを基準液に浸けて第2の出力値を得る段階とを含み、 前記第1の出力値と第2の出力値とから、前記検査対象液の渋味、苦味または収斂味の強さを求めることを特徴としている。【0011】 また、本発明の請求項2の渋味、苦味または収斂味検査方法は、 高分子材PVCとプラスの電荷をもつ脂質TOMAと可塑剤DOPPとを混合して所定厚さに形成した分子膜で、前記高分子材約800mgに対して前記脂質が0.0005mmol〜0.69mmol、前記可塑剤が1mlの割合で含まれた分子膜を有する分子膜センサを用いて、検査対象液の渋味、苦味または収斂味の強さを検査する渋味、苦味または収斂味検査方法であって、 前記分子膜センサを基準液に浸けて第1の出力値を得る段階と、 前記分子膜センサを、渋味、苦味または収斂味の強さが既知のサンプル液に浸ける段階と、 前記サンプル液に浸けた前記分子膜センサを基準液に浸けて第2の出力値を得る段階と、 前記第1の出力値と第2の出力値との差をサンプル測定値として求める段階と、 前記分子膜センサを洗浄する洗浄段階と、 前記上記処理を、渋味、苦味または収斂味の強さが異なるサンプル液に対して繰り返し行う段階と、 前記各サンプル液に対して得られたサンプル測定値と渋味、苦味または収斂味の強さとの関係を求める段階と、 前記分子膜センサを前記基準液に浸けて第3の出力値を得る段階と、 前記分子膜センサを検査対象液に浸ける段階と、 前記検査対象液に浸けた前記分子膜センサを基準液に浸けて第4の出力値を得る段階と、 前記第3の出力値と、第4の出力値の差を測定値として求める段階とを含み、 前記求めた測定値と、前記サンプル測定値と強さの関係とから、前記検査対象液の渋味、苦味または収斂味の強さを求めることを特徴としている。【0013】 また、本発明の請求項3の渋味、苦味または収斂味に対する相乗効果または抑制効果を検知する方法は、 高分子材PVCとプラスの電荷をもつ脂質TOMAと可塑剤DOPPとを混合して所定厚さに形成した分子膜で、前記高分子材約800mgに対して前記脂質が0.0005mmol〜0.69mmol、前記可塑剤が1mlの割合で含まれた分子膜を有する分子膜センサを用いて、検査対象液の渋味、苦味または収斂味に対する相乗効果または抑制効果を検知する方法であって、 前記分子膜センサを基準液に浸けて、第1の出力値を得る段階と、 前記分子膜センサを検査対象液に浸ける段階と、 前記検査対象液に浸けた分子膜センサを基準液に浸けて第2の出力値を得る段階とを含み、 前記第1の出力値と第2の出力値とから前記検査対象液の渋味、苦味または収斂味に対する相乗効果または抑制効果を検知することを特徴としている。【0014】 また、本発明の請求項4の渋味、苦味または収斂味に対する相乗効果または抑制効果を検知する方法は、 前記請求項1または請求項2記載の検査方法によって、第1検査対象液の渋味、苦味または収斂味の強さと、前記第1検査対象液に所定物質を添加した第2検査対象液の渋味、苦味または収斂味の強さとを求め、両者を比較することによって、前記所定物質の渋味、苦味または収斂味に対する相乗効果または抑制効果を求めることを特徴としている。【0015】【発明の実施の形態】以下図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の検査方法に用いる検査システムの構成を示している。【0016】この検査システムは、基準液、サンプル液あるいは洗浄液等を入れるための容器11、参照電極12、分子膜センサ15、参照電極12の電位を基準とする分子膜センサ15の膜電位を検出するための電圧検出器20、電圧検出器20の出力をディジタル値に変換するA/D変換器21、A/D変換器21の出力に対する演算処理を行う演算装置22、演算装置22の処理結果を出力する出力装置23によって構成されている。【0017】ここで、参照電極12の表面は、塩化カリウム100mMを寒天で固化した緩衝層13で覆われており、リード線12aによって電圧検出器20に接続されている。【0018】また、分子膜センサ15は、アクリル等の基材16の表面に分子膜17が固定され、その分子膜17の反対面には、参照電極12の緩衝層13と同一の緩衝層18を介して電極19が設けられており、この電極19がリード線15aによって電圧検出器20に接続されている。この分子膜17は、高分子材とプラスの電荷をもつ脂質と可塑剤とを混合して膜状に形成されたものであり、ここでは、高分子材として前記PVC800mgと脂質と可塑剤1m1(0.1ml〜3mlの範囲でよい)を混合したものを、THF(テトラヒドロフラン)10mlに溶解し、これを平底の容器(例えば85mmφのシャーレ)内で約30度Cで2時間加熱して、THFを揮散させることによって得られた厚さ200μmのものを使用している。【0019】プラスの電荷をもつ脂質としては、次の表1に示すように、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミンおよび第4級アンモニウム塩からなるアルキルアミンと、第4級フォスフォニウム塩のいずれでも使用可能であるが、この実験では、第4級アンモニウム塩のトリオクチルメチルアンモニウムクロリド(TOMA)またはテトラドデシルアンモニウムブロミド(TDDA)を代表的に用いている。【0020】【表1】【0021】また、可塑剤としては、次の表2に示すフタル酸エステル、脂肪酸エステル、燐酸エステルの一つとしてジオクチルフェニルフォスフォネート(DOPP)を代表的に選択して用いている。【0022】【表2】【0023】この検査システムで使用される分子膜センサ15の分子膜17は、タンニン酸系またはイソα酸系の渋味、苦味または収斂味に対して選択的に応答するように脂質と可塑剤の含有量が設定されたものである。【0024】即ち、本願出願人は、高分子材PVC800mgに対して、脂質(TOMAまたはTDDA)の含有量を種々変えて、渋味物質や苦味物質に対する応答を調べることによって、高分子材PVC800mgに対して、プラスの電荷をもつ脂質が0.0005〜0.69mmol(ミリモル)の範囲で含まれた分子膜が、タンニン酸系またはイソα酸系の物質による渋味、苦味または収斂味に対して非常に顕著な選択応答性を示すという結果を得ることができた。【0025】タンニン酸系またはイソα酸系は、マイナスの電荷を有している。このことから、他のマイナスの電荷を有する渋味、苦味、収斂味を呈する物質に対しても有効であると思われる。【0026】本願発明は、上記知見に基づいて、渋味、苦味または収斂味の強さおよび添加物による渋味、苦味または収斂味に対する相乗抑制効果を正確に検査できるようにしたものである。なお、以下の説明では、タンニン系の物質による渋味、苦味または収斂味を含めて渋味と記し、イソα酸系の物質による渋味、苦味または収斂味を含めて苦味と記す。【0027】図3は、高分子材PVC800mg、可塑剤DOPP1000μlの条件で、分子膜の脂質(TOMA)の濃度を変えたときの各サンプル液に対する応答(CPA値)を示している。なお、この測定結果は後述するCPA測定を同一条件で後述する各サンプル液に対して複数回測定して得られたCPA値を平均化したものである。【0028】この図3の測定結果から、脂質の含有量が高分子材800mgに対し、0.0005mmol〜0.69mmolの範囲Aでは、渋味(タンニン酸)および苦味(イソα酸)のサンプル液に対して極めて顕著な応答性を示し、これらを除く他のサンプル液に対する応答性がほとんど得られておらず、渋味、苦味に対して選択応答性を有していることが判る。【0029】また、渋味(タンニン酸)と苦味(イソα酸)について注目すると、苦味と渋味に対する特性のピークがずれていて、脂質の含有量に対する応答性に違いがあることが判る。【0030】即ち、脂質の含有量が高分子材約800mgに対して0.017mmol〜0.69mmolの範囲A1では、渋味の応答が苦味の応答より2倍以上大きくなっている。【0031】したがって、この範囲A1に脂質の含有量を設定した分子膜であれば、苦味と渋味とが混在するサンプルでも、渋味だけを選択的に検出することができる。【0032】また、この範囲A1内をさらに詳しく見ると、脂質の含有量が0.026mmol〜0.58mmolの範囲A1aでは、苦味の3倍以上の応答が得られ、脂質の含有量が0.036mmol〜0.41mmolの範囲A1bでは、苦味の5倍以上の応答が得られており、さらに、渋味に対する選択性が増している。【0033】よって、この範囲A1に脂質含有量を設定した分子膜は、渋味の検査専用の分子膜として用いることができる。【0034】また、脂質の含有量が高分子材約800mgに対して0.0023mmol〜0.017mmolの範囲A2では、渋味と苦味の応答が近いレベルにある。したがって、この範囲A2に脂質含有量を設定した分子膜は、渋味と苦味に共通してきわめて高い応答性を示すことになり、渋味、苦味共通の高感度な分子膜として用いることができる。【0035】また、脂質の含有量が0.0005mmol〜0.0023mmolの範囲A3では、苦味と渋味の応答の大小が逆転し、苦味の応答が渋味の2倍以上大きくなっている。したがって、この範囲A3に脂質含有量を設定した分子膜は、苦味だけにきわめて高い応答性を示すことになり、苦味と渋味とが混在するサンプルでも、苦味だけを選択的に検出することができ、苦味専用の分子膜として使用できる。【0036】図2に、タンニン酸系の味物質の検査に使用する分子膜センサ15の特性の一例を示す。この分子膜センサ15の分子膜17は、高分子材PVC800mgに対して、脂質TDDA50mg(0.0648mmol)、可塑剤DOPP600μlの割合で混合形成したものであり、この分子膜センサ15を用いて、標準的な甘味の強さを示す甘味物質(蔗糖)のサンプル溶液、標準的な酸味の強さを示す酸味物質(酒石酸)のサンプル溶液、標準的な塩味の強さを示す塩味物質(NaCl)のサンプル溶液、標準的な苦味の強さを示す苦味物質(キニーネ塩酸塩二水和物、以下キニーネという)のサンプル溶液、標準的な苦味の強さを示す苦味物質(イソα酸)のサンプル溶液、標準的な旨味の強さを示す旨味物質(L−グルタミン酸水素ナトリウム一水和物、以下MSGという)のサンプル溶液および標準的な渋味の強さを示す渋味物質(タンニン酸、以下タンニンという)のサンプル溶液に対するCPA測定を行うことにより、図2の結果が得られている。【0037】即ち、前記した図1の検査システムにおいて、分子膜センサ15と参照電極12とを基準液に浸けて、分子膜センサ15の膜電位V1(出力値)を測定して記憶し、次に上記サンプル溶液の一つに分子膜センサ15と参照電極12とを浸けてから、この分子膜センサ15と参照電極12とを基準液に浸けて、分子膜センサ15の膜電位V2を測定し、前記膜電位V1との電位差(CPA値という)ΔV(=V2−V1)を求めてから、分子膜センサ15と参照電極12を洗浄するという処理を、全てのサンプル溶液について行うことによって得られたものである。【0038】図2から明らかなように、甘味(蔗糖)、酸味(酒石酸)、苦味(キニーネ)、旨味(MSG)に対する分子膜センサ15の応答はほとんど無く(測定限界以下)、また、塩味(NaCl)や苦味(イソα酸)に対する応答も、渋味(タンニン)に対する応答に比べてほとんど無視できる程度に小さい。【0039】したがって、この分子膜センサ15を用いることで、タンニン系の渋味、苦味、または収斂味を選択的に検査することができる。【0040】なお、本願発明者らは、脂質(TOMA)の含有量を変えて上記測定を行うことで、上記特性の分子膜センサ15を得ている。【0041】また、本願発明者らは、上記分子膜センサ15および前記検査システムを用いて種々の実験をした結果、上記分子膜センサ15は、検査対象液に含まれる渋味物質(タンニン)または苦味(イソα酸)の濃度だけに依存せず、添加物によって抑制あるいは相乗された渋味、苦味または収斂味の強さ、即ち、人が実際に感じる渋味、苦味または収斂味の強さに正しく応答していることを確認した。【0042】以下、この実験について説明する。この実験では、タンニンの溶液で、その渋味の強さがそれぞれ異なる、即ち、タンニンの濃度がそれぞれ異なる複数Nのサンプル液A(1)〜A(N)と、渋味物質の濃度(タンニン0.05wtパーセント)が等しく添加物の種類が異なる以下の7つのサンプル液B(1)〜B(7)を用意した。【0043】B(1):添加物無しB(2):添加物質=甘味物質(蔗糖 300mM)B(3):添加物質=酸味物質(酒石酸 3mM)B(4):添加物質=塩味物質(NaCl 300mM)B(5):添加物質=苦味物質(キニーネ 0.1mM)B(6):添加物質=苦味物質(イソα酸 1/10000=0.01体積%)B(7):添加物質=旨味物質(MSG 10mM)【0044】ここで、各添加物は、人の感じる濃度領域のほぼ中間となる濃度で添加している。【0045】また、基準液として、人間の場合の唾液に相当し、無味に近く且つ分子膜センサ15の電位を安定させるという条件を満たすKCl(塩化カリウム)10mM+酒石酸0.1mM溶液を用いている。【0046】図4は、この実験の手順を示すフローチャートである。以下、このフローチャートにしたがって説明する。【0047】始めに、サンプル液Aを指定する数mを1に初期化し(S1)、分子膜センサ15と参照電極12とを基準液に浸けて、分子膜センサ15の膜電位Va(m)(第1の出力値)を測定して記憶する(S2)。【0048】次に、この分子膜センサ15と参照電極12とをサンプル液A(m)に所定時間浸けてから(S3)、基準液に戻して分子膜センサ15の膜電位Vb(m)(第2の出力値)を測定して記憶する(S4)。【0049】そして、得られた膜電位Va(m)、Vb(m)の差ΔV(m)=Vb(m)−Va(m)を求めて記憶し(S5)、分子膜センサ15と参照電極12を洗浄する(S6)。【0050】なお、この洗浄は、吸着性の強い物質に対して高い洗浄効果を示すエタノール等の有機溶剤の希釈液(例えば30パーセント)に塩化カリウム(KCl)と水酸化カリウム(KOH)とを混合した洗浄液に、分子膜センサ15と参照電極12とを浸けた状態で、上下動したり超音波を与えて、分子膜17に吸着した渋味物質を取り除く。【0051】以下同様に、S2からS6までの処理を対象となるサンプル液を変えながら行い(S7、S8)、各サンプル液A(1)〜A(N)についての電位差ΔV(1)〜ΔV(N)を得る。【0052】そして、得られた各電位差ΔV(1)〜ΔV(N)と各サンプル液A(1)〜A(N)の渋味物質の濃度Pとの関係を表す式、P=f(ΔV)を求める(S9)。【0053】次に、サンプル液Bを指定する数rを1に初期化してから(S10)、分子膜センサ15と参照電極12とを基準液に浸けて、分子膜センサの膜電位Vc(r)(第3の出力値)測定を測定して記憶する(S11)。【0054】次に、分子膜センサ15と参照電極12を、サンプル液B(r)に所定時間浸けてから(S12)、基準液に浸けて分子膜センサ15の膜電位Vd(r)(第4の出力値)を測定して記憶する(S13)。【0055】続いて、得られた膜電位Vc(r)、Vd(r)の電位差ΔVx(r)=Vd(r)−Vc(r)を求めて記憶してから(S14)、分子膜センサ15と参照電極12を洗浄する(S15)。【0056】以下同様に、S11〜S15までの処理を、サンプル液Bを変えて繰り返すことによって(S16、S17)、各サンプル液B(1)〜B(7)についての電位差ΔVx(1)〜ΔVx(7)を求める。【0057】そして、各サンプル液B(1)〜B(7)の電位差ΔVx(1)〜ΔVx(7)に対応した渋味物質の濃度Px(1)〜Px(7)を次式、Px(1)=f(ΔVx(1))Px(2)=f(ΔVx(2))Px(3)=f(ΔVx(3))………Px(7)=f(ΔVx(7))によってそれぞれ求める(S18)。【0058】ここで、各サンプル液B(2)〜B(7)について算出された濃度Px(2)〜Px(7)は、添加物の影響を受けた見かけ上の濃度である。【0059】さらに、算出された各濃度Px(1)〜Px(7)から渋味の強さUx(1)〜Ux(7)を求める(S19)。【0060】一般的に、味の強さの表現には、味物質の濃度Pの対数をとるτ尺度が使われる。ここでも、τ尺度を用いることとする。【0061】前記算出された各濃度Px(1)〜Px(7)について、Ux(1)=logPx(1)Ux(2)=logPx(2)Ux(3)=logPx(3)………Ux(7)=logPx(7)の演算を行うことで、各サンプル液のτ尺度である渋味の強さUx(1)〜Ux(7)を求めることができる。【0062】そして、これら求めた渋味の強さを比較すれば、各添加物による渋味の相乗効果または抑制効果の有無や程度を知ることができる(S20)。【0063】図5は、上記実験の結果を示すものであり、渋味物質(タンニン)のみのサンプル液B(1)の渋味の強さに対する他のサンプル液B(2)〜B(7)の渋味の強さの比と、実際の官能検査の結果とを対応づけて表している。前記渋味の強さは、タンニン酸濃度0.05wt%を渋味強度1とするため、渋味強度=log(200×タンニン酸濃度(%))で計算した。【0064】この図5から明らかなように、全てのサンプル液B(1)〜B(7)には、同一濃度で渋味物質(タンニン)が含まれているにも関わらず、その実験から得られた渋味の強度(見かけ上の濃度)は、基準のサンプル液B(1)に対して、甘味物質(蔗糖)、酸味物質(酒石酸)、塩味物質(NaCl)、旨味物質(MSG)を添加した4つのサンプル液では抑制され、逆に苦味物質(キニーネ、イソα酸)を添加した2つのサンプル液については、基準のサンプル液B(1)より渋味の強さが相乗されており、しかも、この実験で得られた各サンプル液の渋味の強さと官能検査の結果とがよく一致している。また、官能検査に比べてバラツキが非常に小さい。【0065】なお、図5の苦味物質(イソα酸)が添加されたサンプル液の測定結果は、図2で示したイソα酸単独の応答を差し引いたものであり、この単独の応答を差し引いてもイソα酸やキニーネを添加したときの渋味の強さは、基準のサンプルよりも強くなっており、相乗効果が顕著に現れている。また、塩味(NaCl)が添加されたサンプル液の測定結果も図2で示したNaCl単独の応答を差し引いたものである。【0066】以上の結果から、前記分子膜センサ15を用いることで、検査対象液に含まれる渋味物質(タンニン)の量だけに依存せずに、添加物によって抑制あるいは相乗された渋味の実際の強さを把握できることが判った。【0067】また、渋味の抑制には、塩味物質の添加が最も効果的であり、次いで甘味物質、酸味物質、旨味物質の順に効果があり、逆に渋味の相乗には、キニーネやイソα酸等の苦味物質の添加が効果的であることも判った。【0068】このように、前記分子膜センサ15は、渋味物質の濃度だけに依存せずに、実際の渋味の強さに対して正確な応答性を有しているので、この分子膜センサ15を用いることで、タンニン系の渋味物質の濃度や添加物の有無が不明の検査対象液の渋味の強さを正確に測定できる。また、添加物による渋味の抑制あるい相乗の度合い等も正確に把握できる。【0069】上述の実験では、図3に示した範囲A1内の脂質含有量の分子膜を用いているが、図3に示す範囲A2内や範囲A3内の脂質含有量の分子膜を用いれば、同様に、イソα酸のみ、またはイソα酸とタンニン酸の両方について、人間の官能と一致した相乗効果、抑制効果が検知できると推定される。【0070】図6は、前記分子膜センサ15と検査システムを用いて未知の検査対象液の渋味の強さを検査する場合の手順を示すフローチャートである。【0071】この図6において、S21〜S29までの処理は前記図4のS1〜S9までの処理と全く同一であり、渋味物質の濃度が異なる複数のサンプル液Aの測定によって、分子膜センサ15によって得られる電位差と渋味の強さとの関係を求めている。【0072】次に、分子膜センサ15と参照電極12とを基準液に浸けて、分子膜センサの膜電位Veを測定して記憶し(S30)、この分子膜センサ15と参照電極12とを検査対象液に所定時間浸けてから(S31)、基準液に戻して分子膜センサ15の膜電位Vfを求める(S32)。【0073】そして、得られた膜電位Ve、Vfの差ΔVx=Vf−Veを求め(S33)、次式、Px=f(ΔVx)の演算によって検査対象液の渋味物質の濃度Pxを算出する(S34)。【0074】この算出された濃度Pxは、検査対象液に渋味を抑制あるいは相乗する物質が添加されていないとすれば検査対象液に含まれる渋味物質の真の濃度を示すので、渋味物質の濃度を知ることができる。【0075】また、添加物によって渋味が抑制あるいは相乗されている場合、算出された濃度は、検査対象液の実際の渋味の強さに対応した見かけ上の濃度を示している。この場合、渋味物質の真の濃度は求められないが、この見かけ上の濃度から前記同様に検査対象液の実際の渋味の強さを正確に知ることができる(S35)。【0076】以上のように、この渋味検査方法では、渋味に対して選択的に応答する分子膜センサ15を用いて、渋味の強さと電位差ΔVとの関係を予め求めておき、検査対象液をこの分子膜センサ15で測定したときの電位差と前記関係とから、検査対象液の渋味物質の濃度を求め、この濃度から渋味の強さを求めている。【0077】このため、検査対象液の渋味の強さを従来のように毎回官能検査で調べる必要がなく、医薬品等の渋味の強さを正確に且つ効率的に検査することができる。【0078】また、未知の添加物による渋味、苦味または収斂味の抑制または相乗効果を調べる場合には、前記した渋味検査方法(または前記した図3の実験方法)によって、添加物が含まれていない第1検査対象液と、この第1検査対象液に所定物質を添加した第2検査対象液の味の強さを求め、その強さを前記同様に比較する。【0079】この比較によって、例えば第2検査対象液の方が第1検査対象液より渋味が弱ければその添加物に抑制効果があり、また、逆に第1検査対象液の方が第2検査対象液より渋味が強ければ、その添加物に相乗効果があることが判る。また、その味の強さの比や差から抑制効果や相乗効果の程度を把握することができる。【0080】なお、上記方法は、医薬品の渋味、苦味または収斂味を抑制するための添加物質の選択や添加量等を決定する場合等に特に有効であり、健康を害する恐れのある官能検査等に頼ることなく容易に且つ正確に添加物の種類や量を決定することができる。【0081】また、前記検査方法や相乗抑制効果を検知する方法では、分子膜センサ15によって得られた測定値と渋味物質の濃度とを対比していたが、測定値をそのサンプルの官能値(今まで蓄積されたパネラーによる官能評価値)と対比してもよい。【0082】また、渋味の強さのしきい値となるサンプル液の測定値が予め判っている場合、または、そのようなサンプル液を測定してその測定値を記憶しておけば、検査対象液について得られた測定値だけで、その検査対象液の渋味の強さがしきい値より高いか低いかを判定することができる。【0083】したがって、1点の教師データだけでも検査対象液の渋味の強さの判定が可能となり、同様に添加物質による渋味の相乗抑制効果を検知することができる。【0084】また、前記説明では、特に医薬品の収斂剤として使用されるタンニン系の物質による渋味、苦味または収斂味について説明したが、前記した茶のような食品の渋味、苦味または収斂味についても本発明を同様に適用できる。【0085】【発明の効果】以上説明したように、本発明では、高分子材とプラスの電荷をもつ脂質と可塑剤とを混合して所定厚さに形成した分子膜で、前記脂質が高分子材約800mgに対して0.0005mmol〜0.69mmolの割合で含まれた分子膜を有する分子膜センサを用いて、検査対象液の渋味、苦味または収斂味の強さや、渋味、苦味または収斂味に対する相乗効果または抑制効果を検知している。【0086】このため、医薬品や食品等の渋味、苦味または収斂味の強さや、添加物による渋味、苦味または収斂味に対する相乗効果または抑制効果を、官能検査に頼ることなく、正確に且つ効率的に把握することができる。【図面の簡単な説明】【図1】本発明の実施の形態の検査方法を行うための検査システムを示す図【図2】実施の形態の検査方法に用いる分子膜センサの応答特性を示す図【図3】脂質の濃度に対する分子膜センサの応答特性の変化を示す図【図4】検査方法の手順を示すフローチャート【図5】実験結果と官能検査の結果とを示す図【図6】検査方法の手順を示すフローチャート【符号の説明】11 容器12 参照電極13 緩衝層15 分子膜センサ16 基材17 分子膜18 緩衝層19 電極20 電圧検出器21 A/D変換器22 演算装置23 出力装置 高分子材PVCとプラスの電荷をもつ脂質TOMAと可塑剤DOPPとを混合して所定厚さに形成した分子膜で、前記高分子材約800mgに対して前記脂質が0.0005mmol〜0.69mmol、前記可塑剤が1mlの割合で含まれた分子膜を有する分子膜センサを用いて、検査対象液の渋味、苦味または収斂味の強さを検査する渋味、苦味または収斂味検査方法であって、 前記分子膜センサを基準液に浸けて第1の出力値を得る段階と、 前記分子膜センサを検査対象液に浸ける段階と、 前記検査対象液に浸けた前記分子膜センサを基準液に浸けて第2の出力値を得る段階とを含み、 前記第1の出力値と第2の出力値とから、前記検査対象液の渋味、苦味または収斂味の強さを求めることを特徴とする渋味、苦味または収斂味検査方法。 高分子材PVCとプラスの電荷をもつ脂質TOMAと可塑剤DOPPとを混合して所定厚さに形成した分子膜で、前記高分子材約800mgに対して前記脂質が0.0005mmol〜0.69mmol、前記可塑剤が1mlの割合で含まれた分子膜を有する分子膜センサを用いて、検査対象液の渋味、苦味または収斂味の強さを検査する渋味、苦味または収斂味検査方法であって、 前記分子膜センサを基準液に浸けて第1の出力値を得る段階と、 前記分子膜センサを、渋味、苦味または収斂味の強さが既知のサンプル液に浸ける段階と、 前記サンプル液に浸けた前記分子膜センサを基準液に浸けて第2の出力値を得る段階と、 前記第1の出力値と第2の出力値との差をサンプル測定値として求める段階と、 前記分子膜センサを洗浄する洗浄段階と、 前記上記処理を、渋味、苦味または収斂味の強さが異なるサンプル液に対して繰り返し行う段階と、 前記各サンプル液に対して得られたサンプル測定値と渋味、苦味または収斂味の強さとの関係を求める段階と、 前記分子膜センサを前記基準液に浸けて第3の出力値を得る段階と、 前記分子膜センサを検査対象液に浸ける段階と、 前記検査対象液に浸けた前記分子膜センサを基準液に浸けて第4の出力値を得る段階と、 前記第3の出力値と、第4の出力値の差を測定値として求める段階とを含み、 前記求めた測定値と、前記サンプル測定値と強さの関係とから、前記検査対象液の渋味、苦味または収斂味の強さを求めることを特徴とする渋味、苦味または収斂味検査方法。 高分子材PVCとプラスの電荷をもつ脂質TOMAと可塑剤DOPPとを混合して所定厚さに形成した分子膜で、前記高分子材約800mgに対して前記脂質が0.0005mmol〜0.69mmol、前記可塑剤が1mlの割合で含まれた分子膜を有する分子膜センサを用いて、検査対象液の渋味、苦味または収斂味に対する相乗効果または抑制効果を検知する方法であって、 前記分子膜センサを基準液に浸けて、第1の出力値を得る段階と、 前記分子膜センサを検査対象液に浸ける段階と、 前記検査対象液に浸けた分子膜センサを基準液に浸けて第2の出力値を得る段階とを含み、 前記第1の出力値と第2の出力値とから前記検査対象液の渋味、苦味または収斂味に対する相乗効果または抑制効果を検知することを特徴とする渋味、苦味または収斂味に対する相乗効果または抑制効果を検知する方法。 前記請求項1または請求項2記載の検査方法によって、第1検査対象液の渋味、苦味または収斂味の強さと、前記第1検査対象液に所定物質を添加した第2検査対象液の渋味、苦味または収斂味の強さとを求め、両者を比較することによって、前記所定物質の渋味、苦味または収斂味に対する相乗効果または抑制効果を求めることを特徴とする渋味、苦味または収斂味に対する相乗効果または抑制効果を検知する方法。