生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_ヘムタンパク質の安定化方法
出願番号:2000060597
年次:2009
IPC分類:G01N 33/72,G01N 33/68,G01N 33/531,G01N 33/53


特許情報キャッシュ

前河 宏章 西間木 祐人 JP 4306915 特許公報(B2) 20090515 2000060597 20000306 ヘムタンパク質の安定化方法 栄研化学株式会社 000120456 前河 宏章 西間木 祐人 20090805 G01N 33/72 20060101AFI20090716BHJP G01N 33/68 20060101ALI20090716BHJP G01N 33/531 20060101ALI20090716BHJP G01N 33/53 20060101ALI20090716BHJP JPG01N33/72 AG01N33/68G01N33/531 BG01N33/53 K G01N 33/48-98 特開平07−229902(JP,A) 特開平06−281654(JP,A) 特開平08−029429(JP,A) 特開2000−055899(JP,A) 10 2001249132 20010914 9 20070227 山村 祥子 【0001】【産業上の利用分野】本発明は、ヘムタンパク質の安定化方法に関し、特に糞便、尿、血液試料中のヘムタンパク質検査におけるヘムタンパク質の安定化方法に関するものである。【0002】【従来技術】近年、大腸癌などの消化器系の疾患を検査する方法として、消化器官からの出血に起因する糞便中のヒトヘモグロビン(便潜血)の検出が広く行われている。このヒトヘモグロビンの検出方法は、従来の化学的な発色反応に基づく試験紙法に代わり、ヒトヘモグロビンに特異的な抗体を利用した免疫学的手法であり、食事制限を必要としない手軽な検査方法として定着している。【0003】ヒトヘモグロビンの免疫学的検出法としては、例えば寒天平板内で抗ヒトヘモグロビン抗体と被検試料中のヒトヘモグロビンとの沈降線を利用する一次元免疫拡散法、抗ヒトヘモグロビン抗体を感作したラテックス粒子や金コロイド粒子を用いる凝集法、酵素や放射性元素で標識した抗ヒトヘモグロビン抗体を用いる酵素免疫法や放射性免疫法等が挙げられる。【0004】しかしながら、ヒトヘモグロビンは、被検液中では徐々に変性し、抗原性が低下するという性質を有している。また、被検液中のヒトヘモグロビンは、保存温度等の保存条件によって変性が促進されたり、糞便中の細菌や消化酵素によって分解されてしまうことも多い。このような変性・分解の結果、ヒトヘモグロビンの立体構造が破壊されて抗原性の低下を招くことになる。このため、免疫学的なヒトヘモグロビンの測定方法においては、ヘモグロビンの変性・分解は誤った診断結果を生ずる原因となる。【0005】一方、便潜血検査においては、被験者自身が自宅などで採取した糞便を便溶解液を含む密閉容器に溶解して検査に供する場合が多い。この場合、糞便中のヒトヘモグロビンは、溶液中で数日間放置されたり、郵便等の輸送手段を利用することによって高温下に置かれることも多い。また、検査機関で採便する場合においても、他項目の検査を実施しているため、便潜血の検査までに多くの時間を要することもある。このような状況下では、前述したように、ヒトヘモグロビンの変性・分解が生じるため、精度良く測定する際の妨げとなっていた。【0006】このような溶液中でのヒトヘモグロビンの変性・分解を防止するため、例えばチメロサールやクロルヘキシジン等一般的抗菌剤を添加する方法(特開昭63−271160号公報)の他に、糖類を添加する方法(特開昭63−243756号公報)、ヒト以外の動物ヘモグロビンの添加(特開平2−296149号公報)、ヒト以外の動物血清の添加(特開平4−145366号公報)、溶菌酵素の添加(特公平5−69466号公報)、鉄プロトポルフィリンの添加(特開平5−281227号公報)等が提案されている。しかしながら、これらの公報に記載されたヒトヘモグロビン安定化技術では、糞便を含む被検液中のヒトヘモグロビンの変性・分解を十分に抑制することができない。【0007】この他にも、エチレンジアミン4酢酸(以下、EDTAと省略する)を用いたヘモグロビン安定化方法が提案されている(特開平5−99923号公報)。しかしながら、本発明者らによる追試の結果、EDTA単独では糞便中のヘモグロビンに対して十分な安定化作用を期待できないことが確認された。このため、本出願人は、EDTA単独よりも安定化効果の高い水溶性遷移金属錯体を添加する方法を提案している(特開平7−229902号公報)。更に、本出願人は、フェロシアン化合物と共存させたヘモグロビンの安定化方法(特開平11−118806号公報)およびヘモグロビンの酵素分解産物を共存させたヘモグロビンの安定化方法(特開平11−218533号公報)を既に提案している。【0008】【発明が解決しようとする課題】本発明の第一の課題は、ヘモグロビンに代表されるヘムタンパク質の変性・分解作用に対して有効な、新規なヘムタンパク質の安定化方法を提供することにある。特に変性・分解作用の強い糞便成分と共存するヘモグロビンを効果的に安定化する技術の提供を目的とする。本発明の第二の課題は、新規なヘムタンパク質の安定化剤を利用したヘムタンパク質の保存溶液を提供することにある。【0009】【課題を解決するための手段】本発明の第一の課題は、ヘムタンパク質を含有する試料中に、遷移金属類を共存させることを特徴とするヘムタンパク質の安定化方法により達成された。また、本発明の第二の課題は、遷移金属類を含むことを特徴とするヘムタンパク質の保存溶液により達成された。以下、本発明について更に詳細に説明する。【0010】本発明に使用する遷移金属類は、公知のものの中から適宜選択して使用することができる。その具体例としては、例えばクロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛およびカドミウムから成る群から選択される少なくとも1種、またはそれらの塩類が挙げられる。これらの遷移金属類の中でも、周期律表第VIa に属する金属、すなわちクロム、モリブデン、タングステンが好ましく、より好ましくはモリブデン、更に好ましくはモリブデン酸ナトリウムやモリブデン酸カリウムなどのモリブデン酸塩である。【0011】本発明においては、ヘムタンパク質含有試料中に、遷移金属類を0.5〜100mM、好ましくは1〜50mM、より好ましくは10mMとなるように含有させる。遷移金属類の濃度が0.5mM未満になると、安定化効果が不十分となり、逆に100mMを超えると免疫反応が阻害され却って測定値が低下する。【0012】また、本発明においては、上記遷移金属類に加えてアジ化物を添加することにより、試料中のヘムタンパク質をより一層安定化させることができる。アジ化物の具体例としては、例えば、アジ化ナトリウム、アジ化カリウム、アジ化アンモニウムおよびアジ化リチウムから成る群から選択される少なくとも1種が挙げられる。【0013】このアジ化物は、ヘムタンパク質含有試料中に0.01〜0.2w/v%、好ましくは0.1w/v%となるように含有させる。アジ化物の濃度が0.01w/v%未満となると、安定化効果が不十分となり、一方アジ化物のうち、アジ化ナトリウムは劇毒物指定品(政令第405号:毒物及び劇物指定令の一部を改正する政令)となっているため、0.2w/v%超えて使用することは好ましくはない。【0014】本発明においては、特に必要とされないが、公知のタンパク質保護剤を必要に応じて加えることによってヘムタンパク質の安定化効果をより高めることができる。このようなタンパク質保護剤としては、アルブミンやゼラチンに代表される不活性タンパク質等を挙げることができる。【0015】アルブミンは、任意のものを使用することができるが、特に動物の血清や卵に由来するアルブミンが好ましい。その具体例としては、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ウサギ、並びにこれらの動物の幼獣、または胎児の血液に由来するアルブミンが挙げられる。このアルブミンには、上記したもの以外にその酵素分解物も知られているが、本発明におけるアルブミンには、このようなアルブミンから誘導されるタンパク質をも含めることができる。【0016】上記タンパク保護剤の他に、例えば微生物の不必要な繁殖を防ぐための抗菌剤やヘムタンパク質の保存に有利なpHを与える緩衝剤などこれまでに知られている多くのヘムタンパク質保護成分の添加も有効である。抗菌剤としては、溶菌酵素、安息香酸エチル、ペニシリン、ファンギソン、ストレプトマイシン、あるいはセファマイシン他非ペニシリン系の一連の抗生物質等が挙げられる。 また、トリプシンインヒビターやα2マクログロブリンのようなプロテアーゼ抑制物質もヘムタンパク質を安定化することも知られている。【0017】本発明の保存溶液のpHは、ヘムタンパク質を安定に保持できる範囲に設定する。極端な酸やアルカリ条件下ではヘムタンパク質の安定性を損なう恐れがあり、また遷移金属類による保護作用を得にくくなるため、中性域のpHが望ましい。具体的には5〜10、好ましくは6〜8程度のpHとする。pHの維持のためには適当な緩衝剤を利用する。たとえば、ヒドロキシエチルピペラジン−2−エタンスルホン酸(HEPESと省略する)やピペラジン−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPESと省略する)等のグッド緩衝剤は、ヘムタンパク質の構造を最も安定化すると思われるpH(6〜8)を与えると同時に、免疫反応によってヘムタンパク質を検出する時の反応用緩衝液としても利用されているものであり特に好ましい緩衝剤として挙げられる。この他、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、グリシン緩衝液等を利用することもできる。【0018】本発明のヘムタンパク質の安定化方法は、糞便、尿、血液試料中のヘムタンパク質の検出に利用することができる。ヘムタンパク質としては、ヘムを構成成分とするタンパク質の中から適宜選択でき、例えばヘモグロビン、ミオグロビン、ペルオキシダーゼ、またはカタラーゼが挙げられる。特に抗原構造の保護が要求される免疫学的な分析対象としてのヘムタンパク質について、その抗原性の維持に有用である。【0019】本発明においては、ヘムタンパク質の安定化因子として作用する遷移金属類を含有させたヘモクロビンの保存溶液を提供することができる。この場合、添加する遷移金属類は、例えばクロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛およびカドミウムから成る群から選択される少なくとも1種、またはそれらの塩類が挙げられる。これらの遷移金属類の中でも、周期律表第VIa に属する金属、すなわちクロム、モリブデン、タングステンが好ましく、より好ましくはモリブデン、更に好ましくはモリブデン酸ナトリウムやモリブデン酸カリウムなどのモリブデン酸塩である。【0020】更に、本発明の保存溶液には、必要に応じてアジ化物、タンパク質保護剤および緩衝剤を含有させることができる。アジ化物、タンパク質保護剤および緩衝剤としては、上記したものの中から適宜選択して使用することができる。【0021】本発明は、前記ヘムタンパク質の安定化技術を応用したヘムタンパク質の免疫学的測定方法を提供する。免疫学的な測定方法としては、例えばラテックス凝集反応法、金コロイド凝集反応法、イムノクロマトグラフ法、またはELISA法等を挙げることができる。いずれの測定方法においても、ヘムタンパク質含有試料に、遷移金属類を共存させることによって、保存中の抗原活性は保護され測定値の低下が抑制される。【0022】【発明の実施の形態】本発明のヘムタンパク質の安定化方法は、生体試料中に存在する分析対象としてのヘムタンパク質を安定化するために有用である。特にヘムタンパク質を認識する抗体を用いた免疫学的手法によるヘムタンパク質の測定方法において、測定対象となるヘムタンパク質の抗原性を高度に安定化する。ヘムタンパク質を検出すべき生体試料には、糞便、尿、血液が知られている。特に糞便中のヘモグロビンは消化器における出血の指標となり、尿中のヘモグロビンは、尿路における出血の指標となる。【0023】本発明の安定化方法を、糞便試料に存在するヘモグロビンに応用する場合には、糞便を懸濁させる保存溶液に遷移金属類を添加しておくと良い。通常の糞便中のヘモグロビンの検出にあたっては、糞便を適当な保存液に懸濁させ必要に応じてろ過して免疫学的な分析用試料とする。【0024】【発明の効果】本発明のヘムタンパク質の安定化方法では、ヘムタンパク質に対して強い変性・分解作用を持つ生体成分、特に糞便成分との共存下においても保護作用を得ることができる。したがって、生体成分の分析、例えば糞便潜血の検出を目的とする試料に含まれるヘモグロビンの安定化に有用である。特に抗原構造の保護が要求される免疫学的な分析対象としてのヘムタンパク質について、その抗原性の維持に貢献する。本発明によって糞便試料中のヘモグロビンが効果的に安定化され、ヘモグロビンの変性・分解による偽陰性結果の防止を期待することができる。【0025】【実施例】以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。【0026】実施例1.モリブデン酸ナトリウムによるヘモグロビンの安定化効果モリブデン酸ナトリウムをそれぞれ0、10、50mM含有する保存溶液(50mMのHEPES緩衝液、pH7.0、0.9%NaCl、0.1%BSA)2mlに、正常便検体(A)10mgとヒト溶血液とを添加し、添加直後のヘモグロビン測定値と37℃で17時間保存したときのヘモグロビン測定値を比較した。測定は、OC−270R(栄研化学製)を用いてラテックス凝集反応を測定原理とする専用試薬(OC−オートII:栄研化学製)で行った。その結果を表1に示す。表1に示すように、モリブデン酸ナトリウムを添加しないものに比べて、10mM、50mM添加したものは、37℃で17時間保存後のヘモグロビンの安定化効果が著しく高いことが確認された。【0027】【表1】【0028】実施例2.モリブデン酸ナトリウムおよびアジ化ナトリウムによるヘモグロビンの安定化効果0.1w/v%のアジ化ナトリウムを添加した以外は、実施例1と全く同様の方法により、正常便検体(B)〜(E)についてヘモグロビンの安定化効果を調べた。その結果を表2〜表5に示す。結果に示すように、モリブデンに加えて、アジ化ナトリウムを添加することで更にヘモグロビンの安定化効果が向上したことが判る。【0029】【表2】【0030】【表3】【0031】【表4】【0032】【表5】【0033】 ヘムタンパク質を含有する試料中に、モリブデンまたはその塩類を共存させることを特徴とするヘムタンパク質の安定化方法。 モリブデンまたはその塩類の濃度が0.5〜100mMの範囲である請求項1記載のヘムタンパク質の安定化方法。 アジ化物を共存させる請求項1または2記載のヘムタンパク質の安定化方法。 アジ化物がアジ化ナトリウム、アジ化カリウム、アジ化アンモニウムおよびアジ化リチウムから成る群から選択される少なくとも1種である請求項3記載のヘムタンパク質の安定化方法。 ヘムタンパク質がヘモグロビン、ミオグロビン、ペルオキシダーゼ、またはカタラーゼである請求項1記載のヘムタンパク質の安定化方法。 ヘムタンパク質を含有する試料が糞便、尿、または血液である請求項1記載のヘムタンパク質の安定化方法。 モリブデンまたはその塩類を含むことを特徴とするヘムタンパク質の保存溶液。 アジ化物を含む請求項7記載のヘムタンパク質の保存溶液。 アジ化物がアジ化ナトリウム、アジ化カリウム、アジ化アンモニウムおよびアジ化リチウムから成る群から選択される少なくとも1種である請求項8記載のヘムタンパク質の保存溶液。 モリブデンまたはその塩類を含む試料中のヘムタンパク質と抗ヘムタンパク質抗体とを反応させることを特徴とするヘムタンパク質の免疫学的測定方法。


ページのトップへ戻る

生命科学データベース横断検索へ戻る