生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_クラゲのコラーゲンの抽出方法
出願番号:1999369047
年次:2005
IPC分類:7,C12P21/02,C12N9/64


特許情報キャッシュ

池田 理夫 大部 悦二 JP 3696018 特許公報(B2) 20050708 1999369047 19991227 クラゲのコラーゲンの抽出方法 株式会社東芝 000003078 堀口 浩 100109900 池田 理夫 大部 悦二 20050914 7 C12P21/02 C12N9/64 JP C12P21/02 A C12N9/64 Z 7 C12P21/00-21/06 PubMed BIOSIS/WPI(DIALOG) JICSTファイル(JOIS) 特開平06−217737(JP,A) The Journal of Biological Chemistry, 1985, Vol.260, p.15352-15356 2 2001178492 20010703 8 20010913 高堀 栄二 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、水生物例えばクラゲから有用物質を抽出する方法に関する。【0002】【従来の技術】臨海部の工場や発電所の多くは、冷却水として海水を取水して利用している。しかし、特に夏期には大量に発生し海中に浮遊するクラゲやウミウシ等の水生物のために取水量の低下を余儀なくされている。【0003】取水口には異物やクラゲなどの海生物を取り込むことを防ぐために、フェンス等で覆われている。しかし、海中に浮遊する大量のクラゲは取水の流れに乗って上記フェンスを塞ぎ、それに伴い取水口付近の水位が下がるために、取水量を減らさなければならなくなり、その結果として、取水量は低下し、当然、操業や発電の効率を下げざるを得なくなってしまう。【0004】そこで、操業・発電効率を維持するために、取水口に近付くクラゲを捕獲・除去し、取水量の確保を図る必要がある。取水口近傍で捕獲・除去されるクラゲは、一般にその殆どがミズクラゲであり、食用に適したビゼンクラゲ,エチゼンクラゲとその近縁種とは異なるために、そのまま廃棄処理されることがほとんどであり、有効な再利用は図られていないのが実状である。【0005】一方、クラゲを原料として有効利用を図る事が、特開平6−217737号公報に開示されている。これは、クラゲを粉砕して液状化あるいは細片とした後に、pH(4.0〜8.5)と温度調節(30〜35℃)を行い、次いで析出剤又は凝集剤を添加してタンパク質を析出(凝集)した後、脱水を行い、さらに加熱乾燥させることによりクラゲの有効利用を試みると言う技術である。【0006】しかし、この様な技術においては、クラゲを粉砕あるいは細片化したのみで、有用物質の析出処理→析出物の回収を行っているだけであり、クラゲの体成分の大部分を含むタンパク質を分解・可溶化処理していないため、処理系内に体成分のうち可溶化されていない未反応部分も多く含まれてしまう。この様な未反応部分は有用物質の抽出の効率を低下させる問題がある。さらには、そのまま回収したタンパク質は飼料等として利用することは可能であるが、クラゲより有用物質を得る技術としては、必ずしも有効な技術であるとは言い難いのが実状である。【0007】このような状況下、捕獲・除去されるクラゲ類を効率よく処理し、かつ、有効な再利用を目指した付加価値の高い有用物質の抽出技術の開発が求められている。【0008】【発明が解決しようとする課題】従来のクラゲからの析出物の回収方法では、たんぱく質を分解・可溶化処理していなかったため可溶化されていない未反応部分も多く生じ、有用物質の抽出の効率を低下させ、さらには回収物も試料用のたんぱく質程度であり付加価値の低い有用物質の抽出しかできなかった。【0009】 本発明は上記問題点に鑑みてなされたもので、未反応部分を少なくして有用物質の抽出の効率向上を図り、しかもクラゲ由来の付加価値の高い有用物質を回収する水生物の有用物質の抽出方法を提供することを課題とする。【0010】【課題を解決するための手段】 本発明のクラゲのコラーゲンの抽出方法は、クラゲを破砕・細断して断片にし前記クラゲから酵素を遊離させる第1の工程と、前記断片中のタンパク質に前記酵素をpH8〜10.5の環境下で作用させ前記断片を分解・可溶化する第2の工程と、前記液状物質からコラーゲンを抽出する第3の工程とを具備することを特徴とする。【0011】 本発明の骨子は、クラゲの体内酵素をクラゲ自体のタンパク質を分解するのに使用することにある。そのために、体内酵素がタンパク質と混合された状態でpH8〜10.5とし、酵素活性可能条件に設定することで、タンパク質を分解するようにしている。【0013】 前記酵素として、アルカリプロテアーゼを使用することができる。この酵素は、クラゲの体内に存在する酵素を使用することが好ましいが、第2工程で外部から添加しても良い。特に季節変動によって、クラゲ細胞中の酵素含有率が低下している場合などには、予め抽出しておいた酵素を添加することにより処理の効率向上を図ることができる。【0015】【発明の実施の形態】 上述の目的を達成する実施形態を以下に説明する。【0016】本発明者らはクラゲ類、特に発電所や工場用取水路で除去・水揚げされるミズクラゲ等の水生物に含まれる有用物質の検索を行い、特にミズクラゲ等には体内にアルカリプロテアーゼを多量に有することを見出した。【0017】また、ミズクラゲには大量のコラーゲンが含まれており、現在、実際に利用されている天然可溶性コラーゲン、不溶性コラーゲン、および牛・豚の骨,皮等を酸,アルカリ,酵素等で分解した可溶化コラーゲン等が、2本の異種ポリペプチドさよりなるコラーゲンのサブユニット構造(α1・α1・α2)を有し、かつ、結合糖含有量が約1重量%結合したものであるのに対して、クラゲ類由来のコラーゲンは、3本の異種ポリペプチド鎖からなるラセン構造(サブユニット:α1・α2・α3)を有しており、かつ、コラーゲン中には糖が3〜5重量%以上結合しているという特徴的な構造を有し、適度な保湿性と放湿性を維持しつつ、皮膚閉塞能を有するため皮膚保水効果に優れている。本発明では、たんぱく質を分解することでこの様な質の高いコラーゲンを回収・抽出できる。【0018】さて、ミズクラゲは、一般に体成分のうち水分が95〜96%を占めているが、それ以外の成分としては、一般にはタンパク質1.7%,炭水化物0.9%,脂質0.0%,灰分2.1%程度であり、水分以外ではその殆どをタンパク質が占めている。このため、このタンパク質部分を効率よく分解することにより、ミズクラゲを容易に分解することが可能となるわけである。【0019】そこで、本発明者らは、上述のミズクラゲ体内に含まれるアルカリプロテアーゼを有効に利用することにより、ミズクラゲを効率よく分解・可溶化することにより、該プロテアーゼや前述のミズクラゲの体の構成成分であるコラーゲン等の有用物質の抽出を極めて容易にすることが可能となることを見出し、本発明の完成に至った。【0020】 本実施形態においては、まず第1の工程としてクラゲを破砕・細断することにより、クラゲの体内に局在化しているアルカリプロテアーゼを細胞内外へ遊離させることが可能となる。次に、第1の工程に続いて第2の工程として、破砕・細断したクラゲをクラゲ由来のアルカリプロテアーゼが好適に作用する条件下で処理することにより、クラゲの体成分を極めて短時間に容易に分解・可溶化することが可能となる。すなわち、第1工程でクラゲから遊離したプロテアーゼの作用により、クラゲの構造維持に関わるタンパク質を加水分解し、クラゲを分解・可溶化するわけである。さらに第2工程に続いて、第3の工程として、ミズクラゲを分解・可溶化した液体からアルカリプロテアーゼやコラーゲン等の有用物質を粗抽出する。以上三工程を具備することを特徴としている。【0021】 本実施形態の第1工程におけるミズクラゲの破砕・細断方法としては、ミズクラゲを効率よく破砕・細断可能な方法であれば如何なる方法を採用することも可能であり、例えば2軸破砕機やシュレッダー装置等を利用することが可能である。【0022】 本実施形態の第2工程は、第1工程で破砕・細断されたクラゲについて、あるいは、破砕・細断されたクラゲと水系媒体を混合し、クラゲ由来のプロテアーゼを効率よく作用させることによってクラゲを分解・可溶化するものである。本工程に於いては分解・可溶化処理における温度,pH,クラゲ負荷量をクラゲ由来のプロテアーゼ処理を好適に行える条件範囲内に制御することにより、数時間〜半日でクラゲを分解・可溶化することが可能となる。また、上記の様な分解・可溶化処理条件を制御することにより、処理終了後の可溶化処理液中に於けるアルカリプロテアーゼの活性を高いままに維持し、さらに、該処理液中のコラーゲンを損なうことなく、各々可溶化したままで第3工程である粗抽出工程へ送ることが可能となる。このため、第2工程の後段で煩雑な前処理を行うことなく、第3工程の粗抽出処理を実施することが可能となる。【0023】ここで、本発明における可溶化とは、溶媒にほぼ完全に溶解した状態を指すものであり、単に微細細片が拡散しただけで液体様になっている状態のことを指すものではない。【0024】第2工程における処理条件としては、まず、温度条件としては、20℃〜50℃の範囲で目的とする有用物質に影響を与えない条件を設定することが出来る。例えば、好ましくは25℃〜45℃、特に30℃付近27℃〜37℃が好ましい。つづいて、pH条件は、6〜12、好ましくは7〜11、特に10付近8〜10.5が好ましい。また、分解・可溶化処理槽内の反応を均一に進めるために、処理液は撹拌することが望ましい。撹拌の条件は、本発明における分解・可溶化処理を好適に行える条件であれば良く、反応槽の形状やクラゲの負荷量等により随時好適な条件で設定することが可能である。【0025】第3の工程における有用物質の粗抽出方法は、該第2工程で分解・可溶化したクラゲ可溶化液から目的の有用物質を効率良く粗抽出可能であれば、いかなる方法を用いても良く、例えば塩析,有機溶媒による沈殿法,等電点沈殿,水溶性高分子を用いた沈殿法,遠心法,限外濾過法,膜濾過法,イオン交換クラマトグラフィー,吸着クロマトグラフィー,分配クロマトグラフィー,ゲル濾過クロマトグラフィー,アフィニティークロマトグラフィー,等電点クロマトグラフィー等の方法を抽出対象や処理条件等によって適宜選択することが出来る。【0026】 本実施形態におけるクラゲ由来の有用物質の抽出方法は、以上の三工程を具備することを特徴としている。本実施形態におけるクラゲ由来の有用物質の抽出方法の工程のフローチャートを図1に示す。1は破断・細断化工程、2は分解・可溶化工程、3は有用物質粗抽出工程、4は有用物質の抽出であり、以上の工程の順番にて行う。【0027】【実施例】以下、例示的ではあるが限定的ではない実施例を説明することによって本発明をより深く理解することができる。(実施例1)図2に示すような処理装置を作製し、試験を行った。4は撹拌翼モーター、21はクラゲ破砕装置、22は分解・可溶化処理槽、23は粗抽出装置(限外濾過装置)、25は加熱装置、26は送液ポンプ、27はバルブである。水1m3を添加した内容積3m3の処理槽に、ミズクラゲ200kgを破砕・細断装置を経て破砕・細断してミズクラゲの断片を形成した後、25℃恒温下,120rpmの条件下で撹拌処理を行った。【0028】15時間後に処理液を濾過し、濾紙上の残さ重量を測定した。結果を表1に示す。ここでは、処理液についてプロテアーゼ活性を測定した。サンプリングはn=3で行い、試験は3回繰り返し実施した。この実施例によって、有用物質として酵素、即ちミズクラゲのたんぱく質を分解する酵素の一種であるアルカリプロテアーゼを遊離して抽出することができる。(比較例1)水1m3を添加した内容積3m3の処理槽に、ミズクラゲ200kgを細片化したものを添加した。これを濾過し、膜上の残さ重量を測定した。結果を表1に示す。また、濾液についてプロテアーゼ活性を測定した。結果を表1に示す。【0029】重量測定終了後、残さを濾過した処理液に戻し、硫酸アンモニウムを用いて塩析を行い、タンパク質を析出させた後、遠沈により上清と分離して回収した。これを37℃で乾燥させることにより脱水処理を行った。【0030】脱水処理後、再度該回収タンパク質を含む物質を蒸留水に懸濁し、透析処理を行った後にプロテアーゼ活性を測定した。その結果、この様にして得られたタンパク質にはプロテアーゼ活性は検出されなかった。サンプリングはn=2で行い、試験は3回繰り返し実施した。(比較例2)水1m3を添加した内容積3m3の処理槽に、ミズクラゲ200kgを細断した後添加し、オートクレーブ滅菌後25℃恒温下,120rpm条件下で振盪した。15時間後に処理液を濾過し、膜上の残さ重量を測定した。結果を表1に示す。また、処理液についてプロテアーゼ活性を測定した。結果を表1に示す。試験はn=2で行い、3回繰り返し実施した。【表1】以上の実施例1では有用物質である酵素を大幅に抽出することが出来る。つまり、従来水生物を破断するだけでも多少の酵素を取り出すことは出来たが、取り出した酵素を本実施例のように酵素が作用する最適条件に設定して海生物の組織、例えば細胞に直接作用させタンパク質を分解して水生物の細胞を壊すことで、細胞内に閉じこめられていた酵素を大量に放出させることができためと考えられる。(実施例2)以下の実施例の説明では、実施例1と同一工程あるいは同一条件、同一装置の説明等については説明の重複を避けた。【0031】本実施例では、酵素を作用させるpH条件を変え、より最適な条件を探索した。実施例1の処理液のプロテアーゼ活性を、異なるpH条件下で測定した。それ以外は実施例1と同様にして海生物から有用物の回収を図った。測定結果を図3に示す。【0032】図中30は100mMリン酸緩衝液を使用した場合、31は50mMホウ酸塩化カリウム緩衝液を使用した場合、32は100mMグリシン塩化ナトリウム水酸化ナトリウム緩衝液を使用した場合である。【0033】試験はn=2で行い、3回繰り返し実施した。(実施例3)この実施例3は酵素を活性化させる条件として温度を種々変えて、最もタンパク質を分解させる効率の高い温度条件を探索した。そして、望ましい温度条件によって第2工程を実施した以外は、実施例1と同様に行った。温度の設定については、ヒーター25を使用した。【0034】分解・可溶化処理時の温度を25℃,35℃,45℃,55℃および65℃の5つの温度設定で行った以外は、実施例1と同様の振盪処理を行った。振盪処理後、各々の処理液のプロテアーゼ活性を測定した。結果を図4に示す。【0035】サンプリングはn=5で行い、試験は3回繰り返し実施した。(実施例4)実施例4は実施例1で抽出した最終処理液から抽出する有用物の種類をコラーゲンとした実施例である。その点以外は実施例1と同一である。【0036】滅菌蒸留水100mLを添加した内容積500mLの三角フラスコに、クラゲ20gを破砕したものを添加し、35℃条件下120rpm条件下で5時間振盪した。【0037】その結果、クラゲは分解・可溶化された。この可溶化処理液50mLを限外濾過膜を用いて分画分子量3×105で分画した濾液をさらに限外濾過膜により分画分子量1×104することによりコラーゲンの粗抽出を行った。限外濾過後のサンプルからコラーゲンの抽出を試みた結果、最大でクラゲ質重量の3重量%程度のコラーゲンを抽出することが可能であった。抽出スキームを図4に示す。(比較例3)クラゲ10gから常法によりコラーゲンの抽出を行った。その結果、最大でクラゲ重量の2.8重量%程度のコラーゲンを抽出された。抽出スキームを図5に示す。50は比較例5におけるコラーゲンの抽出処理のフローチャートを示すもので、51は洗浄工程、52は脱脂工程、53はペプシンによる消化工程、54は塩析工程、55は緩衝液を使用した透析工程、56は酢酸を使用した透析工程である。また、60は実施例5におけるコラーゲンの抽出処理のフローチャートを示すもので、61は脱脂工程、62はペプシンによる消化工程、63は塩析工程、64は緩衝液を使用した透析工程、65は酢酸を使用した透析工程を夫々示している。【0038】 実施例1と比較例1,比較例2の結果、および、実施例4と比較例3の結果より、クラゲ由来の有用物質の抽出方法を用いれば、クラゲ由来のプロテアーゼを効率よく活用することにより、従来提案されてた技術に比べ、効率よくクラゲ有用物質を粗抽出することが可能となることを容易に理解できる。また、実施例2,3の結果より、本発明の好適な処理条件範囲を容易に理解することができる。【0039】【発明の効果】 以上説明したように、本発明によれば未反応部分を少なくして有用物質の抽出の効率向上ができ、しかもクラゲ由来の付加価値の高い有用物質を回収できる。【図面の簡単な説明】【図1】本発明におけるクラゲ由来の有用物質の抽出法の工程を示すフローチャート【図2】本発明の実施例1に用いた試験装置の模式図【図3】本発明の実施例2における好適な結果を示すグラフ【図4】本発明の実施例3における好適な結果を示すグラフ【図5】本発明の実施例5と比較例4におけるコラーゲンの抽出処理のフローチャート【符号の説明】4 撹拌翼モーター21 クラゲ破砕装置22 分解・可溶化処理槽23 粗抽出装置(限外濾過装置)25 加熱装置26 送液ポンプ27 バルブ クラゲを破砕・細断して断片にし前記クラゲから酵素を遊離させる第1の工程と、前記断片中のタンパク質に前記酵素をpH8〜10.5の環境下で作用させ前記断片を分解・可溶化する第2の工程と、前記液状物質からコラーゲンを抽出する第3の工程とを具備することを特徴とするクラゲのコラーゲンの抽出方法。 前記酵素がアルカリプロテアーゼであることを特徴とする請求項1に記載のクラゲのコラーゲンの抽出方法。


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