タイトル: | 特許公報(B2)_二酸化炭素固定用の微細藻 |
出願番号: | 1999344586 |
年次: | 2006 |
IPC分類: | C12N 1/12,C02F 3/32,C02F 103/18 |
森田 仁彦 渡部 良朋 JP 3757325 特許公報(B2) 20060113 1999344586 19991203 二酸化炭素固定用の微細藻 財団法人電力中央研究所 000173809 萼 経夫 100068618 中村 壽夫 100093193 森田 仁彦 渡部 良朋 20060322 C12N 1/12 20060101AFI20060302BHJP C02F 3/32 20060101ALI20060302BHJP C02F 103/18 20060101ALN20060302BHJP JPC12N1/12 AC12N1/12 CC02F3/32C02F3/32C02F103:18 C12N 1/12 C02F 3/00 - 3/34 JSTPlus(JOIS) 特開2000−078966(JP,A) Stud Surf Sci Catal,1998年,Vol.114,p.641-644 エバラ時報,1998年,No.179,p.14-20 化学工学会年会研究発表講演要旨集,1998年,Vol.63,p.90 化学工学会年会研究発表講演要旨集,1998年,Vol.63,p.91 電力中央研究所我孫子研究所報告,1999年 5月,No.U98051,p.i-22 4 FERM P-18160 2001161347 20010619 15 20020402 上條 肇 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は二酸化炭素固定用の微細藻に関し、より詳しくは火力発電所などにおける各種化石燃料燃焼排ガス中の二酸化炭素を固定するために使用でき、人間活動に由来する温室効果ガスの放出削減に寄与し得る微細藻およびその培養方法に関するものである。【0002】【従来の技術】微細藻類は、主に単細胞からなる光合成を行う下等植物の総称である。微細藻類の種類は多様であり、様々な可能性を秘めているが、火力発電所等の化石燃料排ガス中の二酸化炭素(CO2 )を固定するために、産業レベルで用いられている例はほとんどない。過去において、徳川生物研究所が都市ガスを燃焼した排ガスで微細藻を培養した研究例はあるが、固定されるCO2 量が少なく、しかも燃料費が嵩みすぎ、産業化には至らなかった。微細藻類の利用という観点では、現在、クロレラやスピルリナが健康食品として、ドナリエラがβ−カロチン生産を目的として、産業化されている。ただし、それらの培養の炭素源には主に酢酸や無機炭酸塩を使用しており、排ガス中のCO2 を用いてはいない。このような状況を考慮して、本願出願人は、火力発電所等における化石燃料燃焼排ガス中のCO2 を固定するために用い得る微細藻を単離し、先に出願した(特開平5−304945号公報)。該公報には、排ガス中のCO2 を固定化したCO2 固定産物を飼料や工業用SCP(Single Cell Protein ,微生物タンパク質)として利用することも開示されている。しかしながら、この微細藻は、夏季の強光や、高温の条件下、または石炭および石油火力発電所排ガスと同等の比較的高いNOX (窒素酸化物,ノックス)濃度またはSOX (硫黄酸化物,ソックス)濃度の条件下では安定には生育し得ず、適用場面が限定的であるという問題があった。そこで、夏季の強光や高温条件下、または石炭や石油を燃料とする火力発電所からの排ガス中と同等のSOX およびNOX 濃度下でも安定に生育し得る微細藻類に対する強い要望がある。【0003】【発明が解決しようとする課題】火力発電所などから多量に排出される化石燃料燃焼ガス由来のCO2 を、微細藻類のCO2 固定能を利用して産業的に固定化するためには、排ガスを培養槽に直接導入した条件でも効率的に機能する微細藻類を用いることが重要な鍵となる。ここで、上記微細藻類は火力発電所等における各種化石燃料の燃焼に由来する排ガス中と同等であるCO2 濃度、NOX 濃度、SOX 濃度条件下でも生育可能である必要がある。また、微細藻類の培養は屋外において日光を利用して行うことがコスト低減の面で有利であるが、屋外で培養する際に、夏季の強い日射条件下で培養液温度が過度に上昇した場合でも、高い生産性を維持することが、冷却負荷軽減の点で極めて重要となる。そこで、本発明は、火力発電所等における各種化石燃料排ガスと同等であるCO2 濃度、NOX 濃度およびSOX 濃度や、夏季の強光および高温条件下でも生育可能である微細藻およびその培養方法の提供を課題としてなされたものである。【0004】【課題を解決するための手段】本発明者は、種々研究を重ねた結果、比較的高濃度のCO2 、NOX およびSOX に耐性を持ち、しかも高い光強度や高温においても、安定に生育し得る微細藻を分離・純化し、火力発電所からの排ガスを模擬したガスを通気した培養においても、該微細藻はCO2 固定能の低下がほとんどなく十分に増殖することを見いだし、さらに、鋭意検討を重ね、本発明を完成した。【0005】すなわち、本発明は、200ppmまでのNOX 濃度、50ppmまでのSOX 濃度、1000〜2000μmol・m-2・s-1の光強度および35〜49℃の温度からなる群から選択される少なくとも一つの条件と、5〜20容量%のCO2 濃度の条件の下で生育可能である微細藻に関する。本発明におけるNOX 、SOX およびCO2 の各濃度は、培養の際に曝気する気体中の乾燥ガスを基準とした場合の数値である。200ppmまでのNOX 、50ppmまでのSOX および/または5〜20容量%のCO2 を含有する気体を曝気しても生育可能である本発明の微細藻は、火力発電所などにおける各種化石燃料燃焼排ガスを直接培養槽に曝気して培養できることを意味する。なお、NOX はNO、NO2 等の窒素酸化物の総称であり、SOX はSO2 、SO4 2-、S2 O、SO等の硫黄酸化物の総称であるが、火力発電所などの排ガス中のNOX およびSOX の主成分はそれぞれNOおよびSO2 である。また、本発明における光強度は培養槽受光部上部ないしは培養液表面での平均光強度である。1000〜2000μmol・m-2・s-1の光強度でも生育可能である本発明の微細藻は、日本における夏季の南中時の日光をそのまま照射しても、増殖し得ることを意味する。さらに、35〜49℃という培養温度では従来公知のほとんどの微細藻は生育できないが、このような高温領域で生育可能である本発明の微細藻は、上記の強い光の下での培養により培養液の温度が上昇しても、強制的に外部から冷却する必要がない。すなわち、本発明の微細藻は培養時の冷却負荷軽減を可能とするものである。なお、本発明において「生育可能である」とは通常の大気通気条件下での生育に近い状態もしくはそれと同等に生育するか、またはそれ以上に生育することを意味する。また、本発明の微細藻を培養する培養液のpHを当該微細藻に適した範囲、通常4〜7、特に6付近に保持することが好ましいことはいうまでもない。特に、SOX 含有の空気を曝気する場合、培養液は酸性となる傾向があるので、培養液のpHを4〜7、特に6付近に調整することが必要である。【0006】 本発明者はさまざまな採取地からの温泉水や土壌などを分離源とし、高温条件下で生育可能であるクロレラの新規な株を純粋分離し、該株が高いCO2 、NOX またはSOX 濃度、または高い光強度の条件下で安定に生育可能であることを見出し、該株を既知のクロレラの18SリボソームRNA遺伝子配列との相同性の比較、および透過型電子顕微鏡による形態観察等の総合的な見地から、クロレラ・ソロキニアーナ(Chlorella sorokiniana )であると判断した。そして上記株はHO−1株と命名した。なお、クロレラ・ソロキニアーナHO−1株は独立行政法人産業技術総合研究所 特許微生物寄託センターに受託番号 FERM P−18160として寄託されている。【0007】本発明の上記微細藻はCO2 以外に酢酸や炭酸塩などの特別な炭素源なしで生育可能であることから、CO2 を固定・資化し得るものである。従って、本発明は、CO2 濃度5〜20容量%の気体を本発明に係る微細藻の培養液に曝気することからなる微細藻の培養方法に関する。この方法において、曝気する気体としては、例えば化石燃料を燃焼させた場合に発生する種々の排ガスなどでよく、特に火力発電所排ガスなどがある。また、本発明の微細藻は通常の培養槽で培養しても何ら問題ないが、生育の際に光合成を行うものであるので、該光合成がより高い効率で行われ得ることを可能にするために、培養槽として無色透明のチューブ、例えばプラスチックチューブまたはガラスチューブを螺旋状に巻回してなる培養槽(以下において螺旋状チューブラーリアクターとも記載する)を用いることが好ましい手段である。螺旋状チューブラーリアクターはチューブを円柱型に巻回したものでもよいが、円錐型に巻回すると光がリアクター全体にまんべんなく照射され、好ましい。【0008】通常、微細藻類はその藻体を構成する物質の約半分がタンパク質であり、工業用タンパク質もしくはその原料として、または高栄養の飼料として十分利用可能である。そこで、本発明の微細藻の二酸化炭素固定産物である微細藻体に含まれるタンパク質含量もまた、乾物重の約半分であることが予測される。従って、本発明の微細藻が高栄養の飼料または工業用タンパク質(またはその原料)として使用し得る可能性は十分に高い。【0009】【発明の実施の形態】本発明の微細藻の一種であるHO−1株を平型培養瓶中、CO2 濃度を10または15%として培養したところいずれも活発な増殖を示した。この際の最適温度は35℃であったが、40℃でも良好な増殖を示し、さらに45℃まで短時間であれば増殖可能であり、最適なpH値は約6.0であった。10%CO2 富化空気に100ppmNOおよび25ppmSO2 のいずれか、または両方を混合して通気しても、10%CO2 富化空気のみの場合と同等の最大比増殖速度および最終到達藻体密度が得られた。また、本発明の微細藻の一種であるHO−1株を塩化ビニルチューブを円錐型に巻回してなる螺旋状チューブラーリアクター中、日本の標準的な日射量条件(約980μmol・m-2・s-1)を模擬した室内培養により、最大34.2g乾物/m2 設置面積/日の生産性を達成し、光合成効率は8.64%と極めて高かった。さらに、夏季の最も強い光条件(約1700μmol・m-2・s-1)を模擬した室内培養(培養液の最高温度46.5℃)によっても、良好な生産性を示し、そして48.7℃での増殖を確認した。また、10%CO2 富化空気に100ppmNOおよび25ppmSO2 の一方または両方を混合して通気し、上記標準的な日射量条件を模擬した室内培養を行った場合も、本発明の微細藻は生産性および光合成効率共に高い値を維持した。これらのことから、本発明の微細藻は、SOX を含まないLNG火力発電所の排ガスだけでなく、SOX を含む石炭および石油火力発電所の排ガス中のCO2 固定に適用可能であり、また、高温強光下でも極めて高い光合成生産性を示すことから、夏季の屋外での培養および冷却負荷軽減に大きな利点を有していることが明らかである。【0010】【実施例】以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例1 微細藻の分離および分類(微細藻の分離)高温条件下で生育する微細藻類の自然界からの分離を以下の方法に従って行った。分離源として神奈川県箱根町から採取した温泉水または土壌(全部で8種類)を用いた。試料が液体の場合は1ml、土壌の場合は湿重量で1gを、MBM液体培地(表1)15mlを入れた試験管に接種し、温度40℃で4週間の静置前培養を行った。白色蛍光灯を光源として連続照射を行い、光強度条件は30μmol・m-2・s-1とした。前培養終了後の試料を用い、同じ光条件下、10%CO2 富化空気を使用して、温度40℃で5日間の集積培養を行った。集積培養において微細藻類の生育が確認された試料を滅菌水で順次希釈し、各希釈液をMBM寒天培地(上記MBM液体培地に1.5%寒天を添加したもの)に塗布し、温度26℃で2週間の培養を行った。光照射は白色蛍光灯を光源として、明暗周期12時間毎(12時間明条件)で、明時の光強度を120μmol・m-2・s-1として培養を行った。コロニー形成後、単一コロニーを分離し、MBM斜面寒天培地で植え継ぎ、これを分離株とした。なお、分離株にはバクテリアの混入がないことを確認した。(脚注)*A−5溶液の組成は以下のとおりである:H3 BO3 286mgMnSO4 ・7H2 O 250mgZnSO4 ・7H2 O 22.2mgCuSO4 ・5H2 O 7.9mgNa2 MoO4 2.1mg蒸留水 1リットル上記の操作の結果、8種の採取試料のうち、2試料から藻類が単離され、そのうちの増殖のより高かった分離株をHO−1株と命名し、以下の実験に使用することとした。なお、HO−1株の分離源となった試料は神奈川県箱根町の大涌谷の鉄鉱泉の温泉水であり、温度は43℃(原水温度63℃)、pH7.28であった。光学顕微鏡による上記分離株の形態を観察した結果、属レベルではクロレラ属であることが判明した。ただし、光学顕微鏡による形態観察では種レベルの同定は不可能であるため、次に透過型電子顕微鏡による形態観察と18S r−RNA遺伝子配列の解析を行い、分離株の種レベルでの同定を試みた。(電子顕微鏡観察)分離株の透過型電子顕微鏡による形態観察を以下の方法に従って行った。前固定は0.05Mリン酸緩衝液中の2%グルタルアルデヒドを用いて、pH7.0、温度4℃で2時間行った。後固定は0.05Mリン酸緩衝液中の2%四酸化オスミウムを用い、pH7.0、温度4℃で2時間行った。アセトン系列で脱水後、Spurr樹脂を用いて包埋を行った。超薄切片作製後、4%酢酸ウラニルを用いて室温、遮光下で15分間染色し水洗した。さらに、0.4%クエン酸鉛を用いて室温で15分間の染色を行った。水洗後、透過型電子顕微鏡を用いて加速電圧80kVで分離株の写真撮影を行った。得られた写真を図1に示した。細胞形状は球状で、大きさは直径3〜8μm程度であった。(リボソームRNAの塩基配列決定)分離株の18S r−RNA遺伝子配列の決定を以下の方法に従って行った。まず、分離株からゲノムDNAを単離するため、ベンジルクロライドによるDNA抽出をISOPLANTキット(ニッポンジーン製)を用いて行った。単離したゲノムDNAを鋳型として、ExTaqDNAポリメラーゼ(宝酒造製)でゲノムDNAのPCRを行った。既知のクロレラの18S r−RNA遺伝子を考慮し、PCRのプライマーとして以下の2種類: F5'-aacctggttgatcctgccagtagtc-3'R5'-ttgatccttctgcaggttcacctac-3'を用いた。PCR増幅断片を電気泳動により確認した後、遺伝子断片をpGEM−Tベクター(Promega 製)にライゲーションした。ベクターの宿主には大腸菌JM109株を用いた。クローニング後、18S r−RNA遺伝子配列を持ったプラスミドを、Plasmid Miniprepキット(Bio-Rad 製)によって調製した。調製後の試料の配列決定をシーケンサーを用いて行った。その結果、分離株の18S r−RNA遺伝子配列は1797bpであり、GC含量は49.75mol%であった。既知のクロレラの18S r−RNA遺伝子配列とホモロジー検索を行ったところ、クロレラ・ソロキニアーナ(Chlorella sorokiniana )との相同性が99.7%、クロレラ・ブルガリス(Chlorella vulgaris)との相同性が99.5%、クロレラ・ケッスレリ(Chlorella kessleri)との相同性が97.9%、クロレラ・サッカロフィラ(Chlorella saccharophila )との相同性が94.6%であった。透過型電子顕微鏡による形態観察および既知のクロレラの18S r−RNA遺伝子配列との相同性の比較の結果、上記分離株(HO−1株)はクロレラ・ソロキニアーナに属するものであると判断した。【0011】実施例2 微細藻分離株の培養特性(実験方法)分離したクロレラの培養特性を平型培養瓶を用いて3日間の回分培養を行い、CO2 濃度、培養液の温度および初期pHが藻体の増殖に及ぼす影響を調べた。また、NOとSO2 の藻体増殖への影響は、10%CO2 条件下、温度35℃で検討した。NOおよびSO2 の通気は明条件のみ行った。培養液に通気したCO2 、NO、SO2 の濃度設定は、以下の観点から行った。化石燃料燃焼プラントからの排ガスに関して、NOX およびSOX については大気汚染防止法に基づき国の排出基準が設定されているが、実際、石炭、重原油、LNG火力発電所排ガス中に含まれるCO2 濃度(乾燥ガスベース)は9.0〜14.4%、NOX 濃度(石炭火力O2 =6%,重原油火力O2 =4%,LNG火力O2 =5%)は6〜198ppm(排ガス中のNOX の主要な成分はNOである)、SOX の主成分であるSO2 濃度(乾燥ガスベース)は8〜220ppmとそれぞれのプラントによって大きく異なっている。排出基準値に関しては、さらに、県や市町村と排出基準協定が結ばれている場合もあり、新しい発電所については現実的に国の排出基準の半分以下に排出が抑制されている場合が多い。以上のことを考慮して、本実施例では空気に富化するCO2 、NO、SO2 の濃度を、それぞれ10%、100ppm、25ppmと設定した。光照射は白色蛍光灯を光源として、明暗周期12時間毎、120μmol・m-2・s-1の光強度で培養を行った。初期藻体接種濃度は0.05g乾燥重量・L-1とし、100mlのMBM液体培地を用いて通気量40ml・min-1で培養した。藻体の乾燥重量と培養液のpHを測定するために、12時間毎にサンプリングを行い分析に供した。藻体の乾燥重量は、分光光度計を用いて、クロロフィルムの吸収のない波長750nmにおける吸光度を測定して求めた。すなわち、予め作成した藻体の乾燥重量と波長750nmにおける吸光度との検量線から、以下の換算式を用いて算出した:乾燥重量(g・L-1)=0.362×OD750 (OD750 <0.3)(CO2 濃度,培養液の温度,初期pHの影響)CO2 濃度、培養液の温度および初期pHが藻体の増殖に及ぼす影響を図2に示した(グラフ中の縦線は標準誤差を示す)。5%CO2 濃度が藻体の増殖にとって最適な条件であったが、10%または15%のCO2 濃度条件下でも活発な増殖を示し、最大比増殖速度が若干低下した程度であった。このように、実施例1で分離したクロレラ(HO−1株)はCO2 濃度に関しては問題なく排ガスに対応できる、すなわち排ガス中のCO2 を固定化し得るものであった。培養液の温度に関しては35℃が最適な条件であったが、最大比増殖速度は40℃、42℃および45℃でも高い値を示した。表2に示すように、3日間の回分培養終了後の藻体密度(最終到達藻体密度)についても同様の結果を示した。これまで温度40℃で増殖するクロレラ株が報告されているが、この株は増殖開始までに5日間の誘導期が存在しており(Phytochemistry, 31, 3345-3348, 1992 )、それと比較して今回分離したHO−1株には、培養液の温度が40℃の条件下においても、増殖開始までの誘導期間は生じていなかった。このような高温条件でも速やかに増殖を開始することは、本発明の分離株の長所である。また、本発明の分離株は上記のように温度45℃の条件下でも増殖が確認されており、このHO−1株を屋外で培養する際に、冷却を行わなくても培養できる可能性が極めて高く、この性質は屋外生産を考慮した場合、高い価値を有している。培養液の初期pHについては、pH6.0が最適値であった。初期pHが4.0から7.0の範囲では、増殖に対して大きな影響は及ぼさなかった一方、pH3.0では増殖は著しい阻害を受けた。(NO,SO2 の影響)10%CO2 富化空気にNOおよびSO2 の一方または両方を添加し、HO−1株を用いて3日間の回分培養を行った時の、最大比増殖速度と最終到達藻体密度を調べた。結果を表3に示す。10%CO2 のみの場合をコントロールとして用いた。100ppmのNOを添加した場合、最大比増殖速度および最終到達藻体密度はコントロールと同程度のレベルであり、同じような藻体密度の経時変化がみられた。この結果から、このクロレラHO−1株はNOに対して耐性を有していることが判明した。25ppmのSO2 を添加した場合、コントロールと比較して、最大比増殖速度と最終到達藻体密度は同じ程度の値であった。次に、藻体が存在する場合と存在しない場合において、培養液のpH変化に及ぼすSO2 の影響を調べ、培養液のpHの経時変化を図3に示した。藻体が存在しない場合、10%CO2 富化空気を通気すると、通気後30分で培養液のpHは6.0から5.0に低下し、その後pH5.0周辺の値を保った。それに対して、SO2 を添加した場合では、培養液のpHは6.0から3.0に急激に低下した。一方、藻体が存在している場合、25ppmのSO2 を通気すると、通気後30分で培養液のpHは6.0から5.0に低下したが、その後は時間と共にpHは上昇し、60時間後には6.0を越えた。培養液のpHが3.0ではクロレラHO−1株は増殖できないことから、25ppmのSO2 を通気した際に藻体の増殖がみられたのは、初期にpH5.0まで低下した後、培養液のpHの低下を防ぐことができたためと予測される。このため、SO2 を通気した場合、培養液のpHを6.0周辺に保持することが、藻体の安定した増殖にとって必要条件であることがわかった。さらに、100ppmのNOと25ppmのSO2 を同時に通気した場合、表3に示すように、最大比増殖速度および最終到達藻体密度はコントロールと同程度の値を得ることができ、良好な増殖を示した。この場合の培養液のpHは6.0周辺の値を保っていた。以上の結果から、本発明の微細藻であるクロレラHO−1株を培養するために曝気する気体として、SO2 を含まないLNG火力発電所からの排ガスだけでなく、SO2 を含む石炭および石油火力発電所からの排ガスを使用できることが明らかである。【0012】実施例3 螺旋状チューブラーリアクターを用いた分離株の培養(実験方法)分離株(HO−1株)の光合成生産性を調べるために螺旋状チューブラーリアクターを用いて検討を行った。螺旋状チューブラーリアクターの概要を図4に示す。該リアクターは、円錐型の螺旋状チューブラー受光部1と、光源としてのメタルハライドランプ5と、曝気する気体を供給するためのガス供給系7,8,9から概略構成される。受光部1上部からオーバーフローした培養液は、連結用チューブ2を介してガス抜き槽4に到り、ここで気体は排出される。培養液はさらに、別の連結用チューブ2を介して熱交換槽3に到り、冷却された後、連結用チューブ2を介して受光部1下部へ戻される。図中10は投込み式クーラーを示す。メタルハライドランプ5は受光部1上方に3個配置してあり、それぞれがタイマー6により照射時間および時期が制御されている。ガス供給系はエアーポンプ7、CO2 ガスボンベ8および図示しないがSOX (SO2 等)やNOX (NO等)用のガスボンベとそれぞれの流量を制御する流量計9からなる。チューブラー受光部1は内径16mm、外径20mmの塩化ビニルチューブを、その頂点の角度が約60°の円錐型で螺旋状に巻回してなる。チューブラー受光部1の上部aの直径は80cmで設置面積が0.5m2 の大きさであり、受光部の表面積は1.0m2 である。メタルハライドランプ5としては250Wと400Wの2種類のタイプを使用した。光強度は光合成光量子束密度(Photosynthetic Photon Flux Density: PPFD,単位はμmol・m-2・s-1,400〜700nmの波長の光)によって表し、受光部上部と受光部表面での平均光強度は、それぞれ光量子計を用いた120および248ポイントの測定により決定した。250Wのメタルハライドランプの場合、受光部上部での平均光強度の測定結果は980μmol・m-2・s-1であり、この値はわが国中央地域の4月から9月の平均日射量条件に相当する。一方、400Wのメタルハライドランプの場合、受光部上部での平均光強度の測定結果は1737μmol・m-2・s-1であった。この値は250Wのメタルハライドランプの場合の約2倍であり、日本における夏季の南中時の光条件に匹敵する。まず最初に、さまざまな通気速度条件において、10%CO2 富化空気を用いて6日間の回分培養を行った。また、NOおよびSO2 が藻体の光合成生産性に及ぼす影響を、同じ10%CO2 条件下で検討した。NOおよびSO2 の通気は明条件のみ行った。さらに、400Wのメタルハライドランプを用いて、強い光が光合成生産性に及ぼす影響を調べた。各実験において初期藻体接種濃度は0.4g乾燥重量・L-1とし、14LのM4N液体培地(表4)を用いて明暗周期12時間毎に回分培養を行った。藻体の乾燥重量を測定するために、12時間毎にサンプリングを行い分析に供した。ここで藻体の乾燥重量の測定は実施例2と同様に行った。(脚注)*A−5溶液の組成は表1に示したものと同様である。回分培養終了後、培養液を8000rpm、25℃、15分間の条件で遠心分離し、藻体を回収した。集めた藻体を105℃で24時間乾燥させ、乾燥藻体を乳鉢と乳棒を用いて粉砕し、藻体の炭素含量の分析に用いた。藻体の炭素含量測定はCHNS/Oアナライザ(パーキン−エルマーアプライドバイオシステムズ社製)を用いて行った。(分離藻株の光合成生産性)10%富化空気の通気速度を変えて、螺旋状チューブラーリアクターで250Wのメタルハライドランプを光源として用いて回分培養を行い、その結果から、各々の場合における12時間の明条件での光合成生産性を検討し、それぞれの通気速度に対する12時間あたりの最大光合成生産性を求めた。12時間の明条件での最大光合成生産性に及ぼす通気速度の影響を図5に示す。クロレラHO−1株は0.6〜5.0L・min-1までの幅広い通気速度の範囲において、高い光合成生産性を示した。本クロレラは通気速度1.8〜3.0L・min-1が最適な範囲であり、そこで以下の実験において通気速度を1.8L・min-1として検討を行った。螺旋状チューブラーリアクターを用いて、分離株の光合成生産性に及ぼす影響を検討した結果を表5にまとめた(光源は250Wのメタルハライドランプを使用した)。10%CO2 富化空気を通した場合、設置面積あたりの最大光合成生産性は34.2g乾燥重量・m-2・day-1であった。該富化空気に100ppmのNOを添加した場合も、同様の光合成生産性を得ることができた。100ppmのNOと25ppmのSO2 を10%CO2 富化空気に加えた際には、光合成生産性は10%CO2 富化空気のみの場合に比べ若干低くはなったものの、31.9g乾燥重量・m-2・day-1と十分に高い値を示した。熱交換槽での冷却操作を削減する観点から、今回の実験では培養液の冷却を行わなかったが、いずれの場合においても良好に増殖し、高い光合成生産性を得ることができた。実施例2に示したとおり、HO−1株の最適温度は35℃であったが、培養液の最高温度が42℃に達したにもかかわらず、活発な増殖を示した。12時間の照射時間のうち6時間程度、培養液の温度は40℃を越えていたにもかかわらず、活発な増殖を示したことは、本発明の微細藻の十分な高温耐性を証明している。今回分離されたHO−1株の生産性を他の培養システムと比較する。これまでには以下のような生産性が報告されている。パネル式リアクターを用いてスピルリナをイタリアで培養した際の24g乾燥重量・m-2・day-1(Journal of Applied Phycology, 4, 221-231, 1992);6月のイタリアで二槽式チューブラーリアクターを用いてスピルリナを培養した際の27.8g乾燥重量・m-2・day-1(Biotechnology and Bioengineering, 42, 891-898, 1993 );ハワイの強光条件下で、屋外開放地を用いてテトラセルミスを培養した際の10.5g炭素重量・m-2・day-1(Biotechnology and Bioengineering, 37, 936-947, 1991 );イスラエルで屋外培養池を用いてスピルリナを培養した際の20.8g乾燥重量・m-2・day-1(Plant, Cell and Environment, 15, 613-616, 1992)等である。螺旋状チューブラーリアクターを用いてHO−1株を培養して得た光合成生産性は、他の培養システムと比較して高い値であることがわかる(表5参照)。なお、今回得られた値は10%CO2 富化空気を通気した場合のクロレラHA−1株(特開平5−304945号公報参照)の28.1g乾燥重量・m-2・day-1という値をも上回った。光エネルギーの利用効率を把握するには、光合成効率を調べる必要がある。光合成効率は、受光部で受けた光合成有効放射量(Photosynthetic Active Radiation, PAR)基準の光エネルギーに対する、増加した分の藻体のエネルギーの割合と定義される。そこで上の実験で得られた結果から次のようにして最大光合成効率を算出した:(a)まず、リアクターあたりの受光エネルギーを、リアクター受光部の表面積と受光部表面での光強度との積から算出し〔ここで受光エネルギーは単位W・m-2として算出するが、この場合W・m-2からμmol・m-2・s-1に変換する時の4.6(メタルハライドランプの場合)という変換係数を利用する。受光部表面(円錐型)での平均光強度の測定値:484μmol・m-2・s-1,光照射サイクルは12h・day-1〕、4571kJ・リアクター-1・day-1の値を得る。(b)一方、藻体の炭素含量の測定の結果、藻体は48.1%の炭素を含んでおり、炭素含量あたりのバイオマスエネルギー量は47.7kJ・g-1炭素重量であるため、藻体重量あたりのバイオマスエネルギー量は22.9kJ・g-1乾燥重量となる。この値を利用して、増加した分の藻体エネルギーの算出を行う。(c)上記bで得られた値を上記aで得られた値で除し、それを百分率とすることにより、最大光合成効率を算出する。その結果、10%CO2 富化空気を通気した場合、最大光合成効率は8.64%(PAR)と極めて高い値を示した。100ppmのNOを添加した場合、最大光合成効率は8.51%(PAR)となり、10%CO2 富化空気を通気した場合と同程度の値を得ることができた。100ppmのNOと25ppmのSO2 を10%CO2 富化空気に加えた際には、最大光合成効率は若干低くなったが、それでも8.05%(PAR)と高い値を示した。このようにCO2 、NO、SO2 の混合ガス条件下においても光合成効率は8%(PAR)以上であった。今回得られたHO−1株の光合成効率はイタリアでスピルリナを培養した際の6.6%(PAR)(Biotechnology and Bioengineering, 42, 891-898, 1993 )やハワイでテトラセルミスを培養した際の4.7%(PAR)(Biotechnology and Bioengineering, 37, 936-947, 1991 )を上回り、極めて高い値であった。なお、螺旋状チューブラーリアクターでクロレラHA−1株を培養した際の光合成効率は6.79%(PAR)であり、本発明はこれをもさらに上回ったものである。以上のことから、本発明の微細藻は高い光合成生産性を持つことがわかり、またLNG、石炭および石油火力発電所からの排ガスを螺旋状チューブラーリアクターに直接導入しても微細藻が培養され得ることが明らかとなった。〔表5〕250Wメタルハライドランプを用いた螺旋状チューブラーリアクター(強光条件下での培養特性)屋外では夏季において太陽光が強くなるため、メタルハライドランプを250Wから400Wに交換して日本における夏季の晴天南中時の光条件を設定し、螺旋状チューブラーリアクターを用いて10%CO2 富化空気を通気して回分培養を行った。12時間の明条件における培養液の最高温度を調整するために、熱交換槽において冷却装置を用いた。いずれの条件においても、光照射開始後、培養液の温度は1時間で急激に上昇し、その後5時間の間、温度は徐々に上昇し、最高温度付近の値を約6時間程度保持した。光合成生産性に及ぼす培養液の最高温度の影響を図6に示した。最大光合成生産性は、最高温度38.0℃の時に得られた。培養液の最高温度が46.5℃までは、光合成生産性は最高温度の増加と共に徐々に減少した。それ以上の温度では光合成生産性は著しく低下した。最高温度が49.7℃に達した場合、このクロレラは生存することができなかったが、48.7℃においては生存でき、しかも増殖を示した。強光条件において、螺旋状チューブラーリアクターを用いた藻体の光合成生産能力を表6にまとめた。比較のために、250Wのメタルハライドランプを用いて、10%CO2 富化空気を通気して回分培養を行った時の結果を示した。光強度の測定の結果、受光部表面(円錐型)での平均光強度は889μmol・m-2・s-1であったので、リアクターあたりの受光エネルギーは8391kJリアクター-1day-1(光照射サイクルは12h・day-1)となった。最大生産量は最高温度38.0℃の時で、設置面積あたりの光合成生産性は49.9g乾燥重量m-2・day-1であった。この値をバイオマスとしての回収エネルギーに変換すると、576kJリアクター-1day-1(光照射サイクルは12h・day-1)となった。その結果、夏季の晴天南中時の光条件における最大光合成効率は6.87%(PAR)であった。日本の平均的な日射量条件(受光部表面での光強度が484μmol・m-2・s-1の時)で得られた光合成効率よりは低かったが、それでも7%弱と高い値を示した。このように強光、高温条件下で高い生産性を達成することができたことは、本発明の微細藻の屋外での培養を考慮した場合、極めて好ましい。本実験では12時間連続して強光を照射し続けたが、実際の屋外環境下では、強光条件の下で高い光エネルギーが照射され培養液の温度が高くなるのはもっと短時間である。従って、本発明の微細藻を屋外で培養した場合、夏季における冷却負荷軽減が可能であることが明らかである。【0013】【発明の効果】以上詳細に記載したように、本発明の二酸化炭素固定用の微細藻は、高いCO2 濃度、NOX 濃度、SOX 濃度の条件下で生育可能であることから、各種化石燃料燃焼排ガスを直接培養装置に導入しても、該排ガス中の二酸化炭素を固定し、増殖することが可能である。また、夏季の強光、高温条件下においても、本発明の微細藻は活発に生育可能であり、冷却負荷の軽減を図ることができる。さらに、本発明の微細藻によるCO2 固定産物はタンパク含量が高く、家畜の飼料や工業用タンパク質の原料として有効利用することができると考えられるため、廃棄物(排ガス中のCO2 )の有効利用が可能となり、ひいては飼料穀物増産のための森林の耕地化に歯止めをかけることができ、熱帯林の破壊・砂漠化の防止などが図られるだけでなく、人口増や生活レベルの上昇に起因する食糧問題の解決等、地球環境問題解決に大きく寄与するものである。本発明はまた、上記本発明の微細藻にCO2 を5〜20容量%という高い濃度で含有する気体を曝気することからなる培養方法の提供を可能にした。該気体としてはNOX やSOX を含有する火力発電所からの排ガスであってもよく、それにより微細藻の培養を低コストで行うことができるだけでなく、CO2 の放出を抑制し環境保護に貢献する。培養槽としていわゆる螺旋状チューブラーリアクターを用いることにより、光照射による培養の際の光エネルギーの利用効率をさらに向上させることができる。【図面の簡単な説明】【図1】本発明の微細藻の一種であるHO−1株の生物の形態を示す透過型電子顕微鏡写真である。【図2】微細藻の増殖に及ぼす各種要因の影響を示すグラフであり、(A)はCO2 濃度、(B)は培養液の温度、(C)は培養液の初期pHの影響をそれぞれ示すものである。【図3】培養液のpHの経時変化に及ぼすSO2 濃度の影響を示すグラフである。【図4】円錐型螺旋状チューブラーリアクターを概略的に示す図面である。【図5】12時間明条件での最大光合成生産性に及ぼす通気速度の影響を示すグラフである。【図6】最大光合成生産性に及ぼす培養液の最高温度の影響を示すグラフである。 200ppmまでのNOX 濃度、50ppmまでのSOX 濃度、1000〜2000μmol・m-2・s-1の光強度および35〜49℃の温度からなる群から選択される少なくとも一つの条件と、5〜20容量%のCO2 濃度の条件の下で生育可能の微細藻であるクロレラ・ソロキニアーナHO−1株(FERM P−18160)。 CO2 濃度5〜20容量%の気体を培養槽中の請求項1記載の微細藻クロレラ・ソロキニアーナHO−1株に曝気することからなる微細藻の培養方法。 曝気する気体が火力発電所排ガスである請求項2記載の方法。 培養槽として無色透明のチューブを螺旋状に巻回してなる培養槽が使用される請求項2または3記載の方法。