タイトル: | 特許公報(B2)_眼皮膚白子症1Bの原因遺伝子とその応用 |
出願番号: | 1999295686 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | C12N 15/09,A01K 67/027,C12N 5/10,C12N 9/02,C12Q 1/68,G01N 33/15,G01N 33/50,G01N 33/566,G01N 33/573,C12R 1/91 |
阪本 英二 JP 4119061 特許公報(B2) 20080502 1999295686 19991018 眼皮膚白子症1Bの原因遺伝子とその応用 独立行政法人科学技術振興機構 503360115 佐伯 裕子 100147289 一入 章夫 100113332 小板橋 浩之 100127133 佐伯 憲生 100102668 阪本 英二 20080716 C12N 15/09 20060101AFI20080626BHJP A01K 67/027 20060101ALI20080626BHJP C12N 5/10 20060101ALI20080626BHJP C12N 9/02 20060101ALI20080626BHJP C12Q 1/68 20060101ALI20080626BHJP G01N 33/15 20060101ALI20080626BHJP G01N 33/50 20060101ALI20080626BHJP G01N 33/566 20060101ALI20080626BHJP G01N 33/573 20060101ALI20080626BHJP C12R 1/91 20060101ALN20080626BHJP JPC12N15/00 AA01K67/027C12N5/00 BC12N9/02C12Q1/68 AG01N33/15 ZG01N33/50 TG01N33/50 ZG01N33/566G01N33/573 AC12N5/00 BC12R1:91C12N9/02C12R1:91 A01K 67/00-67/04 BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq JSTPlus(JDreamII) JMEDPlus(JDreamII) JST7580(JDreamII) 富田 靖,色素異常症,現代医学,1998年 3月30日,第45巻、3号,第423−430頁 13 2001112483 20010424 20 20050120 太田 雄三 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、チロシナーゼのふたつの銅結合領域の間にあるアミノ酸のすくなくともひとつが、他のアミノ酸に変異している変異チロシナーゼ、それをコードする遺伝子、その断片、その遺伝子が導入された安定発現細胞株及びトランスジェニック動物、並びにその検出、診断剤に関する。本発明の変異チロシナーゼは、眼皮膚白子症、より詳細には眼皮膚白子症1Bの発症原因となるものであり、本発明の変異チロシナーゼは眼皮膚白子症の治療、予防又は診断などに有用である。さらに本発明の遺伝子は眼皮膚白子症のモデル動物の作製にも有用であり、かつ本発明のトランスジェニック動物又は心筋症ハムスター(CMハムスター)を用いて網膜色素細胞層及び脈絡膜における色素沈着と視機能との関係を調べるのにも有用である。【0002】【従来の技術】眼皮膚白子症(Oculo Cutaneus Albinism : OCA)は、眼および皮膚におけるメラニン色素が欠損する疾患であり、病理学的には、眼(網膜色素上皮及び脈絡膜)ならびに皮膚表皮に存在するメラノサイトにメラニン色素の沈着を認めない。眼皮膚白子症は、メラミン色素が沈着しないために、皮膚や毛髪などは白く、眼は動脈血の赤色が見えて赤眼となる。眼の網膜組織に色素が沈着しないために、網膜上で光を受けることができず、その結果正常な視機能を得ることができず、重篤な疾患のひとつである。ヒトおよびマウスの遺伝性眼皮膚白子症の原因として、メラニン色素の生合成における律速酵素であるチロシナーゼ遺伝子の塩基変異が知られている。既知のチロシナーゼ遺伝子のほとんどの塩基変異では、いずれも個体の一生を通じて眼および皮膚における色素沈着は認めない。すなわち、眼は赤眼で皮膚は白いままである。【0003】メラニンは、メラノサイト(メラニン(色素)細胞)中のメラノソームでチロシンから生合成され、ドーパやインドールキノンを経て生合成されるユーメラニン(Eumelanin)、ドーパキノンとシステインから生合成されるフェオメラニン(Pheomelanin)及びトリコクロム(Trichochrome)の3種が知られている。メラノソーム中でのメラニンの生合成の過程を模式的に示すと図1のようになる。即ち、メラノソーム膜蛋白質によりチロシンがメラノソームに取り込まれる第一の段階、メラノソームに取り込まれたチロシンがチロシナーゼの作用によりドーパ(DOPA)を経てドーパキノン(DOPAquinone)に返還される第二の段階、さらに生成したドーパキノンがチロシナーゼ関連蛋白質−1の作用により、ユーメラニン(Eumelanin)やフェオメラニン(Pheomelanin)などのメラニンを生成する第三の段階によりメラニンの沈着が起こるとされている。【0004】ところで、眼皮膚白子症は、症状や発症原因に応じて、OCA1、OCA2及びOCA3の3種に分類され、さらにOCA1はOCA1A、OCA1B及びOCA1−STに分類されている。次の表1に眼皮膚白子症の分類を示す。【0005】【表1】【0006】OCA2は、メラノソームにチロシンを取り込むメラノソーム膜蛋白質の異常によるものであり、そのモデル動物としてはピンクアイダイリューションマウスが知られている。OCA3は、メラノソーム中で生成したドーパキノンをメラミンに返還するチロシナーゼ関連蛋白質−1の異常にものであり、そのモデル動物としてはブラウンマウスが知られている。一方、OCA1はいずれも前記したメラニン生合成過程の第二段階のチロシナーゼ活性の異常に起因するものであり、そのサブタイプとしてOCA1A、OCA1B及びOCA1−TSの3種に分類されている。OCA1Aは、チロシナーゼ活性が全く無いものであり、そのモデル動物としてはアルビノ(BALB/c)マウスが知られている。また、OCA1−TSは35℃以上でチロシナーゼの活性が失活するものであり、35℃以下の状態では正常な色素の沈着が起こるが、35℃以上になるとチロシナーゼが失活し色素の沈着が起こらない。そのモデル動物としてはシアミーズキャット(Siamese cat)が知られている。【0007】OCA1Bは、生まれた直後は色素の沈着がないが、加齢と共に色素が沈着してくるが、多くの場合充分な色素の沈着までには至らない。OCA1Bは、OCA1Aのようにチロシナーゼの活性が全くないのではなく、チロシナーゼ活性は有しているがその程度が極めて弱く、充分な色素沈着が得られないのである。そして、眼皮膚白子症の他の分類のものは前述してきたように、そのモデル動物が既に確立されているのであるが、このOCA1Bについてはモデル動物が確立されていないのが現状である。したがって、眼皮膚白子症のなかでもOCA1Bについては、モデル動物の確立もされておらず、その原因や治療方法などについて充分な研究開発がされていないおらず、この開発が望まれている。また、OCA1Bモデル動物は、眼における後天的な色素沈着と視機能の関係、あるいは最近開発されつつある網膜色素上皮移植の妥当性を検討する上で極めて重要である。【0008】一方、心筋症シリアンハムスター(Cardiomyopathic Hamster:以下、CMハムスターという。)は、遺伝性の心筋症や筋ジストロフィーのモデル動物として使用されている。これは、CMハムスターは、そのゲノムにおいてδ−ザルコグリカン(δ−sarcoglycan)遺伝子を欠損していることに起因しているとされている(Sakamoto, et al., FEBS Lett., 447: 124-8 (1999) ; Sakamoto, et al., Proc.Natl.Acad. Sci. U.S.A., 94: 13873-13878(1997))。また、このCMハムスターは生まれた直後は赤眼であるが、加齢と共に徐々に黒眼になる。この原因として、従来心筋症により血色の異常が起こり、その血色の変化が黒眼としてみられるものと考えられており、CMハムスターの色素の沈着や遺伝的な解明は今まで行われおらず、CMハムスターにおける眼皮膚白子症の確認とその原因の究明が望まれていた。【0009】【発明が解決しようとする課題】本発明は、CMハムスターにおける眼皮膚白子症の病変部の観察、原因遺伝子の解明、及びその作用機構の3次元的な解析を行うことにより、OCA1Bのモデル動物を確立すると共に、その治療方法、及び網膜における色素沈着と視機能との関連性を明確にすることを目的とするものである。本発明は、個体の加齢と共に網膜色素上皮及び脈絡膜にメラニンが沈着し、赤眼から黒眼に変化する特異な眼皮膚白子症を引き起こす原因遺伝子の単離ならびにその遺伝子を用いて作られるタンパク質、細胞株ならびにトランスジェニック動物を提供するものである。【0010】【課題を解決するための手段】本発明者は、遺伝的に心筋症を発症するハムスターが、前述の特異な眼皮膚白子症を呈することに着目した。加齢と共に色素沈着を起こす眼皮膚白子症は従来報告がなく、CMハムスターが加齢と共に色素沈着を起こす眼皮膚白子症であることを確認することから研究をはじめた。その結果、CMハムスターは加齢と共に色素沈着を起こす眼皮膚白子症であることが判明し、そしてその原因遺伝子として、従来報告のない塩基変異を有するチロシナーゼcDNAを単離することに成功した。【0011】本発明は、チロシナーゼのふたつの銅結合領域の間にあるアミノ酸の少なくともひとつが、他のアミノ酸に変異している変異チロシナーゼ、好ましくは正常なハムスターのチロシナーゼの262番目のアミノ酸に相当するアミノ酸が、他のアミノ酸に変異している変異チロシナーゼ、より好ましくはアミノ酸がプロリンに変異している変異チロシナーゼに関する。本発明はこれらの変異チロシナーゼの部分配列からなるペプチドにも関する。好ましくは本発明のペプチドは、前記した変異チロシナーゼのアミノ酸の変異した部分を含む少なくとも5アミノ酸残基からなるペプチドに関する。また、本発明は、前記した本発明の変異チロシナーゼのいずれかをコードする遺伝子、好ましくは正常なハムスターのチロシナーゼの785番目のチミンに相当する塩基が、シトシン塩基に変異している遺伝子に関する。本発明はこれらの遺伝子の部分配列からなるポリヌクレオチドにも関する。好ましくは本発明は、前記した遺伝子の塩基の変異した部分を含む少なくとも14塩基からなるポリヌクレオチドに関する。また、変異した部分を増幅することができるプライマーに関する。【0012】また、本発明は、前記した本発明の遺伝子が導入された安定発現細胞株又はトランスジェニック動物に関する。さらに、本発明は、心筋症ハムスター(CMハムスター)の眼皮膚白子症のモデル動物としての使用に関する。本発明は、前記したポリヌクレオチド及び/又はプライマーを含有してなる変異チロシナーゼの検出、診断剤に関する。【0013】本発明者は、まず、CMハムスターが加齢と共に色素沈着を起こす眼皮膚白子症であること確認する実験を行った。図2は、CMハムスターの図面に代わる写真である。なお、図2の写真は本来カラーであるが、方式上の制限から白黒として提出されているが、カラーの原本をいつでも利用することができる。図2のAの1は、正常な生後6週のゴールデンハムスター(図2のAの1)とCMハムスター(図2のAの2〜4)の写真である。CMハムスターは全体に白くなっていることがわかる。図2のAの2は生後6週のCMハムスターの写真である。眼が赤く色素が無いことがわかる。図2のAの3及び4は、それぞれ生後26週、45週のCMハムスターの写真であり、眼が少しづつ黒くなってきている様子がわかる。図2のBは、ゴールデンハムスター(図2のBの1)とCMハムスター(図2のBの2〜4)の網膜をホルマリンで固定し、そのスライスを光学顕微鏡でみたものである。図2のBの1では、色素上皮に色素が正常に沈着していることがわかる。一方、生後直後のCMハムスター(図2のBの2)では、色素の沈着が全く無いことがわかる。そして、CMハムスターの加齢と共に色素上皮に少しづつ色素の沈着が生じてきていることが、図2のBの3及び4からわかる。【0014】図2のBの3及び4では、CMハムスターの加齢と共に、黒い顆粒が色素上皮付近に生じてきていることはわかるが、これがメラニンの沈着であるか否かを確定することはできない。そこで、この部分をさらに拡大して、電子顕微鏡で観察することにより、図2のBの3及び4における黒色の沈着物がメラニンであることを明らかにしたのが図2のCの1及び2の写真である。図2のCの1及び2では、色素上皮を含めてその周囲の組織はいずれも正常な形態を保持しており、黒色の沈着物が色素上皮の周囲の組織の凝集物でないことは明らかである。そして、メラニンの存在している部分が明確に染色されている。以上の実験から、CMハムスターにおける加齢に伴う色素沈着がメラニンの沈着によるものであることが判明した。このことは本発明者が初めて明らかにしたことである。【0015】次に、6週齢のCMハムスターの眼球をスライスし、これに0.1%のL−DOPA(L−3,4−dihydroxyphenylalanine)水溶液を加えて37℃で4時間インキュベートした後の網膜色素細胞層(RPE)の様子を位相差顕微鏡で観察した結果が図3である。図3は図2と同様に本来カラー写真である、図面に代わる写真である。L−DOPAの添加により、極僅かではあるがドーパ−メラニンの沈着がはっきりと見られた。これは、CMハムスターにはチロシナーゼ活性があるが、その活性が低いことを示している。【0016】チロシナーゼが存在していることを確認するために、チロシナーゼの免疫反応を行った。26週齢のCMハムスターの眼球の凍結切片を作製し、これに抗チロシナーゼ抗体を加え、HRP/AEC系で可視化したときの網膜色素細胞層及び脈絡膜の写真を図4に示す。図4も図2と同様に本来カラー写真である、図面に代わる写真である。この結果、CMハムスターにチロシナーゼ(赤色に染色。)が存在していることが判明した。さらに、RNAのノーザンブロットを行った。ゴールデンハムスター(N)及びCMハムスター(CM)の眼球及び皮膚から全RNAを抽出し(レーン当たり20μg)、全長のチロシナーゼcDNAをプローブとしてノーザンブロットを行った結果を図5に示す。図5は図面に代わる写真である。この結果、CMハムスターにも正常なゴールデンハムスターとほぼ同程度の量のチロシナーゼRNAが発現していることがわかった。以上のことから、CMハムスターは眼及び皮膚においても正常なハムスターと同程度の量のチロシナーゼが発現しているが、CMハムスターのチロシナーゼ活性は正常のハムスターに比べて極めて低いことがわかった。【0017】心筋症ハムスター(CMハムスター)は、心筋症の他に特異な眼皮膚白子症(Oculo Cutaneus Albinism:OCA)を合併し、CMハムスターは生直後の赤眼が加齢と共に黒眼になってゆくことが知られていた。しかし、その原因も機構も知られていなかったが、以上の実験により本発明者が初めてこれを明らかにした。即ち、これは生直後の網膜色素細胞層(RPE)及び脈絡膜にはメラニン色素は存在せず赤眼であったものが、加齢と共にRPEにメラニン色素の沈着が起こり黒眼になる。そして、このメラニン色素の沈着はL−DOPAのドーパキノンへの変換に寄与しているチロシナーゼの活性の低下に起因しているが、CMハムスターのチロシナーゼの発現量自体は正常なハムスターと変わっていないのである。したがって、CMハムスターのOCAの遺伝的原因が、チロシナーゼの発現量に起因するものではなく、チロシナーゼそのものの活性の低下、即ちチロシナーゼの変異に起因するものであると考えられた。【0018】そこで、本発明者は、正常及び変異チロシナーゼcDNAの単離を試みた。まず、ヒト及びマウスのチロシナーゼcDNAで保存した塩基配列を元に設計したプライマーセットでReverse-transcription PCR(RT−PCR)を行い、正常シリアンハムスターの眼球からチロシナーゼcDNAの断片を増幅した。次に、このcDNA断片をプローブに用い、正常シリアンハムスターの眼球から作成したcDNAライブラリーをスクリーニングし、全長のチロシナーゼcDNAを単離し、全塩基配列を決定した。タンパク質翻訳領域は1,590塩基からなり、530残基のタンパク質をコードする。この塩基配列を配列表の配列番号1に示し、それをコードする蛋白質を配列番号2に示す。また、図6にこの塩基配列およびそれによりコードされる蛋白質をアミノ酸の一文字表記で示す。図6は正常なハムスターから得られた正常なチロシナーゼのcDNAの塩基配列を示す。推定されるシグナル配列(SS)及び膜貫通領域(TMD)の上に線を引いている。チロシナーゼのふたつの銅結合領域(CuA及びCuB)を四角枠で囲っている。【0019】得られたハムスターのチロシナーゼは、ヒトあるいはマウスのチロシナーゼとはアミノ酸レベルで、それぞれ85.7%あるいは90.1%の相同性を有していた。この全長チロシナーゼをプローブとしてRNAブロット解析を行ったところ、心筋症ハムスターの眼球でも大きさ量共に正常ハムスターと同様なバンドを検出した。そこで、同様に単離した眼皮膚白子症ハムスターのチロシナーゼcDNAの塩基配列を解析したところ、785番目の塩基(図6で矢印で示されている箇所。)がチミン(T)からシトシン(C)に置換され、その結果262番目のアミノ酸がロイシンからプロリンに変化していることを見出した。【0020】チロシナーゼにおける262番目のロイシンは、既知のあらゆる種のチロシナーゼで保存されており、本発明のプロリン変異体は初めて見出されたものである。また、ヒトおよびマウスの眼皮膚白子症でも、これに対応する変異を伴ったチロシナーゼ遺伝子の異常に関する報告はない。さらに、本発明者は、これらのハムスターのチロシナーゼの3次元的モデルを作成した。これを図7に示す。図7は図2と同様に本来カラー写真である、図面に代わる写真である。図7に示される3次元モデルは、銅結合蛋白質であるヘモシアニンの3次元モデルを基にして、ジーンマインデータマイニングシステム(GeneMine Data Mining system (Molecular Applications Group, Palo Alto, CA))ソフトを用いて、本発明のハムスターのチロシナーゼの親水性領域(アミノ酸の19位から406位)の3次元モデルを作成したものである。図7において、ふたつの銅結合領域は緑色(CuA)と黄色(CuB)で示されている。ここに2個の銅原子が固定され、チロシン及びドーパの酸化反応を促進することになる。図7で球状(ファンデルワールスの半径)で示されているのが262番目のアミノ酸である。このアミノ酸は銅結合領域ではないが、ふたつの銅結合領域の距離及び角度を適正に保つためにの重要な位置となっていることがわかる。即ち、正常なチロシナーゼにおけるロイシンでは銅を結合するに適正なものとなるが、このアミノ酸がプロリンになるとふたつの銅結合領域の角度が変化し、銅原子をしっかりと保持することができなる。これがチロシナーゼの活性の低下となる原因であると考えられる。【0021】つぎに、心筋症ハムスターと正常ハムスターを交配させ、この塩基置換と症状が連鎖するか否かを検討した。正常な遺伝子785Tを有する親(図8のI−1)と変異遺伝子785Cを有する親(図8のI−2)を交配させて子(図8のII−1及びII−2)を作り、これらをさらに交配させて孫(図8のIII−1、III−2、III−3及びIII−4)を作った。そして、これらの親、子及び孫が有する遺伝子の対を調べた。【0022】遺伝子785Tについては次のプライマーを用いた。CTATGATTTGAGTGTCCCAG / GAAGGATGCTGGACTGAGTAまた、遺伝子785Cについては次のプライマーを用いた。AGTGCTCTGGCAACTTCATG / GAAGGATGCTGGACTGAGTG結果を図8に示す。図8は図面に代わる写真である。また、これらの親、子及び孫の写真を図9に示す。図9は図2と同様に本来カラー写真である、図面に代わる写真である。図8にも示されるように、親においては785T遺伝子か785C遺伝子のいずれかしか持っていないが、その子(F1)はいずれも両方の遺伝子を持つ雑種となっている。そして孫のうちの1匹は785C遺伝子のみを持つもの(III−2)が出現してきており、このものはOCA1Bが発症している(図9の下段)。この結果、法則どおりの遺伝をしていることがわかった。したがって、眼皮膚白子症のハムスターは突然変異によって起こるものではなく、チロシナーゼcDNAの785番目のチミンがシトシンに置換することが、特異な眼皮膚白子症の遺伝的原因であることが証明された。【0023】さらに、正常あるいは塩基変異を有するハムスターチロシナーゼcDNAを哺乳類発現ベクターに組み込こんだコンストラクトを作成し、G418抵抗性遺伝子と共にヒト由来のHela細胞に遺伝子導入し、G418存在下で培養し、標的遺伝子を安定発現する細胞株を樹立した。即ち、SRαプロモーターを有する発現ベクターpME、チロシナーゼ遺伝子を組み込んだコンストラクトとG418耐性遺伝子を有する発現コンストラクトであるpSV2neoを同時にリポソーム法(ベーリンガーマンハイム社製)によりヒトHela細胞に導入し、G418を0.5mg/ml含有するDMEM10%FCS培地で培養してスクリーニングして、標的遺伝子を安定発現する細胞株を得た。なお、対照として、ベクターpMEのみを組み込んだ細胞(Mock)を作製した。【0024】図10にその結果を示す。図10は図2と同様に本来カラー写真である、図面に代わる写真である。図10のモック(Mock)はベクターのみを導入した細胞株であり、262Leuは正常チロシナーゼをベクターに組み込んで導入した細胞株であり、262Proは変異チロシナーゼをベクターに組み込んで導入した細胞株である。図10のAは抗チロシナーゼ抗体を用いて染色したときの写真であり、図10のBは0.1%ドーパを添加したときの写真である。各写真の左側のフェイズコントラストは位相差によるものであり、ブライトは明視野のものである。Aの免疫反応では、262Proにも262Leuと同等のチロシナーゼタンパク質の発現を認めるが、Bのドーパ試験では262Proには明瞭なドーパメラニンの沈着は認められない。しかし、これをさらに拡大してみると(図10のBの下段)262Proのほうにもわずかにドーパメラニンの沈着が認められる(図10Bの下段の写真の矢印参照)。したがって、変異チロシナーゼを安定して発現することができる安定発現細胞株を確立することができることが示された。【0025】同様な手法により本発明の変異チロシナーゼの遺伝子を動物に導入することも可能であり、本発明の変異チロシナーゼを有するトランスジェニック動物を作製することができる。具体的な方法としては、癌遺伝子を導入するのと同様な方法により本発明の変異チロシナーゼが導入されたトランスジェニック動物、例えトランスジェニックマウス、トランスジェニックラット、トランスジェニックハムスターを作製することができる。【0026】本発明の変異チロシナーゼcDNAを発見したことの意義は、1)加齢と共に網膜に色素沈着を起こす特異なOCAの遺伝的原因を解明したこと、2)作成した安定発現細胞はチロシナーゼタンパク質の構造活性相関の研究に有用であること、3)正常ハムスターと掛け合わせたハムスターの遺伝子診断が可能になり、心筋症遺伝子は正常だがチロシナーゼ遺伝子に点変異を有するハムスターを作成できる。この新規ハムスターは、愛玩動物として稀少価値があるのみでなく、網膜色素の視機能に及ぼす影響を研究する上で有用な実験モデル動物としての価値もある。さらに、このようなモデル動物を使用することにより、網膜色素細胞層(RPE)における色素沈着と視力との関係を確立することが可能となり、眼皮膚白子症などのよる色素沈着の低下による視機能の低下に対する治療方法を確立してゆくことができるようになる。【0027】また、本発明はチロシナーゼの変異体を提供するのみならず、その3次元的構造と活性との関係を明らかにしたことから、ポイントミューテーション技術を利用して種々のチロシナーゼの変異体の作製を可能とし、それらの3次元的構造と活性との相関を研究開発することを可能としたものである。したがって、本発明の変異体は、ハムスターの262番目のアミノ酸に限定されるものではなく、種々種の位置のアミノ酸の変異体を包含するものである。また、本発明の変異チロシナーゼに関する知見は、ハムスターに限らず、ヒト、マウスなどの哺乳動物についても同様であり、本発明はハムスターに限定されるものではない。【0028】本発明の変異チロシナーゼは正常なチロシナーゼに比べてその活性は弱いが、チロシナーゼ活性を有するものであり、チロシナーゼの変異体となるものであれば、1個又はそれ以上のアミノ酸が他のアミノ酸で置換され、他のアミノ酸が付加され、アミノ酸が欠失し、又はこれらが組み合わされた結果できるものであってもよい。また、本発明の遺伝子は、RNAでもDNAでもよいが、好ましくはDNAであり、その塩基配列は前記した本発明の変異チロシナーゼをコードできるものであればよい。本発明の遺伝子は前記した遺伝子の相補的ものであってもよく、さらに前記した本発明の遺伝子にストリージェントな条件下でハイブリダイズし得るものであってもよい。【0029】本発明のポリヌクレオチドは、変異部分を含む塩基配列を有し、少なくとも14塩基、好ましくは20塩基以上の塩基を有するものであり、これらの相補鎖であってもよい。本発明のポリヌクレオチドは、放射性元素、蛍光物質、化学発光物質などで標識化することもできる。このようなポリヌクレオチドは、プローブやプライマーとして利用することができ、遺伝子の診断などの有用である。また、本発明のペプチドは、変異した部分のアミノ酸を含む少なくとも5アミノ酸残基、好ましくは7アミノ酸残基以上からなるものである。このようなペプチドはモノクローナル抗体を作製するときの抗原などとして利用することも可能である。【0030】本発明のプライマーとしては、前記したものが好ましいがこれに限定されるものではなく、本発明のチロシナーゼの特徴部分をPCRなどの方法により増幅することができるものであればよい。【0031】【実施例】次に、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。【0032】実施例1(網膜及び脈絡膜における色素の沈着)正常ゴールデンハムスター(SLC社(静岡))と心筋症シリアンハムスター(CMハムスター)(カナディアンハイブリッドファーム社(ノバスコティア、カナダ))のそれぞれの眼球を、4%パラホルムアルデヒド、1.5%PFA/0.5%グルタルアルデヒドリン酸バッファー生理食塩水(PBS;0.1M,pH7.4)で固定し、包埋して、スライスし、切片を光学顕微鏡及び位相差顕微鏡で観察した。結果を図2に図面に代わるカラー写真で示す。光学顕微鏡による観察(図2のB)では、正常ゴールデンハムスター及び加齢したCMハムスターの網膜色素上皮及び脈絡膜において色素の沈着がみられた。また、位相差顕微鏡による観察では(図2のC)、正常ゴールデンハムスター及び加齢したCMハムスターにおいてメラノソームに内包されている色素(メラニン)が検出された。【0033】実施例2(ドーパ試験)CMハムスターの眼球を凍結切片を作製し、2%PFA/0.1MPBS(pH6.8)を用いて4℃で10分間で固定した後、0.1%L−DOPA(L−3,4−ジヒドロキシフェニル−アラニン,シグマ社)のPBS(pH6.8)溶液で37℃で5時間インキュベートした。これを顕微鏡で観察した結果を図3に示す。図3はその顕微鏡写真であり、図面に代わる写真である。【0034】実施例3(免疫学的試験)正常ゴールデンハムスター及びCMハムスターの眼球を凍結切片を作製し、2%PFA/0.1MPBS(pH6.8)を用いて4℃で10分間で固定した後、最初の抗体(ヒツジ抗チロシナーゼ抗体)、次いで第二の抗体(ウサギ抗ヒツジIgG/HRP複合体)とインキュベートした。これをAECで検出した。結果を図4に示す。図4は図面に代わるカラー写真である。図4の(+)は正常ゴールデンハムスターの場合を、(−)はCMハムスターの場合を示す。【0035】実施例4(チロシナーゼRNAのノーザンブロッティング)正常ゴールデンハムスター及びCMハムスターの眼球及び背面の皮膚からの全RNA抽出物20μgを、1.2%ホルムアルデヒド/アガロースゲルにそれぞれ取り、これをナイロン膜に移し、32Pでラベルした全長のハムスターチロシナーゼcDNAをプローブとしてハイブリダイズさせた。結果を図5に示す。図5は図面に代わる写真である。図5のEyeは眼を、Skinは皮膚を示し、Nは正常ゴールデンハムスターを示し、CMはCMハムスターを示す。【0036】実施例5(チロシナーゼのcDNAのクローニング)λZAPIIファージを用いて正常ゴールデンハムスター及びCMハムスターののcDNAライブラリーを構築した。プライマーのセットとして、CTTTCAGGCAGAGGTTCCTG / TGCCTGAGCACTGGCAGGTCを用いてRT−PCR法によりcDNAフラグメントを増幅し、ライブラリーをスクリーニングした。その結果、正常ゴールデンハムスターのライブラリーから図6に示す塩基配列を有するcDNAを得た。また、CMハムスターのライブラリーからその785番目のチミンがシトシンに変異したcDNAを得た。【0037】実施例6(チロシナーゼの3次元構造)銅結合蛋白質の1種であるヘモシアニンの3次元モデルを基にして、ジーンマインデータマイニングシステム(GeneMine Data Mining system (Molecular Applications Group, Palo Alto, CA))ソフトを用いて、ハムスターのチロシナーゼの親水性領域(アミノ酸の19位から406位)の3次元モデルを作成した。結果を図7に示す。図7は図面に代わるカラー写真である。【0038】実施例7(チロシナーゼ遺伝子の連鎖実験)雌の正常ゴールデンハムスター(785T)と雄のCMハムスター(785C)をかけ合わせて、子を作り、その子をかけ合わせて孫を作った。これらのハムスターの肝臓からゲノムDNAを調製し、遺伝子785Tについては次のプライマーセットを用い、CTATGATTTGAGTGTCCCAG / GAAGGATGCTGGACTGAGTAまた、遺伝子785Cについては次のプライマーセットを用い、AGTGCTCTGGCAACTTCATG / GAAGGATGCTGGACTGAGTGそれぞれの遺伝子型を決定した。結果を図8に示す。図8は図面に代わる写真である。また、これらの親、子及び孫の写真を図9に示す。図9は図面に代わるカラー写真である。【0039】実施例8(変異チロシナーゼの安定発現細胞株の調製)SRαプロモーターを有する発現ベクターpMEに、785番目の塩基がシトシンである変異チロシナーゼのcDNAを組み込んだ構築物、及び、G418耐性遺伝子を有する発現構築物pSV2neoをそれぞれ構築した。これらの構築物を、リポソーム法のキット(ベーリンガーマンハイム社製)を用いてヒトHela細胞に同時に注入した。形質転換された細胞を、G418を0.5mg/ml含むDMEM10%FCS培地で培養してスクリーニングして、安定発現細胞株を得た。また、785番目の塩基がシトシンである変異チロシナーゼのcDNAの代わりに、正常チロシナーゼのcDNAを用いた細胞株(262Leu)、及び対照として発現ベクターpMEのみで形質転換した細胞株(Mock)を調製した。これらの細胞株を、実施例3と同様な方法により免疫学的に染色した。結果を図10のAに示す。図10は図面に代わるカラー写真である。また、これらの細胞株を、実施例2と同様な方法によりDOPA試験を行った。結果を図10のBに示す。図10のBの下段の写真は、262Pro細胞株の位相差顕微鏡写真である。【0040】【発明の効果】チロシナーゼは、網膜色素上皮及び脈絡膜あるいは表皮におけるメラニン合成の最も重要な酵素である。しかし、タンパク質の立体構造と酵素活性との相関関係に関する厳密な研究はない。今回発明した変異チロシナーゼを発現させた細胞株を用いた酵素活性の測定、あるいは変異チロシナーゼcDNAから合成させたタンパク質の結晶解析は、チロシナーゼの構造・活性相関関係に関する新たな知見をもたらすはずである。眼皮膚白子症の患者さんは視機能が弱いことは古くから知られている。今回発明した変異ハムスターチロシナーゼcDNAまたは、対応する部位を人工的に変異させたヒトあるいはマウスのチロシナーゼcDNAを、眼皮膚白子症を呈するマウス(例えばBALB/cマウス)の受精卵に遺伝子導入させて作出したトランスジェニックマウスは、加齢に伴う網膜色素の沈着と視機能との相関関係の研究に有用である。【配列表】【図面の簡単な説明】【図1】図1は、メラノソーム中でのメラニンの生合成の過程を模式的に示したものである。【図2】図2は、正常ゴールデンハムスター及びCMハムスター(図2のA)、それらの網膜をホルマリンで固定し、そのスライスを光学顕微鏡でみたもの(図2のB)、及びそれを位相差顕微鏡でみたものの、図面に代わる写真である。【図3】図3は、6週齢のCMハムスターの眼球をL−DOPA試験に供したときの網膜色素細胞層の様子を位相差顕微鏡で観察した、図面に代わる写真である。【図4】図4は、26週齢のCMハムスターの眼球の凍結切片を抗チロシナーゼ抗体で処理し、HRP/AEC系で可視化したときの網膜色素細胞層及び脈絡膜を観察した、図面に代わる写真である。【図5】図5は、ゴールデンハムスター(N)及びCMハムスター(CM)の眼球及び皮膚からの全RNAを抽出物のノーザンブロットを行った結果を示す、図面に代わる写真である。【図6】図6は、正常なハムスターから得られた正常なチロシナーゼのcDNAの塩基配列を示す。推定されるシグナル配列(SS)及び膜貫通領域(TMD)の上に線を引いている。チロシナーゼのふたつの銅結合領域(CuA及びCuB)を四角枠で囲っている。785番目の変異の位置に矢印が付されている。【図7】図7は、ハムスターのチロシナーゼの3次元的モデルを示す、図面に代わる写真である。【図8】図8は、心筋症ハムスターと正常ハムスターを交配させ、この塩基置換と症状が連鎖するか否かを試験した結果を示す、図面に代わる写真である。【図9】図9は、心筋症ハムスターと正常ハムスターを交配させ、この塩基置換と症状が連鎖するか否かを試験した結果、生まれてきたハムスターを示す、図面に代わる写真である。【図10】図10は、チロシナーゼ遺伝子が導入された発現細胞株を用いてメラニンの生成を試験した結果を示す、図面に代わる写真である。図10のモック(Mock)はベクターのみを導入した細胞株であり、262Leuは正常チロシナーゼ遺伝子を導入した細胞株であり、262Proは変異チロシナーゼ遺伝子を導入した細胞株である。図10のAは抗チロシナーゼ抗体を用いて染色したときのものであり、図10のBは0.1%ドーパを添加したときのものである。各々の左側のフェイズコントラストは位相差によるものであり、ブライトは明視野のものである。 正常なシリアンハムスターのチロシナーゼの262番目のアミノ酸に相当するアミノ酸が、プロリンに変異している変異チロシナーゼ。 変異チロシナーゼがハムスター由来のものである請求項1に記載の変異チロシナーゼ。 請求項1又は2に記載の変異チロシナーゼをコードする遺伝子。 正常なハムスターのチロシナーゼの785番目のチミンに相当する塩基が、シトシン塩基に変異している請求項3に記載の遺伝子。 請求項3又は4に記載の遺伝子の塩基の変異した部分を含む少なくとも20塩基からなるポリヌクレオチド。 標識されたポリヌクレオチドである請求項5に記載のポリヌクレオチド。 請求項5又は6に記載されたポリヌクレオチドからなるプローブ又はプライマー。 次の塩基配列、 AGTGCTCTGGCAACTTCATG / GAAGGATGCTGGACTGAGTGからなるPCR用のプライマー、又はさらに次の塩基配列、 CTATGATTTGAGTGTCCCAG / GAAGGATGCTGGACTGAGTAを含むPCR用のプライマー。 請求項3又は4に記載の遺伝子が導入された安定発現細胞株。 細胞が、ヒトHela細胞である請求項9に記載の安定発現細胞株。 請求項3又は4に記載の遺伝子を、眼皮膚白子症を呈するアルビノ(albino)モデル動物に対して遺伝子導入した、非ヒトトランスジェニック動物。 請求項4に記載の変異チロシナーゼ遺伝子をホモで有している心筋症ハムスター(CMハムスター)、もしくはその子孫の眼皮膚白子症のモデル動物としての使用。 請求項7又は8に記載されたプローブ又はプライマーを含有してなる変異チロシナーゼの検出、診断剤。