タイトル: | 特許公報(B2)_N−アセチルマンノサミンの製造法 |
出願番号: | 1999257588 |
年次: | 2010 |
IPC分類: | C12P 19/02 |
大西 淳 丸 勇史 太田 泰弘 塚田 陽二 JP 4395645 特許公報(B2) 20091030 1999257588 19990910 N−アセチルマンノサミンの製造法 ジャパン・フード&リカー・アライアンス株式会社 302069859 三枝 英二 100065215 掛樋 悠路 100076510 小原 健志 100086427 中川 博司 100090066 舘 泰光 100094101 斎藤 健治 100099988 藤井 淳 100105821 関 仁士 100099911 中野 睦子 100108084 大西 淳 丸 勇史 太田 泰弘 塚田 陽二 20100113 C12P 19/02 20060101AFI20091217BHJP JPC12P19/02 C12P 19/02 CA/MEDLINE/BIOSIS(STN) JSTPlus(JDreamII) 繊維と工業,1998年,p.16-20 Carbohydrate Research,1998年,Vol.306,p.575-578 4 2001078794 20010327 12 20060419 松原 寛子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、酵素反応により基質から酵素反応生成物を高収率で得るための技術に関し、詳しくはN-アセチルマンノサミンを高収率で且つ容易に大量・安価で生産することができるN-アセチルマンノサミンの製造法に関するものである。【0002】【従来の技術】N-アセチルグルコサミンの異性体であるN-アセチルマンノサミンは、例えば、医薬品や医薬品原料となるシアル酸(N-アセチルノイラミン酸)の酵素合成原料として用いられている。また、N-アセチルマンノサミンは、その誘導体から、シアル酸誘導体を酵素合成することが可能であり、産業上、重要な物質である。【0003】従来、N-アセチルグルコサミンをアシルグルコサミン2-エピメラーゼで異性化しN-アセチルマンノサミンを製造する方法や、N-アセチルグルコサミンをアルカリ条件下で処理しN-アセチルマンノサミンを製造する方法が知られている。【0004】しかしながら、これらの製造法では、N-アセチルグルコサミンからN-アセチルマンノサミンへのモル変換収率が20%程度と低い。また、N-アセチルマンノサミンと、その原料であるN-アセチルグルコサミンは異性体であり、両者を分割、精製することは容易ではない。Spivakらは、加熱エタノールによる両者の溶解度の差で精製することを開示しているが、高純度のN-アセチルマンノサミンが得られず、さらに、回収率が低いため、大量・安価に製造することができない[Journal of the American Chemical Society, 81,2403-2404(1959)]。【0005】また、N-アセチルグルコサミンをアルカリ条件下で異性化する際に、ホウ酸又はホウ酸塩を添加することにより、N-アセチルマンノサミンへのモル変換収率を増大させる方法を提案しているが、そのモル変換収率は23〜33%程度である(特開平10-182685号)。N-アセチルマンノサミンの精製は、ホウ酸を移動相に添加したイオン排除クロマトグラフィーで行うことを特徴としており、精製効率が悪く、さらに、混入するホウ酸を除去しなければならないという問題点がある。【0006】一方、N-アセチルマンノサミンを製造する方法としては、精製シアル酸(N-アセチルノイラミン酸)をN-アセチルノイラミン酸リアーゼを用いて酵素分解して得る方法も知られている。しかしながら、シアル酸からのN-アセチルマンノサミンへのモル変換収率は80%程度に留まる。さらに原料として高価な精製シアル酸を使用するため、原料費が高価になる問題がある。また、精製シアル酸に代えて、粗シアル酸を原料として用いる方法もあるが、例えばN-アセチルグルコサミンのような夾雑物質の分離が困難であり、高純度のN-アセチルマンノサミンが得られない。【0007】以上の様に、これら従来の方法では、N-アセチルマンノサミンを大量・安価に製造することができない。【0008】【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記のような従来の問題点を解決するため、酵素反応生成物の分離が容易で、酵素反応生成物を高収率に製造する方法を提供することを目的とする。【0009】【課題を解決するための手段】本発明は、以下の製造法を提供するものである。【0010】項1.基質を担体に結合させる工程並びに担体に結合した基質と酵素とを反応させる工程を含む酵素反応生成物の製造法。【0011】項2.基質がシアル酸である項1に記載の製造法。【0012】項3.酵素がN-アセチルノイラミン酸リアーゼで、酵素反応生成物がN-アセチルマンノサミンである項2に記載の製造法。【0013】項4.担体が陰イオン交換体である項3に記載の製造法。【0014】項5.基質を担体に結合させる工程が、N-アセチルグルコサミンとピルビン酸にアルカリ条件下でN-アセチルノイラミン酸リアーゼを作用させた反応液を陰イオン交換体に通液する工程であることを特徴とする項4に記載の製造法。【0015】項6.基質を担体に結合させる工程が、N-アセチルグルコサミンとピルビン酸にアシルグルコサミン2−エピメラーゼ及びN-アセチルノイラミン酸リアーゼとを作用させた反応液を陰イオン交換体に通液する工程であることを特徴とする項4に記載の製造法。【0016】【発明の実施の形態】本発明は、基質を担体に結合させる工程並びに担体に結合した基質と酵素とを反応させる工程を含む酵素反応生成物の製造法である。即ち、本発明は、担体と結合した基質に酵素を反応させた後、反応液と担体を分離し、必要に応じて反応液中の反応生成物と酵素を分離する製造法である。【0017】該製造法によれば、酵素反応において、酵素反応液中の酵素反応生成物以外の物質が担体に結合されることによって、酵素反応後の酵素反応生成物の分離・精製が容易になり、且つ、高純度の物質が得られる。また、基質が担体に結合されることにより、酵素反応の平衡が、酵素反応生成物側にシフトし、酵素反応生成物の生成が促進され、収率が向上する。この場合において、反応液中の酵素反応生成物以外の物質のうち、該物質と酵素反応生成物との分離が容易である場合には、該物質が担体に結合されなくてもかまわない。しかしながら、該物質が基質である場合には、前記のように、該物質が担体に結合することにより酵素反応が酵素反応生成物生成側へシフトするため、担体と結合することが好ましい。【0018】本発明において、基質としては、担体に結合するものであれば特に制限されず、例えば、糖質、タンパク質、脂質、核酸、ビタミン類等や、その他の高分子又は低分子の有機化合物等を使用することができる。好ましくは、コロミン酸、シアル酸を含んだ糖質、糖タンパク質、糖脂質、糖ヌクレオチドであり、さらに好ましくはシアル酸である。但し、ここで言うシアル酸とは、N-アセチルノイラミン酸、N-グリコリルノイラミン酸、O-アセチルノイラミン酸、KDN、KDO等のシアル酸類全てを含み、その中でも最も好ましくは、N-アセチルノイラミン酸である。【0019】本発明において、酵素としては、特に制限されないが、酸化還元酵素、転移酵素、加水分解酵素、リアーゼ、イソメラーゼ、リガーゼを使用でき、酵素反応生成物との分離が容易であるものが好ましい。【0020】酸化還元酵素としては、脱水素酵素、還元酵素、酸化酵素、酸素添加酵素、ペルオキシダーゼ等が使用できる。例えば、グルコースオキシダーゼ、ガラクトースデヒドロゲナーゼ、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ、シトクロムcオキシダーゼ、アセトアセチル−CoAレダクターゼ、アシル−CoAデヒドロゲナーゼ、アルコールオキシダーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ等を使用できる。【0021】転移酵素としては、例えば、アセテートキナーゼ、シクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼ、アラニントランスアミナーゼ、アスパラギン酸トランスアミナーゼ、クレアチンキナーゼ、オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ、アシルノイラミン酸シチジリルトランスフェラーゼ、N-アシル−D−マンノサミンキナーゼ等を使用できる。【0022】加水分解酵素としては、エステラーゼ、グリコシダーゼ、エーテルヒドロラーゼ、チオエーテルヒドロラーゼ、ペプチダーゼ、アミダーゼ、酸無水物ヒドロラーゼ、その他のヒドロラーゼ等を使用できる。例えば、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、インベルターゼ、イソアミラーゼ、プロテアーゼ、パパイン、ペプシン、レンニン、セルラーゼ、ペクチナーゼ、リパーゼ、ラクターゼ、リゾチーム、グルコアミラーゼ、β−フルクトフラノシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、セルラーゼ、ポリガラクツロナーゼ、キモトリプシン、トリプシン、アルギナーゼ、アセチルコリンエステラーゼ、アシルホスファターゼ、エラスターゼ等を使用できる。【0023】リアーゼとしては、例えば、N-アセチルノイラミン酸リアーゼ、ペクチンリアーゼ、フルクトースビスリン酸アルドラーゼ、N-アシルノイラミン酸−9−リン酸シンターゼ、O‐アセチルセリンリアーゼ、アセトアセテートデカルボキシラーゼ、カルボン酸デヒドラターゼ等を使用できる。【0024】イソメラーゼとしては、ラセマーゼ、エピメラーゼ、シストランスイソメラーゼ、ケトールイソメラーゼ、トートメラーゼ、ムターゼ、シクロイソメラーゼ等を使用できる。例えば、グルコースイソメラーゼ、アシルグルコサミン 2−エピメラーゼ、アシルグルコサミン−6−リン酸 2−エピメラーゼ、リボースリン酸イソメラーゼ、アミノ酸ラセマーゼ等を使用できる。【0025】リガーゼとしては、例えば、アシル−CoAシンテターゼ、アセチル−CoAカルボキシラーゼ、アセチル−CoAシンテターゼ、グルタミンシンテターゼ、ピルビン酸カルボキシラーゼ、DNAリガーゼ、RNAリガーゼ、各種−tRNAシンテターゼ等を使用できる。【0026】特に、通常反応で平衡状態になる酵素が本発明に適しているが、例えば、酸化還元酵素、リアーゼ、イソメラーゼであり、好ましくはイソメラーゼ、リアーゼである。さらに好ましい酵素は、リアーゼである。最も好ましいのは、N-アセチルノイラミン酸リアーゼである。【0027】本発明において、酵素反応生成物としては、特に制限されず、前記基質から、前記酵素の酵素反応により生成する物質を使用できる。殊に担体と結合しない物質が好ましい。好ましくは、N-アセチルマンノサミンである。【0028】本発明において、担体としては、基質と結合し且つ酵素反応生成物と結合しない限り特に制限されないが、イオン交換体、ゲル濾過剤、その他の各種クロマトグラフィー用充填剤、多糖、ポリマー、活性炭等を使用することができる。好ましいのはイオン交換体及びゲル濾過剤である。【0029】前記イオン交換体は、有機イオン交換体、無機イオン交換体、陽イオン交換体、陰イオン交換体を問わない。イオン交換体の支持体としては、樹脂、膜、セルロース、繊維、多糖、ポリマー、セラミック、多孔質体、ゲル、活性炭、デキストラン、アガロース、シリカ等の少なくとも1種を使用することができる。好ましい支持体は、樹脂及びセルロースである。イオン交換体の陰イオン官能基としては、ジエチルアミノエチル(DEAE)、トリエチルアミノエチル(TEAE)、トリメチルヒドロキシプロピルアミン(QA)、トリメチルベンジルアンモニウム、ジメチルヒドロキシエチルベンジルアンモニウム、3級アミン、3級及び4級アミン混合基等の少なくとも1種が使用できる。陽イオン官能基としては、スルホプロピル(SP)、スルホエチル(SE)、カルボキシメチル(CM)、オルトリン酸塩(P)、スルホン酸、カルボン酸等の少なくとも1種が使用できる。好ましくは、陰イオン官能基である。イオン交換体の支持体と官能基との組み合わせは、特に制限されず、酵素反応条件等に応じて適宜選択される。【0030】好ましいイオン交換樹脂としては、アンバーライト、ダウエックス、ダウエックスマラソンA、デュオライト、ダイヤイオンシリーズ等を使用することができる。【0031】好ましいイオン交換セルロースとしては、DEAE‐セルロース、TEAE-セルロース、QEA‐セルロース、SP‐セルロース、SE‐セルロース、CM‐セルロース等を使用することができる。【0032】前記ゲル濾過剤としては、デキストランゲル、ポリアクリルアミドゲル、アガロースゲル、シリカ等を使用することができる。好ましくは、セファデックス、バイオゲル、セファロース、トヨパール、アガロース、セファクリル、セルロファイン、キトビーズ等を使用することができる。【0033】その他の各種クロマトグラフィー用充填剤としては、アフィニティークロマトグラフィー用充填剤、疎水性クロマトグラフィー用充填剤、合成吸着剤、キレートクロマトグラフィー用充填剤、分配クロマトグラフィー用充填剤等を使用できる。【0034】本発明において使用されるアフィニティークロマトグラフィー用充填剤は、特に制限されない。該充填剤の支持体としては、例えばアガロースゲル等を使用できる。該充填剤の官能基としては、例えばレクチン、セロトニン、3‐ヒドロキシインドール酢酸、アミノ、カルボキシル、アルデヒド、フェノール、イミダゾール等の少なくとも1種を使用できる。該充填剤の支持体と官能基との組み合わせは、特に制限されず、酵素反応条件等に応じて適宜選択される。【0035】本発明において使用される疎水性クロマトグラフィー用充填剤は、特に制限されない。該充填剤の支持体としては、例えばアガロースゲル等を使用できる。該充填剤の官能基としては、例えばアミノ、カルボキシル、アルデヒド、フェノール、イミダゾール等の少なくとも1種を使用できる。該充填剤の支持体と官能基との組み合わせは、特に制限されず、酵素反応条件等に応じて適宜選択される。【0036】本発明において使用されるキレートクロマトグラフィー用充填剤は特に制限されない。該充填剤の支持体としては、例えば架橋ポリスチレン等を使用できる。該充填剤の官能基としては、例えばイミノジ酢酸、ポリアミン等の少なくとも1種を使用できる。該充填剤の支持体と官能基との組み合わせは、特に制限されず、酵素反応条件等に応じて適宜選択される。【0037】本発明において使用される分配クロマトグラフィー用充填剤は特に制限されない。該充填剤の支持体としては、例えば化学結合型シリカゲル、ポーラスポリマーゲル、親水性ポリマーゲル等を使用できる。該充填剤の官能基としては、例えばアミド、オクタデシル、フェニル等の少なくとも1種を使用できる。該充填剤の支持体と官能基との組み合わせは、特に制限されず、酵素反応条件等に応じて適宜選択される。【0038】酵素反応の温度、pH、時間、酵素量等は、使用する酵素、基質等により決定される。【0039】以下、基質としてシアル酸、酵素としてN-アセチルノイラミン酸リアーゼを用い、酵素反応生成物としてN-アセチルマンノサミンを製造する場合について例示する。【0040】シアル酸にN-アセチルノイラミン酸リアーゼを作用させた場合、シアル酸は、N-アセチルマンノサミンとピルビン酸に分解される。一般に、N-アセチルノイラミン酸リアーゼによるシアル酸分解・合成反応は可逆反応であるため、シアル酸からN-アセチルマンノサミンへのモル変換収率は80%程度である。【0041】本発明では、担体に結合したシアル酸にN-アセチルノイラミン酸リアーゼを作用させると、N-アセチルマンノサミンとピルビン酸が生成してくるが、該ピルビン酸は担体と結合し、N-アセチルマンノサミンは遊離する。このため、反応終了後に反応系から担体及びN-アセチルノイラミン酸リアーゼを分離するだけで、N-アセチルマンノサミンのみが容易に且つ高純度で回収でき、煩雑な精製工程を必要としない。また、ピルビン酸が担体と結合することにより、N-アセチルマンノサミンからシアル酸への逆反応が抑制されるため、シアル酸からN-アセチルマンノサミンへのモル変換収率が100%となる。【0042】シアル酸の供給源としては、N-アセチルグルコサミンとピルビン酸を、アルカリ条件下において、N-アセチルノイラミン酸リアーゼを作用させてシアル酸を得るシアル酸製造法が報告されている(特開平5‐211884号)。このシアル酸合成反応液を中和、または、中和後にN‐アセチルノイラミン酸リアーゼを補添することによって、N‐アセチルマンノサミンが生成するが、この反応液からN‐アセチルマンノサミンを精製することは困難である。なぜなら、N‐アセチルグルコサミンとN‐アセチルマンノサミンの分離が困難であるからである。そこで、シアル酸合成反応液(N-アセチルグルコサミンからシアル酸へのモル変換収率50%)を、陰イオン交換体に通液すると、ピルビン酸及びシアル酸は陰イオン交換体に結合するが、N-アセチルグルコサミンは結合しないので、洗浄によってN‐アセチルグルコサミンの混入は容易に除去できる。その後、シアル酸及びピルビン酸が結合した該陰イオン交換体に、N-アセチルノイラミン酸リアーゼを作用させると、前記記載のように高純度のN-アセチルマンノサミンが、シアル酸からのモル変換収率100%(N-アセチルグルコサミンからのモル変換収率では50%)で得られる。【0043】また、N-アセチルグルコサミンとピルビン酸を、中性条件下において、N-アセチルノイラミン酸リアーゼ及びアシルグルコサミン2−エピメラーゼを作用させてシアル酸を得るシアル酸製造法が報告されている[Carbohydrate Research,306,575‐578(1998)]。シアル酸を含んだこの反応液(N-アセチルグルコサミンからシアル酸へのモル変換収率では80%)を前記と同様に陰イオン交換体に通液し、シアル酸及びピルビン酸が結合した該陰イオン交換体に、N-アセチルノイラミン酸リアーゼを作用させると、シアル酸からのモル変換収率100%(N-アセチルグルコサミンからのモル変換収率では80%)で高純度のN-アセチルマンノサミンが容易に得られる。【0044】本発明に対し、シアル酸を含んだ後者反応液を、担体を用いずに反応させた場合にはピルビン酸などの夾雑物質の影響で、シアル酸からのモル変換収率は55%(N-アセチルグルコサミンからのモル変換収率では44%)であり、精製も困難である。特に、未反応のN‐アセチルグルコサミンが混入するため、該物質の除去が極めて困難である。【0045】本発明のN-アセチルマンノサミンの製造法において、シアル酸としては、当然、高純度のものも使用できるが、不純物が酵素反応に悪影響を及ぼさなければ、不純物を含んでいる粗シアル酸も使用できる。例えば、特開平5-211884号やCarbohydrate Research,306,575‐578(1998)に記載されているようなシアル酸合成反応液、鶏卵、牛乳、海燕の巣、コロミン酸、その他シアル酸のポリマー、糖タンパク質、糖脂質、糖ヌクレオチド等のようなシアル酸を含有する物質を、シアル酸が遊離している場合はそのまま、或いはシアル酸がある物質と結合している場合は酸分解、酵素分解等でシアル酸を遊離させることにより使用することができる。【0046】担体に結合させるシアル酸量には制限がなく、担体に結合する可能な限りのシアル酸を結合できる。例えば、陰イオン交換体である ダウエックスマラソンAを担体として用いた場合には、湿潤樹脂1ml当り、150mg程度のシアル酸が結合できる。【0047】本発明のN-アセチルマンノサミンの製造法において使用するN-アセチルノイラミン酸リアーゼとしてはその起源を問わない。また、不純物が酵素反応に悪影響を及ぼさなければ、粗N-アセチルノイラミン酸リアーゼも使用でき、特に精製されたものでなくてもよい。【0048】本発明のN-アセチルマンノサミンの製造法において、担体としては、シアル酸と結合し且つN-アセチルマンノサミンと結合しない限り特に制限されないが、イオン交換体、ゲル濾過剤、その他の各種クロマトグラフィー用充填剤、多糖、ポリマー、活性炭等を使用することができる。好ましいのはイオン交換体及びゲル濾過剤である。特に、陰イオン交換樹脂が好ましい。陰イオン交換樹脂としては、アンバーライト、ダウエックス、ダウエックスマラソンA、デュオライト、ダイヤイオンシリーズ等を使用することができる。好ましいその他の担体の例示は前記の通りである。【0049】酵素反応の温度、pH、時間、酵素量等は、使用する酵素、基質等により決定される。【0050】担体に結合したシアル酸のN-アセチルノイラミン酸リアーゼとの反応方法は、バッチ法でも、カラムに充填しても、そのモル変換収率に変化はなく、特に限定されない。好ましくは、カラムに充填する方法、バッチ法による振とう反応、バッチ法による静置反応方法等である。【0051】反応液からN-アセチルノイラミン酸リアーゼを除去する方法としては、限外濾過膜、熱変性除去、酸変性除去、ゲル濾過カラムクロマトグラフィー、タンパク質固定化担体、タンパク質吸着剤等により除去する方法等を使用することができる。【0052】酵素反応の温度は、酵素反応が進行する限り特に制限されないが、5〜80℃、好ましくは20〜60℃である。【0053】酵素反応のpHは、酵素反応が進行する限り特に制限されないが、pH3.5〜pH11、好ましくはpH3.5〜pH8である。【0054】酵素反応時間、酵素量等は、使用するシアル酸の量、温度、pH等に応じて適宜選択される。【0055】【実施例】以下、本発明の具体例を実施例として示す。[実施例1]シアル酸1.2gを24mlの水に溶解し、これに陰イオン交換樹脂(ダウエックスマラソンA)を湿潤樹脂量として8mlを加え、室温で30分間攪拌した。攪拌後、樹脂を水にて洗浄し、樹脂に吸着したシアル酸量を測定すると、湿潤樹脂1mlにシアル酸150mgが吸着していた。【0056】このシアル酸が吸着した樹脂にN-アセチルノイラミン酸リアーゼを30U添加し、37℃で往復振とう反応を行なった。反応pHは6〜7に調整した。【0057】経時的にサンプリングして、N-アセチルマンノサミン脱水素酵素により変換されたN-アセチルマンノサミン量を定量分析したところ、図1に示されるように、3時間後のシアル酸のN-アセチルマンノサミンへのモル変換収率は100%であった。【0058】この反応液の少量を限外濾過し、HPLCで分析したところ、樹脂からのシアル酸及びピルビン酸の遊離は認められず、N-アセチルマンノサミンのみが遊離していた。【0059】反応終了後、反応液と陰イオン交換樹脂中に残存する反応液を水で洗い出し、分画分子量10,000の限外濾過膜を使用してN-アセチルノイラミン酸リアーゼを除去し、凍結乾燥後、白色粉末0.8gを得た。【0060】得られたN-アセチルマンノサミンのHPLC純度は100%であった。[実施例2]N-アセチルグルコサミン18g及びピルビン酸ナトリウム18gを100mlの水に溶解し、10N NaOH水溶液にてpH10.5に調整後、1,000UのN-アセチルノイラミン酸リアーゼを添加し、シアル酸合成反応を行なった。30℃で120時間反応後、反応液中のシアル酸濃度を定量した結果、126mg/mlのシアル酸が生成した。【0061】この反応液40ml(シアル酸として5.04g)を脱塩処理後、陰イオン交換樹脂(ダウエックスマラソンA)100mlを充填したカラムに通液することで、湿潤樹脂1mlにシアル酸50.4mgが吸着した。【0062】このシアル酸が吸着した樹脂100mlにN-アセチルノイラミン酸リアーゼを500U添加し、37℃で反応を行なった。【0063】経時的にサンプリングして、N-アセチルマンノサミン量を定量分析したところ、3時間後のシアル酸のN-アセチルマンノサミンへのモル変換収率は100%であった。反応液の少量を限外濾過し、HPLCで分析したところ、樹脂から反応液へのシアル酸及びピルビン酸の混入は認めらずN-アセチルマンノサミンのみが認められた。【0064】これらの結果、使用したN-アセチルグルコサミンからN-アセチルマンノサミンへのモル変換収率は、50%であった。【0065】反応終了後、反応液と陰イオン交換樹脂中に残存する反応液を水で洗い出し、分画分子量10,000の限外濾過膜を使用してN-アセチルノイラミン酸リアーゼを除去後、凍結乾燥し、白色粉末3.4gを得た。【0066】得られたN-アセチルマンノサミンのHPLC純度は100%であった。[実施例3]N-アセチルグルコサミン17.7g、ピルビン酸ナトリウム5.3g、塩化マグネシウム0.2g及びATP5.5gを100mlの水に溶解し、10N NaOH水溶液にてpH7.2に調整後、1,000UのN-アセチルノイラミン酸リアーゼ及び200Uのアシルグルコサミン2-エピメラーゼを添加し、シアル酸合成反応を行なった。【0067】30℃で反応し、50時間後及び120時間後に3Mピルビン酸ナトリウム溶液を夫々25ml、14ml添加した。反応液中のシアル酸濃度を定量した結果、反応180時間後に140mg/ml(19.5g生成)のシアル酸が生成した。【0068】この反応液40ml(シアル酸として5.6g)を脱塩処理後、陰イオン交換樹脂(ダウエックスマラソンA)100mlを充填したカラムに通液することで、湿潤樹脂1mlにシアル酸56.0mgが吸着した。【0069】このシアル酸が吸着した樹脂100mlにN-アセチルノイラミン酸リアーゼを500U添加し、37℃で反応を行なった。【0070】経時的にサンプリングして、N-アセチルマンノサミン量を定量分析したところ、3時間後のシアル酸のN-アセチルマンノサミンへのモル変換収率は100%であり、反応液の少量を限外濾過し、HPLCで分析したところ、樹脂から反応液へのシアル酸及びピルビン酸の混入は認められなかった。 反応終了後、反応液と陰イオン交換樹脂中に残存する反応液を水で洗い出し、分画分子量10,000の限外濾過膜を使用してN-アセチルノイラミン酸リアーゼを除去後、凍結乾燥し、白色粉末3.8gを得た。得られたN-アセチルマンノサミンのHPLC純度は100%であった。【0071】これらの結果、使用したN-アセチルグルコサミンからN-アセチルマンノサミンへのモル変換収率は、79%であった。【0072】一方、この反応液を担体を用いずに反応した場合は、シアル酸からのモル変換収率55%、N-アセチルグルコサミンからのモル変換収率では44%であった(図1)。[実施例4][実施例1]から[実施例3]の結果をふまえて、実際に反応規模を大きくしてN-アセチルマンノサミンを製造した。【0073】N-アセチルグルコサミン1,770g、ピルビン酸ナトリウム530g、塩化マグネシウム20g及びATP 55gを10lの水に溶解し、10N NaOH水溶液にてpH7.2に調整後、100kUのN-アセチルノイラミン酸リアーゼ及び20kUのアシルグルコサミン2-エピメラーゼを添加し、シアル酸合成反応を行なった。【0074】30℃で反応し、50時間後及び120時間後に3Mピルビン酸ナトリウム溶液を夫々2.5l、1.4l添加した。反応液中のシアル酸濃度を定量した結果、反応180時間後に140mg/mlのシアル酸が生成した。【0075】この反応液13.9l(シアル酸として1,946g)を脱塩処理後、陰イオン交換樹脂(ダウエックスマラソンA)35lを充填したカラムに通液した。脱塩処理液を陰イオン交換樹脂に通液後、水にて洗浄することで、湿潤樹脂1mlにシアル酸55.6mgが吸着した。【0076】このシアル酸が吸着した陰イオン交換樹脂35lが充填されたカラムにN-アセチルノイラミン酸リアーゼ150kUを図2に示すように循環させた。本反応は、37℃で行なった。【0077】経時的にサンプリングして、反応液の少量を限外濾過し、N-アセチルマンノサミン量を定量分析したところ、40時間後にはシアル酸が完全分解し、N-アセチルマンノサミンへのモル変換収率が100%となった(図3)。【0078】反応終了後、反応液と陰イオン交換樹脂の洗浄液から、N-アセチルマンノサミンが1,390gが得られた。【0079】この反応液から、分画分子量1,000の限外濾過膜を使用してN-アセチルノイラミン酸リアーゼを除去し、減圧濃縮した。【0080】この濃縮液を凍結乾燥し、白色粉末1,320gを得た。得られた粉末を下記条件のHPLCで測定したところ、純度は100%であった(図4)。【0081】カラム:Aminex HPX-87H(Bio-Rad)移動相:10mM H2SO4流速:0.5ml/min検出:205nm温度:室温また、凍結乾燥以外にもエタノール等の有機溶媒を使用して、粉末が得られることも確認した。さらに、濃縮することで過飽和結晶が得られることも確認した。【0082】得られたN-アセチルマンノサミン凍結乾燥粉末のN-アセチルグルコサミンからのモル変換収率は約80%と算出され、本発明の優れた効果が確認できた。【0083】これらの結果から、シアル酸あるいはシアル酸を含んだ溶液から、シアル酸を陰イオン交換体に結合させ、N-アセチルノイラミン酸リアーゼを作用させることで、N-アセチルマンノサミンのみが遊離し、夾雑物もなく、精製が非常に簡便になることが確認できた。また、N-アセチルグルコサミンとピルビン酸からいったん原料となるシアル酸を合成する反応は、スケールアップも容易で且つ制限がないことから、本発明が提案するN-アセチルマンノサミンの製造法は高純度のN-アセチルマンノサミンを非常に容易に且つ大量に供給することが可能になった。【0084】【発明の効果】本発明によれば、酵素反応において、酵素反応液中の酵素反応生成物以外の物質が担体に結合されることによって、酵素反応後の酵素反応生成物の分離・精製が容易になる。また、基質が担体に結合されることにより、酵素反応の平衡が酵素反応生成物側にシフトし、酵素反応生成物への生成が促進され、収率が向上する。【0085】特に、本発明のN-アセチルマンノサミンの製造法では、精製が容易で収率がほぼ100%になり、N-アセチルマンノサミンの大量・安価な供給が可能になる。【図面の簡単な説明】【図1】本発明の[実施例1]におけるシアル酸からのN-アセチルマンノサミン(ManNAc)へのモル変換収率を示すグラフである。【図2】本発明の[実施例4]における反応装置の概略である。【図3】本発明の[実施例4]におけるシアル酸からのN-アセチルマンノサミン(ManNAc)へのモル変換収率を示すグラフである。【図4】本発明の[実施例4]における調製したN-アセチルマンノサミンのHPLCクロマトグラムである。縦軸は保持時間を示し、その単位は分である。 基質を担体に結合させる工程並びに担体に結合した基質と酵素とを反応させる工程を含む酵素反応生成物の製造法であって、基質がシアル酸であり、担体が陰イオン交換体であり、酵素がN-アセチルノイラミン酸リアーゼである、酵素反応生成物の製造法。 酵素反応生成物がN-アセチルマンノサミンである請求項1に記載の製造法。 基質を担体に結合させる工程が、N-アセチルグルコサミンとピルビン酸にアルカリ条件下でN-アセチルノイラミン酸リアーゼを作用させた反応液を陰イオン交換体に通液する工程であることを特徴とする請求項2に記載の製造法。 基質を担体に結合させる工程が、N-アセチルグルコサミンとピルビン酸にアシルグルコサミン2−エピメラーゼ及びN-アセチルノイラミン酸リアーゼとを作用させた反応液を陰イオン交換体に通液する工程であることを特徴とする請求項3に記載の製造法。