タイトル: | 特許公報(B2)_多孔質錯体および吸着剤 |
出願番号: | 1999138328 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | C07C 63/307,B01J 20/22,B01J 20/30,C07F 1/08 |
足立 貴義 市田 泰三 内野 誠 JP 3917324 特許公報(B2) 20070216 1999138328 19990519 多孔質錯体および吸着剤 大陽日酸株式会社 000231235 大石 征郎 100087882 足立 貴義 市田 泰三 内野 誠 20070523 C07C 63/307 20060101AFI20070426BHJP B01J 20/22 20060101ALI20070426BHJP B01J 20/30 20060101ALI20070426BHJP C07F 1/08 20060101ALN20070426BHJP JPC07C63/307B01J20/22 AB01J20/30C07F1/08 B C07C 51/41、63/307 B01J 20/22、20/30 C07F 1/08 CA(STN) REGISTRY(STN) Stephen S.-Y. Chui et al.,Science,1999年 2月19日,vol. 283, no. 5405,p.1148-1150 4 2000327628 20001128 12 20010323 小林 均 【0001】【発明の属する技術分野】 本発明は、酢酸第二銅とトリメシン酸とから合成される新規な錯体、およびその錯体からなる吸着剤に関するものである。【0002】【従来の技術】 トリメシン酸を含むベンゼントリカルボン酸の金属錯体について、いくつかの研究がなされている。以下、本発明に近い2,3の文献を関連文献としてあげる。【0003】〈文献1〉 ポーランド化学雑誌である「POLISH JOURNAL OF CHEMISTRY (FORMERLY ROCZNIKI CHEMII), 60, 697 (1986)」(文献1)には、「銅(II)のベンゼントリカルボン酸との錯体の製造と特性」と題する論文が掲載されている。この論文によれば、銅(II)のヘミメリト酸塩、トリメシン酸塩およびトリメリト酸塩を、金属対配位子の比率で3:2である水和塩として得ている。【0004】 実験では、銅(II)とヘミメリト酸、トリメシン酸またはトリメリト酸との錯体を、トリカルボン酸のアンモニウム塩の熱溶液(pH5〜 5.5)に当量の硝酸第二銅の 0.1Mの溶液を加えることにより得、形成された沈殿を母液中で333〜343K(60〜70℃)に 0.5時間加熱し、ろ過し、蒸留水で洗ってNH4+イオンを除き、303K(30℃)で恒量になるまで乾燥することにより得ている。【0005】 得られた錯体についての赤外線吸収スペクトル、粉末X線回折パターンも示されている。この錯体は、加熱により脱水し、加熱速度に応じて、直接CuOにまたはCu2Oの中間体形成と共に分解される。【0006】〈文献2,2’〉 「J. Am. Chem. Soc., 1996, 118, 9096-9101 」(文献2)には、「1,3,5−ベンゼントリカルボン酸の水素結合金属錯体からの多孔質固体の構築」と題する論文が掲載されている。ここでは、M(II)(M=Co、Ni、Zn)アセテートハイドレートと1,3,5−ベンゼントリカルボン酸(BTC)との水性混合物を炉に入れ、140℃に昇温してこの温度で24時間反応させることにより、M3(BTC)2・12H2O としてフォーミュレートされる物質を得ており、その詳しい解析がなされている。得られた金属錯体は、水やアンモニアを吸脱着する。【0007】 この文献2(およびその関連文献)については、「科学と工業, 71(10), 434-448 (1997)」(文献2’)の「分子性ゼオライト−有機・無機複合ゼオライトの合成−」と題する解説記事においても言及があり、この錯体は、酸素、窒素、一酸化炭素などとは交換を行わないが、水やアンモニアなどを可逆的に吸脱着することができるとある。【0008】【発明が解決しようとする課題】 ベンゼントリカルボン酸には、ヘミメリト酸、トリメシン酸、トリメリト酸の3種がある。今、ベンゼントリカルボン酸をBTC、2価の金属をMで表わすと、上記文献1および文献2,2’の錯体は「M3(BTC)2・mH2O」で示されるものと考えられる。mは1,2,3,4,5,6,12などである。【0009】 文献1には、そこで得られる錯体の基礎特性があげられているだけであり、その用途については言及がない。文献2,2’には、そこで得られる錯体の基礎特性と共に、水およびNH3 ガスの吸脱着につき言及があるので、吸着剤としての用途が示唆されている。【0010】 ところで、文献1の錯体のX線回折結果については、X-RAY POWDER DATA FILEに収録のデータにより知ることができる。それによれば、後の実施例の個所の表にも詳述したように、文献1の錯体のうちCu3(C9H3O6)3・3H2O、Cu3(C9H3O6)2で示される錯体の粉末X線回折における面間隔dのうちメインのものは、それぞれ9.37Å、8.93Åである。もし[Cu3(C9H3O6)2]n を基本単位とする構造式を有していても、面間隔dがこれらと相違しているものが得られれば、その錯体は文献1の錯体とは立体構造が違っており、従ってその錯体の性質も異なり、利用分野の拡大が期待できる。なお、文献2,2’の錯体は、金属成分がCo、NiまたはZnであり、本発明の意図しているCu系錯体とは物質が相違している。【0011】 本発明は、このような背景下において、酢酸第二銅とトリメシン酸とから合成される新規な錯体を提供すること、およびその錯体の用途の一例である吸着剤を提供することを目的とするものである。【0012】【課題を解決するための手段】 本発明の多孔質錯体は、 (イ)酢酸第二銅とトリメシン酸とから合成される錯体であって、 (ロ)[Cu3(C9H3O6)2]n を基本単位とする構造式を有し、 (ハ)かつ粉末X線回折におけるメインの面間隔dが7.60Åであること、を特徴とするものである。 また、本発明の吸着剤は、上記(イ)、(ロ)、(ハ)の要件を満足する多孔質錯体を主剤とするものである。【0013】【発明の実施の形態】 以下本発明を詳細に説明する。【0014】 本発明の多孔質錯体は、酢酸第二銅とトリメシン酸との反応物である。【0015】 トリメシン酸としては、トリメシン酸(つまり1,3,5−ベンゼントリカルボン酸)が用いられる。【0016】 反応は、酢酸第二銅とトリメシン酸とを、それら両者を溶解する炭素数3以下のアルコール溶媒中で行われる。このようなアルコール溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールがあげられる。これらは、2種以上の混合溶媒であってもよい。【0017】 炭素数3以下のアルコール溶媒の使用量については、特に限定はないものの、重量基準で、酢酸第二銅とトリメシン酸との合計量の10〜2000倍程度、殊に30〜1000倍程度用いることが、反応の制御の容易さの点で好ましい。【0018】 酢酸第二銅とトリメシン酸とのモル比は、酢酸第二銅3モルに対しトリメシン酸2モルを目安とするが、その比率よりもどちらかを過剰ないし大過剰に用いてもよい。酢酸第二銅に基く第二銅イオンから見た場合、配位子がトリメシン酸に交換されることになるので、通常は後者のトリメシン酸の方を同等か過剰に、たとえば酢酸第二銅3モルに対しトリメシン酸を2〜10モル程度用いる方が有利である。トリメシン酸をさらに大過剰用いても反応上は有利となるが、経済的には良いとは言えない。【0019】 反応は、上記の炭素数3以下のアルコール溶媒中で、常圧(大気圧)下に行う。【0020】 反応温度は、30℃(殊に40℃、なかんずく50℃)から系の沸点までの温度とすることが好ましく、通常は還流下に反応を行う。反応温度が余りに低すぎるときは反応速度が遅くなり、反応温度が余りに高いときには生成物が分解する。【0021】 反応時間は、反応温度によって大きく異なるので一概には決められないが、1時間〜10日間程度の範囲から選ぶことが多い。【0022】 反応終了後、冷却すると、生成物が沈殿として得られるので、必要に応じ、水や有機溶媒による洗浄や再結晶を行う。これにより目的物である錯体(多孔質錯体)が得られる。【0023】 このようにして得られた錯体は、[Cu3(C9H3O6)2]n を基本単位とする構造式を有し、かつ粉末X線回折におけるメインの面間隔dが7.60Åである。この錯体は、水にはごくわずかしか溶けない(水1リットルに対し100mgよりも少ない量)。【0024】 この錯体は多孔質であり、比表面積が大きく、窒素ガスや酸素ガスを吸収するので、吸着剤として用いることができる。また、触媒、乾燥剤、分別材料、分析材料、電池材料などの用途も期待できる。【0025】〈作用〉 本発明の錯体は、先に従来の技術の項で述べた文献1の錯体とは基本単位となる構造式は同じであると思われる。しかしながら、本発明の錯体と文献1の錯体とは、後の実施例の項で対比するようにX線回折結果が相違することから(IRの特徴的吸収ピークも相違)、立体構造が異なり、また高分子化の程度も異なる別物質であると言うことができる。【0026】 後述の実施例のように、細孔分布の測定による本発明の錯体の平均細孔は 5.9Åであり、空孔容積のピーク値の細孔直径は 5.5Åである。【0027】 一方、本発明の錯体について、粉末X線回折結果中で最大強度の回折線より求められる面間隔dは7.60Åである。ここでファンデルワールス半径を考慮すると、面間に吸着できる空孔の大きさは4〜5Åと考えられ、この値は上に述べた細孔分布測定結果と良い一致を示す。【0028】 N2 ガスやO2 ガスの分子の大きさは3〜4Å程度であるので、本発明の錯体がこれに近い 5.9Åの平均細孔直径を有することは、本発明の錯体が吸着剤として好ましいであろうことが予想される。そして事実、本発明の錯体はN2 ガスおよびO2 ガスを良く吸着する。このときの吸着挙動を見ると、室温条件下においてガス吸着量を測定した場合には、圧力の如何にかかわらず、N2 ガスおよびO2 ガスを共に同程度吸着する。後述の比較例1〜3においては本発明と同条件でCo、Ni、Znの錯体を合成したが、その比表面積は小さく(この順に65m2/g、14m2/g、6m2/g)、細孔半径は大きく(この順に17Å、15Å、20Å)、ガスの吸着には不適当であった。【0029】 従来の技術の項で述べた文献1の錯体にあっては、粉末X線回折結果中で最大強度の回折線より求められる面間隔dは9.37Åとか8.93Åであり、N2 ガスやO2 ガスの吸着には向いていないものと考えられる。【0030】 吸着剤の代表例であるゼオライト(モレキュラーシーブス)のガス吸着量は、吸着剤−ガス間の親和力の差に基因して、N2 ガス(四重極性を有する)の吸着量が大で、O2 ガス(四重極性を有しない)の吸着量が小である。一方、同じく吸着剤の代表例であるモレキュラーシービングカーボン(カーボンモレキュラーシーブス)の場合には、長時間経過後の吸着量はN2 ガスもO2 ガスも同等であるが、吸着ガスの分子径差に基因して拡散速度(つまり吸着速度)が相違するので、O2 ガス(分子径 2.8〜 4.2Å)の方がN2 ガス(分子径 3.0〜 4.1Å)よりも吸着速度が大きく、短時間内ではO2 ガスの方がN2 ガスよりも先に吸着される。【0031】 これらのことから、本発明の錯体は、ゼオライトとはガス吸着挙動が異なり、モレキュラーシービングカーボンともガス吸着挙動が異なり、N2 ガスもO2 ガスと同程度の速度ですみやかに吸着することが可能である。【0032】【実施例】 次に実施例をあげて本発明をさらに説明する。【0033】〈測定方法〉 ・比表面積および細孔分布は、真空下120℃で1〜3時間ほど加熱して放出ガスがなくなるまで脱水処理したサンプルにつき、Micromeritics 社製のAccuSorb 2100Eを用いて液体窒素温度で測定し、比表面積はBET法で計算した。また、直径10Å以下の細孔の測定には、株式会社島津製作所製の比表面積・細孔分布測定器「ASAP−2010」を用い、測定ガスはアルゴンを用いた。 ・酸素ガスと窒素ガスの吸着量は、AccuSorb 2100Eを用いて25℃で測定した。【0034】実施例1 300mlの三つ口フラスコに酢酸第二銅一水和物 200.2mg(1.003mmol) を入れ、エタノール100mlを加えて溶かした。これにトリメシン酸 420.8mg(2.002mmol) をエタノール50mlに溶かした溶液を加え、1週間加熱還流した。1週間後に加熱を止め、冷却し、沈殿をろ過して、窒素ガスを吹き付けて乾燥させたところ、青色の沈殿 156.3mgが得られた。収率は、出発物質として用いた酢酸第二銅基準で約73%であった。【0035】 この沈殿を真空下に120℃で1時間加熱処理し、比表面積計で測定したところ、比表面積は398m2/gであり、細孔分布のピークは半径11Å以下であった。【0036】 さらに室温(25℃)下における圧力とガス吸着量との関係を求めたところ、図1の結果が得られた。この図1から、室温(25℃)、大気圧(760mmHg)下でのガス吸着量は、酸素ガスが 4.6ml/g、窒素ガスが 4.6ml/gであることがわかる。【0037】実施例2 500mlの三つ口フラスコに酢酸第二銅一水和物1.01g(5.06mmol)を入れ、エタノール200mlを加えて溶かした。これにトリメシン酸2.16g(10.3mmol)をエタノール50mlに溶かした溶液を加え、1週間加熱還流した。1週間後に加熱を止め、冷却し、沈殿をろ過して、窒素ガスを吹き付けて乾燥させたところ、青色の沈殿 595.7mgが得られた。収率は、出発物質として用いた酢酸第二銅基準で約55%であった。【0038】 この沈殿を真空下に120℃で1時間加熱処理し、比表面積計で測定したところ、比表面積は586m2/gであり、細孔分布のピークは半径12Å以下であった。この物質に関してさらにマイクロポアの細孔分布を測定したところ、空孔容積のピーク値の細孔直径は 5.5Åであった。なお、このときの細孔分布のグラフを図9に示す。【0039】 さらに室温(25℃)下における圧力とガス吸着量との関係を求めたところ、図2の結果が得られた。この図2から、室温(25℃)、大気圧(760mmHg)下でのガス吸着量は、酸素ガスが 4.5ml/g、窒素ガスが 4.5ml/gであることがわかる。【0040】実施例3 300mlの三つ口フラスコに硝酸第二銅三水和物 0.261g(1.08mmol)を入れ、イソプロパノール150mlを加えて溶かした。これにトリメシン酸 0.211g(1.00mmol)をイソプロパノール50mlに溶かした溶液を加え、その後7日間加熱還流した。7日後に加熱を止め、冷却し、沈殿をろ過して、窒素ガスを吹き付けて乾燥させたところ、青色の沈殿 0.165gが得られた。収率は、出発物質として用いた硝酸第二銅基準で約64%であった。【0041】 この沈殿を真空下に120℃で1時間加熱処理し、比表面積計で測定したところ、比表面積は399m2/gであり、細孔分布のピークは半径12Å以下であった。【0042】比較例1 500mlの三つ口フラスコに酢酸コバルト四水和物1.29gを入れ、エタノール220mlを加えて溶かした。これにトリメシン酸2.15gをエタノール80mlに溶かした溶液を加え、3日間加熱還流した。3日後に加熱を止め、冷却し、沈殿をろ過して、窒素ガスを吹き付けて乾燥させたところ、淡紫色の沈殿1.63gが得られた。【0043】 この沈殿を真空下に120℃で1時間加熱処理し、比表面積計で測定したところ、比表面積は65m2/gであり、細孔分布の測定により求めた空孔容積のピーク値の細孔半径は17Åであった。また、25℃、760mmHgでのガス吸着量は1ml/gほどしかなかった。【0044】比較例2 300mlの三つ口フラスコに酢酸ニッケル四水和物 0.262gを入れ、エタノール100mlを加えて溶かした。これにトリメシン酸 0.456gをエタノール80mlに溶かした溶液を加え、3日間加熱還流した。3日後に加熱を止め、冷却し、沈殿をろ過して、窒素ガスを吹き付けて乾燥させたところ、淡緑色の沈殿 0.430gが得られた。【0045】 この沈殿を真空下に120℃で1時間加熱処理し、比表面積計で測定したところ、比表面積は14m2/gであり、細孔分布の測定により求めた空孔容積のピーク値の細孔半径は15Åであった。【0046】比較例3 300mlの三つ口フラスコに酢酸亜鉛二水和物 0.231gを入れ、エタノール100mlを加えて溶かした。これにトリメシン酸 0.397gをエタノール50mlに溶かした溶液を加え、4日間加熱還流した。4日後に加熱を止め、冷却し、沈殿をろ過して、窒素ガスを吹き付けて乾燥させたところ、白色の沈殿 0.229gが得られた。比表面積は6m2/gであり、細孔分布の測定の結果、細孔半径は20Åであった。【0047】参考例1 モレキュラーシーブス5A(ガスクロ工業株式会社製、30/60メッシュ)の室温(25℃)下における圧力とガス吸着量との関係を求めたところ、図3の結果が得られた。この図3から、室温(25℃)、大気圧(760mmHg)下でのガス吸着量は、酸素ガスが 2.8ml/g、窒素ガスが 7.8ml/gであることがわかる。【0048】参考例2 モレキュラーシーブス13X(ガスクロ工業株式会社製、30/60メッシュ)の室温(25℃)下における圧力とガス吸着量との関係を求めたところ、図4の結果が得られた。この図4から、室温(25℃)、大気圧(760mmHg)下でのガス吸着量は、酸素ガスが 1.9ml/g、窒素ガスが 5.4ml/gであることがわかる。【0049】参考例3 モレキュラーシービングカーボン(MSC、武田薬品株式会社製の「モルシーボン3A」)の吸着等温線を求めたところ、図5の結果が得られた。大気圧(760mmHg)下でのガス吸着量は、酸素ガスが 7.3ml/g、窒素ガスも 7.3ml/gであることがわかる。【0050】〈実施例2の錯体の他の測定値〉 上記実施例2で得られた錯体については、さらに元素分析、IR、粉末X線回折、TG(熱天秤)を行った。結果を以下に示す。【0051】(1)元素分析 上記実施例2で得られた錯体につき、窒素気流下100℃で1時間乾燥させた後、大気中に数日間放置したサンプルについて、元素分析を行ったところ、検出値は、 C:34.1%、H: 2.1%、灰分:33.9%であった。推定構造式 [Cu3(C9H3O6)2・3H2O・CH3CH2OH]nの計算値は C:34.1%、H: 2.6%、Cu:27.0%となるので、上記検出値の灰分をCuOとするとCu分は27.1%となり、3成分が± 0.5%の範囲に入る。【0052】(2)IR 上記実施例2で得られた錯体のIR(KBr法)チャートを図6に示す。図6から、3400, 1710, 1622, 1566, 1450, 1376, 1112, 760, 730, 492cm-1 に吸収があることがわかる。このうち特徴的なIR吸収スペクトルを、従来の技術の項であげた文献1のそれと対比すると次の表1のようになる。IR吸収スペクトルの測定には日立赤外分光光度計を使用し、ピーク検出は本装置にて自動検出した。表1中のΔνは、νasym/COO- とνsym/COO-との差である。(注)文献1の第2表にはHemimellitate, Trimesinate, Trimellitateがこの順にあげてあるが、その錯体の調製の個所には「... benzene-1,2,4-tricarboxylic (trimesinic), benzene-1,3,5-tricarboxylic (trimellitic) acids ... 」(正しくは、-1,2,4- がトリメリト酸で、-1,3,5- がトリメシン酸)と混同があるので、文献1の第2表のTrimesinate, Trimellitate は逆かも知れないことを考えて、次の表1にはTrimesinate のデータの横に( )書きでTrimellitateのデータを付記した。【0053】【表1】 νasym/COO- νsym/COO- Δν νM-O/Cu-O 実施例2 1566 1376 190 492 文献1 1580(1570) 1440(1390) 140(180) 485(480) (注)表中の数値の単位はcm-1。【0054】(3)粉末X線回折 上記実施例2で得られた錯体の粉末X線回折値を図7に示す。また従来の技術の項であげた文献1のそれと対比して下記の表2に示す。表2中、文献1の1、文献1の2とあるのは、X-RAY POWDER DATA FILE(THE AMERICAN SOCIETY FOR TESTING MATERIALS発行)に収録のデータから、文献1に関するデータを取り出して転記したものである。【0055】・文献1の1 X-RAY POWDER DATA FILE 登録番号 39-1962 Cu3(C9H3O6)2・3H2O Copper benzene-1,3,5-tricarboxylate trihydrate REF: Pol. J. Chem., 60 697 (1986) Brzyska, W., Wolodkiewicz, W.・文献1の2 X-RAY POWDER DATA FILE 登録番号 39-1963 Cu3(C9H3O6)2 Copper benzene-1,3,5-tricarboxylate REF: Pol. J. Chem., 60 697 (1986) Brzyska, W., Wolodkiewicz, W.【0056】【表2】 実施例2 文献1の1 文献1の2 Cu3(C9H3O6)2・2H2O Cu3(C9H3O6)2・3H2O Cu3(C9H3O6)2 d(Å) Int. d(Å) Int. d(Å) Int. 7.60 100# 10.00 30 9.59 57* 6.76 57* 9.37 100# 8.93 100# 6.08 40 8.43 44 8.13 70* 5.40 45 6.76 50* 6.51 76* 5.05 52* 5.32 15 5.68 28 4.60 50* 5.07 4 5.19 31 3.78 42 4.90 5 4.79 14 3.63 38 4.34 3 4.53 13 3.41 45 4.19 22 4.28 28 3.03 44 3.56 5 4.02 31 2.55 35 3.49 9 3.71 23 2.30 36 3.41 23 3.52 18 2.16 37 3.18 49 3.44 23 1.47 31 3.06 11 3.40 4 2.87 7 3.26 56* 2.77 3 3.19 23 2.66 6 3.13 65* 2.55 6 3.00 20 2.47 5 2.82 12 2.35 9 2.74 8 2.31 6 2.67 13 2.19 3 2.62 12 【0057】 理解を容易にするため、表2には、Int.(強さ Intensity)が100のものに「#」の印、50以上のものに「*」の印を付した。表2から、本発明の錯体は文献1の錯体とはメインの面間隔dが明確に相違しており、従って両者は結晶構造が相違していることがわかる。【0058】(4)TG 上記実施例2で得られた錯体を、サンプル量 2.2mg、昇温速度1℃/min、最高温度500℃、アルゴンガス通気下の条件下に測定したときのTG(熱天秤)チャートを図8に示す。図8から、温度300℃以上で急激な重量減少が見られることがわかる。【0059】【発明の効果】 本発明によれば、酢酸第二銅とトリメシン酸とから合成される新規な錯体を提供することができる。またその錯体からなる吸着剤を提供することができる。【図面の簡単な説明】【図1】 実施例1の錯体のガス吸着量の測定結果を示したグラフである。【図2】 実施例2の錯体のガス吸着量の測定結果を示したグラフである。【図3】 参考例1のモレキュラーシーブスのガス吸着量の測定結果を示したグラフである。【図4】 参考例2のモレキュラーシーブスのガス吸着量の測定結果を示したグラフである。【図5】 参考例3のモレキュラーシービングカーボンの吸着等温線図である。【図6】 実施例2で得た錯体のIR(KBr法)チャートである。【図7】 実施例2で得た錯体の粉末X線回折図である。【図8】 実施例2で得た錯体のTG(熱天秤)チャートである。【図9】 実施例2で得た錯体の細孔分布を示したグラフである。 (イ)酢酸第二銅とトリメシン酸とから合成される錯体であって、 (ロ)[Cu3(C9H3O6)2]n を基本単位とする構造式を有し、 (ハ)かつ粉末X線回折におけるメインの面間隔dが7.60Åであること、を特徴とする多孔質錯体。 細孔分布の測定による空孔容積のピーク値の細孔直径が 5.5Åである請求項1記載の多孔質錯体。 N2 ガス、O2 ガスのそれぞれを室温条件下において0気圧から1気圧までの各圧力下に吸着させたとき、圧力の増大に伴いN2 ガス、O2 ガスのいずれも吸着量がほぼ直線的に増大しかつ各圧力下におけるN2 ガスの吸着量とO2 ガスの吸着量とが同程度であるガス吸着挙動を示すものである請求項1記載の多孔質錯体。 (イ)酢酸第二銅とトリメシン酸とから合成される錯体であって、 (ロ)[Cu3(C9H3O6)2]n を基本単位とする構造式を有し、 (ハ)かつ粉末X線回折におけるメインの面間隔dが7.60Åである、多孔質錯体を主剤とする吸着剤。