タイトル: | 特許公報(B2)_低温感受性乳酸菌株 |
出願番号: | 1999078068 |
年次: | 2009 |
IPC分類: | C12N 1/20,A23C 9/123,C12R 1/46 |
宮本 真理 青山 顕司 上保 健一 中島 肇 鈴木 豊 JP 4331309 特許公報(B2) 20090626 1999078068 19990323 低温感受性乳酸菌株 雪印乳業株式会社 000006699 後藤 さなえ 100127421 藤野 清也 100090941 宮本 真理 青山 顕司 上保 健一 中島 肇 鈴木 豊 20090916 C12N 1/20 20060101AFI20090827BHJP A23C 9/123 20060101ALI20090827BHJP C12R 1/46 20060101ALN20090827BHJP JPC12N1/20 AA23C9/123C12N1/20 AC12R1:46 C12N 1/00-7/08 A01J 1/00-99/00 A23C 1/00-23/00 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) PubMed Foods Adlibra/Foodline/FSTA(DIALOG) New Zealand Journal of Dairy Science and Technology,1983年,18(3),p.191-196 J. Dairy Sci.,1986年,69(10),p.2558-2568 乳の科学,朝倉書店,1996年,p.170-171 4 FERM P-16945 2000270844 20001003 7 20060309 六笠 紀子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) に属する新規な低温感受性乳酸菌株及び該菌株を含有する発酵乳に関する。本発明の乳酸菌株を用いて得られる発酵乳は、保存中の酸度上昇が抑制されている。【0002】【従来の技術】ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) は、牛乳や乳製品中に広く存在している乳酸菌であり、チーズの製造に際しては他の乳酸菌と組み合わせて、スイスチーズやブリックチーズなどのスターターとして使用される有用菌である。また、ヨーグルトなどの発酵乳の製造に際しては、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) を単独でスターターとして製造するイギリスのマイルドヨーグルトなども知られているが、一般的には、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) とラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシス・ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus) との混合スターターが使用されている。【0003】なお、この混合スターターを使用してヨーグルトなどの発酵乳を製造するに際しては、殺菌した原料ミックスに混合スターターを添加して、所定の温度において所定の酸度になるまで発酵した後、冷却して製造する。このように、スターターとして使用するサーモフィルス菌とブルガリクス菌との間には、いわゆる共生関係があり、それぞれを単独でスターターとして使用する場合に比べて酸生成速度が速く、最終到達酸度もより高くなることが知られている。このため、発酵終了後、通常の流通温度に冷却されるまでに時間を要すると、酸度は目標とする酸度と大きくかけ離れてしまい、このことが冷却に長時間を要する製造設備で製造する場合の品質の制御を難しくしている。また、流通過程においてヨーグルトなどの発酵乳の酸度が徐々に上昇すること(アフターアシディフィケーション)が知られているが、この現象はサーモフィルス菌とブルガリクス菌の後発酵性が原因であり、製造直後の酸度制御と共に大きな課題となっている。【0004】【発明が解決しようとする課題】本発明者らは、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) に属する乳酸菌株の酸生成能について検討し、発酵終了後に酸の生成が起こらない乳酸菌株を得るべく、種々研究を進めてきた。その結果、37〜43℃の温度範囲で酸生成能が優れており、かつ15〜25℃の温度範囲で酸生成能が劣っているストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) に属する低温感受性乳酸菌株を見出した。そして、この低温感受性乳酸菌株を使用して発酵乳を製造することにより、保存中の酸度上昇が抑制された発酵乳を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。【0005】したがって、本発明は、37〜43℃の温度範囲で酸生成能が優れており、かつ15〜25℃の温度範囲で酸生成能が劣っているストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) に属する低温感受性乳酸菌株を提供することを課題とする。また、本発明は、この低温感受性乳酸菌株を含有しており、保存中の酸度上昇が抑制された発酵乳を提供することを課題とする。【0006】なお、本発明においては、37〜43℃で0.05%酵母エキス添加12%還元脱脂乳培地を3時間以内に凝固させる菌株を酸生成能が優れていると表現し、15〜25℃で0.05%酵母エキス添加12%還元脱脂乳培地を3日間以内に凝固させない菌株を酸生成能が劣っていると表現する。そして、37〜43℃で酸生成能が優れており、15〜25℃で酸生成能が劣っているものを低温感受性乳酸菌株と表現する。【0007】【課題を解決するための手段】本発明は、37〜43℃の温度範囲で酸生成能が優れており、かつ15〜25℃の温度範囲で酸生成能が劣っているストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) に属する低温感受性乳酸菌株に関する。また本発明は、このような乳酸菌株を含有しており、保存中の酸度上昇が抑制された発酵乳に関する。【0008】本発明の低温感受性乳酸菌株は、自然界に広く分布する乳酸菌の中から、19℃で3日間培養しても酸生成の認められない菌株を選択した後、37〜43℃の温度範囲で酸生成能が優れており、かつ15〜25℃の温度範囲で酸生成能が劣っている菌株を選択したもので、特に低温感受性が高い菌株として、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) SBT0144 (FERM P-16638)を例示することができる。本発明における選択培地としては0.05%酵母エキス添加12%還元脱脂乳培地を使用した。なお、上記37〜43℃の温度範囲は発酵温度帯であり、また15〜25℃という温度範囲は発酵温度帯から保存温度である10℃まで冷却される途中で通過する温度帯である。【0009】このストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) SBT0144 (FERM P-16638)は、次に示す菌学的性質を有している。A 形態的性状(1)細胞の形:球菌(2)運動性:なし(3)胞子の有無:なし(4)グラム染色性:陽性(5)異染色体:なし【0010】B 培地上の生育状態(1)プレートカウントアガー培地上のコロニー形態(37℃、24〜48時間培養):S型【0011】C 生理学的性質(1)10℃生育能:陰性(2)40℃生育能:陽性(3)45℃生育能:陽性(4)50℃生育能:陰性(5)2.0 %塩化ナトリウム生育能:陽性(6)4.0 %塩化ナトリウム生育能:陰性(7)6.5 %塩化ナトリウム生育能:陰性(8)60℃、30分耐熱能:陽性(9)pH9.6 生育能:陰性(10)40%胆汁酸耐性:陰性(11)硝酸塩の還元:陰性(12)インドールの生成:陰性(13)ゼラチンの液化:陰性(14)カタラーゼ:陰性(15)でんぷんの分解:陰性(16)酸素に対する態度:陽性(17)グルコースよりホモ乳酸発酵によりL(+)乳酸を生産する。(18)リンゴ酸塩よりCO2 を生産しない。(19)脱脂乳培地に培養すると酸を生成し、凝乳する。【0012】なお、+は分解するを示し、−は分解しないを示す。【0013】その他、Nアセチルグルコサミン、グリセロール、エリスリトール、D又はL−アラビノース、リボース、D又はL−キシロース、アドニトール、β−メチル−D−キシロシド、L−ソルボース、ラムノース、ダルシトール、イノシトール、α−メチル−D−マンノシド、α−メチル−D−グルコシド、アルブチン、イヌリン、アミドン、グリコーゲン、キシリトール、β−ゲンチオビオース、D−トラノース、D−リキソーゼ、D−タガトーゼ、D−又はL−フコース、D又はL−アラビトール、グルコネート、2セト−グルコネート、5セト−グルコネートを分解しない。【0014】上記の菌学的性質から、Bergey's Manual of Systematic Bacteriology, vol.2 (1986)により同定すると、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) SBT0144 (FERM P-16638)は、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) の菌学的性質と一致したが、この乳酸菌株は、19℃において酸の生成が殆ど認められず、低温感受性菌株と同定された。また、この菌株については、継代培養によっても低温感受性が維持されていた。【0015】【試験例1】低温感受性乳酸菌株であるストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) SBT0144 (FERM P-16638)を0.05%酵母エキス添加12%還元脱脂乳培地に1%接種し、37℃で16時間培養した。そして、この培養物を0.05%酵母エキス添加12%還元脱脂乳培地に3%接種し、43℃で3時間培養したときの酸度と、19℃で3日間培養したときの酸度を測定したところ、43℃で3時間培養したときの酸度は0.71であり、19℃で3日間培養したときの酸度は0.26であった。【0016】【試験例2】低温感受性乳酸菌株であるストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) SBT0144 (FERM P-16638)又は市販の発酵乳の乳酸菌スターターとして使用されている非低温感受性乳酸菌株であるストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) SBT1035 (FERM P-16945)を0.05%酵母エキス添加12%還元脱脂乳培地に1%接種し、37℃で16時間培養した。そして、これらの培養物を0.05%酵母エキス添加12%還元脱脂乳培地に3%接種し、酸度が0.75に達するまで43℃で培養した後、5℃まで冷却し、10℃で14日間保存したときの酸度を測定したところ、非低温感受性乳酸菌株であるストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) SBT1035 (FERM P-16945)の酸度は1.13であるのに対し、低温感受性乳酸菌株であるストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) SBT0144 (FERM P-16638)の酸度は1.06であり、保存中の酸度上昇が抑制されていた。なお、市販の発酵乳の乳酸菌スターターとして使用されている非低温感受性乳酸菌株であるストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) SBT1035 (FERM P-16945)の菌学的性質についても、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) の菌学的性質と一致していた。【0017】【発明の実施の形態】本発明のストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) に属する乳酸菌株は、37〜43℃で培養したときに0.05%酵母エキス添加12%脱脂乳培地を3時間以内に凝固させるという優れた酸生成能を有していると共に、同じ培地で15〜25℃で3日間培養したときに酸の生成がほとんどおこらず、同培地を凝固させないという性質を有している。【0018】本発明の乳酸菌株は、通常のストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) 菌株と同様、ヨーグルトなどの発酵乳を製造する際のスターターとして使用することができる。この乳酸菌株を使用することにより、良好な発酵を行うことができると共に、従来、問題となっていた保存中の酸度上昇を抑制することができる。【0019】次に、実施例を示し、本発明をさらに詳しく説明する。【実施例1】低温感受性乳酸菌株であるストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) SBT0144 (FERM P-16638)を0.05%酵母エキス添加12%還元脱脂乳培地に1%接種し、37℃で16時間培養して、ヨーグルトの製造に使用する乳酸菌スターターを調製した。次に、95℃で30分間殺菌した後、43℃に冷却したヨーグルト原料殺菌ミックス (生乳に脱脂乳を 1.5%添加した原料ミックス、以下、同じ) に上記の乳酸菌スターターを3% (菌数 1.0×106)接種し、容器に充填した。そして、43℃で酸度が 0.8に達するまで発酵させた後、直ちに冷却し、ハードタイプのヨーグルトを製造した。なお、得られたヨーグルトの発酵終了時の生菌数は 3.2×108cfu/ml であり、酸度は0.80〜0.83であった。また、このヨーグルトを10℃で14日間保存した時の酸度は1.00〜1.10であった。【0020】【比較例1】市販の発酵乳の乳酸菌スターターとして使用されている非低温感受性乳酸菌株であるストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) SBT1035 (FERM P-16945)を使用して、実施例1と同様にハードタイプのヨーグルトを製造した。なお、接種した乳酸菌数は 7.2×105 であり、得られたヨーグルトの発酵終了時の生菌数は 2.2×108cfu/ml であり、酸度は0.85〜0.90であった。また、このヨーグルトを10℃で14日間保存した時の酸度は1.15〜1.20であった。実施例1及び比較例1により、本発明の低温感受性乳酸菌株を使用したヨーグルトは、市販の発酵乳の乳酸菌スターターとして使用されている非低温感受性乳酸菌株を使用したヨーグルトよりも、保存中の酸度上昇が抑制されていることが判る。【0021】【実施例2】低温感受性乳酸菌株であるストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) SBT0144 (FERM P-16638)を0.05%酵母エキス添加12%還元脱脂乳培地に1%接種し、37℃で16時間培養して、ヨーグルトの製造に使用する乳酸菌スターターを調製した。次に、95℃で30分間殺菌した後、43℃に冷却したヨーグルト原料殺菌ミックスに上記の乳酸菌スターターを3% (菌数 1.2×106)接種し、43℃で酸度が 0.8に達するまで発酵させた。そして、発酵後直ちに冷却し、容器に充填してソフトタイプのヨーグルトを製造した。なお、得られたヨーグルトの発酵終了時の生菌数は 3.6×108cfu/ml であり、酸度は0.80〜0.85であった。また、このヨーグルトを10℃で14日間保存した時の酸度は1.00〜1.15であった。【0022】【比較例2】市販の発酵乳の乳酸菌スターターとして使用されている非低温感受性乳酸菌株であるストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) SBT1035 (FERM P-16945)を使用して、実施例2と同様にソフトタイプのヨーグルトを製造した。なお、接種した乳酸菌数は 1.0×106 であり、得られたヨーグルトの発酵終了時の生菌数は 2.9×108cfu/ml であり、酸度は0.85〜0.90であった。また、このヨーグルトを10℃で14日間保存した時の酸度は1.15〜1.20であった。実施例2及び比較例2により、本発明の低温感受性乳酸菌株を使用したヨーグルトは、市販の発酵乳の乳酸菌スターターとして使用されている非低温感受性乳酸菌株を使用したヨーグルトよりも、保存中の酸度上昇が抑制されていることが判る。なお、これらの実施例では、サーモフィルス菌を単独に使用してマイルドヨーグルトを製造しているが、周知のブルガリクス菌と混合し、混合スターターとして用いることによって同様に保存中酸度上昇が抑制されたヨーグルトを製造することができた。【0023】【発明の効果】本発明で提供するストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) に属する低温感受性乳酸菌株は、37〜43℃の温度範囲で酸生成能が優れており、かつ15〜25℃の温度範囲で酸生成能が劣っているという性質を有しているので、乳酸菌スターターとして発酵乳などの製造に使用することにより、容易に保存中の酸度上昇が抑制された発酵乳を得ることができる。 ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) に属する乳酸菌株であって、37〜43℃で0.05%酵母エキス添加12%還元脱脂乳培地を3時間以内に凝固させ、15〜25℃で0.05%酵母エキス添加12%還元脱脂乳培地を3日間以内に凝固させない低温感受性の乳酸菌株。 ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) SBT0144 (FERM P-16638)である請求項1記載の低温感受性乳酸菌株。 請求項1又は2記載の低温感受性乳酸菌株を含有しており、保存中の酸度上昇が抑制された発酵乳。 請求項1又は2記載の低温感受性乳酸菌株を含有しており、10℃で14日間保存後の酸度が1.00〜1.10である保存中の酸度上昇が抑制された発酵乳。