生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_ビールの劣化度の評価方法
出願番号:1999033003
年次:2009
IPC分類:G01N 33/14,C12H 1/00,G01N 31/00


特許情報キャッシュ

荒木 茂樹 木村 達二 清水 千賀子 高塩 仁愛 篠塚 健 JP 4267119 特許公報(B2) 20090227 1999033003 19990210 ビールの劣化度の評価方法 サッポロホールディングス株式会社 000002196 矢野 裕也 100086221 荒木 茂樹 木村 達二 清水 千賀子 高塩 仁愛 篠塚 健 20090527 G01N 33/14 20060101AFI20090430BHJP C12H 1/00 20060101ALI20090430BHJP G01N 31/00 20060101ALI20090430BHJP JPG01N33/14C12H1/00G01N31/00 V G01N 33/14 C12H 1/00 G01N 31/00 CAplus(STN) JSTPlus(JDreamII) 特表平8−502641(JP,A) 特開平7−306147(JP,A) 橋本直樹,ビールの苦味を科学する,New Food Industry,日本,1996年,Vol.38 No1,P49-56 1 2000230927 20000822 7 20060201 特許法第30条第1項適用 平成10年9月3日 日本醸造学会発行の「平成10年度日本醸造学会大会講演要旨集」に発表 山村 祥子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、ビールのイソフムロン異性体の分析を用いたビールの劣化度の評価方法に関する。【0002】【従来の技術】新鮮なビールは爽快で美味しいが、時間が経つと共に劣化臭や劣化味が生成し、新鮮なときの美味しさが損なわれていく。このビール香味の劣化の程度を正確に評価することは、ビール香味の劣化のメカニズムを解明し、いつまでも新鮮な美味しさを保つ、香味劣化の起こりにくいビールを開発する上で非常に重要である。【0003】従来、ビールの香味劣化の程度を評価する方法として、訓練を受けた人間(パネル)による官能評価が知られている。しかしながら、官能評価法では、多数の試料を評価するのに多大な労力を必要とする上に、パネル間の閾値の違いや劣化以外の試料間の香味の違いなどに大きく影響を受ける。このため、定量性や客観性などの点で十分でなく、必ずしも客観的な評価法とはいえなかった。【0004】そこで、これを補うために、従来から、ビール香味の劣化強度の指標を見つける試みがなされてきており、例えば、TBA(2-Thiobarbituric Acid)法、化学発光(Chemiluminescence)法やESR(Electron spin resonance)法による分析値やカルボニル化合物及びグルタミン含量と官能評価の相関が報告されている。【0005】これらの方法は、劣化香味本体を明らかにするためには非常に有効な方法であるが、抽出、分析に伴う煩雑な操作や高度な技術が不可欠であり、大きな障害であった。また、これらの香味劣化成分に関する研究は、劣化臭に関するものが圧倒的に多く、劣化味に関するものはほとんどなかった。【0006】本発明者らは、上記の状況に鑑み、ビールの劣化度を客観的かつ簡便に評価する方法を見出すべく鋭意検討を重ねた結果、ビール中の苦味成分のひとつであって、苦味というビールに特徴的な味に直接関連しており、しかもビール中に多量に含まれており、測定が容易なイソフムロンに着目し、その酸化分解を指標とすることにより、簡便かつ客観的なビールの劣化度の評価ができることを見出し、この知見に基づいて本発明に到達した。【0007】【発明が解決しようとする課題】すなわち、本発明は、多数の試料を評価するのに多大な労力を必要としたり、パネル間の閾値の違いや劣化以外の試料間の香味の違いなどに大きく影響を受けて、定量性や客観性などの点で十分でない、これまでの官能評価法に代わる、ビールの香味劣化の客観的かつ簡便な評価法を提供することを目的とするものである。【0008】【課題を解決するための手段】すなわち、請求項1記載の本発明(以下、単に本発明という。)は、ビール中のイソフムロン異性体の成分比を測定することを特徴とするビールの劣化度の評価方法を提供するものである。【0009】【発明の実施の形態】本発明について、以下に詳しく説明する。本発明は、ビールの劣化度評価にあたり、ビール中のノルマルイソフムロン(以下、「イソフムロン」と称する。)異性体の成分比を測定することを特徴とするものである。【0010】イソフムロンは、ビール中の成分のひとつであり、ビールの苦味の原因となる成分である。このイソフムロンは、ビールの原料であるホップ中に含まれるフムロンに由来し、フムロンがビール製造工程中の麦汁の煮沸工程中において異性化されて生ずるものである。このイソフムロンは、製造時のビール中に多量に含有されており、およそ20〜30ppm程度含有されている。【0011】イソフムロンには、プレニル基とイソヘキセノイル基についての立体配座を異にする異性体、cis体とtrans体とがある。このうち、cis体がtrans体よりも強い苦味を有する。両異性体の成分比は、ビールの種類にかかわらず、ほぼ一定である。【0012】ビールの劣化は、主に酸化による。ビールの瓶内には、製造時にごくわずかの酸素が混入する。このわずかに混入した酸素が、保存過程において鉄や銅イオンなどとの反応により、フリーラジカル(活性酸素)を生成する。このフリーラジカルが、上記イソフムロンなどの苦味成分やアルコールなどの香気成分と反応して、劣化臭や劣化味をもたらすことになる。一方、ビール中には、このラジカル反応を停止し、酸化を防止する抗酸化成分(ポリフェノール、亜硫酸塩など)が含まれており、これらが酸化を抑制する働きがあることも知られている。【0013】イソフムロンは、このラジカルによる酸化分解の対象となり、保存と共に酸化を受けて減少する。このイソフムロンは、酸化分解されると、様々な物質に変化する。例えば、五員環の側鎖の二重結合へOH基を添加することで、ピラン環或いはフラン環を形成する。【0014】本発明者は、このようなイソフムロンに着目し、ビール保存中のイソフムロンの減少度合いについて調べて見た。すなわち、ビールを通常の流通過程における環境(気温20〜30℃)と同等環境で所定期間(製造〜3ヶ月)保存し、その間のイソフムロンの減少度合いを調べたところ、trans体はcis体に比べて、速く分解することが分かった。【0015】図1は、保存前のビール中の含量を100として、ビールを20℃で0〜6ヶ月間保存し、その間のイソフムロンの減少度合いを調べたグラフである。図1によれば、trans体は、構造的に不安定で分解されやすいのに対し、cis体は、比較的安定で分解速度が遅いため、ビールの保存中にそれほど減少しないことが分かる。【0016】従って、保存中のビールにおいて、イソフムロン異性体中におけるtrans体の成分比は減り、cis体の成分比が経時的に増えていくことになる。図2は、ビールを20℃又は30℃で0〜6ヶ月間保存したときのイソフムロン異性体の成分比(trans/cis)の変化を示すグラフである。図2によれば、保存と共にイソフムロン異性体の成分比(trans/cis)が減少すること、及び保存温度が高くなるほど減少速度が速くなることが分かる。【0017】このようにイソフムロン異性体の成分比(trans/cis)は、ビールの製造直後から時間の経過につれて減少するが、これは、ビールの劣化度と相関関係を有することが分かった。【0018】図3は、ビールを20℃又は30℃で0〜6ヶ月間保存したときのイソフムロン異性体の成分比(trans/cis)と、官能評価の結果との相関を示すグラフである。図3によれば、イソフムロン異性体の成分比(trans/cis)が減少するにつれて、官能評価の結果が悪くなるという高い相関が見られた。保存温度を変更しても同じ相関が見られることから、イソフムロン異性体の成分比(trans/cis)が同じであれば、同じ劣化度であることが分かる。【0019】従って、イソフムロン異性体の成分比(trans/cis)の減少は、ビール中の香味成分の劣化反応の進行を反映しているものと考えられ、ビール中の香味成分の酸化の指標として有用であることが分かった。本発明は、このような知見に基づいてなされたものであって、イソフムロン異性体の成分比(trans/cis)を測定することにより、ビールの劣化度を評価するものである。【0020】ビール中に含まれるイソフムロン異性体の成分比(trans/cis)は、常法によりイソフムロン異性体を定量し、これに基づいて求めることができる。イソフムロン異性体の定量は、例えば Ono, M., Kakudo, Y., Yamamoto, Y., Nagami, K., Kumada, J.,: J. American Society of Brewing Chemists, 45, 70 (1987) に記載の方法に従い、前処理カラム付き高速液体クロマトグラフ装置(UV検出器付き)等により行うことができる。【0021】測定を行う前に、得られるイソフムロン異性体の成分比の精度を高めるため、予め他の成分を可能な限り分離しておくことが望ましい。そのためには、各種クロマトグラフィーを単独或いは組合せて用いることができ、中でも、高速液体クロマトグラフィーが好適である。本発明においては、このような一連の操作を簡便に行うことができることから、前処理カラム付き高速液体クロマトグラフ装置(ホップ苦味分析システム、島津製作所)等を好適に用いることができる。【0022】このイソフムロン異性体の成分比は、上記したように、官能評価と高い相関関係を有する。この相関は、保存温度が相違する場合にも同様である。このことから、イソフムロン異性体の成分比を指標とする本発明の評価方法は客観的なビールの劣化評価方法として有用である。【0023】なお、ホップの品種の相違がイソフムロン異性体の成分比に影響を与えるかを見るため、ファインアロマ、アロマ、ビターホップの3種類のホップを各々使用したビールについて、イソフムロン異性体の成分比を調べた結果、3者間には殆ど相違が見られないことを確認した。この結果は、本発明の評価方法は、ホップの品種の違いを考慮することなく、客観的な数値により評価を行うことができることを示すものである。【0024】また、イソフムロン異性体の成分比は、ビールの劣化を抑制するための指標として用いることができる。つまり、イソフムロン異性体の成分比の低下を抑制することにより、ビールの劣化速度を遅くし、保存性を高めることができることになる。例えば、ビール中に含まれる抗酸化成分である、カテキン,フェノール類,亜硫酸塩などを添加したビールを一定期間保存した後の、イソフムロンの異性体成分比は、無添加の場合と比較して高くなった。このことから、本発明の方法により、カテキン等の抗酸化成分を多く含むビールの抗酸化能の向上の効果を知ることができる。【0025】なお、本発明はビールを対象としているが、ビールと同じ原料から作られ、イソフムロンを成分として同様に含む発泡酒をも対象とすることが可能であり、その劣化度を測定することも可能である。【0026】このようにして、本発明によれば、ビールの香味劣化度を簡便に、かつ客観的に評価することができる。しかも、本発明においては、イソフムロン異性体の成分比によりビールの劣化度を知ることができるため、保存前の分析が得られなくとも劣化の程度を推測できるという利点がある。【0027】【実施例】次に、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。【0028】実施例1(イソフムロン異性体の成分比の経時変化)製造直後の新鮮なビールを20℃及び30℃で0〜3ヶ月間保存して劣化させ、ビール中のイソフムロン異性体の成分比の経時的変化について調べた。測定は、Ono, M., Kakudo, Y., Yamamoto, Y., Nagami, K.,Kumada, J.,: J. American Society of Brewing Chemists, 45, 70 (1987) に記載の方法に従い、図4に示すイソフムロン異性体分析システム(前処理カラム付き高速液体クロマトグラフ装置、ホップ苦味分析システム、島津製作所製)を用い、逆相HPLCを用いて定量した。【0029】本システムにおいては、ステップ1とステップ2の2段階からなる操作を自動的に行うことができる。すなわち、まず、ステップ1において、サンプルであるビールを処理用キャリヤー液と共にポンプで装置に注入し、1回目の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を行う。次のステップ2においては、分析用キャリヤー液を送り込み、これとステップ1を経たサンプルとを混合し、第2回目のHPLCを行う。その後、UV検出器に送り込み、サンプルのクロマトグラムを得、クロマトグラム中のtrans体とcis体との波形面積比を測定して、イソフムロン異性体の成分比を得る。【0030】この結果、先に述べた図1の結果と同様に、イソフムロン異性体中におけるtrans体は、cis体に比べて速く分解することが分かった。従って、先に述べた図2の結果と同様に、イソフムロン異性体の成分比は、時間を経過すると共に減少することが分かる。また、先に述べた図2の結果と同様に、保存温度が高くなるほど減少速度が大きくなることも分かる。これらのことから、イソフムロン異性体成分比の小さいビールは、調べるまでの保存期間が長い、或いは高い温度で保存していたビールであること、すなわち、劣化度が大きいビールであることが推察される。【0031】実施例2(イソフムロン異性体の成分比と官能評価の相関)訓練したパネル14名による官能評価によって、上記実施例1において20℃及び30℃で0〜3ヶ月間保存して劣化させたビールの劣化度を5段階に評価して、イソフムロン異性体の成分比と官能評価の相関を調べた。【0032】その結果、先に述べた図3の結果と同様に、官能評価による劣化度(老化度)とイソフムロン異性体の成分比の間には非常に高い相関があることが分かった。このことから、イソフムロン異性体の成分比が小さいほど、劣化度の大きいビールであり、香味成分の劣化を異性体の成分比の変化で捉えることができることが分かる。すなわち、イソフムロン異性体の成分比の変化は、保存中のビールの香味劣化反応の進行を反映していることが推察された。【0033】【発明の効果】本発明の評価方法では、ビールの成分中、酸化分解を直接受ける物質(基質)であるイソフムロンの異性体の成分比で直接評価するため、フリーラジカル生成によるビールの酸化進行を正確に評価することができる。本発明の評価方法によれば、従来のフルフラールなどのカルボニル類等を指標とした酸化生成物で評価する場合のように、麦芽使用量など前駆体量の影響を受けることなく、正確な評価を得ることができる。【0034】すなわち、本発明の評価方法では、イソフムロンの異性体のうちtrans体は、構造的に不安定で分解されやすいのに対し、cis体は、比較的安定で分解速度が遅いため、ビールの保存中にそれほど減少しない成分であるという知見に基づき、ビールの劣化の程度に応じて、イソフムロン異性体の成分比(trans/cis)が製造直後から減少することを利用して、ビール香味の劣化度を評価することができる。しかも、このイソフムロン異性体の成分比(trans/cis)は、ビールの官能評価の結果と高い相関を示しているばかりか、ビール中のイソフムロン異性体の含量は前処理カラム付き高速液体クロマトグラフ装置(UV検出器付き)等により容易に測定することができる。従って、本発明の評価方法によれば、従来の官能評価法のように、多数の試料を評価するのに多大な労力を必要としたり、パネル間の閾値の違いや劣化以外の試料間の香味の違いなどに大きく影響を受けたりするおそれがなく、少量のビールから直ちに、どの程度ビールが劣化度しているかを、客観的に、かつ簡便に、しかも正確に測定することができる。【0035】また、本発明の評価方法では、イソフムロン異性体の含量などではなく、イソフムロン異性体の成分比としているため、分析間の検出条件の違いやホップ使用量の違いなどを考慮する必要がない。さらに、イソフムロン異性体の成分比は、ホップの品種や添加量、麦芽使用量など前駆体の影響をほとんど受けず、製造直後のビールでほぼ同じ値をとる。このように本発明においては、イソフムロン異性体の成分比によりビールの劣化度を知ることができ、しかもイソフムロン異性体の成分比は、製造直後のビールでほぼ同じ値をとるため、保存前の分析値が得られなくとも、或いは新鮮なビールの成分等が分からなくとも、およその劣化の程度を推測できるという利点がある。【図面の簡単な説明】【図1】 保存前のビール中の含量を100として、ビールを20℃で0〜6ヶ月間保存し、その間のイソフムロンの減少度合いを調べたグラフである。【図2】 ビールを20℃又は30℃で0〜6ヶ月間保存したときのイソフムロン異性体の成分比(trans/cis)の変化を示すグラフである。【図3】 ビールを20℃又は30℃で0〜6ヶ月間保存したときのイソフムロン異性体の成分比(trans/cis)と、官能評価の結果との相関を示すグラフである。【図4】 実施例で用いたイソフムロン異性体分析システムを示す説明図である。 ビール中のイソフムロン異性体の成分比を測定することを特徴とするビールの劣化度の評価方法。


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