生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_角膜の保存培養または治療のための神経成長因子の使用
出願番号:1998545385
年次:2007
IPC分類:A61K 38/22,A01N 1/02,A61P 27/02,C12N 5/06


特許情報キャッシュ

ラムビアセ,アレッサンドロ JP 3973697 特許公報(B2) 20070622 1998545385 19971121 角膜の保存培養または治療のための神経成長因子の使用 アナバシス ソシエテ ア レスポンサビリタ リミタータ 浅村 皓 浅村 肇 池田 幸弘 長沼 暉夫 ラムビアセ,アレッサンドロ IT RM97A000238 19970424 20070912 A61K 38/22 20060101AFI20070823BHJP A01N 1/02 20060101ALI20070823BHJP A61P 27/02 20060101ALI20070823BHJP C12N 5/06 20060101ALI20070823BHJP JPA61K37/24A01N1/02A61P27/02C12N5/00 E A61K 38/22 A01N 1/02 C12N 5/06 BIOSIS(STN) CA(STN) EMBASE(STN) MEDLINE(STN) 国際公開第92/15614(WO,A1) Investigative Ophthalmology & Visual Science, 1995年, Vol.36, No.10, p.2127-2132 13 IT1997000292 19971121 WO1998048002 19981029 2002507190 20020305 12 20030616 榎本 佳予子 本発明は、培養角膜の保存、角膜および結膜組織のインビトロ産生、および角膜および結膜疾患の治療のための神経成長因子の使用に関する。さらに詳しくは本発明は、角膜および結膜組織の治療のための(角膜および結膜機能をインビトロで正しく維持しかつ眼の表面の病状を治療するための)、神経成長因子(NGF)と呼ぶニューロトロピン(ニューロンの生物学的機能の発達、再生、および維持に影響する能力により知られている)の使用に関する。公知のように、異栄養性、炎症性または消耗性角膜疾患により、角膜の透明度または正常な構造が不可逆的に障害された場合に、角膜移植はこれらの疾患に対する唯一のアプローチである。角膜はいったん死体から単離されると、細胞培養培地から得られる液体を用いる保存法により、移植される時まで「保存」される。「短期/中期保存」と呼ぶ最も一般的な方法の1つでは、角膜は、マカレイ−カウフマン(McCarey−Kaufman)(MK)培地等の培地中または別の市販の液体(例えば、オプチゾル−GS(登録商標)(Optisol−GS))中で4℃で、最大7日間維持される。「臓器培養」と呼ぶ同様に一般的な方法を用いると、より長期の保存が可能である。この方法は、細胞培養と同様の方法に基づき、30〜36℃の温度で1ヶ月以上外植角膜を保存することを可能にする。上記の方法のいずれも、保存による角膜組織の生物学的特徴を改善せず、達成され得る最良の結果は、保存中に上記組織の品質を変化させずに維持することである。これは、角膜移植の分野ですでに困難な状況をさらに危険にする。実際、角膜の半分以上は、顕微鏡観察では移植に不適切であると解り、外植時に廃棄される。別の問題は、移植で使用できるように、内皮細胞、上皮細胞および角膜実質細胞のような単一の角膜細胞集団を手に入れる必要があることである。特に、物理的もしくは化学的な火傷または癒着性の自己免疫疾患(例えば瘢痕性類天疱瘡、スティーヴェンズ-ジョンソン症候群など)または感染後の病理による眼の表面の破壊を伴う状況では、障害を受けた眼の表面の代わりに移植すべき角膜上皮細胞(幹細胞を含む)を手に入れること、および/または癒着および退縮した表面の交換に使用するための結膜上皮組織を手に入れることが非常に重要である。角膜(すなわち、上皮細胞、間質/角膜実質細胞および内皮細胞)及び結膜から構成される形態および機能単位に影響を与える病状を考慮すると、今日まで治療的アプローチが困難であるかまたは有効な治療法がまったくない、この領域に影響を与える広範な障害があることが注目される。正常な表面の状態を害する可能性のあるこのような病状または状況には、涙液膜機能、先天性または後天性の角膜および/または結膜作用のすべての傷害(例えば、神経栄養性および神経麻痺性角膜炎および/または結膜炎;傷害後、感染後、術後角膜炎および/または結膜炎;レーザー治療、化学的、物理的または金属性火傷による角膜炎および/または結膜炎;自己免疫性、異栄養性、消耗性、炎症後の角膜炎)を含む。これら疾患では、角膜上皮の変化(自発的な、原発性神経麻痺性型または続発性の物理的、感染性、免疫性または毒性ベースによる型)と共に生じ、これは最終的に潰瘍に至り、多くの場合自然に、または微小外傷もしくは重複感染に続き、角膜に穴が空く。この疾患の臨床像は、重複感染のためにおよびいずれの治療も頻繁に失敗するために、回復が遅くて困難であることが特徴である。最終的結果はしばしば、角膜の不透明化、または自然の穿孔である。上記疾患は一般に、合併症を防ぐために包帯や潤滑性物質および抗生物質の使用に頼り、治療する。穿孔が起きそうな場合またはすでに起きている場合、および視覚機能を犠牲にしても眼球の形態を完全に維持することのみが目的の場合、結膜の被覆が必要である。移植片についてもしばしば再発が起きること及び重複感染のリスクに鑑みると、ラメラおよび貫通による角膜移植はどちらも絶対に禁忌である。フィブロネクチン、プラスミン、コラゲナーゼインヒビター、EGF(すなわち、上皮増殖因子)、又は自己血清を含有する調製物による局所的薬剤治療が、インビトロ試験に基づき提唱されている。しかし、これらの薬剤はいずれも完治性ではなく、角膜傷害を阻止または低減させることができず、または病状の最終結果を改変できるものではないことがわかった。特に角膜火傷の治療において、反対側の眼から取った辺縁結膜の移植により良好な結果が得られている。両方の眼が傷害された場合、血縁関係の近い者からの結膜の提供、またはこれが不可能な場合死体からの切除に頼らなければならないだろう。しかしこの方法は、すべての症例を治療できるものではない。自己移植の場合、何年か後に疾患が再発することがあり、同種移植の場合拒絶反応が頻繁に起き、免疫抑制療法が絶対に必要であるが、これは周知のように副作用を引き起こす。その治療結果がしばしば不満足な別の種類の結膜−角膜疾患は、ヘルペス感染症である。ヘルペス感染は最初の病状が消失した後にしばしば再発し、その予防や治療はうまくいかないことが多い。内皮細胞の数および/または機能の喪失を特徴とする角膜上皮を障害する疾患(例えば、原発性および続発性の代償不全、内皮細胞炎)もまた、現在有効な治療法が存在しない障害群である。従って本発明の主要な目的は、上記組織の正しい生物活性を維持かつ回復させる治療薬を使用することにより、上記問題(これらの問題はすべて、角膜および結膜の形態および機能単位の生理病理学に関する)の解決策を提供することである。神経成長因子(NGF)として知られている分子は、ニューロトロピンの複雑なファミリーの第1の成分であり、中枢神経系のコリン作用性ニューロンに対するおよび末梢交感神経系に対する栄養性、親和性および分化性作用で知られている。NGFは、ヒトを含む多くの哺乳動物のいくつかの組織で産生され、神経系の増殖および分化中に血流中に高レベルで放出される。細胞系に対してインビトロで行われた生物学的、生化学的および分子学的研究は、マウスNGFとヒトNGFの間の非常に高い相同性を証明している。ヒトでは他の動物種と同様に、NGFは通常脳脊髄液および血流中の両方で約10〜50pg/mlのレベルで存在する。この濃度は、いくつかの炎症性病状(自己免疫疾患、アレルギー性疾患など)で上昇し、別の症状(糖尿病)で低下する。NGFは1951年にワシントン大学セントルイス校動物学研究所(Zoo logy Institute of the Washington University of St.Louis)のリタ・レビ−モンタルシニ(Rita Levi−Montalcini)教授により発見(レビ−モンタルシニ(Levi−Montalcini R.),Harvey Lect.,60:217,1966年を参照)されたが、これは、ニューロンの生物学的機能の出現と維持およびその再生に影響を与えることができるため、神経細胞の増殖と分化機構の研究において大きな進歩である。この分子の発見のために、末梢神経系および中枢神経系の両方においてその生物学的役割を性状解析したために、リタ・レビ−モンタルシニ(Rita Levi−Montalcini)教授は、1986年のノーベル医学生理学賞を授与された。インビトロおよびインビボのいくつかの実験研究により、手術、化学的、機械的および虚血性の神経障害の防止におけるNGFの生理病理学的重要性が証明され、このためこの物質は中枢神経系および末梢神経系のいくつかの疾患の治療で使用するための理想的な候補となっている(ヘフティ・エフ(Hefti F.)、J.Neurobiol.,25:1418,1994年;ジェイ・フリッカー(J.Fricker)、Lancet,349:480,1997年)。実際すでに数年前からパーキンソン病およびアルツハイマー病患者に対する臨床治験がすでに開始されている。この治験では、マウスNGFが脳内に投与されている(例えば、オルソン・エル(Olson L)ら、J.Neural Trans.:Parkinson’s Disease and Dementia Section,4:79、1992年を参照されたい)。この研究の結果は、動物モデルでの観察結果を確認し、マウスNGFの投与による副作用が無いことを証明した。この特徴は、さらに最近ヒト組換えNGFに関して確認されている(ペティ・ビー・ジー(Petty B.G.)ら、Annals of Neurology,36:244−246,1994年)。その発見後、NGFの研究(すなわち、その生物学的、生化学的、分子学的、前臨床的、および臨床的作用の性状解析)は、ほとんどすべてげっ歯類の成体の顎下腺から単離されたNGFで行われている;すなわち、今日までに得られている最も多くのデータはマウスNGFに関するものである。後者の生化学的性質は、特に1968年にさかのぼる研究に記載されている(レビ−モンタルシニとアンゲレッティ・ピー・ユー(Levi−Montalcini R.and Angeletti P.U.)、Physiological Reviews,48:534,1968年)。マウスの唾液腺に含有されるNGFは140キロダルトンの分子複合体であり、沈降係数7Sを有し、3つのサブユニット(α、βおよびγ)からなり、2番目のものが真の活性型である。このサブユニットはβNGFと呼ばれ、沈降係数2.5Sを有し、互いにそれほど異ならない3つの方法により通常抽出され精製される(ボッキーニ・ブイ、アンゲレッティ・ピー・ユー(Bocchini V.,Angeletti P.U.)、Biochemistry 64:78−793、1969年;バロン・エス(Varon S.)ら、Methods in Neurochemistry、203−229,1972年;モブレイ・ダブリュー・シー(Mobley W.C.)ら、Molecular Brain Research、387:53−62,1986年)。このような方法で得られたβNGFは約13,000ダルトンのダイマーであり、118のアミノ酸の2つの同一鎖からなる。各1本鎖は3つのジスルフィド結合により安定化され、非共有結合がダイマー構造を形成させる。この分子は非常に安定であり、(水性および油性の)ほとんどすべての溶媒に溶けるが、その生化学的特徴および生物学的活性は変化を受けない。分子の構造ならびに物理的および生物学的性質についてのさらなる情報は、グリーン・エル・エーとシューター・イー・エム(green,L.A.and Shooter,E.M.)、Ann.Rev.Neurosci.3:353,1980年)に見いだされる。最近結晶学的解析により、βNGFの構造がさらに解明されている。この方法により、3つの逆平行の対の鎖の存在が検出され、β種の2次構造は協同して平面的表面を形成し、これに沿って2つの鎖が会合して活性ダイマーを形成する。βNGFの上記鎖上に、多くの可変アミノ酸を含有する4つのループ領域が存在することが証明されている。これらの可変アミノ酸には、受容体による認識の特異性が関連している可能性が非常に高い。NGFの生物学的作用は、各標的細胞の表面に存在する2つの受容体により仲介される。NGFの生物学的作用を選択的に阻害するいくつかの抗体がある。これらの抗体の存在は、細胞系およびインビボの両方でNGF活性を正確に性状解析および調節することを可能にしてきたし、また現在もそうしている。さらに最近は、遺伝子操作技術によりヒトNGFを合成することが可能になり(イワネ・エム(Iwane,M)ら、Biochem.Biophys.Res.Commun、171:116,1990年)、少量のヒトNGFが市販されている。しかしヒトNGFの生物活性は、マウスNGFの生物活性に比較して非常に低いことが直接実験により証明された。さらに、インビトロおよびインビボの両方でヒトに対する作用についての現在入手できるデータのほとんどすべては、マウスNGFを使用して得られたものであり、マウス起源の製品に関連する悪影響は検出されていない。1990年代に動物モデルで開始した研究は、眼の病理にNGFが関与する可能性を示唆した。しかしそのような研究はほとんど網膜障害(すなわち、神経組織)でのNGFの使用のみに関し、眼の表面(すなわち、角膜および結膜)に対するこのニューロトロピンの作用については文献中に記載がなく、角膜および/または結膜に影響を与える疾患の治療のためのNGFの使用を提唱する科学的研究も存在しない。特に網膜病状(例えば、急性網膜虚血の治療(シリプランディ・アール(Siliprandi R.)ら、Inv.Ophthalmol.Vis.Sci.,34:3232,1993年)、視神経の横断面(カルミグノート・ジー(Carmignoto G.)ら、J.Neurosci.,9:1263,1989年)、および色素性網膜炎(ランビアーゼ・エーおよびアロエ・エル(Lambiase A.and Aloe L.)、Grafe’s Arch.Clin.Exp.Ophthalmol.、234:S96−S100,1996年))における、NGFの局所的投与の影響を確認するために、いくつかの研究が動物で行われている。この結果は、NGFの局所的投与が、上記病状の間の網膜神経節細胞および光受容体の死滅を防止または少なくとも遅延させることを証明した。これらの研究のいずれも、動物に及ぼす副作用は証明しなかった。一方、本発明の目的である角膜組織の疾患に関して、何人かの著者は、角膜上皮の変化は、他の角膜障害(例えば、潰瘍および角膜炎)の発症に対する病理的鍵であるという仮説から出発して、そのような適応症について上皮増殖因子(EGF)の使用可能性を考えた。EGFは1960年代初期に発見され性状解析された53のアミノ酸のポリペプチド(コーエン・エス(Cohen S.)、J.Biol.Chem.237:1555−1562、1962年)であり、分子量約6000ダルトンを有する。この分子は成体マウスの唾液腺から産生されるが、多くのヒト組織中には小量しか存在しない。EGFは、様々な動物およびヒトの組織から得られた上皮細胞に対して、充分解析された栄養性、増殖性および分化性作用を及ぼし、角膜上皮細胞培養物に対するそのインビトロの有効性、およびこれらの細胞の増殖および分化を誘発する能力は、いくつかの実験的研究で記載されている。しかし、上記実験データに基づいて行われた角膜疾患についての臨床試験は相反する結果を提供し、一般にこの種のヒトの疾患においてEGFが実質的に無効であることを示した(カンドラキス・エー・エス(Kandrakis A.S.)、Am.J.Ophthalmol.,98:411,1984年)。この無効性はおそらく、インビトロとインビボでのEGF受容体の発現の差、またはさらに可能性の高いのは、角膜疾患での上皮の変化は角膜疾患自身の単なる付帯徴候であろうという事実が原因かも知れない。EP−A−0312208号(エチコン(Ethicon))は、上皮病変および上皮病理一般(眼の表面の病変および病理を含む)の治療で使用するためのゲル製剤を開示している。この製剤は、「増殖因子」という表現を含む名前を有する種々の分子から無差別に選択される活性成分を含有する。その記載は、好適な活性成分としてもっぱらEGFに関するとし、活性データ(インビトロ)と製剤例はEGFについてのみ提供されているが、FGF(繊維芽細胞増殖因子)、PDGF(血小板由来増殖因子)、TGF−α(トランスフォーミング増殖因子)またはNGF自身などの他の増殖因子も言及されている。これらの増殖因子は、EGFと同じ特徴かつ同じ生物学的活性を有する分子ファミリーとして明白に提示されている。実際現在の知識では専門家は、これらの増殖因子は異なる特異的標的を有し、時々は相反する作用を有しており、これらの増殖因子を生物学的に互いに等しいものとは考えていない。さらに、眼科分野に特定的に関する限りは、上記文献は上記増殖因子が角膜上皮についてのみ活性であるとしており、従って提唱された適応は、実際は外傷にのみ有用な再上皮化因子としての適応に限定されている。これに対して本発明に至る研究は、角膜は形態学的および機能的単位であり、単一の層(すなわち、上皮、間質および内皮)のすべてが、組織の状態の維持および回復機構において、同等に重要な機能を果たすという概念から出発している。この考え方では、角膜の感覚神経支配により与えられる栄養的支持が重要な役割を果たし、これが傷害されると、全体の形態および機能単位が傷害される。眼の表面に及ぼすNGFの作用についての証拠(すなわち、体の他の領域の感覚末端から放出される多くのメディエーターの1つ)は先行技術には全くないという事実を考えると、このニューロトロピンのいくつかの標的は類似の胚形成性誘導を示すため、そのようなニューロトロピンが神経外胚葉胚誘導の角膜組織に対して栄養的修復作用を示すかどうかという問題がまず提示された。従って、免疫組織化学的方法(バッタカリヤ・エー(Bhattacharyya A.)ら、J.Neurosci.17:7007,1997年)によりモノクローナル抗体(TrkA抗体;サンタクルツ(Santa Cruz)、米国)を使用して、NGFおよびNGF高親和性受容体(TrkA、チミジンキナーゼA)の存在について、角膜および結膜が解析されている。実際、特異的受容体の存在は、試験される分子の活性について必要な要件である。従って、すべての角膜細胞(すなわち、上皮細胞、内皮細胞および角膜実質細胞)はTrkAを発現すること、かつ同時に角膜体性感覚神経支配はNGFを放出することができることがわかった。この発見は一方では、おそらく神経末端により放出されるNGFはすべての角膜修復機構で(表面でおよびより深いレベルで)生理病理的役割を果たし、他方、神経支配に対する原発性障害(例えば、神経栄養性角膜炎または異栄養性角膜炎およびヘルペス感染症の再発)を伴うか、または神経支配に及ぼす続発性障害(例えば、化学的または物理的やけどおよび感染後、自己免疫、術後病変、またはレーザー治療による病変)を伴ういくつかの表在性角膜疾患は、NGF放出の欠如が基本的病因段階であることを認めるという仮説を可能にする。この同じ発見により、またNGFが、すべての培養角膜組織の維持、すなわち角膜は全体として、上皮、間質および内皮、またはこれらの一部の細胞を含む形態および機能単位と見なされ、角膜神経末端によるNGFの放出により提供される栄養性支持が欠如するようなすべての条件下で、必須であると仮定することができる。さらに外因性NGFの投与後に観察される作用は、生理的レベルに近い濃度で起きるため、本明細書で考えられる角膜障害の生理病理的機構は、角膜および/または結膜の完全性を確保することができる閾値以下に局所的NGFレベルが低下することであると仮説することができる。従って本発明は特にその第1の面において、培養角膜の保存および角膜および結膜組織ならびに単一の角膜または結膜細胞集団の、インビトロの保存と産生のための神経成長因子の使用を提供する。好ましくはNGFは、任意によっては他の栄養物質および他の生物学的活性物質とともに、100pg/mlから200ng/mlの間の量で、角膜の保存に適した種類の培地あるいは角膜または結膜細胞もしくは組織のインビトロ培養に適した種類の培地に添加される。このために使用されるNGFは、マウスまたはヒト起源(組換えNGFを含む)でもよく、これは凍結乾燥型で、溶液に溶解されて、培地中でまたは他の入手できる溶媒中で、上記範囲の最終的な濃度が得られるように使用される。NGFを抽出および精製するための適当な方法は、上記文献に記載されている。本発明を実験するためにボッキーニとアンゲレッティ(Bocchini and Angeletti)法(前記で引用)が採用されたが、この方法を総合的に以下に示す。成体マウスのオスの顎下腺を無菌条件下で外植し、組織をホモジナイズし、遠心分離し、透析する;次に懸濁液を次のセルロースカラムに通し、こうして吸着によりNGFを分離する。次に0.4M塩化ナトリウムを含有する緩衝液を用いてカラムからNGFを溶出する。こうして得られた試料を分光光度計で280nmの波長で分析してNGF含有画分を同定する。この画分を透析し、こうして得られたNGFを無菌条件下で凍結乾燥し、−20℃で冷蔵庫に保存する。外植した角膜の種々の培地へのNGF添加(4℃および30〜36℃の両方で)の効果の評価において、角膜組織の生物学的特徴の一般的改良は、100pg/ml〜200ng/mlの量のNGFで観察されている。最良の応答は約100ng/mlの濃度で得られた。具体的には7日間の培養後に得られた改良は、内皮細胞密度の上昇(10から25%への上昇)、内皮細胞死滅率の低下(トリパンブルー陽性内皮細胞の欠如)、内皮細胞のより良好な形態(すなわち、定量的には、NGFを添加しない対照の2/3栄養機能に対して3/3栄養機能)、角膜実質細胞のより高い生存活性、および上皮の顕著に優れた外観である。さらに培養される前は移植に適さないと考えられた一部の細胞は、NGFの存在下で7日間培養した後は、適するものとなった。角膜細胞(すなわち、上皮細胞、内皮細胞、および角膜実質細胞)の培地の添加物としてのNGFの作用を同様に実験的に評価すると、100pg/ml〜200ng/mlの量(最良の応答は約100ng/mlの濃度で得られる)のマウスNGFの添加は、種々の細胞集団の増殖と分化を誘発し、さらにこれは、多くの支持組織(例えば、角膜間質のラメラ、羊膜など)上の細胞集団の発根を助けることが証明された。さらにこの添加は、細胞同時培養中の異なるタイプの細胞の間の相互作用を促進する。すなわち本発明は、移植に有用な人工角膜を得るために、混合角膜細胞株を培養するために使用してもよい。また、上記と同じ濃度でマウスNGFの存在下で培養した時、結膜上皮細胞培養物は、増殖と分化の促進、および杯状細胞の数の増加を示した。こうして得られた上皮結膜組織の移植片は、原発性および他の病状に続発性の乾性角結膜炎(ドライアイ症候群)の患者の結膜の交換に極めて有利である。本発明の別の面によって、角膜の保存のための培地あるいは角膜および/もしくは結膜組織または単一の角膜もしくは結膜細胞集団のインビトロの保存と産生のための培地であって、有効量のNGF、好ましくは100pg/ml〜200ng/ml、最も好ましくは約100ng/mlを含有することを特徴とする培地が提供される。前記の定義のように本発明のさらなる面によって、角膜および/または結膜疾患の治療および/または予防のための薬剤の製造における神経成長因子の使用が提供される。詳細には本発明は、神経栄養性および神経麻痺性角膜炎および/または結膜炎;ヘルペス性角膜炎および/または結膜炎;外傷後、感染後、術後角膜炎および/または結膜炎;涙液膜機能の障害、レーザー治療、化学的、物理的または金属性火傷による角膜炎および/または結膜炎;自己免疫性、異栄養性、消耗性および炎症後の角膜炎よりなる群から選択される、先天性および/または後天性の角膜および/または結膜疾患の治療および/または予防に適した医薬品の産生に有用である。好ましくは、局所的投与に適した本発明の医薬品は、単独でまたは1つもしくはそれ以上の他の活性成分とともに、1ml当たり10〜500μgのNGF(最良濃度は1ml当たり約250μgのNGF)を含有する。このような医薬品は、点眼剤のための眼科用液剤、またはゲル剤、軟膏剤、クリーム剤または散剤の型でもよく、あるいは局所的包帯または医療用コンタクトレンズに添加することができる。本発明の別の実施態様において、その製造のためにNGFが提唱される医薬品は、原発性および続発性内皮眼科病理の治療および/または予防のための薬剤である。この用途のために、好適な製剤は1〜250μg/mlのNGF(またこの場合、任意により他の活性成分と組合せてもよい)を含有し、投与は眼の前房中への導入により行われる。角膜内皮細胞の障害の治療についての動物のインビボ試験が、1〜250μg/mlの濃度のNGFを含有する水溶液の眼の前房への投与により行われてた。特に凍結探針により内皮細胞障害を引き起こしたウサギにおいて、NGFで15日間治療後に内皮細胞密度の完全な回復が得られた。異栄養性のおよび後天性の両方の、内皮細胞の数の減少とその機能の喪失の両方を有する、内皮細胞病状にNGFを投与すると、適切な内皮細胞機能が回復することが証明されている。角膜および/または結膜障害の局所的治療におけるNGFによる治療の効率を確認するためのヒトでの一連の研究において、体性感覚角膜神経叢の原発性または続発性関与に基づいて多くの病状が選択されている。上記で要約した精製法で得られたマウスNGF(2.5S)は、そのような研究で使用されている。NGFは、平衡塩類溶液で約250mg/mlの濃度に希釈されて局所投与されている。下記の表は、神経異栄養性角膜炎(2つの眼)、または角膜移植後(2つの眼)の、またはアルカリによる火傷(2つの眼)による遅鈍性角膜潰瘍により障害された5人の患者についての試験から得られた結果を要約する。治療スケジュールは、本発明の製剤1〜2滴を以下の1日の頻度での点眼である:最初の2日間は2時間毎に、角膜の完全な再上皮形成の2日後までは1日6回、および以後15日間は1日2回。NGFによる局所的治療は、臨床像の改善症候がない場合には、自己血清で15日間治療した後に開始した。治療したすべての患者は、NGFで治療を開始後2週間以内に回復の明確な兆候を示し、いずれも治療中または以後の期間に局所的または全身性の副作用の発生は無かった。いったん中止した場合、上皮病状の再発の兆候または症状が最初に現れた場合は、直ちに治療を再開すべきである。関連する5症例を以下に詳述し、主要なデータは下記の表に要約する。第1の症例−9歳の女性、先天性無眼球症、他方の眼に20日以上角膜潰瘍が現れている。この潰瘍は抗生物質とステロイドで局所的に治療されたが、治癒している傾向はない。潰瘍は直径約7mmであり角膜間質の2/3以上の深さである。臨床検査は角膜麻痺を示し、これに基づいて神経栄養性角膜炎が診断された。自己血清により15日間の治療後に、臨床像の進行性悪化が確認されたため、NGFによる局所的治療を開始した。4日後に角膜潰瘍は直径約3.5mmまで縮小し、12日後角膜は完全に治癒され、NGFによる治療を停止した。患者は部分的新生血管を有する中心白斑を示し、弱くはあるが角膜感度が存在していた(これは、治療前に完全に存在しなかった)。8ヶ月の経過観察後、患者は5/10視力を示し、角膜感度は依然存在していた。第2の症例−26才の女性、合指症と脳神経VIII対の欠如に罹っており、約2ヶ月前から角膜潰瘍を示し、これが進行的に悪化し7mmの程度に達し、デスメ膜の深さまで達した。臨床検査は完全な角膜麻痺を示した。NGFで治療の2週間後、明白な回復の兆候が見られ潰瘍の深さが減少した。6週間の治療後、角膜は完全に再上皮形成を示し、部分的新生血管を有する中心白斑が残った。さらに部分的に弱くはあるが角膜感度が回復した。第3の症例−25才の男性、貫通性角膜移植後に角膜潰瘍の発症して、左の眼の摘出術を受け、約1月前から右眼に角膜潰瘍を示し、角膜移植片に達した。角膜潰瘍は直径約5mmであり、その深さは角膜間質の1/2であった。角膜麻痺も存在した。NGFで2週間治療後、角膜治癒プロセスが明らかになり、潰瘍の程度と深さが減少した。NGFで4週間治療後潰瘍が完全に治癒し、部分的新生血管を有する中心白斑が残った。顕著な角膜感覚低下がまだ存在した。第4の症例−56才の男性は、アルカリによる火傷のため両眼の角膜潰瘍を示した。右眼は貫通性角膜移植手術を受け、潰瘍の発症後摘出されていた。左眼は層状角膜移植を受けた後、直径約7mmの遅鈍性潰瘍を発症し、これは治癒の兆候を示さなかった。NGFで2週間治療後、回復プロセスの出現が明らかになり、このプロセスは5週間後に完了した。第5の症例−56才の男性は、塩酸による火傷のため両眼の角膜潰瘍を示した。右眼には直径約4mmの潰瘍が存在し、左眼では潰瘍はより大きく(直径8mmを超える)かつ深かった。患者は顕著な角膜感覚低下を示した。NGFで2週間治療後右眼は完全に治癒し、中心白斑が残存し、左眼の潰瘍は程度と深さとも減少していたが、新生血管パンヌスが存在した。3週間の治療後、両方の角膜は完全に再上皮形成し、中心白斑が残り、弱いながら角膜感度が存在した。2ヶ月の経過観察後、両方の角膜は再上皮形成を維持し、右眼の残存視力は3/10であり、左目は1/10であった。さらに角膜感度はまだ両眼に存在した。前記データは、全体にまたは部分的に、角膜および/または結膜組織をインビトロで保存かつ産生するかまたはこれらの組織を構成する単一のタイプの細胞をインビトロで保存および産生するためのみでなく、角膜の形態および機能単位または結膜を障害する、現在まだその有効な治療法が発見されていないヒトまたは動物の疾患を治療かつ予防するためにもまた、NGFの使用が有効であることを明瞭に示している。本発明をその具体的な実施態様を参照して開示したが、添付の請求の範囲に規定された本発明の範囲を逸脱することなく、当業者は修飾と変更をすることができることを理解されたい。 神経成長因子(NGF)を含む、培養角膜の保存ならびに角膜組織、結膜組織および単一の角膜または結膜細胞集団のインビトロでの保存と産生のための組成物。 NGFを100pg/ml〜200ng/mlの濃度で含む、請求の範囲第1項記載の組成物。 前記濃度は100ng/mlである、請求の範囲第2項記載の組成物。 さらなる栄養物質および/または生物学的活性物質を含有する、請求の範囲第1〜3項のいずれか一項に記載の組成物。 神経成長因子(NGF)を含む、角膜および/または結膜疾患の治療および/または予防のための医薬組成物。 前記角膜および/または結膜疾患は、神経栄養性および神経麻痺性角膜炎および/または結膜炎;ヘルペス性角膜炎および/または結膜炎;外傷後、感染後、術後角膜炎および/または結膜炎;涙液膜機能の障害、レーザー治療、化学的、物理的または金属性火傷による角膜炎および/または結膜炎;自己免疫性、異栄養性、消耗性、炎症後の角膜炎よりなる群から選択される、先天性および/または後天性角膜および/または結膜疾患である、請求の範囲第5項記載の医薬組成物。 局所投与用であり、10〜500μg/mlのNGFを含有する、請求の範囲第5項または6項記載の医薬組成物。 250μg/mlのNGFを含有する、請求の範囲第7項記載の医薬組成物。 前記角膜および/または結膜疾患は、原発性および続発性の内皮細胞の眼病状である、請求の範囲第5項記載の医薬組成物。 眼の前房中への投与用であり、1〜250μg/mlのNGFを含有する、請求の範囲第9項記載の医薬組成物。 NGFが、1つまたはそれ以上の他の活性成分と組合わされる、請求の範囲第5項〜10項までのいずれか一項に記載の医薬組成物。 NGFはマウスまたはヒト起源であるか、またはヒト組換えNGFである、請求の範囲第1〜4項のいずれか一項に記載の組成物。 NGFはマウスまたはヒト起源であるか、またはヒト組換えNGFである、請求の範囲第5〜11項のいずれか一項に記載の医薬組成物。


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