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タイトル:特許公報(B2)_抗生物質パレイン酸Aとその製造法
出願番号:1998370443
年次:2009
IPC分類:C12P 7/42,A61K 31/201,A61P 31/04,C12N 1/20,C07C 59/42,C12R 1/01


特許情報キャッシュ

竹内 富雄 濱田 雅 高橋 良和 梅北 まや 長縄 博 澤 力 JP 4235298 特許公報(B2) 20081219 1998370443 19981225 抗生物質パレイン酸Aとその製造法 財団法人微生物化学研究会 000173913 浜野 孝雄 100064388 森田 哲二 100067965 竹内 富雄 濱田 雅 高橋 良和 梅北 まや 長縄 博 澤 力 20090311 C12P 7/42 20060101AFI20090219BHJP A61K 31/201 20060101ALI20090219BHJP A61P 31/04 20060101ALI20090219BHJP C12N 1/20 20060101ALI20090219BHJP C07C 59/42 20060101ALN20090219BHJP C12R 1/01 20060101ALN20090219BHJP JPC12P7/42A61K31/201A61P31/04C12N1/20 AC07C59/42C12P7/42C12R1:01 C12P 7/00-7/66 CAplus/REGISTRY(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) 特開昭64−051092(JP,A) JAOCS,Vol.69,No.4(1992)p.363-366 Appl.Microbiol.Biotechnol.,Vol.50,No.5(Nov.1998)p.573-578 Appl.Microbiol.Biotechnol.,Vol.45,No.3(1996)p.342-348 3 FERM P-16999 2000189181 20000711 18 20051221 三原 健治 【0001】【産業上の利用分野】本発明は、牛の呼吸器病の起炎菌であるパスツレラ・ヘモリティカに特異的にすぐれた抗菌活性を示す新規な抗生物質であるパレイン酸A(Paleic Acid A)またはその塩に関し、またパレイン酸Aの製造法に関する。さらに本発明はパレイン酸Aまたはその塩を有効成分とする抗菌剤に関する。さらに本発明はパレイン酸Aを生産できる特性を持つ新規な微生物であるパエニバチルス・アルベイ BMK771−AF3株に関する。【0002】【従来の技術】細菌感染症の化学療法において、多剤耐性菌の出現は重大な問題である。牛の呼吸器病に対して従来知られるまたは使用されている既知の化合物は、マクロライド系抗生物質あるいはβーラクタム系抗生物質等であり、これらの抗生物質は人の治療に用いられているものと同じ分子構造骨格を有している。動物薬として畜産業で大量に使用されていたバンコマイシン類縁体がバンコマイシン耐性菌を生み出し、このバンコマイシン耐性菌が人の細菌感染症の化学療法を脅かした事件は衆目の一致するところである。そこで、人の細菌感染症の治療に用いられている抗菌剤とは全く異なる分子構造骨格を有し且つ優れた抗菌活性を示す新しい化合物の発見または創製をすることは常に望まれており、そのための研究が行われている。【0003】【発明が解決すべき問題】本発明は、上記の要望に応えることができる優れた抗菌活性を持つ新規な抗生物質を提供することを目的にするものである。【0004】【課題を解決するための手段】そこで上記の目的を達成するために、本発明者らは有用な抗生物質を発見すべく研究を行った。その結果、新規な微生物として、パエニバチルス・アルベイ BMK771−AF3株を分離することに成功した。また本発明者らはこの菌株が新しい構造骨格を有する数種の抗生物質を産生していることを見い出した。そして、それらのうちの一つの抗生物質を単離および精製することに成功してパレイン酸Aと命名した。このパレイン酸Aが牛の呼吸器病の起炎菌であるパスツレラ・ヘモリティカに特異的にすぐれた抗菌活性を示すことを見い出した。さらに研究を続けパレイン酸Aを分析することにより、パレイン酸Aの化学構造を決定した。そしてパレイン酸Aが新規化合物であることを確認した。そしてパレイン酸Aが、後記の式(I)により表せることを知見した。【0005】しかして、本発明は、新規微生物としてパエニバチルス・アルベイ BMK771−AF3株を培養して得られて本発明者らによりパレイン酸Aと命名された抗生物質を提供し、またその製造法を提供するものである。さらに、本発明はパレイン酸Aまたはその塩を有効成分とする抗菌剤を提供するものである。【0006】 すなわち、第1の本発明によると、FERM P−16999の受託番号で寄託されたパエニバチルス・アルベイ BMK771-AF3株により生産される物質であって、牛の呼吸器病起炎菌のパスツレラ・ヘモリテイカに対して抗菌活性を有し且つ比旋光度〔α〕D28=-5°(c 0.2,クロロホルム)をもつ無色オイル状物質の形で得られて次式(I)で表される化合物であるパレイン酸A、あるいは その製薬学的に許容される塩が提供される。【0007】第1の本発明による式(I)のパレイン酸Aの理化学的性状は、次の通りである。(1)外観無色オイル(2)分子式C18H34O3 (3)高分解能質量分析(HRFABMS:負イオンモード)実験値:m/z 297.2459 (M - H)- 計算値:m/z 297.2430(4)比旋光度[α]D 28= −5゜(c 0.2,クロロホルム)(5)赤外線吸収スペクトル添付図面の図1に示す通りである。【0008】(6)プロトン核磁気共鳴スペクトル500MHzにおいて重クロロホルム中で室温にて測定したプロトンNMRスペクトルは、添付図面の図2に示す通りである。(7)炭素13核磁気共鳴スペクトル125MHzにおいて重クロロホルム中で室温にて測定した炭素13NMRスペクトルは、添付図面の図3に示す通りである。(8)薄層クロマトグラフィーシリカゲル60F254 (メルク社製)の薄層クロマトグラフィーで展開溶媒としてクロロホルム−エタノール(20:1)で展開したときのRf値は0.42である。【0009】本発明による新規抗生物質パレイン酸Aが前記の式(I)で示される化学構造を有することは、プロトンNMR、炭素13NMR等の分析を詳細に検討することにより前記の通り決定された。【0010】パレイン酸Aの製薬学的に許容される塩には、例えばナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩が包含される本発明による式(I)のパレイン酸Aは後記の生物学的性質を有する。すなわち、パレイン酸Aは、パスツレラ・ヘモリティカに対して特異的にすぐれた抗菌活性を示し、またパスツレラ・マルトシダのいくつかの菌株にも抗菌活性を示す。パレイン酸Aは、ほ乳動物に対する急性毒性が低い。【0011】試験例1各種の微生物に対するパレイン酸Aの抗菌スペクトルは日本化学療法学会標準法に基づいて、ミュラー・ヒントン寒天(Difco 社製)培地上およびブレイン・ハート・インフュージョン寒天(Difco 社製)培地上で倍数希釈法によって測定した。その結果をそれぞれ表1および表2に示す。【0012】【0013】【0014】【0015】試験例2マウスを使用して式(I)のパレイン酸Aの急性毒性を試験するにあたって、10%ジメチルスルホキシドおよびツイーン80含有の生理食塩水にパレイン酸Aを溶解し、その溶液を腹腔内に注射し、マウスを14日間観察した。その結果、パレイン酸Aは65 mg/kgの投与量でも毒性は認められなかった。【0016】 さらに、第2の本発明(請求項1の発明)によると、FERM P−16999の受託番号で寄託されたパエニバチルス・アルベイ BMK771-AF3株を培養し、その培養物から、比旋光度〔α〕D28=-5°(c 0.2,クロロホルム)をもつ無色オイル状物質の形で得られて次式(I)で表される化合物であるパレイン酸Aを採取することを特徴とする、抗生物質バレイン酸Aの製造方法が提供される。【0017】本発明の方法で使用するパレイン酸Aの生産菌としては、前述した理化学的性質および生物学的性質を有する抗生物質であるパレイン酸Aを生産する能力を有するものであれば、パエニバチルス属のうちからその種を問わずに適当な微生物を選ぶことができる。かかる微生物のうち、パレイン酸A生産菌の具体的かつ好適な一例には、本発明者らにより平成9年5月、微生物化学研究所において、長野県北安曇郡白馬村岩岳スキー場の土壌より分離したバクテリアで、パエニバチルス・アルベイ BMK771−AF3の菌株番号が付された菌株がある。【0018】以下にパエニバチルス・アルベイ BMK771−AF3株の菌学的諸性質について記載する。1.形態(1)本菌株の細胞は捍菌であり、大きさは 0.7×0.8 〜 1.6×2.5 ミクロンである。(2)細胞の多形性は、特に認められない。(3)周鞭毛を有し、運動性を示す。(4)胞子を有する。その形は卵円形、大きさは0.45〜0.55×1.0 ミクロン、位置は中立(central) 、菌体の膨隆を認める。【0019】2.各種培地における生育状態肉汁ゼラチン穿刺培養以外は、すべて30℃で培養して試験した。(1)肉汁寒天平板培養コロニーは、やや光沢のある不透明な円形で、培養後3日目頃より辺縁は不規則になる。色は無色から明るい茶灰(colorless 〜light brownish gray )を示す。拡散性色素は認められない。(2)肉汁液体培養培養後1日でわずかに菌の生育がみられ、2日目には管底に少量の菌の沈澱を認める。培養後1週間で試験管表面にうっすらと白く生育し、管底にも沈澱を生ずる。培養後2週間を経過しても培地の濁度にさほどの変化はみられない。【0020】(3)肉汁ゼラチン穿刺培養20℃培養では、培地表面及び穿刺線に沿って菌の生育が認められ、培養後2日目頃より液化が始まり、その後ゆっくりと進み、4週間で培地の2/3程度を液化した。液化作用は中等度である。30℃培養では培地表面及び全体に良好な菌の生育がみられ、培養後2日目で菌膜を形成する。液化は培養後2日目頃より始まり、4週間培養で完了した。その作用は中等度である。(4)ミルク培養ミルクに培養した場合は、培養後2日目頃より培地表面に近い管壁にわずかに生育する。培養後2週間では凝固が観察されず、3週間後に凝固が始まる。ペプトン化は、凝固終了後ただちに始まり、培養後4週間でほぼ完了した。反応は弱酸性である。【0021】3.生理的性質(特に記さない限り、培養温度はすべて30℃)(1)グラム染色性:不定(幼若培養で陽性、48時間培養では陰性菌に陽性菌が混在し、培養72時間以降は陰性となる。)(2)硝酸塩の還元:陰性(3)脱窒反応(駒形らの方法:長谷川武治編著;微生物の分類と同定,223頁,東京大学出版会,1975年) :陰性(4)MRテスト:陰性(5)V−Pテスト:陰性(6)インドールの生成:陰性(7)硫化水素の生成:陰性(8)スターチの加水分解:陽性(9)クエン酸の利用: Koserの培地、Christensen の培地で共に陰性【0022】(10)無機窒素源の利用:硝酸ナトリウム、硫酸アンモニウムいずれも陽性(11)色素の生成:キングA培地、キングB培地、いずれも溶解性色素は認められない。(12)ウレアーゼ(尿素培地,栄研化学):陰性(13)オキシダーゼ:陽性(14)カタラーゼ:陽性(15)生育の範囲:pH 6.0〜9.0の範囲で生育を認め、最適 pH は 7.0である。 又、20℃〜37℃の範囲で生育を認め、最適温度は30℃である。(16)酸素に対する態度:通性嫌気性(17)O−Fテスト(Hugh Leifson法による) : 発酵型【0023】(18)糖類からの酸の生成及びガスの生成(糖加アンモニウム塩培地における) 15種の糖からの酸の生成をBCP指示薬とBTB指示薬で調べ、その結果を表3に示す。【0024】【0025】表3に示した糖からのガスの生成を調べたが上記15種の糖類のいずれの場合もガスを生成しない。(19)カゼインの加水分解:陽性(20)エスクリンの加水分解:陽性(21)リゾチーム感受性(0.001 %リゾチームを含む肉汁液体培地):抵抗性(22)チロシンの分解:陰性(23)レシチナーゼ:陽性(24)非抗酸性である。【0026】4.化学分類学的性質(1)DNAの塩基組成(G+C含量):44.9%【0027】以上の性状を要約すると、BMK771−AF3株は、グラム染色性が不定であり通性嫌気性の有芽胞捍菌である。又、周鞭毛を有し、運動性を示す。芽胞は卵円形で中立(central) 、菌体の膨隆を認め、非抗酸性である。寒天培地での生育は不透明で、辺縁は不規則、コロニー表面はにぶい光沢を呈する。ゼラチンを液化し、ミルクを凝固、ペプトン化する。硝酸塩を還元せず、脱窒反応、MRテスト及びV−Pテストは陰性である。インドールは検出されず、硫化水素を生成しない。スターチを分解し、クエン酸は利用しない。ウレアーゼ反応は陰性、オキシダーゼ反応及びカタラーゼ反応は陽性である。【0028】本菌株はpH 6.0〜 9.0の範囲で生育し、最適pHは 7.0である。また、20℃〜37℃の範囲で生育を認め、最適温度は30℃である。グルコースを酸化的に分解し、酸を生成するが、ガスは生成しない。なお、前記に示した通り、グルコース以外の他の糖類からも酸を生成するが、ガスは生成しない。リゾチームには抵抗性であり、カゼイン及びエスクリンを分解し、チロシンは分解しない。【0029】以上の性状をもとに、BMK771−AF3株を Bergey's Manual of Systematic Bacteriology 、Volume 2(1986)で検索すると、バチルス(Bacillus)属に属し、バチルス・アルベイ(Bacillus alvei)、バチルス・ラテロスポルス(Bacillus laterosporus) 及びバチルス・ブレビス(Bacillus brevis) があげられた。現在、バチルス属は系統を反映した複数の属に分割され、バチルス属より、1993年にパエニバチルス(Paenibacillus) 属(文献、Antonie von Leeuwenhock 、64巻、243 〜260頁、1993年) が、1996年にブレビバチルス(Brevibacillus)属及びアニュリニバチルス(Aneurinibacillus)属が新属として提案された(文献、International Journal of Systematic Bacteriology、 46 巻、937〜946頁、1996年)。すなわち、検索で提案された上記3株はそれぞれパエニバチルス・アルベイ(Paenibacillus alvei)、ブレビバチルス・ラテロスポルス(Brevibacillus laterosporus) 及びブレビバチルス・ブレビス(Brevibacillus brevis)と記載されている。BMK771−AF3株と上記3種の菌株の性状を文献及び当研究所保存のPaenibacillus alvei IMC B-0925(IFO 3343T)、Brevibacillus laterosporus IMC B-0514(1979年に農林水産省家畜衛生試験場より分譲された)及び Brevibacillus brevis IMC B-0115 (IAM 1031)と実地に比較検討し、次の表4に示した。【0030】【0031】【0032】(注):表4における各記号は次の意味を有する。*:実験結果±:おそらく陽性と判定される。1), 2), 3):文献値 (+:90%以上の株で陽性、d:11−89%の株で陽性、−:90%以上の株で陰性)a :High pressure liquid chromatography (HPLC法) で測定、b :Thermal Denaturation Method (Tm 法) で測定、c :Buoyant Density Method (BD法)で測定した結果である。表4に示した1)、2)および3)は下記の引用文献を示す。1): Bergey's Manual of Systematic Bacteriology、Volume 2、1122〜1123頁、 Williams & Wilkins、Baltimore 、1986年2): The genus Bacillus、Agriculture Handbook No.427 、United States Department of Agriculture 、Washington, D.C.、1973年3): Topley & Wilson's Principles of Bacteriology、Virology and Immunity、6th edition 、Volume 1、1103頁、Edward Arnold 、London、1975年【0033】以上の表4から明らかなように、ブレビバチルス・ラテロスポルスは芽胞の位置がカヌー型で、スターチの加水分解が陰性、硝酸塩を還元する点でBMK771−AF3株と大きく異なる。又、ブレビバチルス・ブレビスは生育後V−PブロスのpHが7.0以上を示し、嫌気性条件下では生育せず、50℃でも生育することがある点でBMK771−AF3株と区別される。一方、BMK771−AF3株はインドールの生成が陰性である点で、パエニバチルス・アルベイと相異した結果を示したが、以下に述べる点で極めて近縁の性状を示した。すなわち、BMK771−AF3株は、生育後V−PブロスのpHが6.0 以下を示し、スターの加水分解が陽性、硝酸塩を還元しない、チロシン を分解しない等の諸点である。なお、V−Pテストは実地に比較検討の結果、両者が陰性であり、文献2)The genus Bacillus、Agriculture Handbook No.427 によれば1/4の確率で陰性を示すと記載されている。又、Egg-yolkレシチナーゼ反応はパエニバチルス・アルベイが文献3)Topley & Wilson's Principles of Bacteriology、Virology and Immunity では陽性と記載されており、BMK771−AF3株の成績と合致する。なお、G+C含量についても両者は極めて近い数値を示した。これらの結果より、BMK771−AF3株をパエニバチルス・アルベイPaenibacillus alvei BMK771−AF3と同定した。【0034】なお、BMK771−AF3株を工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託申請し、平成10年9月17日にFERM P−16999 として受託された。【0035】第2の本発明の方法においては、パレイン酸Aの製造は次の通り行われる。すなわち、パレイン酸Aの製造は、パレイン酸A生産菌を栄養培地中に接種して、25℃〜30℃の温度で好気的に振とうしながら培養することによって行うのが好ましく、パレイン酸Aを含む培養物が得られる。このような目的に用いる栄養培地としては、バクテリアの培養に使用しうるものが使用される。栄養源として、例えば市販されているペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーン・スティープ・リカー、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、コーン・グルテン・ミール等の窒素源が使用でき、また、グリセリン、でん粉、グルコース、ガラクトース、デキストリン、コーン・スターチ等の炭水化物あるいは脂肪などの炭素源が使用できる。さらに食塩、炭酸カルシウム等の無機塩を添加して使用できる。その他必要に応じて微量の金属塩を添加することができる。これらのものは、パレイン酸A生産菌が利用し、パレイン酸Aの生産に役に立つものであればよく、公知の放線菌あるいはバクテリアの培養材料はすべて用いることができる。【0036】パレイン酸Aの生産には、パエニバチルス属に属して広く自然界に存在する微生物でパレイン酸Aの生産能を有するバクテリアが使用される。具体的には、本発明者らの分離したパエニバチルス・アルベイ BMK771−AF3株がパレイン酸Aを生産することが本発明者らによって明らかにされているが、その他の菌株については、抗生物質生産菌の単離の常法によって自然界より分離することが可能である。また、パエニバチルス・アルベイBMK771−AF3株を含めて、パレイン酸Aの生産菌を放射線照射その他変異処理に付して、パレイン酸Aの生産能を高める余地も残っている。さらに遺伝子工学的手法によってパレイン酸Aの生産菌を改変することも可能である。【0037】パレイン酸Aは、パレイン酸Aの生産菌、好ましくはパエニバチルス・アルベイ BMK771−AF3株を適当な培地で好気的に培養し、その培養液から採取することによって製造することができる。培養温度は、パレイン酸A生産菌の発育が実質的に阻害されずにこの物質を生産しうる範囲であれば、特に制約されるものでなく、使用する生産菌に応じて選択できるが、好ましくは、25−30℃の範囲内の温度、特に27℃を挙げることができる。【0038】パレイン酸A生産のために培地に接種される接種物としては、寒天培地上、BMK771−AF3株の斜面培養から得た生育物を使用する。【0039】このパエニバチルス・アルベイ BMK771−AF3株の生育は通常は2ないし3日で最高に達するが、一般に充分な抗菌活性が培地に付与されるまで続ける。この培養液中のパレイン酸Aの力価の経時変化は、パスツレラ・ヘモリティカ BBP0102 N811を被検菌とする円筒平板法により測定できる。【0040】第2の本発明の方法においては、上記のようにして得られた培養物からパレイン酸Aを採取するが、採取法としては微生物の生産する代謝物を採取するのに用いられる手段を適宜利用することからなる。例えば、水と混ざらない溶媒による抽出の手段、各種吸着剤に対する吸着親和性の差を利用する手段、ゲルろ過、向流分配を利用したクロマトグラフィー等を単独または組み合わせて利用しパレイン酸Aを採取できる。また、分離した菌体からは、適当な有機溶媒を用いた溶媒抽出法や菌体破砕による溶出法により菌体からパレイン酸Aを抽出し上記と同様に精製して採取することができる。かくして、前記した抗生物質パレイン酸Aが得られる。培養物から得られたパレイン酸Aは、これにきわめて構造の類似した数種の化合物群との混合物の形で得られることが多い。 パレイン酸Aを単離お よび精製するためには、化学変換によって単離し易いパレイン酸A誘導体に変換し、これを分離して精製後、化学変換によって再びパレイン酸Aの純品にすることが便利である。【0041】例えば、パレイン酸A生産菌の培養物からパレイン酸Aを採取するに当たっては、次の採取および精製法を用いるのが便利である。 すなわち、得られた培養液を遠心分離にかけて菌体と培養ろ液とに分け、培養ろ液は酢酸ブチルで抽出した。菌体はメタノール抽出した後、濃縮し、少量の水を加えて、酢酸ブチルで抽出した。得られたそれぞれの酢酸ブチル抽出液を合わせて濃縮乾固し、得られた油状残さをヘキサン−メタノール−アセトニトリル(70:20:30容量比)で分配し、その下層を濃縮乾固してパレイン酸Aを含む粗製オイル状物質を収得し、次いでこのオイル状物質をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒クロロホルム)にかけてパレイン酸Aの一次精製物を収得し、さらにこれを遠心液液分配クロマトグラフィー(溶媒系:ヘキサン−酢酸エチル−アセトニトリル、7:2:3容量比)にかけてパレイン酸Aの二次精製オイルを収得し、さらに該オイル中のパレイン酸Aにジアゾジフェニルメタンを反応させてパレイン酸Aのジフェニルメチルエステルを生成し、これを含む反応液を濃縮乾固して、得られた残さをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン−酢酸エチルで溶出)にかけ、次いで、得られたパレイン酸Aジフェニルメチルエステルよりなる油状物質を塩化p−ニトロベンゾイルで処理してO−p−ニトロベンゾイル−パレイン酸Aジフェニルメチルエステルの粗生成物を採取し、次いでこれをシリカゲルカラムクロマトグラフィーならびにシリカゲル薄層クロマトグラフィーにかけてO-p−ニトロベンゾイル−パレイン酸Aジフェニルメチルエステルの精製品を取得した。次いで該化合物をNaOH水溶液による加水分解反応にかけ、次いで酸性条件下で遊離酸のパレイン酸Aを酢酸エチルで抽出し、得られた酢酸エチル抽出液を水洗し、無水硫酸ナトリウムで脱水し、さらに濃縮乾固し、得られたオイル状残さを遠心液液分配クロマトグラフィー(溶媒系:ヘキサン−酢酸エチル−アセトニトリル、5:1:4容量比)による精製にかけることから成る方法を用いることによって、目的のパレイン酸Aを純品として収得できる。【0042】 さらに、第3の本発明(請求項2の発明)では、FERM P−16999の受託番号で寄託されたパエニバチルス・アルベイ BMK771-AF3株により生産される物質であって、牛の呼吸器病起炎菌のパスツレラ・ヘモリテイカに対して抗菌活性を有し且つ比旋光度〔α〕D28=-5°(c 0.2,クロロホルム)をもつ無色オイル状物質の形で得られて次式(I)で表される化合物であるパレイン酸Aまたはその製薬学的に許容される塩を有効成分とする抗菌剤が提供される。【0043】この抗菌剤においては、有効成分としてのパレイン酸Aまたはその塩を製薬学的に許容できる常用の固体または液状担体、例えばエタノール、水、でん粉等と混和してなる組成物の形であることができる。【0044】 また、第4の本発明(請求項3の発明)では、FERM P−16999の受託番号で寄託されてあり且つ前記に記載のパレイン酸Aを生産する特性を持つパエニバチルス・アルベイ BMK771−AF3株が提供される。【0045】【発明の実施の形態】以下に実施例により本発明をさらに詳細に説明する。実施例1抗生物質パレイン酸Aの製造寒天斜面培地に培養したパエニバチルス・アルベイ BMK771−AF3株(FERM P-16999)を、コーン・スターチ 2%、コーン・グルテン・ミール 2%、グルコース 1%、コーン・スティープ・リカー 1%、塩化アンモニウム0.25%、塩化ナトリウム 0.3%、炭酸カルシウム 0.6%を含む液体培地1000ml(pH 6.4に調整)を三角フラスコ(500ml容)に110 mlずつ分注して且つ常法に より 120℃で20分滅菌したものに接種した。その後27℃で3日間回転振とう培養した。【0046】このようにして得られた培養液を遠心分離して菌体を分離した。得られた培養ろ液(800 ml)を酢酸ブチル(800 ml)で抽出し、その抽出液を無水硫酸ナトリウムで脱水した後、濃縮乾固した。残さをヘキサン−メタノール−アセトニトリル(70ml:20ml:30ml)で分配し、その下層を濃縮乾固し、175 mgのオイル状物質を得た。【0047】また、菌体にはメタノール(200 ml)を加え、攪拌ろ過し、濃縮した後、水(200 ml)を加えて、酢酸ブチル(200 ml)で抽出し、その抽出液を培養ろ液と同様の方法で処理してパレイン酸Aを含む粗製オイル状物質64mgを得た。上記で得たこれらのオイル状の物質を合わせて、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(Wakogel C200,18g)によって、クロロホルムを展開溶媒として精製してパレイン酸Aの一次精製物を得た(収量;46mg)。さらに遠心液液分配クロマトグラフィーによりヘキサン−酢酸エチル−アセトニトリル(7:2:3)の溶媒系を用いて該一次精製物を精製し、パレイン酸A含有の二次精製オイル34.7mgを得た。このパレイン酸A含有の二次精製オイルをメタノール5mlに溶解させ、その溶液にジアゾジフェニルメタン50mgを加え、室温で20時間反応させた。反応を完結させるべく、ジアゾジフェニルメタン9mgを加えさらに9時間反応させた。生成されたパレイン酸Aのジフェニルメチルエステルを含む反応液を濃縮乾固し、その残さをシリカゲル(Wakogel C200,10g)カラムを用いるクロマトグラフィーにかけて精製した。すなわち、トルエン10mlでシリカゲルカラムを洗浄後、トルエン−酢酸エチル(30:1)で溶出せしめ、パレイン酸Aのジフェニルメチルエステルよりなる油状物質44mgを得た。【0048】このジフェニルメチルエステルをピリジン4mlに溶解せしめ、塩化p−ニトロベンゾイル30mgを加え29時間室温で反応させてパレイン酸Aジフェニルメチルエステルの水酸基をp−ニトロベンゾイル基で保護した。反応を完結させるべく、塩化p−ニトロベンゾイル20mgを加え19時間反応させた後、さらに塩化p−ニトロベンゾイル10mgを加え8時間反応させた。生成されたO−p−ニトロベンゾイルパレイン酸Aジフェニルメチルエステルを含む反応液に水10μl加えて、1時間放置後、濃縮乾固した。残さをシリカゲル(Wakogel C200, 2g)カラムを用いるクロマトグラフィーにかけ、ヘキサン−酢酸エチル(20:1)で溶出せしめ、油状物質54mgを得た。得られた油状物質をシリカゲルプレート(Merck社製、Art11798)を用いるクロマトグラフィーにかけて、ヘキサン−ジイソプロピルエーテル(10:1)で10回展開し、かきとり分離し、O−p−ニトロベンゾイルパレイン酸Aジフェニルメチルエステルである単一のパレイン酸A誘導体11.7mgを得た。【0049】 この誘導体11.7 mgをエタノール5mlに溶解せしめ、0.5N NaOH 1mlを加え、室温で14時間反応させた。この加水分解によりp−ニトロベンゾイル基とジフェニルメチルエステル基が脱離した。さらにその濃縮物に水4mlと1N HCl 0.1 mlを加えて得られた水層から、酢酸エチル4mlで三回抽出した。酢酸エチ ル層(抽出液)を水洗後、無水硫酸ナトリウムで脱水し濃縮乾固した。残さを遠心液液分配クロマトグラフィーによりヘキサン−酢酸エチル−アセトニトリル (5:1:4)の溶媒系を用いて精製し、パレイン酸Aの純品5.5 mgを無色オイルとして得た。【図面の簡単な説明】【図1】図1はパレイン酸AのKBr錠剤法で測定した赤外線吸収スペクトルである。【図2】図2はパレイン酸Aの重クロロホルム溶液中にて室温で測定した500MHzに おけるプロトン核磁気共鳴スペクトルである。【図3】図3はパレイン酸Aの重クロロホルム溶液中にて室温で測定した125MHzに おける炭素13核磁気共鳴スペクトルである。 FERM P−16999の受託番号で寄託されたパエニバチルス・アルベイ BMK771-AF3株を培養し、その培養物から、比旋光度〔α〕D28=-5°(c 0.2,クロロホルム)をもつ無色オイル状物質の形で得られて次式(I)で表される化合物であるパレイン酸Aを採取することを特徴とする、抗生物質バレイン酸Aの製造方法。 FERM P−16999の受託番号で寄託されたパエニバチルス・アルベイ BMK771-AF3株により生産される物質であって、牛の呼吸器病起炎菌のパスツレラ・ヘモリテイカに対して抗菌活性を有し且つ比旋光度〔α〕D28=-5°(c 0.2,クロロホルム)をもつ無色オイル状物質の形で得られて次式(I)で表される化合物であるパレイン酸Aまたはその製薬学的に許容される塩を有効成分とする抗菌剤。 FERM P−16999の受託番号で寄託されてあり且つ請求項1に記載のパレイン酸Aを生産する特性を持つパエニバチルス・アルベイ BMK771-AF3株。


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