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タイトル:特許公報(B2)_還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類の分解を防止する方法及び分解防止用試薬
出願番号:1998194997
年次:2009
IPC分類:C12Q 1/32,C12Q 1/52,G01N 33/52,C07H 19/207


特許情報キャッシュ

山本 洋子 坪田 博幸 JP 4260245 特許公報(B2) 20090220 1998194997 19980625 還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類の分解を防止する方法及び分解防止用試薬 株式会社三菱化学ヤトロン 000138277 森田 憲一 100090251 山口 健次郎 100139594 山本 洋子 坪田 博幸 20090430 C12Q 1/32 20060101AFI20090409BHJP C12Q 1/52 20060101ALI20090409BHJP G01N 33/52 20060101ALI20090409BHJP C07H 19/207 20060101ALN20090409BHJP JPC12Q1/32C12Q1/52G01N33/52 ZC07H19/207 C12Q G01N C07H 特開平08−089292(JP,A) 特開平08−242894(JP,A) 国際公開第97/019190(WO,A1) 特開昭59−82398(JP,A) 2 2000007696 20000111 17 20040405 大宅 郁治 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類の分解を防止する方法及び分解防止用試薬に関する。本発明の防止方法によれば、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類含有液状試薬が関与する測定系において、その液状試薬の他の成分又は検体中に存在する夾雑物質による前記還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類からニコチンアミドモノヌクレオチドへの分解を有効に防止することができる。【0002】【従来の技術】医療分野において、適切な治療を行うためには正確に疾病を診断することが必要である。生体試料中の多数の生理活性物質、例えば、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(GOT)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(GPT)、乳酸脱水素酵素(LDH)、α−オキシ酪酸脱水素酵素(HBD)、遊離脂肪酸(NEFA)、尿素窒素(UN)、又はクレアチニン(CRE)などを精度良く、迅速簡便に測定することが望まれ、種々の試験法、試薬及び分析機器が開発されてきた。近年では多数の検体を短時間で処理し、自動的に測定結果を得ることが主流となり検査装置、試薬の両面で高度な性能が求められている。実際に病院や検査センター等での測定では自動分析機による測定が主流となっている。【0003】前記の生体試料中の生理活性物質の測定は、すべて酵素反応を利用して測定することができる。酵素反応を利用する測定法としては、(1)一定の測定条件下で生成された生成物量を測定する方法、(2)補酵素の変化量を測定する方法、及び(3)基質の減少量を測定する方法の3つに大別することができる。特に(2)の補酵素の変化量を測定する方法が汎用されており、その補酵素としてニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類、すなわち、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(以下、NADHと称することがある)又は、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(以下、NADPHと称することがある)と、酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(以下、NAD+ と称することがある)又は、酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(以下、NADP+ と称することがある)とを適用した各種脱水素酵素による反応系が多く利用されている。基本的な反応式を示すと次のようになる。【0004】【化1】【0005】従来、これらの試薬は、酵素等を含むものについてはその保存性を考慮して凍結乾燥の状態で供給され、使用時に緩衝液等で溶解して用いるようになっていた。しかしながら、近年はその調製の手間を省くために、当初から溶液状態のいわゆる液状試薬が広く普及してきた。特に、液状試薬の場合には、そこに含まれる酵素等の各組成成分の安定化が重要である。当然、補酵素ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類もその対象であり、安定化方法に関する報告も多い。例えば、ホウ酸を添加する方法(特開昭62−198697号公報)やアルカリ金属を添加する方法(特開平7−229192号公報)等が開示されている。【0006】補酵素ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類の溶液での安定性は、一般に還元型がアルカリ性溶液中で安定であり、酸化型は酸性溶液中で安定であることが知られている。実際に、還元型のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類を利用した測定試薬で、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)や還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)を含有する溶液が液状試薬であればそのpHはアルカリ性のものが多く、その他の組成成分の組み合わせが工夫されている。【0007】【発明が解決しようとする課題】しかしながら、本発明者が見いだしたところによれば、例えば、NADH(又はNADPH)が安定なアルカリ性の条件下において、共存する酵素活性が低下しないにもかかわらず、NADH(又はNADPH)の含量のみが極端に低下するという問題が発生することがある。生理活性物質測定系において、NADH(又はNADPH)の含量が低下すると目的とする生理活性物質の正確な測定値が得られなくなってしまう。その一般的な原因を本発明者が探求したところ、NADH(又はNADPH)を分解する夾雑物質が、種々のルートから測定系に混入してくることが分かった。【0008】生体試料中の生理活性物質測定方法において、補酵素ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類を用いる測定系では酵素反応を利用するので、多くの場合、補酵素と酵素とを共存させる。補酵素と共存させる酵素は、動物組織や細菌等から精製された標品である場合がほとんどである。補酵素と共存させる酵素中にNADH(又はNADPH)の含量を低下させ、本来の反応を阻害する物質が夾雑酵素として存在していると、生理活性物質を測定する場合に、正確な値が得られないことになる。例えば、試薬の性能評価において、その試薬の測定上限の性能を評価する目的で、測定対象の生理活性物質が極端に高値の検体を測定する場合がある。通常の生体試料(血清等)それ自体では測定上限を評価するための検体としては十分ではないので、目的の生理活性物質を添加して人為的に高値となるように検体を調製するか、あるいは目的に合う市販の管理血清を検体として使用することになる。特に市販の管理血清は、目的物質のみならず同時に数種類の生理活性物質を有しているものが一般的である。また、その調製は、ベースとなる血清に動物組織や細菌等から精製された標品を測定目的物質として添加する。ここで、添加された標品中にNADH(又はNADPH)の含量を低下させ、反応の場で酵素反応を阻害する物質が夾雑していた場合には、目的の生理活性物質の正確な測定値が得られないこととなる。【0009】本発明者は、後述する参考例1に示すように、自動分析機によるGPT測定において、反応を阻害する夾雑物質を含む検体及び夾雑物質を含まない検体(添加されたGPTは同程度の活性のもの)を同一の液状試薬で測定した。その結果、夾雑物質含有検体では、直線性が1000u/l程度までしか認められないが、夾雑物質不含検体では直線性が2000u/l程度まで認められた。このことは、本来なら、高値検体として測定されなければならない検体において、反応を阻害する夾雑物質が存在する場合には、所望の値が得られないことを示している。測定物質の正確な値が得られないと、生理活性物質を各種疾病の診断の指標としている医療分野に与える影響は甚大である。【0010】補酵素ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類を利用した酵素法による生理活性物質測定は、補酵素ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類の変化量を波長340nmの吸光度変化量として検出して測定する。更に詳述すれば、自動分析機においては、酵素反応によるNADH(又はNADPH)の吸光度の減少を利用して、あらかじめ設定した測光時間時間内で、一定の間隔で測定された吸光度から反応の速度(傾き)を求め、更に単位時間当たりの吸光度の減少速度を求め、NADH(又はNADPH)の分子吸光係数から生理活性物質の値を算出する。又は、標準液を用いる場合は、標準液と検体との吸光度の差により目的の生理活性物質の値を算出する。ここでNADH(又はNADPH)の存在量が保存中の含量の低下によって不足していたり、反応の場に共存する夾雑物質により酵素反応が阻害を受けると、正確な反応速度や、吸光度が得られないため、算出された値も不正確となる。【0011】本発明者は上記のようなニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類を含んだ測定系において、従来使用されてきた凍結乾燥品の試薬ではなく、近年使用されるようになった液状試薬を用いた場合に、反応阻害が生じる点に着目し、その原因を追求した。その主要因は、吸光度変化の指標となるNADHが夾雑物質として存在するヌクレオチドピロフォスファターゼにより、NMNH(還元型ニコチンアミドモノヌクレオチド)へ分解されることにあると考えられる。NMNHもNADHと同様に340nmに最大吸収をもつため、吸収特性の面からは区別することができない。更に、NMNHは、各種脱水素酵素とは反応しないために、本来所望の酵素反応が阻害を受けてしまうことも判明した。【0012】この点に関して、後述する参考例2に示すように、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類と動物由来の酵素とを含む液状試薬を保存した場合に、NADH(又はNADPH)が経時的に分解されNMNHが生成することを確認した。また、前記参考例1のGPT測定例においても、夾雑物質含有検体と、安定な液状試薬として供給されている弱アルカリ性のNADH含有液状試薬(pH9.2)とを共存させておくと、経時的にNADHが分解されてNMNHが生成することが確認された。【0013】更に、参考例1において、自動分析機の測定で得られる一定間隔で測定された吸光度変化(いわゆるタイムコース)をグラフ化すると、GPTの反応阻害が生じる夾雑物質含有検体と、反応阻害が生じない夾雑物質不含検体では明らかに差があった。すなわち、GPTの反応阻害が生じない夾雑物質不含検体では、酵素反応が終了した時点での吸光度が一定であったのに対して、反応阻害が生じる夾雑物質含有検体では、希釈列が高濃度になるほど反応終了時の吸光度が上昇していった。反応終了時の吸光度の上昇は、希釈列が高濃度になるに従って、NADHが分解して生じるNMNHの生成量が多くなることを示している。【0014】夾雑物質として存在すると思われるヌクレオチドピロフォスファターゼの反応の至適pHは、弱アルカリ性にあると考えられる。すなわち、従来の凍結乾燥品から液状試薬に移行し、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類の安定化のために、NADH(又はNADPH)を含む溶液のpHがアルカリ性になったことにより、従来には全く予期することができなかった前記のような新たな問題が発生しているのである。【0015】従って、本発明の目的は、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類含有液状試薬が関与する測定系において、その液状試薬の他の成分や検体中に存在する夾雑物質による前記還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類からニコチンアミドモノヌクレオチドへの分解を有効に防止する手段を提供することにある。例えば、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類を安定に供給することができる条件下、例えばアルカリ性の環境で、NADH又はNADPHが、精製された各種酵素と共存した場合の含量低下や、目的の生理活性物質である酵素標品が高濃度で添加された検体(例えば、市販管理血清)を測定する場合に、補酵素ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類の分解を防止し、且つ、その酵素測定系での主要酵素反応の反応阻害を起こさずに、目的とする生理活性物質を正確に測定する手段を提供することにある。【0016】【課題を解決するための手段】 本発明は、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類を含む液状試薬と、検体とを、pH値が7.5〜11の条件下で接触させる測定系に、キレート剤を共存させることを特徴とする、夾雑物質の干渉作用による前記還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類から還元型ニコチンアミドモノヌクレオチドへの分解を防止する方法に関する。 また、本発明は、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類と、その還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類を還元型ニコチンアミドモノヌクレオチドへ分解する夾雑物質とを含み、pH値が7.5〜11の液状試薬に、キレート剤を共存させることを特徴とする、前記夾雑物質の干渉作用による前記還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類から還元型ニコチンアミドモノヌクレオチドへの分解を防止する方法にも関する。 更に、本明細書では、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類とキレート剤とを含み、pH値が7.5〜11である液状試薬を開示する。【0017】【発明の実施の形態】以下、本発明を詳述する。本発明は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類を含む任意の液状試薬に適用することができる。すなわち、任意の「生理活性物質」の測定に用いる液状試薬、特に生体試料(例えば、血液、血清、血漿、尿、髄液、細胞もしくは組織抽出液、唾液、汗)に存在する臨床検査の対象となる任意の物質、例えば、各種の酵素の測定に用いる液状試薬に適用することができる。測定対象物質としては、例えば、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(GOT)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(GPT)、乳酸脱水素酵素(LDH)、α−オキシ酪酸脱水素酵素(HBD)、遊離脂肪酸(NEFA)、尿素窒素(UN)、又はクレアチニン(CRE)などを挙げることができる。いずれの項目もニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類を利用した測定系で測定することが可能なため、本発明を好適に適用することができる。【0018】ここで「ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類を含む液状試薬」とは、測定に使用するまで、夾雑物質を含む酵素や他の添加成分と共に比較的長期間にわたって保存される保存用液体試薬を意味するだけでなく、保存時には、夾雑物質を含む酵素や他の添加成分と共存しないが、測定時に、夾雑物質を含む検体とアルカリ性条件下で(例えば、2試薬系測定試薬など多試薬系測定試薬の第1試薬と)接触する液状試薬も含まれる。【0019】本発明は、pHがアルカリ性に維持された液状試薬に適用する。具体的にはpH7.5〜11(好ましくは8.5〜10)の範囲である。pH値が7.5より低いと還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類の保存安定性が不十分であったり、またpH値が11より高いと反応の雰囲気調整が難しくなったり、分析装置への影響等が懸念され好ましくない。【0020】本発明で用いることのできるキレート剤は、金属イオンに配位し、水溶性キレート化合物を与える多座配位子であり、具体的には、エチレンジアミン四酢酸塩(EDTA)、trans−1,2−ジアミノシクロヘキサン四酢酸塩(CyDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸塩(GEDTA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、エチレンジアミン二酢酸(EDDA)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)(EDTPO)、エチレンジアミン二プロピオン酸塩酸塩(EDDP)、ヘキサメチレンジアミン四酢酸塩(HDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、エチレンジアミン−ビス(メチレンホスホン酸)(EDDPO)、ニトリロ三酢酸(NTA)、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)(NTPO)、ニトリロ三プロピオン酸(NTP)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、イミノ二酢酸(IDA)等及びこれらの塩を挙げることができる。【0021】本発明方法においては、前記のキレート剤を液状試薬に添加するか、あるいは酵素反応測定時にその測定系に単独で添加することもできる。例えば、保存用液状試薬中に夾雑物質が存在する場合には、保存用液状試薬中に前記キレート剤を添加する必要がある。また、保存用液状試薬中には夾雑物質が存在せず、酵素反応の実施時に、例えば、検体に含まれている夾雑物質が測定系に混入してくる場合には、前記キレート剤を、保存用液状試薬に予め含有させておくこともできるし、保存用試薬とは別に、前記キレート剤を、その測定系に添加することもできる。特に、2試薬系測定試薬などの場合には、第1試薬と検体とをアルカリ性条件下で一定時間接触させてから、その混合液を第2試薬と中性条件下で接触させ、酵素反応を実施する場合が多い。従って、夾雑物質が検体に含まれている場合には、少なくともアルカリ性条件下での第1試薬との接触時にキレート剤を存在させる必要があり、キレート剤を予め保存用液状試薬(例えば、保存用液状第1試薬)に含有させておくか、あるいはキレート剤を別途、検体と共に反応系に添加することもできる。【0022】本発明において使用するキレート剤の濃度は、夾雑物質(おそらくヌクレオチドピロフォスファターゼ)によって還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類が還元型ニコチンアミドモノヌクレオチドへ分解されることを実質的に防止することのできる濃度である。個々の測定系や液状試薬におけるキレート剤の濃度は、本発明が適用される測定系や液状試薬において夾雑物質として共存するヌクレオチドピロフォスファターゼの由来や共存量に依存するため、適用される測定系や液状試薬に使用されるキレート剤の種類に基づいて、当業者が適宜決定することができる。【0023】ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類と前記に示したキレート剤の組合せとしては、特に限定されないが、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類を含む溶液の環境において、夾雑物質(おそらく、ヌクレオチドピロフォスファターゼ)によるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類の分解を防止する効果のあるキレート剤を適宜選択して使用することができる。また、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類の分解を防止するために上記のキレート剤を数種混合して添加することもできる。ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類を分解する夾雑物質(おそらく、ヌクレオチドピロフォスファターゼ)の由来によって分解反応の至適pHは異なり、また防止効果のあるキレート剤の種類も異なる。従って、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類の種類とその環境及び夾雑物質(おそらく、ヌクレオチドピロフォスファターゼ)の由来により、効果のあるキレート剤の一種類又は数種類を選択し、具体的な添加量も、使用する個々の測定系に応じて適宜決定することができる。【0024】例えば、安定化された液状試薬を用いるGPT測定系において、使用するNADHを含む溶液のpHは、一般にアルカリ性である。更に、NADHを利用するGPTの測定は、ほとんどの場合LDHを共役酵素としている。従って、液状試薬の場合、NADHはアルカリ性の条件下でLDHと長期間(例えば半年以上)共存することとなる。この場合、NADHと共存させるLDHは、その由来が動物組織や細菌である。動物組織や細菌から精製されたLDH中にヌクレオチドピロフォスファターゼが夾雑酵素として存在していた場合には、NADH溶液の長期間の保存中にNADHが分解されNMNHが生成される。NMNHはNADHと同様に340nmに吸収があるために吸光度上では区別することができないので見かけ上NADHの量が維持されているように見えてしまう。この試薬でGPT活性の測定を行うと、実際のNADH量が少ないために、所望の測定値が得られない。そこで、夾雑物質(おそらく、ヌクレオチドピロフォスファターゼ)が共存しているNADH溶液中にキレート剤としてEDTA・2Naを添加するとNADHの分解反応を防止することができる。この時のEDTA・2Na添加濃度は0.1mmol/l以上で夾雑物質による反応阻害を防止する効果があり、特に1〜50mmol/lが好ましい。50mmol/lを超えると、NADHの分解反応の防止には効果があるものの、主要酵素反応であるGPTの反応が影響を受け、GPT活性値が低くなる傾向があるため好ましくない。【0025】また例えば、LDH測定系において検体としてLDH測定系に阻害を与える市販の直線性管理用血清を使用する場合、液状試薬でありそのpHがアルカリであるNADHを含む測定用試薬にキレート剤としてEDTA・2Naを添加すると阻害を防止することができる。この時のEDTA・2Na添加濃度は0.1mmol/l以上で夾雑物質による反応阻害を防止する効果があり、特に1〜50mmol/lが好ましい。50mmol/lを超えるとNADHの分解反応の防止には効果があるものの、LDHの反応が影響を受け、LDH活性値が低くなる傾向があるため好ましくない。【0026】また、本発明においては、前記ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類の溶液中に、前記のキレート剤の他に、必要により、生理活性物質測定用試薬に一般に添加される成分、例えばアジ化物等の防腐剤、及び界面活性剤等を適宜添加することができる。すでに、本発明は安定化されたニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類を含む液状試薬で用いる方法であるため、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類を含有している溶液中には安定化のためにさまざまな添加物が添加されている。【0027】生理活性物質測定用試薬として凍結乾燥品の試薬が用いられていた頃とは異なり、最近では当初から溶液状態で供給される液状試薬の必要性が増し、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類が、安定化された液状試薬で供給されるようになった。ところが、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類を安定化し、液状試薬の形で供給しなければならなくなったため、溶液の環境が凍結乾燥品が主流だった頃とは異なっている。そのために、以前にはなかった不都合が生じることになった。【0028】本発明は、液状試薬が主流になったことを契機として明らかになった問題点に着目し、その解決方法として見いだしたものである。液状試薬になったことがきっかけとなり夾雑酵素によってニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類の分解が生じてしまう場合がある事実にはこれまで着目されていなかった。そこで、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類が分解する原因を解明し、原因となる夾雑物質の影響を回避する方法を見いだしたことで、生理活性物質を正確に測定することが可能になった。液状試薬で提供される生体試料液中の生理活性物質測定用試薬に、安定化の目的ではなく、夾雑物質の影響の回避の目的でキレート剤を添加することは従来にはなかった手法である。【0029】【作用】本発明によるキレート剤の添加でニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類の分解を防止する機構は、キレート剤の添加によるヌクレオチドピロフォスファターゼの反応阻害によるものと考えられる。ヌクレオチドピロフォスファターゼは、2分子のリボヌクレオチドが結合したピロリン酸の部分のエステル結合に作用する加水分解酵素であり、NADHを基質とした場合、NADHをNMNHに分解しAMP(アデノシン一リン酸)が生成する。ヌクレオチドピロフォスファターゼは、その由来により反応の至適pHが異なり、また夾雑酵素として精製された酵素標品に混在している場合、その混在量も様々である。本発明による作用機構の詳細は、現在のところ完全には明らかではないが、本発明によるキレート剤の添加によって還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類の分解を防止することができたことから、夾雑酵素(おそらくヌクレオチドピロフォスファターゼ)が金属要求酵素であるものと考えられる。実際に、植物、腎・肝の細胞顆粒・膜、蛇毒又は細菌等のヌクレオチドピロフォスファターゼが報告されており、それぞれ性質が異なり、基質特異性、至適pH、及び金属要求性等は様々である。【0030】また、ヌクレオチドピロフォスファターゼは、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類だけではなく、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、ウリジン二リン酸グルコース(UDPG)等が共存した場合でも、一定の条件が整えば反応が進行し、反応阻害を起こす可能性が充分考えられる。従って、補酵素等にニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類を利用する酵素反応以外の場合でも、前記のようなリボヌクレオチドが結合した構造をもつ基質(補酵素)が関与する測定系又はその測定系に用いる液状試薬においても、ヌクレオチドピロフォスファターゼの反応阻害としてキレート剤を添加する方法は有効である。【0031】【実施例】以下、実施例及び参考例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。【実施例1】《GPT測定におけるEDTA・2Na添加効果》(1)対照試験以下に示したGPT測定用液状試薬を用い、GPTの反応阻害が生じる市販の管理血清(商品名:ハイレベルチェック・E;国際試薬社製)を検体として用いた。具体的には、前記管理血清を生理食塩水で希釈して10段階希釈列(1/10〜10/10)検体を調製した(10/10は非希釈検体)。日立7150型自動分析機により、検体(15μl)と以下に示す試薬1(300μl)を混合し、37℃で5分間加温した後、試薬2(100μl)を添加した。下記のパラメータにより、試薬2の添加時から1分間経過後から5分間経過後までの4分間にわたり、主波長340nm及び副波長405nmでの吸光度変化を測定し、1分間当たりの吸光度の減少速度を求め、NADHの分子吸光係数(ε)からGPT活性値を下記式より算出した。また、検体の代わりに生理食塩水を使用してコントロール試験を行った。なお、試薬1及び試薬2に含まれるGTA緩衝液は、β,β’−ジメチルグルタル酸、トリス(ヒドロキシメチルアミノ)メタン、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオールの等モル濃度溶液をHClあるいはNaOHで所望のpHに調製した緩衝液である。【0032】使用した液状試薬の組成、測定パラメータ及びGPT活性値の計算式は以下のとおりである。(a)試薬1(pH9.0)GTA緩衝液 20mmol/lL−アラニン 200mmol/lNADH 0.25mmol/lLDH 5000u/l(b)試薬2(pH 6.0)GTA緩衝液 100mmol/lL−アラニン 1000mmol/lα−ケトグルタル酸 60mmol/l【0033】(c)測定パラメータ(日立7150型)ASSAY CODE [RATE A]:[30−50]SAMPLE VOLUME [15]R1 VOLUME [300]R2 VOLUME [100]WAVE LENGTH [405][340]ABS.LIMIT(INC/DEC) [4000][DECREASE](d)GPT活性値の計算式:GPT活性値(u/l)=(ΔE/ε)×(V/v)×103 上記の式にて、ΔEは1分間当たりの吸光度変化量であり、εは分子吸光係数(6.3)であり、Vは全反応液量であり、そしてvは試料液量である。【0034】(2)本発明試薬による試験本発明試薬として、上記の試薬1にEDTA・2Naを1mmol/lの量で添加した試薬を調製し、同一の検体(10段階希釈列及びコントロール試験としての生理食塩水)について対照試薬での測定と同様の操作で測定し、GPT活性値を求めた。【0035】(3)結果それらの結果を、表1、並びに図1(対照試験)及び図2(本発明)に示す。【表1】【0036】【実施例2】《LDH測定におけるNTA添加効果》(1)対照試薬以下に示した組成のLDH測定用液状試薬を用い、LDHの反応阻害が生じる市販の管理血清(商品名:ハイレベルチェック・E;国際試薬社製)を検体として用いた。具体的には、前記管理血清を生理食塩水で希釈して10段階希釈列を調製した(10/10は非希釈検体)。日立7170型自動分析機により、検体(10μl)と以下に示す試薬1(180μl)とを混合し、37℃で5分間加温した後、試薬2(90μl)を添加した。下記のパラメータにより、試薬2の添加時から1分間経過後から5分間後まで4分間にわたり、主波長340nm及び副波長405nmでの吸光度変化を測定し、1分間当たりの吸光度の減少速度を求め、NADHの分子吸光係数(ε)からLDH活性値を下記式より算出した。また、前記検体の代わりに生理食塩水を使用してコントロール試験を行った。【0037】使用した液状試薬の組成、測定パラメータ及びLDH活性値の計算式は以下のとおりである。(a)試薬1(pH9.0)GTA緩衝液 20mmol/lNADH 0.3mmol/l(b)試薬2(pH6.0)GTA緩衝液 100mmol/lピルビン酸リチウム塩 6mmol/l【0038】(c)測定パラメータ(日立7170型)分析法/測光ポイント [レートA][10][20][34]波長(副/主) [405][340]検体量(標準) [10]試薬分注量(R1) [180]試薬分注量(R3) [90]反応限界吸光度 [4000](試薬2は、パラメータ上では自動分析機の特性上「R3」で表されている)(d)LDH活性値の計算式LDH活性値(u/l)=(ΔE/ε)×(V/v)×103 上記の式にて、ΔEは1分間当たりの吸光度変化量であり、εは分子吸光係数(6.3)であり、Vは全反応液量であり、そしてvは試料液量である。【0039】(2)本発明試薬による試験本発明試薬として、上記の試薬1にNTAを10mmol/lの量で添加した試薬を調製し、同一の検体(10段階希釈列及びコントロール試験としての生理食塩水)について対照試薬での測定と同様の操作で測定し、LDH活性値を求めた。【0040】(3)結果それらの結果を、表2(試薬2の添加から1分間経過後から4分後までの3分間の測定に基づく)、並びに図3(対照試験)及び図4(本発明)に示す。【表2】【0041】【参考例1】(1)GPTの測定自動分析機によるGPTの測定において、同一の液状試薬を用いて、反応を阻害する夾雑物質を含む検体及び反応を阻害する夾雑物質を含まない検体を以下に示すGPT測定用試薬で測定し、以下に示す計算式でGPTの活性値を求めた。豚心臓由来GPT(ベーリンガーマンハイム社)を生理食塩水に溶かし、3000u/lとしたものを標準(夾雑物質不含検体)とした。これに夾雑物質を含む豚腎臓由来γ−GTP(シグマ社)を4000u/lとなるよう添加したものを夾雑物質含有検体とした。なお、夾雑物質含有検体及び夾雑物質不含検体のいずれにおいても、添加されたGPTの活性は、同程度の活性であった。各検体を、実施例1(1)に記載の方法と同様に、生理食塩水で希釈して10段階希釈列(1/10〜10/10)検体を調製した(10/10は非希釈検体)。日立7070型自動分析機により、検体(15μl)と試薬1(300μl)とを混合し、37℃で5分間加温した後、試薬2(100μl)を添加した。下記のパラメータにより、試薬2の添加時から1分間経過後から5分間後まで4分間にわたり、主波長340nm及び副波長405nmでの吸光度変化を測定し、1分間当たりの吸光度の減少速度を求め、NADHの分子吸光係数(ε)からGPT活性値を下記式より算出した。また、前記検体の代わりに生理食塩水を使用してコントロール試験を行った。【0042】使用した液状試薬の組成、測定パラメータ及びGPT活性値の計算式は以下のとおりである。(a)試薬1(pH9.0)GTA緩衝液 20mmol/lL−アラニン 200mmol/lNADH 0.35mmol/lLDH 5000u/l(b)試薬2(pH6.0)GTA緩衝液 100mmol/lL−アラニン 1000mmol/lα−ケトグルタル酸 60mmol/l【0043】(c)測定パラメータ(日立7070型)分析法 [レートA][10][20][34]測光ポイント [19]−[31]波長(副/主) [405][340]反応限界吸光度 [4000][減少]検体量(標準) [10]試薬分注量 第1試薬 [300]試薬分注量 第3試薬 [100](試薬2は、パラメータ上では自動分析機の特性上第3試薬で表されている)【0044】(a)GPT活性値の計算式GPT活性値(u/l)=(ΔE/ε)×(V/v)×103 上記の式にて、ΔEは1分間当たりの吸光度変化量であり、εは分子吸光係数(8.3)であり、Vは全反応液量であり、そしてvは試料液量である。【0045】結果を表3に示す。【表3】【0046】夾雑物質含有検体では、直線性の10段階希釈列で直線性が1000u/l程度までしか認められないが、夾雑物質不含検体では直線性が2000u/l程度まで認められる。【0047】(2)NADHからNMNHへの分解前記参考例1(1)において使用した夾雑物質含有検体を、NADH含有液状試薬(0.3mmol/lのNADHを含む30mmol/lのGTA緩衝液:pH=9.2)と共存させておいた場合の経時変化を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により確認した。HPLC測定条件は以下のとおりである。結果を図5に示す。図5において、曲線1は、NADH含有液状試薬と夾雑物質含有検体とを共存させない場合であり、曲線2は、NADH含有液状試薬と夾雑物質含有検体を混合した直後の場合であり、曲線3は、混合から2時間後の場合であり、曲線4は、混合から6時間後の場合であり、そして曲線5は、混合から10時間後の場合である。また、図5の横軸の時間(分)は、HPLCにおける溶出の時間である。【0048】(3)吸光度変化(タイムコース)前記参考例1(1)において使用した夾雑物質含有検体及び夾雑物質不含検体のそれぞれの10段階希釈列(1/10〜10/10)検体について実施例1(1)に記載の操作と同様の操作を行った。結果を示す図6(夾雑物質含有検体)及び図7(夾雑物質不含検体)から明らかなように、夾雑物質不含検体では、酵素反応が終了した時点での吸光度が一定であったが、夾雑物質含有検体では、希釈列が高濃度になるほど反応終了時の吸光度が上昇していった。反応終了時の吸光度の上昇は、希釈列が高濃度になるほど、NADHが分解して生じるNMNHの生成量が多いことを示している。【0049】【参考例2】《保存液状試薬におけるNADHからNMNHへの分解》30mmol/lのGTA緩衝液(pH9.2)に0.3mmol/lのNADHを溶解し、豚心臓由来LDHの3ロット(ロットA,ロットB,ロットC)をそれぞれ2.5mg/ml(LDH活性として約1000u/ml相当)の量で添加した溶液を25℃で一週間放置した後、NMNHの生成量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により前記参考例1と同じ条件下で測定した。結果を表4に示す。NMNHの生成量は、HPLCで得られたNADHのピーク面積に対するNMNHのピーク面積の割合で示した。【0050】【表4】【0051】【発明の効果】本発明により、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類含有液状試薬が関与する測定系において、その液状試薬の他の成分又は検体中に存在する夾雑物質による前記還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類からニコチンアミドモノヌクレオチドへの分解を有効に防止することができる。例えば、補酵素ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類と共に夾雑物質を含む保存用液状試薬において、その液状試薬の保存中に前記補酵素が夾雑物により分解されることを防止することができる。また、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類含有液状試薬が関与する測定系において、検体由来の夾雑物により補酵素ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類が分解され、測定系の反応から不正確な測定値が誘導されることを防止することもできる。更に、本発明により、生理活性物質を測定する液状試薬で、測定系での主要酵素反応が阻害されることなく目的の生理活性物質を正確に測定することができ、長期間安定で且つ正確な測定値が得られる液状試薬を提供することができる。【図面の簡単な説明】【図1】本明細書の実施例1において実施したGPT測定におけるEDTA・2Na添加の効果を示す実験における対照試験の結果(タイムコース)を示すグラフである。【図2】本明細書の実施例1において実施したGPT測定におけるEDTA・2Na添加の効果を示す実験における本発明の結果(タイムコース)を示すグラフである。【図3】本明細書の実施例2において実施したLDH測定におけるNTA添加の効果を示す実験における対照試験の結果(タイムコース)を示すグラフである。【図4】本明細書の実施例2において実施したLDH測定におけるNTA添加の効果を示す実験における本発明の結果(タイムコース)を示すグラフである。【図5】本明細書の参考例1において得られたGPT測定の反応の場においてNMNHが生成していることがHPLCにより確認された結果を示すグラフである。【図6】本明細書の参考例1のGPT測定において、夾雑物質含有検体を測定した場合のタイムコースを示すグラフである。【図7】本明細書の参考例1のGPT測定において、夾雑物質不含検体を測定した場合のタイムコースを示すグラフである。 還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類を含む液状試薬と、検体とを、pH値が7.5〜11の条件下で接触させる測定系に、キレート剤を共存させることを特徴とする、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類を還元型ニコチンアミドモノヌクレオチドへ分解する夾雑物質の干渉作用による前記還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類から還元型ニコチンアミドモノヌクレオチドへの分解を防止する方法。 還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類と、その還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類を還元型ニコチンアミドモノヌクレオチドへ分解する夾雑物質とを含み、pH値が7.5〜11の液状試薬に、キレート剤を共存させることを特徴とする、前記夾雑物質の干渉作用による前記還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類から還元型ニコチンアミドモノヌクレオチドへの分解を防止する方法。


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