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タイトル:特許公報(B2)_トリグリセリドの製造方法
出願番号:1998172942
年次:2008
IPC分類:C12P 7/64,C07C 69/30,C11C 3/08,C11C 3/10


特許情報キャッシュ

秋元 健吾 藤川 茂昭 島田 裕司 杉原 耿雄 富永 嘉男 JP 4079516 特許公報(B2) 20080215 1998172942 19980619 トリグリセリドの製造方法 サントリー株式会社 000001904 大阪市 591030499 石田 敬 100077517 福本 積 100087871 戸田 利雄 100088269 西山 雅也 100082898 秋元 健吾 藤川 茂昭 島田 裕司 杉原 耿雄 富永 嘉男 20080423 C12P 7/64 20060101AFI20080403BHJP C07C 69/30 20060101ALI20080403BHJP C11C 3/08 20060101ALI20080403BHJP C11C 3/10 20060101ALI20080403BHJP JPC12P7/64C07C69/30C11C3/08C11C3/10 C12P 7/00-7/66 JST7580/JSTPlus(JDream2) G-Search 食品関連文献情報(食ネット) 特開昭62−025936(JP,A) 特開昭61−209544(JP,A) ニューフードインダストリー,Vol.40,No.1(Jan.1998)p.1-6 J.Ferment.Bioeng.,Vol.83,No.4(1997)p.321-327 J.Am.Oil Chem.Soc.,Vol.73,No.11(1996)p.1415-1420 J.Am.Oil Chem.Soc.,Vol.77,No.1(2000)p.89-93 Biotechnol.Lett.,Vol.20,No.6(Jun.1998)p.613-616 9 2000004894 20000111 11 20050617 三原 健治 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は新しいトリグリセリドの製造方法に関するもので、特にトリグリセリドの2位に炭素数16〜18の飽和脂肪酸を有し、1及び3位の少なくとも一方にω3、ω6及び/又はω9系の不飽和脂肪酸を有するトリグリセリドの製造方法に関する。【0002】【従来の技術】我々の摂取している脂質の大部分は中性脂肪であり、トリグリセリドの1, 2及び3位に種々の脂肪酸がエステル結合したトリグリセリドの混合物である。そして、脂肪酸の結合位置の違いにより、その生理活性が異なることが指摘されており、トリグリセリドの決まった位置に特定の脂肪酸を結合させた脂質(構造脂質)が、最近、特に注目されている。【0003】例えば、特公平4-12920 には、トリグリセリドの2位に炭素数8〜14の脂肪酸が結合し、1及び3位に炭素数が18以上の脂肪酸が結合した消化吸収性の良いトリグリセリドが開示されている。また、2- モノグリセリドが人の生体に最も吸収され易い形態であると考えられていることから、特公平5-87497 には、2位に生理機能を有するω3又はω6系高度不飽和脂肪酸を結合させ、1及び3位に消化管の酵素により容易に加水分解される飽和脂肪酸を結合させたトリグリセリドが開示されている。【0004】一方、脂肪酸の生理機能に目を向けると、近年、アラキドン酸及びドコサヘキサエン酸が注目されている。これら脂肪酸は、母乳中に含まれており、乳児の発育に役立つとの報告(「Advances in Polyunsaturated Fatty Acid Research 」, Elsevier Science Publishers, 1993, pp.261-264 )や、胎児の身長や脳の発育に重要であるとの報告(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 1073-1077 (1993), Lancet, 344, 1319-1322 (1994) )がある。【0005】そして、いくつかの公的機関から推奨摂取量が公表され(未熟児:アラキドン酸60、ドコサヘキサエン酸40;正常児:アラキドン酸20、ドコサヘキサエン酸20 mg/kg体重/ 日 (WHO-FAO (1994))、ヨーロッパの数カ国では既にドコサヘキサエン酸と併せて醗酵生産したアラキドン酸をトリグリセリドとして配合した未熟児用調製乳が市販されている。しかし、調製乳に加えたトリグリセリドのアラキドン酸及び/又はドコサヘキサエン酸の結合位置に関しては考慮されていない。【0006】人の母乳中のトリグリセリド構造は、トリグリセリドの2位にパルミチン酸(16:0)が結合する割合が高く、1及び3位に高度不飽和脂肪酸あるいは中鎖脂肪酸が結合する割合が高いと考えられている(Christie, W.W. (1986) The Positional Distribution of Fatty Acids in Triglycerids. Analysis of Oils and Fats in (Hamilton, R.J., and Russell, J.B., eds.) pp. 313-339, Elsevier Applied Science, London) 。【0007】これに対し、前述の脂肪酸組成を母乳の組成に近付けるために調製乳に加えられる、醗酵法で生産されたアラキドン酸含有トリグリセリドの構造は、パルミチン酸を始めとする飽和脂肪酸が1及び3位に結合し、不飽和脂肪酸は2位に結合する割合が高く(J.J. Myher, A. Kuksis, K. Geher, P.W. Park, and D.A Diersen-Schade, Lipids 31, 207-215 (1996))、人の母乳型と考えられているものとは明らかに異なっていた。したがって、人の母乳型のトリグリセリド構造と考えられている構造脂質、つまり、トリグリセリドの2位に炭素数が16〜18の飽和脂肪酸、1及び3位に高度不飽和脂肪酸又は中鎖脂肪酸が結合した、構造が明確に確認されている構造脂質の開発が強く望まれている。【0008】【発明が解決しようとする課題】従って本発明は、ヒト母乳型のトリグリセリド構造と考えられている構造脂質、つまり、トリグリセリドの2位が炭素数が16〜18の飽和脂肪酸であり、1及び3位に結合した不飽和脂肪酸の少なくともひとつがω3、ω6又はω9系不飽和脂肪酸である新規なトリグリセリド、もしくはトリグリセリドの2位が炭素数が16〜18の飽和脂肪酸であり、1及び3位の一方が炭素数が4〜18の飽和脂肪酸であり、もう一方がω3、ω6又はω9系不飽和脂肪酸である新規なトリグリセリドの製造方法を提供しようとするものである。【0009】【課題を解決するための手段】1, 3位特異的リパーゼを用いたエステル交換反応によってトリグリセリドの2位に炭素数8〜14の脂肪酸が結合し、1及び3位に炭素数が18以上の脂肪酸が結合したトリグリセリドを製造する方法は、前述の特公平4-12920 に開示されている。しかし2位の脂肪酸が炭素数がさらに増加した炭素数16〜18の飽和脂肪酸からなるトリグリセリドを原料とし、1, 3位特異的リパーゼを用い、ω3、ω6又はω9系の不飽和脂肪酸とのエステル交換反応を行なうには、反応温度を50℃以上にしなければならない。該反応は、固定化酵素を用いた反応であり、2位に炭素数が16〜18の飽和脂肪酸が結合し、1, 3位にω3、ω6及び/又はω9系の不飽和脂肪酸が結合したトリグリセリドを製造するには、反応温度が高くなると酵素の寿命が短くなることに加え、高度不飽和脂肪酸が変性する危険性を含んでいる。【0010】そこで、本発明者等は上記の課題を解決するために鋭意研究した結果、2位に炭素数が16〜18の飽和脂肪酸が結合しているグリセリドに、1, 3位のエステル結合に特異的に作用するリパーゼを作用させ、エステル交換反応によって1及び3位の少なくとも一方の脂肪酸がω3、ω6及び/又はω9系の不飽和脂肪酸となったトリグリセリドを製造するに際し、一旦、トリグリセリドの2位の脂肪酸が炭素数が16〜18の飽和脂肪酸であり、1及び3位の脂肪酸が中鎖脂肪酸である融点が45℃以下のトリグリセリドを原料として用いるかまたはそれを中間体として経由させることよって、目的とするトリグリセリドを製造することが出来ることを見出し、本発明を完成した。【0011】【発明の実施の形態】本発明によれば、トリグリセリドの2位に炭素数が16〜18の飽和脂肪酸が結合し、1及び3位の少なくとも一方にω3、ω6及び/又はω9系不飽和脂肪酸が結合したトリグリセリドを、2位に炭素数が16〜18の飽和脂肪酸が結合したトリグリセリドを基質として用い、ω3、ω6及び/又はω9系不飽和脂肪酸又はそのエステルの存在下で、1, 3位に特異的に作用するリパーゼによるエステル交換反応によって製造することができる。【0012】2位に炭素数が16〜18の飽和脂肪酸が結合したトリグリセリドとしては、例えば、トリパルミチン(1, 2及び3位の全てがパルミチン酸(16:0))、トリステアリン(1, 2及び3位の全てがステアリン酸(18:0))を挙げることができるが、トリグリセリドの構成飽和脂肪酸の炭素数が16以上の場合は、これに1, 3位特異的リパーゼとω3、ω6又はω9系不飽和脂肪酸とを、有機溶媒を含まない反応系中で、50℃以下で反応させたとき、1, 3位でのエステル交換反応はほとんど進まず、目的とする構造を持ったトリグリセリドは得られない。【0013】これは、リパーゼが液体状の油脂には作用するが、固体状の油脂にはほとんど作用しないという性質に起因している。したがって、トリグリセリドの構成飽和脂肪酸の炭素数が多くなると融点が高くなる分、これに応じて反応温度を高くする必要がある。例えば、トリパルミチンを使用する場合には、反応液組成によって異なるが反応は50〜70℃で行わなければならない。このため、酵素の失活とエステル交換のために添加した不飽和脂肪酸の変性が問題となる。【0014】そこで、これら融点の高いトリグリセリドを基質原料として用いるときには、エステル交換で1及び3位の脂肪酸を目的とする不飽和脂肪酸に交換する前に、例えば、原料トリグリセリドの1及び/又は3位に結合している脂肪酸をカプリル酸のような炭素数8〜12程度の中鎖脂肪酸又はオレイン酸、リノール酸などの融点の低い脂肪酸にエステル交換し、融点を45℃以下に低下させたトリグリセリドを原料として使用すると良いことを明らかにした。【0015】また、この方法では、一旦1位または3位に結合した高度不飽和脂肪酸は、その後にさらに1, 3位特異的リパーゼを作用させてもエステル交換を起こしにくく、中鎖脂肪酸が優先的にエステル交換されるため、反応を繰り返すことによって、目的の2位に炭素数が16〜18の飽和脂肪酸が結合し、1及び/又は3位にω3、ω6及び/又はω9系不飽和脂肪酸が結合したトリグリセリドの収量を増加させることができることも明らかにした。【0016】本発明の特徴を明確にするために、トリグリセリドに結合した脂肪酸がすべて同じで炭素数16〜18の飽和脂肪酸である場合を例に説明したが、トリグリセリドにエステル結合する脂肪酸はすべて同じである必要はなく、トリグリセリドの2位に炭素数16〜18の飽和脂肪酸が結合していれば、1及び3位には炭素数4〜18のいかなる脂肪酸が結合していてもまたいかなる組み合わせでも良く、45℃以下で反応を行うことのできるトリグリセリドを基質として用いることは本発明の技術的範囲に含まれる。【0017】また、2位に飽和脂肪酸が結合したトリグリセリドとは、本発明の目的からして2位に炭素数16〜18の飽和脂肪酸が結合していれば、1及び3位のいずれかに、ω3, ω6又はω9系不飽和脂肪酸が結合していても構わず、これらの基質を用いた場合は不飽和脂肪酸の結合していない位置にω3, ω6又はω9系不飽和脂肪酸をエステル交換にて導入することができ、1及び3位に結合しているω3、ω6及び/又はω9系の不飽和脂肪酸の含量を高めることができる。【0018】たとえば、2位が飽和脂肪酸で1及び3位のいずれかに不飽和脂肪酸が結合したトリグリセリドとして、クリプテコデニウム(Crypthecodenium )属、スラウストキトリウム(Thraustochytrium)属、シゾキトリウム(Schizochytrium)属、ウルケニア(Ulkenia )属、ジャポノキトリウム(Japonochytorium )属又はハリフォトリス(Haliphthoros)属の微生物を培養して得られた油脂が利用できる。【0019】これらからは、例えば1, 2−ジパルミトイル−3−ドコサヘキサノイルトリグリセリドを単離することができ、このトリグリセリドを基質に1, 3位特異的リパーゼを作用させ、ω3、ω6又はω9系不飽和脂肪酸もしくはその脂肪酸エステルとエステル交換させると、前述のようにドコサヘキサエン酸はほとんどエステル交換されないため、1位のパルミチン酸のみがエステル交換される。不飽和脂肪酸としてアラキドン酸を用いた場合には、1及び3位の一方にドコサヘキサエン酸が結合し、他方にアラキドン酸が結合し、2位にパルミチン酸が結合したトリグリセリドが製造できる。【0020】本発明には、トリグリセリドの1, 3位特異的リパーゼを触媒として用いることができ、特に限定されるものではないが、例えば、リゾプス(Rhizopus)属、リゾムコール(Rhizomucor)属、ムコール(Mucor )属、ペニシリウム(Penicillium )属、アスペルギルス(Aspergillus )属、フミコーラ(Humicola)属、フザリウム(Fusarium)属などの微生物が生産するリパーゼ、ブタ膵臓リパーゼなどが挙げられる。かかるリパーゼについては、市販のものを用いることができる。【0021】例えば、リゾプス・デレマー(Rhizopus delemar)のリパーゼ(田辺製薬(株)製;タリパーゼ)、リゾムコール・ミイハイ(Rhizomucor miehei )のリパーゼ(ノボ・ノルディスク(株)製;リボザイムIM)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger )のリパーゼ(天野製薬(株)製;リパーゼA )、フミコーラ・ランギノーサ(Humicola lanuginosa )のリパーゼ(ノボ・ノルディスク(株)製;リポラーゼ)、ムコール・ジャバニカス(Mucor javanicus )のリパーゼ(天野製薬(株)製;リパーゼM )、フザリウム・ヘテロスポラム(Fusarium heterosporum )のリパーゼ等が挙げられる。これらのリパーゼの使用形態はそのままで用いても良く、また、セライトやイオン交換樹脂、セラミックス担体などに固定化したリパーゼを用いてもよい。【0022】本反応系に加える水分量は極めて重要で、水をまったく含まない場合はエステル交換が進行せず、また、水分量が多い場合は加水分解が起こり、トリグリセリドの回収率が低下したり、生成した部分グリセリドでは自発的なアシル基転移が起こり、2位の飽和脂肪酸が1位あるいは3位に転移する。従って、結合水を持たない固定化酵素を用いたとき、主反応を行う前に、まず、水を添加した基質を用いて酵素を活性化し、主反応では水を添加していない基質を用いると効果的である。バッチ反応で活性化するには、加えた酵素量の0〜1, 000% (重量% )の水を含む基質を用いて酵素を前処理し、またカラム法で活性化するには、水飽和の基質を連続的に流すとよい。【0023】例えば、セライト又はセラミックス担体に固定化したリゾプス・デレマー(Rhizopus delemar)のリパーゼ(田辺製薬(株)製;タリパーゼ)を用いてバッチ反応で活性化する時の水分量は、加えた酵素量の10〜200% (重量% )である。しかし、エステル交換反応の活性化に必要な水分量は用いる酵素の種類により大きく左右され、例えば、リゾムコール・ミイハイ(Rhizomucor miehei )のリパーゼ(ノボ・ノルディスク(株)製;リボザイムIM)であれば、ほとんど水分を必要とせず、むしろ過剰の水を除去しなければならない。過剰水の除去は主反応を妨害しないトリグリセリドを基質として選択し、これを固定化酵素で加水分解するとよい。【0024】バッチ反応におけるリパーゼの使用量は反応条件によって適宜決定すれば良く、特に制限されるものではないが、例えばセライトやセラミックス担体に固定化したリゾプス・デレマー(Rhizopus delemar)のリパーゼ、あるいはリゾムコール・ミイハイ(Rhizomucor miehei )のリパーゼを用いたときには、反応混液の1〜30% (重量% )が適量である。【0025】バッチ反応におけるエステル交換反応は、以下の方法により行う。すなわち、2位に炭素数が16〜18の飽和脂肪酸が結合したトリグリセリドに、ω3、ω6又はω9系不飽和脂肪酸あるいはその脂肪酸エステルを加える。脂肪酸エステルとしては、例えばメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステルなどを用いることができる。原料として用いるトリグリセリド/脂肪酸またはトリグリセリド/脂肪酸エステル比は1:0. 5〜20が適量である。この基質に適当な量(通常5, 000〜50, 000U/g ;ここでリパーゼ1Uとは、オリーブ油を基質として用い、1分間に1μmol の脂肪酸を遊離させる酵素量である)の活性化または脱水した1, 3位特異的リパーゼを加え、攪拌または振盪しながら45℃以下、好ましくは30℃付近で2〜100時間エステル交換反応を行えばよい。【0026】上記固定化酵素は繰り返し使用することができる。すなわち、反応後固定化酵素だけを反応器内に残し、反応液を新たに調製した基質と交換することにより反応を継続することができる。また、カラム法によるエステル交換反応は、酵素1g 当り、0. 05〜20ml/hr で基質を連続的に流すとよい。また、エステル交換反応を繰り返して行うことにより、目的のトリグリセリド含量を高めることができる。すなわち、ω3、ω6又はω9系不飽和脂肪酸もしくはその脂肪酸エステルの存在下に、トリグリセリドの1, 3位特異的リパーゼを作用させて、1及び3位の脂肪酸がω3、ω6及び/又はω9系不飽和脂肪酸にエステル交換された反応液を得る。【0027】次に、該反応溶液から後述する方法によりトリグリセリドを精製し、該精製トリグリセリドを原料として再度ω3、ω6又はω9系不飽和脂肪酸またはその脂肪酸エステルでエステル交換反応を行う。この繰り返しエステル化反応により目的のトリグリセリド含有量を飛躍的に高めることができ、繰り返し回数は2〜5回が好ましい。【0028】従来の固定化リパーゼを用いたエステル交換反応では、副反応として起こる加水分解反応により生成した部分グリセリドの2位に結合していた脂肪酸のアシル基転移が誘発された。しかし、本発明では、加水分解反応をほぼ完全に抑えることができ、部分グリセリドの生成量は1% 程度であり、従来の問題点を解決することができた。また、基質に含まれている水分含量が数千ppm 以下であれば、副反応として起こる加水分解を無視することができ、基質中に含まれる水分量を精密制御する必要がないという特徴を有している。【0029】さらに、従来の固定化酵素を用いた有機溶媒中での反応あるいは50℃以上の反応では数回の使用で酵素活性が低下したのに対して、本発明では有機溶媒を用いない反応系で45℃以下で反応を行うため酵素の失活が起こらず、バッチ反応で数十回以上、カラム反応で100日以上連続して酵素を使用することも可能である。【0030】本発明では、基質が単純であるために、反応により得られたトリグリセリドは数種の分子種から構成される。そこで、液体クロマトグラフィー、分子蒸留、流下膜蒸留、精密蒸留などの常法あるいはその組み合わせにより、目的のトリグリセリドを容易に単離することができる。本発明で製造する反応後のトリグリセリドは、1位及び/又は3位に不飽和脂肪酸が結合したトリグリセリドであり、該トリグリセリド、未反応原料、未反応の不飽和脂肪酸または脂肪酸エステル及びエステル交換されて生じた原料のトリグリセリドの1及び/又は3位に結合していた脂肪酸または該脂肪酸エステルとの混合物として存在している。【0031】そこで、目的の1位及び/又は3位に不飽和脂肪酸が結合し、2位に炭素数が16〜18の飽和脂肪酸が結合したトリグリセリドの精製は、アルカリ脱酸、水蒸気蒸留、分子蒸留、流下膜蒸留、真空精密蒸留、カラムクロマトグラフィー、溶剤抽出、膜分離のいずれか又はこれらを組み合わせることにより、上記のエステル交換された脂肪酸及び未反応の不飽和脂肪酸を除去することによって行うことができる。【0032】本発明で得られるトリグリセリドの1及び3位を構成する脂肪酸はω3、ω6及び/又はω9系不飽和脂肪酸からなる。具体的には、ω3系不飽和脂肪酸としては、9, 12, 15-オクタデカトリエン酸 (α- リノレン酸) [18:3,ω3 ]、6, 9, 12, 15- オクタデカテトラエン酸 (ステアリドン酸) [18:4,ω3 ]、11, 14, 17- エイコサトリエン酸 (ジホモ- α- リノレン酸) [20:3,ω3 ]、8, 11, 14, 17-エイコサテトラエン酸[20:4,ω3 ]、5, 8, 11, 14, 17- エイコサペンタエン酸[20:5,ω3 ]、7, 10, 13, 16, 19-ドコサペンタエン酸[22:5,ω3 ]、4, 7, 10, 13, 16, 19- ドコサヘキサエン酸[22:6,ω3 ]を挙げることができる。【0033】 また、ω6系不飽和脂肪酸としては、9, 12-オクタデカジエン酸 (リノール酸) [18:2,ω6 ]、6, 9, 12- オクタデカトリエン酸 (γ- リノレン酸) [18:3,ω6 ]、8, 11, 14-エイコサトリエン酸 (ジホモ- γ- リノレン酸) [20:3,ω6 ]、5, 8, 11, 14- エイコサテトラエン酸 (アラキドン酸) [20:4,ω6 ]、7, 10, 13, 16-ドコサテトラエン酸[22:4,ω6 ]、4, 7, 10, 13, 16, - ドコサペンタエン酸[22:5,ω6 ]を挙げることができる。さらに、ω9系不飽和脂肪酸としては、6, 9- オクタデカジエン酸[18:2,ω9 ]、8, 11-エイコサジエン酸[20:2,ω9 ]、5, 8, 11- エイコサトリエン酸 (ミード酸) [20:3,ω9 ]挙げることができる。さらに、アシル基はヒドロキシル化、エポキシ化、又はヒドロキシエポキシ化されたアシル基であっても構わない。 本発明の新規なトリグリセリドの2位を構成する脂肪酸は、炭素数16〜18の脂肪酸からなる。例えば、パルミチン酸 (16:0 )、ステアリン酸 (18:0 )を挙げることができる。【0034】【実施例】次に、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本実施例では、便宜的に脂肪酸およびトリグリセリドを次のような略号で示す。まず、脂肪酸を表わす一文字略号には次のものを用いる。8:カプリル酸、P:パルミチン酸、A:アラキドン酸、M:ミード酸、D:ドコサヘキサエン酸。次に、トリグリセリドを、1位に結合している脂肪酸を表わす一文字略号、2位に結合している脂肪酸を表わす一文字略号、3位に結合している脂肪酸を表わす一文字略号により三文字で表記する。従って、トリグリセリドの構造は例えば次の例のように表記される。例:8P8(1位にカプリル酸、2位にパルミチン酸、3位にカプリル酸が結合したトリグリセリド)【0035】実施例1.トリパルミチン(PPP)とカプリル酸の1:2(wt/wt )混液を基質原料として使用し、基質混液10.5g と固定化リゾムコール・ミイハイ(Rhizomucor miehei )リパーゼ(ノボ・ノルディスク(株)製;リボザイムIM60)1.2g からなる反応液をねじ蓋付きバイアル瓶に入れ、50℃で48時間振盪(140回/分)しながらインキュベートした。反応後、固定化酵素だけを残して反応液を新しい基質混液と交換し、同じ条件下で反応を行った。固定化酵素を繰り返し使用しながら4回反応を行い、それぞれの反応液を回収した。【0036】各反応液(10.5g )に70mlの0.5N KOH 溶液(20% エタノール溶液)を加え、100mlのヘキサンでグリセリド画分を抽出後、エバポレーターにより溶剤を除去してグリセリドを回収した。イヤトロスキャン(ヤトロン(株)社製)でグリセリド組成を調べた結果、1回目のグリセリド中には8% のジグリセリドが含まれていたが、2回目以降のグリセリド中の部分グリセリド含量は1% 以下であった。2〜4回目のグリセリド画分の脂肪酸組成(モル% )はカプリル酸45.1% 、パルミチン酸54.9% であった。【0037】カプリル酸の交換率を高めるため、2〜4回目のグリセリド画分を原料として再度エステル交換した。上記の反応に使用したリボザイム IM60 (1.2g )に、調製したグリセリド3.5g とカプリル酸7g を加え、30℃で48時間振盪しながら反応を行った(5回目)。反応後、反応液を新しい基質と交換して同じ条件下で反応を行った(6回目)。5、6回目の反応液からグリセリド画分をヘキサン抽出により回収した(合計4. 8g )。得られたグリセリドの脂肪酸組成(モル% )はカプリル酸64.2% 、パルミチン酸35.8% であった。このグリセリド中に含まれる部分グリセリドは1% 以下であり、アセトン/アセトニトリル(1:1, vol/vol )を溶出溶媒としてODSカラム(Wakosil-II 3C18, 4.6 x 150mm, 2本)で分析した結果、8P8の純度は93% であった。【0038】得られた8P8(3.5g )とアラキドン酸(純度90% )7g を原料とし、上記の反応に用いたリボザイム IM60 で30℃で48時間エステル交換反応を行い(7回目)、反応後の反応液をアルカリ条件下でヘキサン抽出し、グリセリド画分(4.8g )を得た。グリセリドの脂肪酸組成を分析したところ、カプリル酸、パルミチン酸、γ- リノレン酸、アラキドン酸はそれぞれ38.5、23.1、2.4及び34.0モル% であった。このグリセリドをアセトン/アセトニトリル(1:1, vol/vol )を溶出溶媒としてODSカラム(SH-345-5, 20 x 500mm YMC(社)製)を用いた高速液体クロマトグラフィーにより分画した結果、8PAとAPAがそれぞれ0.72、0.44g 得られた。【0039】実施例2.実施例1に記載した方法の100倍の規模で反応を行って8P8を調製し、原料として使用した。リゾプス・デレマー(Rhizopus delemar)のリパーゼ(田辺製薬(株)製;タリパーゼ)をJ. Ferment. Bioeng., 81, 299-303 (1996) に従ってセラミックス担体 SM-10(日本ガイシ(株)製)に固定化した。固定化酵素10g (31, 000U/g )をカラムに充填した後、水飽和の大豆油:カプリル酸1:2(wt/wt )混合液を30℃、流速3ml/hr で100ml流し固定化酵素を活性化した。【0040】次いで水を加えていない大豆油50mlを流して過剰水を除去した後、8P8とアラキドン酸エチルエステル(純度90% )の1:4(wt/wt )混液を同じ条件で流しながらエステル交換反応を行った。反応液100g を高真空下で蒸留してグリセリド画分を残査として回収した後、実施例1に従ってアルカリ条件下でヘキサン抽出した。エバポレーターにより溶媒を除去し、ヘキサン抽出物35. 7g を得た。このヘキサン抽出物に含まれているトリグリセリドと脂肪酸エステルの組成比をイヤトロスキャンで分析したところ91:9であった。また、脂肪酸組成を分析した結果、カプリル酸、パルミチン酸、γ- リノレン酸、ジホモ- γ- リノレン酸及びアラキドン酸は、それぞれ24.4、34.5、1.5、2.6及び37.0モル% であった。【0041】実施例3.実施例1で用いた固定化リゾムコール・ミイハイ(Rhizomucor miehei )リパーゼ(ノボ・ノルディスク(株)製;リボザイムIM60)に含まれている過剰の水を除去するために、該固定化酵素12g 、SUNTGA- 25(サントリー(株)製)60g からなる反応混液を100mlのねじ蓋付きバイアル瓶に入れ、30℃で48時間振盪しながら反応させた(1回目)。固定化酵素だけを反応器に残し、実施例2で作成した8P8(12g )とミード酸エチルエステル(純度90% )48g を加えて十分窒素置換した後、30℃で72時間振盪しながらエステル交換反応を行った(2、3回目)。【0042】反応後、2回目と3回目の反応混液を合わせ、そのうち100g を実施例2と同様に、高真空下で蒸留してグリセリド画分を残査として回収した。次いで、実施例1に従ってアルカリ条件下でヘキサン抽出した後、エバポレーターによりヘキサンを除去し、24.1g のグリセリド画分を得た。この中に含まれているトリグリセリドと脂肪酸エステルの組成比をイヤトロスキャンで分析したところ92:8であった。実施例1に従って高速液体クロマトグラフィーを行い示差屈折計のピーク面積から脂肪酸エステルと各トリグリセリド成分を定量したところ、MPMは12.0%であった。またこの画分の脂肪酸組成は、カプリル酸、パルミチン酸及びミード酸がそれぞれ31.2、35.7及び33.1モル%であった。【0043】エステル交換率を高めるために、得られたエステル交換トリグリセリドを再度ミード酸エチルエステルでエステル交換した。上記の固定化酵素にエステル交換トリグリセリド12g とミード酸エチルエステル48g を加えて30℃で72時間振盪しながら反応を行った(4回目)。反応後、反応液55g を上述した方法で蒸留し、12. 3g のグリセリド画分を得た。この画分の脂肪酸組成は、カプリル酸、パルミチン酸及びミード酸がそれぞれ5.2、38.6及び56.1モル%であった。【0044】実施例4.実施例1で用いた固定化リゾムコール・ミイハイ(Rhizomucor miehei )リパーゼ(ノボ・ノルディスク(株)製;リボザイムIM60)に含まれている過剰の水を除去するために、該固定化酵素2g 、SUNTGA- 25(サントリー(株)製)10g からなる反応混液を20mlのねじ蓋付きバイアル瓶に入れ、30℃で48時間振盪しながら反応させた(1回目)。固定化酵素だけを反応器に残し、実施例2で作成した8P8(12g )とSUNTGA- 25を加水分解して得られた脂肪酸混液8g を加えて十分窒素置換した後、30℃で48時間振盪しながらエステル交換反応を行った(2〜5回目)。反応後、2〜5回目の反応混液からヘキサン抽出したグリセリドを合わせ、再度のエステル交換反応の基質とした。【0045】上記の固定化酵素の入った反応器にエステル交換トリグリセリド2g とSUNTGA- 25由来の脂肪酸混液10g を加え、30℃で48時間振盪しながら反応させた(6、7回目)。6、7回目の反応混液からグリセリド画分を抽出し、再々度のエステル交換反応の基質とし、同様に反応を行った(8回目)。エステル交換反応を3回繰り返すことにより得られたトリグリセリドを構成する脂肪酸組成、トリグリセリドの1,3位および2位の各脂肪酸組成をガスクロマトグラフィーにより分析した。この結果を表1に示す。【0046】【表1】【0047】比較例1.実施例2で作成した8P8と固定化酵素をそれぞれ原料および触媒として使用した。固定化酵素2g、大豆油4g、カプリル酸8gおよび水0.5gを20mlのバイアル瓶に入れ、30℃で24時間振盪しながらインキュベートすることにより固定化酵素を活性化した。活性化した酵素を反応器内に残し、これに水を含まない基質、アラキドン酸/8P8(4:1,wt/wt )あるいは、アラキドン酸/PPP(4:1,wt/wt )を加え、前者の反応は30℃で後者の反応は50℃で振盪しながら行った。また反応は24時間毎に反応液を新らしい基質と交換しながら繰り返し固定化酵素の安定性を比較した。【0048】基質にPPPを用いて50℃で反応を繰り返したとき固定化酵素を7回使用した後ではアラキドン酸の取り込み量は最初の取り込み量の10%以下に低下した(1回目と7回目のアラキドン酸の取り込み量はそれぞれ47%と3%)。一方、基質に8P8を用いて30℃で反応を繰り返したとき固定化酵素を50回使用してもアラキドン酸の取り込み量はほとんど変わらなかった(1回目と50回目のアラキドン酸の取り込み量はそれぞれ41%と38%)。 トリグリセリドの2位の脂肪酸が炭素数16〜18の飽和脂肪酸であり、1及び3位の脂肪酸の少なくともひとつが、9,12,15-オクタデカトリエン酸 (α- リノレン酸;18:3,ω3)、6,9,12,15-オクタデカテトラエン酸 (ステアリドン酸;18:4,ω3)、11,14,17-エイコサトリエン酸 (ジホモ- α- リノレン酸;20:3,ω3)、8,11,14,17-エイコサテトラエン酸(20:4,ω3)、5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸(20:5,ω3)、7,10,13,16, 19-ドコサペンタエン酸(22:5,ω3)、4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸(22:6,ω3)、8,11,14-エイコサトリエン酸 (ジホモ- γ- リノレン酸;20:3,ω6)、5,8,11,14-エイコサテトラエン酸 (アラキドン酸;20:4,ω6)、7,10,13,16-ドコサテトラエン酸(22:4,ω6)、4,7,10,13,16-ドコサペンタエン酸(22:5,ω6)、6,9-オクタジエン酸(18:2,ω9)、8,11-エイコサジエン酸(20:2,ω9)及び5,8,11-エイコサトリエン酸 (ミード酸;20:3,ω9)からなる群から選ばれるω3、ω6又はω9系の不飽和脂肪酸であるトリグリセリドを製造する方法であって、トリグリセリドの2位の脂肪酸が炭素数16〜18の飽和脂肪酸であり、1及び3位の脂肪酸が中鎖脂肪酸である融点が45℃以下のトリグリセリドに、前記のω3、ω6又はω9系不飽和脂肪酸又はそのエステルの存在下で、1,3位特異的リパーゼを作用させてエステル交換反応によって目的のトリグリセリドを得ることを特徴とする当該トリグリセリドの製造方法。 製造するトリグリセリドにおいて、トリグリセリドの2位の脂肪酸が炭素数16〜18の飽和脂肪酸であり、1及び3位の脂肪酸が同一のω3、ω6又はω9系の不飽和脂肪酸である、請求項1記載の方法。 製造するトリグリセリドにおいて、トリグリセリドの2位の脂肪酸が炭素数16〜18の飽和脂肪酸であり、1及び3位の脂肪酸が異なるω3、ω6又はω9系の不飽和脂肪酸である、請求項1記載の方法。 製造するトリグリセリドにおいて、トリグリセリドの2位の脂肪酸が炭素数16〜18の飽和脂肪酸であり、1及び3位の脂肪酸の一方が前記のω3、ω6又はω9系の不飽和脂肪酸であり、他方が炭素数4〜18の飽和脂肪酸である請求項1記載の方法。 エステル交換反応のために用いる2位に炭素数16〜18の飽和脂肪酸が結合したグリセリドが、前記のω3、ω6及び/又はω9系不飽和脂肪酸をトリグリセリドの構成脂肪酸として生産する能力を有する微生物由来である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。 エステル交換反応のために添加する前記のω3、ω6又はω9系の不飽和脂肪酸が、ω3、ω6又はω9系の不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリドの加水分解混合物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のトリグリセリドの製造方法。 トリグリセリドの2位の脂肪酸が、パルミチン酸またはステアリン酸である請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。 有機溶媒を使用しない反応系でエステル交換反応を行う、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。 反応温度を45℃以下でエステル交換反応を行う、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。


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