タイトル: | 特許公報(B2)_D−マンニトールおよびD−ソルビトールの併産法 |
出願番号: | 1998126615 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | C07C 29/132,C07C 31/26,B01J 25/02,C07B 61/00 |
和田 直子 上條 泰彦 日野 正夫 竹上 敬三 渡辺 孝久 JP 3965641 特許公報(B2) 20070608 1998126615 19980422 D−マンニトールおよびD−ソルビトールの併産法 月島機械株式会社 000165273 三宅 正夫 100059306 和田 直子 上條 泰彦 日野 正夫 竹上 敬三 渡辺 孝久 20070829 C07C 29/132 20060101AFI20070809BHJP C07C 31/26 20060101ALI20070809BHJP B01J 25/02 20060101ALN20070809BHJP C07B 61/00 20060101ALN20070809BHJP JPC07C29/132C07C31/26B01J25/02 XC07B61/00 300 C07C 29/132 C07C 31/26 C07C 45/50 C07H 1/00- 3/10 C13K 1/00-13/00 米国特許第02759024(US,A) 特公昭39−001659(JP,B1) 特公昭46−017928(JP,B1) 特公昭50−022529(JP,B1) 特公昭49−026602(JP,B1) 特開平01−268653(JP,A) 6 1999302210 19991102 14 20041207 井上 千弥子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、蔗糖からのD−マンニトールおよびD−ソルビトールの併産法に関し、さらに詳細には、蔗糖を加水分解反応および水素化反応を逐次経由せしめて、D−マンニトールおよびD−ソルビトールを効率よく併産し、しかも、共に着色していない製品であるD−マンニトールおよびD−ソルビトールの両者を提供し得る方法に係わる。【0002】【従来の技術】D−ソルビトールおよびD−マンニトールは、共に対応する六炭糖(ヘキソース)から誘導される代表的な糖アルコールである。就中、D−ソルビトールはこれらの糖アルコール類のうちで最も代表的な物質であり、他の糖アルコールに比して圧倒的に多量生産されている。また、D−ソルビトールは、植物界における分布も広く、たとえば、柑橘類やバラ科の植物の果実に多量含有されており、D−マンニトールとともに天然に最も多量に存在する糖アルコールである。他方、D−マンニトールは、天然には、トリコマンナ、玉葱および干し柿などの植物ならびに海藻類、菌類および茸類に遊離の形で存在している。これらの糖アルコールは蔗糖に似た円やかな甘味を呈するが、その甘味度は蔗糖よりも低い。D−ソルビトールはビタミンCの原料、皮革および印刷ロールなどの湿潤剤、合成樹脂の可塑剤ならびに糖尿病患者用甘味料、利尿剤および脱水剤などの医薬として広く使用されている。また、D−マンニトールは医薬製剤における希釈剤および賦形剤として、また、分析試薬として、広く使用されている。【0003】D−ソルビトールは、単独でも多量に生産されている。すなわち、D−ソルビトールは、一般に安価な結晶ぶどう糖(D−グルコース)を原料とし、これを加圧下での水素化反応を経由せしめて、比較的安価に製造されている。他方、D−マンニトールは、通常は、D−グルコースを、直接、アルカリ性下で電解還元して製造され得るが、この方法では多くの副反応が生起して収率を低下せしめるので、これまた、工業的な製造法には適しない。【0004】従って、通常は、入手が容易なケトース型六炭糖であるD−フルクトースを原料とし、これを水素化反応を経由せしめて光学異性体の1種であるエピマーとしてD−マンニトールおよびD−ソルビトールの二種類の糖アルコールを併産せしめる方法が採られている。しかして、この方法において、D−フルクトースを水素化反応を経由せしめることにより、そのカルボニル基が水素化せしめられたD−マンニトールが生成せしめられ、さらにこのD−マンニトールの半量が前記の水素化反応条件下で異性化せしめられてD−ソルビトールが生成せしめられ、その結果、D−マンニトールおよびD−ソルビトールの両者がほぼ等量づつ併産される。【0005】この際の原料のD−フルクトースは、通常は、蔗糖を加水分解して、ほぼ等量のD−グルコースとの混合物として得られる。このD−グルコースとD−フルクトースとの混合物は水素化反応に付されるが、この水素化反応においてD−グルコースからはそのアルデヒド基が水素化されてD−ソルビトールが生成せしめられ、D−フルクトースからは前記と同様にして互いにほぼ等量のD−マンニトールおよびD−ソルビトールが生成せしめられる。【0006】従って、最終的には、原料の蔗糖から、その約3/4量(重量)に相当するD−ソルビトールが、また、その約1/4量(重量)に相当するD−マンニトールが得られる。立地などによりでんぷんが蔗糖よりも安価な場合には、蔗糖に替えてでんぷんが使用されることもある。すなわち、でんぷんを酵素または酸によって加水分解してD−グルコースを得、さらにこのD−グルコースの一部を異性化してD−フルクトースを得、これらのD−グルコースとD−フルクトースとの混合物を水素化反応を経由せしめてD−マンニトールおよびD−ソルビトールが併産されている。【0007】この方法においては、でんぷんを加水分解する工程が余分に必要となり、またD−グルコースの異性化が必要である。しかも、このD−グルコースの異性化において、D−マルトースおよびオリゴ糖などの副生物が生成せしめられ、終局的には、D−マンニトールおよびD−ソルビトールのでんぷんに対する収率を低下せしめるのみならず、製品のD−マンニトールおよびD−ソルビトールに前記の副生物が不純物として混入して着色源となるので、このような不純物を除去するための高性能の精製装置が必要であり、また、このような高性能の精製装置を経由せしめても不純物は完全に除去されないために製品のD−マンニトールおよびD−ソルビトールの純度はいずれも意図される程には高くならない。【0008】蔗糖から加水分解反応および水素化反応を経てD−ソルビトールおよびD−マンニトールを併産する従来の方法として、(イ) 蔗糖を、pH3以下のような酸性下で、加水分解率が95〜99%、好ましくは、97〜98%まで分解して得られ転化糖を含有している加水分解液を中和し、たとえば、けいそう土にニッケルを担持せしめた触媒の存在下で連続水素化する方法(米国特許第2,759,024号)、(ロ) グルコースおよびフルクトースさらには蔗糖の混合物を、中性下、アルカリ性下および酸性下のそれぞれでの3段階の水素化を逐次経由せしめる方法(米国特許第3,329,729号)および(ハ) 蔗糖を加水分解して得られ転化糖を含有している液を、アルカリ性下および酸性下のそれぞれでの2段階の水素化を逐次経由せしめて転化糖からのマンニトールの収量を増大せしめる方法(特公昭50−22529号公報)などが知られている。【0009】【発明が解決しようとする課題】しかしながら、これらの従来方法にいおては、高圧下で、かつ、複雑な工程を経なければならず、また、転化糖の水素化において多量の副生物が生成せしめられて各転化糖に対するD−ソルビトールおよびD−マンニトールのそれぞれの収率が著しく低く、反応生成液は、濃厚に着色しており、かつ、未反応蔗糖とともに副生物などの不純物も多量に含有しており、その脱色および精製において過大な負荷がかかり、特に、D−ソルビトールおよびD−マンニトールが医薬などに使用される場合にはこの負荷はさらに増大し、これに起因してこれらの従来方法は共に純度の高い製品としてのD−ソルビトールおよびD−マンニトールの工業的な併産法としては適切ではない。【0010】転化糖の一方であるD−フルクトースが100℃以上での高温下では短時間で容易に熱分解されて、グリセリンおよびグルコン酸などの副生物が生成せしめられることは従来から知られているが、さらに、本発明者らは、蔗糖からD−ソルビトールおよびD−マンニトールを併産する方法において、前記のD−フルクトースに起因する諸欠点を解消して、単純な工程で、比較的大きい速度で、副生物の生成を抑制し各転化糖に対するD−ソルビトールおよびD−マンニトールそれぞれの収率を向上せしめて、反応生成液の着色を防止し、以て製品であるD−マンニトールおよびD−ソルビトールの着色を防止することを目的として研究を重ねた。【0011】その結果、(イ) 転化糖の一方であるD−フルクトースは、それ自体が加水分解反応液中に多量に存在した場合には、また、この多量のD−フルクトースが水素化において分解、変質し易くなり、その結果、D−フルクトースの分解物および/または変質物が共存した場合には、転化糖の水素化反応を阻害する原因となること、(ロ) このD−フルクトースの熱分解を抑制するためには転化せしめられたフルクトースが100℃以上の高温にさらされる時間を極力短縮せしめなければならないこと、(ハ) D−フルクトースは、転化糖の水素化反応を阻害する原因となるので、転化せしめられたD−フルクトースを出来る限り速やかに水素化せしめて水素化反応系の全経過中におけるD−フルクトースの存在量を極力減少せしめなければならないこと、(ニ) 転化糖を水素化せしめる際に蔗糖を共存せしめることにより反応生成液の着色を防止し得ること、(ヘ) 前記(ロ)乃至(ニ)のいずれをも満足せしめるためには、加水分解率が低く制御された蔗糖加水分解反応液を使用して該加水分解反応液に含有されいる転化糖の水素化反応を可及的速やかに完結せしめること、さらに(ト) 水素化反応での圧力を高くする必要はないことなどの多くの新知見を得、これらの新知見に基づいて本発明に到達した。【0012】【課題を解決するための手段】すなわち、本発明は、加水分解反応および水素化反応を順次経由せしめて蔗糖からD−マンニトールおよびD−ソルビトールを併産する方法において、蔗糖の加水分解率が5乃至50%とされた加水分解反応液を1段階の水素化反応に付することを特徴とするD−マンニトールおよびD−ソルビトールの併産法である。【0013】【発明の実施の形態】本発明における原料の蔗糖には、特に制限はなく、分蜜糖、好ましくは、直消糖、粗製糖乃至精製糖のいずれをも使用し得るが、就中、洗糖が好ましい。なお、洗糖とは、粗糖と糖蜜との混合物から液分を分離した後に洗浄して糖蜜を除去したものであり、その蔗糖含有率は、通常、95〜98重量%程度である。また、蔗糖として、精製糖の原料とされる原料糖をも使用することができる。【0014】原料の蔗糖は、加水分解反応によって、転化糖、すなわち、ほぼ等量のD−グルコースとD−フルクトースとに転化せしめられる。この加水分解反応は、通常は、常法によって、酸性下、加熱下または酵素的に行なわれる。酵素的な加水分解反応は、反応速度が小さい憾みはあるが、常温乃至室温などの温和な条件で行なわれることから好ましい。また、酸性下での加水分解反応は反応速度が大きいので好ましい。【0015】他方、酸性下での加水分解反応では酸性物質が添加され、また、酵素的な加水分解反応では、酵素自体または酵素を産生する微生物が添加されるが、これらの酸性物質ならびに酵素自体および酵素を産生する微生物などはいずれも不純物として最終的に除去されなければならないので精製における負荷が増大する。反応速度が大きく、かつ、不純物が添加されないことから加熱下での加水分解反応がこのプロセスにおいては最も好ましい。なお、加熱下での加水分解反応は、通常は、ほぼ中性である原料の蔗糖液のpHを特に調整することなしに行われる。【0016】加水分解反応における蔗糖に対する水の量は化学量論量(蔗糖1モルに対して水2モル)以上であればよいが、作業性に関係する反応液の粘度および水素化反応域に引続く分離・精製工程における負荷を考慮して、蔗糖1モルに対して約10〜20モル(ブリックス度約60〜50の蔗糖液に相当)が好ましい。加水分解反応前乃至加水分解反応の初期での低温時において過大な攪拌動力および/または反応時間の延長などを甘受すれば、ブリックス濃度を60より大きくすることができる。【0017】加熱による加水分解反応の温度は、100〜150℃が好ましく、120〜140℃が特に好ましい。100℃未満の比較的低温ではあるが100℃近辺の温度下での蔗糖の加水分解反応は、所望の加水分解率に到達せしめられるには長時間を要し、反面、加水分解時の温度が150℃を越えた場合には所望の加水分解率に達するまでに短時間しかかからないが、蔗糖液は過度な高温とされるために、いずれの場合にも副反応が生起して副生物の含有率が増大して、水素化反応を阻害し、かつ、製品のD−マンニトールおよびD−ソルビトールを着色せしめる危険性が増大する。【0018】加水分解反応において反応時間を出来るだけ短くすることが好ましい。しかしながら反応時間を短縮するために温度を150℃よりも高くすると副反応が激しく生起して製品のD−マンニトールおよびD−ソルビトールのそれぞれが着色せしめられる危険性が増大する。また、所定の温度に達するまでの昇温時間は出来る限り短いことが好ましい。加水分解反応は通常は常圧下で行なわれ、加圧下で行なわれる必要はないが、加圧下または減圧下で行なうことを妨げない。【0019】この蔗糖の加水分解反応において、蔗糖の加水分解率を5〜50%、好ましくは、10〜40%に止めて、次の段階の水素化反応に移行せしめる。この加水分解率が5%未満の場合には、次の段階の水素化反応が円滑に進行しなくなって、水素化反応に長時間必要となり、その結果、不純物の副生量が増加して、場合によっては反応生成液が濃く着色する。また、加水分解率が50%を越えた場合には、加水分解反応中の副生物である不純物の含有率が増加して場合によっては反応生成液の着色が濃くなる。【0020】蔗糖の加水分解反応における加水分解率は、蔗糖の加水分解反応液の常法による比旋光度の測定、もしくは、未反応蔗糖の量の分析によって知り、制御することができが、また、予備実験によって求められた加水分解反応条件を適用して制御することができる。【0021】蔗糖の加水分解反応によって得られ加水分解反応液(以下 加水分解液 と記すこともある)に含有されている互いにほぼ等量のD−グルコースおよびD−フルクトースは、水素化反応域において、D−ソルビトールおよびD−マンニトールのそれぞれに変換せしめられ、D−マンニトールはその約半量が異性化せしめられてさらにD−ソルビトールに変換せしめられ、最終的には、D−マンニトールと、このD−マンニトールのほぼ3重量倍のD−ソルビトールとが併産されることになる。また、この水素化反応の進行過程において、転化糖の水素化と併行して加水分解液中に含有されていた未反応蔗糖も加水分解せしめられてほぼ等量のD−グルコースおよびD−フルクトースが生成せしめられ、これらのD−グルコースおよびD−フルクトースのそれぞれも前記と同様にして直ちに水素化、異性化されてD−マンニトールおよびD−ソルビトールに変換せしめられる。【0022】水素化反応のための条件は次の如くである。すなわち、pHは5〜8程度が好ましい。前記の加水分解液は、通常は、そのpHが5〜8程度の範囲内にあるので、水素化反応の際に特にpH調製される必要はない。【0023】また、圧力は、温度および触媒の種類などによって一概に特定し得ないが、従来の転化糖の水素化における圧力よりも低くてもよく、通常は、高くとも100バール(bar)であり、40〜100バールが好ましく、50〜80バールが特に好ましい。水素ガスは窒素ガスなどの不活性ガスで希釈されていてもよい。【0024】この水素化反応は、好適には水素化触媒の存在下で行なわれる。この水素化触媒は、転化糖を水素化せしめるために使用されるそれ自体公知の触媒が使用されるが、ニッケル系触媒が好ましく、ラニーニッケル触媒が特に好ましく、モリブデンなどの金属を含有せしめたラニーニッケル触媒が最も好ましい。なお、水素化触媒は、水素化の前段階である水素の不存在下で行なわれる蔗糖の加水分解反応の段階から存在せしめることができ、かつ、好ましい。【0025】水素化触媒の使用量は、使用される触媒の種類ならびに水素化反応のための温度および圧力によって異なり一概に特定し得ないが、触媒がニッケル系触媒の場合には、原料蔗糖液中の蔗糖の量または加水分解液中の未加水分解蔗糖と転化糖との合計量に対して0.5〜5重量%程度、好ましくは、2〜5重量%程度とされる。なお、触媒は反復使用が可能であるが、触媒を反復使用する場合には反復使用に伴って触媒活性が低下した触媒を再生し、または、新触媒を補充することによって低下した触媒活性を補償することが好ましい。【0026】水素化反応の温度は、触媒の種類および圧力などによって異なり一概に特定し得ないが、好ましくは120〜150℃程度、特に好ましくは130〜140℃程度の範囲とされる。水素化反応における温度が120℃未満の場合には、水素反応を完結せしめるに長時間を要し、他方、水素化反応の温度が150℃を越えた場合には、反応時間は短縮されるが、水素化反応液は過度に高温とされるため、いずれの場合も副生物の生成量が増加し、反応液が着色せしめられて製品の品質を低下せしめる危険性が増大する。【0027】水素化反応の温度は、通常は、前記の加水分解反応の温度以上とされるが、前記の加水分解反応の温度よりも低くすることを妨げない。水素化反応の温度を加水分解反応の温度よりも高くする場合には、加水分解反応の温度から水素化反応の温度へ昇温しなければならないが、この昇温過程においても蔗糖の加水分解およびD−フルクトースの分解も進行しているので、この昇温時間も出来るだけ短くすることが好ましい。【0028】反応時間は、温度、触媒の有無ならびに触媒の種類および量などによって異なるが、前記の温度範囲であれば長くても90分程度で充分である。一般に、温度を高くするに伴って反応時間を短くすることができるが、この温度範囲内で出来るだけ高い温度で出来るだけ短時間で水素化反応を終了せしめることが好ましい。【0029】本発明において、蔗糖の加水分解反応と転化糖の水素化反応とを異なる反応容器内で行なわせることもできるし、また、同じ反応容器内で行なわせることもできる。前者の場合には、第1段の反応容器内で蔗糖を加水分解せしめて所望の加水分解率に到達せしめられた加水分解液を第2段の反応容器内で1段階の水素化反応に付する。後者の場合には、反応容器内に蔗糖液を供給し、該蔗糖液を酸性乃至中性で加熱して、または酵素の存在下で蔗糖を加水分解せしめて所望の加水分解率に到達せしめ、次いで、同一反応容器内で水素ガスおよび水素化触媒の存在下で加熱して水素化反応に付する。【0030】水素化反応のための反応容器は耐圧容器でなければならないが、前者の場合には水素化反応のための反応容器だけを耐圧容器とすればよく、耐圧容器は比較的小容量で済むので好ましい。後者は装置が単純化されるので好ましい。また、後者を少量生産に使用する場合には、加水分解反応および水素化反応に兼用される反応容器である耐圧容器は小さくて済むので、この場合には耐圧容器の大きさについての欠点は顧慮するに及ばない。【0031】本発明において、蔗糖の加水分解反応および転化糖の水素化反応はそれぞれ回分式および連続式のいずれによることもできる。また、本発明において、反応器は槽型反応器ならびに管型反応器および塔型反応器のいずれをも使用することができる。管型反応器および塔型反応器のそれぞれには、通常は、上流側の加水分解反応域および下流側の水素化反応域の2域の反応域が設けられている。2つの槽型反応器を使用した回分式が最も好ましい。【0032】このようにして得られた水素化反応生成液から、目的物質であるD−ソルビトールおよびD−マンニトールはそれぞれ、晶出および吸着クロマトグラフィなどの常法により分離、回収され、しかも分離、回収されたD−ソルビトールおよびD−マンニトールはいずれも高純度であり、ほとんど着色していない。また、水素化反応を終了せしめられて水素化反応域から排出せしめられ、目的物質であるD−ソルビトールおよびD−マンニトールが分離・回収された後の残液には、原料の蔗糖が未反応のままで少量残存しているが、この残液中の副生物である不純物の含有量は少ない。従って、この残液を原料蔗糖液として循環再使用することが可能であり、以て、未反応の蔗糖は有効に利用されることになる。【0033】【実施例】本発明を実施例によって、さらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、次の実施例および比較例のそれぞれにおいて水素ガス供給直前における加水分解液の蔗糖の加水分解率は、該加水分解液中の未反応蔗糖の量を分析して求められたものである。【0034】実施例1グラニュー糖(蔗糖含有率約100%)500重量部と水500重量部とを混合して得られた蔗糖液(ブリックス度50、ほぼ中性)を、室温から昇温を開始し、100℃から135℃まで45分間で昇温せしめた。昇温後には蔗糖の加水分解率は10%であった。この加水分解液を高圧容器内で、該加水分解液に含有されている蔗糖、D−グルコースおよびD−フルクトースの合計量1000重量部に対して40重量部のモリブデン含有ラニーニッケル触媒(デグサ・ジャパン社の商品)の存在下、50バールで水素の存在下で、引続き135℃に90分間保持して水素化反応を終了せしめた。水素化反応生成液の着色は殆どなかった。この水素化反応生成液中の溶解物の組成ならびに転化糖に対するD−マンニトールおよびD−ソルビトールのそれぞれの収率を表1に示す。【0035】【表1】【0036】なお、転化糖に対するD−マンニトールおよびD−ソルビトールのそれぞれの収率は、転化糖からのD−マンニトールおよびD−ソルビトールのそれぞれの理論生成量に対するD−マンニトールおよびD−ソルビトールのそれぞれの実際の生成量の百分比(%)として定義される。しかして、転化糖からのD−マンニトールおよびD−ソルビトールのそれぞれの理論生成量は、転化糖であるD−グルコース2モルおよびD−フルクトース2モルから生成せしめられるD−ソルビトール3モルおよびD−マンニトール1モルである。【0037】実施例2洗糖(蔗糖含有率98%)500重量部と水500重量部とを混合して得られた蔗糖液(ブリックス度約50、ほぼ中性)を、室温から昇温を開始し、100℃から135℃まで45分間で昇温せしめた。昇温後には蔗糖の加水分解率は7%であった。この加水分解液を攪拌機付高圧容器内で、該加水分解液に含有されている蔗糖、D−グルコースおよびD−フルクトースの合計量1000重量部に対して40重量部のモリブデン含有ラニーニッケル触媒(デグサ・ジャパン社の商品)の存在下、1000rpmで攪拌しつつ、50バールで水素の存在下で、引続き135℃に90分間保持して水素化反応を終了せしめた。水素化反応生成液の着色は殆どなかった。この水素化反応生成液中の溶解物の組成ならびに各転化糖に対するD−マンニトールおよびD−ソルビトールのそれぞれの収率を表2に示す。【0038】【表2】【0039】実施例3グラニュー糖(蔗糖含有率約100%)500重量部と水500重量部とを混合して得られた蔗糖液(ブリックス度50、ほぼ中性)を攪拌機付高圧反応容器内で、該蔗糖液中の蔗糖1000重量部に対して40重量部のモリブデン含有ラニーニッケル触媒(デグサ・ジャパン社の商品)の存在下で、室温から昇温を開始し、100℃から135℃まで60分間で昇温し、次いで水素ガスを該高圧反応容器内へ供給して、50バールで水素ガスの存在下で、1000rpmで攪拌しつつ、135℃に90分間保持して水素化反応を終了せしめた。水素ガス供給直前における加水分解液の蔗糖の加水分解率は25%であった。また、水素化反応生成液の着色は殆どなかった。この水素化反応生成液中の溶解物の組成ならびに各転化糖に対するD−マンニトールおよびD−ソルビトールのそれぞれの収率を表3に示す。【0040】【表3】【0041】実施例4グラニュー糖(蔗糖含有率約100%)500重量部と水500重量部とを混合して得られた蔗糖液(ブリックス度50、ほぼ中性)を攪拌機付高圧反応容器内で、該蔗糖液中の蔗糖1000重量部に対して40重量部のモリブデン含有ラニーニッケル触媒(デグサ・ジャパン社の商品)の存在下で、室温から昇温を開始し、100℃から125℃まで45分間で昇温し、次いで水素ガスを該高圧反応容器内へ供給して、50バールで水素ガスの存在下で、1000rpmで攪拌しつつ、125℃に90分間保持して水素化反応を終了せしめた。水素ガス供給直前における加水分解液の蔗糖の加水分解率は5%であった。また、水素化反応生成液の着色は殆どなかった。この水素化反応生成液中の溶解物の組成ならびに各転化糖に対するD−マンニトールおよびD−ソルビトールのそれぞれの収率を表4に示す。【0042】【表4】【0043】実施例5グラニュー糖(蔗糖含有率約100%)500重量部と水500重量部とを混合して得られた蔗糖液(ブリックス度50、ほぼ中性)を攪拌機付高圧反応容器内で、該蔗糖液中の蔗糖1000重量部に対して40重量部のモリブデン含有ラニーニッケル触媒(デグサ・ジャパン社の商品)の存在下で、室温から昇温を開始し、100℃から145℃まで30分間で昇温し、次いで水素ガスを該高圧反応容器内へ供給して、50バールで水素ガスの存在下で、1000rpmで攪拌しつつ、145℃に90分間保持して水素化反応を終了せしめた。水素ガス供給直前における加水分解液の蔗糖の加水分解率は40%であった。また、水素化反応生成液の着色は殆どなかった。この水素化反応生成液中の溶解物の組成ならびに各転化糖に対するD−マンニトールおよびD−ソルビトールのそれぞれの収率を表5に示す。【0044】【表5】【0045】実施例6グラニュー糖(蔗糖含有率約100%)600重量部と水400重量部とを混合して得られた蔗糖液(ブリックス度60、ほぼ中性)を攪拌機付高圧反応容器内で、該蔗糖液中の蔗糖1000重量部に対して40重量部のモリブデン含有ラニーニッケル触媒(デグサ・ジャパン社の商品)の存在下で、室温から昇温を開始し、100℃から135℃まで45分間で昇温し、次いで水素ガスを該高圧反応容器内へ供給して、50バールで水素ガスの存在下で、1000rpmで攪拌しつつ、135℃に90分間保持して水素化反応を終了せしめた。水素ガス供給直前における加水分解液の蔗糖の加水分解率は11%であった。また、水素化反応生成液の着色は殆どなかった。この水素化反応生成液中の溶解物の組成ならびに各転化糖に対するD−マンニトールおよびD−ソルビトールのそれぞれの収率を表6に示す。【0046】【表6】【0047】実施例7グラニュー糖(蔗糖含有率約100%)500重量部と水500重量部とを混合して得られた蔗糖液(ブリックス度50、ほぼ中性)を攪拌機付高圧反応容器内で、該蔗糖液中の蔗糖1000重量部に対して20重量部のモリブデン含有ラニーニッケル触媒(デグサ・ジャパン社の商品)の存在下で、室温から昇温を開始し、100℃から135℃まで45分間で昇温し、次いで水素ガスを該高圧反応容器内へ供給して、50バールで水素ガスの存在下で、1000rpmで攪拌しつつ、135℃に90分間保持して水素化反応を終了せしめた。水素ガス供給直前における加水分解液の蔗糖の加水分解率は10%であった。また、水素化反応生成液の着色は殆どなかった。この水素化反応生成液中の溶解物の組成ならびに各転化糖に対するD−マンニトールおよびD−ソルビトールのそれぞれの収率を表7に示す。【0048】【表7】【0049】実施例8グラニュー糖(蔗糖含有率約100%)500重量部と水500重量部とを混合して得られた蔗糖液(ブリックス度50、ほぼ中性)を攪拌機付高圧反応容器内で、該蔗糖液中の蔗糖1000重量部に対して40重量部のラニーニッケル触媒(デグサ・ジャパン社の商品)の存在下で、室温から昇温を開始し、100℃から135℃まで45分間で昇温し、次いで水素ガスを該高圧反応容器内へ供給して、50バールで水素ガスの存在下で、1000rpmで攪拌しつつ、135℃に90分間保持して水素化反応を終了せしめた。水素ガス供給直前における加水分解液の蔗糖の加水分解率は10%であった。また、水素化反応生成液の着色は殆どなかった。この水素化反応生成液中の溶解物の組成ならびに各転化糖に対するD−マンニトールおよびD−ソルビトールのそれぞれの収率を表8に示す。【0050】【表8】【0051】前記の各実施例における水素化反応生成液からD−マンニトールを晶出せしめてこれを分離・回収し、さらに、吸着剤としてイオン交換樹脂を使用したカラムクロマトグラフィによってこの濾液からD−ソルビトールを分離・回収した。各実施例で得られたD−マンニトールおよびD−ソルビトールのそれぞれの純度はいずれも98%であり、実質的に着色していなかった。【0052】比較例1グラニュー糖(蔗糖含有率約100%)500重量部と水500重量部とを混合して得られた蔗糖液(ブリックス度50、ほぼ中性)を攪拌機付高圧反応容器内で、該蔗糖液中の蔗糖1000重量部に対して40重量部のモリブデン含有ラニーニッケル触媒(デグサ・ジャパン社の商品)の存在下で、室温から昇温を開始し、100℃から135℃まで90分間で昇温し、次いで水素ガスを該高圧反応容器内へ供給して、50バールで水素ガスの存在下で、1000rpmで攪拌しつつ、135℃に90分間保持して水素化反応を終了せしめた。水素ガス供給直前における加水分解液の蔗糖の加水分解率は92%であった。また、水素化反応生成液は濃く着色していた。この水素化反応生成液中の溶解物の組成ならびに各転化糖に対するD−マンニトールおよびD−ソルビトールのそれぞれの収率を表9に示す。【0053】【表9】【0054】比較例2グラニュー糖(蔗糖含有率約100%)500重量部と水500重量部とを混合して得られた蔗糖液(ブリックス度50、ほぼ中性)を攪拌機付高圧反応容器内で、該蔗糖液中の蔗糖1000重量部に対して40重量部のモリブデン含有ラニーニッケル触媒(デグサ・ジャパン社の商品)の存在下で、室温から昇温を開始し、100℃から135℃まで30分間で昇温し、次いで水素ガスを該高圧反応容器内へ供給して、50バールで水素ガスの存在下で、1000rpmで攪拌しつつ、135℃に90分間保持して水素化反応を終了せしめた。水素ガス供給直前における加水分解液の蔗糖の加水分解率は3%であった。また、水素化反応生成液は殆ど着色していなかった。この水素化反応生成液中の溶解物の組成ならびに各転化糖に対するD−マンニトールおよびD−ソルビトールのそれぞれの収率を表10に示す。【0055】【表10】【0056】この水素化反応生成液は前記のように殆ど着色していなかったが、未反応蔗糖および不純物として副生成物を多量に含有していた。これは加水分解反応が十分に進行せず、加水分解率が低くかったので、水素化反応には長時間必要とされなければならなかったにも拘わらず、水素化の反応時間が不十分であったためと推察される。【0057】比較例3D−グルコースおよびD−フルクトースを等量ずつを含有する転化糖(糖含有率約100%)500重量部と水500重量部とを混合して得られた糖液(ブリックス度50、ほぼ中性)を、攪拌機付高圧容器内で、該糖液中の転化糖1000重量部に対して40重量部のモリブデン含有ラニーニッケル触媒(デグサ・ジャパン社の商品)の存在下で、室温から昇温を開始し、100℃から135℃まで45分間で昇温し、次いで水素ガスを該高圧反応容器内へ供給し、50バールで水素の存在下で、1000rpmで攪拌しつつ、135℃に90分間保持して水素化反応を終了せしめた。なお、前記の糖液は、蔗糖の加水分解率が100%の加水分解液に相当する。水素化反応生成液は褐色に濃く着色していた。この水素化反応生成液中の溶解物の組成ならびに各転化糖に対するD−マンニトールおよびD−ソルビトールのそれぞれの収率を表11に示す。【0058】【表11】【0059】比較例4D−グルコース200重量部、D−フルクトース200重量部および蔗糖100重量部を混合して得られた糖液(ブリックス度50、ほぼ中性)を、攪拌機付高圧反応容器内で、前記の糖液中の糖分の合計量1000重量部に対して40重量部のモリブデン含有ラニーニッケル触媒(デグサ・ジャパン社の商品)の存在下、室温から昇温を開始し、100℃から135℃まで45分間で昇温し、次いで水素ガスを該高圧反応容器内へ供給し、50バールで水素の存在下で、1000rpmで攪拌しつつ、135℃に90分間保持して水素化反応を終了せしめた。なお、前記の糖液は、蔗糖の加水分解率が80%の加水分解液に相当する。水素化反応生成液は褐色に濃く着色していた。この水素化反応生成液中の溶解物の組成ならびに各転化糖に対するD−マンニトールおよびD−ソルビトールのそれぞれの収率を表12に示す。【0060】【表12】【0061】前記の各比較例で得られた水素化反応生成液から、実施例と同様にしてD−マンニトールおよびD−ソルビトールを得た。得られたD−マンニトールおよびD−ソルビトールのそれぞれの純度は、比較例1においては98%であったが着色しており、比較例2乃至比較例4のそれぞれにおいては不純物の含有率が大きく純度は低かった。【0062】【本発明の効果】本発明によって、単純な工程で、比較的低圧で、不純物の副生量を減少せしめて各転化糖に対するD−マンニトールおよびD−ソルビトールのそれぞれの収率を向上せしめ、以て、水素化工程から排出せしめられる水素化反応生成液の着色を防止し、かつ、不純物の分離、除去の負荷を軽減せしめ、しかも、純度が高く、着色していない製品であるD−ソルビトールおよびD−マンニトールが容易に得られる。 加水分解反応および水素化反応を順次経由せしめて蔗糖からD−マンニトールおよびD−ソルビトールを併産する方法において、蔗糖の加水分解率が5乃至50%とされた加水分解反応液を1段階の水素化反応に付することを特徴とするD−マンニトールおよびD−ソルビトールの併産法。 蔗糖の加水分解反応が加熱によって行われる請求項1記載のD−マンニトールおよびD−ソルビトールの併産法。 蔗糖の加水分解反応の温度が100〜150℃とされる請求項2記載のD−マンニトールおよびD−ソルビトールの併産法。 転化糖の水素化反応のための温度が120〜150℃とされる請求項1記載のD−マンニトールおよびD−ソルビトールの併産法。 転化糖の水素化反応がニッケル系触媒の存在下で行われる請求項1または4記載のD−マンニトールおよびD−ソルビトールの併産法。 転化糖の水素化反応のためのpHが5〜8とされる請求項1、4または5記載のD−マンニトールおよびD−ソルビトールの併産法。