タイトル: | 特許公報(B2)_耐熱性アミロマルターゼ |
出願番号: | 1998125121 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | C12N 15/09,A23G 3/00,A23G 3/34,A23K 1/165,A23L 1/105,C12N 1/15,C12N 1/19,C12N 1/21,C12N 5/10,C12N 9/10,C12P 19/18 |
寺田 喜信 藤井 和俊 柳瀬 美千代 高田 洋樹 鷹羽 武史 岡田 茂孝 JP 4187305 特許公報(B2) 20080919 1998125121 19980507 耐熱性アミロマルターゼ 江崎グリコ株式会社 000000228 山本 秀策 100078282 寺田 喜信 藤井 和俊 柳瀬 美千代 高田 洋樹 鷹羽 武史 岡田 茂孝 JP 1997122635 19970513 20081126 C12N 15/09 20060101AFI20081106BHJP A23G 3/00 20060101ALI20081106BHJP A23G 3/34 20060101ALI20081106BHJP A23K 1/165 20060101ALI20081106BHJP A23L 1/105 20060101ALI20081106BHJP C12N 1/15 20060101ALI20081106BHJP C12N 1/19 20060101ALI20081106BHJP C12N 1/21 20060101ALI20081106BHJP C12N 5/10 20060101ALI20081106BHJP C12N 9/10 20060101ALI20081106BHJP C12P 19/18 20060101ALI20081106BHJP JPC12N15/00 AA23G3/00A23K1/165 CA23L1/105C12N1/15C12N1/19C12N1/21C12N5/00 AC12N9/10C12P19/18 C12N 15/00-15/90 C12N 9/00-9/99 BIOSIS/MEDLINE/WPIDS/CAplus(STN) GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq UniProt/GeneSeq PubMed JSTPlus(JDreamII) J.Biol.Chem., 1993, Vol. 268, No. 2, p. 1391-1396 Eur.J.Biochem., 1992, Vol. 207, No. 1, p. 81-88 J.Biol.Chem., 1996, Vol. 271, No. 6, p. 2902-2908 Eur.J.Biochem., 1976, Vol. 69, No. 1, p. 105-115 17 1999046780 19990223 28 20050325 千葉 直紀 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、新規な耐熱性アミロマルターゼ、このアミロマルターゼをコードする遺伝子、およびこのアミロマルターゼの製造方法に関する。本発明はまた、耐熱性アミロマルターゼを用いる、環状グルカンの製造方法、および食品の改質方法にも関する。【0002】【従来の技術】アミロマルターゼ(EC.2.4.1.25)は、D酵素、4-α-グルカノトランスフェラーゼなどの別名を有する酵素である。この酵素は、あるα-グルカン分子から別のα-グルカン分子(またはグルコース)にα-グルカン鎖を転移する反応を触媒する。アミロマルターゼは大腸菌などの微生物、および馬鈴薯塊茎、麦芽大麦、さつまいも、ホウレンソウなどの植物組織に広く分布している。一般的に、微生物由来の酵素はアミロマルターゼ、植物由来の酵素はD酵素と呼ばれる。微生物由来のアミロマルターゼと植物由来のD酵素とは、アミノ酸配列に類似性を有する。【0003】近年、アミロマルターゼは、α-グルカンの環状化反応を触媒し得ることが見出されている。例えば、アミロマルターゼは、アミロースの分子内転移反応(環状化反応)を触媒して、重合度17以上の環状α-グルカンであるサイクロアミロースを合成し得ることが報告されている。アミロマルターゼはまた、アミロペクチンなどのα-1,6-結合を有する分岐構造を含むα-グルカンの環状化反応を触媒し、分岐型環状グルカンを合成し得ることが報告されている(特開平8-311103号を参照)。この反応を利用することによって、内分岐型環状グルカン、および外分岐型環状グルカンなどの様々な構造を有する分岐型環状グルカンを合成することが可能である。【0004】このような環状グルカンは、包接化合物を形成する能力を有し、かつ水への溶解性が非常に高いという特性のため、食品、医薬品などへの応用が期待されている。環状グルカンは、特に、デンプン加工工業における原料、飲食用組成物、食品添加用組成物、輸液、接着用組成物、包接物もしくは吸着物、デンプンの老化防止剤、または生分解性プラスチック用のデンプンの代替物質として有用である(特開平8-311103号を参照)。【0005】現在までのところ、植物由来のアミロマルターゼ(D酵素)は、馬鈴薯塊茎、発芽大麦、サツマイモ、ホウレンソウ緑葉など、さまざまな植物組織においてその存在が認められている。馬鈴薯由来のアミロマルターゼについては、cDNAが単離され、塩基配列が決定されている(J.Biol.Chem. vol.268, pp.1391-1396, (1993))。馬鈴薯由来のアミロマルターゼは大腸菌において活性を持った状態で発現され、実験室スケールでのサイクロアミロースの生産に利用されている(J.Biol.Chem. vol.271, pp.2902-2908, (1996))。【0006】一方、微生物由来のアミロマルターゼとしては、中温菌である大腸菌由来の酵素が良く研究されている(Eur.J.Biochem. vol.69, pp.105-115,(1976))。また、やはり中温菌であるインフルエンザ菌、ストレプトコッカス、およびクロストリディウム菌のアミロマルターゼ遺伝子の塩基配列がそれぞれ決定されている(GenBank アクセス番号U32760、JO1796、L37874)。【0007】アミロマルターゼは、様々な工業的用途に適用され得る。一つの例として、アミロマルターゼは環状グルカンの生産のようなα-グルカン加工において利用され得る。工業的に酵素を使用する場合は、できるだけ高温で、できれば約60℃以上で反応を行うことが望ましい。これは、基質であるα-グルカンの老化を抑制し、そして雑菌による反応系の汚染を防止するためである。しかし、上述した公知のアミロマルターゼのうち、その性質が判明しているものは、全て30℃〜45℃程度の中温域で高い活性を有する酵素である。例えば、大腸菌由来のアミロマルターゼの反応至適温度は約35℃であり(Agric.Biol.Chem. vol.53, pp.2653-2659,(1989))、馬鈴薯由来のアミロマルターゼの反応至適温度は約45℃である(J.Chem.Soc. pp.44-53,(1956))。一方、インフルエンザ菌、ストレプトコッカス、クロストリディウム菌のアミロマルターゼについては、その精製および諸性質の検討は行われていない。しかし、これらの菌の生育温度から推測すると、これら酵素の至適温度もまた30℃〜45℃程度の中温域であると考えられる。このように、これまで知られているアミロマルターゼは、実質上、中温域で高い活性を有する酵素に限定される。これらの酵素は、約60℃以上の高温での反応に用いることが困難であるため、工業的規模でのα-グルカン加工への利用には適さない。【0008】また、アミロマルターゼは、α-グルカン鎖の環状化反応を触媒すると同時にグルコースなどの受容体が存在する条件下においては、環状グルカンを切断して受容体に転移する反応(開環反応)をも触媒し、環状グルカンを分解することが知られている(Takahaら、J.Biol.Chem. vol.271, pp.2902-2908, (1996))。従って、図1で示した環状グルカン生産プロセスにおいて、多量のグルコースが生ずるグルコアミラーゼ処理工程に、活性のあるアミロマルターゼが存在してしまうと、環状グルカンの分解が進み、環状グルカンの収率が大きく低下してしまう。このため、環状グルカンを効率的に生産するためには、環状化工程終了後、グルコアミラーゼ処理工程に移行する前に、アミロマルターゼを完全に失活させることが望ましい。工業的用途への適用を考慮すると、酵素失活方法としては加熱失活が好ましく、より実用的には約90℃から100℃に数分保持することにより、完全に失活させることが好ましい。それゆえ、たとえ耐熱性であったとしても、至適生育温度が極めて高い超好熱性の古細菌および始原菌から単離され得るアミロマルターゼのような、その耐熱性が必要以上に高い酵素は適切ではない。【0009】さらに、大腸菌由来のアミロマルターゼなどは、加水分解活性を合わせて有することが知られている。このため、環状化反応における基質である鎖状グルカンのみならず、生成物である環状グルカンもまた、この酵素の作用で加水分解される。その結果、目的とする生成物である環状グルカンの収率が低下するという問題が生じる。【0010】このように、雑菌による汚染およびα-グルカンの老化を防止しつつ環状グルカンを効率よく製造することが困難であるという従来の問題点は、十分に解決されていなかった。それゆえ、60℃程度の反応温度において耐熱性であると共に、反応後の失活が容易であり、かつ実質的に加水分解反応を触媒しないという特性を有する、環状グルカン生産に適したアミロマルターゼが期待されていた。【0011】アミロマルターゼを工業的用途に適用する別の例として、アミロマルターゼは、デンプンを多く含む食品を改質するために直接利用され得る。【0012】デンプンは、穀物中の主成分であり、非常に多くの食品において多量に含まれている。しかし、デンプンは、老化しやすい、粘性が高い、および溶解性が低いという性質を有する。そのため、デンプンを多く含む食品では、製造後、経時的に品質(例えば、物性および食感)が低下するということがある。その結果、食品の保形性、消化性、および冷凍または冷蔵耐性の低下などが付随して生じ、商品価値が著しく損なわれ得るという問題がある。そのため、食品中のデンプンの老化を抑制する技術が強く望まれており、従来、2つの方法が用いられてきた。【0013】第1の方法は、食品中に、デンプン老化防止および粘性の低下に対して効果を有する物質を添加する方法である。現在までに、糖類、多糖類、糖アルコール、タンパク質、および脂肪酸エステルを添加する方法が、数多く試みられている。上述のように、環状グルカンをデンプンに添加することによって、デンプンの老化が防止されたことが報告されている(特開平8-311103号を参照)。【0014】第2の方法は、デンプンに作用する酵素を食品素材に直接添加して、デンプンを低分子化させる方法である。従来この方法に用いられてきた酵素は主に、デンプンを加水分解するアミラーゼである。例えば、耐熱性β-アミラーゼを用いる方法(特開昭62-79745号および特開昭62-79746号を参照)およびマルトース生成α-アミラーゼを用いる方法(欧州特許出願公開第494233号明細書を参照)が報告されている。しかし、アミラーゼは加水分解活酵素であるため、甘味を有する低分子糖を生じるという点で、その用途が制限される。従って、アミラーゼは、デンプンを含む食品を改質するためには不十分である。【0015】食品を改質するために、グルカノトランスフェラーゼ、例えば、アミロマルターゼを酵素として使用することも検討されている(例えば、PCT出願WO97/41735を参照)。これは、アミロマルターゼがデンプンを環状化反応により低分子化して、老化抑制効果のある環状グルカンを生じさせるためである。しかし、上述のように、これまでに知られているアミロマルターゼの多くは、加水分解活性を合わせて有するために低分子の還元糖を蓄積させるという問題点を有する。さらに、至適温度が30℃〜45℃程度の中温域である酵素は、食品素材の加熱調理における高温条件で失活し得るために、使用範囲が著しく制限される。【0016】それゆえ、実質的に加水分解反応を触媒せず、かつ耐熱性という特性を有する、食品の改質への利用に適したアミロマルターゼが求められている。【0017】【発明が解決しようとする課題】本発明は上記の問題を解決するためのものであり、その目的とするところは以下の点を含む:(1)環状グルカンを生産するために適した耐熱性を有し、かつ実質的に加水分解反応を触媒しないアミロマルターゼを提供すること;(2)上記アミロマルターゼの組換え生産を可能とする、アミロマルターゼをコードする遺伝子を提供すること;(3)上記アミロマルターゼを用いて、高効果かつ高収率で環状グルカンを製造する方法を提供すること;(4)上記アミロマルターゼを加熱調理前または加熱調理直後に、食品素材に添加することによって、デンプンを低分子化すること、かつ環状グルカンを生成することにより、改質された食品を製造する方法を提供すること;および(5)食品を改質するための上記アミロマルターゼを含有する食品素材、食品添加物、および食品改質剤を提供すること。【0018】【課題を解決するための手段】本発明者らは、今までに発見された同種の酵素中で、環状グルカンを生産するため、および食品を改質するために特に優れた性質を有するアミロマルターゼを、Thermus Flavus ATCC 33923株から単離し、これに基づいて本発明を完成した。【0019】本発明のアミロマルターゼは、α-グルカンを基質として、分子内転移反応により環状グルカンを生成する作用を有し、実質的に加水分解反応を触媒せず、至適温度が65℃から70℃であり、60℃で10分間以上活性を維持し、かつ100℃で15分間で失活し、反応至適pHがpH5.5である性質を有する。【0020】1つの実施態様においては、上記のアミロマルターゼは、Thermus flavus ATCC 33923由来である。【0021】さらに本発明は、(a)配列表の配列番号1の1位のMetから500位のLeuまでのアミノ酸配列を有するアミロマルターゼ;または(b)アミノ酸配列(a)において、1またはそれ以上のアミノ酸が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を有し、耐熱性であるアミロマルターゼに関する。【0022】本発明はまた、(a)配列表の配列番号1の1位のMetから500位のLeuまでのアミノ酸配列を有するアミロマルターゼ;または(b)アミノ酸配列(a)において、1またはそれ以上のアミノ酸が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を有し、耐熱性であるアミロマルターゼをコードする遺伝子に関する。【0023】さらに本発明は、(a)配列表の配列番号2に記載の塩基配列からなるDNA;または(b)塩基配列(a)を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、耐熱性であるアミロマルターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAからなるアミロマルターゼ遺伝子に関する。【0024】さらに本発明は、耐熱性であるアミロマルターゼ遺伝子を含有する発現ベクターに関し、そして、かかる発現ベクターで形質転換された微生物に関する。【0025】さらに本発明は、形質転換された微生物を培養する工程、および該培養により生産されるアミロマルターゼを回収および精製する工程を含む、耐熱性であるアミロマルターゼの製造方法に関する。本発明はまた、かかる方法によって製造されるアミロマルターゼに関する。【0026】本発明はまた、上記のアミロマルターゼのいずれかを用いてα-グルカンを環状化する工程、および該環状グルカンを回収および精製する工程を含む、環状グルカンの製造方法に関する。【0027】1つの実施態様においては、上記の環状グルカンは、環状α-1,4-グルカンを含む。【0028】1つの実施態様においては、上記の環状グルカンは、分岐型環状グルカンを含む。【0029】1つの実施態様においては、上記の環状化する工程において、枝つくり酵素をさらに使用する。【0030】さらに本発明は、上記のアミロマルターゼのいずれかを食品素材に、素材の加熱調理前または加熱調理直後に添加する工程であって、ここで、アミロマルターゼが該食品素材中のデンプンから環状グルカンを生成する、工程を含む、食品の製造方法に関する。【0031】1つの実施態様においては、上記の食品は、米飯類、和菓子、スナック菓子類、ベーカリー類、麺類、餃子およびシュウマイの皮、水産練り商品、冷凍もしくは冷蔵流通の加工食品、離乳食、ベビーフード、ペットフード、動物用飼料、飲料、スポーツ食品、ならびに栄養補助食品からなる群より選択される。【0032】1つの実施態様においては、上記の食品は、和菓子である。【0033】本発明はまた、上記のアミロマルターゼのいずれかを含有することを特徴とする食品素材、食品添加物、および食品改質剤に関する。【0034】【発明の実施の形態】以下、本発明を詳しく説明する。【0035】本明細書において、「α-グルカン」とは、α-1,4-グルカン(マルトースを構成二糖単位とする鎖状構造の多糖類)、またはα-1,6-分岐構造を有するα-1,4-グルカンであり、アミロース、アミロペクチン、デンプンおよびグリコーゲンの他、ワキシースターチ、ハイアミロースデンプン、可溶性デンプン、デキストリン、デンプン加水分解産物、ホスホリラーゼによる酵素合成アミロペクチンなどを含む。【0036】本明細書において、「環状グルカン」とは、α-1,4-グルコシド結合のみを有する環状α-1,4-グルカン、ならびにα-1,4-グルコシド結合およびα-1,6-グルコシド結合の両方を有する分岐型環状グルカンを含む。「分岐型」とは、少なくとも1つのα-1,4-結合以外のグルコシド結合を有することをいう。分岐型環状グルカンの例としては、α-1,6-結合を有する分岐構造を環状構造内部に含む内分岐型環状グルカン、および環状構造に加えてさらに非環状構造部分を有する外分岐型環状グルカンなどが挙げられる。【0037】本明細書において、「サイクロアミロース(CA)」とは、重合度17以上の環状α-1,4-グルカンである。【0038】本明細書において、「アミロマルターゼ活性」とは、100mM 酢酸ナトリウム(pH5.5)、0.2%(w/v)マルトトリオースからなる組成液中で、70℃で10分間、アミロマルターゼを作用させたときに生じるグルコースを定量することによって、測定される活性をいう。1分間に1μモルのグルコースを生じる活性を1ユニットとする。【0039】本明細書において、「実質的に加水分解反応を触媒しない」とは、終濃度0.2%(w/v)の酵素合成アミロースAS-320を含む緩衝液(100mM 酢酸ナトリウム(pH5.5)、9%(v/v)DMSO)中で、0.07ユニット/mlのアミロマルターゼを、70℃で6時間作用させた場合に、サイクロアミロースの収率について、最高収率からの低下がみとめられないことをいう。【0040】本明細書において、「サイクロアミロースの定量」とは、アミロースにアミロマルターゼを作用させることにより、得られる反応産物中のサイクロアミロースを定量することをいう。サイクロアミロース量は、反応産物をグルコアミラーゼで消化した際、グルコアミラーゼにより分解されないグルカン量として測定される。【0041】本明細書において、「サイクロアミロースの収率」とは、定量されたサイクロアミロース量を、基質に対する重量比として算出した値をいう。【0042】本明細書において、「60℃で10分間以上活性を維持する」とは、緩衝液A(10mM KH2PO4-Na2HPO4、pH7.0)中でアミロマルターゼを、60℃で10分間処理した場合に、活性の低下がみとめられないことをいう。「100℃で15分間で失活」とは、緩衝液A(10mM KH2PO4-Na2HPO4、pH7.0)中でアミロマルターゼを、100℃で15分間処理した場合に、活性がみとめられないことをいう。【0043】本明細書において、「反応至適pH」とは、Britton-Rhobinson緩衝液中で、0.2%(w/v)のマルトトリオースが存在する条件下、各pHにおいて70℃で、10分間、アミロマルターゼを作用させた際に最も活性が高いpHを意味する。【0044】本明細書において、「反応至適温度」とは、緩衝液(100mM 酢酸ナトリウム(pH5.5))中で、0.2%(w/v)のマルトトリオースが存在する条件下、各温度において、pH5.5で10分間、アミロマルターゼを作用させた際に最も活性が高い温度を意味する。【0045】本明細書において、「好熱性菌」とは、生育至適温度が50℃〜105℃で、30℃以下ではほとんど増殖しない微生物をいう。このうち、生育至適温度が90℃以上である微生物を「超好熱性菌」という。【0046】本明細書において、「中温菌」とは、生育温度が通常の温度環境にある微生物のことであり、特に生育至適温度が20℃〜40℃である微生物をいう。【0047】(アミロマルターゼおよびその精製)本発明のアミロマルターゼは、上述のように、耐熱性であることを特徴とする。この酵素は、好ましくは70℃10分間で、より好ましくは80℃10分間でも活性を維持し、好ましくは100℃10分間で、より好ましくは100℃で5分間で失活する。また、この酵素は、好ましくは70℃においても実質的に加水分解反応を触媒しない。【0048】配列表の配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するアミロマルターゼ、および配列表の配列番号1で示されるアミノ酸配列中の1またはそれ以上のアミノ酸の欠失、置換、または付加による変異を含むアミロマルターゼは、本発明において意図される酵素である。変異を含む後者のアミロマルターゼは、変異を含まない前者のアミロマルターゼと同等またはそれ以上の活性を有し、同様の耐熱性を示し、そして実質的に加水分解反応を触媒しない。上記のような変異は、天然に生じるか、または変異原物質の作用によって、もしくは人為的に部位特異的突然変異の導入を用いて生じさせ得る。部位特異的突然変異の手法は、当該分野では周知である。例えば、Nucl. Acid Research, Vol.10, pp.6487-6500(1982)を参照。本明細書において、「1またはそれ以上のアミノ酸の欠失、置換、または付加」とは、部位特異的突然変異により導入できる程度の数の欠失、置換、または付加をいう。当業者は、所望の性質を有するアミロマルターゼ変異体を容易に選択することができる。【0049】本発明のアミロマルターゼは以下のようにして得ることができる。アミロマルターゼを産生する好熱性菌、例えばThermus Flavus ATCC 33923株の菌体を大量培養した後、例えば培養物を破砕して、遠心分離または濾過することによって培養物破砕物を分離して上清を得、これを粗酵素液とする。さらにこの粗酵素液を、透析、凍結乾燥、等電点電気泳動、イオン交換クロマトグラフィー、晶出などの通常の酵素の精製手段を適宜組み合わせることによって、比活性の向上した精製酵素を得ることができる。【0050】(アミロマルターゼ遺伝子)本発明のアミロマルターゼをコードする遺伝子は、本発明において意図される遺伝子である。この遺伝子は、本明細書の開示に基づいて、当該分野で公知の方法を用いて得ることができる。例えば、Thermus Flavus ATCC 33923株由来の精製アミロマルターゼをトリプシン処理して、得られる消化断片をHPLCにより分離し、得られたピークに相当するペプチド断片のN末端配列を、ペプチドシークエンサーにより同定する。次いで、同定した配列をもとに作製した合成オリゴヌクレオチドプローブを用いて、適切なゲノムライブラリーまたはcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、本発明のアミロマルターゼ遺伝子を得ることができる。オリゴヌクレオチドプローブおよびDNAライブラリーを調製するための、ならびに核酸のハイブリダイゼーションによりそれらをスクリーニングするための基本的な戦略は、当業者に周知である。例えば、Sambrookら, Molecular Cloning: A Laboratory Manual (1989); DNA Cloning,第IおよびII巻(D. N. Glover編 1985); Oligonucleotide Synthesis (M. J. Gait編 1984); Nucleic Acid Hybridization (B. D. Hames & S. J. Higgins編 1984)を参照。【0051】ゲノムライブラリーをスクリーニングする場合、得られた遺伝子は、当業者に周知の方法を用いてサブクローニングし得る。例えば、目的の遺伝子を含むλファージと、適切な大腸菌と、適切なヘルパーファージとを混合することにより、容易に目的の遺伝子を含有するプラスミドを得ることができる。その後、プラスミドを含有する溶液を用いて、適切な大腸菌を形質転換することにより、目的の遺伝子をサブクローニングし得る。得られた形質転換体を培養して、例えばアルカリSDS法によりプラスミドDNAを得、目的の遺伝子の塩基配列を決定し得る。塩基配列を決定する方法は、当業者に周知である。さらに、DNAフラグメントの塩基配列を基に合成されたプライマーを用い、Thermus Flavus ATCC 33923株のゲノムDNAなどを鋳型に、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて直接アミロマルターゼ遺伝子を増幅することもできる。【0052】配列表の配列番号2で示される塩基配列を有するDNAからなる遺伝子、および配列表の配列番号2で示される塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAからなる遺伝子は、本発明において意図される遺伝子である。後者の遺伝子によりコードされるアミロマルターゼは、前者の遺伝子によりコードされるアミロマルターゼと同等またはそれ以上の活性を有し、同様の耐熱性を示し、そして実質的に加水分解反応を触媒しない。当業者は、所望のアミロマルターゼ遺伝子を容易に選択することができる。【0053】本明細書中で使用する用語「ストリンジェントな条件」とは、特異的な配列にはハイブリダイズするが、非特異的な配列にはハイブリダイズしない条件をいう。ストリンジェントな条件の設定は、当業者に周知であり、例えば、Moleculer Cloning(Sambrookら、前出)に記載される。【0054】(アミロマルターゼ組換え発現)クローン化された遺伝子の発現は、クローン化DNAを挿入した適切な発現ベクターの構築、発現ベクターの微生物への導入、ならびに組換え微生物の培養および生産物の回収により達成される。これらの方法は、当業者に周知である。本発明に用いられる微生物宿主には、原核生物および真核生物が含まれる。好ましい原核生物宿主には、中温菌、例えば大腸菌が含まれる。【0055】発現ベクターは、目的の遺伝子が転写および翻訳されるように作動可能に連結されており、さらに必要に応じて微生物内での複製および組換え体の選択に必要な因子を備えた媒体をいう。また、発現産物の分泌生産が意図される場合は、分泌シグナルペプチドをコードする塩基配列が、目的のタンパク質をコードするDNAの上流に正しいリーディングフレームで結合される。適切な発現ベクターの種類が使用する微生物宿主に応じて変わり得ることは、当業者に周知である。【0056】上記発現ベクター内の転写および翻訳に必要な因子に作動可能に連結するために、目的のアミロマルターゼ遺伝子を加工すべき場合がある。これらは例えばプロモーターとコード領域との間が長すぎて転写効率の低下が予想される場合、またはリボゾーム結合部位と翻訳開始コドンとの間隔が適切でない場合などである。加工の手段としては、制限酵素による消化、Bal31、ExoIIIなどのエキソヌクレアーゼによる消化、あるいはM13などの一本鎖DNAまたはPCRを使用した部位特異的突然変異の導入が挙げられる。【0057】発現ベクターが導入されてアミロマルターゼ生産能力を獲得した形質転換株の培養には、使用する宿主微生物および発現ベクター内の発現を調節する因子の種類、ならびに発現される物質に応じて、適切な条件が選択される。例えば、通常の振とう培養方法が用いられ得る。【0058】用いる培地は、使用する宿主微生物が生育し得るものであれば特に限定されない。培地には炭素源、窒素源の他、無機塩、例えば、リン酸、Mg2+、Ca2+、Mn2+、Fe2+、Fe3+、Zn2+、Co2+、Ni2+、Na+、K+などの塩が必要に応じて、適宜混合して、または単独で用いられ得る。また、必要に応じて形質転換体の生育、酵素の生産に必要な各種無機物、有機物が添加され得る。【0059】培養の温度は、用いる形質転換体の生育に適するように選択される。通常15℃〜60℃である。形質転換株の培養は、アミロマルターゼの生産のために十分な時間続行される。【0060】誘導性のプロモーターを有する発現ベクターを使用する場合は、誘導物質の添加、培養温度の変更、培地成分の調整などにより発現が制御され得る。例えば、ラクトース誘導性プロモーターを有する発現ベクターを使用する場合は、イソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加することにより発現が誘導され得る。【0061】このようにして形質転換体を培養した後、例えば発現産物が菌体外に分泌する場合、培養物を遠心分離または濾過することによって菌体を分離して上清を得る。次に、このアミロマルターゼを含む上清を通常の手段(例えば、塩析法、溶媒沈澱、限外濾過)を用いて濃縮し、アミロマルターゼを含む画分を得る。この画分を濾過、あるいは遠心分離、脱塩処理などの処理を行い粗酵素液を得る。さらにこの粗酵素液を、凍結乾燥、等電点電気泳動、イオン交換クロマトグラフィー、晶出などの通常の酵素の精製手段を適宜組み合わせることによって、比活性が向上した粗酵素あるいは精製酵素が得られる。α-アミラーゼなどのα-グルカンを加水分解する酵素が含まれていなければ、粗酵素をそのまま環状グルカンの生産に用い得る。【0062】上述のような組換え発現により、本発明のアミロマルターゼの生産性を大幅に向上させることが可能となる。また、発現させた場合、アミロマルターゼは、その耐熱性を利用して簡便に精製し得る。簡単に述べると、アミロマルターゼを含む菌体抽出液を60℃程度で加熱処理することにより、夾雑酵素が不溶化する。この不溶化物を遠心分離などで除去して透析処理を行えばよい。【0063】(アミロマルターゼによる環状化反応)(1)環状α-1,4-グルカンの生産本発明のアミロマルターゼを用いて、α-グルカンを基質として、環状α-1,4-グルカンであるサイクロアミロースを生産し得る。この際、アミロマルターゼは、固定化酵素として使用することも可能である。【0064】サイクロアミロースの生産は、適切な濃度のα-グルカンを含む緩衝液中で、アミロマルターゼを作用させることにより行い得る。α-グルカンとしては直鎖状α-1,4-グルカンが好ましく、重合度が少なくとも20以上である高重合度のアミロースがより好ましい。本発明のアミロマルターゼを用いることにより、環状化反応が円滑に進行して、代表的には重合度約20〜400のサイクロアミロースが生産され得る。主生成物として、特に重合度約20〜200のサイクロアミロースが生産されることが好ましい。【0065】反応温度は60℃以上、好ましくは60℃〜80℃、特に好ましくは65〜70℃である。このことにより、基質であるアミロースの老化および雑菌による反応系の汚染が防止される。【0066】環状化反応が十分に進行した後、アミロマルターゼを高温で完全に失活させることにより、精製工程での逆反応を防止することができる。好ましくは、失活温度は90〜100℃である。【0067】反応液中から、サイクロアミロースを回収し、精製する。非環状グルカンの除去を容易にするため、アミロマルターゼを失活させた後の反応液にグルコアミラーゼをさらに添加して、非環状グルカンをグルコースに分解することができる。エタノール沈澱またはクロマトグラフィーなどの慣用的な精製方法を用いて、純粋なサイクロアミロースを得ることができる。【0068】本発明の酵素は実質的に加水分解反応を触媒しないため、環状化反応においてサイクロアミロース収率が長時間、高レベルで維持され、本明細書における代表的な反応条件では、反応開始から少なくとも6時間後まで収率の低下は観察されない。従って、高収率の反応を再現性良く行うことができる。本発明の方法によれば、サイクロアミロースの生産を、少なくとも約70%以上、代表的には約75〜85%の収率で達成することができる。【0069】(2)分岐型環状グルカンの生産また、本発明のアミロマルターゼを用いて、アミロペクチンなどのα-1,6-結合を有する分岐構造を含むα-グルカンの環状化反応を触媒し、内分岐型環状グルカンおよび外分岐型環状グルカンなどのさまざまな構造を有する分岐型環状グルカンを生産し得る。この際、アミロマルターゼは固定化酵素として使用することも可能である。【0070】分岐型環状グルカンの生産は、適切な濃度のα-グルカンを含む緩衝溶液中で、アミロマルターゼを作用させることにより行い得る。α-グルカンとしては、α-1,6-結合を有する分岐構造を含むα-グルカンが好ましく、アミロペクチン、グリコーゲン、デンプン、ワキシースターチなどが特に好ましい。本発明のアミロマルターゼを用いることにより、環状化反応が円滑に進行して、代表的には、重合度が約17〜5000の分岐型環状グルカンが生産され得る。特に、重合度約21〜3000の分岐型環状グルカンが生産されることが好ましい。【0071】また、より複雑な構造の分岐型環状グルカンを生産するために、本発明のアミロマルターゼをさらなる酵素とともに使用し得る。例えば、アミロマルターゼとともに枝つくり酵素(EC. 2.4.1.18)を使用し得る。枝つくり酵素は、α-1,4-グルカン分岐酵素とも呼ばれており、α-1,4-グルカン鎖の一部を6位に転移して分岐を作製する反応を触媒する酵素である(例えば、欧州特許出願公開第418945号明細書を参照)。2種類以上の酵素を併用することにより、より複雑な分岐型環状グルカンを生産することが可能である。【0072】反応温度は60℃以上、好ましくは60℃〜80℃、特に好ましくは65〜70℃である。このことにより、基質であるアミロースの老化および雑菌による反応系の汚染が防止される。【0073】本発明のアミロマルターゼをアミロペクチンなどのα-グルカンに作用させると、分岐型環状グルカンと環状α-1,4-グルカンとの混合物が得られる。この混合物中から分岐型環状グルカンのみを精製する方法としては、当業者に周知の任意の方法が用いられ得る。例えば、以下の手順により分岐型環状グルカンを精製し得る。アミロマルターゼを失活させた後の反応液中から、分岐型環状グルカンと環状α-1,4-グルカンとを、例えば、ゲル濾過クロマトグラフィーによって分離する。次いで、エタノール沈澱などの慣用的な精製方法を用いて、分岐型環状グルカンを得ることができる。【0074】本発明の酵素は実質的に加水分解反応を触媒しないため、環状化反応において環状グルカン収率が長時間、高レベルで維持される。【0075】上述の(1)および(2)において生産された環状グルカンの老化性、粘性、デンプンの老化防止効果、包接化合物形成能、消化性、およびエネルギー変換効率などの特性は、当業者に公知の任意の方法を用いて評価し得る。例えば、特開平8-311103号に記載される試験方法を用い得る。【0076】(食品を改質するためのアミロマルターゼの使用)本発明のアミロマルターゼは、食品中のデンプンに作用してデンプンの環状化反応を触媒する。その結果、食品中のデンプンは低分子化されて環状グルカンを生じる。この反応により生じる環状グルカンは、上述のように、非常に粘性が低く、溶解性に優れ、デンプンの老化抑制効果を有し、そして様々な物質を包接する能力を有する。従って、本発明のアミロマルターゼを使用して食品を改質し得る。代表的には、食品中のデンプンにアミロマルターゼを作用させて環状グルカンを蓄積させることにより、食品の物性(特に、保存時の安定性)および食感を改質させる。【0077】さらに、デンプンの環状化反応により生じる環状グルカンは、α-1,4-グルコシド結合およびα-1,6-グルコシド結合を有する構造を有する。この環状グルカンは、生物体内に存在する酵素によって容易にグルコースに分解される。従って、環状グルカンはまた、消化性に優れ、エネルギー変換効率が高いという特性を有する。【0078】本発明のアミロマルターゼは、上述のように非常に耐熱性に優れており、かつ実質的に加水分解活性を有さない。それゆえ、食品を改質するためにアミロマルターゼを使用するにおいて、食品素材の加熱調理前または加熱調理直後に酵素を添加することが可能であるという利点を有する。さらに、低分子の還元糖の不必要な蓄積が生じないという利点を有する。【0079】本発明のアミロマルターゼは、幅広い食品(すなわち、デンプンを含む任意の食品)を改質するために使用され得る。【0080】デンプンを多く含む食品としては、米飯類(例えば、おにぎり、寿司めし、および弁当のご飯)、和菓子(例えば、ワラビモチ、まんじゅう、モチ、ういろ、およびおはぎ)、スナック菓子類(例えば、煎餅、おかき、ポテトチップス、および他のスナック類)、ベーカリー類(例えば、パン、パイ、ピザ、ケーキ、クッキー、ビスケット、およびクラッカー)、麺類(例えば、うどん、そば、およびラーメン)、ならびに、スパゲッティーおよびマカロニなどのパスタ類)、餃子およびシュウマイの皮、水産練り商品(例えば、ちくわおよびかまぼこ)、冷凍もしくは冷蔵流通の加工食品、離乳食、ベビーフード、ペットフード、動物用飼料、飲料(例えば、スポーツ飲料)、スポーツ食品、ならびに栄養補助食品などが挙げられる。【0081】デンプンを特に多く含む、米飯類、和菓子、スナック菓子類、ベーカリー類、麺類は、本発明の対象として好ましい食品の例である。低温保存時の安定性が重要である冷凍もしくは冷蔵流通の加工食品は、好ましい食品の他の例である。【0082】本発明において、食品素材とは、上述の食品を製造するための任意の材料、および食品への加工過程における任意の調製物をいう。【0083】本発明のアミロマルターゼを作用させた食品が改質されたことは、食品中のデンプンが低分子化され、環状グルカンが生成されたことを調べることによって確認し得る。本発明においては、本発明の酵素を添加した食品中において、酵素を添加しない食品と比べて、環状グルカンの有意な生成が観察された場合に、その食品が改質されているという。【0084】本発明のアミロマルターゼを含有する食品素材、食品添加物、および食品改質剤は、上述のように改質された食品を製造するために有用である。添加する酵素の量は、当業者によって適宜選択され得る。【0085】食品添加物としては、調味料類(例えば、しょうゆ、たれ、ソース、だしの素、シチューの素、カレーの素、スープの素、マヨネーズ、ドレッシング、ケチャップ、および複合調味料)などが挙げられる。【0086】食品改質剤としては、デンプン老化防止剤、米飯改質剤などが挙げられる。【0087】【実施例】以下に具体的に実施例を用いて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。(実施例1:Thermus flavus ATCC 33923株菌体抽出液からのアミロマルターゼの精製)(1)アミロマルターゼの精製Thermus flavus ATCC 33923株を、33リットルの培地(1% マルトース、0.4%イーストイクストラクト、0.8%ポリペプトン、0.2% NaCl, pH7.5)で70℃、18時間振とうした。菌体を遠心分離により集め、10mM KH2PO4-Na2HPO4(pH7.5)(緩衝液A)で洗浄した後、この緩衝液に再び懸濁し、超音波により菌体を破砕した。これを遠心分離して上清を粗酵素液とした。粗酵素液に終濃度1Mとなるように硫酸アンモニウムを添加し、4℃にて、一晩放置した後、1M硫酸アンモニウムを含む緩衝液Aで平衡化したフェニルトヨパールカラム(TOSOH製)にロードした。300mM硫酸アンモニウムを含む緩衝液Aで洗浄した後、緩衝液A中の硫酸アンモニウム濃度を300mMから0mMに変化させることによって酵素を溶出させ、活性画分を回収した。得られた酵素液を緩衝液Aに対して透析した。【0088】透析した酵素液を緩衝液Aで平衡化したSource 15Qカラム(ファルマシア製)にロードした。緩衝液Aで洗浄した後、緩衝液中のNaCl濃度を0mMから400mMに変化させることによって酵素を溶出させ、活性画分を回収した。得られた酵素液を緩衝液Aに対して透析した。【0089】透析した酵素液を150mM NaClを含む50mM KH2PO4-Na2HPO4(pH7.5)で平衡化したSuperdex 75pgカラム(ファルマシア製)にロードし、緩衝液Aで酵素を溶出させた。得られた酵素液を緩衝液Aに対して透析して、精製酵素液とした。精製酵素はSDSポリアクリルアミトゲル電気泳動で単一バンドを示した(図2) 。SDS-PAGEにおける移動度から求めたアミロマルターゼの分子量は、57,000であった。【0090】(2)アミロマルターゼの活性測定アミロマルターゼの活性は、100mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)中で、0.2%(w/v)マルトトリオースにアミロマルターゼを70℃で10分間作用させたときに生じるグルコースを、定量することにより測定した(J.Biol.Chem. vol.268, pp.1391-1396, (1993))。【0091】1分間に1μmolのグルコースを遊離する酵素量を1ユニットとし、活性のユニットを算出した。【0092】(実施例2:Thermus flavus ATCC 33923株アミロマルターゼの諸性質)実施例1で精製したアミロマルターゼの酵素学的性質を、当業者に周知の方法を用いて分析した。本酵素の反応至適温度は65〜70℃であり(図3)、反応至適pHは5.5であった(図4)。また、本酵素は80℃にて10分間の熱処理を行っても、ほぼ100%の残存活性を有しており、ほとんど失活が認められなかった(図5)。しかし、100℃、10分間の熱処理により完全に失活した(図5)。【0093】(実施例3:Thermus flavus ATCC 33923株アミロマルターゼのマルトオリゴ糖への作用)実施例1で精製したアミロマルターゼのマルトオリゴ糖への作用を調べた。終濃度1%のマルトオリゴ糖(マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース)に精製酵素を作用させ、反応産物を薄層クロマトグラフィー(TLC)で分析した。図6に示すように、本発明のアミロマルターゼは、これらマルトオリゴ糖の重合度不均化反応を触媒し、様々な重合度のマルトオリゴ糖およびグルコースを生成した。【0094】(実施例4:Thermus flavus ATCC 33923株アミロマルターゼの部分アミノ酸配列決定)(1)精製アミロマルターゼN末端アミノ酸配列の決定実施例1と同様にして、フェニルトヨパールカラムを用いるクロマトグラフィーにより酵素液を得た。0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)を含む48.4%アセトニトリル溶離液で平衡化したHPLC用C4カラム(Vydac 214TP54(0.46×25cm)、Vydac製)に酵素液をロードし、溶離液中のアセトニトリル濃度を48.4%から52.4%まで変化させることにより酵素を溶出した。得られた酵素液を減圧濃縮した。ペプチドシークエンサーを用いて、酵素のN末端アミノ酸配列を決定した。得られた配列はM-E-L-P-R-A-であった。【0095】(2)精製アミロマルターゼトリプシン消化断片のアミノ酸配列の決定上記(1)と同様にして、HPLC用C4カラムから酵素を溶出した。得られた酵素液を、減圧乾燥した後、8M尿素、0.4M NH4HCO3、4.5mM ジチオトレイトール(DTT)、10mMヨードアセトアミド(Iodeacetoamide)を含む溶液に溶解し、トリプシンを加えて、37℃にて24時間反応させた。このようにして得られたトリプシン消化断片を、0.06% TFAを含む1.6%アセトニトリル溶離液で平衡化したHPLC用ODSカラム(Vydac 218TP54(0.46×25cm)、Vydac製)にロードし、溶離液中のアセトニトリル濃度を1.6%から78.4%まで変化させることにより溶出した。他のピークと良好に分離した3本のピーク画分を集め、減圧濃縮した。ペプチドシーケンサーにより、これらのペプチド断片のN末端アミノ酸配列を決定した。得られた配列は以下の3種であった。S-V-A-R-L-A-V-Y-P-V-Q-D-V-L-A-M-N-Y-P-G-R-P-S-G-N-?-A-I-I-G-D-M-P-I-F-V-A-E-D-【0096】(実施例5:Thermus flavus ATCC 33923株アミロマルターゼ遺伝子の単離)(A)Thermus flavus ATCC 33923株のゲノムライブラリーの作成(A1)ゲノムDNAの調製本菌株を1000mlの0.89% トリプトン、0.4%イーストイクストラクト、0.2%塩化ナトリウムを含む培地を入れた2Lの坂口フラスコ中で、70℃で、10〜16時間、振とう培養した。遠心分離により菌体を回収し、ゲノムDNAをフェノール法(SaitoおよびMiura、Biochimica et Biophysica Acta, 72, 619(1963))により調製した。【0097】(A2)ゲノムDNAのλ-ZAP expressへの挿入上記(A1)で得られたゲノムDNAを、制限酵素Sau3AIを用いて部分消化した後、塩化ナトリウム密度勾配遠心分離にかけ、5〜10KbpのDNA断片を有する画分を得た。得られたDNA断片画分と、BamHIで処理したλ-ZAP expressベクター(ストラタジーン社製)とを、T4DNAリガーゼを用いて連結した。この反応液をインビトロパッケージングキットであるラムダイン(ニッポンジーン社製)を用いて処理し、組換えλファージ懸濁液を得た。【0098】(A3)組換えλファージの大腸菌への導入大腸菌VCS257株を、10mMの塩化マグネシウムを含むL培地(10g/l トリプトン(Difco)、5g/l イーストイクストラクト(Difco)、10g/l NaCl、pH7.0)で振とう培養し、10mMの塩化マグネシウム溶液20mlに懸濁した。次いで、組換えλファージと混合して37℃で20分間保温した。その後、L寒天培地(10g/l トリプトン(Difco)、5g/l イーストイクストラクト(Difco)、10g/l NaCl、pH7.0、1.5%(w/v)Agar)上に、L上層寒天培地(10g/l トリプトン(Difco)、5g/l イーストイクストラクト(Difco)、10g/l NaCl、pH7.0、0.8%(w/v)Agar)を用いて重層し、37℃で一晩インキュベートして、溶菌斑が点在するプレートを得た。【0099】(B)Thermus flavus ATCC 33923株のゲノムライブラリーのオリゴヌクレオチドプローブによるスクリーニング(B1)アミロマルターゼ遺伝子単離のためのオリゴヌクレオチドプローブの作製実施例4で決定したThermus flavus ATCC 33923株アミロマルターゼの部分アミノ酸配列(A-V-Y-P-V-Q-D-V)に対応する合成オリゴDNA(5'-GCIGTITAYCCIGTICARGAYGT-3'(核酸の記載はIUPAC核酸コードに従う))を作製した。この合成オリゴDNAを、放射線ラベルして、アミロマルターゼ遺伝子単離のためのプローブとして使用した。【0100】(B2)アミロマルターゼ遺伝子を含む組換えλファージの選択上記(A3)で作製したプレートにナイロンフィルター(アマシャム社製)を密着させ、アルカリ処理して、溶菌斑中の組換えλファージDNAを変性させ、フィルターに固定した。このフィルターを(B1)で作製したプローブの溶液に浸して、ハイブリダイゼーションを行った。X線フィルムに密着させてシグナルを検出することにより、アミロマルターゼ遺伝子を含む組換えλファージを選択した。【0101】(B3)アミロマルターゼ遺伝子を含む組換えλファージのプラスミドベクターへのサブクローニング上述(B2)で得られた組換えλファージと、大腸菌(XLI-Blue MRF株)と、ヘルパーファージ(ExAssist)とを混合して、37℃で15分間保温した。その後、5mlのL培地を加え、37℃で、4〜6時間振とう培養した。その培養液を、70℃で、20分間加熱処理した後、遠心分離することにより上清を取り出し、ファージ溶液を得た。このファージ溶液20μlと大腸菌(XLOLR株)200μlとを混合して、37℃で15分間保温した。そして、その一部もしくは全量を、50μg/μlのカナマイシンを含有するL寒天培地にプレーティングし、10〜18時間、37℃で、保温した。出現したコロニーからプラスミドDNAを、アルカリ-SDS法(Sambrookら、Molecular Cloning、前出)により抽出して、アミロマルターゼ遺伝子を含むプラスミドDNAを得た。【0102】(C)Thermus flavus ATCC 33923株アミロマルターゼ遺伝子の塩基配列決定上記で得られたプラスミドDNAについて、DNAシークエンサー(ABI社製)を用いて塩基配列を決定した。アミロマルターゼ遺伝子の全塩基配列を配列表の配列番号2に示す。配列表の配列番号1は、対応する推定アミノ酸配列である。【0103】(実施例6:耐熱性アミロマルターゼの組換え生産)(A)アミロマルターゼ遺伝子のPCRによる増幅実施例5で得られたThermus flavus ATCC 33923株由来ゲノムDNAまたはプラスミドを鋳型とし、2種類のオリゴヌクレオチド(P1:5'-TTTCATATGGAGCTTCCCCGCGCTTTCGGTCTGCTT−3'、P2:5'-TTTGAATTCGGGCTGGTCCACCTAGAGCCGTTCCGT)をプライマーとして用いて、終濃度10%のグリセロールを含む条件下でPCR(98℃10秒、68℃1分を25サイクル)を行った。この増幅により、アミロマルターゼの構造遺伝子のN末側に制限酵素NdeI部位、およびC末端側に制限酵素EcoRI部位が付加されたアミロマルターゼ遺伝子を得た。増幅DNAを制限酵素NdeIおよびEcoRIで完全消化した後、アガロース電気泳動を行い、アミロマルターゼ遺伝子を含む約1.5kbのDNA断片を回収した。【0104】(B)発現ベクターの作製市販の大腸菌発現ベクターpGEX-5X-3(ファルマシア製)のBamHI部位に、以下の配列を有するオリゴヌクレオチドアダプターを挿入し、プラスミドpGEX-Ndeを得た(図7を参照)。【0105】【化1】新たに作製した、発現プラスミドpGEX-NdeのNdeI-EcoRI部位に、(A)で調製したアミロマルターゼ遺伝子を含む約1.5kbのDNA断片を導入し、アミロマルターゼ発現プラスミドpFQG8を得た(図7を参照)。【0106】(C)耐熱性アミロマルターゼの大腸菌における発現アミロマルターゼ発現プラスミドpFQG8で形質転換された大腸菌TG-1株を終濃度100μg/mlのアンピシリンを含む1リットルのLB培地(1% トリプトン、0.5%イーストエキストラクト、1% NaCl、pH7.5)で対数増殖期後期まで(約6時間)、37℃で培養した後、最終濃度0.1mMのIPTGを加えた。さらに37℃で16時間培養を継続した後、遠心分離を行い集菌した。得られた菌体を300mlの緩衝液Aで2回洗浄し、次いで60mlの緩衝液Aに分散させた。超音波により菌体を破砕し、遠心上清を粗酵素液とした。このようにして得られた粗酵素液のアミロマルターゼ活性は、30ユニット/mlであり、Thermus flavus ATCC 33923株を培養した際に得られる活性の約500倍(培養液1ml当たり)であった。【0107】(実施例7:環状グルカンの生産)(A)環状α-1,4-グルカンの生産(本発明のアミロマルターゼを用いたサイクロアミロースの生産)終濃度0.2%の酵素合成アミロースAS-320(中埜酢店製)を含む、1mlの緩衝液(100mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)、9%(v/v)DMSO)中で、実施例1で得られた精製アミロマルターゼ0.07ユニットを70℃で作用させた。未反応の非環状アミロースをグルコアミラーゼによりグルコースに分解した後に、反応産物中のサイクロアミロースを定量した。本発明の酵素はアミロースを環状化し、反応2時間後まで、ほぼ直線的にサイクロアミロースが増加し、最終的に約80%の収率(基質アミロースに対する重量比)に達した(図8)。比較として、大腸菌由来アミロマルターゼを、反応温度を30℃とする以外は同様の条件で作用させた。この場合、最大収率は約50%と低く、反応の経過とともに収率は低下した。これは、大腸菌アミロマルターゼが、環状化反応を触媒する一方で、微弱な加水分解活性を有しているので、生産されたサイクロアミロースを分解するからである。本発明のアミロマルターゼについては、6時間後においても、サイクロアミロースの収率の低下は観察されなかった。従って、本発明のアミロマルターゼは、実質的に加水分解反応を触媒せず、サイクロアミロースを生産するための酵素として非常に適していることが明らかである。【0108】反応6時間目のサンプルをグルコアミラーゼ消化して、未反応の非環状アミロースをグルコースに分解した後、サイクロアミロースをエタノール沈殿して精製した。このようにして得られたサイクロアミロースをダイオネクス社製の糖分析システム(送液システム:DX300、検出器:PAD-2、分析カラム:CarboPacPA100)により分析した。溶出は、流速:1ml/分、NaOH濃度:150mM、酢酸ナトリウム濃度:0分-50mM、2分-50mM、37分-350mM(Gradient curve NO.3)、45分-850mM(Gradient curve No.7)、47分-850mMの条件で行った。【0109】図9に示すように、精製されたサイクロアミロースは、重合度21以上の混合物であった。なおサイクロアミロースの重合度は、重合度23から26のサイクロアミローススタンダード(Takahaら、J.Biol.Chem. vol.271, pp.2902-2908, (1996))の溶出位置より決定した。【0110】(B)分岐型環状グルカンの生産(B1)本発明のアミロマルターゼを用いた分岐型環状グルカンの生産2gのワキシーコーンスターチ(三和澱粉工業(株))を400mlの10mMクエン酸緩衝液(pH7.0)に加熱溶解させた後、実施例6で得られた酵素を、10単位添加し、70℃で6時間反応させた。【0111】反応液を100℃で10分間加熱して酵素を失活させた後、遠心分離により変性タンパク質を除去した。上清に10倍量のエタノールを添加してグルカンを沈殿させた。次いで、得られた沈殿を凍結乾燥して環状グルカンを含む1.8gの粉末を得た。この粉末をゲル濾過クロマトグラフィーで分析した。粉末状の沈澱20mgを1mlの100mM塩化ナトリウム水溶液に溶解して、そのうち250μlをSuperose6(φ1cm×30cm、ファルマシア製)とSuperdex30(φ1cm×30cm、ファルマシア製)とを連結したカラムに、ロードした。【0112】このカラムを、100mM塩化ナトリウム水溶液を用いて溶出した。図10に示すように、この溶出条件でアミロペクチンはボイドボリュームに溶出された。一方、アミロマルターゼの反応により低分子化された生成物では、平均分子量が30,000であるピークIおよび平均分子量が3000であるピークIIの2種類の画分が示された。ピークIIは、主としてα-1,4-グルコシド結合のみを有する環状グルカンであった。一方、ピークIは、α-1,6-グルコシド結合を有する分岐型環状グルカンであった。このクロマトグラフィー手順を4回繰り返してピークIの画分を分取し、これに10倍容量のエタノールを加えて分岐型環状グルカンを沈澱させた。沈澱を、遠心分離して回収した後に、凍結乾燥した。このようにして分岐型環状グルカン15mgを得た。なお、環状グルカンの分子量は、酵素合成アミロース(中埜酢店製)をスタンダードとして用いて算出した。【0113】(B2)ピークIのグルカン中のα-1,6-結合の定量上記(B1)で得られたピークIのグルカンが、α-1,6-結合を有することを以下の方法により証明した。グルカン中のα-1,6-結合は、枝切り酵素(EC. 3.2.1.68およびEC. 3.2.1.41)により選択的に加水分解される。この際に生じる還元力の増加を測定することにより、グルカン中のα-1,6-結合を定量することが可能である。これは、当該分野において慣用的な方法である。上記(B1)で得られたピークIの画分の1mgを1mlの10mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH 5.5)に溶解し、そして十分な量の枝切り酵素を作用させた。加熱により反応を停止した後、還元力の増加および全糖量を測定した。この結果、(B1)で得られたピークIのグルカンは、約7%のα-1,6-結合を有することが示された。【0114】(B3)ピークIのグルカン中の環状構造部分の解析上記(B1)で得られたピークIのグルカンが環状構造を有していること、およびこのグルカン中の環状構造部分の構造を以下の方法で解析した。【0115】グルコアミラーゼは、デンプンなどのグルカンの非還元末端から順次α-1,4-グルコシド結合を加水分解する酵素である。速度は遅いが、非還元末端からα-1,6-グルコシド結合をも加水分解し得ることが知られている。図11に示すように、環状構造を有しないアミロース(1)およびアミロペクチン(3)は、グルコアミラーゼにより完全にグルコース(6)にまで分解される。しかし、分子内に環状構造を有するグルカン(4)および(2)は、その非環状構造部分のみがグルコアミラーゼにより分解され、その環状構造部分は、グルコアミラーゼによって分解されない物質(以下、グルコアミラーゼ耐性成分という)として残る。さらに、このグルコアミラーゼ耐性成分は、枝切り酵素に対する感受性によって、内分岐型環状グルカン(5)と環状α-1,4-グルカン(2)とに分類することができる。すなわち、枝切り酵素とグルコアミラーゼとを併せて使用した場合に分解されないグルコアミラーゼ耐性成分は、環状α-1,4-グルカン(2)であると考えられる。この環状α-1,4-グルカン(2)は、エンド型α−アミラーゼとグルコアミラーゼとを併わせて使用することにより、完全にグルコースまで分解され得る。一方、枝切り酵素とグルコアミラーゼとを併わせて使用することによって分解されるグルコアミラーゼ耐性成分は、内分岐型環状グルカン(5)であると考えられる。【0116】以上の方法を用いて、(B1)で得られた分岐型環状グルカン(ピークIの画分)およびコントロールとしてのアミロペクチンについて、それぞれ環状構造の解析を行った。【0117】分岐型環状グルカン10mg((B1)で得られたもの)およびアミロペクチン10mgを、それぞれ1mlのDMSOに溶解した後、8mlの100mMの酢酸ナトリウム緩衝液を用いて、すばやく希釈した。この希釈液を900μlずつ4本のチューブに分注した。次いで、それぞれのチューブに(i)蒸留水、(ii)グルコアミラーゼ液、(iii)枝切り酵素とグルコアミラーゼとの混合液、および(iv)エンド型α−アミラーゼとグルコアミラーゼとの混合液を、それぞれ、100μl加えて40℃にて4時間反応させた。反応終了後、生成したグルコースを市販のグルコース定量キット(和光純薬)を用いて測定した。そして、試料グルカン中の非環状構造部分、α-1,4-結合のみを有する環状構造部分およびα-1,6-結合を有する環状構造部分を、それぞれ、以下の計算式により求めた。【0118】【数1】ここで、c、x、y、およびzはそれぞれ、(i)、(ii)、(iii)、および(iv)の反応液から生じたグルコース量である。結果を表1に示す。【0119】【表1】上記の分岐型環状グルカンは、その環状構造部分に少なくとも1個のα-1,6-グルコシド結合を含む内分岐型環状グルカン構造を含むことが示された。【0120】(実施例8:本発明のアミロマルターゼの食品への利用)鍋に、90gの市販のワラビモチ粉(主成分:甘藷デンプン、製造業者:山本貢資商店)と360mlの水とを十分に混合した。絶えず撹拌しながら鍋を火にかけ、ワラビ粉が透明なモチ状になった時点で鍋を火から下ろし、そのまま撹拌を続けた。鍋の温度が80℃程度にまで下がった時点で、200単位の実施例6で得られた酵素を加え、その後15分間、70℃程度で撹拌を続けた。このようにしてできたモチを平らな容器に流し入れ、そして冷蔵庫で冷やしてワラビモチを作製した。コントロールとして酵素を添加しないワラビモチを同様に作製した。【0121】得られたワラビモチ1gを、それぞれ、20mlの水に加熱溶解してデンプンを抽出した。抽出したデンプンを実施例7の(B1)に記載と同様の方法を用いて、ゲル濾過クロマトグラフ分析した。結果を図12に示す。酵素を添加したワラビモチのデンプンは、環状化反応により低分子化されたことが示される。【0122】さらに、実施例7と同様の実験を行い、この低分子化されたグルカンが、環状構造を有することを確認した。【0123】【発明の効果】本発明の酵素は、今までに発見された中で、環状グルカンを生産するため、および食品を改質するために特に優れた性質を有するアミロマルターゼである。前述の実施例で示されるように、当該酵素は、反応至適温度が65〜70℃であり、80℃でも十分に使用し得る。また当該酵素は、α-グルカンの環状化後、100℃で15分間加熱することにより容易に失活されるため、逆反応を防止し得る。従って、環状グルカンを生産するにおいては、反応温度が低いために生じる雑菌の汚染およびα-グルカンの老化、生成物の加水分解、ならびに逆反応に伴う問題を克服し、環状グルカンを効率よく製造することが可能となった。また、食品の改質においては、食品の加熱調理前または加熱調理直後に酵素を添加して、食品中のデンプンを低分子化して環状グルカンを生成することが可能になった。【0124】【配列表】【0125】【図面の簡単な説明】【図1】アミロマルターゼを用いたサイクロアミロースの生産工程を示す模式図である。【図2】精製した本発明のアミロマルターゼをSDSポリアクリルアミド電気泳動した結果を示す写真である。【図3】本発明のアミロマルターゼの反応至適温度を示したグラフである。【図4】本発明のアミロマルターゼの至適pHを示したグラフである。【図5】本発明のアミロマルターゼの耐熱性を示したグラフである。緩衝液A中で、示した温度にて10分間加熱した後の残存活性を示す。【図6】本発明のアミロマルターゼの重合度不均化反応の触媒活性を示す薄層クロマトグラフィーの結果を示す写真である。【図7】アミロマルターゼ発現ベクターの作製工程を示す模式図である。【図8】本発明のアミロマルターゼおよび大腸菌由来のアミロマルターゼを用い、アミロースからのサイクロアミロースの生産を経時的に定量したグラフである。【図9】本発明のアミロマルターゼを用いて生産されたサイクロアミロースをダイオネクス社製の糖分析システムにより分析した結果を示すグラフである。【図10】本発明のアミロマルターゼを作用させる前、および作用させた後のワキシーコーンスターチのゲル濾過による溶出パターンを示すグラフである。【図11】実施例7の(B3)における、環状グルカンの構造を解析する過程を示す模式図である。【図12】酵素を添加したワラビモチ(B)において、環状グルカンが生産されたことを示すグラフである。コントロールとして、酵素を添加しないワラビモチを用いた(A)。【符号の説明】1 アミロース2 環状α-1,4-グルカン3 アミロペクチン4 外分岐型環状グルカン5 内分岐型環状グルカン6 グルコース 以下の性質を有するThermus flavus由来のアミロマルターゼ: 1)作用:α-グルカンを基質として、分子内転移反応により環状グルカンを生成する; 2)反応至適温度:65℃から70℃; 3)耐熱性:60℃で10分間以上活性を維持し、かつ100℃で15分間で失活する; 4)反応至適pH:pH5.5;および 5)分子量:SDS-PAGEにおける移動度から求めて57,000。 Thermus flavus ATCC 33923由来である、請求項1に記載のアミロマルターゼ。 以下の(a)または(b)のアミロマルターゼ:(a)配列表の配列番号1の1位のMetから500位のLeuまでのアミノ酸配列を有するアミロマルターゼ;または(b)配列表の配列番号2に記載の塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、耐熱性であるアミロマルターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAによってコードされるアミロマルターゼ。 以下の(a)のアミロマルターゼをコードする遺伝子:(a)配列表の配列番号1の1位のMetから500位のLeuまでのアミノ酸配列を有するアミロマルターゼ。 以下の(a)または(b)のDNAからなるアミロマルターゼ遺伝子:(a)配列表の配列番号2に記載の塩基配列を有するDNA;または(b)塩基配列(a)を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、耐熱性であるアミロマルターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。 請求項4または5に記載の耐熱性アミロマルターゼ遺伝子を含有する発現ベクター。 請求項6に記載の発現ベクターで形質転換された微生物。 請求項7に記載の形質転換された微生物を培養する工程、および該培養により生産されたアミロマルターゼを回収および精製する工程を含む、アミロマルターゼの製造方法。 請求項8に記載の方法によって製造されるアミロマルターゼ。 請求項1から3および9のいずれかの項に記載のアミロマルターゼを用いてα-グルカンを環状化する工程、および該環状グルカンを回収および精製する工程を含む、環状グルカンの製造方法。 前記環状グルカンが、環状α-1,4-グルカンを含む、請求項10に記載の方法。 前記環状グルカンが、分岐型環状グルカンを含む、請求項10に記載の方法。 前記環状化する工程において、枝つくり酵素をさらに用いる、請求項10に記載の方法。 請求項1から3および9のいずれかの項に記載のアミロマルターゼを食品素材に、該素材の加熱処理前または加熱処理直後に添加する工程であって、ここで該アミロマルターゼが該食品素材中のデンプンから環状グルカンを生成する工程、を含む、食品の製造方法。 前記食品が、米飯類、和菓子、スナック菓子類、ベーカリー類、麺類、餃子およびシュウマイの皮、水産練り商品、冷凍もしくは冷蔵流通の加工食品、離乳食、ベビーフード、ペットフード、動物用飼料、飲料、スポーツ食品、ならびに栄養補助食品からなる群より選択される、請求項14に記載の方法。 前記食品が和菓子である、請求項15に記載の方法。 請求項1から3および9のいずれかの項に記載のアミロマルターゼを含有することを特徴とする、食品素材、食品添加物、および食品改質剤。