タイトル: | 特許公報(B2)_超音波顕微鏡によるLSAW伝搬特性測定方法 |
出願番号: | 1998065417 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | G01N 29/06,G01N 29/00 |
櫛引 淳一 大橋 雄二 JP 3898329 特許公報(B2) 20070105 1998065417 19980316 超音波顕微鏡によるLSAW伝搬特性測定方法 櫛引 淳一 592227058 中尾 直樹 100121706 中村 幸雄 100128705 草野 卓 100066153 稲垣 稔 100100642 櫛引 淳一 大橋 雄二 20070328 G01N 29/06 20060101AFI20070308BHJP G01N 29/00 20060101ALI20070308BHJP JPG01N29/20 501G01N29/18 G01N 29/00-29/52 JSTPlus(JDream2) JST7580(JDream2) 特開平06−011385(JP,A) 特許第2524946(JP,B2) 櫛引淳一 他,直線集束ビーム超音波顕微鏡による材料評価法における試料裏面反射波の影響−試料厚さに関する検討−,日本音響学会平成9年度春期研究発表会講演論文集II,1997年 3月17日,pp.1035-1036 6 1999258216 19990924 11 20050303 田中 洋介 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、超音波顕微鏡を用いて薄い試料の音響特性、すなわちLSAWの伝搬速度の測定方法に関するものである。【0002】【従来の技術】新しい物質・材料特性の解析・評価技術として超音波顕微鏡が開発されている。超音波顕微鏡による計測法には、画像計測法と定量計測法がある。定量計測法においてはV(z)曲線解析法が使われ、試料表面に励起されるLSAWの伝搬特性(音速、伝搬減衰)が計測される。この計測のためには、点集束超音波ビーム(PFB)と直線集束超音波ビーム(LFB)が使用できる。ここでは、定量計測専用のLFB超音波顕微鏡(参考文献1参照)を取り上げて説明する。図1は、その基本原理であるLFB超音波デバイス(超音波トランスジューサ1と音響レンズ3を形成したロッド2を指す)と試料系の断面図を示す。座標軸は焦点6を原点として図に示すようにとる。【0003】超音波トランスジューサ1により励振された平面超音波は、半円筒形に形成された音響レンズ3の開口面によってくさび状に集束され、液体音場媒体である水4を介して試料5の表面に照射される。このとき、臨界角θLSAWで入射した超音波は、試料表面にLSAWを励振する。LSAWはθLSAWの角度で水中に縦波を再放射しながら伝搬する。試料5からの反射超音波は再び水4及び音響レンズ3を介してトランスジューサ1へ戻るが、試料が焦点6にある状態からLFB超音波デバイスを試料側へ近付けると(この操作をデフォーカスと呼ぶ)トランスジューサ出力に実効的に寄与する成分は、従来の測定モデルから近似的に図1に示す#0と#1の経路をとる2つの成分のみとなる。#0の経路をとる成分は試料表面からの直接反射成分であり、一方、#1の経路をとる成分はLSAWの伝搬特性を含む成分である。デフォーカスを行なうことによりトランスジューサ出力として、V(z)曲線と呼ばれる上記の2つの成分の干渉波形が得られる(図2参照)。V(z)曲線のディップの周期ΔzをV(z)曲線解析法に基づいて求めることにより、LSAWの位相速度VLSAWは式(1)から求まる。【0004】VLSAW=VW/√{1-(1-VW/2fΔz)2} (1)ここで、VWは水中の縦波音速、fは超音波周波数である。実際の測定において、トランスジューサには電気信号として高周波バーストパルスを入力し、その入力信号をトランスジューサにより超音波に変換し、水を介して試料に照射させる。200MHz帯用として曲率半径1mmの円筒レンズが用いられており、通常はパルス幅をおよそ500nsec 、パルスの繰り返し周波数を20kHz 程度としている。電気端やレンズ開口面や試料等からの反射信号のうち、試料からの反射信号のみを高周波ゲート回路により抽出して信号処理を行なう。図1の#0’の経路を伝搬する裏面から反射波成分について考えると、パルス信号を使用しているので、試料が十分厚い場合、ゲート回路により例えば図3Aに示すようにゲート期間PG の間だけ信号を抽出することにより、試料表面からの反射波31に対し試料裏面からの反射波32は完全に分離できるが、試料が薄い場合には図3Bに示すように分離できなくなる。【0005】試料の裏面からの反射波(以下、裏面反射波とする)が検波信号に含まれるような薄い試料に対して、超音波周波数を変化させてLSAW速度を測定すると、図4Bの太実線に示すように周期的な変化が現われる。この周期ΔFは試料厚さh、及び試料中のバルク縦波音速VL に依存しており、式(2)により表される。ΔF=VL/2h (2)このことから分かるように、裏面反射波の影響により超音波周波数や試料厚さに依存して、測定値に誤差が含まれてしまうという問題があった。しかし、この裏面反射波の影響による測定誤差、即ち速度変化は、VLSAW(f, h) が図4Bの太実線のような周期性をもつことから、測定したLSAW速度の周波数特性に対しΔFの周期で移動平均を行なうことで除去できることがわかっている(文献2参照)。【0006】【発明が解決しようとする課題】LFB超音波顕微鏡装置は、微視的領域の音響特性を試料面上の広範囲にわたって測定が行なえるという特徴を有する。しかし、例えばウェハのように薄くて大口径の試料に対して音響特性の面内不均一の評価を行なう場合、前記のように各測定点においてLSAW速度の周波数特性を測定し、その移動平均を行なって各点の真値を求める方法では非常に多くの時間を要し、迅速かつ正確な測定が行なえないという欠点があった。一般的に試料の厚さには分布があり、従って裏面反射波の影響による測定誤差の大きさは各測定点で異なるため、前記以外の方法で真値を得ることが困難であった。【0007】本発明の目的は、測定時間の短縮ができ、効率よくLSAW伝搬速度を測定する方法を提供することである。【0008】【課題を解決するための手段】試料面上のある1点におけるLSAW速度の周波数特性をもとにして作成した換算曲線と、他の測定点における2つの周波数での測定値の差分との対応関係から、各測定点での裏面反射波の影響による測定LSAW速度変化を見積もり、測定値を補正する。【0009】【発明の実施の形態】図4Aに示すような凹面形状の厚さ分布のある試料に対するLSAW速度の測定値を補正する場合について説明する。まず試料の音響特性が均一であると仮定する。厚さh0 の試料面上の測定点P0 を選び、その点においてLSAW速度の周波数特性を測定する。このとき、裏面反射波の影響により図4Bの太実線のような周波数特性VLSAW(f,h0) が得られたとする。実際の測定では、更に超音波デバイスの周波数特性による測定値の変化が含まれるが、簡単のためここでは省いて説明する。図4Bの太実線に対し周期ΔFで移動平均をとると、測定点P0 におけるLSAW速度の真値VLSAW (点線)が求まる。ここで、試料面上の他の任意の測定点をPa とし、測定点P0 より測定点Pa の厚さが微少量Δh(Δh<<h0)だけ厚いとすると、測定点Pa における周波数特性VLSAW(f, h0+Δh)は、図4Bの細実線で示すように厚さh0 における周波数特性(太実線)をΔfシフトさせたものとなり、次式(3)のような関係がある。【0010】VLSAW(f, h0+Δh)= VLSAW(f+Δf, h0) (3)図4Bにおいて、周波数fにおける太実線、細実線それぞれのLSAW速度の測定値に注目すると、厚さΔhの差により、ΔV'LSAW=VLSAW(f+Δf, h0)-VLSAW(f, h0)の差が生じることがわかる。よって、厚さΔhの差と等価な周波数差Δfは、図4Bの太実線において次式(4)を満たす周波数を求めることにより得られる。【0011】VLSAW(f+Δf, h0)= VLSAW(f, h0) + ΔV'LSAW (4)即ち、周波数fと試料の厚さhの積が一定であるとした次式(5)の関係を満たす周波数変化Δfを求めることに相当する。(h0+Δh)f=h0(f+Δf) (5)従って、厚さh0の試料に対する周波数f+Δfにおける音速の測定値と真値VLSAWとの音速差をΔVLSAW(f+Δf, h0)= VLSAW(f+Δf, h0)−VLSAW (6)とおくと、式(3)を式(6)に代入してえられる次式(7)により測定点Pa における真値を求めることができる。【0012】VLSAW= VLSAW(f, h0+Δh)−ΔVLSAW(f+Δf, h0) (7)つまり、測定点P0 におけるLSAW速度の周波数特性と移動平均により得られた真値を利用することによって、他の任意の測定点においてLSAW速度の周波数特性を測定することなく裏面反射波の影響を補正することができることになる。次に、試料の音響特性に不均一がある一般的な場合について考える。このとき、任意の測定点Pa におけるLSAW速度の真値VLSAWaは測定点P0 における真値VLSAW と異なるため、図4Bの細実線VLSAW(f, h0+Δh)は上下にもシフトすることになる。そこで、2つの周波数における音速変化の差を利用することにより、LSAW速度に分布がある場合でも適用可能となる測定方法の手順を以下に示す。【0013】まず、前述したように、図4Aの試料に対し試料面上の基準測定点P0 (ここでは最も薄い点と仮定する)で測定したLSAW速度の周波数特性(図4Bの太実線)から、真値VLSAW (図4Bの点線)を差し引き、測定点P0 において周波数fを変化させたときの裏面反射波の影響による音速変化ΔVLSAW(f, h0)を求める。結果を図5Aに示す。ここで、図5Aに示すように例えば速度変化ΔVLSAW(f, h0)がそれぞれ最小、最大となる周波数f1、f2を選択し、Δf12=f2-f1 とする。厚さh=h0+Δhの任意の測定点Pa において、周波数f1、f2でLSAW速度を測定すると、測定値はそれぞれ次式(8)、(9)のように表される。【0014】VLSAW(f1, h)= VLSAWa + ΔVLSAW(f1, h) (8)VLSAW(f2, h)= VLSAWa + ΔVLSAW(f2, h) (9)ここで、VLSAWaは測定点Pa での真値を表し、ΔVLSAW(f1, h)、ΔVLSAW(f2, h)は裏面反射波の影響による真値からのLSAW速度変化を表す。式(8)から式(9)を引くことにより、f1、f2における裏面反射波の影響による音速変化分の差ΔV(Δf, h) が次式(10)のように得られる。【0015】次に、音速変化の差分ΔV(Δf, h0)と周波数変化Δfの関係を求めるために、図5Aの曲線から次式(11)により図5Bに示す換算曲線を求める。ΔV(Δf, h0)=ΔVLSAW(f1+Δf, h0)−ΔVLSAW(f2+Δf, h0) (11)ただし、0 ≦Δf ≦Δf12 (12)ここで、図5Bの曲線は単調増加関数となっており、ΔV(Δf, h0)とΔfの間に1対1の対応関係が成立する。厚さhでのVLSAW(f, h) は図4Bに示した厚さh0 でのVLSAW(f, h0)の周波数特性波形をそのまま周波数軸方向及び速度軸方向にずらした波形となるので、式(10)と式(11)を比較すると、図5Bの換算曲線からΔV(Δf, h)=ΔV(Δf, h0)となるΔf=Δfcを求めることにより、厚さがΔh異なることと等価な周波数変化Δfcが求められることがわかる。即ち、測定点Pa で周波数f1とf2でそれぞれ音速VLSAW(f1, h)及びVLSAW(f2, h)を測定して式(10)よりΔV(Δf, h) を求め、図5Bから対応するΔfcが決定される。これより図5Aを利用して、任意の測定点Pa におけるΔVLSAW(f1, h)及びΔVLSAW(f2, h)に対応する測定点P0 におけるΔVLSAW(f1+Δfc, h0)及びΔVLSAW(f2+Δfc, h0)が求まるので、式(8),(9)から任意の測定点Pa での真値VLSAWaが次式(13)のように求められる。【0016】以上、本発明の測定手順を示した。ここでは、簡単のために2つの周波数f1、f2を図5Aにおいてそれぞれ最小、最大となるように選択したが、換算曲線における1対1の対応がつく範囲ならばどの周波数を選択してもよい。例えば図5Aの音速変化ΔVLSAW(f, h0)の曲線において、周波数f1とf2を互いに逆勾配の単調変化領域内、例えば極小値から周波数fと共に増加して極大値までの周波数領域と、その極大値から減少して次の極小値までの周波数領域とからそれぞれ任意に選択すれば、図5Bの換算曲線は必ず単調関数となる。実際に例えばf2をΔVLSAW(f, h0)の極大値を与える周波数近傍(ただし、極大値を与える周波数より大)に選べば、極小値近傍でのΔVLSAW(f, h0)の変化率が極大値近傍でのそれより小さいため、例えばf1を図5Aに示す速度変化曲線の極小値を与える周波数より多少低く選択しても換算曲線は単調関数となる。【0017】換算曲線の単調増加の関係を保ちつつ、式(12)に示すΔfの範囲が最大になるようにf1、f2(f1<f2) を選択したとき、本手法において測定可能な試料の厚さ分布の最大値Δhmaxは、試料中のバルク縦波音速をVLとして次式(14)で与えられる。厚さ分布がΔhmaxを越える場合は、Δhmaxを越えない範囲に測定領域を分割し、それぞれの領域内で測定基準点を決め分割領域毎に測定を行えばよい。【0018】Δhmax=(VL/2f2)(Δf12/ΔF) (14)実施例以上、この発明による測定方法の原理を基準測定点P0 に対し任意の測定点Pa での真値VLSAWaを求める場合について説明したが、実際の測定においては試料面上の所望の直線(例えば直径)に沿って一定間隔でVLSAW を測定する場合の手順を具体例で以下に説明する。【0019】ステップS1: 試料は3インチの両面光学研磨されたZカットのLiNbO3ウェハで、中央部の厚さが約 377μm、周辺部の厚さが約381〜382μmと厚さに分布があり、ちょうど図4Aのような形状をしている。試料面上で最も薄いと予想される中央の点(原点P0 とし、厚さをh0 とする)において、結晶Y軸方向伝搬のLSAW速度の周波数特性を、200〜240MHz の範囲で0.2MHzごとに測定した。結果を図6Aに実線で示す。この曲線は図4Bにおける太実線の曲線に対応する。図中の点線は、実線の測定値に対してΔF=9.6MHzの周期で2回の移動平均を行なった結果であり、裏面反射波の影響による測定誤差を除去したものである。周波数によって得られる値が異なっているが、これは超音波デバイスの周波数特性と考えられる。【0020】ステップS2: 図6Aの実線から点線を差し引くことにより、裏面反射波の影響による音速変化ΔVLSAW(f, h0)を求めた結果を図6Bに示す。この曲線は図5Aの曲線に対応する。ここで、図6Bにおいて周波数f1、f2を、予想される厚さの最大変化約5μmの変化による誤差を補正できることと、測定点P0 が必ずしも試料の最も薄い場所ではないということを考慮して、f1=220.4MHz、f2=224.6MHzとした。【0021】ステップS3: ウェハ直径上において、周波数f1、f2でのY軸伝搬のLSAW速度VLSAW(f1, h),VLSAW(f2, h)の分布を、測定点P0 を通る直線に沿って1mmごとに±30mmの範囲で測定した。結果を図7Aに示す。LSAW速度のプロファイルはf1、f2で異なるが、この原因は主に裏面反射波の影響によるものである。また、それぞれの測定値には図6Aの点線に示されるように、超音波デバイスの周波数特性による音速変化が含まれている。【0022】ステップS4: f1、f2における裏面反射波の影響による音速変化分の差ΔV(Δf, h)を求めるために、図7Aの実線から点線を差し引き、更に図6Aに示す音速シフト分ΔVf12を差し引く。結果を図7Bに示す。ステップS5: 次に、図6BからΔV(Δf, h0)と周波数変化Δfの関係を示す換算曲線を式(11)により求める。ただし、Δfの範囲は次式(15)を満たすものとする。【0023】-(f2-fm) ≦Δf ≦ (fm-f1) (15)図8Aに求めた換算曲線を示す。ここで、図6BのΔVLSAW(Δf, h0)が最大となる周波数がfm=224.2MHzであるので、-0.4MHz≦Δf≦3.8MHzである。ステップS6: 図7Bの音速変化の差分ΔV(Δf, h) と、図8Aの換算曲線からΔV(Δf, h)=ΔV(Δf, h0) となるΔf=Δfcを各測定点に対して求めることにより、厚さがΔh 異なることと等価な周波数の変化Δf を見積もることができる。結果を図8Bに示す。なお、換算曲線においてデータのない部分は前後のデータを用いて直線補間した。【0024】ステップS7: 図8Bより、f1、f2における各測定点の裏面反射波の影響による音速変化は、それぞれ図6BからΔVLSAW(f1+Δfc, h0)及びΔVLSAW(f2+Δfc, h0)として求められる。f1、f2に対して求めた裏面反射波の影響による音速変化曲線をそれぞれ図9Aに実線、点線で示す。図9Aより、裏面反射波による音速変化ΔVLSAW(f+Δfc, h0) は最大で4.82m/s であることがわかる。【0025】ステップS8: 図7Aに示したLSAW速度の測定値から、図9Aの音速変化をそれぞれ差し引くことにより、裏面反射波により生じた誤差を補正する。f1、f2に対する補正後の結果をそれぞれ図9Bに実線、点線で示す。図9Bの補正結果はf1とf2で絶対値が異なっているが、これは前述した超音波デバイスの周波数特性によるものであり、相対的な音速分布を調べる上では問題にならない。絶対値が必要な場合は、標準試料を用いた絶対校正法(文献3参照)により絶対値を得ることができる。【0026】ここで絶対校正法について簡単に説明する。まず、標準試料(例えばGGG単結晶)に対し実際に測定した弾性定数より計算したLSAW速度の理論値を求める。このときのV(z)曲線の干渉周期Δz(図2参照)に相当する値をΔzST(calc.) とする。次に、同じ標準試料に対してLFB超音波顕微鏡システムでLSAW速度を測定し、その時のΔzに相当する値をΔzST(meas.) とする。この両者の比をとることで次式(16)に示す校正係数が決定する。【0027】K(V)=ΔzST(calc.)/ΔzST(meas.) (16)後は、実際の試料に対して測定されたLSAW速度(図9Bの実線及び点線)のΔzに相当する値、Δz(measured)に対し、それぞれ次式(17)に示すように校正係数K(V)を掛けて、得られたΔz(calibrated)を式(1)に代入することでLSAW速度の絶対値が得られる。【0028】Δz(calibrated)=K(V)Δz(measured) (17)図9Bの測定結果が正しく測定されているか確認するため、試料の測定ライン上の0、±15、±30mmの位置でそれぞれLSAW速度の周波数特性を測定し、その移動平均を行なった結果を、f1、f2に対して図9Bにそれぞれ○、□で表す。この結果と先に得られた測定結果とは、±0.5m/s以内でよく一致している。このことから、本手法による補正によって裏面反射波の影響による測定誤差を十分除去できていることがわかる。【0029】以上、この発明によるLSAW伝搬特性の測定方法を説明した。上記では簡便な例として、測定対象である薄い試料に対するLSAW速度の周波数特性の移動平均値を用いて、超音波デバイスの周波数特性を除去する手順を示したが、その他の方法として次のようなことが考えられる。測定試料と同種で、裏面反射波の影響がない厚い試料を準備し、その試料に対してLSAW速度の周波数特性を測定すれば、それがそのまま超音波デバイスの周波数特性として得られ、移動平均を使った上記測定方法と同様に測定が行える。この場合、移動平均値を用いるよりも正確な超音波デバイスの周波数特性が得られ、測定精度が向上すると考えられる。あるいは、準備する厚い試料を標準試料(例えばGGG単結晶)としても同様な超音波デバイスの周波数特性が得られると考えられる。ただし、絶対値に関しては前述した絶対値校正法により校正されるものである。【0030】【発明の効果】以上述べたようにこの発明によれば、試料の厚さ分布を直接測定することを必要とせず、試料上のある1点についてのみLSAW速度の周波数特性の測定を行ない、他の測定点は2つの周波数で測定を行なうだけ、すなわち各点で2回の測定を行なうだけで各測定点の真値を得ることができ、測定点が多ければ多いほど、測定時間の大幅な短縮が実現できる。また、PFB超音波顕微鏡を用いた場合も同様な手順で、同様な効果が得られる。【0031】なお、この発明では上述したように薄い試料におけるLSAW伝搬特性の分布を効率よく測定できるが、もし、試料のLASW伝搬特性の分布が均一であると仮定できる場合は、逆に試料の厚さの分布が測定できる。例えば式(5)から任意の測定点Pa での試料の厚さはh=h0+Δh=h0(1+Δf/f)と表せるので、Δf として図8Bに示した各測定点Pa に対応するΔfcを与え、fとしてf1又はf2を与えることにより測定点Pa での試料の厚さhを基準位置P0 での厚さh0に対する割合として計算できる。基準位置P0 での厚さh0は、例えば測定した周波数特性ΔF及び試料中の縦波音速VLの測定値又は理論値を用いて式(2)から計算することができる。【図面の簡単な説明】【図1】LFB超音波顕微鏡の測定原理を説明する図。【図2】 V(z)曲線を示す図。【図3】試料の表面及び裏面からの反射波のタイムチャートを示しており、Aが厚い試料の場合の図、Bが薄い試料の場合の図である。【図4】Aは厚さ分布のある試料形状の例を示した図、Bは薄い試料に対するLSAW速度の周波数特性を示す図である。【図5】Aは裏面反射波の影響による見掛け上の音速変化を示す図、Bは換算曲線を示す図である。【図6】Aは試料上の最も薄い点におけるLSAW速度の周波数特性を示す図、Bは裏面反射波の影響による見掛け上の音速変化を示す図である。【図7】Aは試料の径方向のLSAW速度分布の測定結果を示す図、BはAに示す測定結果の差分を示す図である。【図8】Aは換算曲線を示す図、Bは試料厚さの変化をそれと等価な周波数の変化に見積った結果を示す図である。【図9】Aは見積った補正すべき値の結果を示す図、Bは補正結果を示す図である。(参考文献)(文献1)J. Kushibiki and N. Chubachi, "Material Characterization by Line-Focus-Beam Acoustic Microscope," IEEE Trans. Sonics and Ultrason., vol.SU-32, pp. 189-212 (1985).(文献2)櫛引、荒川、大橋、"直線集束ビーム超音波顕微鏡による材料評価法における試料裏面反射波の影響--試料厚さに関する検討--"、日本音響学会春季講演論文集、pp.1035-1036、平成9年3月.(文献3)J. Kushibiki and M. Arakawa, "A Method for Calibrating theLine-Focus-Beam Acoustic Microscopy System.", IEEE Trans. UFFC., vol. 45, no. 2,March(1998), in press. 超音波顕微鏡により、薄い試料に対して試料表面を伝搬する漏洩弾性表面波(LSAW)の伝搬特性を測定する方法において、 (a) 上記試料面上の基準点におけるLSAW速度の周波数特性を測定し、上記周波数特性から上記試料の裏面からの反射の影響によるLSAW速度変化の周波数特性を得て、 (b) 上記基準点における一定差の2つの周波数での上記LSAW速度変化の差分を換算曲線として上記2つの周波数の変化に対して求め、 (c) 上記試料面上の複数の任意の各点で上記一定差の2つの周波数でのLSAW速度をそれぞれ測定し、それらの差分値を求め、 (d) 上記換算曲線により、上記各点での差分値に対応する速度変化を見積もり、それによって上記各点で測定したLSAW速度を補正する。 請求項1のLSAW伝搬特性測定方法において、上記基準点及び任意の点での上記試料の厚さをそれぞれh0及びh と表すと、 上記ステップ(a) は、 (a-1) 上記試料上の基準点においてLSAW速度VLSAW(f, h0)を各周波数fに対して測定し、 (a-2) 上記基準点における各周波数での上記試料の裏面反射によるLSAW速度変化ΔVLSAW(f, h0)を上記速度変化の周波数特性として得て、 上記ステップ(b) は、 (b-1) 2つの周波数f1とf2を上記LSAW速度変化の互いに逆勾配のほぼ単調変化領域内でそれぞれ選択し、 (b-2) 上記ステップ(a-2) で得た上記LSAW速度変化ΔVLSAW(f, h0)から上記2つの周波数f1とf2をそれぞれΔfずらした場合の速度変化ΔVLSAW(f1+Δf, h0)とΔVLSAW(f2+Δf, h0)の差分ΔV(Δf, h0)を換算曲線として求め、 上記ステップ(c) は (c-1) 上記試料上の上記任意の各点において上記2つの周波数f1とf2でLSAW速度VLSAW(f1, h)とVLSAW(f2, h)を測定し、 (c-2) 上記任意の各点での2つのLSAW速度VLSAW(f1, h)とVLSAW(f2, h)の差分ΔV(Δf, h) をその点での速度変化差分として求め、その速度変化差分に対応する上記基準点での周波数変化Δfcを上記換算曲線から求め、 上記ステップ(d) は、 (d-1) 上記任意の各点での上記2つの周波数f1とf2における上記裏面反射による速度変化を換算速度変化ΔVLSAW(f1+Δfc, h0)とΔVLSAW(f2+Δfc, h0)として上記周波数変化Δfcと上記基準点における上記速度変化ΔVLSAW(f, h0)の周波数特性から求め、 (d-2) 上記ステップ(c-1) で求めた上記任意の各点における上記2つの周波数f1とf2での上記LSAW速度VLSAW(f1, h)とVLSAW(f2, h)の少なくとも一方から上記ステップ(d-1) で求めた換算速度変化ΔVLSAW(f1+Δfc, h0)とΔVLSAW(f2+Δfc, h0)の対応するものを引き算することによって補正し、その点での速度の真値VLSAWaを得る。 請求項2のLSAW伝搬特性測定方法において、上記ステップ(a-2) は、上記測定したLSAW速度VLSAW(f, h0)の周波数特性を移動平均し、得られた移動平均値を上記LSAW速度の周波数特性から減算して上記測定速度変化の周波数特性を得るステップである。 請求項2又は3のLSAW伝搬特性測定方法において、上記2つの周波数f1とf2は上記LSAW速度変化の曲線がほぼ最小となる周波数と、ほぼ最大となる周波数にそれぞれ選択する。 請求項1乃至4のいずれか記載のLSAW伝搬特性測定方法において、上記LSAW速度の測定は、上記試料の厚さの分布が所定値以内の領域に分割して行う。 請求項1乃至5のいずれか記載のLSAW伝搬特性測定方法において、予め標準試料に対しその弾性定数から計算したLSAW速度の理論値に基づいて得たV(z)曲線の干渉周期Δz(calc.) と、上記標準試料のLSAW速度を上記超音波顕微鏡で測定して得たV(z)曲線の干渉周期Δz(meas.) とから決定した校正係数によって、上記ステップ(a)及び(c)における測定されたLSAW速度を校正するステップを含み、上記LSAW速度としてその校正された値を使用する。