タイトル: | 特許公報(B2)_血液透析データを用いたクレアチニン産生速度の算定方法 |
出願番号: | 1998033618 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | G01N 33/70,A61M 1/14,C07D 233/88 |
新里 徹 JP 3901827 特許公報(B2) 20070112 1998033618 19980130 血液透析データを用いたクレアチニン産生速度の算定方法 新里 徹 591040007 藤野 清也 100090941 新里 徹 20070404 G01N 33/70 20060101AFI20070315BHJP A61M 1/14 20060101ALI20070315BHJP C07D 233/88 20060101ALN20070315BHJP JPG01N33/70A61M1/14 535C07D233/88 G01N 33/70 A61M 1/14 C07D233/88 特表平06−507239(JP,A) 特開平09−019497(JP,A) 1 1999218536 19990810 9 20050114 竹中 靖典 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、血液透析データを用いたクレアチニン産生速度の新規な算定方法に関する。【0002】【従来の技術】クレアチニン産生と大まかな相関があるクレアチニンの尿排泄は筋肉量を反映すると報告されている。最近ケシャビア(Keshaviah)(J. Am. Soc. Nephrol 1994;4:1475−85)らは、透析液中へのクレアチニン排泄量に基づいて決定された血液透析患者のクレアチニン産生速度もまた筋肉量と相関することを示した。体内の総蛋白質の約半分は筋肉を形成しているので、クレアチニン産生速度は蛋白栄養状態の有用な指標となると考えられる。クレアチニン産生速度は透析終了時のクレアチニン濃度と次回の透析前クレアチニン濃度から容易に決定できる。しかしながら、殆ど全ての透析センターに於ける生化学分析用の血液採取は1回の透析の前後に行なわれている。従って、通常の血液採取による分析結果を基に上記方法でクレアチニン産生速度を決定することは不可能であった。【0003】【本発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、上記した従来技術の問題点に鑑み、現在の透析センターに於いて通常行なわれている血液採取方法による分析結果を用いてクレアチニン産生速度を計算できる方法を提供することにある。本発明ではこの方法を用いることによって、透析患者の筋肉量、蛋白栄養状態等に関する有用な指標を提供することにある。【0004】【課題を解決するための手段】本発明者は、実測した透析前クレアチニン濃度と透析後クレアチニン濃度からクレアチニン産生速度を決定するための方程式を開発した。開発にあたって本発明者は、1)患者は月、水、金あるいは火、木、土のどちらか一方の曜日に週に3回の透析治療を受ける、2)残存腎機能は殆ど無い、3)消化管クレアチニンクリアランスは0.04リットル/kg/day一定である、4)透析中の消化管クレアチニンクリアランスは無視できる、5)血清クレアチニン濃度は週の1回目あるいは2回目の透析前後値のみ測定する、6)患者は安定状態にある、7)クレアチニン分布容積(リットル)の理想体重(kg)に対する比率は0.49であるという7つの仮定を加えて本発明の血液透析データを用いたクレアチニン産生速度の算定方法を得るに至った。【0005】すなわち本発明は、式(1)を用いることを特徴とする血液透析データを用いたクレアチニン産生速度の算定方法である。g(24h)=7056Cs/A (1)ここで、g(24h)はクレアチニン産生速度(g/kg/d)、Csは週の1回目あるいは2回目の透析前クレアチニン濃度(mg/dl)、Aは週の1回目の透析については式(2)を、週の2回目の透析については式(3)を用いて求める数値を示す。式(2)及び式(3)において、Tdは透析時間(h)、Ceは週の1回目あるいは2回目の透析後クレアチニン濃度(mg/dl)、Csは前記と同様に週の1回目あるいは2回目の透析前クレアチニン濃度(mg/dl)を示す。【0006】【数3】【0007】【数4】【0008】本発明で示した数式は係数の有効数字を下位の桁まで表示しているが、計算結果として得られる数字の有効数字が2桁まで正確に算出できる範囲で省略してもかまわない。好ましい有効数字は3桁である。【0009】【発明の実施の形態】以下本発明を更に詳細に説明する。本発明に於いてクレアチニン分布容積(リットル)の理想体重(kg)に対する比率は0.49であるが、以下の様にして求めた。本発明者は、次式(4)を用い患者36人の透析リバウンド後のクレアチニン分布容積V(リットル)を測定した。V=(E−Cs・ΔBW)/(Cs−Cr) (4)ここで、Csは透析前クレアチニン濃度(mg/l)、Crは透析後リバウンドクレアチニン濃度(mg/l)、ΔΒWは透析による体重減少量(kg)、Eは透析により透析液中へ除去されたクレアチニン量(mg)である。【0010】本発明に於いて、理想体重IBW(kg)は次式(5)により求めた。IBW=0.9(H−100) (5)ここでHは身長(cm)である。この様にして求めたクレアチニン分布容積の理想体重に対する比率は0.49±0.06(平均値±標準偏差)であり、変動係数は12%であった。【0011】(クレアチニン産生速度の計算)本発明者は1プールモデル、透析尿素動態の可変容積モデルの解析から、クレアチニンクリアランスと透析時間の積をクレアチニン分布容積で除した値(Kt/V)が一定なら安定期透析前クレアチニン濃度Csはクレアチニン産生速度をクレアチニン分布容積で除した値(g/V)に比例することを見出した。Cs=a・g/V (6)なお、クレアチニンのKt/Vをこれ以降単にKt/Vと記載する。【0012】この一次方程式の傾きaはKt/Vの値により、また透析時間により変化する。そこで、0.4から1.1の範囲で、0.05きざみのKt/Vかつ150から330分の範囲で15分きざみの透析時間に対して傾きaを決定した。それぞれのKt/Vにおける傾きaを決定するために、g/Vが4.25×10-5mg/ml/min(≒30mg/kg/day)に於けるCs(mg/dl)をコンピュータを用いて算出し、これを用いてCs・V/g(=a)を計算した。その結果、透析時間が150から330分の範囲では、Kt/Vにかかわらず、Cs・V/gの変動はほとんど認められなかった。【0013】そこで、透析時間240分におけるCs対g/VとKt/Vとの間の相関を決定した。すなわち、Cs対g/VをKt/Vの関数としてプロットし、これをレーベンバーグ(Levenberg)−マークォート(Marquadt)演算法を使い、非線型最小二乗曲線近似法を用いて方程式化した。結果として次式(7)がデータに最も合う式として得られた(r>0.9999)。【0014】【数5】(式中、Cs, g/V, Kt/V は前記と同じ意味で用いられる。以下同様)【0015】次に式(7)Kt/VをCe/CsにおきかえるためにKt/VとCe/Csとの関係を求めた。血液透析中のクレアチニン出納は次の式(8)で表わされることが知られている。【0016】【数6】【0017】式(7)および式(8)から次式(9)が得られる。【0018】【数7】【0019】式中、Tdは透析時間(min)である。【0020】ここで、ln(Ce/Cs)とKt/Vとの関係を図1に示した。図1に示す様に、Tdが一定のとき、式(9)から計算されたCe/Csの対数値、すなわちln(Ce/Cs)とKt/Vとの関係は直線関係であった。そこで、ln(Ce/Cs)とKt/Vとの関係をy=ax+bの形の一次方程式で表現するために、120分から360分の範囲の15分きざみのTdにおいてln(Ce/Cs)の値をKt/Vの二つの値(0.4と1.1)において計算した。ここでxはln(Ce/Cs)であり、yはKt/Vである。このようにして求めたln(Ce/Cs)対Kt/Vの線の傾きaをTdの関数としてプロットすると、aとTdとの関係も直線関係であることがわかった。そこで、Tdとaの回帰式を次式(10)で表わすと(r>0.999)、a=−0.000316Td−0.99925 (10)となった。【0021】同様にln(Ce/Cs)対Kt/Vの直線の切片をTdの関数としてプロットすると、bとTdの関係も直線関係であり、回帰方程式は次式(11)で表わされた(r>0.999)。b= 0.0000611Td−0.0021816 (11)その結果、Kt/Vは次式(12)により表わされる。Kt/V=− (0.000316Td+0.999)ln(Ce/Cs)+(0.0000611Td−0.00219) (12)ここで式(12)より計算されたKt/Vを式(7)に代入し、クレアチニン分布容積が490ml/kgであることを考慮することによって本発明におけるクレアチニン産生速度を求める式が得られる。【0022】(本発明におけるクレアチニン産生速度を求める式のクレアチニン分布容積の変化による補正)ここではクレアチニン分布容積の変化を無視しているので、ここで得られるg/Vは少なめに出る。そこで、もし以下の方法により、体重の変化に対してここで得られたg/Vを補正すればより正確なg/Vが得られる。前の週の3回目の透析−透析間に於けるクレアチニン出納は、クレアチニン分布容積の変化を無視すれば式(13)で表わされ、クレアチニン分布容積の変化を考慮した場合式(14)で表わされる。g・Ti−Ei3=V・Cs1 −V・Ce3 (13)G・Ti−Ei3=(V+ΔV)・Cs1 −V・Ce3 (14)【0023】ここでTiは前の週の第3回目の透析−透析間の長さ(min)、すなわち、前の週の3回目の透析終了時と今週の初回の透析の開始時との間の長さ、Ei3は前の週の第3回目の透析−透析間に於いて消化管で分解されたクレアチニンの量(mg)、Ce3は前の週の3回目の透析終了時のクレアチニン濃度(mg/ml)、Gはクレアチニン分布容積が変数であるクレアチニン動態モデルにおけるクレアチニン産生速度(mg/min)、gはクレアチニン分布容積が定数であるクレアチニン動態モデルにおけるクレアチニン産生速度(mg/min)、Vは分布容積(容積変化のあるモデルにおいては透析終了時の容積)(ml)、ΔVは前の週の3回目の透析と今週の初回の透析との間のクレアチニン分布容積の増加量(ml)である。【0024】式(13)と式(14)よりg/Vを補正するための次式(15)が得られる。【0025】【数8】【0026】ここでIBWは理想体重(kg)、ΔBWは週の初回の透析中の体重減少量(kg)である。【0027】クレアチニン産生速度をクレアチニン分布容積の変化で補正する別の方法に、透析前クレアチニン濃度を予めクレアチニン分布容積の変化で補正しておく方法がある。透析前の体内のクレアチニン量が、透析−透析間に体重増加がない場合とこれがある場合とで等しいなら、以下の式が成り立つ。Cs×V=Cs'(V×ΔV)ただし、Csは体重増加のない場合の透析前クレアチニン濃度、Cs′は体重増加のある場合の透析前クレアチニン濃度、Vはクレアチニン分布容積、ΔVはクレアチニン分布容積の変化量(=体重増加)を示す。【0028】したがって、透析前クレアチニン濃度は次式(16)を用いて補正することができ、このようにして補正された透析前クレアチニン濃度を用いて算出されたクレアチニン産生速度は、すでにクレアチニン分布容積の変化で補正されている。【0029】【数9】【0030】(透析後リバウンドクレアチニン濃度の推定)本発明に於いては、細胞膜のクレアチニン移動抵抗による透析終了時の細胞内外のクレアチニン濃度差の存在を無視している。もしより正確なクレアチニン産生速度を求める場合には、以下の方法で推定した透析後リバウンドクレアチニン濃度を透析後クレアチニン濃度の代わりに用いる。クレアチニン濃度の透析後リバウンドの大きさは透析中のクレアチニン除去速度に関係していると考えられる。透析後リバウンドクレアチニン濃度を推定するために、18人の透析患者について、クレアチニン除去速度を反映するパラメータとクレアチニン濃度のリバウンドの大きさを反映する各種パラメータとの間の相関について調べた。【0031】患者の平均体重は53.1±2.5kgで平均血液流量は211±8ml/minであった。患者は全て無尿であり、透析時間は13人が4時間、5人が4.5時間であった。15人の患者は内シャント、3人は外シャントであった。内シャント15人のうち9人の患者では体外循環した血液はシャントでは無く、静脈に戻した。体外循環した血液を静脈に戻した患者と外シャントの患者では、透析終了時の血液採取は血液流量を下げずに行なった。残り6人の患者では透析終了時の血液採取の1分前に血液流量を50ml/minに落とした。また、透析後リバウンドクレアチニン濃度を測定するために透析終了1時間後に血液採取を行なった。【0032】本発明では、aCrを実際に測定された透析後リバウンドクレアチニン濃度(mg/ml)、aCsおよびaCeを夫々実際に測定された透析前、透析後クレアチニン濃度(mg/ml)とする時、aCr/aCe、(aCs−aCr)/(aCs−aCe)および(aCr−aCe)/(aCs−aCe)を透析後リバウンドの大きさを示すパラメータとして用い、K/Vをクレアチニン除去速度のパラメータとして用いた。K/Vは次式(17)、(18)により、aCs、aCeおよび透析時間Td(min)を用いて計算した。(Kt/V)=In(aCs/aCe) (17)(K/V)=(Kt/V)/Td (18)【0033】相関係数は、夫々、K/VとaCr/aCeとの間が0.775、K/Vと(aCs−aCr)/(aCs−aCe)との間が0.274、K/Vと(aCr−aCe)/(aCs−aCe)との間が−0.274であった。従って、透析後リバウンドクレアチニン濃度を推定するために次式(19)で示されるK/VとaCr/aCeとの間の回帰式を用いることができる。【0034】【数10】【0035】上記相関に基づき、透析後リバウンドクレアチニン濃度eCr(mg/ml)を推定するための次式(20)が得られる。【0036】【数11】【0037】透析後リバウンドクレアチニン濃度推定方法の妥当性を調べるために、別の患者17人について実測した透析後リバウンドクレアチニン濃度と式(20)で求めた濃度とを比較した。これらの患者の平均体重は55.1±3.5kgであり、平均血液流量は213±6ml/minであった。患者は全て無尿であり、透析時間は14人が4時間、3人が4.5時間であった。全ての患者は内シャントであり、17人中5人は、体外循環した血液をシャントではなく、静脈に戻した。全ての患者で血液採取はクレアチニン除去速度とクレアチニン濃度のリバウンドの大きさとの関係を調べるための試験と同様の方法で行なった。このようにして推定された透析後リバンドクレアチニン濃度と実測値との関係を図2に示した。図2に示す様に、この様にして推定された透析後リバウンドクレアチニン濃度は実測された濃度と実質的に等価であった。【0038】【実施例】14人の無尿の安定期の血液透析患者のクレアチニン産生速度について本発明の方法と従来の透析−透析間のクレアチニン動態モデルによる方法とで算出し、両者を比較した。その結果を図3に示す。x軸は本発明を用いて算定した結果(クレアチニン分布容積の変化と透析後リバウンドで補正ずみ)であり、y軸は透析終了1時間後に測定したクレアチニン濃度(すなわち透析後リバウンド濃度)と次回の透析前クレアチニン濃度から計算した、従来法による結果である。回帰直線に対する方程式を次式(21)に示す。y=0.963x+0.200 (21)本発明による結果と従来法による結果がよく一致していることが判る。【0039】【発明の効果】本発明により、透析センターに於いて通常行なわれている血液採取方法による分析結果と通常記録される透析記録のデータを用いるだけで患者のクレアチニン産生速度を求めることができる様になり、患者の筋肉量、蛋白栄養状態等に関する有用な指標が得られる様になった。【図面の簡単な説明】【図1】ln(Ce/Cs)とKt/Vの関係を示すグラフ【図2】推定された透析後リバウンドクレアチニン濃度と実測値との関係を示すグラフ【図3】実施例のクレアチニン産生濃度を示すグラフ 式(1)を用いることを特徴とする血液透析データを用いたクレアチニン産生速度の算定方法。g(24h)=7056Cs/A (1)ここでg(24h)はクレアチニン産生速度(g/kg/d)、Csは週の1回目あるいは2回目の透析前クレアチニン濃度(mg/dl)、Aは週の1回目の透析については式(2)を、週の2回目の透析については式(3)を用いて求める数値を示す。式(2)及び式(3)において、Tdは透析時間(h)、Ceは週の1回目あるいは2回目の透析後クレアチニン濃度(mg/dl)、Csは前記と同様に週の1回目あるいは2回目の透析前クレアチニン濃度(mg/dl)を示す。