タイトル: | 特許公報(B2)_β−1,4−ガラクトシル−マルトースの製造方法 |
出願番号: | 1998018477 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | C07H 3/06,C12P 19/14,C12S 3/02 |
高田 正保 小川 浩一 中村 信之 JP 4109343 特許公報(B2) 20080411 1998018477 19980130 β−1,4−ガラクトシル−マルトースの製造方法 日本食品化工株式会社 000231453 特許業務法人特許事務所サイクス 110000109 塩澤 寿夫 100092635 今村 正純 100096219 高田 正保 小川 浩一 中村 信之 20080702 C07H 3/06 20060101AFI20080612BHJP C12P 19/14 20060101ALI20080612BHJP C12S 3/02 20060101ALI20080612BHJP JPC07H3/06C12P19/14C12S3/02 C07H 3/06 C12P 19/14 C12S 3/02 BIOSIS/WPIDS(STN) JSTPlus(JDreamII) 特開平06−086683(JP,A) 特開平09−275995(JP,A) 特開平08−337600(JP,A) 特開平08−168393(JP,A) J. Appl. Glycosci,日本,1997年,Vol.44, No.2,213-221 10 1999215997 19990810 15 20050125 森井 隆信 【0001】【産業上の利用分野】本発明は、β-1,4-ガラクトシル−マルトースの製造方法に関する。詳しくは、工業規模で容易に効率よく、かつ、安価にβ-1,4-ガラクトシル−マルトースを製造する方法に関する。【0002】【従来の技術】医療現場で各種検査が行われるようになり、膵臓や尿中に含まれるα−アミラーゼ活性も測定されるようになった。α−アミラーゼ活性の測定は重要な検査事項であり、疾病診断の一助になっている。近年、α−アミラーゼの活性測定用基質として、共役酵素を使用しない高感度の基質が開発されている。そのような基質の一つとして、マルトースの還元性末端にフェニル基、ナフチル基又はそれらの誘導体をアグリコンとして結合させたマルトース誘導体であって、その非還元性末端の4位がガラクトースで修飾された構造を持つ化合物が知られている(特開平6−315399号)。この化合物の化学構造式を以下(化1)に示す。【0003】【化1】式中、X1及びX2の少なくとも一方はガラクトシル残基であり、他方は水素原子であり、Rはフェニル基、ナフチル基等の修飾基を示す。上記化合物は、β−1,4−ガラクトシル−マルトースの還元末端に、Rで示されるフェニル基、又はナフチル基等の修飾基を付加したものであり、この基質は、例えば、β−1,4−ガラクトシル−マルトースを原料として製造することができる。【0004】また、このβ−1,4−ガラクトシル−マルトースは、ガラクトシルマルトビオノラクトンの原料としても用いられる。ガラクトシルマルトビオノラクトンは、α−アミラーゼの阻害剤として有効であることが知られている(特開平8−291192号)。このようにβ−1,4−ガラクトシル−マルトースは、医療現場において欠く事のできないα−アミラーゼ基質やα−アミラーゼ阻害剤の原料となる化合物であるが、その製造方法は実用的に十分確立されているとはいえない。【0005】β−1,4−ガラクトシル−マルトースの一般的な製造方法は、2つある。第一の方法は、マルトース及びガラクトースにβ−ガラクトシダーゼを作用させて、ガラクトシル−マルトースを得る方法である。この方法は、1段階で目的物を生成することができる方法である。第二の方法は、ガラクトースとマルトオリゴ糖にβ−ガラクトシダーゼを作用させ、ガラクトシル−マルトオリゴ糖を得、得られたガラクトシル−マルトオリゴ糖にタカアミラーゼを作用させ、ガラクトシル−マルトースを生成する方法(特開平8−173180号)である。【0006】第一の方法は、ガラクトシダーゼ糖転移反応を利用して、マルトースの非還元末端の4位を1分子のガラクトースで修飾する方法であるが、重大な欠点がある。この製造方法では、例えば、供与体基質である乳糖存在下、β−ガラクトシダーゼの糖転移反応を行った場合、マルトースへのガラクトシル基転移生成物と乳糖への転移生成物が、同時に生成する。これらの生成物は、ゲル濾過などによる分画において、溶出時間が非常に似通っているため、分画が困難であった。従って、β−1,4−ガラクトシル−マルトースを生成しても、その後精製することが実質的に不可能であった。【0007】一方、第二の方法にも、2つの問題があった。この方法は、詳しくは、マルトトリオース以上の重合度を持つ直鎖マルトオリゴ糖(マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース等)とガラクトシル残基を含む糖の混合物に、β-ガラクトシダーゼを作用させ糖転移反応を行い、マルトオリゴ糖の非還元末端の4位をガラクトースで修飾したガラクトシル−マルトオリゴ糖を調製し、得られたガラクトシル−マルトオリゴ糖にタカアミラーゼを作用させてガラクトシル−マルトオリゴ糖3糖類のみを遊離させて、ガラクトシル−マルトースを得るというものである。【0008】第一の問題は、生成物にβ−1,6−ガラクトシルマルトースが混在し、分離が困難であることである。即ち、マルトオリゴ糖の非還元末端の4位をガラクトースで修飾して得られた生成物には、目的とするβ−1,4−ガラクトシル-マルトオリゴ糖は約10%(W/W)程度しか生成しない。更に、上記反応において、ガラクトースが非還元末端にあるグルコシル基の6位に結合した構造異性体も生成する。このような生成物(混合物)にタカアミラーゼを作用させると、タカアミラーゼはガラクトースが6位に結合した異性体にも作用するためβ-1,4-ガラクトシルマルトースに加えてβ-1,6-ガラクトシルマルトースも生成してしまう。β−1,4体とβ−1,6体とは分子量に差がなく、両者の分画は極めて困難である。【0009】第二の問題は、上記糖転移反応の生成物には、更に主として原料由来の乳糖、転移反応生成物であるガラクトシル-ラクトース、ガラクトシル-ガラクトシル-ラクトース、及び/又はガラクトシル-ガラクトシル-マルトオリゴ糖等も含まれていることである。これらの糖は、β−1,4−ガラクトシル−マトースと分子量等が近似しているため、これらの糖から目的物を分離し、精製することも容易ではなかった。【0010】第一の問題の解決法として、ガラクトシル−マルトオリゴ糖から、ガラクトースが6位に結合した異性体は遊離することなく、β−1,4−ガラクトシル−マルトースのみ遊離する酵素の使用が考えられる。サーモモノスポラ(Thermomonospora)属放線菌が生産する糖化型α−アミラーゼは、β-1,6-ガラクトシル−マルトオリゴ糖には作用せず、β-1,4-ガラクトシル−マルトースのみを遊離させることが知られている(糖質関連酵素シンポジウム vol.30, p213-221, 1996)。従って、本発明者らは、この酵素を上記タカアミラーゼの代わりに用いることにより、異性体であるβ−1,6−ガラクトシル−マルトースの生成を阻止することができると考えた。【0011】一方、第二の問題の解決法として考えられる方法として、ゲル濾過精製法を挙げることができる。この精製法は一般的にマルトオリゴ糖あるいはその誘導体の高純度品を得る場合に用いられる方法である。しかし、このゲル濾過精製法は、分離能力は高いが処理能力が低く、ゲル自体の価格が高い等の欠点がある。更に、β−1,4−ガラクトシル-マルトースの誘導体がα-アミラーゼ基質として用いられる際には、98%以上という高純度を要求される。そのため、β-1,4-ガラクトシル-マルトースの高純度品を得るためには、このゲル濾過精製が二回以上必要であった。従って、工業的規模でβ-1,4-ガラクトシルマルトースあるいはその誘導体の高純度品を製造する場合、生産量が制限され、高価にならざるを得なかった。【0012】【発明が解決しようとする課題】そこで本発明の目的は、α−アミラーゼ活性測定の基質の原料及びα−アミラーゼ阻害剤の原料として有用な、高純度のβ−1,4−ガラクトシル−マルトースの製造方法であって、構造異性体であるβ−1,6−ガラクトシル−マルトースを生成することなく、また、高価で処理能力の低いゲル濾過精製法を用いることなく、工業的規模で簡便に行うことができる製造方法を提供することにある。【0013】【課題を解決するための手段】本発明は、ラクトース並びにガラクトシル−ラクトース、ガラクトシル−ガラクトシル−ラクトース、及びガラクトシル−ガラクトシル−マルトテトラオースからなる群から選ばれる少なくとも1種のガラクトシル−オリゴ糖が共存するβ−1,4−ガラクトシル−マルトオリゴ糖(以下、原料混合物という)に、β−1,4−ガラクトシル−マルトースを選択的に生成する酵素を作用させて、β−1,4−ガラクトシル−マルトースを製造する方法であって、【0014】ラクトースを優先的に加水分解する酵素と上記ガラクトシル−オリゴ糖の少なくとも1種を優先的に加水分解する酵素とを、上記原料混合物又はβ−1,4−ガラクトシル−マルトースを含む生成物に作用させて、ラクトース及び上記ガラクトシル−オリゴ糖の少なくとも1種を低分子化する工程を含むことを特徴とする方法に関する。【0015】【発明の実施の形態】従来の方法においては、β−1,4−ガラクトシル−マルトオリゴ糖からβ−1,4−ガラクトシル−マルトースを生成する際、構造異性体であるβ−1,6−ガラクトシル−マルトースも同時に生成することがあった。本発明では、「β−1,4−ガラクトシル−マルトースを選択的に生成する酵素」をもちいることにより、異性体の生成を排除することに成功した。「β−1,4−ガラクトシル−マルトースを選択的に生成する酵素」としては、例えば、サーモモノスポラ(Thermomonospora)属放線菌が生産する糖化型α−アミラーゼTF90(日本食品化工(株)製)を使用することができる。この糖化型α−アミラーゼは、ガラクトシル−マルトオリゴ糖から、ガラクト−スが6位に結合した異性体は遊離することなく、β−1,4−ガラクトシル−マルトースのみ遊離することが知られている。従って、同じ分子量を持つため分離が不可能である異性体を生成することがない。これは、後のβ−1,4−ガラクトシル−マルトース精製工程においてその工程を簡便にするという利点がある。「β−1,4−ガラクトシル−マルトースを選択的に生成する酵素」が、例えば、サーモモノスポラ(Thermomonospora)属放線菌が生産する糖化型α−アミラーゼTF90の場合、基質であるガラクトシル−オリゴ糖1gに対して、30〜200Uを使用することが好ましい。反応は、45〜65℃で、pH4.5〜8.5の範囲で行うことが好ましい。【0016】なお本発明において「β−1,4−ガラクトシル−マルトースを選択的に生成する酵素」は、上記糖化型α−アミラーゼに限定されるものではなく、異性体を生成することなく、ガラクトシル−マルトオリゴ糖から目的物質であるβ−1,4−ガラクトシル−マルトースを選択的に生成することができる酵素であればいずれも使用可能である。【0017】原料混合物中のラクトース及び上記ガラクトシルーオリゴ糖は、目的物のβ−1,4−ガラクトシル−マルトースと分子量が近似している。そのため、高純度のβ−1,4−ガラクトシル−マルトース得るために、これらの化合物をβ−1,4−ガラクトシル−マルトースから分離することが困難であった。本発明では、これらの化合物を、酵素を用いて加水分解することにより低分子化することに着目した。その結果、β−ガラクトシル−マルトオリゴ糖及びβ−1,4−ガラクトシル−マルトースを分解せず、ラクトース及び上記ガラクトシル−オリゴ糖を優先的に加水分解する酵素群を見出した。これらの酵素を用いることにより、ラクトース及び上記ガラクトシル−オリゴ糖を低分子化することができるようになった。低分子化されたこれらの化合物は、β−1,4−ガラクトシル−マルトースとその分子量が明らかに異なるため、簡易に分離することができる。【0018】低分子化の具体的な方法としては、「ラクトース優先的に加水分解する酵素」及び「上記ガラクトシル−オリゴ糖を優先的に加水分解する酵素」を、上記「原料混合物」又はβ−1,4−ガラクトシル−マルトースを含む生成物に作用させることにより行うことができる。酵素としては、目的物であるβ−1,4−ガラクトシル−マルトースを加水分解せずにラクトース及び上記ガラクトシル−オリゴ糖を低分子化するものを使用することができる。【0019】「ラクトースを優先的に加水分解する酵素」としては、β−ガラクトシダーゼ及びβ−グルコシダーゼからなる群から選ばれる少なくとも1種の酵素等を用いることができる。【0020】原料混合物に含まれるラクトースを加水分解するには、ガラクトシル-マルトオリゴ糖あるいは目的物であるβ−1,4−ガラクトシル−マルトースには作用せずに乳糖を加水分解するβ−ガラクトシダーゼを使用することができる。そのようなβ−ガラクトシダーゼとしては、例えば、β−1,4−ガラクトシル−マルトース難分解性のβ−ガラクトシダーゼを挙げることができる。具体的には、β−ガラクトシダーゼとしては、例えば、クリベロマイセス・フラギルス(Kluyvermyces fragilis)起源の酵素製剤「ラクトザイム」(ノボノルディスクバイオインダストリー(株)製)、クリベロマイセス・ラクティス(Kluyvermyces lactis)起源の酵素製剤「GODO−YNL」(合同酒精(株))等を挙げることができる。これらの酵素は市販品として容易に入手可能である。β−ガラクトシダーゼは、基質であるラクトース1gに対して、5〜50Uの量の範囲で使用することが好ましい。その反応は、温度30〜50℃でpH5〜8の範囲において行うことができる。【0021】原料混合物中のラクトースを加水分解するためには、乳糖分解能を有するβ−グルコシダーゼを使用することができる。ラクトースを加水分解するために使用することができるβ−グルコシダーゼとしては、例えば,乳糖分解能力を有するアーモンドやサーマス(Thermus)属由来のβ-グルコシダーゼ等を挙げることができる。β−グルコシダーゼは、基質であるラクトース1gに対して、5〜100Uの範囲で使用することが好ましい。また、その反応は、温度30〜60℃で、pH5〜8の範囲で行うことができる。【0022】なお本発明において「ラクトースを優先的に加水分解する酵素」はβ−ガラクトシダーゼ及びβ−グルコシダーゼに限定されるものではなく、目的物質であるβ−1,4−ガラクトシル−マルトースを実質的に分解することなく、ラクトースを分解し得る酵素であればいずれも使用可能である。【0023】「上記ガラクトシル−オリゴ糖の少なくとも1種を優先的に加水分解する酵素」としては、例えば、β−ガラクタナーゼ等を挙げることができる。【0024】β−ガラクタナーゼは、一般的には、ガラクトース重合体を加水分解する酵素である。本発明においては、β-1,4-ガラクトシル-マルトースあるいはその誘導体を分解せずにガラクトシル-ラクトース、ガラクトシル-ガラクトシル-ラクトースまたは2個以上のガラクトース残基が非還元末端側に結合したマルトオリゴ糖あるいはその誘導体を分解する種類のβ−ガラクタナーゼを使用する。そのようなβ−ガラクタナーゼとして、例えば、β−1,4−ガラクタナーゼを挙げることができる。具体的には、β−ガラクタナーゼとしては、例えば、Bacillus subtilis起源のもの(J.M.Labavitchら,J. Biol.Chem.,251,5904-5910)、Penicillium citrinum起源のもの(澱粉科学,第36巻, P131-140,1989年)、Aspergillus pulverulent起源の酵素製剤「ペクチナーゼGアマノ」(天野製薬(株)製) Aspergillus niger起源の酵素製剤「ペクチネックス」(ノボノルディスクバイオインダストリー(株)製)等を挙げることができる。これらの酵素は一般的に入手可能である。β−ガラクタナーゼは、基質である上記ガラクトシル−オリゴ糖1gに対して、5〜50Uの範囲で使用することが好ましい。またその反応は、温度30〜60℃で、pH3〜6の範囲で行うことができる。【0025】上記に例示したβ−ガラクタナーゼについては、文献等においてガラクトースの重合体からなる高分子やガラクトース残基からなるガラクトオリゴ糖を加水分解できることは記載されている。しかし、ガラクトシル-ラクトース、ガラクトシル-ガラクトシル-ラクトースまたはガラクトシル-ガラクトシル-マルトオリゴ糖を加水分解することができることは記載されていない。β−ガラクタナーゼが、ガラクトシル-ラクトース、ガラクトシル-ガラクトシル-ラクトースまたはガラクトシル-ガラクトシル-マルトオリゴ糖を加水分解することは、本発明で初めて見いだされたものである。【0026】なお本発明において「上記ガラクトシル−オリゴ糖の少なくとも1つを優先的に加水分解する酵素」はβ−ガラクタナーゼに限定されるものではなく、目的物質であるβ−1,4−ガラクトシル−マルトースを実質的に分解することなく、上記ガラクトシル−オリゴ糖を分解し得る酵素であればいずれも使用可能である。【0027】本発明において、必要に応じて、上記の方法により「ラクトース及び上記ガラクトシル−オリゴ糖の少なくとも1種を低分子化して得られたβ−1,4−ガラクトシル−マルトースを含む生成物」からβ−1,4−ガラクトシル−マルトースを分離することもできる。この分離工程により、高純度のβ−1,4−ガラクトシル−マルトースを得ることができる。【0028】β−1,4−ガラクトシル−マルトースを含む生成物は、異性体であるβ−1,6体を含まず、残存原料及び副生成物が低分子化されているため、ゲル濾過精製及び逆浸透膜等の工程により精製が可能である。ゲル濾過精製では一般に分子量の大きさによる分離モードが使用されている。単糖とオリゴ糖とでは分子量が相違するためβ−1,4−ガラクトシル−マルトースと他の低分子化された糖化合物を分離することが可能である。従って、上記混合物はゲル濾過精製を用いて容易に分離することができる。一方、逆浸透膜においても、オリゴ糖と単糖類は大量にかつ簡便に分離することができる。この方法を用いてもβ−1,4−ガラクトシル−マルトースと他の低分子化された糖化合物を分離することが可能である。従って、ゲル濾過精製の前処理として逆浸透膜を組み込めば、目的物質の含量が向上しゲル濾過精製工程の生産性の大幅な向上が可能である。また、高純度のβ−1,4−ガラクトシル−マルトースを得るために高価なゲル濾過精製工程を2回繰り返す必要性も排除することができる。【0029】上記β−1,4−ガラクトシル−マルトースの製造方法の「原料混合物」は、例えば、ガラクトシル残基を有する糖及びマルトオリゴ糖に、β−ガラクトシダーゼを作用させて得ることができる。β−ガラクトシダーゼを用いて、マルトオリゴ糖の非還元末端にガラクトースを結合し、β−1,4−ガラクトシル−マルトオリゴ糖を得ることができる。これは、β−ガラクトシダーゼの糖転移反応によるものである。【0030】糖転移反応に用いることができるβ−ガラクトシダーゼとしては、ラクトース残基をβ−1,4−ガラクトシド結合でマルトオリゴ糖の非還元末端グルコース残基に転移し得る酵素を挙げることができる。一般的に、β−ガラクトシダーゼは各種β-ガラクトシドを加水分解してガラクトースを遊離する酵素として知られているが、本方法においては、ガラクトシル-マルトオリゴ糖あるいはその誘導体を生成させる転移活性の強いβ−ガラクトシダーゼを使用することができる。この酵素は、ラクトース残基をβ−1,4−ガラクトシド結合でマルトオリゴ糖の非還元末端グルコース残基に転移する。その結果、β−1,4−ガラクトシル−マルトオリゴ糖を得ることができる。【0031】β-ガラクトシダーゼとしては、具体的には、特開平3-264596に述べられているようにバチルス・サーキュランス(Bacillus circulans)起源の酵素製剤「Biolacta」(大和化成(株)製)、アスペルギルス・オリゾエ(Aspergillus oryzoe)起源の酵素製剤「Lactase Fアマノ」(天野製薬(株)製)、同じく「Lactase Y-AO」(ヤクルト(株))、あるいは特開昭62-130695記載のクリプトコッカス(Cryptococcus)属起源のものを挙げることができる。更に、ガラクトース残基を主にβ-1,4-結合でマルトオリゴ糖あるいはその誘導体の非還元末端グルコース残基に転移し得るバチルス属あるいはクリプトコッカス属由来の酵素が使用可能であるが、好ましくは温度安定性が高いバチルス属由来の酵素を使用することができる。【0032】ガラクトシル残基を有する糖としては、重合度2以上のβ−1,4−ガラクトシルオリゴ糖又は乳糖等を用いることができる。マルトオリゴ糖としては、グルコースの重合度3〜7の直鎖マルトオリゴ糖、又はこれらの混合物を用いることができる。例えば、マルトトリオース、マルトテトラオース、及びマルトペンタオース等を挙げることができる。【0033】【発明の効果】本発明の製造法は、高純度のβ−1,4−ガラクトシル-マルト−ス精製することを容易にする。詳しくは、β−1,4−ガラクトシル−マルトースと近似する分子量を持つ、β−1,6体(異性体)を生成することなく、残存原料及び副生成物を低分子化して、分子量による分離工程によりβ−1,4−ガラクトシル−マルトースを精製することを容易にした。従って、高価で処理能力の低いゲル濾過精製法を用いることなく、工業的規模で簡便に高純度のβ−1,4−ガラクトシル−マルトースを製造することができるようになり、精製工程の効率が極めて向上した。これは、実用上多大な効果をもたらすものである。【0034】【実施例】以下に本発明を実施例により更に説明する。下記の実施例における糖組成は試料を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分析し、ピーク面積より算出した。HPLCは以下の条件で行った。カラム;Shodex RS-pak DC-613 ( 6 I.D.mm×150mm),溶離液;アセトニトリル/水=70/30(v/v),流速;0.9 ml/min,カラム温度;室温,検出器;RIモニターまたはUV検出器(310nm)。また酵素活性測定法は以下のようにして行った。【0035】β-ガラクトシダーゼの活性測定法0.5mlの0.5%(w/v)p-ニトロフェニルβ-ガラクトシドと25mMリン酸緩衝液(pH6.5)0.45mlを混合し、35℃で5分間予備加温した。適する濃度に希釈した酵素液0.05mlを添加して35℃、10分間反応させた後、反応液1mlに0.2M炭酸ナトリウム2mlを添加し405nmの吸光度を測定した。遊離したpNP量は検量係数設定用4-ニトロフェノール(和光純薬工業(株)製)を用いて作成した検量線を求めた。なお上記条件で1分間に1μmolのpNPを遊離する酵素量を1単位(U)とした。【0036】β-グルコシダーゼの活性測定法0.5mlの0.5%(w/v)p-ニトロフェニルβ-グルコシドと25mMリン酸緩衝液(pH6.5)0.45mlを混合し、35℃で5分間予備加温した。適する濃度に希釈した酵素液0.05mlを添加して35℃、10分間反応させた後、反応液1mlに0.2M炭酸ナトリウム2mlを添加し405nmの吸光度を測定した。pNP量は検量係数設定用4-ニトロフェノール(和光純薬工業(株)製)を用いて検量線を求めた。なお上記条件で1分間に1μmolのpNPを遊離する酵素量を1Uとした。【0037】β-ガラクタナーゼの活性測定法0.5mlの1.0%大豆アラビノガラクタンと50mMの酢酸緩衝液(pH4.5)0.45mlを混合し、35℃で5分間予備加温した。適する濃度に希釈した酵素液0.05mlを添加して35℃、10分間反応させた後、反応液1mlにDNS試薬1ml添加し、10分間煮沸後、冷却し、蒸留水5mlを添加後、510nmの吸光度を測定した。遊離した還元糖量はガラクトースを標準として用いて作成した検量線から求めた。なお上記条件で1分間に1μmolの還元糖を遊離する酵素量を1Uとした。【0038】サーモモノスポラ(Thermomonospora)属放線菌が生産する糖化型α−アミラーゼの活性測定法0.35mlの100mMの酢酸緩衝液(pH6.0)に1.0%になるように可溶性澱粉溶解しし、55℃で5分間予備加温した。適する濃度に希釈した酵素液0.05mlを添加して55℃、10分間反応させた後、反応液1mlにDNS試薬を1ml添加し、10分間煮沸後、冷却し、蒸留水5mlを添加後、510nmの吸光度を測定した。遊離した還元糖量はグルコースを標準として用いて作成した検量線から求めた。なお上記条件で1分間に1μmolの還元糖を遊離する酵素量を1Uとした。【0039】実施例1各種酵素剤の選択乳糖19.85g(58.0mmol)及びマルトテトラオース38.7g(58.0 mmol)を100mlの50mMリン酸緩衝液中(pH7.0)に分散させ、β-ガラクトシダーゼ製剤「Biolacta」(5.4 U/mg,大和化成(株)製, Bacillus circulans起源)を200 U添加し40℃で5時間反応させて、β-1,4-ガラクトシル−マルトテトラオースを生成させた。次いで5%塩酸溶液で反応液のpHを3.5に調整した後、5分間煮沸し、酵素を失活させた。本反応液の糖組成を上記HPLCにより分析したところ、β-1,4-ガラクトシル-マルトテトラオースは10.5%、β-1,6-ガラクトシルマルトテトラオース1.0%、ガラクトシル-ガラクトシル-マルトテトラオースは3.2%、ガラクトシル-ガラクトシル-ラクトースは7.0%、ガラクトシル-ラクトースは2.1%、マルトテトラオースは30.5%、ラクトースは24.8%、グルコースは11.5%、ガラクトースは3.7%でその他オリゴ糖は6.7%であった。【0040】上記反応失活液を10倍に希釈した溶液10mlに、サーモモノスポラ(Thermomonospora)属放線菌が生産する糖化型α−アミラーゼTF90(日本食品化工(株))50 Uと各種酵素剤をそれぞれ50 U添加し、24時間,40℃で反応させた糖組成をHPLCにより分析した結果を表1に示した。また次に表1の結果から本発明の目的に合致したβ-ガラクトシダーゼ「ラクトザイム」「GODO−YNL」「BGH−101」(アーモンド由来,東洋紡(株)製)およびβ-1,4-ガラクタナーゼ「ペクチナーゼGアマノ」「ペクチネックス」を選択し、β-1,4-ガラクタナーゼ及びβ-ガラクトシダーゼ2種類の酵素剤を順次作用させた場合の加水分解について検討した。上記反応失活液を10倍に希釈した溶液10mlに、まずβ-1,4-ガラクタナーゼ剤をそれぞれ50 U添加し、24時間,40℃で反応させた後、酵素を煮沸失活させた。次いでβ-ガラクトシダーゼをそれぞれ50 U添加し、24時間,40℃で反応させた糖組成をHPLCにより分析した結果を表2に示した。【0041】【表1】++:70〜100%程度分解する+ :10〜70%程度分解する± :〜10%程度分解する− :分解しない【0042】【表2】【0043】実施例2β-1,4-ガラクトシル-マルトースの調製乳糖2.0kg(5.8mol)及びマルテトラオース3.9kg(5.8mol)を10リットルの50mMリン酸緩衝液中(pH 7.0)に分散させ、β-ガラクトシダーゼ製剤(Biolacta、5.4 U/mg,大和化成(株)製)を2 X 104 U添加し40℃で5時間反応させ、β-1,4-ガラクトシル-マルトテトラオースを生成させた。次に5%塩酸溶液で反応液のpHを3.5にした後、5分間煮沸し、上記酵素を失活させた。本反応液の糖組成を上記HPLCにより分析したところ、β-1,4-ガラクトシル-マルトテトラオースは10.5%、β-1,6-ガラクトシル-マルトテトラオースは1.0%、ガラクトシル-ガラクトシル-マルトテトラオースは3.2%、ガラクトシル-ガラクトシル-ラクトースは7.0%、ガラクトシル-ラクトースは2.1%、マルトテトラオースは30.5%、ラクトースは24.8%、グルコースは11.5%、ガラクトースは3.7%でその他オリゴ糖は6.7%であった。【0044】本反応失活液を10倍に希釈した溶液をpH 6.0に調整し、β-1,4-ガラクトシル-マルトースを生成させるためにサーモモノスポラ(Thermomonospora)属放線菌が生産する糖化型α−アミラーゼを5 X 104 U、反応原料のマルトテトラオース及びアミラーゼの作用により生ずるマルトオリゴ糖を分解するために、Rhizopus nives起源グルコアミラーゼ(生化学工業(株)製)を5 X 105 Uおよびガラクトシル-ラクトース、ガラクトシル-ガラクトシル-ラクトースまたはガラクトシル-ガラクトシル-マルトテトラオースを分解するためにAspergillus pulverulent起源の酵素製剤「ペクチナーゼGアマノ」(天野製薬(株)製)を2 X 105 U添加し、37℃で24時間反応させた。【0045】次に本反応失活液のpHを6.5に調整し、原料の乳糖を分解させるために、クリベロマイセス・ラクティス(Kluyvermyces lactis)起源の酵素製剤「GODO−YNL」(合同酒精(株))を1 X 105 U添加し、40℃で24時間反応させた。反応終了は5%塩酸溶液で反応液のpHを3.5にした後、5分間煮沸し、上記酵素を失活させた。本液の糖組成をHPLCにより分析したところ、β-1,4-ガラクトシル-マルトースは12.2 %、ガラクトシル-ガラクトシル-マルトトリオースは1.5%、グルコースが62%、ガラクトースが22%で、ラクトースとガラクトシル-ラクトース、ガラクトシル-ガラクトシル-ラクトースを含めたその他のオリゴ糖は2.3%であった。【0046】上記酵素反応液を逆浸透膜モジュール(DK4040CDA,デサリネイション社製)を用いて圧力20 kgf/cm2で10時間処理したところ、本液の糖組成は、β-1,4-ガラクトシル-マルトースは57.4%、ガラクトシル-ガラクトシル-マルトテトラオースは5.3%、グルコースが8.8%、ガラクトースが5.5%で、ラクトースとガラクトシル-ラクトース、ガラクトシル-ガラクトシル-ラクトースを含めたその他のオリゴ糖は27.5%であった。【0047】本操作により目的とするβ-1,4-ガラクトシル-マルトースは最初の反応終了液の含量に比較して5.5倍に向上した。本液250ml(40%,w/v,固形物として100g)をToyopeal HW-40S(トーソー(株)製)を充填したカラム(13cm,I.D×95cm)を用い、カラム温度;65℃、流速;5ml/min、検出器:RIモニターでゲル濾過により精製し、純度98.5%のβ-ガラクトシル-マルトース49.5g(固形物)を得た。【0048】実施例3β-1,4-ガラクトシル-マルトースの調製(その2)実施例2で調製したβ-1,4-ガラクトシル-マルトースは12.2 %の反応液を、さらに高純度にするために、この反応液を原糖液として、樹脂分画法を行った。樹脂は、アルカリ土類金属型強カチオン交換樹脂(ダウケミカル社製造、商品名ダウエックス50W×4、Mg++型、架橋度4%)を使用し、内径5.4cmのジャケット付ステンレス製カラムに水懸け濁液で充填し、その液が直列に流れるようにカラム6本を連結して、樹脂槽全長が30mになるように充填した。カラム内温度を75℃で維持しつつ、原糖液を樹脂に対して、6.6v/v%加え、これに75℃の温水をSV0.13の流速で流して分画した。得られた分画品を溶出順にサイドカラムにかけて分画し、純度90%以上ののβ-ガラクトシル-マルトース高含有画分を58.5g採取した。 ラクトース並びにガラクトシル−ラクトース、ガラクトシル−ガラクトシル−ラクトース、及びガラクトシル−ガラクトシル−マルトテトラオースからなる群から選ばれる少なくとも1種のガラクトシル−オリゴ糖が共存するβ−1,4−ガラクトシル−マルトオリゴ糖(以下、原料混合物という)に、β−1,4−ガラクトシル−マルトースを選択的に生成する酵素を作用させて、β−1,4−ガラクトシル−マルトースを製造する方法であって、ラクトースを優先的に加水分解するβ−ガラクトシダーゼ及びβ−グルコシダーゼからなる群から選ばれる少なくとも1種の酵素と上記ガラクトシル−オリゴ糖の少なくとも1種を優先的に加水分解するβ−ガラクタナーゼとを、上記原料混合物又はβ−1,4−ガラクトシル−マルトースを含む生成物に作用させて、ラクトース及び上記ガラクトシル−オリゴ糖の少なくとも1種を低分子化する工程を含むことを特徴とする方法。 ラクトース及び上記ガラクトシル−オリゴ糖の少なくとも1種を低分子化して得られた生成物からβ−1,4−ガラクトシル−マルトースを分離して高純度のβ−1,4−ガラクトシル−マルトースを得る請求項1に記載の方法。 β−1,4−ガラクトシル−マルトースを選択的に生成する酵素が、サーモモノスポラ(Thermomonospora)属放線菌が生産する糖化型α−アミラーゼである請求項1又は2に記載の製造方法。 β−ガラクトシダーゼが、β−ガラクトシル−マルトース難分解性酵素である請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。 β−グルコシダーゼが、乳糖分解能を有するβ−グルコシダーゼである請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。 β−ガラクタナーゼが、β−1,4−ガラクタナーゼである請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。 原料混合物がガラクトシル残基を有する糖及びマルトオリゴ糖に、β−ガラクトシダーゼを作用させて得られるものである請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。 β−ガラクトシダーゼがラクトース残基をβ−1,4−ガラクトシド結合でマルトオリゴ糖の非還元性末端グルコース残基に転移し得る酵素である請求項7に記載の製造方法。 ガラクトシル残基を有する糖が重合度2以上のβ−1,4−ガラクトシルオリゴ糖又は乳糖である請求項7又は8に記載の製造方法。 マルトオリゴ糖が、グルコースの重合度3〜7の直鎖マルトオリゴ糖、又はこれらの混合物である請求項7〜9のいずれか1項に記載の製造方法。