タイトル: | 特許公報(B2)_低アレルゲン性ゼラチン |
出願番号: | 1997210075 |
年次: | 2004 |
IPC分類: | 7,A23J3/06,A23G3/00,A23L1/05,A23L1/06,A23L1/305,A61K47/42 |
市榮 健一 田口 靖希 高畑 能久 森松 文毅 重久 保 栗崎 純一 JP 3586686 特許公報(B2) 20040820 1997210075 19970718 低アレルゲン性ゼラチン 日本ハム株式会社 000229519 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構 501203344 廣瀬 孝美 100085486 市榮 健一 田口 靖希 高畑 能久 森松 文毅 重久 保 栗崎 純一 20041110 7 A23J3/06 A23G3/00 A23L1/05 A23L1/06 A23L1/305 A61K47/42 JP A23J3/06 A23G3/00 101 A23L1/06 A23L1/305 A61K47/42 A23L1/04 特開平10−17596(JP,A) 特開平9−229932(JP,A) 特開平9−255581(JP,A) 特表平4−502027(JP,A) 特開平7−82299(JP,A) 特公昭62−36495(JP,B2) 「Cellmatrix コラーゲンを用いる細胞培養法」榎並淳平監修 新田ゼラチン(株) 生物化学研究所の▲II▼−2.コラーゲン分類の項(平成2年10月5日受入) 「化学大辞典5縮刷版」共立出版(株)1987年2月15日 縮刷版第30刷発行 P.383〜384「ゼラチン」の項 4 1999032692 19990209 11 19970723 2000006131 20000427 河野 直樹 柿沢 恵子 田中 久直 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は低アレルゲン性ゼラチン及びペプチドに関する。より詳細には、食用、医療用(医薬用も含む)、化粧品用として利用され、アレルギー症状を引き起こすことのないゼラチン及びペプチドに関する。【0002】【従来の技術】コラーゲンは細胞外マトリックスの主要構成成分であり、現在I型からXIX型までの19分子種が同定されている。多細胞動物には必ず存在するタンパク質であり、脊椎動物では全タンパク質の約30%を占める。主たる役割は力学的支持だが、細胞の発生、移動、増殖、形態、代謝などを調節する能動的な役割も有する。コラーゲンの基本構造はα鎖と呼ばれるポリペプチド鎖であり、α鎖三本による規則的な三本鎖らせん構造を形成している。この三本鎖らせん部分はアミノ酸残基の3つ目ごとにグリシン(Gly)が存在するGly−Xaa−Yaaの繰返し配列である。Xaaの位置はプロリンが、Yaaの位置はヒドロキシプロリンが存在することが多い。コラーゲン分子に加熱などの処理を施すと、三本鎖らせん構造が壊れランダムコイル状になる。この変性コラーゲンをゼラチンという。酸可溶性I型コラーゲンの平均分子量は約35万であるが、これを加熱変性したゼラチンは平均分子量約13万となる。コラーゲンの三本鎖らせん部分は、Glyが内側に、その他のアミノ酸残基が表面に並ぶ形をとるが、表面積当たりの荷電アミノ酸残基の割合が少ないため水に難溶である。一方、変性したゼラチンは親水性が強まり、水への溶解度も非常に高くなる。【0003】ゼラチンは、コラーゲン含有組織を酸、アルカリ又は酵素で処理して得た粗コラーゲンを水で加熱抽出して製造される。コラーゲン含有組織としては動物(例えば、牛、豚、兎、羊、鶏など)の皮膚、骨、軟骨、腱、胎盤などが例示されるが、大量かつ安価に入手可能であることから、商業的には牛又は豚の皮と骨が使われている。哺乳類の皮に含まれるコラーゲンはI型が80〜85%を占め、残りはIII型である。骨においてはI型が主であり、他の型のコラーゲンは微量しか存在しない。すなわち、商業的に生産されているゼラチンは牛又は豚のI型及びIII型コラーゲン変性物である。近年、原料の前処理や抽出装置など生産技術が大きく進歩したため、良質のゼラチンが安価に製造できるようになった。ゼラチンは起泡性、皮膜形成能、保水性、保護コロイド性、弾力性など多くの物理化学的特性を有する。中でも、加熱すると溶解し冷却すれば凝固する熱可逆的なゾル−ゲル変換特性はゼラチン特有の性質であり、他のタンパク質には見られない。このゲル化特性にはゼラチン1分子当たり2個以上の結合部位が要求されるため、分子量1万5千以上が必要条件となる(Rheology 2 Ed. by F. R. Eirich, Academic Press: 357−, 1958)。【0004】上述のようにゼラチンは数多くの特性を合わせ持ち、しかも大量かつ安価に入手可能なため、その用途も幅広く、食用、医療用、化粧品用、写真用、工業用などとして使用されている。食用としてはゼリーのゲル化剤に利用されている。ゲル化剤にはゼラチン以外に寒天、カラギーナン、ペクチンなどがあるが、これらはすべて植物性の多糖類であり、消化吸収が悪く栄養価も低い。一方、ゼラチンは消化吸収の良い代表的な動物性タンパク質であり、ゼリー使用時の食感にも優れている。さらに、起泡性が強いことからマシュマロの原料にも利用されている。その他にも、グミキャンディー、ヨーグルト、ハム、ソーセージ、スープ、ババロア、アイスクリームなどの主原料あるいは副原料として広く利用されている。ゼラチンの加水分解物も食品産業で利用されている。ゼラチンよりも溶けやすく消化吸収が良いため、栄養剤などのアミノ酸供給源として添加される。また、保護コロイド性を生かし、清酒などアルコール飲料のオリ下げ剤などに利用されている。【0005】医療用としてはハード及びソフトカプセルに応用されている。ハードカプセルはカプセル型のピンにゼラチン液を付着させた後、冷却、乾燥することで得られる。この製法は、粘性、ゲル化特性、皮膜形成能などゼラチンの多様な性質に依存している。また、皮膚に対する親和性がよいことや保水性、粘着性などに優れることからパップ剤に利用されている。その他にも、錠剤の結合剤、止血材、代用血漿剤、ワクチン用安定剤などに応用されている。化粧品用としては保湿成分として乳液、パック剤などに利用されているほか、加水分解物がヘアケア原料として応用されている。写真用としては感光物質であるハロゲン化銀の結合剤に使用されている。ゾル−ゲル変換特性と保護コロイド性の二点で、ゼラチンに代替できる物質はまだ開発されていない。工業用としては合板、家具などの木工用接着剤として利用されている。【0006】【発明が解決しようとする課題】ゼラチンは種間で分子構造が極めて類似しており、異種のタンパク質でありながらヒトには抗原性がないとされていた。食用ゼラチンはFAO/WHO合同食品添加物専門委員会によって「類制A(1)、ADI特定せず」と評価され、医薬品としては日本薬局方の3局より収載されるなど、その安全性は広く認められていた。しかし1989年にドイツでゼラチン含有食品摂取後の即時型アレルギー症例が報告されて以来、その安全性が疑問視されてきた(Clin Exp Allergy、19:77−80、1989)。わが国でゼラチンによるアレルギーが注目されたのは、1994年、厚生省予防接種副反応研究班総会におけるワクチンメーカーの報告からである。その内容は、安定剤を0.2%精製ゼラチンから2.0%加水分解精製ゼラチンに変更した麻疹ワクチン及びおたふくかぜワクチンの接種によって、アナフィラキシー様症状が発生したというものであった(厚生省予防接種副反応研究班・予防接種リサーチセンター:予防接種の効果と副反応の追跡調査及び予防接種の社会・経済効果に関する研究報告書、193−199, 1995)。その後の詳細な検討の結果、ゼラチンがこのアナフィラキシー様症状の原因物質であることが究明された(臨床とウイルス、23:291−295、1995)。以来、ゼラチンアレルギーを示す患者は年々増加の一途をたどり、現在では牛由来のゼラチンに対し約3%の人がアレルギーであると言われている。【0007】ゼラチンアレルギー患者にとって最も問題となるのが、注射によって投与されアナフィラキシーショックを起こす生ワクチンである。生ワクチンは感染価の低下を防ぐためにタンパク質の安定剤が必要であり、ゼラチン若しくはその加水分解物又はヒト血清アルブミンが用いられていた。しかし、ヒト血清アルブミンは未知の病原体存在の可能性など広く使用するには問題が多い。また、乳糖、ソルビトール、ブドウ糖、精製白糖及びデキストランなどの糖類では十分な効果が得られなかった。これまでゼラチン及びその加水分解物に代わる優れた安定剤はなく、アレルギーが報告された後も危険を承知でゼラチン及びその加水分解物が使用され続けてきた。ゼラチンを安定剤として添加しているワクチンとしては麻疹、おたふくかぜ、風疹、水痘、B型肝炎、日本脳炎、インフルエンザなどが例示される。これらのワクチンに含まれるゼラチンは1回注射量1mg以上の場合もあり、アナフィラキシーショックを起こすには充分な量である。従って、代替の安定剤又はアレルギー症状を引き起こすことなく、安定剤としての機能を果たすゼラチンの開発が強く望まれていた。【0008】また、ゼラチン含有食品の摂取による食品アレルギーも問題である。ゼラチン含有食品は、ゼリー、グミキャンディー、ヨーグルト、ハム、ソーセージ、スープ、ババロア、アイスクリームなど日常摂取する食品の多岐に及んでいる。さらに、医薬用のカプセルもゼラチンが主原料である。これらの食品、医薬品を摂取すると、口の中や目の痒み、鼻汁、発熱、嘔吐、頭痛、下痢、皮膚炎、喘息などのアレルギー症状が現れ、場合によってはアナフィラキシーショックを起こすこともある。しかし、ゼラチンはこれら食品や医薬品の物性、呈味などを保持する上で必須成分であり、これに代わる物質は開発されていなかった。さらに、ゼラチンアレルギー患者がゼラチンを含有する化粧品、パップ剤などを使用した場合、痒み、紅斑、丘疹、小水疱、表面剥離など、接触性皮膚炎の症状を伴う可能性が強い。しかし、皮膚に対する親和性、保水性、粘着性などを兼ね備えた安価な代替物質はなかった。上述のように、食品、医薬品、化粧品へのゼラチンの利用はその多様な特性に依存する場合が多く、その殆どが代替の利かない利用法であった。特に医薬品産業においてゼラチンは不可欠な存在であったため、従来のゼラチンの特性を有し、かつアレルギーを起こさない安全な物質の開発が望まれていた。【0009】このような点から、ゼラチンの抗原性を除去するために加水分解を利用した発明が種々提案されている。例えば、特公昭62−36495号公報では、ゼラチンを加水分解後にイオン交換樹脂で処理することで抗原性を除去する方法が開示されている。また特開平7−82299号公報では、コラーゲン成分あるいはゼラチン成分を含む原材料を磁性担体へ固定化するなどした細菌性コラゲナーゼで分子量1000以下まで分解することにより得られる抗原性を除去したペプチド組成物が開示されている。しかし、加水分解を行うことでゲル化特性、皮膜形成能が低下あるいは消失してしまうため、代用血漿剤、静脈内注射用の希釈剤又は安定剤などに利用範囲が限定される。特に、特開平7−82299号公報の方法により分子量1000以下まで分解した場合、ゲル化特性、皮膜形成能が完全に消失するだけでなく、保水性、保護コロイド性等その他のゼラチンの特性も保有しないと考えられ、利用範囲は極めて限定される。即ち、上記の公報で調製されたゼラチン加水分解物ではゼラチンの用途に関して極一部しか代替できない。また、原材料に含まれるコラーゲン分子種は記載されていない。後記実施例でも示すようにI型、III型コラーゲン変性物は畜種を問わずアレルゲン性を有するため、上記の公報で調製されたゼラチン加水分解物ではアレルゲン性が残存する可能性がある。以上のように、これまでの発明は、本発明の目的である従来のゼラチンの特性を有しかつ、アレルギーを起こさない安全なゼラチン及びその製造法とはいえない。更に、上記の公報にはゼラチンアレルギー患者に対するデータについては具体的に示されておらず、これら発明によるゼラチン加水分解物のアレルギー防止効果は明らかではない。【0010】本発明者らは上記の問題を解決するために、従来のゼラチンと同様に利用でき、かつゼラチンアレルギー患者の血清と抗原抗体反応を生じない又は抗原抗体反応が低値である安全なゼラチンを開発するために検討を重ねてきた。その結果、動物、好ましくは豚又は鶏の軟骨より調製したII型コラーゲン変性物を主成分とするゼラチンが、所期の目的を達し得ることを見いだした。本発明は、かかる知見に基づいてなされたもので、食用、医療用、化粧品用などとして利用する際にアレルギー症状を引き起こすことのないゼラチンを安価に提供することを目的としたものである。【0011】【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するためになされた本発明は、(1)ゼラチンを含有する食品において、ゼラチンがII型コラーゲンに由来するゼラチンであり、I型及びIII型コラーゲンに由来するゼラチンを実質的に含有しないことを特徴とする抗ゼラチンアレルギー用のゼラチン含有食品;(2)ゼラチンを含有する医薬製剤において、ゼラチンがII型コラーゲンに由来するゼラチンであり、I型及びIII型コラーゲンに由来するゼラチンを実質的に含有しないことを特徴とする抗ゼラチンアレルギー用のゼラチン含有医薬製剤;(3)ゼラチンを含有する化粧品において、ゼラチンがII型コラーゲンに由来するゼラチンであり、I型及びIII型コラーゲンに由来するゼラチンを実質的に含有しないことを特徴とする抗ゼラチンアレルギー用のゼラチン含有化粧品;(4)食品が、ゼリー、マシュマロ、グミキャンディー、ヨーグルト、ハム、ソーセージ、ババロア又はアイスクリームである上記(1)記載のゼラチン含有食品;である。【0012】【発明の実施の形態】本発明は上記の構成よりなり、本発明のゼラチンは、従来のゼラチンをアレルゲンとして認識する患者血清と抗原抗体反応をさせるとき、抗原抗体反応を生じない又は抗原抗体反応が低値であることを特徴とする。すなわち、本発明のゼラチン及びペプチドは、従来のゼラチンすなわちアレルゲンであるI型及びIII型コラーゲン変性物を実質的に含有していない。なお、上記の抗原抗体反応が低値であるとは、試験結果に基づき統計学上の有意差検定を行ったとき、健常者血清と比較して有意差が認められない状態を意味する。【0013】本発明のゼラチンは、原料として従来のゼラチンをアレルゲンとして認識する患者血清と抗原抗体反応をさせるとき抗原抗体反応を生じない又は抗原抗体反応が低値である原料を利用し、常法により製造される。かかる原料としては、動物(例えば、豚等の家畜類、鶏等の家禽類、サメ等の魚類、ヘビ等の爬虫類など)の軟骨、椎間板、脊索、硝子体、網膜などが例示され、特に処理の容易さ、収量などの点から豚又は鶏の軟骨が好適に使用される。これらの軟骨に存在するコラーゲンの大部分がII型コラーゲンであり、IX型及びXI型コラーゲンも極微量存在するが、ゼラチンアレルギーの原因物質であるI型及びIII型コラーゲンは実質的に存在しない(Microscopy Research and Technique、28: 378−384、1994)。これらの軟骨は食肉産業の副生物などを利用できる。本発明のゼラチンは、上記の原料を用いて常法に準じて調製できるが、その一例を示すと、上記の原料(好ましくは豚又は鶏の軟骨)を粉砕し、塩洗、水洗後、飽和水酸化カルシウム水溶液に浸漬し、放置する。その後、沈殿物を回収し、中和、水洗を行った後、水を加えて加熱し、熱水抽出を行う。得られた抽出物を凍結乾燥することにより、本発明のゼラチンが得られる。かくして得られたゼラチンは、必要に応じて、慣用の蛋白質精製法に準じて更に精製してもよい。【0014】後記試験例でも示すように本発明のゼラチンは従来のゼラチンと同等のゼリー強度を有する。さらに、起泡性、皮膜形成能、保水性、保護コロイド性、弾力性などを有しており、従来のゼラチンが用いられている各種の用途に利用することができる。特に好適には食用、医療用、化粧品用に利用される。食用としてはゼリー、グミキャンディー、ヨーグルト、ハム、ソーセージ、スープ、ババロア、アイスクリームなどに利用される。本発明のゼラチンを用いることにより、味、臭い、食感などの嗜好性を変えることなくアレルゲン性の非常に低い食品を製造することができる。医療用としてはカプセル、パップ剤、ワクチン安定剤などが挙げられる。本発明のゼラチンを用いることにより従来のゼラチンの基本的性質を変更することなく、これらの安全性を確保することができる。化粧品用としてはクリーム、軟膏、化粧水などの原料が挙げられる。本発明のゼラチンはアレルゲン性がない、又は非常に低いため、これらの化粧品に含有されるゼラチンに起因した接触性皮膚炎を回避することができる。【0015】本発明のペプチドは、上記のゼラチンを、常法に準じて加水分解した低分子物質である。そして、本発明のペプチドは、牛又は豚の皮と骨から製造された従来のゼラチンをアレルゲンとして認識する患者血清と抗原抗体反応をさせるとき、抗原抗体反応を生じない又は抗原抗体反応が低値であることを特徴とする。本発明のペプチドは、本発明のゼラチン(好ましくは豚又は鶏の軟骨由来のゼラチン)及び/又はその前駆体であるコラーゲンを、アルカリ又は酵素などで加水分解することにより得ることができる。分子量は用途によって適宜選択することができるが、500から50000が適当である。【0016】本発明のペプチドは従来のゼラチン又はコラーゲン加水分解物の基本的性質を変更することなく、さらに安全性を付与しているため、従来のゼラチン又はコラーゲン加水分解物が用いられる各種用途に利用できる。特に低分子ペプチドは水に非常によく溶け、低温下においてもゲル化特性がないことから、飲料、菓子などの食品、ワクチン用安定剤、パップ剤などの医薬品及びシャンプーなどの化粧品に利用できる。【0017】【発明の効果】本発明のゼラチン及びペプチドは、従来のゼラチンの特性を損なうことなく、しかもアレルゲン性がない又は非常に低い。従って、従来のゼラチンの利用分野で特に安全性が求められる食品、医薬品、化粧品用として有用である。しかも、本発明のゼラチン及びペプチドの原料として好適な豚、鶏の軟骨は食肉産業の副生物を利用できるため、資源の有効利用も図れ安価に製造することができる。【0018】【実施例】以下、実施例及び試験例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。実施例1低アレルゲン性ゼラチンの調製(1)骨部、肉片及び軟骨膜を除去した鶏剣状軟骨を粉砕、塩洗、水洗後、5倍量の飽和水酸化カルシウム水溶液に浸漬した。1ヶ月後沈殿物を回収し、中和、水洗を行った後、5倍量の水を加え50℃4時間加熱抽出し、さらに凍結乾燥を行って本発明の低アレルゲン性ゼラチンを得た。【0019】実施例2グミキャンディーの製造水(配合成分混合物100重量部当たり14部)にヨーグルトパウダー(6部)を加え加熱溶解した溶液に、砂糖(25部)、水飴(30部)及び低アレルゲン性ゼラチン(25部)を加え20分間煮詰めた。これを適当なケーシングに充填、成形した後、冷却してグミキャンディーを製造した。【0020】実施例3ゼリーの製造熱水(85部)に低アレルゲン性ゼラチン(3部)及び砂糖(10部)を加え溶解し、さらに、濃縮レモン果汁(2部)を加えて20分間煮た。これを型に流し冷却してゼリーを製造した。【0021】実施例4ハードカプセルの製造5%低アレルゲン性ゼラチン溶液をカプセル型のピンに付着させた後、冷却、乾燥を行った。水分含量15〜18%まで乾燥させた時点でピンを引き抜き、更に水分含量12〜15%まで乾燥させてハードカプセルを製造した。【0022】実施例5生ワクチン用安定剤の製造低アレルゲン性ゼラチン2gを0.5M塩酸溶液100mlに溶解した後、70℃3時間加水分解を行った。これを水に対して透析した後、凍結乾燥を行って、本発明のペプチド(生ワクチン用安定剤)を製造した。【0023】実施例6低アレルゲン性ゼラチンの調製(2)実施例1の鶏剣状軟骨に代えて、豚剣状軟骨を使用する以外は、実施例1と同様な方法で、本発明の低アレルゲン性ゼラチンを得た。【0024】試験例1低アレルゲン性の証明(in vitroでの検討)実施例1及び6記載の方法で調製した本発明のゼラチン、精製コラーゲン熱変性物及び市販のゼラチンに対するゼラチンアレルギー患者血清中の抗原特異IgE抗体との反応性について調べた。1.供試試料上記の本発明のゼラチンと、市販のI型コラーゲン熱変性物を主成分とする食用ゼラチン、医薬用ゼラチン及び医薬用ゼラチン加水分解物(表1)と、常法により精製した牛、豚、鶏のI型からIII型コラーゲンを50℃の水槽中で約30分間加熱変性(ゼラチン化)させたコラーゲン熱変性物(表2)を供試試料とした。【0025】【表1】【0026】【表2】【0027】2.試料液の調製本発明のゼラチン、市販のゼラチン、型別コラーゲン熱変性物は、0.1%溶液となるようPBS(リン酸緩衝生理食塩水、pH7.2)で希釈し、湯煎しながら十分に撹拌して溶解した。これらのゼラチン溶液を試料液とした。3.アレルギー患者血清ゼラチンアレルギーと診断され、市販の食用ゼラチン又は医薬用ゼラチンに対して、RAST(radio allergosorbent test)陽性を示したアレルギー患者6人(男女同数、年齢1〜9歳、平均4歳)から医師が少量の血液を採取し、常法により血清を分離して凍結保存したものを使用した。4.健常者血清アレルギー疾患を有さない健常者6人(男女同数、年齢5〜10歳、平均7歳)から上記と同様にして血清を調製し、凍結保存したものを使用した。【0028】5.試験方法上記の各試料液に対するゼラチンアレルギー患者血清中の抗原特異IgE抗体との反応性(抗原特異IgE抗体価)はELISA(enzyme−linked immunosorbent assay)法により調べた。因みにELISAは「藤原大美ら編,免疫研究法ハンドブック,199−206, 1992, 中外医学社, 東京」に記載された方法に準じて行った。ELISA法の操作概要を以下に示す。(1)上記の試料液を96穴ELISA用マイクロプレートに加え、抗原蛋白質をプレートに固定化する。(2)プレート洗浄後、検体や標識抗体の非特異的吸着を防ぐため、ヒト血清アルブミンを加えてブロッキングする。(3)プレート洗浄後、検体としてアレルギー患者血清と健常者血清をそれぞれ別個のウエルに加えて抗原と反応させる。(4)プレート洗浄後、アルカリホスファターゼ標識抗ヒトIgEε鎖ヤギ抗体を加えて反応させる。(5)プレート洗浄後、基質(ルミホス530;4−Methoxy−4(3−phosphatephenyl)spiro[1,2−dioxetane−3,2’−adamantane]disodium salt, 和光純薬工業)を加え、アルカリホスファターゼの脱リン酸化反応により生じた発光量を測定する。(6)測定は、プレートリーダー(LUMINOUS CT−9000D,ダイアヤトロン社)にて行い、その測定値をカウントとして表する。また、アレルギー患者血清中の抗原特異IgE抗体価は健常者血清のそれと比較することにより評価する。【0029】6.結果上記の試験の結果は、図1と図2に示す(何れも平均値±標準誤差)。なお、図1は各試料液に対するゼラチンアレルギー患者血清(黒塗り)及び健常者血清(白抜き)の抗原特異IgE抗体価を示す図であり、図2は各試料液に対するゼラチンアレルギー患者血清の抗原特異IgE抗体価を示す図である。図1に示されるように、ゼラチンアレルギー患者血清及び健常者血清を用いて、本発明のゼラチンおよび市販ゼラチンに対する抗原抗体反応について調べたところ、本発明のゼラチンに対するゼラチンアレルギー患者血清の特異IgE抗体反応性は低値であり、それらに対する健常者血清の特異IgE抗体価との間に有意な差は認められなかった。一方、市販の食用ゼラチン、医薬用ゼラチン及び医薬用ゼラチン加水分解物では、その何れに対してもゼラチンアレルギー患者血清の特異IgE抗体価は高値であり、それらに対する健常者血清の特異IgE抗体価との間に有意な差が認められた。【0030】また、図2に示されるように、同様にして各種コラーゲン熱変性物であるゼラチンについて調べたところ、ゼラチンアレルギー患者血清の本発明のゼラチン(豚II型コラーゲン熱変性物と鶏II型コラーゲン熱変性物)に対する特異IgE抗体価は低値であったが、これら以外のコラーゲン熱変性物であるゼラチンに対する特異IgE抗体価は高値であった。また、別途行った試験において、ゼラチンアレルギー患者血清の本発明のゼラチンに対する特異IgE抗体価と、これらに対する健常者血清の特異IgE抗体価との間に有意な差は認められなかった。即ち、ゼラチンアレルギー患者血清中には、本発明のゼラチン(すなわち、鶏軟骨由来ゼラチンと豚軟骨由来ゼラチン;及び豚II型コラーゲンと鶏II型コラーゲン熱変性物であるゼラチン)を抗原(アレルゲン)として認識する特異IgE抗体は殆ど認められなかった。【0031】なお、図示はしていないが、市販のグミキャンディー、ゼリー、ハードカプセル及びワクチンについても試料液を調製して試験したところ、市販ゼラチンとほぼ同様な結果であった。これに対して、実施例2、実施例3、実施例4及び実施例5において、本発明のゼラチンを使用し作製したグミキャンディー、ゼリー、ハードカプセル及び生ワクチン用安定剤では、ゼラチンアレルギー患者血清中の抗原特異IgE抗体との反応性は殆ど認められなかった。【0032】これらの結果から、ゼラチンアレルギー患者にとって市販の食用ゼラチン、医薬用ゼラチン及び医薬用ゼラチン加水分解物は血中の抗原特異IgE抗体との反応性が高く、避けなければならない場合が多いのに対し、本発明のゼラチンでは抗原特異IgE抗体との反応性が低く安全である。また、本発明のゼラチンを使用して作製されたグミキャンディー、ゼリー及びハードカプセル等は、ゼラチンアレルギー患者においても安全に利用できると考えられる。【0033】なお、市販の医薬用ゼラチン加水分解物では投与時のアレルギー反応や感作を防ぐため、低分子(分子量約3000)のペプチドに加水分解する方法がとられている。しかしながら、上記の試験の結果からも明らかなように、その効果は不十分なものであり、今日までゼラチンアレルギー患者を増加させた1つの要因となっている。一方、請求項4記載の本発明のペプチドにおいては、元々低アレルゲン性である請求項1、2又は3の何れかに記載のゼラチンを加水分解し低分子のペプチドとしているため、投与時のアレルギー反応の防止により有効である。【図面の簡単な説明】【図1】ゼラチンアレルギーと診断された患者血清の本発明ゼラチン並びに食用ゼラチン及び医薬用ゼラチン(ゼラチン又はゼラチン加水分解物)に対する抗原特異IgE抗体価を示す図である。【図2】ゼラチンアレルギーと診断された患者血清の牛、豚又は鶏のI型、II型又はIII型コラーゲン熱変性物に対する抗原特異IgE抗体価を示す図である。 ゼラチンを含有する食品において、ゼラチンがII型コラーゲンに由来するゼラチンであり、I型及びIII型コラーゲンに由来するゼラチンを実質的に含有しないことを特徴とする抗ゼラチンアレルギー用のゼラチン含有食品。 ゼラチンを含有する医薬製剤において、ゼラチンがII型コラーゲンに由来するゼラチンであり、I型及びIII型コラーゲンに由来するゼラチンを実質的に含有しないことを特徴とする抗ゼラチンアレルギー用のゼラチン含有医薬製剤。 ゼラチンを含有する化粧品において、ゼラチンがII型コラーゲンに由来するゼラチンであり、I型及びIII型コラーゲンに由来するゼラチンを実質的に含有しないことを特徴とする抗ゼラチンアレルギー用のゼラチン含有化粧品。 食品が、ゼリー、マシュマロ、グミキャンディー、ヨーグルト、ハム、ソーセージ、ババロア又はアイスクリームである請求項1記載のゼラチン含有食品。