タイトル: | 特許公報(B2)_品質良好な二酸化チオ尿素の製造方法 |
出願番号: | 1997184696 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | C07C 381/14,B01J 31/22,C07B 61/00 |
杉村 俊男 深井 忠広 山本 真司 JP 3876050 特許公報(B2) 20061102 1997184696 19970710 品質良好な二酸化チオ尿素の製造方法 株式会社ADEKA 000000387 斉藤 武彦 100071755 杉村 俊男 深井 忠広 山本 真司 20070131 C07C 381/14 20060101AFI20070111BHJP B01J 31/22 20060101ALI20070111BHJP C07B 61/00 20060101ALN20070111BHJP JPC07C381/14B01J31/22 ZC07B61/00 300 C07C381/14 B01J 31/22 特開平02−164831(JP,A) 特開平06−343872(JP,A) 特開平07−082243(JP,A) 特開平07−010832(JP,A) 特開昭59−052532(JP,A) 特開昭55−017339(JP,A) 3 1999029551 19990202 12 20040517 柿澤 恵子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明はチオ尿素と過酸化水素から二酸化チオを製造する方法に関し、特に品質良好で、取扱い易く、長期間安定な二酸化チオ尿素の結晶を取得する方法に関する。【0002】【従来の技術】二酸化チオ尿素はチオ尿素と過酸化水素を反応させて得られ、繊維工業、紙パルプ工業、化学工業等種々の分野でその還元力を利用して広く用いられている。チオ尿素と過酸化水素の合成は古くは1910年ジャーナル・オブ・ケミカル・ソサイティ97巻63頁で発表されている。工業的に利用し得る方法としては、1939年に米国特許第2,150,921号に0〜10℃の温度で飽和チオ尿素水溶液に過酸化水素を加える方法が、また1957年には米国特許第2,783,272号に、この技術を改良して収率90%以上を得る方法が提案されている。高収率(95〜96%)に二酸化チオ尿素を製造できる方法として同じ薬品を使用して水に不溶な四塩化炭素を溶媒として使用する方法がイタリー特許第579,119(1958年)で提案されている。また米国特許第3,555,486(1958年)にも高収率、高純度の二酸化チオ尿素を連続的に製造する方法が提案されている。また特公昭58−39,155には水溶媒の反応系で過酸化水素とチオ尿素との反応時に重炭酸アンモニウムを添加して収率を著しく改善する方法の提案がある。最近では特開平7−10,832、同7−82,243、同7−258,206にオンサイトで過酸化水素とチオ尿素を反応させ二酸化チオ尿素を分離することなく直接、製紙用パルプの漂白に供する方法及び設備の提案がなされている。【0003】【発明が解決しようとする課題】これらの技術の内、水系溶媒を使用する方法に関しては反応性、生成結晶の形状、特に結晶の流動性、純度等について検討が不充分である。また四塩化炭素等の溶媒を使用する方法においては、製造工程内に溶媒回収の設備が必要となるため過大な設備投資をしなければならないという問題がある。本発明の目的は水系溶媒中で過酸化水素とチオ尿素を反応させ二酸化チオ尿素を製造する方法において品質を改良して取扱い易い、長期間安定な二酸化チオ尿素の結晶を得ることにある。従って本発明の目的はより具体的には収率が向上するのみならず生成結晶の粒径の大な濾過性の優れた結晶状態を持つ長期間安定な二酸化チオ尿素を得る方法を提供することにある。【0004】【課題を解決するための手段】本発明は水媒体系でのチオ尿素と過酸化水素との反応により二酸化チオ尿素を製造する方法において、該反応をバナジウム錯体化合物触媒と重炭酸アンモニウムの存在下に行い二酸化チオ尿素を結晶として取得することを特徴とする二酸化チオ尿素の製造方法である。【0005】本発明では水媒体系でのチオ尿素と過酸化水素との反応させるに際し反応系にバナジウム錯体化合物触媒と重炭酸アンモニウムを存在させることを不可欠とする。従来技術のうち特開平7−10,832及び同7−82,243ではオンサイトで過酸化水素とチオ尿素を反応させる際の触媒としてIV、V又はVI族元素の酸素酸またはその塩を使用し且つキレート剤を併用する方法を提案しているが、バナジウム化合物のみが著効を示し、他の元素(化合物)では効果を示さないという特異性を示すことが特願平8−245,887で確認されている。例えばMo、W、Tiは触媒作用がなく、触媒無添加の場合と比較し、結晶収率は同等で、結晶純度が低く、外観も粉末状であり、生成物を粉末で利用する場合には流動性が悪く均一な自動供給が困難であるといった問題を生ずる。特開平7−10,832及び同7−82,243で開示しているバナジウム化合物触媒とキレート剤を併用する方法では収率は向上するものの結晶が微細化し、更に生成結晶中にバナジウム化合物が残存し、バナジウム化合物触媒を使用しない方法で得られた二酸化チオ尿素結晶より安定性が劣る等の欠点があることを特願平8−245,887で確認している。又、Mo、W、Vのヘテロポリ酸塩とキレート剤を併用する方法においては収率が低下する欠点がある。バナジウム化合物触媒とキレート剤を併用する上記の方法の問題点を解決する方法として、バナジウム化合物を使用する方法で得られた二酸化チオ尿素結晶をキレート剤で洗浄する方法を特願平8−245,887で提案しているが、その成果は充分なものではなかった。チオ尿素と過酸化水素の反応経路は、中国の化学誌『化学世界』1994年第35巻第11号573頁で発表されている。即ちチオ尿素は水溶液中で下記のような平衡状態で存在する(化学式1)。【0006】【化1】【0007】この水溶液に過酸化水素を添加すると初めて反応しホルムアミジンジスルフィッドを生成する(化学式2)。【0008】【化2】【0009】このホルムアミジンジスルフィッドが更に過酸化水素と反応することにより二酸化チオ尿素が生成する(化学式3)。【0010】【化3】【0011】この中間生成物であるホルムアミジンジスルフィッドから二酸化チオ尿素生成への反応は律速段階であり、反応液中にも、また生成結晶中にもホルムアミジンジスルフィッドは存在する。生成した二酸化チオ尿素は徐々に加水分解を受け尿素とスルフィン酸となり、このスルフィン酸は強い還元剤であり、更に過酸化水素と反応して硫酸が生成する(化学式4・化学式5)。【0012】【化4】【0013】上記の反応が進むと反応液中の硫酸濃度が上昇し、ホルムアミジンジスルフィッドから二酸化チオ尿素への酸化反応が停滞してホルムアミジンジスルフィッドの生成量が増加し、二酸化チオ尿素の収率の低下を招くと共に生成した二酸化チオ尿素結晶中のホルムアミジンジスルフィッドの含有量も増加する。ホルムアミジンジスルフィッドが生成結晶中に存在することにより結晶が粉末状になり、純度が低下し、更に長期間保存すると水分の存在下で徐々に分解して硫黄を遊離すること(化学式6)、及び反応によって生成した二酸化チオ尿素は副生した硫酸により徐々に分解して硫黄を遊離すること(化学式7)等がZh.Org.Khim.3(6),1002〜5,1967に記載されている。この遊離した硫黄により結晶が黄変化することを特願平8−245,887で確認している。【0014】【化5】【0015】ホルムアミジンジスルフィッドの生成を抑制するために特公昭58−39,155で反応液に適時重炭酸アンモニウムを添加し副生する硫酸を中和することによりホルムアミジンジスルフィッドから二酸化チオ尿素への反応を促進させる方法を提案しているが、充分な効果が得られる方法でない。特開平7−10,832及び同7−82,243で開示しているバナジウム化合物触媒とキレート剤を併用する方法で収率が向上する原因は、律速段階であるホルムアミジンジスルフィッドから二酸化チオ尿素への酸化反応を促進しているものと考えられる。一方、バナジウムのヘテロポリ酸塩を触媒として使用する方法では、副生する硫酸によりヘテロポリ酸塩が強酸性のヘテロポリ酸になるため、ホルムアミジンジスルフィッドから二酸化チオ尿素への反応を抑制しているものと考えられる。また二酸化チオ尿素の分解により硫黄を生成する反応は二酸化チオ尿素結晶中にバナジウム化合物触媒が残存すると促進されるものと考えられる。【0016】従来の二酸化チオ尿素の分析方法は酸化還元容量分析法であるため、還元物質であるホルムアミジンジスルフィッドも併せて分析されておりホルムアミジンジスルフィッドの分離分析は不可能でありホルムアミジンジスルフィッドも二酸化チオ尿素として分析されている。従って従来の製造方法では見掛け上高収率で二酸化チオ尿素が得られるとしている。本発明者等は、二酸化チオ尿素中のホルムアミジンジスルフィッドの分離定量分析方法の研究を鋭意行ない、高速液体クロマトグラフィーによる分析方法を確立し、二酸化チオ尿素の従来技術の製造方法と比較して本発明方法の優位性を確認することが可能になった。高速液体クロマトグラフィーによる分析方法は以下の通りである。使用カラム Finepak Sil C18-5移動相 水移動相流量 0.7ml/分検出器 UV λ 260nmサンプル濃度 二酸化チオ尿素結晶を分離した反応濾液を10倍希釈し使用サンプル量 2μl以上の分析方法で二酸化チオ尿素の分析を行なうとリテンションタイム6.2分付近で二酸化チオ尿素(TUD)の吸収が、7.0分付近でホルムアミジンジスルフィッド(FAD)の吸収が、また3.5分付近でシアナミドの吸収が認められる(図1)。【0017】上記の高速液体クロマトグラフィーによる分析方法で反応の結果を評価すると本発明のバナジウム化合物の錯体を触媒として使用した場合には意外にも収率が向上し、結晶が微細化せず、結晶中にバナジウム化合物が残存しない効果を示すことを発見した。これは結晶取得を目的とした過去の反応系にみられなかった特異的な挙動といえる。【0018】本発明方法で用いるチオ尿素と過酸化水素は結晶取得に適した状態(濃度)のものを用いる以外は特段の制限はない。チオ尿素は水溶液からスラリーの状態まで使用できるが過酸化水素との反応性及び後段での濃縮を考慮すれば100g/l以上の濃度が好ましい。過酸化水素はチオ尿素に対してモル比で2モル倍以上あればよいが、反応収率、経済性等を加味して理論量の100〜105%の範囲が特に望ましい。また2モル倍以下でも結晶は得られるが未反応及びのチオ尿素及び中間生成物であるホルムアミジンジスルフィッドが多量に残り、濾過し難く更に得られた結晶が不安定であり余り好ましくない。又、過酸化水素は濃厚なものが望ましいが反応の危険性、後段の濃縮を考慮すれば50〜70重量%が望ましい。【0019】バナジウム錯体化合物は窒素含有の芳香族化合物が配位した錯体が好ましく、特に好ましい具体例としては以下の1)〜3)の構造式を基本構造として有するバナジウム錯体が挙げられる。1)サレン化合物(サレン及びその誘導体)を使用した以下の構造式を有する錯体【0020】【化6】【0021】2)フタロシアニン化合物(フタロシアニン及びその誘導体)を使用した以下の構造式を有する錯体【0022】【化7】【0023】3)ポルフィリン化合物(ポルフィリン及びその誘導体)を使用した以下の構造式を有する錯体【0024】【化8】【0025】上記の構造式は適宜の置換基を含有しうる。【0026】バナジウム錯体化合物の添加量は反応系中の濃度がバナジウムとして50ppm以上が好ましく、特に40〜120ppmが反応収率及び製品純度の点で好ましい。併用する重炭酸アンモニウムの添加量は反応系中の濃度として3g/l以上が好ましく、特に5〜15g/lが生成結晶の安定性の点で好ましい。反応温度は10℃以下が好ましい。【0027】反応の進行に伴い二酸化チオ尿素の結晶が析出し固液混合相となる。析出結晶は反応終了までは反応系に共存させておいてもまた連続的ないし断続的に反応系から分離してもよい。特に反応完結まで固液混合相を維持し、その後、二酸化チオ尿素の結晶を熟成させ必要に応じ蒸発により系を濃縮後、二酸化チオ尿素の結晶を濾別することが好ましい。かくして製造された二酸化チオ尿素の結晶は純度も高く、結晶状態も良好で、流動性も優れ取扱い易く、結晶中にバナジウムの残存量が殆どなく、且つ長期間保存に対しても安定性に優れた二酸化チオ尿素の結晶が得られる。【0028】【実施例】次に実施例及び比較例により本発明を説明する。尚、反応結果は結晶収率(対チオ尿素)、結晶粒径(メディアン径)、結晶中のバナジウムの含有量及び反応濾液中の副生成物の含有量を測定して評価した(表1)。【0029】比較例1チオ尿素200g/lの水溶液を10±1℃に冷却しながらH2 O2 (60%)を所定量(300g/l)を加える。次いで0℃で一定時間(1〜2時間)熟成した後、全量の約60%を蒸発させ、蒸発濃縮液から二酸化チオ尿素を濾別、乾燥した。【0030】比較例2チオ尿素を200g/lの水溶液にメタバナジン酸ナトリウムを150mg/l、重炭酸アンモニウムを10g/l及びEDTA−2Naを400mg/lを添加し10±1℃に冷却しながらH2 O2 (60%)を所定量(300g/l)を加える。次いで0℃で一定時間(1〜2時間)熟成した後、全量の約60%を蒸発させ、蒸発濃縮液から二酸化チオ尿素を濾別、乾燥した。【0031】比較例3チオ尿素200g/lの水溶液にバナジウムのヘテロポリ酸〔H4 (PW11VO40)〕のカリウム塩をバナジウム濃度として100mg/l及び重炭酸アンモニウムを10g/lを添加し10±1℃に冷却しながらH2 O2 (60%)を所定量(300g/l)を加える。次いで0℃で一定時間(1〜2時間)熟成した後、全量の約60%を蒸発させ、蒸発濃縮液から二酸化チオ尿素を濾別、乾燥した。【0032】比較例4チオ尿素200g/lの水溶液にメタバナジン酸ナトリウムを150mg/lを添加し10±1℃に冷却しながらH2 O2 (60%)を所定量(300g/l)を加える。次いで0℃で一定時間(1〜2時間)熟成した後、全量の約60%を蒸発させ、残留濃縮液から二酸化チオ尿素の結晶を濾別する際にEDTA−2Naを100ppm含む水溶液で結晶の約1/3倍量で洗浄してから濾過し、乾燥した。【0033】実施例1〜3チオ尿素200g/lの水溶液に所定のバナジウム錯体化合物をバナジウム濃度として100mg/l及び重炭酸アンモニウムを10g/lを添加し10±1℃に冷却しながらH2 O2 を所定量(300g/l)を加える。次いで0℃で一定時間(1〜2時間)熟成した後、全量の約60%を蒸発させ、蒸発濃縮液から二酸化チオ尿素を濾別、乾燥した。用いたバナジウム錯体化合物は実施例1がサレン、実施例2がフタロシアニン、実施例3がポルフィリンである。【0034】【表1】【図面の簡単な説明】【図1】二酸化チオ尿素結晶分離後の反応濾液の高速液体クロマトグラフィー図。 水媒体中でのチオ尿素と過酸化水素との反応により二酸化チオ尿素を製造する方法において、該反応をサレン化合物より誘導されるバナジウム錯体化合物、フタロシアニン化合物より誘導されるバナジウム錯体及びポルフィリン化合物より誘導されるバナジウム錯体からなる群から選択されるバナジウム錯体化合物からなる触媒と重炭酸アンモニウムの存在下に行い二酸化チオ尿素を結晶として取得することを特徴とする二酸化チオ尿素の製造方法。 該反応をチオ尿素を100g/1以上の濃度、過酸化水素を90g/1以上の濃度で接触させて行う請求項1記載の方法。 バナジウム錯体化合物がサレン化合物、フタロシアニン化合物又はポルフィリン化合物の錯体である請求項1又は2記載の方法。