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タイトル:特許公報(B2)_グルコン酸および酢酸含有発酵液の製造方法
出願番号:1997113647
年次:2004
IPC分類:7,C12J1/00,C12P7/44


特許情報キャッシュ

多山 賢二 杉山 聡 毛受 敬之 遠山 融 安達 典孝 船戸 二郎 川村 吉也 JP 3603980 特許公報(B2) 20041008 1997113647 19970416 グルコン酸および酢酸含有発酵液の製造方法 株式会社中埜酢店 390022644 久保田 藤郎 100074077 多山 賢二 杉山 聡 毛受 敬之 遠山 融 安達 典孝 船戸 二郎 川村 吉也 20041222 7 C12J1/00 C12P7/44 JP C12J1/00 Z C12P7/44 7 C12J 1/00 C12P 7/44 特開平02−174670(JP,A) 特許第115345(JP,C1) 特開平05−023163(JP,A) 特開平10−057009(JP,A) 特開昭62−051976(JP,A) 特開平02−069173(JP,A) 4 1998286083 19981027 12 20040405 内田 淳子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、グルコン酸および酢酸含有発酵液の製造方法に関し、詳しくはアセトバクター属細菌を用いて、高濃度のグルコン酸と酢酸を含有する発酵液を製造する方法に関する。【0002】【従来の技術】現在市販されている食酢、特に一般家庭用食酢は、酸度4.2〜5%のものであり、その酸の主体を成すのは酢酸であるが、0.1〜0.8%程度のグルコン酸も含まれていることが、本発明者らの分析によって確認されている。グルコン酸は、食酢製造の原料である穀物などから糖化作用によって作られるグルコースを基質として酢酸発酵中に生成する物質であって、グルコン酸をより多く含有する食酢は香味が良くなるとされている。食酢製造においては、酢酸の強い防腐性のため、純粋培養は不要であり、古くから開放系の安価な製法が採用されてきた。酢酸菌は、アセトバクター属に属するものとグルコノバクター属に属するものの2群に分けられているが、このうちグルコノバクター属細菌は、グルコン酸を高濃度に生産、蓄積できることが知られている。しかし、一般にグルコノバクター属細菌は酢酸耐性が低いため、酢酸濃度が高い食酢を作るための酢酸発酵には適しておらず、また開放系での発酵は難しい。これに対して、アセトバクター属細菌は一般に酢酸耐性が高く、酢酸発酵に適しているが、通常の酢酸発酵におけるグルコン酸生成量は低い。例えば、特開平2−174670号公報には、アセトバクター属細菌を用いて酢酸発酵を行わせた後に、通常よりも発酵期間を長くしても、0.7%のグルコン酸が生成したにすぎないことが記載されている。また、同様にアセトバクター属細菌を用いて酢酸発酵を行った後、さらに発酵期間を延ばしても、生成するグルコン酸量は精々1%程度であることも報告されている(岐阜市立女子短期大学研究紀要、42巻、39頁、1993年)。上記の如く、2%以上のグルコン酸を含有する食酢を製造することは非常に困難であり、実際にこのような食酢が製造されたという報告はない。【0003】【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、グルコン酸生成能は劣るものの、防腐作用の高い酢酸存在下でも生育可能なアセトバクター属細菌を用いて発酵を行い、酢酸と共に2%以上という高濃度でグルコン酸を含有する香味の良い食酢の発酵液を効率よく、しかも低コストで製造する技術を開発することである。この技術が完成すれば、グルコン酸を高濃度に含有し、香味の改善された食酢を製造することが可能となる。【0004】本発明者らは、アセトバクター・キシリナム(Acetobacter xylinum)の糖質代謝の研究を行っている過程で、本菌が酢酸とグルコースの2者もしくはこれらにエタノールを加えた3者が共存する環境下において、同じ酢酸菌であるグルコノバクター属の菌株とは極めて異なる代謝形式をとることを見出した。すなわち、アセトバクター・キシリナムを用いてエタノールを殆ど含まない発酵液中でグルコン酸発酵を行わせた場合、発酵液中に酢酸が存在しているときには、単位菌体当たりのグルコース酸化能(グルコン酸生成能)は酢酸を含まない発酵液中でグルコン酸発酵を行っているときと殆ど変わらないが、代謝が変化し、菌体量が増加し、結果としてグルコン酸生成が著しく向上することを見出した。【0005】さらに、グルコン酸単独発酵あるいはグルコン酸発酵と酢酸発酵の並行発酵を効率よく行わせるために、発酵液中の残留エタノール濃度を極めて低レベルに維持することが重要であることも明らかになった。しかも、これらの知見に基づく制御は、発酵安定時に実施されるのが、最も効果的であることも見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたのである。また、エタノールを殆ど含まない発酵液中で増殖しているアセトバクター・キシリナムは、グルコノバクター属の菌株と異なり、潜在的にアルコール脱水素酵素(ADH)およびアルデヒド脱水素酵素(ALDH)の活性を有している。そのため、発酵液中にエタノールが供給されれば、直ちに酢酸発酵が行われる。したがって、このような性質を有する菌株のうちADHおよびALDHの活性が高いものを使用すれば、グルコン酸発酵と酢酸発酵が同時に並行し、かつ高いレベルで行うことができるものと期待される。【0006】【課題を解決するための手段】本発明は、アセトバクター属細菌を用い、通気培養によってグルコン酸および酢酸含有発酵液を製造する方法において、発酵安定時の発酵液の平均酢酸濃度を0.2%(w/v)以上、平均エタノール濃度を0.2%(v/v)以下にすることを特徴とする2%(w/v)以上のグルコン酸と酢酸を含有する発酵液の製造方法を提供するものである。【0007】【発明の実施の形態】本発明において発酵安定時とは、発酵が安定し、グルコン酸および酢酸を含有する発酵液が製造できる状態を意味するが、選択する発酵法によって発酵の安定時期が相違し、回分培養や連続回分培養においては、菌体が対数増殖期にある状態を意味する。一方、原料を流加しながら、その流加速度に相当する速度で発酵液を抜き出す、いわゆる連続発酵においては、流加速度並びにグルコン酸濃度が安定している状態を意味する。これらの状態にあっては、酢酸菌の増殖活性が高く、その際にグルコン酸生産能を高めることができれば、より優れた生産性を達成できる。本発明では、このような発酵安定時にグルコン酸生産能を高める方法を開発して、目的を達成することができたのである。また、発酵安定時の発酵液とは、上記の発酵が継続している発酵槽内の発酵液を意味する。本発明での平均酢酸濃度および平均エタノール濃度とは、該発酵液中の一部をサンプリングして酢酸濃度とエタノール濃度を測定する作業を複数回実施した場合のこれら濃度の平均値を意味する。例えば、24時間中に数分〜数時間毎に発酵液中の一部をサンプリングして酢酸濃度とエタノール濃度を測定した場合の、全測定値の平均値を意味する。【0008】本発明は、グルコン酸および酢酸含有発酵液の製造方法であり、特にグルコン酸濃度が2%(w/v)以上、更に好ましくは4%(w/v)以上の発酵液を得るものである。グルコン酸の定量は、高速液体クロマトグラフ法あるいは市販酵素キット法によって行われるが、本発明においては、天然物を原料に用いても測定値を正確なものとするため、カラムからの溶出時間のみで物質を同定する液体クロマトグラフ法よりも特異性の高い酵素キット法によって実施している。なお、市販酵素キットは、ベーリンガー・マンハイム社製のFキットを使用した。【0009】また、エタノールの定量は、ガスクロマトグラフ法、市販酵素キット法、バイオセンサー法などにより常法通りに行うことができるが、ガスクロマトグラフ法は妨害物質の影響を受けにくく、特異性や感度が高いので好ましい方法である。グルコースの定量は、揮発誘導体としてガスクロマトグラフ法により定量する方法の他、高速液体クロマトグラフ法、市販酵素キット法、バイオセンサー法などで行うことができるが、これらのうち市販酵素キット法は特異性が高く、好ましい方法である。次に、酢酸の定量方法としては、中和滴定法が簡便であるが、この方法は試料中に含まれる酸の殆どすべてが酢酸である場合にのみ有効である。他の種類の無機酸や有機酸が比較的多く含まれている場合は、高速液体クロマトグラフ法や酵素キット法等によって酢酸を選択的に定量することが必要である。【0010】本発明において用いるアセトバクター属の細菌とは、バージーズ マニュアルオブ ディターミナテイブ バクテリオロジー(Bergey’s Manual of Determinative Bacteriology, J.G.Holt et al., Williams & Wilkins, USA)、第9版、71頁および117頁(1994年)に記載されているアセトバクター属細菌を意味する。【0011】本発明のグルコン酸および酢酸含有発酵液の製造に用いる原料は、穀物、果実、酒粕などアセトバクター属の細菌が利用できて増殖可能なものであれば、特に制限はない。これら原料は、2種以上を組み合わせて使用することもできる。しかし、グルコン酸は酢酸菌によってグルコースから生成されるため、原料液にはグルコースが含まれていなければならない。発酵に用いる装置は、食酢製造に常用されているものの他、キャビテーター、アセテーターと呼ばれている装置等も使用することができる。また、近年開発された固定化菌体等を用いるバイオリアクターのような通気発酵装置も使用することができる。攪拌を伴う通気培養の条件については、従来の食酢製造の場合に採用されている条件をそのまま採用することができ、例えば空気、酸素ガスなどの酸素を含む気体を通気管を通じて供給し、通気量は培養条件等を考慮して適宜決定すればよいが、一般的には0.02〜1.0vvm(通気容量/液容量/分)にて発酵液の下部から供給する。供給された酸素含有気体は、攪拌機で分散させて発酵液中の溶存酸素濃度が0.2〜8.0ppmに保たれるようにコントロールする。また、発酵温度についても従来法と同様に設定すればよく、通常25〜40℃であり、発酵期間は使用する菌株の特性、培地組成、通気攪拌条件などにより異なるが、半連続発酵の場合は通常、1バッチの生産に6時間〜5日を要する。【0012】本発明の発酵液を製造するにあたり、酢酸発酵を行わずにグルコン酸発酵液を製造する場合は、発酵液中に残留する平均エタノール濃度を0.2%(v/v)以下とするだけでなく、発酵液中の平均酢酸濃度を0.2%(w/v)以上、好ましくは1%(w/v)以上とすることが大切である。このような酢酸の濃度の条件を設定することにより、発酵液のpHは顕著に酸性側に傾き、一般的な細菌の増殖を抑制することができる。なお、防腐力を高めるためには、酢酸濃度は高い程よいが、あまり高すぎると、アセトバクター属細菌の増殖が貧弱になり、結果的に高い生産性を維持できなくなる。それ故、使用する菌株の能力に応じて適度な濃度域を決定すべきである。例えば、アセトバクター・キシリナムの場合は、かなりの防腐効果のある酢酸1%(w/v)という条件で十分に生育することができ、開放系での発酵が可能である。【0013】本発明では、前記したように、アセトバクター属細菌を用い、通気培養によってグルコン酸および酢酸含有発酵液を製造する方法において、発酵安定時の発酵液の平均酢酸濃度を0.2%(w/v)以上、平均エタノール濃度を0.2%(v/v)以下にする。また、本発明により製造される発酵液は2%(w/v)以上のグルコン酸を含むものであるから、グルコン酸発酵を行うための発酵液には、少なくとも2%(w/v)のグルコースが含まれていることが必要である。しかし、高濃度のグルコン酸を得ようとして、初発の発酵液中のグルコース濃度を高くしすぎると、浸透圧耐性の低い酢酸菌では生育が乏しくなるので、このような場合には、酢酸菌の生育に伴ってグルコースを供給する流下培養法を採用するとよい。別の態様として、通常の酢酸発酵を行っている発酵液と発酵槽をそのまま用いて、これからグルコン酸発酵へ移行させることもできる。この場合は、フィードする原料液の組成を変えて、エタノール濃度が0.2%(v/v)以下になるように制御しながら、例えばエタノール濃度が0.2%(v/v)以下、酢酸濃度が0.2%(w/v)以上で、かつグルコース濃度が2%(w/v)以上のものを加えて行くことにより、適切なアセトバクター属細菌を用いている限り、グルコン酸を2%(w/v)以上含有する発酵液を得ることができる。【0014】グルコン酸発酵と酢酸発酵を同時に行う場合には、発酵液中の残留エタノール濃度を0.2%(v/v)以下、好ましくは0.1%(v/v)以下に保持しながら発酵を行う。残留エタノール濃度が0.2%(v/v)を大きく超えると、酢酸発酵を活発にさせてしまうため、菌体量が相対的に減少し、グルコン酸の生成速度や蓄積量が減少するようになる。残留エタノール濃度は0%(v/v)であっても構わない。用いる菌株によっては、発酵液中の残留エタノール濃度をゼロとしてしまうと、香りが悪化する場合もあるが、このようなときは、活性炭処理によって異臭の原因物質を除くことにより、問題を解消できる。なお、活性炭処理では満足できない場合は、セラミックフィルターのような濾過装置を使用し、分子量1万以上の高分子物質を除去した後、活性炭処理すれば、効果的に異臭を除くことができる。【0015】発酵形式としては、回分発酵方式以外にも、より生産性の高い方法として、発酵終了液の一部を種として残し、次の発酵を開始する半連続発酵方式を採用することができる。さらに効率的な製造法を望むときは、連続発酵方式を行う。この方式は、発酵槽に原料液を供給する一方で、発酵液の一部を抜き出すものであるが、液の供給と排出が常に行われている必要はなく、間欠方式(パルス方式)を採用してもよい。連続発酵方式を採用する場合、発酵槽の一方の口からエタノールを0.2%(v/v)以上含む原料液が注入され、他方の口から発酵液が抜き出されるため、発酵槽のスケールが大きくなればなる程、発酵槽の各部位で微妙にエタノール濃度が異なることが予想される。【0016】しかしながら、通常の通気攪拌培養であれば、発酵槽内は十分な攪拌、混合が行われるため、原料供給口からある程度離れたところではエタノール濃度が大きく異なることはない。また、連続発酵における残留エタノール濃度の管理がどの程度の頻度で行われなければならないかという問題も当然ある。使用する酢酸菌の種類によっても異なるが、理想的には数分から4時間以内の間隔でエタノール濃度を測定することが必要である。発酵安定時において発酵液中の平均エタノール濃度が0.2%(v/v)以下に制御されると、高いグルコン酸生産性を維持することができる。前記したように、本発明において「平均酢酸濃度」、「平均エタノール濃度」とは、継続して行われている発酵液中の一部をサンプリングして酢酸濃度とエタノール濃度を測定する作業を複数回実施した場合のこれら濃度の平均値を意味する。発酵を継続しているときの発酵液中の酢酸濃度やエタノール濃度は変動しているため、或る測定時点では規定された数値範囲を逸脱していることがあっても、所定期間(例えば1日)内の平均値が規定された数値範囲内であれば、目的とする発酵液の生産性が大きく低下することはない。【0017】連続発酵や半連続発酵に使用する酢酸菌は、該菌が保有するADHおよびALDHの両酵素の比活性が、エタノール濃度が0.2%(v/v)以下であり、かつグルコースおよび酢酸を含有する発酵液中で生育したときでも、0.1以上を示すものが望ましい。ここで、ADHおよびALDHの酵素活性の測定は、フェリサイアナイド法で実施するが、基本的には文献(Methods in Enzymology, vol. 89, p.450, 1982)の記載に準じて行った。すなわち、培養液から遠心分離によって集菌し、pH6.0の50mMリン酸カリウム緩衝液で洗浄後、この緩衝液に懸濁してフレンチプレッシャー・セルプレス(20,000psi)によって菌体破砕液を調製したのち、酵素活性を測定した。なお、これらの工程はすべて4℃以下で実施した。酵素反応液の組成は、pH6.0のマクイルバイン緩衝液0.7ml、酵素溶液0.1ml、1Mのエタノールもしくはアセトアルデヒドの水溶液0.1mlおよび0.1Mフェリサイアナイド水溶液0.1mlの合計1mlである。反応温度は30℃、反応時間5分間、酵素溶液0.1mlに含まれる蛋白量は0.01〜0.3mgとした。酵素反応の停止から吸光度の測定、計算は上記の文献に従った。なお、蛋白含量の測定を含めた酵素比活性測定法は、上記の文献の記載に準じた。この方法で測定したADHおよびALDHの両酵素の比活性が0.5以上である酢酸菌は、本発明のグルコン酸含有酢酸発酵液の製造にさらに好適である。具体的にはアセトバクター・キシリナム(A. xylinum)ATCC12878が好ましく、本菌株を使用することによって、高濃度のグルコン酸発酵液やグルコン酸含有酢酸発酵液を効率よく製造することができる。【0018】【実施例】以下に、本発明を実施例などにより詳しく説明する。なお、本明細書において「酸度」とは、次のような手法、計算方法によって算出したものであり、サンプル中のすべての酸の全酸度を酢酸に換算している。測定サンプル5mlをビーカーにとり、1N水酸化ナトリウムを用い、フェノールフタレインを指示薬として中和滴定し、得られた滴定数(ml)を1.2倍した値を「酸度(%)」とした。なお、グルコン酸含量が高い場合には、中和滴定の終点を決定する際に、指示薬のフェノールフタレインの赤色が、中和液を十分に攪拌した状態で1分間以上保持された時点を終点とすると、滴定による測定誤差が少なくなる。酢酸含量あるいは酢酸濃度とは、酢酸のみを選択的に定量できる高速液体クロマトグラフ法もしくは酵素法によって算出した酢酸の含量または濃度を意味する。本発明では、ランニングコストの安価な高速液体クロマトグラフ法を採用した。【0019】試験例1米糖化液(グルコース約40%)を26.5%、酸度15%の高酸度食酢を14%、水を59.5%の割合で混合して作成した原料培地にアセトバクター・キシリナム ATCC 12878 株の培養液を、培地の5%(容量)相当添加してグルコン酸発酵を行った。ただし、いくつかの試験区は発酵用アルコール(アルコール濃度約50%(v/v)、酢酸濃度約5%(w/v))を発酵途中に発酵液に添加し、対数増殖期に第1表の数値となるように制御した。なお、発酵は5L容量のミニジャーファーメンターに発酵液量が約3Lとなるように培地を入れ、温度30℃、回転数600rpm、通気量0.2vvmで行った。【0020】エタノールを殆ど含まない試験区Iの他に、発酵用アルコールを添加しながらエタノール含量を0.10%とした試験区II、0.20%とした試験区III 、エタノール含量を0.31%とした試験区IVについて発酵試験を行った。すべての発酵は、グルコン酸が約2%に到達した時点で終了とした。試験区I〜IVのそれぞれにおいて要した発酵時間を第1表に示す。【0021】【表1】【0022】表から明らかなように、発酵安定時、すなわち対数増殖期に発酵液中にエタノールが殆ど含まれない試験区Iおよび試験区IIの方がグルコン酸発酵が促進され、発酵時間も短縮できることがわかる。このことから、グルコン酸発酵をスムーズに進行させ、かつ発酵時間を短縮するためには、発酵安定時の発酵液のエタノール含量を0.20%以下とすればよく、さらに好ましくは0.10%以下とするのがよいことがわかった。【0023】試験例25L容量のミニジャーファーメンターに、第2表に示す組成の培地(酸度15%の高酸度食酢の添加量を変えた試験区A〜E)を発酵液量が約3Lとなるように入れ、これにアセトバクター・キシリナム ATCC 12878 株を接種して培養を行った。培養は、温度30℃、回転数600rpm、通気量0.2vvmの条件で行った。発酵期間中、第2表に示した培地をフィード液として使用し、発酵液中の酢酸濃度が第2表の発酵液の欄に示した値となるように調整して連続発酵を行った。連続発酵安定時(任意の24時間に、7回分析したときの平均値)における発酵液の分析値などを第2表に示す。【0024】【表2】【0025】第2表から明らかなように、高いグルコン酸生産性を示したのは試験区B〜E、すなわち発酵液中の酢酸濃度を0.2%〜2.6%として培養した試験区である。なお、表中の希釈率(/hr)とは、1時間当たりに注入されたフィード液(原料液)を発酵槽内の発酵液量で除した値を意味する。単純に高いグルコン酸生産性を求めるのであれば、発酵液中に含有させる酢酸の濃度を0.2%以上とすればよい。一方、開放系での発酵液生産を考えて酢酸による高い防腐性を求めるならば、発酵液中には1%以上の酢酸を含有させるべきである。以上のことから、防腐性を高く維持しながらも、高いグルコン酸生産性を得るための発酵液中の酢酸濃度は、0.2%以上が良く、さらには1%以上がより好ましい範囲であることがわかる。【0026】試験例3試験例1の培地にアセトバクター・キシリナム ATCC 12878 株の培養液を、培地の5%(容量)相当添加し、試験例1と同じ条件で発酵を開始した。発酵が進みグルコン酸濃度が上昇してきた段階で第3表の様々な組成のフィード液を連続的に供給し、発酵液中の残留エタノール濃度が第3表に示した値となるように制御した。連続発酵安定時(任意の24時間に、7回分析したときの平均値)における発酵液組成の分析値を第3表に示す。【0027】【表3】【0028】第3表の結果から、残留エタノール濃度が0.20%以下であれば、高いグルコン酸生産性を示すことがわかり、さらに0.10%以下の場合が良好であることがわかる。なお、第3表中の濁度は660nmでの吸光度(1cm)を示し、残留エタノール濃度が0%とは、0%〜0.04%の範囲であることを示す。同様に、0.09%、0.20%または0.31%とは、それぞれ0.05%〜0.14%の範囲、0.15%〜0.24%の範囲、0.26%〜0.35%の範囲であることを示す。【0029】試験例4この例では、各種酢酸菌のADHおよびALDHの比活性について検討した。すなわち、グルコノバクター・ノンオキシグルコニカス(Gluconobacter nonoxygluconicus)IFO 3275、グルコノバクター・オキシダンス(G. oxydans) IFO 12467、グルコノバクター・サブオキシダンス(G. suboxydans) IFO 12528 、アセトバクター・キシリナム(Acetobacter xylinum ) ATCC 12878および食酢工場の食酢醪からの分離株(アセトバクター属菌(A. sp. NI−09))の計5株を試験に供した。培地(グルコース10%、酢酸0.2%、酵母エキス0.5%、ポリペプトン0.2%含有)100mlを500ml容の振とうフラスコに入れ、供試菌を接種し、30℃で3日間往復振とう培養を行った(150往復/分)。培養終了後、菌体をフレンチプレスにより破砕して得た破砕物を用いて前記フェリサイアナイド法によりADHおよびALDHの比活性を測定した。また、グルコン酸発酵の途中で、エタノールを最終濃度が1%となるように添加した場合に、6時間後の培養液中の酢酸含量の変化についても調べた。これらの結果を第4表に示す。【0030】【表4】【0031】表から明らかなように、ADHおよびALDHの比活性が、各々0.1(units/mg蛋白)以上であれば、酢酸発酵を行うことが可能であることがわかる。なお、表中のADH、ALDHの値は、菌体破砕液の比活性(units/mg蛋白)を示し、酢酸含量の変化を示す記号は下記の意味である。−: 酢酸増加量が0.1%未満+: 酢酸増加量が0.1%以上0.2%未満++: 酢酸増加量が0.2%以上0.6%未満【0032】実施例15L容量のジャーファーメンターに、小麦糖化液(グルコース約40%)12.5%、食酢(酸度15%の高酸度食酢)13.3%および水74.2%からなる培地3Lを入れ、これにアセトバクター・キシリナム ATCC 12878 株を接種し、通気攪拌培養法(温度30℃、回転数600rpm、通気量0.2vvm)により培養した。菌の生育に伴い、上記の培地をフィードして連続発酵に移行した。連続発酵安定時の残留エタノール濃度が0.2%以下となるように制御して発酵を続けた。なお、このときの平均エタノール濃度は0.01%であった。【0033】その結果、発酵液中の平均グルコン酸濃度は2.5%、酢酸濃度は1.5%であった。希釈率0.02/hrであることから、本発酵におけるグルコン酸生産性は0.5g/L/hrであった。また、得られた発酵液は香味の点で全く問題のないものであった。【0034】実施例25L容量のジャーファーメンターに、米糖化液(グルコース約40%)25.0%、食酢(酸度15%の高酸度食酢)7.0%および水68.0%からなる培地3Lを入れ、これにアセトバクター・キシリナム ATCC 12878 株を接種し、実施例1と同様の条件で通気攪拌培養を行った。このときの平均エタノール濃度は0.01%であった。発酵途中、高酸度食酢をフィードして酢酸濃度を0.2%または1%に維持した場合、各々3日間または2.5日間でグルコン酸を約7%蓄積することができた。また、グルコン酸濃度が約7%に到達した時点で、発酵液の9割を抜き出し、これに相当する量の培地(上記の培地で食酢の配合割合を変え、酢酸濃度を0.7 %および1.5 %に変更した培地)を注入して再び発酵を再開する、いわゆる半連続回分培養を行った。その結果、発酵安定期の発酵液中の酢酸濃度が各々0.2%および1%のどちらの場合も、平均約2日間で5サイクル継続することができ、このときの5サイクルの平均グルコン酸濃度は約7%であった。【0035】一方、この培地を連続発酵用のフィード液として用いた場合、発酵安定期の発酵液中の酢酸濃度0.2%のときはグルコン酸濃度が6.5%の発酵液が希釈率0.025/hrで、また酢酸濃度1%のときはグルコン酸濃度が6.1%の発酵液が希釈率0.020/hrで連続発酵が可能であった。いずれの場合も、得られた発酵液の香味は全く問題のないものであった。【0036】実施例3米糖化液(グルコース約40%)26.5%、食酢(酸度15%の高酸度食酢)14.0%および水59.5%からなる培地を使用したこと以外は、実施例1と同様の培養条件でアセトバクター・キシリナム ATCC 12878 株を培養した。菌の生育に伴い、米糖化液(グルコース約40%)25.0%、食酢(酸度15%の高酸度食酢)13.0%、発酵用アルコール(濃度約50%(v/v)、酢酸濃度約5%)3.5%および水58.5%からなる連続発酵用フィード液を用いて連続発酵へ移行させた。連続発酵安定時では、残留エタノール濃度を0.2%以下に制御した。なお、4時間毎に発酵液の分析を行ったが、このときの平均エタノール濃度は0.03%であった。発酵は、グルコン酸発酵と酢酸発酵が同時並行で行われ、このときの発酵液中のグルコン酸濃度は5.2%、酢酸濃度は2.8%であった。また、フィード液の流量は、3000mlの発酵液に対して1時間当たり37mlであった。得られた発酵液は、香味の点で全く問題のないものであった。【0037】実施例4米糖化液(グルコース約40%)14.0%、食酢(酸度15%の高酸度食酢)14.0%および水72.0%からなる培地2Lを使用したこと以外は、実施例1と同様の培養条件でアセトバクター・キシリナムATCC12878 株を培養した。菌の生育に伴い、米糖化液(グルコース約40%)50.0%、食酢(酸度15%の高酸度食酢)14.0%、発酵用アルコール(濃度約50%(v/v)、酢酸濃度約5%)9.0%および水27.0%からなるフィード液を、発酵安定期の発酵液中の残留エタノールが0.20%未満となるように徐々にフィードして発酵を行った。このときの平均エタノール濃度は0.14%であった。発酵液の酸度が4.2%を超えた時点で、発酵液量の約4/5量を抜き出し、残った約1/5量に前記培地を加え、発酵液量を2Lとし、発酵を継続した(2サイクル目)。このような発酵(半連続回分培養)を4サイクル目まで実施した。【0038】その結果、1サイクル目の発酵時間は5日を要したが、2サイクル目以降は発酵時間が短縮され、平均3日で終了した。また、1つのサイクルが終了した時点での発酵液中のグルコン酸含量は平均5.0%、酢酸含量は平均2.7%であった。得られた発酵液は、香味の点で全く問題のないものであった。【0039】【発明の効果】本発明の方法によれば、アセトバクター属細菌を用いて高濃度、特に2%以上のグルコン酸と酢酸を含有する香味の良い食酢の発酵液を効率よく、しかも低コストで製造することができる。 アセトバクター属細菌を用い、通気培養によってグルコン酸および酢酸を含有する発酵液を製造する方法において、発酵安定時の発酵液の平均酢酸濃度を0.2%(w/v)以上、平均エタノール濃度を0.2%(v/v)以下にすることを特徴とする2%(w/v)以上のグルコン酸と酢酸を含有する発酵液の製造方法。 発酵安定時の発酵液の平均酢酸濃度を1%(w/v)以上、平均エタノール濃度を0.1%(v/v)以下にする請求項1記載の製造方法。 グルコン酸および酢酸を含有する発酵液のグルコン酸濃度が4%(w/v)以上である請求項1記載の製造方法。 通気培養が半連続回分培養または連続培養である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。


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