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タイトル:特許公報(B2)_完全同型接合体を利用したヒラメ類の育種方法、作出されたヒラメ類およびヒラメ類の増養殖方法
出願番号:1997098027
年次:2005
IPC分類:7,A01K67/02,C12N5/10,C12N15/09


特許情報キャッシュ

山本 栄一 JP 3635187 特許公報(B2) 20050107 1997098027 19970331 完全同型接合体を利用したヒラメ類の育種方法、作出されたヒラメ類およびヒラメ類の増養殖方法 鳥取県 592072791 須藤 阿佐子 100102314 山本 栄一 JP 1997094943 19970329 20050406 7 A01K67/02 C12N5/10 C12N15/09 JP A01K67/02 C12N5/00 B C12N15/00 A 7 A01K 61/00,67/02 BIOSIS JOIS 山本栄一著「ヒラメの人為的性続御とクローン集団作出に関する研究」(鳥取県水産試験場報告第34号,平成7年2月発行) 7 1998327706 19981215 12 19980331 1999017549 19991028 特許法第30条第1項適用 平成8年10月1日 株式会社緑書房発行の「養殖10月号 第33巻第12号」に発表 種村 慈樹 河野 直樹 鵜飼 健 【0001】【産業の属する技術分野】本発明は、ヒラメ類の完全同型接合体を利用した育種の実践による新品種の作出と、その水産増養殖における利用に関するものである。本発明において、「ヒラメ類」という用語は、カレイ目魚類を総称する名称として使用している。【0002】【従来の技術】海産魚の育種は、選抜交配によるものと、一部染色体操作を利用したものが試みられてきており、特に、近年、選抜交配によるものが中心に行われ始めたが、新品種の確立に何世代にも渡る交配のための長い期間を要するなどの欠点を有する。また、育種期間短縮の目的で、染色体操作を応用した育種が試みられ始めているが、ヒラメ類において優良な形質が固定された新品種の確立には至っていない。【0003】【発明が解決しようとする課題】完全同型接合体は、染色体操作によって誘導されるが、1世代で、遺伝子の完全ホモ化が達成され、優良形質の固定が期待される。しかし、現在に至るまで、完全同型接合体の誘導に基づくクローン群の作出をヒラメ類の育種に適用し、耐病性や高成長性の優れた形質の固定及び獲得を通常魚との比較のうえで明らかに証明した実例は報告されていない。本発明の目的は、完全同型接合体を作出し、その子孫の特性評価を実際の養殖生産規模の実験において行い、完全同型接合体の育種利用の有効性を証明し、ヒラメ類におけるその方法を提供するとともに、耐病性の品種、または耐病性で高成長性の品種の作出を実現しようとするものである。本発明は、少なくとも耐病性の品種、または耐病性で高成長性の品種に属するヒラメ類の製品、種苗または親魚を提供することを目的とする。本発明は、耐病性の品種、または耐病性および高成長性の品種に属するヒラメ類の種苗を用いたヒラメ類の増養殖方法を提供することを目的とする。本発明は、環境への遺伝的汚染を防いだ耐病性のヒラメ類、または耐病性および高成長性のヒラメ類の増養殖方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、種苗の分譲先での再生産を不能とする耐病性のヒラメ類、または耐病性で高成長性のヒラメ類の増養殖方法を提供することを目的とする。【0004】【課題を解決するための手段】本発明は、ヒラメ類について、完全同型接合体の誘導、もしくはそれに基づくクローン群の作出を優良形質である耐病性の固定および獲得に利用することを特徴とするヒラメ類の育種方法を要旨としている。より詳細には本発明は、ヒラメ類について、染色体操作によって誘導した完全同型接合体の選抜によって、好ましくは通常魚をも対照群として該優良形質の個体を選び出すことによって、該優良形質を遺伝的に固定し、これと、他の完全同型接合体もしくは通常魚と交配し、優良形質の品種を作出することを特徴とするヒラメ類の育種方法を要旨としている。【0005】該優良形質が耐病性および高成長特性であり、それゆえ本発明は、ヒラメ類について、染色体操作によって誘導した完全同型接合体の選抜によって、優良形質である耐病性および高成長特性を遺伝的に固定し、これと、他の完全同型接合体もしくは通常魚と交配し、該優良形質の品種を作出することを特徴とするヒラメ類の育種方法を要旨としている。本発明の育種方法の目的物である優良形質の品種、すなわち耐病性の品種、または耐病性で高成長特性の品種は、それに属するヒラメ類の子孫の特性評価を実際の養殖生産規模の実験において行い証明された品種である。【0006】また、本発明はこうして作出された該優良形質の品種に属するヒラメ類またはその不妊化されたヒラメ類を要旨としている。さらにまた本発明は該ヒラメ類を種苗とすることを特徴とするヒラメ類の増養殖方法を要旨としている。【0007】【発明の実施の形態】本発明でいうヒラメ類とは、カレイ目(Order Pleuronectiformes)魚類全般を指す。この目には、数百種が含まれ、水産上重要魚種も少なくない。実施例で用いたのは、標準和名「ヒラメ」であり、学名はParalichthys olivaceus(Temminck et Schlegel)である。ヒラメ属(Genus Paralichthys)には、世界中で約19種があり、多くが産業重要種である。現在、ヒラメ(ヒラメ科:Paralichthyidae)の他に、カレイ科(Pleuronectidae)の数種類で、染色体操作を用いた研究がおこなわれているが、完全同型接合体の作出に成功した例はヒラメ1種に限られる。近年では、世界各地で、カレイ目魚類の多くの種で、種苗生産(人口条件下で受精卵を得、それを若魚まで育てる)がおこなわれ、それを用いて、養殖や、栽培漁業(増殖)がおこなわれている。【0008】本発明でいう、ヒラメ類の優良形質とは、人が何かの目的でヒラメ類を利用する場合に、目的に応じて生じてくる形質であって、養殖をする場合は、養殖効率をあげるなどの関連形質ということになり、増殖の場合には、放流種苗の泳ぎが素速いといったものも優良形質たり得る。高成長、耐病性のほかに、育種目標=高い水温に強い、遺伝的雌の性転換が環境要因で起こりにくい、高い水温または低い水温でも成長が良い、成熟年齢が高いなどが例示される。耐病性:現在、ヒラメ類の養殖および種苗生産においては、魚病による被害が大きな問題となっている。ウイルス、細菌、原虫やより高等な寄生性生物などによる疾病、また、物理化学的(水温、溶存酸素量など)な要因による疾病があり、養殖および種苗生産の効率の著しい低下を招いている。生物は、とくに病原生物に対して、生体防御機構を持っており、それは遺伝的な支配を受けている。耐病性とは、ここではそのような機構を遺伝的に有しているということを意味する。高成長特性:養殖においては、成長の早い種苗ほど短期間で商品サイズになるので、高成長は、養殖効率の直接的改善や大型魚生産を可能とする優れた性質である。ここでは、高成長が遺伝的に約束されているということを意味する。なお、水温適応性も、一部、耐病性や高成長性と関連している。ヒラメについても、遺伝的に適水温を異にする系統ないし個体(いずれも遺伝子資源の担い手)があり、好適水温を低温側にもつものでは、低温海域で耐病性や成長性に関わる遺伝子が活性化し易く、また、反対に、高温海域で同様な状況が生まれると考えられる。これは、季節的な水温変化でも同様である。よくばった言い方をすれば、高水温でも低水温でも成長が早く、耐病性も強い品種であれば、低水温域でも高水温域でも、季節を問わず、優れた養殖効果を生じる。しかし、そのような究極の品種の作出は困難であるので、必要条件に応じた耐病性(疾病種類ごと、あるいは疾病群への耐性)や高成長性(各水温帯、栄養条件などの異なる環境要因下での成長性)を、それぞれの品種に求めるということとなる。優良形質は他にも沢山存在する。ヒラメの場合、たとえば、雄に性転換しにくい、体形が肥満型である(肉部分が多い)、体型がスマートである(野生のヒラメに近い)などがあり、育種目標は限りがない。しかし、耐病性と高成長性は、養殖利用を考えた場合、2大重要育種目標といえる。【0009】本発明が採用する染色体操作について説明する。完全同型接合体を作出するのには、第1卵割阻止型雌性発生2倍体の誘導か、雄性発生2倍体の誘導が必須である(鳥取県水産試験場報告第34号、平成7年12月、山本栄一、ヒラメの人為的性統御とクローン集団作出に関する研究)。第1卵割阻止型雌性発生2倍体の誘導(雌性発生:gynogenesis):1g2、精子の染色体を紫外線や放射線の照射で不活化(染色体破壊)する。しかし、精子の運動、受精能力を残す。そのために、適性照射量をあらかじめ決めておく(ヒラメの有効紫外線照射量は、4560ergs/mm2)。2g2、不活化精子と正常卵を受精させる。受精卵は、このままでは、染色体を半数(母方由来)しか持たない半数体(雌性発生半数体:1倍体=通常個体は2倍体なので)となり、死亡する。3g2、母方由来の1セットの染色体を倍化させ、2倍体に復活させる。すなわち、第1卵割中期(染色体が細胞分裂に先駆けて複製、倍化された状態にある)に至った受精卵に、物理刺激(加圧処理)を加え、細胞分裂を1回スキップさせる(染色体は倍になっているが、細胞分裂が阻止される)。ヒラメの場合の方法は、受精卵を60分間17℃で培養後、600kg/cm2の水圧処理を6分間加える。4g2、第1卵割は体細胞分裂なので、各染色体、すべての遺伝子は同様に複製されており、第1卵割阻止によって誘導された2倍体は、すべての遺伝子座がホモ接合型の完全同型接合体になる。【0010】雄性発生2倍体の誘導(雄性発生:androgenesis):1a、卵の染色体を放射線を照射して不活化する。2a、1aの卵に通常精子を受精させる。受精卵は、このままでは、染色体を半数(父方由来)しか持たない半数体(雄性発生半数体)となる。3a、父方由来の1セットの染色体を倍化させ、2倍体にする。方法は3g2と同様、第1卵割阻止による。4a、4g2と同様、完全同型接合体が得られる。【0011】完全同型接合体の第1世代をもとにしてクローン群を作出するのには、第2世代として、第2極体放出阻止型雌性発生の2倍体の誘導が必要である。第2極体放出阻止型雌性発生の2倍体の誘導:1g1、1g2および2g2と同様にして雌性発生半数体を作る。ただし、完全同型接合体の雌から卵を得て使用する。2g1、受精後2分に、3g2と同様な加圧処理、または45分間0℃の低温処理を施し、第2極体放出阻止(=第2成熟分裂阻止)で母方由来の染色体を倍加させ、2倍体とする。母親は完全同型接合体なので、その次世代の第2極体放出阻止型雌性発生2倍体も遺伝的にまったく同質となり、母親同様の完全同型接合体のクローン群(ホモ型クローン)となる。なお、異型接合型遺伝子座は、第2極体放出阻止の場合、同型接合化しないことが多い。3g1、ここで第2極体放出阻止を使用するのは、これが第1卵割阻止より、はるかに成功率が高いからである。(第1卵割阻止が非常に難しいテクニックなので、クローンの作出成功例は非常に限られている。)なお、異なる完全同型接合体の雌雄(Aのホモ型クローンの雌、Bのホモ型クローンの雄)を交配させると、ヘテロ接合型(異型接合型)の遺伝子座をもちながらも、群としては遺伝的に均質なヘテロ型クローンが作出できる。後者は、ホモ型クローンより強健である。【0012】本発明が採用する完全同型接合体もしくはその子孫の選抜とは、完全同型接合体などを形質評価の目的の飼育試験などに供し、育種目標に適合した個体を育種素材として選抜することである。たとえば、育種目標が、高成長の場合は、ある場面、ある期間の成長の優れた個体を選び出す(具体的には、姉妹の完全同型接合体に個体番号を付け、2カ月ごとに計測し、成長優良個体を選び出した)。また、耐病性の場合は、ある病原体による攻撃実験をおこない、生き残った個体を育種素材として選抜する。飼育群に自然に疾病が発生し、生き残った個体も同様の意味を持つ。本発明でいう優良形質の遺伝的な固定および獲得について説明する。形質の発現は、遺伝因子と環境因子の相互関係によって、発生成育の過程で生じる。遺伝子の影響が強い形質においては、その形質の発現に関与する遺伝子をホモ接合型とすることによって、常にその形質が発現するようにすることができる。また、その形質が優勢遺伝をする場合、該当遺伝子がヘテロ接合型となっても発現する。このことを優良形質についておこなうこと=優良形質の固定および獲得という。実際には、すでにすべての遺伝子座がホモ接合である完全同型接合体の選抜によっておこなう。【0013】本発明でいう子孫の特性評価を実際の養殖生産規模の実験において行い証明することの意義について説明する。研究室規模の実験と、実際の養殖生産規模の実験とでは、形質の発現などに関与してくる環境要因が著しく異なるものと予想される。従って、優良形質の遺伝的な固定および獲得を正しく確認、評価するには、子孫の特性評価を実際の養殖生産規模の実験において行い証明する必要がある。また、本発明の優良形質の品種に属するヒラメ類は、優良形質の発現を遺伝的に保障する完全同型接合体をホモ型クローンというかたちで継代保存する。すなわち、そのようなホモ型クローン内に雌雄を誘導し、クローン内交配でクローンを何世代にも渡って保存する。優良形質の品種に属するヒラメ類は、継代保存されたホモ型クローンをもとに、異なるホモ型クローン同志で交配し(いわば雑種を作り)、ヘテロ型クローンを作出して生産利用する(ヘテロ型クローンは、1代限りで、第2世代はクローンとならない)。また、ホモ型クローンの1個体と通常魚を交配し、その子孫を生産利用する。さらに、該ヒラメ類からふたたび完全同型接合体を誘導し、選抜することで、より多くの優良形質の付加を行うこともできる。【0014】本発明でいうヒラメ類の増養殖方法について説明する。種苗生産:受精卵を親魚の水槽内での自然産卵または人工受精により得る。受精卵を飼育水槽に収容し、ふ化魚の成長段階に応じて、ワムシ、アルテミアなどの生物飼料、さらに、人工配合飼料を与え、飼育、育成する。ヒラメ類は、ふ化後、一定期間の遊泳仔魚を経たのち、変態して、底棲性稚魚期に移行する。種苗生産期は、少なくとも十分な稚魚期への移行の終了を包含する。養殖生産:稚魚(種苗)から飼育を開始する。ヒラメ類では、陸上養殖施設(飼育水補給、飼育水循環方式を含む)、および海面生け簀で養殖をおこなうことが可能である。餌料としては、鮮魚や配合飼料の使用が可能である。増殖:稚魚の放流などによって、環境の生産力を活用し、漁業生産を向上させる。育種生物を自然集団に添加することは現状では好ましくないので、閉鎖環境などでの利用に限定すべきである。3倍体化によって不妊化することによって、完全同型接合体を利用して育種したヒラメの繁殖能力を奪い、環境への遺伝的汚染を防いだり、種苗の分譲先での再生産を不能とすることができる。作出品種の流出、配付にともない、品種の一人歩きを防止する。3倍体は不妊化すること自体については、本発明者が確認し、研究報告書の中で参考例1のように報告している。なお、3倍体は不妊化による成長促進効果のみを目的に検討されてきており、本発明は作出品種の再生産防止のために利用するものである。【0015】【実施例】本願発明の詳細を実施例で説明する。本願発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。【0016】参考例13倍体クローン群の作出と不妊化の確認実験〔水産育種18(1992)第13頁〜第23頁、山本栄一(鳥取水試)「ヒラメの雌性発生および倍数化を利用した育種」の第21頁IIIより〕抜粋。(1)ヒラメの3倍体の成熟および成長特性ヒラメの不妊化技術を確立する目的で、3倍体を作出、飼育し、その成熟特性を調査した。また、成長特性も調査した。次の結果が得られた。1)3倍体雌(イ)3倍体雌は不妊である。(ロ)卵形成は染色仁期以前の初期卵母細胞で停止する。(ハ)生殖腺指数は低い値(最大0.4%)で推移する。(ニ)対照の2倍体の成熟時、3倍体雌の血中のE2〔注:雌性ホルモン(エストラジオール−17β)〕量の増加や、雌特異蛋白の出現はみられない。(ホ)3倍体雌は不妊化による成長の促進効果を示す。しかし、2倍体雌の成熟による成長の停滞が雌の場合ほど著しくなく、2倍体雌の不妊化による成長の有利性は小さい(図1)。 2)3倍体雄(イ)3倍体雄は成熟する。(ロ)生殖腺指数は2倍体雄と同程度に推移する。(ハ)精子が完成するが、尾のないものが多く、また、サイズにバラツキがあり、異数性である。(ニ)精液は薄く、正常卵に媒精した場合の受精率は低い(16%以下)。(ホ)次世代は、生存するものもあるが、大多数はふ化後数日以内に死亡する。多くは奇形であり、異数体である。(ヘ)3倍体雄は、産卵行動に参加し、放精も行う〔表2「3倍体雄(15個体)と正常雌(5個体、平均1.5kg)、および対照の正常雌雄(同数)の組み合わせによる自然産卵実験で得られた卵数とその発生成績」〕。(ト)3倍体雄は、2倍体雄と同程度に、成熟による成長の停滞を示す(図1)。このことから、全個体の不妊化には、全雌3倍体の作出が必要であることが確認された。しかし、不妊化ヒラメの成長における有利性は小さく、養殖用としての有効性に薄いことが判明した。一方、3倍体雄は、正常ヒラメの産卵群中に混入した場合、繁殖を阻害する可能性があることが明らかとなった。(2)不妊化種苗の生産方法全雌3倍体の作出によるヒラメの不妊化種苗の生産方法を検討する目的で、性転換雄の次世代3倍体に性転換阻止レベルのE2浸漬処理を施す生産実験を3例行った。いずれの例でも、作出魚はすべて3倍体雌であり〔表1「ヒラメの極体放出阻止型雌性発生2倍体(G1)、卵割阻止型雌性発生2倍体(G2)、および通常の2倍体(N)と、それらの次世代等の作出群の常温飼育例における雌の割合(調査例数)」〕、不妊化種苗の生産方法が確認された。しかし、作出群の胚形成卵から日齢150までの生残率は、1〜2%で、きわめて低い成績となった。不妊化種苗生産は、この生残率の低さと、現段階では染色体操作が不可欠であること(4倍体の作出例では、ふ化仔魚時点で90%以上の4倍体が得られたものの、日齢40以降の生残率178個体はいずれも2倍体であった)、さらにE2処理なしでは、飼育水温の管理による性転換の阻止を行ったとしても、若干の雌の出現を避けられないであろう点に問題を残している。【0017】【表1】性転換阻止レベルのE2処理:日齢50〜70を含む35〜60日間の、10μg/l飼育水の濃度への浸漬処理(1日1回2時間)、または0.3μg/g飼料(配合飼料)の濃度での経口投与。処理剤の中には、ヒラメの成長の遅延によってE2処理が性分化時期を十分にカバーしきれていないものがある。(例えば、No.4の雌の割合が75%となった例)A:雌雄比1:1と有意差なし(p>0.1),B:有意差あり(p>0.001)【0018】【表2】【0019】実施例1耐病性固定(a)ヒラメの異なる完全同型接合体の雌雄の交配によって作出したヘテロ型クローンの1歳魚40個体と、通常魚50個体を混養していたところ、白点病(原虫類の白点虫によって海産魚に壊滅的被害を与える疾病)が発生した。通常魚は8日間のうちに全数死亡する一方、クローン魚は1個体の死亡もみられなかった(平成4年)。この際、白点虫は、クローン魚の鰓弁にも認められたが、死亡にはいたらなかった。このことから、白点病に耐性のある完全同型接合体が作出されており、その子孫であるクローン魚も強い白点病への耐性があることが証明された。【0020】実施例2耐病性固定(b)(a)とは異なるヘテロ型クローンと、同日に作出した通常ヒラメ、それぞれ100個体を、別の水槽で比較飼育していたところ、1歳時に通常ヒラメ群で白点病が発生した。通常ヒラメでは15日のうちに、93個体が死亡した。その間、別の2つの水槽に、それぞれ、(1)ヘテロ型クローンと(2)完全同型接合体と通常魚の子孫(7歳)を、10個体ずつ収容し、それぞれに、白点病にかかった通常ヒラメを10個体ずつ加え飼育した。通常ヒラメは5日間で全数死亡した。しかし、(1)および(2)群とも、白点虫の寄生は確認されたが、1個体も死亡しなかった(平成8年)。このことから、白点病に耐性のある完全同型接合体は、クローン品種としてだけではなく、通常魚との交配による子孫においても、その耐性を有することが証明された。【0021】実施例3耐病性固定(c)平成7年に、ヒラメの貧血症が飼育施設内で生じた。表3〔鳥取県栽培漁業センター(含水産試験場)、1995年産卵期後の既成熟魚の大量斃死〕に示す通り、通常ヒラメでは、5群で、36.7〜71.9%のヒラメの死亡がみられた。一方、完全同型接合体に由来するクローン群では、全数死亡する2群と1個体も死亡せず、全数生存する8群とに明瞭に別れた。この死亡発生時に、クローンヒラメより、ウイルスまたはクラジミア(詳細な同定はなされていない)と考えられる濾過性微生物が分離、培養された。当初、この微生物の病原性は明らかではなかったが、平成8年に攻撃実験をおこない、攻撃群で貧血症が誘導された。このことから、完全同型接合体の作出によって、濾過性病原体による感染症と結論される疾病についても、耐性のある系統品種が得られたことが証明された。【0022】【表3】【0023】遺伝学的考察完全同型接合体はすべての遺伝子座がホモ接合であり、形質の遺伝的固定が可能である。現在、魚類において耐病性についての遺伝的解析は十分に進んでいるとは言い難いが、多くの耐病性遺伝子があるなかで、それらの働きを総括的に制御している遺伝子領域があることが分かってきている。また、種々の生体防御機構に関与する遺伝子領域がある。完全同型接合体の由来群で高い頻度で、上述のような耐病性が認められることは、こうした総括制御遺伝子領域などのホモ化によって生じている可能性があり、理論的にも説明しうる。それゆえ、誘導した完全同型接合体およびその子孫は耐病性に関して、ウイルス病から原虫病の広い範囲に適応できることが示唆される。これまでにも、完全同型接合体を利用した育種は理論的には提唱され、その試みもなされてきたが、実際に耐病性を持つことが証明された品種ないし系統の樹立は本事例が初めてである。すなわち、これによって、完全同型接合体を利用した育種の実用性も初めて証明されたことになる。【0024】また、表3は、ホモ型クローンだけが特異的に死んでいるのではなく、ヘテロ型クローンの死亡群(鳥水試報34.p100,Fig.25のトリコジナ症+αでは死亡しなかったクローン)もあるということである。このことは、耐病性が、ヘテロ型クローンがホモ型クローン間交配によって生じた雑種強勢効果(ヘテロシス;単にホモ型クローンより、ヘテロ型クローンの方が強い)だけでは説明できないことを示している。つまり、耐病性因子は完全同型接合体により固定され、それを持てばホモ型クローンでもヘテロ型クローンでも耐病性があり、それがなければヘテロ型クローンでも耐病性を持たないといえる。それゆえ、完全同型接合体の選抜が重要である。【0025】実施例4高成長群作出(d)高成長の通常ヒラメを選抜し、染色体操作によって完全同型接合体を約150個体作出した(平成3年)。それを成長実験に供し、成長優良雌魚から第2極体放出阻止型雌性発生2倍体の誘導により、2群のホモ型クローン(完全同型接合体のクローン)を作出した(平成5年)。なお、この時、各クローンに性統御技術によって、雌雄の両方を作出した。クローン世代(完全同型接合体)の雌雄の交配によって、異型接合遺伝子座を持ちながらも群としては遺伝的に均質な(1)ヘテロ型クローンを作出した。また、同日に、(2)片親を完全同型接合体とし、片親を通常ヒラメとする群、および、(3)性転換雄と通常雌の交配による通常群(いずれの群も全雌)を作出した(平成7年)。これらについて、別途育成し、日齢303(平成8年1月)から日齢650までの成長比較実験を行った。(1)と(3)、および(2)と(3)の混合飼育群を設定した。飼育開始と飼育終了の実験供試魚の平均体重は次のとおりであった。(1)と(3)混合飼育群:(1)290→1,020グラム。(3)292→811グラム。(2)と(3)混合飼育群:(2)285→935グラム。(3)292→821グラム。このように、完全同型接合体に由来する(1)および(2)の群は、同居飼育の通常魚群である(3)群より明らかに有意に高い成長度を示した。このことから、高成長の完全同型接合体を選抜し、その子孫を得ることで、高成長の品種ないし系統を作出することができることが証明された。【0026】遺伝学的考察現在、魚類において成長を支配する遺伝因子の解析は十分に進んでいるとは言い難いが、多くの遺伝子によって総合的に成長可能性が決定されると考えられている。これは、ニジマス等の魚類の高成長個体の選抜交配の繰り返しによって、高成長品種が得られ、その群においては、遺伝的に、高成長因子の同型接合化が生じているものとされている。しかし、選抜交配による育種は非常に長い時間を要する方法である。完全同型接合体はすべての遺伝子座が同型接合であり、わずか1世代による形質の遺伝的固定が可能である。従って、誘導した完全同型接合体を高成長性の新品種作出に応用することはきわめて有効なものであると推察される。これまでにも、完全同型接合体を利用した育種は理論的には提唱され、その試みもなされてきたが、実際に高い成長度を示すことが証明された品種ないし系統の樹立は本発明が初めてである。すなわち、これによって、完全同型接合体を利用した育種の実用性も初めて証明されたことになる。【0027】【発明の効果】完全同型接合体を作出し、その子孫の特性評価を実際の養殖生産規模の実験において行い、完全同型接合体の育種利用の有効性を証明し、ヒラメ類におけるその方法を提供するとともに、耐病性及び高成長性の品種の作出を実現化することができた。少なくとも耐病性およびまたは高成長性の品種に属するヒラメ類の製品、種苗または親魚を提供することができ養殖生産の飛躍的改善が期待される。環境への遺伝的汚染を防いだヒラメ類の増養殖方法を提供することができる。種苗の分譲先での再生産を不能とするヒラメ類の増養殖方法を提供することができる。【図面の簡単な説明】【図1】同じ条件で飼育した3倍体ヒラメ(左、雌38%)と対照の通常発生ヒラメ(右、雌39%)の日齢250〜650の体重組成の推移を表す図面である。図中、日齢250〜650:黒は雄、白は雌。 ヒラメ類について、完全同型接合体の誘導、もしくはそれに基づくクローン群の作出を優良形質の白点病耐性からなる耐病性の固定および獲得に利用することを特徴とするヒラメ類の育種方法。 染色体操作によって誘導した完全同型接合体の選抜によって、優良形質の白点病耐性を遺伝的に固定し、これと、他の完全同型接合体もしくは通常魚と交配し、該優良形質の品種を作出することである請求項1のヒラメ類の育種方法。 上記完全同型接合体もしくはその子孫の選抜が、通常魚をも対照群として該優良形質の個体を選び出すことである請求項1または2のヒラメ類の育種方法。 該優良形質の品種が、それに属するヒラメ類の子孫の特性評価を実際の養殖生産規模の実験において行い証明された品種である請求項1ないし3のいずれかのヒラメ類の育種方法。 請求項1ないし4のいずれかの育種方法で作出された該優良形質の品種に属するヒラメ類。 不妊化されている請求項5の該優良形質の品種に属するヒラメ類。 請求項5のまたは6のヒラメ類を種苗とすることを特徴とするヒラメ類の増養殖方法。


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