タイトル: | 特許公報(B2)_α−ブロモ,ω−クロロアルカンの製造方法 |
出願番号: | 1996213455 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | C07C 19/075,C07C 17/20 |
福本 毅彦 鈴木 宏始 小川 欽也 広川 一史 JP 4139448 特許公報(B2) 20080613 1996213455 19960813 α−ブロモ,ω−クロロアルカンの製造方法 信越化学工業株式会社 000002060 奥山 尚男 100060069 有原 幸一 100096769 奥山 尚一 100099623 福本 毅彦 鈴木 宏始 小川 欽也 広川 一史 20080827 C07C 19/075 20060101AFI20080807BHJP C07C 17/20 20060101ALI20080807BHJP JPC07C19/075C07C17/20 C07C 19/075 特表平11−508908(JP,A) 4 1998053542 19980224 7 20020826 木村 敏康 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、有機合成原料、農薬、医薬用中間体として有用なα−ブロモ,ω−クロロアルカンを安価にかつ容易に製造する方法に関する。【0002】【従来の技術】α−ブロモ,ω−クロロアルカンは、有機合成上、炭素鎖を延長するために欠かすことのできない有用な化合物である。該化合物は、特に、ブロモ(−Br)とクロロ(−Cl)の反応性の差を利用して、選択的にその一方のみに置換基を付けた後も、もう一方のハロゲン基を利用して、更に目的とする化合物の合成を図ることができることに特徴がある。例えば、グリニャール試薬などの有機求核試薬をα−ブロモ,ω−クロロアルカンのブロモ側のみと選択的に反応させることができる。【0003】ここで、重要な点は、反応によって得られるα−ブロモ,ω−クロロアルカンの純度である。不純物としてα,ω−ジクロロアルカンが存在する場合は、上記求核試薬に対して不活性である場合もある。しかし、α,ω−ジブロモアルカンが存在する場合には、該化合物のα位とω位の両方が反応し、新たな不純物を生み出してしまう。したがって、α−ブロモ,ω−クロロアルカンの純度を高める方法を見いだすことは、極めて重要である。【0004】従来より、このα−ブロモ,ω−クロロアルカンの製造方法としては、下式に示すように、相当するα,ω−ジヒドロキシアルカンの一方の水酸基(ω位)を塩酸などで塩素化した後に、残ったα位の水酸基を三臭化リンなどで臭素化するのが一般的である。【化1】【0005】しかし、この従来技術では、水酸基の片側のみを選択的にハロゲン化する必要があるため、原料のα,ω−ジヒドロキシアルカンに対するα−ブロモ,ω−クロロアルカンの収率が低くなるという欠点がある。さらに、仮に、選択的にハロゲン化することができたとしても、その蒸留精製時に細心の注意を払わなければ、容易にハロゲンの不均化を引き起こし、不純物としてα,ω−ジクロロアルカンとα,ω−ジブロモアルカンを副成するという問題がある。したがって、一般に、従来技術ではスケールアップは困難であり、コスト高にもなる。【0006】【発明の解決しようとする課題】本発明の目的は、上記従来技術の欠点を解消し、有用なα−ブロモ,ω−クロロアルカンを安価にかつ容易に製造する方法を提供することにある。【0007】【課題を解決するための手段】請求項1に記載の一般式Br(CH2 )n Cl(nは4〜12の整数である。)で示されるα−ブロモ,ω−クロロアルカンの製造方法は、有機溶媒中でα,ω−ジクロロアルカンとα,ω−ジブロモアルカンを反応させることを特徴とする。請求項2に記載のα−ブロモ,ω−クロロアルカンの製造方法は、上記有機溶媒が、20℃における誘電率が20以上の非プロトン性有機溶媒であることを特徴とする。請求項3に記載のα−ブロモ,ω−クロロアルカンの製造方法は、上記有機溶媒が、20℃における誘電率が20以上の非プロトン性有機溶媒であって、かつ、含窒素系有機溶媒または含硫黄系有機溶媒であることを特徴とする。請求項4に記載のα−ブロモ,ω−クロロアルカンの製造方法は、上記有機溶媒が、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドまたはN,N−ジメチルイミダゾリジノンであることを特徴とする。【0008】【発明の実施の形態】本発明の製造方法では、高純度で安価かつ容易に入手可能なα,ω−ジクロロアルカンとα,ω−ジブロモアルカンを原料とする。これらの化合物は、一般に、α,ω−ジヒドロキシアルカンの2つの水酸基を同一のハロゲン基に変換して製造されており、製造が容易で、安価で、しかも純度の高いものが市販されている。仮に、これらの化合物の市販品を入手することができない場合でも、α,ω−ジヒドロキシアルカンから容易に調製することができる。本発明で用いられるα,ω−ジクロロアルカン及びα,ω−ジブロモアルカンの一般式は、各々、Cl(CH2 )n Cl、Br(CH2 )n Brで表され、式中のnは、一般的には4〜12程度である。【0009】本発明で用いられる有機溶媒は、沸点や極性などを考慮して選択する。本発明において、主な有機溶媒を用い、その沸点における温度でα,ω−ジクロロアルカンとα,ω−ジブロモアルカンを反応させると、ある程度、反応が進行する。しかし、その反応の進行の程度は、有機溶媒の極性によって大きな影響を受ける。本発明において好ましい有機溶媒は、20℃における誘電率が20以上のものである。誘電率は、有機溶媒のおよその極性を示すものであり、換言すれば、高極性の溶媒中で反応させることが好ましいといえる。したがって、n−ヘキサン(誘電率1.9)、ジクロロメタン(誘電率8.9)、酢酸エチル(誘電率6.0)などを用いると、反応の進行が遅くなり、好ましくない。【0010】本発明で用いる有機溶媒としては、さらに、非プロトン性で含窒素系または含硫黄系のものが好ましい。含窒素系有機溶媒としては、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)(誘電率37.78:25℃)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)(誘電率36.7:25℃)、N,N−ジメチルイミダゾリジノン(DMI)(誘電率37.6:25℃)、アセトニトリル(誘電率37.5:20℃)、プロピオニトリル(誘電率29.7:20℃)、N−メチルホルムアミド(NMF)(誘電率182.4:20℃)、N,N−ジエチルホルムアミド(DEF)、N−メチルアセトアミド(NMAC)(誘電率191.3:32℃)、N−メチルプロピオンアミド(NMPR)(誘電率172.2:25℃)、N,N,N’,N’−テトラメチル尿素(TMU)(誘電率23.06:20℃)、N−メチルピロリドン(NMP)(誘電率32.0:25℃)、N,N’−ジメチルプロピレン尿素(DMPU)などを挙げることができる。含硫黄系有機溶媒としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)(誘電率48.9:20℃)、スルホラン(誘電率43.3:30℃)などを挙げることができる。【0011】これら有機溶媒の中でも、特にN,N−ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」と略す。)、N,N−ジメチルアセトアミド(以下、「DMAC」と略す。)、N,N−ジメチルイミダゾリジノン(以下、「DMI」と略す。)は、良好な反応を示す。これらの有機溶媒は、いずれも沸点が100℃以上であり、かつ、比較的化学的に安定な化合物であり、溶媒を回収する煩雑さもない上に、温和な条件で良好に反応が進行する。【0012】ここで、DMF、DMAC、DMIは、次の化学式で表される。【化2】【0013】本発明の製造方法において、α,ω−ジクロロアルカンとα,ω−ジブロモアルカンを混合し、有機溶媒中で加熱下に反応させると、ハロゲンの交換が起こり、経時的にα−ブロモ,ω−クロロアルカンが生成する。反応は、可逆的であり、その転化率は約50%である。α,ω−ジクロロアルカンとα,ω−ジブロモアルカンの混合比は等モルであり、その比を変えても、転化率は最大で50%である。【0014】本発明で用いる有機溶媒の使用量は、1モルのα,ω−ジクロロアルカンと1モルのα,ω−ジブロモアルカンからなる原料に対し、30〜300g、好ましくは50〜200gである。溶媒の量が多い程、転化速度は速いが、最終的な転化率は変わらない。転化速度は、反応温度にも依存する。反応温度が高い程、速度は速いが、DMFやDMACの分解も起こり易くなるため、反応温度は、60〜200℃、特に60〜150℃とするのが望ましい。溶媒による転化速度は、DMF>DMAC>DMIの順である。【0015】反応後の反応液の組成は、溶媒を除けば、α−ブロモ,ω−クロロアルカン50%、α,ω−ジクロロアルカン25%、α,ω−ジブロモアルカン25%である。該反応液を蒸留操作して沸点順に分離することによって、α−ブロモ,ω−クロロアルカンを単離することができる。すなわち、まず、溶媒を低沸点で回収し、次にα,ω−ジクロロアルカン、α−ブロモ,ω−クロロアルカン、α,ω−ジブロモアルカンの順に回収する。この反応系は、極めて不純物が少なく、安定しており、適切な段数の精留塔さえあれば、容易に蒸留することができ、スケールアップも可能である。この際回収された溶媒、α,ω−ジクロロアルカン、及びα,ω−ジブロモアルカンは、再使用できるため、極めて経済的である。【0016】【実施例】実施例11−ブロモ−5−クロロペンタンの合成反応器に1,5−ジクロロペンタン141g(1モル)、1,5−ジブロモペンタン230g(1モル)、DMF100gを入れ、窒素ガス雰囲気下に100℃で3時間攪拌した。反応後、反応液をガスクロマトグラフィーによって分析したところ、反応液の組成は、DMF20.5%、1,5−ジクロロペンタン19.1%、1−ブロモ−5−クロロペンタン41.4%、1,5−ジブロモペンタン19.0%であった。転化率は、52.0%であった。【0017】次に、反応液を精留塔を用いて精留を行なったところ、1−ブロモ−5−クロロペンタンが表1に示すように単離された。表1中、フラクション1の沸点は、36〜57℃/23mmHg、フラクション2の沸点は、82〜84℃/12mmHg、フラクション3の沸点は、82〜86℃/10mmHg、フラクション4の沸点は、86〜90℃/8mmHg、フラクション5の沸点は、90〜97℃/7mmHgである。【0018】【表1】【0019】実施例21−ブロモ−6−クロロヘキサンの合成反応器に1,6−ジクロロヘキサン155g(1モル)、1,6−ジブロモヘキサン244g(1モル)、DMAC150gを入れ、110℃で3時間攪拌した。反応後、反応液をガスクロマトグラフィーによって分析したところ、反応液の組成は、DMAC24.2%、1,6−ジクロロヘキサン18.0%、1−ブロモ−6−クロロヘキサン39.3%、1,6−ジブロモヘキサン18.5%であった。転化率は51.8%であった。【0020】次に、反応液を精留塔を用いて精留を行なったところ、1−ブロモ−6−クロロヘキサンが表2のように単離された。表2中、フラクション1の沸点は、45〜59℃/20mmHg、フラクション2の沸点は、59〜84℃/10mmHg、フラクション3の沸点は、84〜90℃/6mmHg、フラクション4の沸点は、90〜92℃/6mmHg、フラクション5の沸点は、93〜97℃/5mmHgである。【0021】【表2】【0022】実施例31−ブロモ−8−クロロオクタンの合成反応器に1,8−ジクロロオクタン36.6g(0.2モル)、1,8−ジブロモオクタン54.4g(0.2モル)、DMI40gを入れ、窒素ガス雰囲気下で140℃で3時間攪拌した。反応後、反応液をガスクロマトグラフィーによって分析したところ、反応液の組成は、DMI18.7%、1,8−ジクロロオクタン21.8%、1−ブロモ−8−クロロオクタン40.0%、1,8−ジブロモオクタン17.9%であった。転化率は50.7%であった。【0023】比較例1DMF100gを入れない他は実施例1と同様にして操作したところ、1−ブロモ−5−クロロペンタンは痕跡しか検出されなかった。【0024】比較例21−ブロモ−6−クロロヘキサンの合成1,6−ヘキサンジオール240g(2モル)、35%の塩酸156g、ZnCl2 1gを反応器に入れ、98℃で8時間攪拌した。次に、反応液をトルエン200mlで抽出したのち、トルエン層を5%の水酸化ナトリウム水溶液200mlで洗浄後、精留して、6−クロロ−1−ヘキサノール93.5g(収率34%、純度98%)を得た。次に、ヘキサン200ml中に上記6−クロロ−1−ヘキサノール93.5g(0.68モル)を入れ、そこへPBr3 64g(0.236モル)を40℃以下で滴下して反応させ、反応後、純水200g、3%の水酸化ナトリウム水溶液300gで順次洗浄し、n−ヘキサンを除去し、ガスクロマトグラフィーによって分析したところ、その組成は、1,6−ジクロロヘキサン2%、1,6−ジブロモヘキサン4%、1−ブロモ−6−クロロヘキサン93%であった。次に、この濃縮物を蒸留塔で精留した結果を表3に示す。表3中、フラクション1の沸点は、80〜90℃/6mmHg、フラクション2の沸点は、89〜95℃/6mmHg、フラクション3の沸点は、95〜98℃/6mmHgである。【0025】【表3】【0026】【発明の効果】本発明の方法によれば、α,ω−ジクロロアルカンとα,ω−ジブロモアルカンとを加熱下に反応させた後に精留することによって、高純度のα−ブロモ,ω−クロロアルカンを容易に単離することができる。また、本発明の方法は、精留によって除去したα,ω−ジクロロアルカン、α,ω−ジブロモアルカン及び有機溶媒を再利用できるため、経済的にも極めて優れている。 有機溶媒中でα,ω−ジクロロアルカンとα,ω−ジブロモアルカンを反応させることを特徴とする一般式Br(CH2 )n Cl(nは4〜12の整数である。)で示されるα−ブロモ,ω−クロロアルカンの製造方法。 上記有機溶媒が、20℃における誘電率が20以上の非プロトン性有機溶媒である請求項1に記載のα−ブロモ,ω−クロロアルカンの製造方法。 上記有機溶媒が、含窒素系有機溶媒または含硫黄系有機溶媒である請求項2に記載のα−ブロモ,ω−クロロアルカンの製造方法。 上記有機溶媒が、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドまたはN,N−ジメチルイミダゾリジノンである請求項1に記載のα−ブロモ,ω−クロロアルカンの製造方法。