タイトル: | 特許公報(B2)_アンチトロンビンIII 活性測定方法及び測定用試薬 |
出願番号: | 1996196988 |
年次: | 2006 |
IPC分類: | C12Q 1/56 |
酒居 一雄 櫻井 錠治 JP 3773595 特許公報(B2) 20060224 1996196988 19960708 アンチトロンビンIII 活性測定方法及び測定用試薬 株式会社三菱化学ヤトロン 000138277 森田 憲一 100090251 酒居 一雄 櫻井 錠治 20060510 C12Q 1/56 20060101AFI20060413BHJP JPC12Q1/56 C12Q1/00-3/00 BIOSIS/MEDLINE/WPIDS/CAPLUS(STN) JSTPLUS(JOIS) 特開昭57−501510(JP,A) 特開平07−008298(JP,A) 2 1998014599 19980120 16 20021227 伏見 邦彦 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は被検試料、特には生体液試料、例えば、血漿中等のアンチトロンビンIII 活性の測定方法及び測定用試薬に関する。【0002】【従来の技術】アンチトロンビンIII (以下、ATIII ともいう)は血漿中に存在するセリンプロテアーゼ阻害物質である。その阻害活性はヘパリンと結合することにより大幅に促進されること(ヘパリンコファクター活性)が知られており、生体中で機能するにはヘパリンとの結合が重要であると考えられている。ATIII は生体中においてXa因子やセリンプロテアーゼの一種であるトロンビンを阻害することによって血液凝固の制御に大きな役割を果たしている。従って、血漿中に含まれるATIII 濃度を測定することは生体中の血液凝固阻止能の評価や、凝固/線溶系の動態を調べる上で大きな意義をもつ。また、ATIII は肝臓で合成されるので、肝機能低下の指標としても用いることができる。【0003】ATIII の測定には、大きく分けて2通りの方法が従来から用いられている。一つは特異的抗体を使用した抗原測定法である。この抗原測定法では、トロンビン阻害活性を消失したATIII 分子又は遺伝的変異等により正常に機能しないATIII と正常なATIII とを区別することができない。【0004】もう一つはトロンビン等の酵素に対する阻害作用を利用した活性測定法である。現在汎用されている活性測定方法は、既知量のトロンビン及びヘパリン混合液に対して血漿サンプルを添加し、一定時間インキュベートした後に残存するトロンビン活性を発色性合成基質により定量し、減少したトロンビン活性量からサンプル中のATIII 濃度を算出する方法である。このため、活性測定法の方が血漿中のATIII による有効な抗凝固能を、より正確に反映しているものと考えられる。【0005】【発明が解決しようとする課題】しかし、この活性測定法には以下のような問題点がある。第1の問題点は、血漿中のトロンビン阻害物質であるヘパリンコファクターII(以下、HCIIともいう)による正の干渉が挙げられる。実際、幾つかの活性測定系において測定値の10〜20%がATIII ではなくHCIIに由来するものであることが報告されている〔Bohnerら,Thrombosis and Haemostasis 71,3,280−283(1994)及びTranら,Thrombosis Research,40,571−576(1985)〕。HCIIによる干渉を回避する方法として、HCIIと反応しない酵素Xa因子を使用する方法〔Demersら,Thrombosis and Haemostasis 69,3,231−235(1993)〕や、ATIII とHCIIとのヘパリンに対する親和性の差を利用して、反応液中に高濃度の塩を添加する方法〔特開平7−8298号公報、並びに臨床検査機器・試薬17巻6号別冊1013−1020(1994)〕等が提案されている。【0006】第2の問題点は、ATIII のヘパリン非依存的なトロンビン阻害活性による正の干渉である。この干渉を強く受けると、ヘパリン結合能をもたないか、又はヘパリンによる促進効果を受けられない分子異常ATIII であって、かつトロンビンとの反応部位が正常である分子異常ATIII を正常ATIII として測定してしまうからである。例えば、ヘパリン結合能欠損異常ATIII 〔ATIII Nagasaki:岡嶋ら,Blood,81,5,1300〜1305(1993)〕のATIII 活性を不当に高値と評価してしまう可能性がある。【0007】この問題は、被検試料を希釈することなしにATIII 活性を測定することと関連する。すなわち、ATIII 活性にはヘパリン依存的活性と非依存的活性とがあり、生体内ではヘパリン依存的活性の方が非依存的活性よりも1000倍程度大きいと考えられ〔J.B.C.,Vol.248,18,6490−6505(1973)〕、臨床的にもヘパリン依存的活性の定量の方が意義深い。従来、被検試料を希釈する方法においては、ATIII 、ヘパリン、及びトロンビンが反応する環境を生体内とほぼ同一に設定しており、ヘパリン非依存的活性による正の干渉は殆ど問題とならなかった。これに対して、被検試料を希釈することなしにATIII を測定しようとすると、相対的にヒトロンビン分子数に対してATIII 分子数が大過剰となり、反応する環境を生体内とほぼ同一に設定するためには、反応液中に高濃度のトロンビンが必要である。しかし、その条件では、反応液の吸光度が、分光光度計の測定可能範囲を超えてしまうため、自動分析などには不都合であった。この解決法の1つに、高濃度のトロンビンを使用する代わりに、ATIII とトロンビンとの結合反応を抑制する方法があり、例えば、反応液中に高濃度の塩を添加する方法(特開平7−8298号公報)が提案されている。しかし、この方法では、ヘパリン依存的活性を非依存的活性よりも強く抑制するので、ヘパリン非依存的活性を定量してしまうという問題点がある。従って、非希釈法における抑制方法は、ヘパリン依存的活性と非依存的活性とを同等に抑制するか、又は非依存的活性に対してより強く働き、非依存的活性の正の干渉がないものである必要がある。【0008】すなわち、本発明の目的は、被検試料を希釈せずに用いることのできるATIII 活性測定方法において、前記の種々の干渉(特には、HCIIによる正の干渉及びヘパリン非依存的ATIII による正の干渉)を実質的に受けることなく、ATIII 活性を一層正確に測定することのできる手段を提供することにある。【0009】【課題を解決するための手段】 前記の目的は、本発明による、アンチトロンビンIIIを含む被検試料に、ヘパリン及び既知濃度のトロンビンを添加して複合体を形成させた後、残存するトロンビン活性を検出することにより被検試料中のアンチトロンビンIII活性を測定する方法において、前記複合体を形成させる反応前又は反応時にアルカリ金属塩及び式(1):HOCH2−〔C(OH)H〕n−CH2OH (1)(式中、nは0又は1〜4の整数である)で表される多価アルコールを共存させ、前記式(1)で表される多価アルコールの反応時の終濃度を10容量%−60容量%とすることを特徴とする、アンチトロンビンIII活性測定方法によって達成することができる。【0010】【発明の実施の形態】以下、本発明を詳述する。本発明を用いて測定することのできる被検試料は、ATIII を含有する試料であれば特に限定されないが、特には生体液試料、例えば、血液、血漿、又は血清である。【0011】本発明に用いることのできる多価アルコールは、好ましくは式:HOCH2 −〔C(OH)H〕n−CH2 OH(式中、nは0又は1〜4の整数である)で表される化合物であり、例えば、エチレングリコール、グリセロール、エリトリトール、キシリトール、及びソルビトールなどを挙げることができる。エチレングリコールが特に好ましい。【0012】本発明においては、セリンプロテアーゼ・ATIII ・ヘパリン複合体を形成させる反応前又は反応時に、更にアルカリ金属塩を共存させることができる。前記アルカリ金属塩は、アルカリ金属と有機酸又は好ましくは無機酸との塩である。ナトリウム、カリウム又はリチウムのハロゲン化物(例えば、フッ化物、塩化物、臭化物若しくはヨウ化物)、硫酸塩又はリン酸塩が好ましく、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸リチウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、又はリン酸リチウム等を用いることができる。これらの塩の1種又は複数種を組み合わせて用いることができる。アルカリ金属塩(特には塩化ナトリウム)を共存させる場合には、0.3M以下の濃度範囲で使用することができる。【0013】本発明では、ヘパリンとATIII との複合体を形成することのできる反応系において、例えば、アルカリ金属塩(特には塩化ナトリウム)0.05M〜0.18Mの存在下で、多価アルコール(特にエチレングリコール)を終濃度10〜60容量%、好ましくは20容量%〜60容量%の範囲で使用すると、HCIIによる正の干渉を抑制することができる。この場合、pHは特に限定されることはないが、通常、pH6〜9の範囲で使用することができる。また、前記反応系において、例えば、アルカリ金属塩(特には塩化ナトリウム)0.05〜0.18Mの存在下で、pH6.2〜8.5の場合、多価アルコール(特にエチレングリコール)を終濃度10容量%以上、好ましくは20容量%〜60容量%の範囲で使用すると、ヘパリン非依存的ATIII による正の干渉を抑制することができる。実際には、個々のpH値に応じて、多価アルコールの適切な使用量範囲が存在し、その範囲は適宜決定することができる。例えば、多価アルコール(特にエチレングリコール)を、pH約7.0では10容量%以上、好ましくは15容量%〜40容量%の範囲で、また、pH約8.0では20容量%以上、好ましくは25容量%〜60容量%の範囲で使用すると、ヘパリン非依存的ATIII による正の干渉を抑制することができる。なお、pH約6以下の条件下では、多価アルコールの存在の有無に関わらず、ヘパリン非依存的ATIII による正の干渉は、実質的に検出されない。【0014】実際には、前記のHCIIによる正の干渉の抑制効果、及びヘパリン非依存的ATIII による正の干渉の抑制効果が得られる条件下で、更に、ATIII 濃度とセリンプロテアーゼの検出手段(例えば、吸光度)との間に濃度依存的相対関係を示すpH値と多価アルコール使用量とを、簡単な予備試験によって適宜決定することができる。例えば、アルカリ金属塩(特には塩化ナトリウム)0.05〜0.18Mの存在下で、pH6.0〜7.0の場合、多価アルコール(特にエチレングリコール)を終濃度15容量%〜40容量%の範囲で使用することが好ましい。また、例えば、アルカリ金属塩(特には塩化ナトリウム)0.05〜0.18Mの存在下で、pH7.5〜9.0の場合、多価アルコール(特にエチレングリコール)を終濃度25容量%〜60容量%の範囲で使用することが好ましい。【0015】本発明では、被検試料中に共存するヘパリンコファクターIIの干渉を、多価アルコールの添加によって排除する。すなわち、一般にアンチトロンビンIII やヘパリンコファクターIIは、それぞれヘパリンと結合して複合体を形成することによってセリンプロテアーゼ活性(例えば、トロンビン活性)を阻害することができるが、ヘパリンに対する親和性は、反応の場の多価アルコール濃度によって異なる。ヘパリンコファクターIIは、多価アルコール不在下においては、ヘパリンと結合して、ヘパリン・ヘパリンコファクターII複合体を形成し、更には、トロンビン・ヘパリン・ヘパリンコファクターII複合体を形成する。一方、多価アルコールの存在下においては、ヘパリンとヘパリンコファクターIIとトロンビンとは、複合体を形成しない。それに対して、アンチトロンビンIII は、多価アルコールの存在下においてもヘパリン結合能を示す。従って、トロンビン、ヘパリン、及び被検アンチトロンビンIII を反応させる場に、多価アルコールを存在させることにより、ヘパリンコファクターIIにはトロンビン活性を阻害させず、アンチトロンビンIII のみによってトロンビン活性を阻害させる環境とすることができる。この結果、ヘパリンコファクターIIの干渉を受けないアンチトロンビンIII 測定系を成立させることができる。【0016】セリンプロテアーゼとしてトロンビンを用いる場合には、前記の各反応は、以下の式(1)〜(3)で表すことができる。III ・ヘパリン複合体前記の各反応後、残存するトロンビン活性(残存トロンビン活性)を従来公知の合成基質法やフィブリン形成の阻害時間法等によって測定する。一方、被検試料として生理食塩水などを使用し、試薬中に含まれている全トロンビンの活性(全トロンビン活性)を測定し、それらの測定値から、以下の計算式によってアンチトロンビンIII 活性を求めることができる。AAT=ATA−ATB(式中、AATはアンチトロンビンIII 活性、ATAは全トロンビン活性、そしてATBは残存トロンビン活性を表す)【0017】なお、本発明方法においては、通常の公知ATIII 活性測定法と同様に、セリンプロテアーゼとして、例えばトロンビン又は第X因子を用いることができる。また、ヘパリンとしては、特にその由来は限定されず、また、高分子ヘパリンあるいは低分子ヘパリンのいずれも用いることができる。【0018】本発明方法においては、多価アルコールの存在下で被検試料とヘパリン及びセリンプロテアーゼとを接触させて複合体を形成させた後に、当業界で公知の任意の方法により残存セリンプロテアーゼ活性を測定することができる。例えば、合成基質法を用いて残存トロンビン活性を測定する場合は、前記反応終了後、基質含有溶液を添加して、トロンビン活性を測定すればよい。この合成基質としては公知の任意の基質を適宜選択して用いることができ、例えば、トシル−グリシル−プロリル−アルギニル−パラニトロアニリド、H−D−フェニルアラニル−L−ピペコリル−L−アルギニン−パラニトロアニリド、H−D−フェニルアラニル−L−N−メチルアラニル−L−アルギニル−パラニトロアニリド、アルギニル−3−tert−アルキルオキシカルボニル−4−ニトロアニリド等を用いることができる。これら合成基質より誘導される発色物質を分光学的に検出する。また、残存トロンビン活性を、第XIII 因子存在下にフィブリノゲンをフィブリンに転換する活性として凝固時間を測定することにより求めることもできる。【0019】一方、セリンプロテアーゼとして第X因子を用いる場合は、被検試料とへパリンと第X因子とを接触させてヘパリン・ATIII ・第X因子複合体を形成させた後、残存する第X因子に対して、第X因子に特異的な合成基質(例えばメシル−D−ロイシル−グリシル−アルギニル−パラニトロアニリド、N−ベンゾイル−L−イソロイシルL−グルタミル−グリシル−L−アルギニル−パラニトロアニリド等)を含有する溶液を前記複合体形成反応後に添加して、基質から誘導される発色物質を分光学的に検出する。前記と同様に、公知の任意の方法によりブランク試験としての全トロンビン活性を測定することができる。【0020】更に、本発明は、ATIII 活性測定用試薬にも関する。本発明による試薬は、ヘパリン及びセリンプロテアーゼを含有する通常のATIII 活性測定用試薬に、多価アルコールを含有させ、更に場合によりアルカリ金属塩を含有させることからなり、これにより、ヘパリンコファクターIIの影響を受けずに精度よくアンチトロンビンIII 活性を測定するための試薬を提供することができる。ATIII 活性測定用試薬が二試薬系からなる場合には、第一試薬及び/又は第二試薬に前記と同様の多価アルコールを含有させることができる。例えば、セリンプロテアーゼとしてトロンビンを用い、残存トロンビン活性を合成基質法にて測定するための試薬組成としては、その反応の手順を考慮してヘパリン、トロンビン及び多価アルコールからなる第一試薬と、合成基質を含む第二試薬から構成するのが好ましい。あるいは、第一試薬にヘパリンと多価アルコール、第二試薬にトロンビン(必要に応じて多価アルコール)、第三試薬に合成基質をそれぞれ含有させて構成してもよい。【0021】前記の二試薬系の場合、第一試薬中のヘパリンの濃度範囲は従来公知の第一試薬の濃度範囲と同じでよく、例えば0.01〜200U/ml、好ましくは0.1〜100U/mlの濃度範囲で適宜調整する。また、トロンビンも従来公知の第一試薬の濃度範囲で同じでよく、例えば0.01〜10U/ml、好ましくは0.05〜5U/mlの濃度範囲で適宜調整する。多価アルコールは試薬添加量や測定系の条件により調整すればよく、例えば、トロンビンとヘパリンとATIII とが複合体を形成する反応の場に、例えば、アルカリ金属塩(特にはNaCl)を0.05〜0.18Mの濃度で共存させる場合には、多価アルコール濃度が10〜60容量%、好ましくは20〜60容量%の量となるように試薬濃度を調整して構成すればよい。【0022】前記の構成を有する第一試薬を精製水あるいは適当な緩衝液に溶解して用いることができる。緩衝液としては、構成成分を安定に保つことができ、且つATIII との複合体形成を阻害しないもの、更には残存トロンビンと合成基質との反応を阻害しないものであれば特に限定はされない。具体的には、トリス緩衝液、グッド緩衝液、ヘペス緩衝液等、従来公知の緩衝液から適宜選択して用いることができる。更に粉末状として供する場合には、例えば、トロンビン0.1〜100U/ml、好ましくは0.5〜50U/mlを公知の手段で凍結乾燥して粉末状とし、その粉末状組成物の溶解液として0.01〜200U/ml、好ましくは0.1〜100U/mlのヘパリン及び前記濃度の多価アルコールを含む緩衝液を別途調製し、使用時にトロンビンを溶解して用いることもできる。【0023】前記の二試薬系の場合、第二試薬の基質としては、従来公知の第二試薬に含まれている基質を従来公知の第二試薬と同様の濃度で用いることができる。具体的には、トシル−グリシル−プロリル−アルギニル−パラニトロアニリド、H−D−フェニルアラニル−L−ピペコリル−L−アルギニン−パラニトロアニリド、H−D−フェニルアラニル−L−N−メチルアラニル−L−アルギニル−パラニトロアニリド、アルギニル−3−tert−アルキルオキシカルボニル−4−ニトロアニリド等の合成基質を好ましくは0.05〜100mM、より好ましくは0.1〜50mMの濃度となるように調整する。これらを精製水あるいは前記と同様の緩衝液に溶解して用いる。更に、基質物質の安定性等を考慮して、これらを公知の手段より凍結乾燥品の形で保存することもできる。【0024】セリンプロテアーゼとして第X因子を用いる場合には、前記と同様に従来公知の試薬に多価アルコールを前記の濃度となるように添加すればよい。また、基質も、例えばメシル−D−ロイシル−グリシル−アルギニル−パラニトロアニリド、又はN−ベンゾイル−L−イソロイシルL−グルタミル−グリシル−L−アルギニル−パラニトロアニリド等の公知の基質を用いればよい。また、残存するトロンビン活性を、第XIII 因子存在下にフィブリンをフィブリノゲンに転換する活性として凝固時間を測定することにより求める場合にも、従来の公知試薬に多価アルコールを前記の濃度となるように添加して構成することができる。【0025】HCIIによる干渉の回避、及び高濃度のATIII を含む被検試料の測定を実施する方法として、反応液中に高濃度の塩を添加する方法が提案されているが(特開平7−8298号公報)、ヘパリン依存的活性を非依存的活性よりも強く抑制するので、ヘパリン非依存的活性を定量してしまうという欠点があった。多価アルコール(例えば、エチレングリコール)を共存させる本発明方法は、HCIIによる干渉の回避、高濃度のATIII を含む被検試料の測定、及びヘパリン非依存的ATIII 活性の抑制を、同時に満たすことができるという点で、従来法とは異なる新規な方法であり、且つ優れている。【0026】【実施例】以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。なお、以下の実施例においては、測定機器には自動分析装置LPIA200(商品名;三菱化学製)を用いた。ATIII 活性測定用試薬は、R1試薬(トロンビン180mU/ml、ヘパリン20unit/ml、及びウシ血清アルブミン0.35mg/mlを含む50mMトリス緩衝液)と、R2試薬〔6mMトロンビン活性検出用合成基質H−D−フェニルアラニル−L−N−メチルアラニル−L−アルギニル−パラニトロアニリド(日東紡製:以下、NS1500と称する)〕とからなる。但し、以下の各実施例の内容に応じて、NaCl及び/又はエチレングリコールをR1試薬に適宜添加して使用した。また、各実施例で用いるpH条件に応じて、R1試薬中のトリス緩衝液の代わりに2−モルホリノエタンスルホン酸(以下、MESと称する)緩衝液、クエン酸緩衝液、又はリン酸緩衝液を使用した。なお、実施例における濃度(エチレングリコール,NaCl)は、全て最終濃度(検体+R1+R2)で表記した。測定は以下の手順で実施した。すなわち、R1試薬236μlに生理食塩水24μlを添加し、更に、被検試料(例えば、無希釈血漿検体)又は生理食塩水(ブランク用)3μlを添加し、37℃で5分間インキュベートを行った。次いで、R2試薬40μlを添加し、反応液を37℃に維持したまま、405nmの吸光度変化を10分間測定した。生理食塩水を添加した場合の10分間の吸光度変化と、被検試料を添加した場合の10分間の吸光度変化との差から、被検試料中のATIII 活性を算出した。【0027】実施例1:血漿全体のトロンビン阻害活性に占めるHCIIの比率正常プール血漿140μlに対し、過剰量(100μl)の抗ヒトATIII ウサギ抗体(Dako社)を添加し、室温で30分間インキュベートすることにより不活化処理を実施した。このとき残留したトロンビン阻害活性は、HCIIに由来することを抗HCII特異抗体による吸収で確認した。この残留したHCIIによるトロンビン阻害活性に関し、反応液中のNaCl濃度とエチレングリコール濃度との関係について調べた(図1〜図3及び表1〜3)。なお、本実施例においては、反応条件に応じて、NaClの終濃度が0.04M〜0.39Mになるように、更に、エチレングリコールの終濃度が12容量%又は24容量%になるように、R1試薬にNaCl及びエチレングリコールを添加した。また、R1試薬の緩衝液には、MES緩衝液(pH6.2)を使用した。【0028】比較例として、エチレングリコール濃度が0%の場合の結果を、図1及び表1に示す。図1において、実線aは、生理食塩水を添加したときの10分間の吸光度変化の値(以下、Δaと称する)を直線で結んだものであり、反応液中の全トロンビン活性を示す。また、破線bは、不活化処理を実施したプール血漿を添加したときの10分間の吸光度変化の値(Δbと称する)を直線で結んだものであり、HCIIにより阻害された反応液中の残存トロンビン活性を示す。更に、一点鎖線cは、正常プール血漿を添加したときの10分間の吸光度変化の値(Δcと称する)を直線で結んだものであり、血漿により阻害された反応液中の残存トロンビン活性を示す。表1において、(a)は反応液中のNaCl濃度(M)であり、(b)は「HCIIによるトロンビン活性阻害率」(以下、αb と称する)であり、算出式:αb =100×(Δa−Δb)/Δaにより求めた。また、(c)は「血漿によるトロンビン活性阻害率」(以下、αC と称する)であり、算出式:αC =100×(Δa−Δc)/Δaにより求めた。更には、(d)は「血漿による阻害に占めるHCIIの比率」であり、算出式:αb /αC により求めた。表1に示すように、HCIIによるトロンビン阻害活性は反応液中のNaCl濃度に依存することが認められた。【0029】【表1】【0030】エチレングリコール濃度が12%(V/V)の場合の結果を図2及び表2に示し、エチレングリコール濃度が24%(V/V)の場合の結果を図3及び表3に示す。表中、(a)〜(d)は表1と同じ意味である。反応液にエチレングリコールを添加すると、HCIIによるトロンビン阻害活性は抑制される傾向を示し(図2及び表2)、エチレングリコール濃度が24%の場合、反応液中のNaCl濃度に関係なくHCIIによるトロンビン阻害活性は、ほぼ完全に消失した(図3及び表3)。24%以上のエチレングリコール存在下でも同様の結果を得た。【0031】【表2】【0032】【表3】【0033】同様の操作を、pH値及びエチレングリコール濃度を変化させて実施した。pH値が6.5の場合の結果を図4に、pH値が7.0の場合の結果を図5に、pH値が7.5の場合の結果を図6に、pH値が8.0の場合の結果を図7に、そしてpH値が8.5の場合の結果を図8にそれぞれ示す。図4〜図8において、実線a、破線b、及び一点鎖線cは図1〜図3と同じ意味である。また、(1)で示すグラフはエチレングリコール濃度が0%の場合の結果を示し、同様に(2)で示すグラフはエチレングリコール濃度が8%、(3)で示すグラフはエチレングリコール濃度が16%、そして(4)で示すグラフはエチレングリコール濃度が24%の場合の結果を示し、(1)〜(4)で示す各グラフの横軸は、反応液中のNaCl濃度(M)であり、縦軸は、10分間の吸光度変化である。図4〜図8に示すように、塩化ナトリウム0.2M以下の存在下で、エチレングリコールの終濃度が16容量%又は24容量%、好ましくは24容量%の場合に、HCIIによるトロンビン阻害活性が抑制されることが判明した。【0034】実施例2:ATIII によるトロンビン阻害活性に対するエチレングリコールの抑制効果最終反応液量300μl(自動分析装置における典型的な試薬分注量)に対して、無希釈血漿サンプルを3μl(多くの自動分析装置における最小サンプル量)分注した場合における、ATIII 活性測定系の検量線の形状、及びそれに対するR1試薬へのエチレングリコールの効果を調べた。検量線の形状は反応液中のNaCl濃度及びpHにも左右されるので、ここでは、NaCl終濃度が0.15Mで、しかもエチレングリコール終濃度が0〜40容量%になるように、R1試薬にNaCl及びエチレングリコールを添加し、R1試薬の緩衝液としてクエン酸緩衝液(pH7.0)を使用した場合について示す。結果を図9〜図14に示す。ATIII 濃度は、健常人血漿に含まれるATIII 濃度の平均値を100%として示し、ATIII 濃度0〜200%の範囲にわたって調べた。図9に示すように、エチレングリコール非添加時には検量線は作成不可能だが、エチレングリコールの添加によりトロンビン阻害活性が抑制され、24容量%以上の場合(図12〜図14)、無希釈の血漿サンプルに対してATIII 濃度0〜200%の範囲にわたり検量線が作成可能となった。【0035】同様の操作を、R1試薬に添加するNaCl濃度、及びR1試薬のpHを変化させて実施した。NaCl濃度が0.05Mの場合の結果を表4に、そしてNaCl濃度が0.15Mの場合の結果を表5にそれぞれ示す。表中、記号○は、適正な検量線を作成することができる可能性があることを示し、記号−は、最適ではないものの検量線を成立させ得ることを示し、そして記号×は、検量線が作成不可能であることを示す。表4及び表5に示すように、pH値とエチレングリコール使用量とを適宜選択することにより、無希釈の血漿に対してATIII 濃度0〜200%の範囲にわたり検量線が作成可能となることが判明した。【0036】【表4】【0037】【表5】【0038】また、同様の操作を、エチレングリコールの代わりに、グリセロール、ソルビトール、又はキシリトールを使用して実施したところ、エチレングリコールの場合と同様にトロンビン阻害活性を抑制することが判明した。【0039】実施例3:ヘパリンが関与しないトロンビン阻害活性の測定値に与える影響最終反応液量300μlに対し、無希釈血漿サンプル3μlを分注した条件における、ATIII 活性測定値に対する、ATIII とヘパリンとの相互作用に依存しない阻害活性の影響を調べた。具体的には、R1試薬中に、ヘパリン濃度が0単位/ml(図15)及び19単位/mlの場合(図16)における、それぞれR1試薬中にNaClを0.04〜0.72Mを添加したときのATIII によるトロンビン阻害量を調べた。なお、R1試薬の緩衝液としては38mMリン酸ナトリウム緩衝液を用いた。図15及び図16において、実線aは、生理食塩水(ブランク)を添加したときの10分間の吸光度変化の値を示し、破線cは、無希釈正常プール血漿を添加したときの10分間の吸光度変化の値を示す。トロンビン阻害率(%)は、式:(トロンビン阻害率)=100×(Ha−Hc)/Ha(式中、Haは、図15又は図16における実線aの高さを意味し、Hcは、図15又は図16における実線cの高さを意味する)により、算出することができる。【0040】図15に示すように、無希釈の正常プール血漿サンプルを添加した場合、反応液にヘパリンが存在しなくても血漿中のATIII により全トロンビン活性の約10%が阻害された。図15及び図16から算出した、ヘパリンの関与しないトロンビン阻害率(A)、及びヘパリン存在下でのトロンビン阻害率(B)を表6に示す。表中、(a)は反応液中のNaCl濃度(M)である。なお、NaCl濃度が0.16M又は0.22Mの場合、ヘパリン依存的な阻害活性は測定レンジ以上であり、A/B比は無視することができる。ヘパリン共存下におけるトロンビン阻害活性はNaClにより抑制されるのに対し(図16)、ヘパリンの関与しない阻害活性はNaClの添加では殆ど抑制されなかった(図15)。従って、0.5MのNaCl存在下では血漿サンプルを無希釈で測定することができるが、ヘパリン結合能のない変異ATIII についても図15に相当するトロンビン阻害活性(表6のA/B比より約20%)の分だけ、実際よりも高めの測定値を与えることになる。なお、両条件における阻害活性は、サンプルを抗ATIII 抗体で処理することにより完全に消失する。【0041】【表6】【0042】実施例4:ヘパリンが関与しないATIII によるトロンビン阻害活性に対するエチレングリコールの抑制効果実施例3に見られる、ヘパリン非存在下で検出されるATIII によるトロンビン阻害活性に対する、反応液中に添加するエチレングリコールの効果を調べた。具体的には、ヘパリンを含まないR1試薬に対して、NaCl終濃度0.13M及びエチレングリコール終濃度0〜24容量%になるように、NaCl及びエチレングリコールを添加した場合について、無希釈正常プール血漿によるトロンビン阻害率を測定した。なお、R1試薬の緩衝液としては、38mMクエン酸緩衝液(pH7.0)を用いた。結果を表7に示す。【0043】【表7】【0044】この結果、pH7.0でNaCl濃度が0.13Mの場合では、エチレングリコール濃度が16%(V/V)の条件で完全に抑制する効果が見られた。抑制に必要なエチレングリコール濃度は、反応液のpHにより異なっており、例えば、pH8.0でNaCl濃度が0.13Mの条件では24%(V/V)以上のとき完全に抑制することができる。この特性を利用し、反応液に多価アルコール(例えば、エチレングリコール)を24%以上存在させることにより、無希釈の血漿サンプルでもヘパリン依存ATIII 活性を正確に測定することができる。従って、この反応条件では前記の変異ATIII を含む検体についても本来のヘパリン依存ATIII 活性測定値を与えることが期待でき、正確な測定が可能となるものである。同様の操作を、エチレングリコールの代わりにグリセロールを用いて実施したところ、同様にヘパリン非依存的ATIII による正の干渉を抑制することができた。なお、グリセロールの場合には、エチレングリコールに比べて高い濃度を必要とした。【0045】【発明の効果】被検試料中のヘパリンコファクターIIの妨害及びアンチトロンビンIII のヘパリン非依存的なトロンビン阻害活性の影響を受けずに、アンチトロンビンIII 活性を正確に測定することができる。【図面の簡単な説明】【図1】エチレングリコール濃度が0%(V/V)の場合の、血漿及びヘパリンコファクターIIによるトロンビン阻害活性と、反応液中のNaCl濃度との関係を示すグラフである。【図2】エチレングリコール濃度が12%(V/V)の場合の、血漿及びヘパリンコファクターIIによるトロンビン阻害活性と、反応液中のNaCl濃度との関係を示すグラフである。【図3】エチレングリコール濃度が24%(V/V)の場合の、血漿及びヘパリンコファクターIIによるトロンビン阻害活性と、反応液中のNaCl濃度との関係を示すグラフである。【図4】pH6.5の場合の、血漿及びヘパリンコファクターIIによるトロンビン阻害活性と、反応液中のNaCl濃度との関係を示すグラフである。【図5】pH7.0の場合の、血漿及びヘパリンコファクターIIによるトロンビン阻害活性と、反応液中のNaCl濃度との関係を示すグラフである。【図6】pH7.5の場合の、血漿及びヘパリンコファクターIIによるトロンビン阻害活性と、反応液中のNaCl濃度との関係を示すグラフである。【図7】pH8.0の場合の、血漿及びヘパリンコファクターIIによるトロンビン阻害活性と、反応液中のNaCl濃度との関係を示すグラフである。【図8】pH8.5の場合の、血漿及びヘパリンコファクターIIによるトロンビン阻害活性と、反応液中のNaCl濃度との関係を示すグラフである。【図9】エチレングリコール濃度が0%の場合の検量線を示すグラフである。【図10】エチレングリコール濃度が8%の場合の検量線を示すグラフである。【図11】エチレングリコール濃度が16%の場合の検量線を示すグラフである。【図12】エチレングリコール濃度が24%の場合の検量線を示すグラフである。【図13】エチレングリコール濃度が32%の場合の検量線を示すグラフである。【図14】エチレングリコール濃度が40%の場合の検量線を示すグラフである。【図15】ヘパリン非存在下におけるトロンピン阻害活性を示すグラフである。【図16】ヘパリン存在下におけるトロンピン阻害活性を示すグラフである。 アンチトロンビンIIIを含む被検試料に、ヘパリン及び既知濃度のトロンビンを添加して複合体を形成させた後、残存するトロンビン活性を検出することにより被検試料中のアンチトロンビンIII活性を測定する方法において、前記複合体を形成させる反応前又は反応時にアルカリ金属塩及び式(1):HOCH2−〔C(OH)H〕n−CH2OH (1)(式中、nは0又は1〜4の整数である)で表される多価アルコールを共存させ、前記式(1)で表される多価アルコールの反応時の終濃度を10容量%−60容量%とすることを特徴とする、アンチトロンビンIII活性測定方法。 前記式(1)で表される多価アルコールがエチレングリコールである、請求項1に記載の方法。