生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_新規なβ−ガラクトシダーゼ
出願番号:1996192739
年次:2007
IPC分類:C12N 9/38,C12N 1/21,C12P 19/14,C12R 1/09,C12R 1/19


特許情報キャッシュ

藤本 浩 鰺坂 勝美 佐々木 隆 伊藤 喜之 JP 3886061 特許公報(B2) 20061201 1996192739 19960704 新規なβ−ガラクトシダーゼ 明治乳業株式会社 000006138 藤本 浩 鰺坂 勝美 佐々木 隆 伊藤 喜之 JP 1996099644 19960329 20070228 C12N 9/38 20060101AFI20070208BHJP C12N 1/21 20060101ALI20070208BHJP C12P 19/14 20060101ALN20070208BHJP C12R 1/09 20060101ALN20070208BHJP C12R 1/19 20060101ALN20070208BHJP JPC12N9/38C12N1/21C12P19/14 ZC12N9/38C12R1:09C12N1/21C12R1:19 C12N 9/00-9/99 C12N 15/00-15/90 JSTPlus(JDream2) CA/REGISTRY/WPIDS/MEDLINE/BIOSIS(STN) 特開平07−308189(JP,A) Agric. Biol. Chem.,1984年,48 [12],p.3053-3061 Glycobiology,1995年,5 [6],p.603-610 6 1997313177 19971209 19 20030616 新留 豊 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、β1-3ガラクトシド結合を選択的に加水分解し、β1-3ガラクトシド結合を選択的に形成する作用を有する、バチルス属に属する菌由来の新規なβ−ガラクトシダーゼ、バチルス属に属する菌を用いる該β−ガラクトシダーゼの製造方法、該β−ガラクトシダーゼをコードする遺伝子、該遺伝子をベクターに挿入してなる組換えプラスミド、該組換えプラスミドを宿主細胞に導入して得られる形質転換体、該形質転換体を培養して得られる該β−ガラクトシダーゼ、該β−ガラクトシダーゼの製造方法、該β−ガラクトシダーゼの反応を用いることを特徴とするβ1-3ガラクトシド結合で結合した糖質の製造方法、及び該β−ガラクトシダーゼを用いて、糖質中のβ1-3ガラクトシド結合を切断することを特徴とする糖質の製造方法に関する。【0002】本発明のβ−ガラクトシダーゼは、糖蛋白質や糖脂質において重要なキーオリゴ糖であるGalβ1-3GalNAc(2−アセタミド−2−デオキシ−3−O−(β-D-ガラクトピラノシル)−D−ガラクトピラノース)及びGalβ1-3GlcNAc(2−アセタミド−2−デオキシ−3−O−(β-D-ガラクトピラノシル)−D−グルコピラノース)を、酵素法により合成する上で有用である。【0003】【従来の技術】Galβ1-3GalNAcという2糖は、ムチン型糖蛋白質におけるセリンあるいはスレオニンとの結合部位に存在する重要な構成要素である。また、糖脂質においてもグロボ系列、ラクト系列、ガングリオ系列を問わず頻繁に出現するキーオリゴ糖である。また、Galβ1-3GlcNAcという2糖もアスパラギン結合型糖蛋白質のうち複合型糖鎖に含まれる部分構造でもある。【0004】このように、Galβ1-3GalNAcは複合糖質における極めて重要なオリゴ糖であるため、これを簡便かつ安価に製造する方法が求められている。【0005】一般に2糖を合成する方法としては、有機化学的方法と酵素合成法とが知られている。【0006】有機化学的方法により合成する場合には、GalNAc(N−アセチルガラクトサミン)の1、4及び6位の水酸基を保護し、一方で2、3、4及び6位を保護したガラクトースの1位を活性化しておいて、両者を縮合させることにより2糖を合成する。さらにその後、それらの保護基を全て脱離する必要がある。従って、必然的に工程数が長くなり、工業的生産には極めて不利な方法である。【0007】一方、酵素法により合成する方法としては、2種類の反応方法が知られている。一つは、トランスフェラーゼ(転移酵素)を用いる方法で、もう一つは加水分解酵素を利用する方法である。【0008】トランスフェラーゼを用いる方法は、トランスフェラーゼ自体を入手することが困難である場合が多く、また、供与体となる基質の糖ヌクレオチドも調製が難しいという問題がある。しかも、一般にトランスフェラーゼは基質特異性が高いため、あるシークエンスの糖鎖を合成するために用いられる酵素は、別のシークエンスの糖鎖の合成には用いることができない場合がある等、汎用性の点でも問題が指摘されている。【0009】加水分解酵素を利用する方法は、反応の原理の面から、リバースハイドロリシス反応と転移反応との2種類の反応に分けられる。【0010】リバースハイドロリシス反応とは、単糖と2糖との間の化学平衡を加水分解酵素により2糖生成の側に変移させ、その化学平衡の結果生じる2糖を回収する反応である。その原理をさらに利用した方法として、2糖を活性炭に吸着させて反応系から除去することにより、2糖が生成するように化学平衡をずらす、という方法も考案されている(特開平1-91792)。【0011】加水分解酵素を利用する反応のもう一つの方法である転移反応は、供与体として、酵素の基質と成りうるグリコシド化合物を用いる。そのグリコシド結合が酵素により切断する際に、水と結合すれば加水分解という現象になるが、そこに別の糖が存在すれば2糖が形成される、という原理に基づく。この方法は、一般に基質であるグリコシド化合物が安価であり、また、酵素も植物、動物、微生物など入手が比較的容易であることから、すでにいくつかのオリゴ糖の工業的生産に利用されている。【0012】上記したように、Galβ1-3GalNAcは複合糖質における極めて重要なオリゴ糖であるため、これを簡便かつ安価に製造する方法が求められているが、これまでのところ、Galβ1-3GalNAcの酵素法による合成については、牛精巣由来のβ−ガラクトシダーゼを用いた転移反応の例が報告されているにすぎない(L. Hedbys, E. Johansson, K. Mosbach, and P.O. Larsson, Carbohydr. Res., 186, 217-223 (1989))。しかしながら、牛精巣は入手困難であるばかりでなく、市販されている牛精巣由来のβ−ガラクトシダーゼ精製酵素は著しく高価であり、しかも、ガラクトシド結合形成の特異性が低く、β1-3ガラクトシド結合以外のβガラクトシド結合をも形成する。このためこの酵素を用いると、目的とするβ1-3ガラクトシド結合の2糖以外に他の結合を持つ2糖が生成するので、一旦生成した2糖の混合物を、大腸菌由来のβ−ガラクトシダーゼでさらに処理し、β1-3ガラクトシド結合以外の2糖を加水分解する必要があり、収率や工程数の面からも非効率的である。しかしながら、現在のところこの酵素に代わる、入手が容易で選択性の高い酵素は見い出されていない。【0013】また、微生物由来のβ1-3ガラクトシド結合を加水分解するβ−ガラクトシダーゼとしては、Xanthomonasに属する菌由来のβ−ガラクトシダーゼが唯一知られており(Sharon, T. et al., Glycobiology, 5(1), 19-28 (1995))、その遺伝子が単離されている(Christopher, H. T. et al., Glycobiology, 5(6), 603-610 (1995))。このβ−ガラクトシダーゼは、β1-3ガラクトシド結合を優先的に加水分解し、β1-4ガラクトシド結合及びβ1-6ガラクトシド結合をほとんど加水分解しないという作用を有している。【0014】しかしながら、グリコシダーゼの加水分解における作用の特異性と得られるガラクトシルオリゴ糖の結合様式とは、必ずしも対応していない。そのため、このガラクトシダーゼがβ1-3ガラクトシド結合を形成する作用を有するか否かは明らかではなく、また、仮にβ1-3ガラクトシド結合を形成する作用を有していたとしても、β1-3ガラクトシド結合のオリゴ糖が選択的に得られるかどうかは分からない。従って、Galβ1-3GalNAc等の糖質のキーオリゴ糖を合成することが可能であるかは不明である。【0015】【発明が解決しようとする課題】本発明は、入手が容易であって、高い選択性でβ1-3ガラクトシド結合を加水分解及び形成する作用を有するβ−ガラクトシダーゼを提供することを主な課題とする。【0016】【課題を解決するための手段】本発明者らは、バチルス属に属する菌が、β1-3ガラクトシド結合(以下β1-3結合ということがある)を選択的に加水分解するβ−ガラクトシダーゼを産生することを見出した。そして、該β−ガラクトシダーゼをコードする遺伝子をクローニングし、この遺伝子を挿入した組換えプラスミドを用いて大腸菌を形質転換し、該β−ガラクトシダーゼを発現させることに成功した。更に、発現させたβ−ガラクトシダーゼを用いて、β1-3ガラクトシド結合を有する糖を加水分解し、また、Galβ1-3GalNAc及びGalβ1-3GlcNAcを合成することに成功し、本発明を完成した。【0017】すなわち本発明は、(1)バチルス属に属する菌に由来し、β1-3ガラクトシド結合を加水分解し、β1-6ガラクトシド結合及びβ1-4ガラクトシド結合をほとんど加水分解せず、ガラクトースがβ−結合したガラクトシド化合物と糖受容体とからβ1-3ガラクトシド結合を選択的に形成する作用を有するβ−ガラクトシダーゼ、(2)配列番号1に示されるアミノ酸配列の全部又は少なくとも一部の配列を有する(1)記載のβ−ガラクトシダーゼ、(3)(1)記載のバチルス属に属する菌が、バチルス・サーキュランス種であることを特徴とする(1)又は(2)記載のβ−ガラクトシダーゼ、(4)バチルス属に属する菌を培養し、その培養液遠心上清及び/又は菌体から(1)又は(2)記載のβ−ガラクトシダーゼを取得することを特徴とするβ−ガラクトシダーゼの製造方法、(5)バチルス属に属する菌が、バチルス・サーキュランス種であることを特徴とする(4)記載のβ−ガラクトシダーゼの製造方法、(6)(1)、(2)又は(3)記載のβ−ガラクトシダーゼをコードする遺伝子、(7)配列番号3に示される塩基配列からなる(6)記載の遺伝子、(8)(6)又は(7)記載のβ−ガラクトシダーゼをコードする遺伝子をベクターに挿入してなる組換えプラスミド、(9)(8)記載の組換えプラスミドを宿主細胞に導入して得られる形質転換体、(10)(9)記載の形質転換体を培養して得られるβ−ガラクトシダーゼ、(11)(10)記載のβ−ガラクトシダーゼを取得することを特徴とするβ−ガラクトシダーゼの製造方法、(12)(1)、(2)、(3)又は(10)に記載のβ−ガラクトシダーゼを用いることを特徴とするβ1-3ガラクトシド結合で結合した糖質の製造方法、(13)(1)、(2)、(3)又は(10)に記載のβ−ガラクトシダーゼを用いて、糖質中のβ1-3ガラクトシド結合を切断することを特徴とする糖質の製造方法、に関する。【0018】その一例として、本発明者らは、これまでβ1-4ガラクトシド結合を優先的に加水分解する性質を有する2種類のβ−ガラクトシダーゼ(β−ガラクトシダーゼ−1及びβ−ガラクトシダーゼ−2)を産生するとされてきたBacillus circulans(Z. Mozaffar, K. Nakanishi, R. Matsuno, and T. Kamikubo, Agric. Biol. Chem., 48, 3053-3061 (1984))が、実は3種類のβ−ガラクトシダーゼを産生し、それらのうちの一つが、β1-3ガラクトシド結合を特異的に加水分解することを初めて見出した。【0019】従来、Bacillus circulans(以下B. circulansという)由来のβ−ガラクトシダーゼとしては、市販酵素剤ビオラクタ(大和化成)が用いられているが、実施例1に示されるように、この酵素剤にはβ−ガラクトシダーゼ−1及びβ−ガラクトシダーゼ−2の2種類のβ−ガラクトシダーゼしか含んでいない。【0020】B. circulansがβ1-3結合を優先的に加水分解するβ−ガラクトシダーゼを産生することは全く知られておらず、本発明のβ−ガラクトシダーゼは新規なものである。また、B. circulans以外のバチルス属に属する菌がβ1-3結合を優先的に加水分解するβ−ガラクトシダーゼを産生することも、これまで全く知られていない。【0021】上記のように、β1-3結合を優先的に加水分解する酵素としては、Xanthomonasに属する菌由来のβ−ガラクトシダーゼが知られている。しかしながら、ガラクトシダーゼの加水分解における作用の特異性と得られるガラクトシルオリゴ糖の結合様式とは、必ずしも対応していない。そのため、このガラクトシダーゼがβ1-3ガラクトシド結合を形成する作用を有するか否かは明らかではなく、また、仮にβ1-3ガラクトシド結合を形成する作用を有していたとしても、β1-3ガラクトシド結合のオリゴ糖が選択的に得られるかどうかは分からない。従って、このβ−ガラクトシダーゼを用いて、Galβ1-3GalNAc等の糖質のキーオリゴ糖を合成することが可能であるかは不明である。【0022】さらに、本発明者らは、B. circulansからβ1-3ガラクトシド結合を選択的に加水分解する上記の新規なβ−ガラクトシダーゼの遺伝子をクローニングし、この遺伝子を挿入した組換えプラスミドを用いて大腸菌を形質転換し、該β−ガラクトシダーゼを発現させることに成功した。【0023】また、発現させたβ−ガラクトシダーゼを用いて、β1-3ガラクトシド結合を有する糖を加水分解することに成功した。さらに、β1-3ガラクトシド結合で結合した糖質の酵素合成において、本発明β−ガラクトシダーゼの反応により、β1-3ガラクトシド結合以外のβ-ガラクトシド結合が形成されることなく、Galβ1-3GalNAc及びGalβ1-3GlcNAcを、一工程で位置選択的に合成することに初めて成功した。【0024】【発明の実施の形態】本発明のβ−ガラクトシダーゼの作用の特徴は以下の通りである。【0025】本発明β−ガラクトシダーゼは、β1-3ガラクトシド結合を有するガラクトシルグルコサミンやガラクトシルガラクトサミンを極めて速く加水分解するが、β1-6ガラクトシド結合あるいはβ1-4ガラクトシド結合を有するガラクトシルグルコサミン、ガラクトシルガラクトサミン及びラクトースはほとんど加水分解しない。また、本発明のβ−ガラクトシダーゼは、ガラクトースがβ−結合したガラクトシド化合物と糖受容体とから、β1-3ガラクトシド結合を選択的に形成させる作用を有する。【0026】以上から、本発明のβ−ガラクトシダーゼは、従来より知られているB. circulansのβ−ガラクトシダーゼ−1及びβ−ガラクトシダーゼ−2とは明らかに異なる。【0027】また、本発明のβ−ガラクトシダーゼをクローニングして得られた遺伝子の塩基配列から、本発明のβ−ガラクトシダーゼのアミノ酸配列は、配列番号3に示される586個のアミノ酸からなり、分子量は約66800であると推定される。【0028】但し、本発明のβ−ガラクトシダーゼは、このアミノ酸配列を有するものに限定されるものではなく、配列の一部が欠失、置換あるいは他のアミノ酸配列が挿入されていても、上記の作用上の特徴を有している限り、本発明に包含される。【0029】なお、Xanthomonasに属する菌由来のβ−ガラクトシダーゼの遺伝子配列から推定される該β−ガラクトシダーゼのアミノ酸配列(Christopher, H. T. et al., Glycobiology, 5(6), 603-610 (1995))と、本発明のβ−ガラクトシダーゼのアミノ酸配列との相同性は43.3%に過ぎず、両者は全く異なるものである。【0030】本発明のβ−ガラクトシダーゼを産生する菌としては、Bacillus subtilis、Bacillus brevis、Bacillus circulans、Bacillus stearothermophilus、Bacillus licheniformis、Bacillus megaterium、Bacillus larvae、Bacillus thuringiensisなど、公知のバチルス属に属するあらゆる種から選択することができ、特に限定はない。【0031】また、本発明のβ−ガラクトシダーゼを製造するには、該酵素を自発的に産生しているバチルス属に属する菌を培養してその培養液遠心上清あるいは菌体から取得してもよく、また、本発明のβ−ガラクトシダーゼを産生しているバチルス属の細菌から、β−ガラクトシダーゼの遺伝子をクローニングし、これを適当なベクターに挿入して組換えプラスミドを作成し、該組換えプラスミドを用いて適当な宿主細胞を形質転換させて、該形質転換体細胞を培養することにより、培養液遠心上清あるいは菌体から取得してもよい。【0032】なお、本発明のβ−ガラクトシダーゼを、例えばB. circulansを用いて調製する場合、培養液遠心上清あるいは菌体中には、上記したように、β1-4結合特異性が高い二種類のガラクトシダーゼが共在している。このため、β1-3結合特異性が必要とされる用途、例えば、上記のようにβ1-3結合を持つ多糖を、加水分解の逆反応により合成するような用途に用いる場合には、これらのβ1-4結合特異性が高い共在ガラクトシダーゼを除去する必要がある。【0033】それに比較して、本発明のβ−ガラクトシダーゼ遺伝子をβ−ガラクトシダーゼ活性を欠いている大腸菌あるいはそれ以外の適当な宿主に導入して発現させ、β−ガラクトシダーゼを得た場合には、共在するβ1-4結合特異性が高いガラクトシダーゼ活性が含まれていないため、調製物をそのまま反応に用いることができるという利点がある。【0034】本発明のβ−ガラクトシダーゼを産生するバチルス属に属する菌からβ−ガラクトシダーゼの遺伝子をクローニングする方法には特に限定はなく、遺伝子工学分野で通常用いられている方法に従えばよい。【0035】その一例を示すと、バチルス属に属する菌より染色体DNAを調製し、それを常法により制限酵素Sau3AIで部分分解して切り出す。次いで、このDNA断片を大腸菌のプラスミドベクターpBR322に結合して遺伝子ライブラリーを作成する。このライブラリーを用いてβ−ガラクトシダーゼ活性を欠いた大腸菌株に形質転換し、出現したコロニーの中から、β−ガラクトシダーゼ活性を発現しているクローンを、X-gal(5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル-β−D-ガラクトピラノシド)の分解による青色の呈色を指標として選択する。【0036】宿主に導入して形質転換させるために使用する、本発明β−ガラクトシダーゼをコードする遺伝子を挿入するベクターは、pBR322に限定されるものではない。そして、遺伝子工学分野において通常用いられる手法を用いて、生産量をさらに増大させることが期待できる。例えば本遺伝子を、pUC18などpBR322よりもコピー数の多いベクターに結合して菌当たりの遺伝子数を増やす、あるいはpUC18プラスミド上のlacプロモーターなどの強力なプロモーターの下流に本遺伝子を配置し、その強力なプロモーターから転写を行わせる、などの方法を用いて、本発明β−ガラクトシダーゼの収量を上げることも可能である。【0037】また、遺伝子工学分野にて知られている菌体外分泌手法を用いて、本発明β−ガラクトシダーゼを菌体外に分泌させることが期待できる。この場合、本発明β−ガラクトシダーゼの精製が非常に容易になる利点がある。【0038】本遺伝子を導入し、発現させる宿主としては、大腸菌のみならず、枯草菌(Bacillus subtilis)、ブレビス菌(Bacillus brevis)、チーズ乳酸菌(Lactococcus lactis subsp. lactis)など、遺伝子導入系が確立している様々な属・種の細菌・酵母・細胞などを用いることができる。また、B. circulans菌における遺伝子導入系が開発された場合、B. circulansに本遺伝子を多コピー数導入し、本酵素の生産量を増大させることもできる。【0039】なお、本遺伝子を遺伝子工学的に操作し、配列の一部が欠失、置換あるいは他の塩基配列が挿入された結果、形質転換体が生産するβ−ガラクトシダーゼのアミノ酸配列又は蛋白質高次構造が、該遺伝子の由来菌が産生しているβ−ガラクトシダーゼと同一でない場合でも、そのβ1-3結合を特異的に加水分解する性質が保持されているならば、本発明に包含される。【0040】本発明のβ−ガラクトシダーゼを用いることにより、β1-3結合で結合した糖質の製造、あるいは、糖質中のβ1-3結合を切断することによる糖質の製造が可能である。【0041】すなわち、一例として、本酵素の存在下、パラニトロフェニル-β−D-ガラクトピラノシド(Galβ-pNP)を糖供与体とし、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)を糖受容体として転移反応を行なうと、極めて高い位置選択性でGalβ1-3GalNAcが得られる。同様に、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)を糖受容体にした反応ではGalβ1-3GlcNAcが得られる。【0042】ここで、糖転移反応における糖供与体は、Galβ-pNPばかりでなく、オルトニトロフェニル-β-D-ガラクトピラノシド、フェニル-β-D-ガラクトピラノシドなど、ガラクトースがβ−結合したガラクトシド化合物ならばそのアグリコンにはこだわる必要はない。また、受容体も例示したGalNAcあるいはGlcNAcばかりでなく、グルコース、ガラクトース、GalNAc-セリン、キトビオース、ラクトース、ラクトサミン、GalNAcβ1-3Galβ1-4Glcなどあらゆる単糖およびオリゴ糖を用いることができる。【0043】本発明のβ−ガラクトシダーゼは、ムチン型糖鎖、アスパラギン結合糖鎖あるいは糖脂質の部分構造のオリゴ糖の工業的生産に際し、従来に比較して著しく短い工程で、且つ廉価に合成する方法を提供するものである。【0044】また、本発明のβ−ガラクトシダーゼは、β1-3結合のオリゴ糖を選択的に合成するという反応に利用できるだけでなく、その加水分解の基質特異性を利用して、糖鎖の構造解析にも応用できる。【0045】従来、β1-3結合を高い選択性で加水分解する酵素は市販品にはなく、わずかに、Streptococcus 6646K由来のβ−ガラクトシダーゼがβ1-3結合とβ1-4結合の両方を加水分解することから、構造解析にはStreptococcus pneumoniae由来のβ−ガラクトシダーゼと組み合わせて利用されていた。即ち、Streptococcus 6646K由来のβ−ガラクトシダーゼで加水分解されればその糖鎖はβ1-4結合かβ1-3結合であると仮定され、その後Streptococcus pneumoniae由来のβ1-4結合特異的なβ−ガラクトシダーゼで加水分解されなければβ1-3結合であると判断されていた。本酵素を用いれば、この解析が一段階で直接決定でき、操作が非常に簡便化される。【0046】【実施例】以下本発明を実施例により説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。【0047】なお以下の実施例において、β−ガラクトシダーゼの活性測定は、下記の方法によって行った。すなわち、50μlの標品に450μlのZバッファー(60mM Na2HPO4、40mM NaH2PO4、10mM KCl、1mM MgSO4、50mM β-mercaptoethanol、pH7.0)と100μl 0.4% ONPG(o-nitrophenylgalactopyranoside)溶液(100mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.0)中)を加え、37℃30分反応後、250μlの1M Na2CO3を添加して反応を止め、420nmの吸光度の上昇を測定することにより行った。β−ガラクトシダーゼ1ユニットを、本条件下、吸光度を1変化させる酵素量と定義した。なお、活性の弱い標品については、反応時間を延長して測定した。【0048】実施例1(B. circulans ATCC 31382株のβ−ガラクトシダーゼの活性染色)B. circulans ATCC 31382株(以下、ATCC 31382株と略称することがある)を、LB培地(Sambrook, J. et al., (1982) Molecular cloning: a laboratory manual, 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, New York.)に0.5%の乳糖を加えた培地に1%濃度で植菌し、37℃で8時間振盪培養した。培養液から、遠心分離によって菌体を除去した上清を、セントリコン30限外濾過装置(アミコン社)により約100倍に濃縮すると同時に、20mMトリス酢酸緩衝液(pH 7.0)への溶媒置換を行ったものを標品とした。標品10μlに、グリセロール5μl、色素液(0.1%ブロモフェノールブルー、10%グリセロール)2.5μl及び0.5Mトリス緩衝液(pH 6.8)0.5μlを加え、マルチゲル12.5(第一化学薬品工業)を用いてポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った。泳動は、トリス・グリシン緩衝液(0.025M Tris、0.192Mグリシン)を用い、20mA、5時間の通電により行った。泳動後のゲルを、0.04% X-galを含む上述のZバッファー中に浸し、37℃12時間放置して染色した。この染色処理により、標品中に含まれている蛋白質のうち、β−ガラクトシダーゼ活性を示すものだけが青く染まる。結果を図1のレーン2に示した。この図に示されているように、ATCC 31382株の培養液中には、少なくとも三種類のβ−ガラクトシダーゼが存在した。これらを移動度の小さいものから順にそれぞれ、β−ガラクトシダーゼ−1、β−ガラクトシダーゼ−2、β−ガラクトシダーゼ−3と名づけた。【0049】対照として、ビオラクタN5(大和化成)200μgについても同様な活性染色を行った。その結果を図1のレーン1に示す。この図から、ビオラクタには、上記の3つのガラクトシダーゼのうち、β−ガラクトシダーゼ-1及びβ−ガラクトシダーゼ-2のみが存在することが明らかとなった。【0050】このことから、β−ガラクトシダーゼ-3は、従来未知のβ−ガラクトシダーゼであることが明らかとなった。【0051】実施例2(B. circulans ATCC 31382株のβ−ガラクトシダーゼ−3遺伝子のクローニング)ATCC 31382株をLB培地(Sambrook, J. et al., (1982) Molecular cloning: a laboratory manual, 2 nd ed., Cold Spring Harbor Lab., Cold Spring Harbor, New York)にて培養し、遠心分離によって回収した菌体から、Saitoら(Saito, H. and Miura, K., (1963) Biochem. Biophys. Acta., 72, 619)記載の方法に準じた方法で染色体のDNAを調製した。調製したDNAを制限酵素Sau3AIで部分分解し、アガロース電気泳動で分画後、約2kbから約10kbのDNA断片を含む領域だけを切り出し、GENECLEAN DNA精製キット(BIO 101社)を用いて回収した。回収された断片をBamHIで切断した大腸菌プラスミドpBR322(宝酒造)にライゲーションし、大腸菌TG1株(アマシャム社)に形質転換した。この形質転換されたTG1株を0.002%のX-galと50μg/mlのアンピシリンを含むLB寒天培地で培養し、β−ガラクトシダーゼ活性が発現しているコロニーを選択した。青色を呈しているコロニーのうち8つのコロニーからプラスミドDNAを調製し、その中で最も短い2.3kbの挿入を持っているクローンをpBCBG12-1と命名した。【0052】実施例3(β−ガラクトシダーゼ−3遺伝子の解析)pBCBG12-1中のDNA断片を、大腸菌pUC118および119(宝酒造)にサブクローニングし、キロ・シークエンス・キット(宝酒造)と373A型蛍光式DNA自動シークエンス装置(アプライド・バイオシステムズ社)を用いて全DNA塩基配列を決定した。得られた2297塩基の塩基配列を配列番号2に示す。本配列中には、第217番目の塩基Aから第1974番目の塩基Tまでのオープン・リーディング・フレームが存在し、これが本発明のβ−ガラクトシダーゼをコードしている遺伝子本体である。このオープン・リーディング・フレーム部分の塩基配列を配列番号3に示し、この塩基配列から推定される本発明のβ−ガラクトシダーゼのアミノ酸配列を配列番号1に示す。これから、本発明のβ−ガラクトシダーゼは586個のアミノ酸からなり、分子量は約66800であると推定された。【0053】実施例4(β−ガラクトシダーゼ−3遺伝子を導入した宿主細胞が産生するβ−ガラクトシダーゼの活性染色)実施例2にて取得したβ−ガラクトシダーゼ-3遺伝子を含むクローンpBCBG12-1を保持している大腸菌TG1株を、50μg/mlアンピシリンを含む上述LB培地で、37℃、12時間振盪培養した。遠心分離により菌体を集菌し、1/2容の20mMトリス酢酸緩衝液(pH 7.0)に懸濁したこの液を、W-375型超音波破砕装置(Heat Systems-Ultrasonics社)を用いて菌体を破砕し、その遠心上清を標品とした。標品を、実施例1と同様に電気泳動しX-galによる活性染色を行った。結果を図1のレーン3に示す。BCBG12-1遺伝子によって発現したβ−ガラクトシダーゼは、ATCC 31382株のβ−ガラクトシダーゼ-3と同じ移動度を示した。【0054】実施例5(β−ガラクトシダーゼ-3の精製)実施例2にて取得したβ−ガラクトシダーゼ−3遺伝子を含むクローンpBCBG12-1を保持している大腸菌TG1株を、50μg/mlアンピシリンを含む上述LB培地60mlで、37℃、12時間振盪培養した。遠心分離により菌体を集菌し、1/15容の20mMトリス酢酸緩衝液(pH7.0)に懸濁した。この液を、W-375型超音波破砕装置(Heat Systems-Ultrasonic社)を用いて菌体を破砕し、その遠心上清(以下粗酵素液といい、以後の実施例で用いた)1mlを、10mMのナトリウム緩衝液(pH 7.4)に対して透析し、同じ緩衝液で平衡化したResource Q(1ml、ファルマシア社)にアプライした。酵素は0から0.5Mの食塩の濃度勾配により溶出させた。各フラクション中のβ−ガラクトシダーゼ活性を測定し、活性のあったフラクションをウルトラフリーCL(分画分子量30k、ミリポア社)を用いて濃縮した。上記の濃縮液を0.2M食塩を含む10mMリン酸カリウム緩衝液(pH 6.0)で平衡化したSephacryl S-200カラム(2.6cm×100cm、ファルマシア社)にアプライした。同緩衝液で溶出された各フラクションのβ−ガラクトシダーゼ活性を測定し、活性のあったフラクションを濃縮することにより精製酵素を得た。【0055】実施例6(β−ガラクトシダーゼ−3による種々のガラクトシド結合を有する2糖の加水分解実験)β1-3ガラクトシド結合、β1-4ガラクトシド結合あるいはβ1-6ガラクトシド結合を有するGal-GlcNAc 25 μgおよびキトテトラオース25μgを、50μlの水に溶解し、1μlの1Mリン酸カリウム緩衝液(pH 6.0)を加えた。これに0.5μlの粗酵素液を加え、37℃で反応を行った。定時的にサンプリングを行い、HPLCにて2糖の加水分解率を求めた。結果を図2に示す。この図から、本発明のβ−ガラクトシダーゼは、β1-3結合を急速に加水分解するが、β1-4結合及びβ1-6結合はほとんど加水分解しないことが明らかである。【0056】実施例7(β−ガラクトシダーゼ−3によるGalβ1-3GalNAcの合成)72mgのGalβ-pNPと160mgのGalNAcを、20% (v/v)のジメチルホルムアミド (DMF)を含む0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH 6.0)1mlに溶解した。この溶液に20μlの粗酵素液を加えて37℃で8時間反応を行った。得られた反応生成物のHPLCを図3に示す。この反応物を活性炭カラムに供して2糖画分を濃縮したところ、9.3mgのGalβ1-3GalNAcが得られた(収率10.1%)。【0057】実施例8(β−ガラクトシダーゼ−3によるGalβ1-3GalNAcα-pNPの合成)15.4mgのGalβ−pNPと35mgのGalNAcα-pNPとを、20% (v/v)のDMFを含む0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH 6.0)3mlに溶解した。この溶液に60μlの粗酵素液を加えて37℃で3.5時間反応を行った。反応液をSephadex G-10カラム(2.6cm×100cm、ファルマシア社)に供して2糖画分を濃縮したところ、11.8mgのGalβ1-3GalNAcα-pNPが得られた(収率45.7%)。【0058】実施例9(β−ガラクトシダーゼ−3によるGalβ1-3GlcNAcの合成)72mgのGalβ-pNPと160mgのN-アセチルグルコサミンとを、20% (v/v)のアセトニトリルを含む0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH 6.0)1mlに溶解した。この溶液に20μlの粗酵素液を加えて37℃で3時間反応を行った。得られた反応液を20gの活性炭を充填したカラムにアプライし、2糖画分を集めて濃縮したところ、11.2mgのGalβ1-3GlcNAcが得られた(収率12.2%)。反応生成物の1H-NMRスペクトルを図4に示す。【0059】【発明の効果】本発明により、β1-3ガラクトシド結合を特異的に加水分解し、β1-3ガラクトシド結合を選択的に形成する作用を有するβ−ガラクトシダーゼを、安価且つ大量に得ることができるようになった。本発明のβ−ガラクトシダーゼにより、糖蛋白質や糖脂質の構造において重要なキーオリゴ糖であるGalβ1-3GalNAcなどを、酵素法により安価に合成することができるようになった。【0060】【配列表】【0061】【0062】【図面の簡単な説明】【図1】β−ガラクトシダーゼの活性染色である。レーン1は、ビオラクタN5(大和化成)200μgの、レーン2は、B. circulans ATCC 31382株を、1%のラクトースを含むLB培地で8時間培養した培養液遠心上清の、レーン3は、クローニングしたβ−ガラクトシダーゼ-3遺伝子が含まれているpBCBG12-1プラスミドで形質転換された大腸菌TG1株の菌体粗抽出液の活性染色を、それぞれ示す。なお、この図において、β-gal1、β-gal2及びβ-gal3は、それぞれβ−ガラクトシダーゼ−1、β−ガラクトシダーゼ−2及びβ−ガラクトシダーゼ−3を意味する。【図2】本発明β−ガラクトシダーゼを用いて、各ガラクトシド結合を有する2糖を加水分解した実験の結果を示す。酵素添加前のピーク強度を100としたときの経時的なピーク強度の減少をプロットしたものである。【図3】本発明β−ガラクトシダーゼを用いた転移反応によりGalβ1-3GalNAcを合成した時の反応液のHPLCである。カラムはAsahipakNH2-P50、溶離液は70%アセトニトリル(0.8ml/分)、モニターはUV (215nm)である。【図4】本発明β−ガラクトシダーゼを用いた反応により合成されたGalβ1-3GlcNAcの500 MHz 1H-NMRスペクトルである。測定装置はバリアン社Unity-500 NMR Spectrometerである。サンプルをD2Oに溶解し、HDOのピークをケミカルシフトの標準(4.65ppm)として用いた。 配列番号1に示されるアミノ酸配列を含むβ−ガラクトシダーゼ 。 配列番号3に示される塩基配列からなる請求項1記載のβ−ガラクトシダーゼをコードする遺伝子。 請求項2記載のβ−ガラクトシダーゼをコードする遺伝子をベクターに挿入してなる組換えプラスミド。 請求項3記載の組換えプラスミドを宿主細胞に導入して得られる形質転換体。 請求項4記載の形質転換体を培養して得られるβ−ガラクトシダーゼ 。 請求項5記載のβ−ガラクトシダーゼ を取得することを特徴とするβ−ガラクトシダーゼの製造方法。


ページのトップへ戻る

生命科学データベース横断検索へ戻る