タイトル: | 特許公報(B2)_アセチルコリン系神経伝達改善剤 |
出願番号: | 1996158796 |
年次: | 2010 |
IPC分類: | A61K 31/137,A61P 25/28 |
米田 文郎 大出 博功 谷田 信子 関本 裕子 島津 誠一郎 JP 4600610 特許公報(B2) 20101008 1996158796 19960515 アセチルコリン系神経伝達改善剤 株式会社フジモト・コーポレーション 501228129 米田 文郎 大出 博功 谷田 信子 関本 裕子 島津 誠一郎 20101215 A61K 31/137 20060101AFI20101125BHJP A61P 25/28 20060101ALI20101125BHJP JPA61K31/137A61P25/28 A61K 31/135 特表平06−506204(JP,A) 特開平04−230624(JP,A) 特開平03−005421(JP,A) 特表平08−501080(JP,A) 特開平03−294248(JP,A) 特表平08−512055(JP,A) 2 1997301857 19971125 7 20030502 2007008500 20070323 川上 美秀 上條 のぶよ 大久保 元浩 【0001】【産業上の利用分野】セレギリン((R)−(−)−N,α−ジメチル−2−プロピニルフェネチルアミン)またはその薬学的に許容される塩を有効成分とするアセチルコリン系神経伝達改善剤を提供する。【0002】【従来の技術】学習、記憶の形成には、中枢アセチルコリン作動性神経系が重要な役割を果たしていることが広く知られ、そのなかでも、HIV性痴呆に認められる認知障害は、前頭皮質のアセチルコリン神経シナプスの起始核が存在するマイネルト基底核のアセチルコリン系神経の機能不全・脱落が関連しているとされている。【0003】アセチルコリン作動性神経系は、アセチルコリンを神経伝達物質としており、中枢アセチルコリン作動性神経系のシナプス間隙のアセチルコリンを増加させることが、上記疾患を改善する治療手段の一つとなりうるという考えに基づき、現在、タクリンなどのアセチルコリン分解酵素であるアセチルコリンエステラーゼを阻害するアセチルコリンエステラーゼ阻害剤が用いられている。【0004】【発明が解決しようとする課題】しかし、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬は、間隙のアセチルコリンは劇的に増加させるが、シナプス間隙のアセチルコリン神経伝達のターミネーターであるアセチルコリンエステラーゼを阻害してしまうため、間隙のアセチルコリン濃度をコントロールすることは難しく、間隙のアセチルコリンがある閾値以上に上昇させ、痙攣等の重篤な副作用を起こし易い。また、さらに、従来のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、肝臓に分布する解毒酵素コリンエステラーゼも阻害してしまい、副作用として肝障害を誘発してしまう。そこでアセチルコリンエステラーゼ阻害薬とは別の機序の、神経伝達系を調整的に賦活し、且つ毒性の少ない薬の創成が期待されていた。【0005】【発明が解決するための手段】本発明者らは、鋭意研究した結果、式1で示されるセレギリン((R)−(−)−N,α−ジメチル−2−プロピニルフェネチルアミン)が、アセチルコリンエステラーゼ阻害とは別のメカニズムでシナプス間隙のアセチルコリン神経伝達を調節的に促進することができることを知見し、本発明を完成した。【0006】【化1】【0007】セレギリンは、1964年にハンガリーのJ.Knollらによって合成された選択的MAO−B阻害剤(B型モノアミン酸化酵素阻害剤)であり、その塩酸塩は、パーキンソン病の治療薬として現在外国において使用されている薬剤である。これまで、セレギリンは、脳内MAO−B阻害剤の選択的阻害により、ドパミンの分解を抑制し、シナプス間隙でのドパミン量を増加させ、後シナプスへのドパミン受容体剌激を高め、アセチルコリン遊離を抑制して、中枢運動神経回路のドパミン/アセチルコリンのバランスを是正する薬剤であるとされていた(J.Pharmacol.Exp.Ther.,187,p365〜371,1973、J.Pharmacol.Exp.Ther.,189,p733〜740,1974、J.of Neural Transmission,43,p177〜198,1978、Mechanisms of Ageing and Development,46,p237〜262,1988)。【0008】それ故、これまでの知見に従えば、セレギリンはアセチルコリン遊離を抑制する薬剤であり、本発明が目的とするアセチルコリン系神経伝達改善剤、すなわち、アセチルコリン系神経の機能不全・脱落が関連しているHIV性痴呆に認められる認知障害への治療改善剤にはなりえないと考えられるものであった。【0009】しかしながら、本発明者らは、セレギリンがシグマ受容体に親和性を有し、この受容体を介し、アセチルコリン神経の膜電位を誘導し、シナプスでのエクソサイトシスを促進すること、この作用はレセプターを介した二次的な膜電位依存性の反応であり、極めて調節的であるので、副作用を発揮するところまではアセチルコリンを遊離しないこと、さらに、セレギリンは認知障害を示す疾病の共通した責任病巣と考えられているマイネルト基底核−前頭皮質投射性コリン作動系に対し、より特異的に作用する理想的な薬剤であることを知見し、本発明を完成した。【0010】本発明におけるセレギリンの投与量は、塩酸塩としておおよそ1〜40mg/日、好ましくは2〜15mg/日、より好ましくは2.5〜10mg/日であるが、勿論、これらの量以外でも、患者各々の症例に合わせて適宜増減することは可能である。経口投与または非経口投与は、当業者における既知の技術に従って、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、坐剤、ハップ剤、テープ剤、経皮用スプレー剤、経鼻用スプレー剤、液剤、又は注射剤とすることで、好適な種々の製剤形態を選択できるが、投与は、朝1回/日、または朝及び昼間の2回/日が好ましく、夜又は就寝前の投与は望ましくない。【0011】本発明は次の諸例にて一層容易に理解されるであろうが、この例は本発明を説明するものであって、本発明の範囲を制限するものではない。【0012】【実施例1】マイネルト基底核のアセチルコリン神経が投射している前頭皮質のアセチルコリン遊離に対するセレギリンの作用を検討した。前頭皮質のアセチルコリン遊離を検討する方法は、Naunyn−Schmiedeberg’sArch Pharmacol,342,p528〜534,1990記載の脳内微小透析法を用い、まず透析プローブ用のガイドカニューレを脳定位固定装置下にペントバルビタール麻酔ラット(ウイスター系 SLC社、8〜9週齢)の前頭皮質に挿入し、デンタルセメントで固定した(A,2.0mm and L,2.0mm,30゜angle:Paxinos G.andC.Watson,The rat brain in stereotaxic coor−dinates.,2nd ed.,AcademicPress,San Diego,1986.)。その後、24時間以上ラットを単独飼育し麻酔の影響を取り除き、透析プローブをラット頭部の固定したガイドカニューレに挿入した。透析物を集めるに先立ち酸素をバブリングした10μMエゼリンを添加した灌流液を2.0μl/分にて挿入したプローブに灌流し、その後、セレギリン投与後2時間まで透析物を20分間ごとにフラクションを採取し、直ちにアセチルコリンの量を下記条件で、高速液体クロマトグラフィーを用いてピーク面積を解析して定量した。【0013】サンプル注入 :20μl(透析物)固定化酵素カラム : アセチルコリンエステラーゼ・コリンオキシダーゼ固定化カラム (BAS社製)スチレンポリマーカラム:60×2.0mm (BAS社製)測定温度 :30℃移動相(pH8.5) :450μM sodium octane sulphonic acid(イオンペア剤)を含む0.5mM EDTA、50mM Na2HPO4/H3PO4流速 :0.3ml/min電気化学検出器 : LC−413 (BAS社製)印加電圧 :450mV(vs Ag/AgCl)【0014】投与前にフラクションされた透析液の濃度を100%とし、アセチルコリンの透析液中の濃度の経時的変化をみた。セレギリンは前頭皮質のアセチルコリン遊離を有意(P〈0.05)に増加させた(図1)。【0015】次にその用量反応関係をペンチレンテトラゾールのものと比較した。シナプス間隙のアセチルコリン過剰な増加は副作用として、不安やさらには痙攣を惹起する。ペンチレンテトラゾールの痙攣惹起作用はシナプス間隙のアセチルコリンの過剰な増加と関連していることが分かっているので、その用量反応関係から痙攣閾値を推定した。セレギリンの用量反応関係はペンチレンテトラゾールの直線的な増加とは異なり、マイルドなものであり、セレギリンのシナプス間隙のアセチルコリン増加作用は、副作用が発現する閾値以下のものであった。(図2)また、セレギリンは線条体よりも、認知機能低下に関する疾病の責任病巣と考えられているマイネルト基底核−前頭皮質投射性コリン作動系に対してより選択的にアセチルコリン遊離促進を奏する薬剤であると考えられた。(図2)【0016】【図1】【0017】【図2】【0018】【実施例2】痴呆モデルに対するセレギリンの効果を検討した。雄性ウイスター系ラット(日本SLC,10週令)を用いた。実験に際し、約1週間の予備飼育後使用した。温・湿度は、23±3℃、50±10%で、12時間 (7〜19時点灯)の明暗サイクル下で飼育された。飼料は、固型飼料MF(オリエンタル酵母)を飲料水は水道水を自由に摂取させた。【0019】ムスカリン性アセチルコリン受容体拮抗薬スコポラミンによる健忘症の誘発は試行の30分前に臭化スコポラミン1mg/kg,i.p.を投与し、モリス水迷路実験(Richard Morris:Jouornal of neuroscience methods,11,47−60,1984)は、以下のように行った。【0020】a)水を迷路にいれ、プラットホームは水面下2cmとし、ミルクを入れ不透明とした。試験を通じて、水迷路、プラットホームの実験室の位置は変えなかった。実験室での主な備品及び実験中の実験者の位置も変更しなかった。【0021】b)1日2試行を5日間連続して行い、各試行間のインターバルは60秒とした。まず、スタート地点においてラットを壁側に向かせ、プラットホームまでの到達時間を測定した。到達後、ラットはプラットホームに10秒間放置しておいた。90秒以内に到達できないラットは実験者がプラットホームにおき、10秒間放置した。【0022】その結果、セレギリンは26日間連続投与(0.25mg/kg,i.p.)により、スコポラミンにより誘発された健忘症ラットのプラットホームまでの到達潜時を有意(P<0.05)に短縮し、学習行動を改善した。(図3)【0023】【図3】【0024】【実施例3】トリチウム(3H−)ラベルしたシグマ受容体リガンドを用い、シグマ受容体に対するセレギリンの親和性を受容体結合実験にて検討した。リガンドにはシグマ受容体のサブタイプに非選択的なDTG(1,3−ジ−0−トリル−グアニジン)とシグマ受容体サブタイブσ1に親和性の高い3−PPP(3−(3−ヒドロキシフェニル)−N−(1−プロピル)ピペリジン)を用いた。【0025】受容体結合実験は、以下のように行った。1)レセプター溶液の調製Hartley系雄性モルモット(日本SLC社)の全脳を摘出し、重量を測定した。その重量の10倍量の氷冷0.32Mスクロース溶液(pH7.4)中でホモジナイズし(モーター回転式テフロン製ペストルを備えたガラス製ホモジナイザー)、懸濁物を4℃で900×g、10分間遠心した。得られた上清は4℃で22000×g、20分間遠沈し、沈渣に5mMリン酸バッファー(pH7.4)を加えて懸濁した。この懸濁液を37℃、30分間インキュベーションした後、再度4℃で22000×g、20分間遠沈し、その沈渣に5mMリン酸バッファー(pH8.0)10mlを加えて懸濁させた。【0026】2)結合反応チューブに5mHリン酸バッファー(pH8.0)で調製した3H−DTG(デュポン社)50μ1と100μMのハロペリドール(リプレーサー)50μlの非共存下あるいは共存下に、調製したレセプター溶液を各々400μlずつ添加して25℃90分間インキュベーションを行った。なお、ハロペリドール共存下での3H−DTGの結合値を非特異的結合によるものと見なし、非共存下での3H−DTG結合値(全結合値)から差し引いた値を特異的結合値とした。反応停止後、ガラスファイバーフィルター(ボアサイズ:0.5μm,Whatman GF/C)でレセプターと結合した3H−DTG(結合型:B)と遊離型の3H−DTG(遊離型:F)をB/F分離装置(Brandel社)で分離し、結合型のみを回収した。ガラスファイバーフィルターに吸着した結合型は、氷冷生理食塩水で洗浄し、ガラスファイバーフィルターをバイアル瓶に移し、シンチレーションカクテル10mlを加えて放射能を測定した。【0027】被験薬物および3H−DTGは、5mMリン酸バッファー(pH8.0)で溶解して使用し、添加する3H−DTGの濃度は、8nM(最終濃度:0.8nM)、被験薬物の濃度は、10−8〜10−4M(最終濃度)とした。各薬物のシグマ受容体に対する結合特異性は、各濃度での3H−DTG結合値阻害率より求めた50%阻害濃度(IC50)で示した。3H−3−PPPの場合も上記の方法に順じ行った。また、3H−ラベルしたフェンサイクリジン受容体リガンド(3H−TCP(1−[1−(2−チエニル)シクロヘキシル] ピペリジン)を用い、フェンサイクリジン受容体に対するセレギリンの親和性をも調べた。方法は上記の方法に準じて行った。【0028】シグマ受容体と3H−DTGの結合に対するセレギリンのIC50は3×10−6Mであった。一方、3H−3−PPPの結合に対するセレギリンのIC50は3×10−7Mであった。このことから、セレギリンは、シグマ受容体サブタイプσ1により親和性の高いリガンドであると考えられる。【0029】N−アリルノルメタゾシン(N−Allylnormetazocine)などのベンゾモルファン系化合物は、シグマ受容体リガンドでもあり、フェンサイクリジン受容体にも親和性を有している。フェンサイクリジン受容体は、N−アリルノルメタゾシンが引き起こす精神分裂病様症状などの副作用と関連していることが知られている。10−5Mのセレギリンは、フェンサイクリジン受容体に対する3H−TCPの結合を全く阻害しなかった。このことより、セレギリンが他のベンゾモルファン系シグマリガンドとは異なり、フェンサイクリジン受容体に対しては親和性を示さない安全なシグマ受容体リガンドであることが示された。【図面の簡単な説明】【図1】前頭皮質アセチルコリン作動性神経からのアセチルコリン放出量に対するセレギリン(塩酸塩)の作用を示す図である。図の縦軸は、セリギリン(塩酸塩)投与前のアセチルコリン濃度を100%としたアセチルコリンの濃度%を表し、横軸は、経過時間(分)を表す。【図2】セレギリン(塩酸塩)及びペンチレンテトラゾールの投与量とアセチルコリン増加率との用量−反応曲線を示す図である。尚図の縦軸は、セリギリン(塩酸塩)またはペンチレンテトラゾール投与前のアセチルコリン濃度を100%とした場合のアセチルコリンの濃度%を表し、横軸は、薬物投与量を表す。【図3】正常ラット、生理食塩水投与のスコポラミン健忘症誘発ラット及びセレギリン(塩酸塩)投与のスコポラミン健忘症誘発ラットにおいて、モリス水迷路の水面下プラットホームに到着するまでの平均潜時(±S.E.)を比較した結果を示す図である。 アセチルコリン系神経の機能不全・脱落が関連しているHIV性痴呆におけるセレギリンまたはその薬理学的に許容される塩を有効成分とするアセチルコリン系神経伝達改善剤。 シグマ受容体を介することを特徴とする請求項1記載のアセチルコリン系神経伝達改善剤。