タイトル: | 特許公報(B2)_塩基性の有機極性溶媒の回収方法 |
出願番号: | 1996082476 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | B01D 17/05,B01D 11/04,C07D 207/267,C08G 75/02 |
古沢 高志 井上 敏夫 馬場 由成 JP 3963022 特許公報(B2) 20070601 1996082476 19960404 塩基性の有機極性溶媒の回収方法 大日本インキ化学工業株式会社 000002886 河野 通洋 100124970 古沢 高志 井上 敏夫 馬場 由成 20070822 B01D 17/05 20060101AFI20070802BHJP B01D 11/04 20060101ALI20070802BHJP C07D 207/267 20060101ALI20070802BHJP C08G 75/02 20060101ALI20070802BHJP JPB01D17/05 501EB01D17/05 501AB01D11/04 CC07D207/267C08G75/02 B01D17/00-17/12 B01D 11/04 C07D 207/267 C08G 75/02 米国特許第4859781(US,A) 米国特許第3687907(US,A) 特開平08−151443(JP,A) 特開平07−286042(JP,A) 特開平06−192424(JP,A) 5 1997271604 19971021 7 20030403 中澤 登 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、塩基性の極性有機溶媒を含有する均一な水溶液中からの極性有機溶媒の回収方法に関する。【0002】【従来の技術】従来、極性有機溶媒を含む均一な水溶液からの極性有機溶媒の分離回収方法としては一般に蒸留が行なわれている。【0003】しかしながら、(1)蒸留では水と沸点の近いものは分離が困難、(2)極性有機溶媒の沸点が水の沸点より高い場合は、全ての水を蒸留留去する必要があり、エネルギーコスト的に不利、(3)該水溶液中に第3成分として不揮発成分(無機物や高沸点物)を含有している場合、留去後の残存物が蒸留釜に付着し運転を困難にする、等の問題点が有った。【0004】例えば、塩基性極性有機溶媒の一つであるN―メチルピロリドン(NMP)は、ポリフェニレンスルフィド(PPS)の重合反応溶媒として広く用いられている。NMPは、高価な溶媒であるため重合終了後の反応スラリーより回収、再使用が望まれる。【0005】一般には、PPS製造工程において、重合終了後のスラリーよりポリマーを取り出す時にスラリーを水中に投入し、PPSの副生成物である塩化ナトリウム(NaCl)を除去してポリマーを得ている。【0006】この際に排出されるろ液である水性混合液(NMP、NaCl及びその他の有機及び無機化合物を含む)からのNMP回収方法としては、例えばジクロロメタン、クロロホルム及びテトラクロロエタンあるいは炭素数が5〜7の脂肪族アルコール等の有機溶媒を用いて抽出する方法(米国特許3,687,907号、米国特許4,859,781号及び特開平2―235863号)が知られている。【0007】【発明が解決しようとする課題】しかしながら、この方法では、一回の抽出では水相中に残留するNMP量を低レベル、例えば5重量%以下にすることはできず、抽出後の水相に残存するNMPが多く抽出効率が低く、NMPの抽出ロスが大きい。そのため多段抽出塔や水相に対して大量の抽出剤が必要となる事やさらに抽出効率の高い抽出剤を見いだす事等の問題点が有る。【0008】以上述べてきたように、従来の単純な蒸留操作や抽出操作では、装置的な問題や極性有機溶媒の損失が大きい問題点が有る。そこで本発明の目的は、前述のような問題点を解決し、容易な操作で且つ効率的に塩基性の極性有機溶媒を回収することにある。【0009】【課題を解決するための手段】本発明は、上述した様な蒸留操作や抽出操作を用いない極性有機溶媒を含有する均一な水溶液中からの極性有機溶媒の回収方法に関するものである。【0010】発明者らは、塩基性有機極性溶媒を含有する均一な水溶液中からの塩基性有機極性溶媒の回収方法について鋭意検討した結果、塩基性極性有機溶媒を含有する水溶液に該塩基性極性有機溶媒よりも塩基性の高い水溶性無機化合物を添加することにより、塩基性極性有機化合物相と前記無機化合物を含む水溶液相に二相分離が起こることが判明し、ここに本発明を完成するに至った。【0011】即ち本発明は、塩基性の極性有機溶媒を含有する水溶液に、該極性有機溶媒よりも塩基性の高い水溶性無機化合物を添加し、極性有機溶媒相と、前記無機化合物を含む水溶液相に分離した後、前記極性有機溶媒を分離回収することを特徴とする極性有機溶媒の回収方法を提供する。【0012】この原因については、本発明者らは、水に対して高い溶解度を持ち、かつ塩基性有機極性溶媒に不溶の無機化合物を、当該水溶液に加えることによって、当該水溶液中への塩基性有機極性溶媒の溶解度が小さくなり、二相分離が起こるものと、推測している。【0013】本発明の手法を用いることにより、前述したような大量の水を蒸留することなく、さらに特別な装置を用いることなく有機極性溶媒の回収が、塩基性の水溶性無機化合物を添加するといった簡便な操作で行なうことが可能となった。【0014】【発明の実施の形態】次に本発明の実施の形態について、具体的に説明する。本発明において回収しうる、当該水溶液中の塩基性の極性有機溶媒としては、例えば水と自由に混合する塩基性のものがいずれも使用でき、より具体的には、水への溶解度が10〜80重量%であって、かつ0.1モル/dm3水溶液中、25℃におけるpHが7より大きいものが挙げられる。【0015】塩基性極性有機溶媒の具体的例を挙げれば、(1)アミド、例えば、ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)、N−メチルピロリドン(NMP)、N−シクロヘキシルピロリドン(NCP)、N−メチルカプロラクタム、テトラメチル尿素(TMU)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)、その他、(2)スルホキシド、たとえばテトラメチレンスルホキシド、ジメチルスルホキシド(DMSO)その他、がある。【0016】回収の際に用いる、塩基性の極性有機溶媒を含有する水溶液の溶媒濃度は、特に限定されるものではないが、例えば3〜50重量%が一般的である。【0017】前記各種の溶媒の中でも、N−メチルカプロラクタムおよびN―メチルピロリドンが好ましい。中でも好ましいのはN―メチルピロリドンである。この様な塩基性の極性有機溶媒を含んだ水溶液中には、不純物として塩化ナトリウムや塩化カリウム等の水溶性無機塩を含んでいてもかまわない。【0018】塩基性極性有機溶媒の水溶液が、如何なる塩基性極性有機溶媒を含んでいるか不明の場合には、予め、ガスクロマトグラフィや官能試験の様な公知慣用の定性分析でそれを特定してから、本発明を実施するのが一般的である。【0019】回収の際に前記水溶液に加える水溶性無機化合物としては、基本的に水溶性であり、前記極性有機溶媒の塩基性よりも高い塩基性度を示す無機化合物であればいずれも使用することが出来る。この様なものとして好適に使用されるのは、硫酸アンモニウム、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ金属炭酸化物である。【0020】これらのアルカリ金属水酸化物としては、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等、アルカリ金属炭酸化物としては、例えば炭酸ナトリウム及び炭酸カリウム等が挙げられるが、これらはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。これらの中でも水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。【0021】この時使用する無機化合物の形状は、特に限定されるものではなく、例えば固形、フレーク状、及び水溶液のいずれでも良い。【0022】この無機化合物の使用量は、二相分離を起こす濃度以上であればかまわない。一般に実施される濃度としては、前記水溶液に5重量%から50重量%になるように当該無機化合物を添加する。【0023】本発明を実施する温度は、当該溶媒の沸点未満の温度であればよい。勿論、沸点未満の温度でも分解しうる場合には、その分解温度未満で行われる。水と無機化合物との相互作用、例えば加水分解等が起こりうる場合には、それが起こり難い温度、例えば水の沸点未満の温度で当該溶媒回収操作を行うことが好ましい。【0024】例えば、N―メチルピロリドンを有機極性溶媒として含む水溶液から、N―メチルピロリドンを回収する場合は、140℃以下、好ましくは80℃以下、さらに好ましくは50℃以下の温度である。【0025】二相分離を効率的に行なうために、水と相溶せず前記溶媒よりも低い融点を有する、前記溶媒とは異なる前記有機化合物を、さらに前記溶媒に加えてもかまわない。例えば、前記溶媒がN―メチルピロリドンの場合には、水と相溶せず140℃以下の融点を有する前記有機化合物を加えることが出来る。【0026】前記溶媒と併用しうる、これらの有機化合物の例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレン、テトラリン等の芳香族炭化水素、n―ヘキサン、n―ヘプタン、n―オクタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素、シクロヘキサン、デカリン等の脂環式炭化水素、クロロホルム、ジクロロメタン等のポリハロ脂肪族炭化水素、ブロモベンゼン、ヨードベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のポリハロ芳香族化合物、1―ヘキサノール、2―エチル―ヘキサノール等の脂肪族アルコール及びこれらの混合物が挙げられる。【0027】この時使用する有機化合物の量は、好ましくは水相に対して重量比で0.1〜10の範囲でありさらに好ましくは1〜5の範囲である。【0028】より充分な回収効率を得ようとするならば、当該水溶液と前記無機化合物とをよく接触させてやることが好ましい。前記溶媒を含む水溶液と、前記無機化合物とを充分に接触させるためには、撹拌や振とうを行い、適当な時間を放置して、一液相中の、有機相と水相とが分離してから、有機相又は水相のいずれか一方の相を、任意の方法で取り出せば良い。【0029】二相に分離した、いずれか一方の相を選択的に得るに当たっては、公知慣用の操作がいずれも採用できるが、例えばデカンテーション、ストロー式吸引抽出、分離した下相の容器下部からのドレイン抽出等が採用できる。この様にして得られた有機相からは、当該溶媒を選択的に取り出すことが出来る。【0030】また、上記した様な有機化合物を前記塩基性極性有機溶媒と併用する場合には、それらの両方を含む有機相から、当該溶媒のみを分離する必要がある。この際の分離を容易に行うに当たっては、例えば有機相中に含まれる、当該有機化合物と前記塩基性極性有機溶媒との融点或いは沸点が出来るだけ離れたものとなる様に、当該有機化合物を選択して併用するのが好ましい。【0031】前述の二相分離によって分離された、塩基性極性有機溶媒以外の有機化合物を含んでいてもよい、塩基性極性有機溶媒を主体的に含む有機相は、そのままでも任意の用途に使用しうるが、必要であれば、通常の任意の手段で精製することが可能である。【0032】この精製は、例えば蒸留が採用でき、それは常圧あるいは減圧下のいずれでもかまわない。その条件は、当該溶媒や必要に応じてそれに併用される有機化合物の分解が起こらない条件を選択して行えばよい。【0033】本発明の回収方法に適用する、塩基性極性有機溶媒を含有する水溶液としては、例えばPPS製造時に得られるスラリーから、PPSを濾別した際に得られる濾液がある。ここで得られる濾液は、比較的多くNMPを含んでおり、リサイクル利用すると、環境保護及びPPS製造コスト面での効果は、多大である。勿論、選択的に得られた塩基性極性有機溶媒は、各種公知慣用の用途に使用することができる。【0034】【実施例】以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。【0035】〔実施例1〕30℃に保持した均一なN―メチルピロリドン(NMP)を含有する20%水溶液100gに48%水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液167gを加えかき混ぜたところ、二相に分離した(NaOH濃度30重量%)。上相を分離して分析したところ90重量%がNMP、9重量%が水であった。一方、下相を分析したところNMPは0.1重量%しか含有していなかった。上相は、蒸留して19gのNMPを回収した。回収率95%。【0036】〔実施例2〕30℃に保持した均一なN―メチルピロリドン(NMP)を含有する20%水溶液100gに水酸化カリウム(KOH)42.9gを加えかき混ぜたところ、二相に分離した(KOH濃度30重量%)。上相を分離して分析したところ87重量%がNMP、11重量%が水であった。一方、下相を分析したところNMPは0.3重量%含有していた。上相は、蒸留して18gのNMPを回収した。回収率90%。【0037】〔実施例3〕30℃に保持した均一なN―メチルピロリドン(NMP)を含有する20%水溶液100gにトルエン100gを加え、そこに48%水酸化ナトリウム水溶液26.3gを加えかき混ぜた(NaOH濃度10重量%)。二相分離している有機相を分離して分析したところトルエン中に15.8重量%のNMP、1重量%の水を含有していた。一方、水相を分析したところNMPを1.0重量%含有していた。有機相は、蒸留して18gのNMPを回収した。回収率90%。【0038】〔実施例4〕4リットルのオートクレーブにN−メチルピロリドン(NMP)1260g、結晶水含有水硫化ナトリウム(NaSH・xH2O) 309.3g(4.00mol)を仕込、アルカリトラップを装備し、窒素雰囲気下開放系において昇温を始め、100℃であらかじめ水酸化ナトリウム 164.8g(4.12 mol)を水178.5gに溶かしておいた水溶液を加え、さらに昇温を続けた。145℃付近で水−NMP混合物が留出を始め、200℃まで留出させた。このとき留出した水は234.1g、NMPは61.2g、脱水に伴って飛散したH2Sは69.65mmolであった。【0039】ついでこの系を密閉してp−ジクロロベンゼン577.7g(3.93 mol)(モノマー比1.00)をNMP359.5gに溶かした溶液を圧入添加した。そして窒素雰囲気、加圧下で220℃で4時間、その後260℃に昇温して1時間反応させた。反応終了後冷却し、スラリーを水5Kg中に投入、攪拌後ろ別してさらに水5Kgで洗った。ウエット状態のポリアリーレンスルフィド(PPS)ポリマーを得た。【0040】一方、この時排出したろ液をNMP回収実験用のサンプルとした。なお、このろ液の組成は、NMP14重量%、NaCl4重量%、水82重量%であった。このNMPを含有した水溶液に水酸化ナトリウム4.9Kg(NaOH濃度30重量%)を入れたところ上下液―液二相に分離した。【0041】さらに下相には白色固体が沈澱した。上相をデカンテーションで分離し、分析した結果、95重量%がNMPで残りは水であった。下相にはNMPはほとんど残っていなかった(0.01重量%以下)。得られたクルードNMPは蒸留して1440gのNMPを回収した(回収率92%)。【0042】〔比較例1〕30℃に保持した均一なN―メチルピロリドン(NMP)を含有する20%水溶液100gに20gの塩化ナトリウムNaClを加えたが、二相に分離しなかった。さらNaClを加えてもNaClが溶解せず二相分離しなかった。【0043】【発明の効果】本発明の回収方法では、塩基性の極性有機溶媒を含有する均一な水溶液に該極性有機溶媒よりも塩基性の高い水溶性無機化合物を添加し、極性有機化合物相と前記無機化合物を含む水溶液相に分離した後、前記極性有機化合物を分離回収すので、より容易な操作で、より少ないエネルギーで、より効率的な溶媒回収を行うことが出来るという格別顕著な効果を奏する。また、従来の様に、大量の水を蒸留することなく目的の有機極性溶媒を回収できるいう効果もある。 塩基性の極性有機溶媒を含有する水溶液に、該極性有機溶媒よりも塩基性の高い水溶性無機化合物を添加し、極性有機溶媒相と、前記無機化合物を含む水溶液相に分離した後、前記極性有機溶媒を分離回収することを特徴とする極性有機溶媒の回収方法。 前記水溶性無機化合物が、硫酸アンモニウム、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の水溶性無機化合物である請求項1記載の方法。 前記水溶性無機化合物が、水酸化ナトリウムである請求項1〜2のいずれかに記載の方法。 前記塩基性の極性有機溶媒が、N―メチルピロリドンである請求項1〜3のいずれかに記載の方法。 前記水性二相形成を、極性有機溶媒の分解温度以下の温度で行なう請求項1〜4のいずれかに記載の方法。