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タイトル:特許公報(B2)_イソプロピルアルコールの製造方法
出願番号:1996033809
年次:2005
IPC分類:7,C07C29/86,C07C29/04,C07C31/10,C07B61/00


特許情報キャッシュ

平田 繁 小川 伸二 JP 3693404 特許公報(B2) 20050701 1996033809 19960221 イソプロピルアルコールの製造方法 三井化学株式会社 000005887 平田 繁 小川 伸二 JP 1995037136 19950224 20050907 7 C07C29/86 C07C29/04 C07C31/10 C07B61/00 JP C07C29/86 C07C29/04 C07C31/10 C07B61/00 300 7 C07C 29/86 C07C 29/04 C07C 31/10 C07B 61/00 300 特公昭60−024082(JP,B1) 特公昭03−029393(JP,B1) 特公昭45−033165(JP,B1) 7 1996291092 19961105 15 20010918 吉良 優子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、塗料溶剤や医薬、農薬、合成原料、洗浄剤として工業的に利用されるイソプロピルアルコールをプロピレンの液相直接水和により製造する方法に関する。【0002】【従来の技術】プロピレンの液相直接水和によるイソプロピルアルコールの製造は、ブテンの水和によるsec-ブタノールの製造とともに旧くから知られている。水和反応に供される触媒は酸触媒であり、強酸性の陽イオン交換樹脂とヘテロポリ酸触媒を利用した製造方法が既に工業化されている。なかでも、強酸性の陽イオン交換樹脂に代表される固体触媒を用いる方法では、水和反応を実施する条件が100〜150℃の温度、60〜200気圧の圧力と、ヘテロポリ酸触媒を用いる場合よりも低温低圧であり、反応器構築上優位である。 公知のごとく、固体触媒を用いるプロピレンの液相直接水和法では、好適な反応条件を選ぶことにより、75%以上の高い原料プロピレン転化率を達成することができる(特公昭45-33165号)。しかしながら、95〜99%の高いイソプロピルアルコール選択率を得るには、通常、反応によるイソプロピルエーテル等の副生を抑制するために、反応器の入口に、原料プロピレンに対して10倍モル以上の多量の水を供給しなければならず、必然的に、反応器出口の液相は大部分が水となり、得られる粗イソプロピルアルコール水溶液の濃度は10〜30wt%程度に留まらざるを得ないのが実状である。【0003】一方、工業的に利用されているイソプロピルアルコールの大部分は無水であるため、液相直接水和法では、かくのごとく低濃度で得られた粗イソプロピルアルコール水溶液を無水にまで濃縮する必要が生じる。イソプロピルアルコールは水と共沸混合物を形成するため、工業的には、蒸留法によって粗イソプロピルアルコールを共沸組成濃度まで濃縮した後、ベンゼン等の適当な共沸剤を用いた共沸蒸留法により脱水し、精留操作を経て無水の製品として製造されるのが通例であり、かかる濃縮に要するエネルギーは極めて多大なものとなっている。かくのごときアルコールの濃縮に要するエネルギーの低減化をはかる方法が従来いくつか提案されている。【0004】特公平2−24257号においては、液相ヘテロポリ酸を触媒としてn-ブテンと水からsec-ブタノールを製造するに際し、n-ブテンの臨界温度及び臨界圧力を上回る温度、圧力条件下に液相水和反応を行い、主に未反応n-ブテンからなる反応混合物の気相を連続的に反応器から抜き出して冷却することにより、該気相を液化し、主に未反応n-ブテンと反応生成物であるsec-ブタノールからなる軽液相と、主に水からなる重液相とに分離させ、該軽液相を蒸留することにより、未反応n-ブテンを除去してほとんど無水のsec-ブタノールを製造する方法が記載されている。この方法は粗アルコールの脱水工程を必要とせず、見かけ上、濃縮にかかわるエネルギーを大幅に低減せしめた好適な例であるが、反応器における原料ブテンの転化率は10%程度に留まることから、単に反応器容積が多大となるのみならず、アルコール製造に必要な量論量の実に9倍モル以上の多量の未反応ブテンを反応器に再圧縮循環しなければならないという工業上の問題点を有している。【0005】特公昭60-24082号では、炭素原子数2〜6の蒸気状低級オレフィンを液状水で強酸性固体物質の存在下に高温高圧で直接接触水和し、粗アルコールを反応混合物から分離することにより、炭素原子数2〜6の低級アルコールを得るに当たり、(1) オレフィン含有蒸気流を酸性触媒で満たされた反応器に底部から導入し、反応させるべきオレフィン1モル当たり液状水少なくとも1モルを反応器に装入し、(2) オレフィンの臨界温度及び臨界圧力よりも高いか又は少なくとも僅かに低い温度及び圧力条件で反応させ、(3) 反応混合物の水相を全部反応器に留めるか又はその主要量を反応器に戻し、(4) 未反応のオレフィン及びほとんどすべての反応生成物を含む蒸気流を反応器頂部から排出し、(5) 排出蒸気流から、主として形成されたアルコールから成る粗生成物を液状で分離する、ことを特徴とする製造方法が記載されている。【0006】この方法によれば、反応におけるイソプロピルアルコールの選択率が高く、液状分離されるイソプロピルアルコールも高濃度で得られるとされている。また、かかる選択率の高さは、反応生成物がほとんど直接的に気相に移行して液相中のイソプロピルアルコール濃度が極端に低く保たれることに関連するとされている。実施例の記載に従えば、135℃、100気圧において液相水和反応を実施した場合、イソプロピルアルコール選択率は99%以上、液状分離物は80wt%イソプロピルアルコールであり、イソプロピルアルコールが高濃度で得られているが、未だにその共沸組成濃度である88wt%には到達していない。さらに、ニューチャージのプロピレンを毎時5.6モル供給し、イソプロピルアルコールが毎時4.2モル得られていることから、総括反応転化率としては75%を呈しているが、該公報第5頁第9欄第14〜20行に記載されているごとく、反応器出口から抜き出した蒸気の一部を反応器入口に循環させているため、明確な記述はないものの、反応器入口及び出口間での反応転化率は75%未満であることは明白である。【0007】本発明者らの知見によれば、該公報に記載されている方法のごとく135℃、100気圧の条件下にて、液相中のイソプロピルアルコールを極端に低く保って水和反応を行うためには、反応混合物の気相を大量に反応器へ循環しなければならず、例えば、該液相中のイソプロピルアルコール濃度が10wt%以下となるように反応を実施した場合には、反応器入口及び出口間でのプロピレン転化率は僅か8%程度に留まることが判明した。従って、該公報の方法では、先の特開昭60-149536号の方法と同じく、原料オレフィンの反応転化率が低くなり、反応器容積が多大になると同時に未反応オレフィンの循環量が多量になることに変わりはなく、工業上の問題点の直接的解決にはならない。【0008】すなわち、オレフィンの液相水和反応によって合成されたアルコールを反応混合物の気相側から高濃度で回収する、かくのごとき製造方法では、見かけ上、反応器内液相中にて合成されたアルコールを、同じく反応器内に存在する未反応原料オレフィンで抽出して反応器から抜き出す形式になっているため、原料オレフィンの転化率が低くなるのは、本発明者らに言わしめれば当然の帰結であり、反応器容積及び未反応オレフィン循環量が多大になることは避けられないのである。【0009】一方、オレフィンの水和反応や発酵によって得られた低濃度粗アルコール水溶液をより効率良く濃縮する方法として、CO2や炭化水素類を抽剤として用い、該抽剤が超臨界流体、亜臨界流体又は液体のいずれかの状態となるような条件下にて抽出処理を行うことにより、該液相中に含まれるアルコールを高濃度に濃縮する方法が提案されている。なお、ここで「亜臨界流体」とは、ある抽剤物質が存在する場合に、該物質がその臨界温度及び臨界圧力の近傍の温度、圧力下にあるときの状態を意味しており、より具体的には、温度又は圧力のいずれかが該物質の有する臨界値以上であり、もう一方が該臨界値よりも僅かに低い条件下か、もしくは、温度及び圧力がともに該臨界値より僅かに低いような条件下にあるときの物質の状態を指す。【0010】特開昭62-25982号では、発酵アルコール、高沸点不純物からなる有機液体溶液及び水からなる混合物に抽剤を加え、該抽剤が超臨界状態又は亜臨界状態となる条件下で接触させて、混合物を形成させ、該混合物を抽出分離槽に導いて、水を主成分とし、大部分の高沸点不純物、一部のアルコール及び溶剤を含有する抽残相と、該溶剤を主成分とし、大部分のアルコール及び一部の高沸点不純物を含有する抽出相に分離させ、該抽出相を該抽出分離槽より抜き出して不純物分離槽に導き、該不純物分離槽を減圧させることにより、実質的に高沸点不純物を含まない、高濃度のアルコールを回収すること、を特徴とするアルコール濃縮精製方法が記載されている。【0011】該公報の実施例によれば、10wt%のエタノ−ル水溶液に対し、その6倍重量のCO2を抽剤として混合し(S/F(抽剤量/原抽料量)比=6)、40℃、110気圧の下で接触させ、抽出分離槽にて抽出相と抽残相に分離し、該抽出相を抜き出して不純物分離槽に導き、温度一定のまま、80気圧に減圧して不純物を分離したところ、該不純物分離槽内に残留したCO2以外の物質及び組成は、およそエタノ−ル80wt%、水20wt%になるとされている。【0012】該公報記載のアルコール濃縮方法を実用化するには、アルコールに対して実に60倍重量も使用する抽剤CO2を実質的に全量回収し、再循環使用することが必須となるが、本発明者らの知見によれば、CO2はアルコールに溶解しやすいため、公知の方法のごとく減圧を主とした操作によって、主にCO2からなる該不純物分離槽内残留物からCO2を含まない高濃度アルコールを分離するには、該不純物分離槽内残留物をさらに大気圧〜数気圧程度まで減圧する必要がある。該公報の方法は、発酵アルコール、すなわちエチルアルコールの濃縮を目的としたものであるが、該公報と同じ方法によってイソプロピルアルコールの濃縮を行う場合も全く同様の問題が生ずるのである。従って、かかる低圧下にて高濃度アルコール水溶液を分離した後、回収された抽剤CO2を再圧縮循環するために要する動力は極めて多大となり、実用上大きな問題をもたらす。【0013】多段抽出操作や多段減圧操作により、抽剤CO2によるアルコールの抽出効率を高め、かつ、抽出相と抽残相、あるいは該抽出相を形成している抽剤と抽質(高濃度アルコール)をより完全に分離する方法も提案されているが、いずれの方法によっても、分離性の問題は未だ十分に解決されておらず、また抽剤の再圧縮循環動力に関する問題が残されており、さらには多大な設備を必要とするため、実用に際して解決すべき課題は多い(特開昭62-25983号、特開昭62-25984号、特開昭62-29988号)。【0014】特開昭61-100181号には、低濃度アルコール水溶液と抽剤CO2を接触させて得られた抽出相を減圧することにより、該抽出相から粗アルコールを分離し、かくして得られた粗アルコールを、ベンゼンを共沸剤とした共沸蒸留塔に供給し、該蒸留塔にて粗アルコールの脱水を行うと同時に、塔頂に設置された分縮型コンデンサーから粗アルコール中に溶存していたCO2を分離回収し、抽剤として再圧縮循環させる方法が提案されている。該公報の方法は、粗アルコール中に溶存する抽剤CO2を完全に分離回収するという課題に関して一応の解決策を与えたものであるが、循環使用すべき抽剤CO2量は依然大きいため、必要となる圧縮循環動力及び抽出設備規模に関わる本質的な問題は解決されていない。【0015】特公平5-36418号には、向流抽出塔の上部よりアルコール及び水を主成分とする原抽料を、下部よりプロパン、プロピレン、n-ブタン及びi-ブタンよりなる群のうちの一つの抽剤を供給し、向流抽出塔内において該抽剤が超臨界状態又は亜臨界状態となるような条件下で両者を向流で接触させ、該抽出塔上部より濃縮アルコールを含んだ抽出相を抜き出した後、該抽出相を冷却液化させて2相分離させ、水分に富んだ重液相を全量該抽出塔上部へ還流し、炭化水素に富んだ軽液を蒸留塔に導入し、該炭化水素とアルコールを蒸留分離することにより、該蒸留塔の塔底からほぼ無水のアルコールを得る方法が記載されている。かかる方法によれば、該蒸留塔の塔頂から回収される炭化水素抽剤を再圧縮する際に発生する熱を該蒸留塔のリボイラーに有効利用できるため、アルコールの濃縮に要するエネルギーが既存蒸留法の約1/3〜1/5になるとされている。【0016】しかし、かかる方法においては、該公報の記載内容(同公報第2頁第4欄第13行〜第3頁第6欄第39行)及び物質収支(同公報第6頁第2図)より明かな様に、該抽剤抽出蒸留塔の塔底から回収される無水アルコールには、重量比で1.5倍もの抽剤炭化水素が含まれており、実用に際しては無水アルコールから該炭化水素をさらに分離(蒸留)回収し、抽剤として再圧縮循環させる必要がある。また、10wt%のアルコールをほとんど無水(約99.9wt%)にまで濃縮できる反面、S/F比は5以上と大きいため、抽剤炭化水素の再圧縮循環動力と抽出設備が多大となる問題点は解決されていない。【0017】また、特公平3−29393号には、原抽料であるアルコール水溶液を向流抽出塔の中部より供給し、該抽出塔の下部よりプロパン(抽剤)を供給してアルコールの抽出を行い、原抽料供給口よりも下部においては、該プロパンが超臨界状態または亜臨界状態となるようにし、該原抽料供給口よりも上部においては該プロパンが液体状態となるようにし、主に該プロパンからなる抽出相を液体として該抽出塔上部より抜き出した後、該抽出相を蒸留することにより、該抽出相から無水に近い高濃度のアルコールを回収する方法が報告されている。該公報の実施例によれば、適当な抽出条件を設定することにより、原抽料である10wt%アルコール水溶液を約95〜98wt%(プロパンフリー)の高濃度アルコールに濃縮できるとされているが、S/F比は3以上と依然多量であり、抽剤の再圧縮循環動力及び抽出設備規模に関わる問題は未だ十分に解決されていない。抽剤にCO2を用い、同様な原理でアルコール抽出を行う方法も提案されているが(特公平5-36419号)、この場合に必要となるS/F比は10以上と大きいため、実用的にはむしろ抽剤として炭化水素(プロパン)を用いた先の特公平3−29393号記載の方法の方が好ましく、依然、問題の本質的解決には至っていない。【0018】すなわち、以上述べてきたような超臨界、または亜臨界状態にある抽剤によるアルコール抽出法は、該抽剤が常温常圧下において気体であるため、抽剤の循環使用には必然的に大きな圧縮動力を要するとともに抽出後の抽剤の分離回収が難しく、さらに、抽出塔及びその付帯機器が全て高圧設備となり大規模な設備を要するという点で、諸工業において広く利用されている液液抽出法とは本質的に異なるのである。例えば、抽剤の圧縮循環動力に関して述べれば、単位抽剤重量あたりに要する動力は、液々抽出法とは比較にならない程大きいため、例えアルコールを実質的に無水にまで濃縮でき、従来のような蒸留法による脱水を不要にできたとしても、抽剤の圧縮循環動力があまりに多大となり、エネルギー的にはかえって不利となるケースも往々にして存在するのである。従って、かくのごとき抽出法を実用化するにあたり、目的通り、アルコール濃縮に要するエネルギーを低減させるためには、アルコールを可能な限り高濃度で抽出することよりも、むしろ、抽出操作のS/F比、すなわち抽剤循環量を大幅に低減させることが重要となるのである。【0019】【発明が解決しようとする課題】従って本発明は、プロピレンの液相直接水和によりイソプロピルアルコールを製造するに際して、イソプロピルアルコールの液相水和反応、及び、反応混合物の液相からの該イソプロピルアルコールの抽出を各々好適な条件下にて連続的に行い、高いプロピレン転化率で反応を行うとともに、適度な濃度で粗イソプロピルアルコール水溶液を効率良く得ることにより、該イソプロピルアルコールを濃縮するのに要するエネルギーを低減すると同時に、多大な製造設備を必要としないイソプロピルアルコールの製造方法を提供することを目的とする。【0020】【課題を解決するための手段】本発明は、強酸性の固体触媒の存在下に、プロピレンと水とを高温、高圧の下で直接水和し、かくして得られた反応混合物から粗イソプロピルアルコール水溶液を分離し、該水溶液を精製処理してイソプロピルアルコールを製造する方法であり、方法は、より具体的には、〔1〕 強酸性の固体触媒の存在下に、プロピレンと水とを高温、高圧の下で直接水和し、かくして得られた反応混合物から粗イソプロピルアルコール水溶液を分離し、該水溶液を精製処理してイソプロピルアルコールを製造するに際し、(1) 固体触媒を充填もしくは懸濁させた反応器内に、プロピレンと、反応させるプロピレン1モル当たり少なくとも1モル以上となる水とを連続的に供給し、温度100〜250℃、圧力60〜200気圧下で反応させ、(2) 反応混合物の気相と液相をそれぞれ反応器から全量連続的に抜き出し、(3) 該反応混合物の気相は、蒸留塔に供給して、塔底から主に原料プロピレンに含まれていたプロパンからなる不純物を除き、塔頂から未反応プロピレンを回収して反応器入口に循環させ、(4) 該反応混合物の液相は、炭素数3もしくは4の飽和炭化水素からなる抽剤と、該抽剤の臨界温度〜該臨界温度+40℃の温度、及び、臨界圧力〜200気圧の圧力、S/F比が0.3〜3の条件の下で接触させて、反応生成物であるイソプロピルアルコールを該反応混合物の液相から抽出し、(5) 主に水からなる抽残液の主要量を反応器入口に循環させ、(6) 主に該飽和炭化水素からなる抽出相から、該イソプロピルアルコールを高濃度の水溶液として分離し、該水溶液を精製して精イソプロピルアルコールを得る、ことを特徴とするイソプロピルアルコールの製造方法であり、または、〔2〕 反応混合物の液相と抽剤を接触させて得られた主に飽和炭化水素からなる抽出相から、反応生成物であるイソプロピルアルコールを高濃度の水溶液として分離するに際し、該抽出相を、該飽和炭化水素の臨界圧力以下まで減圧することによって、主に該飽和炭化水素からなる気相と、主にイソプロピルアルコール及び水からなる液相とに分離させる〔1〕記載の製造方法であり、または、〔3〕 反応混合物の液相と抽剤を接触させて得られた主に飽和炭化水素からなる抽出相から、反応生成物であるイソプロピルアルコールを高濃度の水溶液として分離するに際し、該抽出相を、圧力を実質的に維持したまま、該飽和炭化水素の臨界温度以下まで冷却することによって、主に該飽和炭化水素からなる軽液相と、主にイソプロピルアルコール及び水からなる重液相とに分離させる〔1〕記載の製造方法であり、または、〔4〕 反応混合物の液相と抽剤を接触させて得られた主に飽和炭化水素からなる抽出相から、反応生成物であるイソプロピルアルコールを高濃度の水溶液として分離した後に残る該飽和炭化水素の主要量を抽剤として循環使用する〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の製造方法であり、または、〔5〕 抽剤として循環使用する飽和炭化水素の一部を抜き出し、反応混合物の気相とともに蒸留塔に供給し、該蒸留塔の塔底から該飽和炭化水素を分離する〔4〕記載の製造方法であり、または、〔6〕 飽和炭化水素がプロパンである〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の製造方法であり、または、〔7〕 抽剤に用いる飽和炭化水素として、原料プロピレンに含まれており、未反応プロピレンの蒸留回収時に蒸留塔の塔底から分離されるプロパンを使用する〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の製造方法である。【0021】【発明の実施の形態】まず添付図面について説明するに、図1は本発明を実施するためのフローシートである。ここで1は水供給導管、2はプロピレン供給導管、3はリサイクルプロピレン循環管、4はリサイクル水循環管、5は反応器、6は冷却凝縮器、7は気相排出管、8は液相排出管、9は熱交換器、10は抽出管、11は飽和炭化水素供給導管、12は抽出相排出管、13及び14は圧力調整弁、15は気液分離管、16は気体飽和炭化水素排出管、17は粗イソプロピルアルコール水溶液排出管、18は蒸留塔、19はコンデンサー、20は缶出物排出管である。【0022】図2もまた本発明を実施するためのフローシートであり、21が熱交換器、22が液液分離管、23が液体飽和炭化水素排出管になっている以外は図1と同じである。【0023】本発明で使用する強酸性の固体触媒は特に限定されるものではないが、強酸性の官能基を有する触媒、とりわけ、強酸性の陽イオン交換樹脂を代表的に用いることができる。固体触媒は、反応器内に固定層として充填してもよく、懸濁状態で使用してもよい。また、液相ヘテロポリ酸のごとき水に溶解性を有する触媒を用いても差し支えないが、かくのごとき触媒は、その腐食性の故に反応器ならびに付帯設備に耐酸性の高級材質、例えばハステロイやチタン等の使用を要求されることが多いため、製造設備上は固体触媒を使用する方が好ましい。これらの固体触媒を反応器内に充填もしくは懸濁して使用する。反応器は通常管型が使用されるが、もちろんこれに限られるものではない。【0024】本発明の製造方法では、反応器から、反応混合物の気相と液相を全量各々連続的に抜き出し、該液相から反応によって生成したイソプロピルアルコールを抽出分離した後、精製するのであるから、反応は、反応器入口及び出口間のプロピレン転化率が高く、かつ、イソプロピルアルコールの選択率が高くなるような条件下にて実施されることが望ましい。【0025】前述の通り、強酸性の固体触媒の存在下にプロピレンなどの低級オレフィンを液相直接水和する場合、該低級オレフィンと量論量の少なくとも10倍以上の水とを共存させ、使用する原料オレフィンの臨界温度及び臨界圧力以上か又は少なくとも僅かに低い温度及び圧力下にて反応を行うことにより、該原料オレフィンの転化率が75%以上、アルコール選択率が95%〜99%程度という好ましい反応成績が得られることは公知である(特公昭45-33165号)。【0026】本発明者らの知見によれば、固体触媒を使用した場合、実用的な反応速度を確保するためには、反応は少なくとも100〜250 ℃以上の温度で行うことが好ましい。反応温度の上限は、主に触媒の耐熱温度によって決まり、例えば、ゼオライトやシリカアルミナ等を基材とした強酸性固体触媒を用いれば、250℃程度の温度でも反応を実施できる。より耐熱温度の低い強酸性イオン交換樹脂を触媒に用いる場合には150℃以下の温度で反応させることが好ましい。一方、水和反応の反応場となる液相中に原料プロピレンを溶解させるためには、ある程度高い圧力(反応圧力)が必要となり、かくのごとき圧力はプロピレンの溶解度に多大な影響を及ぼす液相中のイソプロピルアルコール濃度によって異なるが、本発明者らの知見によれば、少なくとも60気圧以上で反応を行うのが現実的である。また、圧力の上限は特に限定されるものではないが、200気圧以下の圧力であることが反応器構築上好ましい。【0027】反応器からは、反応混合物の気相と液相をそれぞれ連続的に抜き出す。気相抜き出し口には冷却凝縮器を設置して、反応混合物の気相中に存在するイソプロピルアルコールを液化回収し、合成されたイソプロピルアルコールの実質的に全量を反応混合物の液相側から抜き出すことが、本発明の製造方法のより好ましい実施の形態を提供する。反応器から抜き出された該気相は、蒸留塔に連続的に供給し、該蒸留塔の塔頂から未反応プロピレンを回収して反応器入口に再循環させる。工業的に使用される原料プロピレンには、通常、4〜6%のプロパンが含まれているが、該プロパンは、反応混合物の気相中に僅かに存在するイソプロピルアルコール及び水等とともに該蒸留塔の塔底から分離される。【0028】反応器から連続的に抜き出された反応混合物の液相は、先に従来技術として記載したごとく、超臨界流体、亜臨界流体、又は、液体のいずれかの状態の適当な抽剤と接触させることにより、該液相中に含まれるイソプロピルアルコールを選択的に抽出することができる。しかしながら、前述の通り、かかるアルコール抽出法に用いられる抽剤は、通常、常温常圧下において気体であるため、抽剤の循環使用には必然的に大きな圧縮動力を要するとともに、抽出後の抽剤の分離回収が難しく、さらには抽出塔及びその付帯機器が全て高圧設備となるため設備が多大となる。従って、かくのごとき抽出法を実用化するにあたり、アルコールをより高濃度で抽出することもさることながら、抽出操作のS/F比、すなわち抽剤循環量を大幅に低減させることが必須となっている。従来技術には該要求を十分に満足させ得る方法がなかった。【0029】本発明者らは、かかる問題点を解決すべく、イソプロピルアルコールの製造工程に対して総合的なエネルギー試算を行った結果、抽出をS/F比0.3〜3、より好ましくは0.5〜2、さらに好ましくは1〜1.5の条件で実施することができ、かつ、得られた抽出相から分離回収される粗イソプロピルアルコール水溶液の濃度を共沸組成濃度(88wt%)以上にすることができれば、例え、該イソプロピルアルコールの脱水に、現在工業的に行われているごとく、ベンゼン等による共沸蒸留法を採用したとしても、既存の抽出法が有する本質的な問題点であった抽剤圧縮循環動力及び抽出設備の過大さが大幅に緩和され、従来法よりも所要エネルギーの少ない製造方法を構築できることを見い出した。【0030】抽出条件としては、前述の通り、用いる抽剤が超臨界流体、亜臨界流体又は液体のいずれかの状態となる条件を選択することができるが、最終的に液体状態の抽剤相中に含まれるアルコールを分離精製する方法、すなわち、液体として抜き出された抽出相からアルコールを分離回収する特公平 3-29393号及び特公平5-36419号記載の方法や、超臨界流体又は亜臨界流体として抜き出された抽出相を冷却液化させて液液分離させ、その軽液相側からアルコールを分離回収する特公平5-36418号記載の方法では、無水に近い高濃度の粗アルコールが得られる反面、該液化抽剤中に溶存し得るアルコール量が僅かであるため、必然的に抽剤循環量が大きくなり、前述のS/F比の好適実施条件を実現し得ない。【0031】すなわち、かくのごとく低いS/F比を実現するには、液体よりも大量のイソプロピルアルコールが溶存し得る、超臨界状態もしくは亜臨界状態の抽剤相から該イソプロピルアルコールを分離回収することが必須となるのであり、結果的に分離回収された粗イソプロピルアルコールの濃度が無水にはならなくとも、それが共沸組成濃度以上であれば、製造工程全体の所要エネルギーとして見ればはるかに有利となるのである。【0032】アルコール類を濃縮するための抽剤としては、CO2、あるいはプロピレン等の不飽和炭化水素類の利用も提案されているが、本発明者らは、それらの抽剤よりも、炭素数3〜4の飽和炭化水素、より具体的には、プロパン、i-ブタン、n-ブタンのいずれか、もしくはそれらを混合したものを抽剤とすることにより、同じ原抽料(低濃度イソプロピルアルコール)に対する抽出特性を比較した場合に、抽出されるイソプロピルアルコールの量がより多く(抽出相中濃度がより高く)、かつ、水よりもイソプロピルアルコールの方がより選択的に抽出され、さらには、主に水からなる抽残液、又は、該抽出相から分離された抽質(高濃度イソプロピルアルコール水溶液)への抽剤の溶解量が少ないため、より効率的、かつ前述のごとくエネルギー的優位性を供する抽出処理を実現し得るという当業者に到底予期せざる驚くべき知見を得たのである。本発明はかかる知見に基づきなされるに到ったものである。【0033】例えば、本発明者らが今回、実験的に検討したところ、120〜130℃、80〜100気圧下の水、イソプロピルアルコール及び抽剤(プロパン、プロピレン、CO2のいずれか)の3成分系気液平衡関係で比較すると、液相中のイソプロピルアルコール濃度が抽剤フリーで15〜20wt%である場合、該液相と平衡状態にある気相中のイソプロピルアルコール濃度は、該抽剤がプロパンの場合の方が、該抽剤がプロピレンもしくはCO2の場合に比べて、1.2〜2.5倍も高いという予想外の挙動を示すことを見出した。また、気相側のイソプロピルアルコール濃度を抽剤フリー濃度に直すと、該抽剤がプロピレンもしくはCO2の場合には約75〜85wt%であったのに対して、該抽剤がプロパンの場合には、なんと常に90wt%を越える高い濃度であった。一方、該液相に溶解している抽剤の濃度を比較した結果、該抽剤がプロパンの場合には約0.1〜1mol%であり、該抽剤がプロピレンもしくはCO2の場合に比べ、溶存濃度が約1/2〜1/10であった。【0034】更に、プロピレン、プロパン、イソプロピルアルコール、水の4成分系高圧気液平衡を厳密に測定した結果、主にイソプロピルアルコールと水からなる液相へのプロピレンの溶解度は、プロパンの共存によって極端に低くなることをも見い出した。かかる結果は、反応器から連続的に抜き出された液相から反応生成物であるイソプロピルアルコールを抽出するに際し、プロパン等の飽和炭化水素を抽剤とすることにより、従来のごとくプロピレンを抽剤とする場合に比して該イソプロピルアルコールをはるかに効率良く抽出できるのみならず、該液相に溶存していた未反応プロピレンも同時に分離回収できることを意味しており、本発明の製造方法が、プロピレン原単位の改善にも効果的であることを示すものである。【0035】実用に際しては、主に飽和炭化水素からなる抽出相から粗イソプロピルアルコール水溶液を分離した後、回収された該飽和炭化水素の主要量を抽剤として循環使用することが望ましいが、その一部を抜き出して、反応混合物の気相とともに蒸留塔に供給することにより、抽出処理の際に反応混合物の液相から回収された未反応プロピレンを蒸留回収できるため、本発明の製造方法のより好ましい実施の形態を提供する。【0036】前述のように、抽剤が超臨界流体又は亜臨界流体となるような条件下において抽出を行うには、言うまでもなく、抽剤として用いる炭素数3〜4の飽和炭化水素の臨界温度以上の温度、及び、臨界圧力以上か又は少なくとも僅かに低い圧力下にて抽出を実施することが必要となる。【0037】抽出温度については、イソプロピルアルコールの被抽出量(抽出相中濃度)、及び、抽出選択性(抽出相中炭化水素フリー濃度)に多大な影響を及ぼすことが知られており、低温で抽出するほど、より選択的にイソプロピルアルコールが抽出される反面、イソプロピルアルコールの被抽出量、すなわち、抽出相中濃度はより小さくなるため、それらの関係から化学工学的に好適な抽出温度を選ぶ必要がある。本発明者らの知見によれば、炭素数3〜4の飽和炭化水素を抽剤として用い、適当な抽出圧力において抽出を行う場合、前述の反応条件にて合成された約15〜27wt%のイソプロピルアルコールを、その共沸組成濃度である88wt%以上の炭化水素フリー濃度で抽出するには、該抽剤の臨界温度(炭素数3及び4の飽和炭化水素を混合して抽剤とする場合には、混合物としての臨界温度)〜該臨界温度+40℃の温度で抽出を行うのが好ましい。かかる温度範囲よりあまり低い温度では、抽出相が液化してしまい、反対にあまり高い温度では、抽出相中のイソプロピルアルコールの炭化水素フリー濃度が共沸組成濃度に到達しなくなるのである。【0038】一方、抽出圧力は、イソプロピルアルコールの被抽出量、抽出選択性の両方に多大な影響を及ぼすが、これは主に、圧力が該飽和炭化水素抽剤の密度を支配する直接的因子であることに起因する。該飽和炭化水素が抽剤として優れた性能を供するには、高い密度の抽剤相を形成することが必須であり、具体的には、該抽剤相が超臨界流体又は亜臨界流体のいずれかの状態になる必要がある。一般に、超臨界流体は高圧下ほど高密度となるが、混合物の場合にはその組成によって密度は大きく異なる。本発明者らは、本発明の方法により得られる抽出相のごとく、炭素数3〜4の飽和炭化水素、イソプロピルアルコール、水からなる超臨界流体の場合、圧力を200気圧を超えて高めても、その密度は実質的に変化しなくなることを把握した。従って、抽出圧力は、抽剤として用いた炭化水素の臨界圧力〜200気圧の圧力よりも僅かに低い圧力にすることが好ましい。以下の説明は、例えば飽和炭化水素としてプロパンである場合を主として説明する。【0039】また、S/F比、すなわち循環使用する抽剤の量を効果的に低減させるには、液液抽出操作の設計と同様に、向流多段接触型の抽出を実施するのが好ましい。例えば、後述の実施例1に示したごとく、抽剤としてプロパンを用い、好適な抽出条件下にて該抽剤を反応混合物の液相と向流接触させることにより、1近傍のS/F比で目的とするイソプロピルアルコールの抽出成績が得られるのである。S/F比は1未満にすることも可能であるが、S/F比があまり小さいと抽残相に残留するイソプロピルアルコール濃度が高くなり、反応に好ましくない影響を及ぼす。従って、S/F比は少なくとも0.3以上、好ましくは0.5以上、より好ましくは1以上にするのが良い。また、イソプロピルアルコールの濃縮に要するエネルギーを蒸留法よりも低く抑えるためには、S/F比を3以下にするのが良く、さらに高圧設備が必要となる点まで勘案すると、好ましくは2以下、より好ましくは1.5以下にするのが良い。【0040】反応混合物の液相からイソプロピルアルコールの抽出を行った際に残る抽残相は、主成分が水であるため、その主要量を反応器に循環させることが望ましいことは言うまでもないが、反応におけるイソプロピルアルコール選択率を高めるために、ニューチャージ水と該循環水とを合計した反応器入口への水の総供給量が、公知の知見のごとく、反応させるプロピレンの供給量に対して、少なくとも10倍モル以上となるように、反応器への該抽残相の循環量を設定することが好ましい。【0041】反応混合物の液相と該抽剤を接触させて得られた、主に飽和炭化水素からなる超臨界状態又は亜臨界状態の抽出相から、反応生成物であるイソプロピルアルコールを高濃度の水溶液として分離するには、該抽出相を該抽剤の臨界圧力以下まで減圧することによって主に該飽和炭化水素からなる気相と主にイソプロピルアルコール及び水からなる液相とに分離させる方法か、又は、該抽出相を圧力を実質的に維持したまま該抽剤の臨界温度以下まで冷却することによって主に該飽和炭化水素からなる軽液相と主にイソプロピルアルコール及び水からなる重液相とに分離させる方法のいずれかを採用することができる。【0042】まず、抽出相の減圧により粗イソプロピルアルコール水溶液を分離する方法について述べれば、一般的には、圧力を低く減ずる程、抽出相の密度が低下し、抽剤の抽出能力がなくなるため、抽出されていたイソプロピルアルコールおよび水は凝縮して抽剤をより完全に分離するが、それに伴い、言うまでもなく、抽剤を再利用する際の圧縮動力は大きくなる。本発明者らの検討によれば抽剤と粗イソプロピルアルコール水溶液の分離性、および抽剤の再圧縮循環動力のバランスから、抽出相を減圧する圧力は、5気圧〜抽剤の臨界圧力、より好ましくは、10気圧〜該臨界圧力−5気圧にするのが良い。また、かかる分離方法自体は既に公知であるが、抽剤として炭素数3〜4の飽和炭化水素を利用することにより、前述の通り、イソプロピルアルコール水溶液への該抽剤の溶解量が極く僅かとせしめうることに起因して、実用上、必ずしも該抽出相より液化分離された粗イソプロピルアルコール水溶液に溶存している抽剤を分離回収する必要がなくなるのである。本発明の製造方法では、通常、工業的に用いられるプロピレンに含まれているプロパンを、未反応プロピレンの蒸留回収時に蒸留塔の塔底から分離しているが、該プロパンを抽剤飽和炭化水素として活用すれば、該抽剤のニューチャージ量を低減できるか、もしくはニューチャージの必要がなくなり、本発明のより好ましい実施の形態を提供することができるのである。また、反応器から連続的に抜き出された反応混合物の気相には、僅かながら、蒸発したイソプロピルアルコールが含まれており、該イソプロピルアルコールは、該気相から未反応プロピレンを蒸留回収する際に、蒸留塔の塔底からプロパンとともに分離されるが、該プロパンを抽剤として用いることにより、このイソプロピルアルコールが必然的に回収され、原料原単位の点で有利になることは言うまでもない。【0043】次に、抽出相を冷却液化により粗イソプロピルアルコール水溶液を分離する方法について述べれば、抽出相の主要量を液化させるために、該抽出相を、圧力を実質的に維持したまま、少なくとも抽剤の臨界温度以下まで冷却する必要がある。抽出相の実質的に全量を液化させるには該臨界温度−10℃以下、より好ましくは該臨界温度−20℃以下とするのが良い。あまり低温まで冷却するとエネルギーの損失を招き好ましくない。また、かかる方法自体もまた公知であるが、本発明の方法は、該抽出相の液化によって分離した主にイソプロピルアルコールと水からなる重液相側から該イソプロピルアルコールを回収する点において、少なくとも、軽液相側からアルコールの回収を行う先の特公平5-36418号記載の方法とは明確に異なる。前にも述べた通り、液化飽和炭化水素へのイソプロピルアルコール及び水の溶解度は著しく小さいため、抽出相の冷却によって、ほとんど該飽和炭化水素だけからなる軽液相と、主にイソプロピルアルコール及び水からなる重液相とに分離することができ、該重液相として粗イソプロピルアルコールを回収することによって、初めて、抽剤が超臨界状態又は亜臨界状態となる条件下で抽出を実施する利点が生まれるのであり、目標とする0.3〜3、好ましくは0.5〜2、より好ましくは1〜1.5のS/F比を達成できるのである。また、重液相側に溶解する抽剤量も僅かであることから、抽剤飽和炭化水素として原料プロピレンに含まれるプロパンを利用することが本製造方法の好ましい実施の形態を提供することに変わりはない。【0044】抽出相の減圧により、該抽出相からイソプロピルアルコール水溶液を分離する場合には、回収された抽剤を循環する際に、抽出圧力まで再圧縮する必要が生じるが、抽出相を冷却液化させて同水溶液を分離する場間には高い圧力が維持されているため、少なくとも抽剤の再圧縮循環動力の点では後者の方が有利と言える。【0045】以上のごとく、本発明の製造方法によれば、反応に好適な温度及び圧力下においてプロピレンの液相直接水和反応を実施することにより、高いプロピレン転化率及びイソプロピルアルコール選択率が達成され、かつ、合成されたイソプロピルアルコールの主要量を含む反応混合物の液相に対して炭素数3〜4の飽和炭化水素を抽剤として好適な温度及び圧力下にて抽出処理を実施し、得られた抽出相を減圧もしくは冷却することによって、共沸組成以上の濃度の粗イソプロピルアルコール水溶液を容易かつ効率良く分離回収できるため、従来のイソプロピルアルコール製造においてその濃縮に要してきた多大なエネルギーを緩和することが可能となる。また結果的に、反応、抽出ともに多大な規模の設備を必要としなくなるため、実用上好ましい製造方法を供するのである。共沸組成以上の濃度で得られた粗イソプロピルアルコール水溶液の脱水濃縮は、通常、工業的に実施されているごとく、ベンゼンやトルエン、ヘキサン等の、水と共沸混合物を形成する溶剤を用いた共沸蒸留による公知の脱水操作により、容易に実施することができる。従って、本発明の製造方法は、イソプロピルアルコールの新しい製造方法として、産業上の利用可能性きわめて大なる優れたものである。【0046】【実施例】以下、実施例により本発明の実施の態様の一例を説明する。〔実施例1〕内径30mm、高さ300mmのSUS316製のジャケット付き反応管に、市販のマクロポーラス型強酸性陽イオン交換樹脂レバチットSPC-118を100mL充填し、反応管底部より、96%プロピレン(残り 4%はプロパン)を毎時 230mmol、純水を毎時5.5g、抽出塔からのリサイクル水(抽残液)を毎時67gの流量にて供給し、反応管の温度及び圧力を各々 150℃、80気圧に保った。反応管の上部より連続的に排出される気相は、圧力調整弁により30気圧に減圧した後、内径20mm、段数50段、塔頂より15段目に原料供給口を有するSUS316製蒸留塔に供給し、還流比を13に設定して連続蒸留した。該蒸留塔の塔底からプロパンを主成分とした液体を分離し、該蒸留塔の塔頂から、原料とほぼ同じ純度の未反応プロピレンを抜き出し、全量連続的に反応器に再循環させた。一方、反応管上部から毎時約81gにて連続的に抜き出される液相は、130℃に冷却した後、内径50mm、高さ8mのSUS316製ジャケット付き向流抽出塔の上部に供給し、該抽出塔の下部より毎時94gのプロパンを抽剤として連続的に供給し、130℃、80気圧にて抽出を実施した。該抽出塔の塔底より毎時67gで連続的に抜き出した抽残液は全量反応器に再循環させた。該抽出塔の塔頂より連続的に抜き出した抽出相は、圧力調整弁により30気圧に減圧した後、気液分離管にて80℃に調整して一部液化させ、該液化相と残留ガスとを該気液分離管より各々連続的に抜き出した。全体が定常状態に到達した時点において、気液分離管から毎時約14.3gの液化相が連続的に抜き出され、その組成を分析したところ、イソプロピルアルコールが約89wt%、水が約10wg%、ジイソプロピルエーテルが約1wt%であった。【0047】〔実施例2〕実施例1において、抽出塔の塔頂より毎時108gで連続的に抜き出した抽出相を圧力を維持したまま60℃に冷却して液化させ、液液分離管に導いて液液分離させた後、軽液相と重液相を該液液分離管から各々連続的に抜き出した以外は、実施例1と同様の操作を行った。全体が定常状態に到達した時点において、該分離間から毎時約14.4gの重液相が連続的に抜き出され、その組成を分析したところ、イソプロピルアルコールが約88wt%、水が約11wt%、ジイソプロピルエーテルが約1wt%であった。【0048】〔比較例1〕実施例1において、抽出処理以降を実施せず、反応管への純水供給量を毎時72.5gとし、反応管から毎時約81gで連続的に抜き出された反応混合物の液相の組成を分析したところ、イソプロピルアルコールが約18wt%、水が約82wt%であった。【0049】〔比較例2〕実施例1において、抽出処理の温度を150℃に設定して同様の操作を行ったところ、粗イソプロピルアルコール分離管から毎時約16gの液化相が連続的に抜き出され、その組成を分析したところ、イソプロピルアルコールが約80wt%、水が約19wt%、ジイソプロピルエーテルが約1wt%であった。粗イソプロピルアルコールが共沸組成濃度に到達しなかったのは、温度が高いことに起因して、イソプロピルアルコールの選択的な抽出がなされないためである。【0050】〔比較例3〕実施例1において、抽剤としてプロパンの替わりにプロピレンを使用し、同様の操作を行ったところ、粗イソプロピルアルコール分離管から毎時約15gの液化相が連続的に抜き出され、その組成を分析したところ、イソプロピルアルコールが約83wt%、水が約16wt%、ジイソプロピルエーテルが約1wt%であった。粗イソプロピルアルコールが共沸組成濃度に到達しなかったのは、プロピレン抽剤ではプロパン抽剤の場合ほどイソプロピルアルコールの選択的な抽出がなされないことに起因する。【0051】【発明の効果】本発明の製造方法は、プロピレンの液相直接水和反応による従来のイソプロピルアルコール製造方法の有していた、粗イソプロピルアルコール水溶液の濃度の低さに起因する濃縮エネルギーの過大さという問題点を大幅に緩和させることができ、かつ、多大な規模の反応器及び抽出設備を必要としない製造方法を実現することを可能ならしめるものである。【図面の簡単な説明】【図1】本発明方法を実施するためのフローシート【図2】本発明方法を実施するためのフローシート【符号の説明】1 水供給導管2 プロピレン供給導管3 リサイクルプロピレン循環管4 リサイクル水循環管5 反応管6 冷却凝縮器7 気相排出管8 液相排出管9 熱交換器10 抽出管11 飽和炭化水素供給導管12 抽出相排出管13 圧力調整弁14 圧力調整弁15 気液分離管16 気体飽和炭化水素排出管17 粗イソプロピルアルコール水溶液排出管18 蒸留塔19 コンデンサー20 缶出物排出管21 熱交換器22 液液分離管23 液体飽和炭化水素排出管 強酸性の固体触媒の存在下に、プロピレンと水とを高温、高圧の下で直接水和し、かくして得られた反応混合物から粗イソプロピルアルコール水溶液を分離し、該水溶液を精製処理してイソプロピルアルコールを製造するに際し、(1) 固体触媒を充填もしくは懸濁させた反応器内に、プロピレンと、反応させるプロピレン1モル当たり少なくとも1モル以上となる水とを連続的に供給し、温度100〜250℃、圧力60〜200気圧で反応させ、(2) 反応混合物の気相と液相をそれぞれ反応器から全量連続的に抜き出し、(3) 該反応混合物の気相は、蒸留塔に供給して、塔底から主に原料プロピレンに含まれていたプロパンからなる不純物を除き、塔頂から未反応プロピレンを回収して反応器入口に循環させ、(4) 該反応混合物の液相は、炭素数3もしくは4の飽和炭化水素からなる抽剤と、該抽剤の臨界温度〜該臨界温度+40℃の温度、及び、臨界圧力〜200気圧の圧力、抽剤量/原抽料量比が0.3〜3の条件の下で接触させて、反応生成物であるイソプロピルアルコールを該反応混合物の液相から抽出し、(5) 主に水からなる抽残液の主要量を反応器入口に循環させ、(6) 主に該飽和炭化水素からなる抽出相から、該イソプロピルアルコールを高濃度の水溶液として分離し、該水溶液を精製して精イソプロピルアルコールを得る、ことを特徴とするイソプロピルアルコールの製造方法。 反応混合物の液相と抽剤を接触させて得られた主に飽和炭化水素からなる抽出相から、反応生成物であるイソプロピルアルコールを高濃度の水溶液として分離するに際し、該抽出相を、該飽和炭化水素の臨界圧力以下まで減圧することによって、主に該飽和炭化水素からなる気相と、主にイソプロピルアルコール及び水からなる液相とに分離させる請求項1に記載の製造方法。 反応混合物の液相と抽剤を接触させて得られた主に飽和炭化水素からなる抽出相から、反応生成物であるイソプロピルアルコールを高濃度の水溶液として分離するに際し、該抽出相を、圧力を実質的に維持したまま、該飽和炭化水素の臨界温度以下まで冷却することによって、主に該飽和炭化水素からなる軽液相と、主にイソプロピルアルコール及び水からなる重液相とに分離させる請求項1に記載の製造方法。 反応混合物の液相と抽剤を接触させて得られた主に飽和炭化水素からなる抽出相から、反応生成物であるイソプロピルアルコールを高濃度の水溶液として分離した後に回収される該飽和炭化水素の主要量を抽剤として循環使用する請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。 抽剤として循環使用する飽和炭化水素の一部を抜き出し、反応混合物の気相とともに蒸留塔に供給し、該蒸留塔の塔底から該飽和炭化水素を分離する請求項4に記載の製造方法。 飽和炭化水素がプロパンである請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。 抽剤に用いるプロパンの少なくとも一部として、原料プロピレンに含まれており、未反応プロピレンの蒸留回収時に蒸留塔の塔底から分離されるプロパンを使用する請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。


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