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タイトル:特許公報(B2)_ルテニウム錯体の分離回収方法
出願番号:1996025385
年次:2006
IPC分類:B01J 31/22,B01J 31/40,B01J 38/00,C07C 51/083,C07C 55/10,C07F 15/00,C07B 61/00


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高橋 和成 岩出 慎二 森田 文夫 JP 3758226 特許公報(B2) 20060113 1996025385 19960213 ルテニウム錯体の分離回収方法 三菱化学株式会社 000005968 長谷川 曉司 100103997 高橋 和成 岩出 慎二 森田 文夫 20060322 B01J 31/22 20060101AFI20060302BHJP B01J 31/40 20060101ALI20060302BHJP B01J 38/00 20060101ALI20060302BHJP C07C 51/083 20060101ALI20060302BHJP C07C 55/10 20060101ALI20060302BHJP C07F 15/00 20060101ALI20060302BHJP C07B 61/00 20060101ALN20060302BHJP JPB01J31/22 ZB01J31/40 ZB01J38/00 301MC07C51/083C07C55/10C07F15/00 AC07B61/00 300 B01J 31/40 B01J 31/22 特開平07−323232(JP,A) 化学大辞典編集委員会,「化学大辞典8 縮刷版」,日本,共立出版株式会社,1966年 5月25日,第669頁,「ホスフィン」の項の[2] 4 1997215934 19970819 13 20020116 新居田 知生 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、ルテニウム錯体の分離回収方法に関する。詳しくは、本発明は、ルテニウム錯体を触媒として有機カルボニル化合物を水素化しその反応生成液から得られる触媒液を特定の条件下で抽出処理し、ルテニウム錯体を分離回収する方法に関する。回収されたルテニウム錯体は水素化反応に再使用することができる。【0002】【従来の技術】第三級有機リン系化合物を配位子として有する有機リン−ルテニウム錯体は、均一触媒反応による各種カルボニル化合物の水素化反応に使用されている。このルテニウム錯体触媒は、化学的に比較的安定であり、反応生成物と触媒液とを蒸留により分離し、触媒液を反応域へ循環して再使用したり、或いは反応生成物をガスストリッピングにより反応域から流出させて分離し、触媒液を反応域に残留させたままで連続的に反応を行わせることができる。しかしながら、これらの反応においては種々の高沸点副生物が生成することは避けられず、これらの反応を連続的に実施する場合には触媒液中に高沸点物質が蓄積するので、触媒液の一部を連続的に又は間欠的に反応系から抜き出すことが必要である。【0003】当然の事ながら、この抜出した液にはルテニウムが含まれているため、廃棄するためにはその処理が必要となる。しかしながら、ルテニウムを含有する液は燃焼させると、有毒で腐食性の強いRuO4 が生成するため、焼却処理は制限される。また、産業廃棄物処理業者等に処理を依頼すると、抜出し液の質量見合いで費用がかかるため、量が多い場合経済的に不利になる。従って、この抜出し液中のルテニウムを濃縮できれば、その経済的効果は非常に大きいと言える。更には、もしこの抜出し液から、ルテニウム錯体を効率よく回収でき、これを反応に再利用できれば、廃液処理にかかる負担を大幅に軽減できる上、経済的にも触媒費を大幅に減ずることができ、また排出するルテニウムの絶対量が減るので環境汚染防止の上からも好ましく、その効果は絶大なものがある。しかし、そのためには、反応液から活性な形態を保持したまま錯体触媒を分離回収することが必要となる。【0004】従来、ロジウム等の第VIII族金属を分離回収する方法として、強酸による抽出法(特公昭46−43219号公報)、過酸化物による分解法(米国特許第3,547,964号明細書、特開昭51−63388号公報)等が提案されているが、いずれの方法も酸を使用するため、装置材質の腐食の問題がある。本発明者等は第三級有機リン系化合物を配位子として有するルテニウム錯体を有機カルボニル化合物の水素化反応生成液から工業的有利に回収する方法について検討し、水素化反応生成液から所望の反応生成液及び必要に応じ反応溶媒を除去して得られる触媒液を塩基性物質を含む水溶液と非極性有機溶媒で抽出処理することにより、ルテニウム錯体に富む有機溶媒相を回収し得ることを見出し、特願平7−101653号明細書に提案した。【0005】【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このようにして回収されたルテニウム錯体を含む触媒液を上記カルボニル化合物の水素化反応に再利用した場合にはルテニウム錯体触媒の活性が徐々に低下して来るという問題点があることが判明した。本発明の課題は、第三級有機リン系化合物を配位子として有するルテニウム錯体を触媒として含む有機カルボニル化合物の水素化反応生成液からルテニウム錯体を工業的有利に回収し、且つ必要に応じてそれを上記水素化反応に再利用する方法を提供することにある。【0006】【課題を解決するための手段】本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、該ルテニウム錯体触媒の活性低下の原因が第三級有機リン系化合物の酸化物の反応系内への蓄積にあり、該有機リン系化合物の酸化物は上記で回収したルテニウム錯体に富む有機溶媒相を低級アルコールで抽出処理することにより該有機溶媒相中の第三級有機リン系化合物の酸化物の一部が低級アルコール相に抽出除去され、ルテニウム錯体触媒液中の第三級有機リン系化合物酸化物の蓄積が防止できることを見出し、本発明を完成した。【0007】即ち、本発明は、第三級有機リン系化合物を配位子として有するルテニウム錯体の存在下に有機カルボニル化合物を水素化して得られる反応液から目的生成物を除去して得た触媒液を、塩基性物質を含む水溶液及び非極性有機溶媒で順次又は同時に又は逆順序で抽出処理し、主として塩基性物質を含有する水溶液相と主としてルテニウム錯体を含有する有機溶媒相とを形成させて相分離し、次いで、得られた該有機溶媒相を低級アルコールで抽出処理し、該有機溶媒相と低級アルコール相とを形成させて相分離し、該有機溶媒相から有機溶媒を留去することを特徴とするルテニウム錯体の分離回収方法にある。【0008】以下、本発明を詳細に説明する。【発明の実施の態様】1.水素化反応本発明は、少なくとも1種の第三級有機リン系化合物を配位子として有するルテニウム錯体を含む有機カルボニル化合物の水素化反応生成液から、ルテニウム錯体を濃縮分離し、必要に応じて分離回収したルテニウム錯体をその水素化反応に再利用するものであるが、この水素化反応としてはカルボニル化合物の水素化、例えば脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸無水物、脂肪族ジカルボン酸ジエステル等の水素化反応が挙げられる。【0009】上記脂肪族ジカルボン酸としては、飽和及び/又は不飽和のジカルボン酸、例えば、マレイン酸、コハク酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、メチルコハク酸、グルタル酸等が挙げられる。また、上記脂肪族ジカルボン酸無水物としては、飽和及び/又は不飽和のジカルボン酸無水物、例えば、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水メチルコハク酸、無水グルタル酸等が挙げられる。更に、上記脂肪族ジカルボン酸ジエステルとしては上記脂肪族ジカルボン酸のジアルキルエステル、例えばマレイン酸ジメチル、フマル酸ジエチル、コハク酸ジ−n−ブチル等が挙げられる。γ−ブチロラクトンを目的とする場合には、無水マレイン酸、無水コハク酸、マレイン酸、コハク酸、フマル酸が挙げられる。本発明は、特に第三級有機リン系化合物を配位子として有するルテニウム錯体を均一系触媒として使用し、無水コハク酸を水素化してγ−ブチロラクトンを生成する反応液からルテニウム錯体を濃縮分離し、再度水素化反応に使用する場合に有効である。【0010】(ルテニウム錯体触媒)本発明に用いるルテニウム錯体触媒としては、少なくとも1種の第三級有機リン系化合物を配位子として有するルテニウム錯体であれば特に限定されないが、例えば無水コハク酸を水素化してγ−ブチロラクトンを生成する触媒は、通常、(イ)ルテニウム、(ロ)第三級有機ホスフィン及び(ハ)pka値が2より小さい酸の共役塩基を含有し、場合により中性配位子を含有しているルテニウム錯体であり、その調製に用いる各成分の具体例は次の通りである。【0011】(イ)ルテニウムルテニウムとしては、金属ルテニウム及びルテニウム化合物の何れも使用することができる。ルテニウム化合物としては、ルテニウムの酸化物、ハロゲン化物、水酸化物、無機酸塩、有機酸塩又は錯化合物が使用され、具体的には、例えば二酸化ルテニウム、四酸化ルテニウム、二水酸化ルテニウム、塩化ルテニウム、臭化ルテニウム、ヨウ化ルテニウム、硝酸ルテニウム、酢酸ルテニウム、トリス(アセチルアセトン)ルテニウム、ヘキサクロロルテニウム酸ナトリウム、テトラカルボニルルテニウム酸ジカリウム、ペンタカルボニルルテニウム、シクロペンタジエニルジカルボニルルテニウム、ジブロモトリカルボニルルテニウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ヒドリドルテニウム、ビス(トリ−n−ブチルホスフィン)トリカルボニルルテニウム、ドデカカルボニルトリルテニウム、テトラヒドリドデカカルボニルテトラルテニウム、オクタデカカルボニルヘキサルテニウム酸ジセシウム、ウンデカカルボニルヒドリドトリルテニウム酸テトラフェニルホスホニウム等が挙げられる。これ等の金属ルテニウム及びルテニウム化合物の使用量は、水素化反応溶液1リットル中のルテニウムとして0.0001〜100ミリモル、好ましくは、0.001〜10ミリモルである。【0012】(ロ)第三級有機ホスフィン有機ホスフィンは、主触媒である(イ)のルテニウムの電子状態を制御したり、ルテニウムの活性状態を安定化するのに寄与するものと考えられる。有機ホスフィンの具体例としては、トリ−n−オクチルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、ジメチル−n−オクチルホスフィン等のトリアルキルホスフィン類、トリシクロヘキシルホスフィンのようなトリシクロアルキルホスフィン類、トリフェニルホスフィンのようなトリアリールホスフィン類、ジメチルフェニルホスフィンのようなアルキルアリールホスフィン類、1,2−ビス(ジフェニルホスフィン)エタンのような多官能性ホスフィン類が挙げられる。中でもトリアルキルホスフィンが好ましく、更にはトリオクチルホスフィンが好ましい。有機ホスフィンの使用量は通常、ルテニウム1モルに対して、3〜1000モル程度、好ましくは5〜100モルである。即ち、ルテニウム1モルに対し有機ホスフィンは通常3モル配位すると考えられるが、本発明では配位に必要なモル数以上の有機ホスフィンを用いるのが好ましい。反応系内でのこの過剰の有機ホスフィンの存在形態は必ずしも明らかではないが、系内に存在する基質等と何等かの結合をしているものと推定される。また、有機ホスフィンは、それ自体単独で、或いはルテニウム触媒との複合体の形で反応系に供給することができる。【0013】(ハ)pka値が2より小さい酸の共役塩基pka値が2より小さい酸の共役塩基は、ルテニウム触媒の付加的促進剤として作用し、触媒調製中又は反応系中において、pka値が2より小さい酸の共役塩基を生成するものであればよく、その供給形態としては、pka値が2より小さいブレンステッド酸又はその各種の塩等が用いられる。具体的には例えば、硫酸、亜硫酸、硝酸、亜硝酸、過塩素酸、燐酸、ホウフッ化水素酸、ヘキサフルオロ燐酸、タングステン酸、燐モリブデン酸、燐タングステン酸、シリコンタングステン酸、ポリケイ酸、フルオロスルホン酸等の無機酸類、トリクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ラウリルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸、或いはこれ等の酸のアンモニウム塩、ホスホニウム塩が挙げられる。また、これ等の酸の共役塩基が反応系で生成すると考えられる酸誘導体、例えば酸ハロゲン化物、酸無水物、エステル、酸アミド等の形で添加しても同様の効果が得られる。【0014】これ等の酸又はその塩の使用量は、ルテニウム1モルに対して0.01〜1000モル、好ましくは0.1〜100モル、更に好ましくは0.5〜20モルの範囲である。上記(イ)、(ロ)及び(ハ)の成分の外に、場合により含有することができる中性配位子としては、水素;エチレン、プロピレン、ブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、ブタジエン、シクロペンタジエン、シクロオクタジエン、ノルボナジエン等のオレフィン類;一酸化炭素、ジエチルエーテル、アニソール、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトン、アセトフェノン、ベンゾフェノン、シクロヘキサノン、プロピオン酸、カプロン酸、酪酸、安息香酸、酢酸エチル、酢酸アリル、安息香酸ベンジル、ステアリン酸ベンジル等の含酸素化合物;酸化窒素、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル、シクロヘキシルイソニトリル、ブチルアミン、アニリン、トルイジン、トリエチルアミン、ピロール、ピリジン、N−メチルホルムアミド、アセトアミド、1,1,3,3−テトラメチル尿素、N−メチルピロリドン、カプロラクタム、ニトロメタン等の含窒素化合物;二硫化炭素、n−ブチルメルカプタン、チオフェノール、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド、チオフェン、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホキシド等の含硫黄化合物;トリブチルホスフィンオキシド、エチルジフェニルホスフィンオキシド、トリフェニルホスフィンオキシド、ジエチルフェニルホスフィネート、ジフェニルメチルホスフィネート、ジフェニルエチルホスフィネート、o,o−ジメチルメチルホスホノチオレート、トリエチルホスファイト、トリフェニルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等の有機ホスフィン以外の含燐化合物が挙げられる。【0015】(反応溶媒)ルテニウム錯体触媒を用いる水素化反応において、原料物質自体を溶媒として反応を実施することができるが、反応の進行、反応物の処理操作を考慮し原料物質以外に他の溶媒を使用するのが有利である。このような溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、アニソール、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、アセトフェノン等のケトン類、メタノール、エタノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルコール類;フェノール類;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、トルイル酸等のカルボン酸類;酢酸メチル、酢酸n−ブチル、安息香酸ベンジル等のエステル類;ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素;n−ヘキサン、n−オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素;ジクロロメタン、トリクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ化炭化水素;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のカルボン酸アミド、ヘキサメチル燐酸トリアミド、N,N,N′,N′−テトラエチルスルファミド等のその他のアミド類;N,N′−ジメチルイミダゾリドン、N,N,N,N−テトラメチル尿素等の尿素類;ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホン等のスルホン類;ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホキシド等のスルホキシド類;γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトン類;トリグライム(トリエチレングリコールジメチルエーテル)、テトラグライム(テトラエチレングリコールジメチルエーテル)、18−クラウン−6等のポリエーテル類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート等の炭酸エチレン類が挙げられる。【0016】(水素化反応方法)この水素化反応を行うには、反応容器に原料物質並びに有機ホスフィンの濃度を予め調節した前記の触媒成分、必要により反応溶媒を含む触媒液を導入し、更に水素を通入する。水素は窒素或いは二酸化炭素等の反応に不活性なガスで希釈されたものであってもよい。反応温度は、通常50〜250℃、好ましくは100〜250℃、更に好ましくは150〜220℃である。反応系内の水素分圧は特に限られるものではないが、工業的実施上は通常0.1〜100kg/cm2 、好ましくは1〜50kg/cm2 である。反応生成液から蒸留、抽出等の通常の分離手段により目的生成物を分離する。分離後の残留物は、その中に含まれる触媒組成濃度を定常的に点検して、液中の有機ホスフィン濃度を常に前記の所定濃度に保持するように、循環過程において適宜有機ホスフィンを補給して反応器に循環する。【0017】2.塩基性物質による抽出処理本発明方法では、前記のような水素化反応生成液からルテニウム錯体を濃縮分離するが、先ず反応生成液から目的生成物を分離し、更に必要に応じ反応に使用した反応溶媒を留去し濃縮された触媒液を取得する。反応液から溶媒を留去しておくと、次いで行われる抽出処理の際の分液性が良好となることが多い。特に、水素化反応において油水相溶性の溶媒を使用する場合には、予め溶媒を留去した後に抽出処理を行わないと、分液が良好に行われない場合がある。従って、なるべく反応溶媒を除去してから抽出処理を行うのが好ましく、残存する有機溶媒の量が0〜20重量%、好ましくは、0〜10重量%、更に好ましくは0〜5重量%となるように溶媒を留去する。反応液からの反応溶媒の留去は、通常の蒸留により行うことができ、溶媒の種類によっては、減圧蒸留を採用してもよい。いずれの方法においても液中に存在するルテニウム錯体の変性を防止するために、蒸留時の塔底温度を220℃以下に保ちながら行うことが好ましい。【0018】(塩基性物質)次いで、得られた触媒液を塩基性物質を含んでいる水溶液で処理する。この塩基性物質含有溶媒による処理は、反応液中に含まれている有機化合物の一部を水溶性の物質に変換して有機化合物を水溶液相に分配せしめ、主にルテニウム錯体を含む液相と分離することにある。【0019】例えば、反応液中のカルボン酸等の有機酸は、塩基性物質と塩を形成して水溶液に可溶となり、ポリエステルなどの高沸点物質は加溶媒分解して極性のより高い物質となり、水溶液に可溶な物質に変換される。このようにしてこれらの有機化合物は塩基性物質を含む水溶液相に分配され、ルテニウム錯体含有相と分離することができる。【0020】本発明に使用される塩基性物質としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、トリエチルアミン、n−プロピルアミン等の有機アミン類及びアンモニアが挙げられるが、工業的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物が簡便である。【0021】塩基性物質の使用量は、水素化反応生成物の性質によって異なるが、目的生成物を分離後の反応液中に含まれている酸性物質を中和したり、ポリエステル等の高沸点物質を部分的又は完全に加溶媒分解するのに必要な量である。高沸点物質の加溶媒分解はその極く一部行うだけでも分解生成物は水溶性を発現し、ルテニウム錯体との分離に寄与する。他方、塩基性物質の使用量に特に上限は無いが、経済性、排水問題等の観点から、中和や加溶媒分解等の塩基性物質が消費される反応に必要な量であれば十分である。従って、通常、反応液中に含まれている溶質成分の中塩基性物質と反応可能な官能基モル数の0.001〜10倍モル量、好ましくは0.01〜1倍モル量である。その際、塩基性物質と反応可能な官能基モル数は、反応液の中和滴定等により求めることができる。【0022】(非極性有機溶媒)塩基性物質を水溶液として使用する場合は、ルテニウム錯体との分離効率をよくするために、水と分離する比較的低極性、即ち、非極性有機溶媒が使用される。非極性有機溶媒としては、20℃における誘電率(ε)が6以下、好ましくは4以下の有機溶媒であって、その沸点が50〜200℃、好ましくは50〜150℃のもの、具体的には、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジエチルベンゼン、イソプロピルベンゼン(クメン)等の芳香族炭化水素、ジエチルエーテル、プロピルエーテル、ブチルエーテル、エチルフェニルエーテル、メチルフェニルエーテル(アニソール)等のエーテル類、1,4−ジオキサン、1,3,5−トリオキサン等のオキサン類、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素、ジクロロメタン、トリクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素等である。【0023】(処理方法)触媒液を塩基性物質の水溶液と非極性有機溶媒とで抽出処理する際の処理の順序は特に制限されず、1)触媒液をまず水溶液で抽出処理した後、水相を除去し、残留物を有機溶媒で抽出する、又は2)触媒液中に水溶液と有機溶媒とを同時に添加して抽出処理する、又は3)触媒液を先ず非極性有機溶媒で抽出処理し、次いで塩基性物質の水溶液を添加して更に抽出処理する、のいずれの方法も採用することができる。【0024】上記抽出処理は次の分離処理と組合わせて、通常の液抽出処理に用いられる方法、例えば、回分又は連続方式、並流又は向流接触、一段又は多段処理のいずれかの方法の組合せによって実施される。上記抽出処理における塩基性物質の水溶液及び非極性有機溶媒の使用量は該触媒液/該塩基性物質の水溶液/該非極性有機溶媒の重量比で通常1/0.2〜10/0.2〜10の範囲内で使用される。【0025】上記触媒液と塩基性物質の水溶液及び非極性有機溶媒との抽出処理温度としては0〜150℃、望ましくは20〜100℃の範囲であり、また抽出時間としては10分〜5時間、望ましくは30分〜3時間の範囲である。上記抽出処理においては、該触媒液と塩基性物質の水溶液及び非極性有機溶媒を撹拌処理等の三者を十分接触させる等の接触効率を上げる方法を採用するのが望ましい。【0026】該抽出処理を触媒液、塩基性物質の水溶液及び非極性有機溶媒とで同時に処理する場合には撹拌後エマルジョン状態であった内容液が該触媒液に反応溶媒が含有されていない場合、有機溶媒相、水溶液相及びそれに不溶なオイル相の三相に、又は該触媒液中に反応溶媒を含有している場合、有機溶媒相と水溶液相の二相に分液する。この中、ルテニウム錯体は主に有機溶媒相に分配され、一方、水相及びオイル相に分配するルテニウム錯体は極く僅かである。典型的な場合、90%以上の割合で有機溶媒相にルテニウム錯体を分配できる。上記抽出処理後の抽出液の分離処理は通常の油水分離に用いられる装置及び方法、例えば静置分離や遠心分離等の方法により実施できる。【0027】3.低級アルコールによる抽出処理本発明においては上記で得られた非極性有機溶媒相を低級アルコールで抽出処理して、該有機溶媒相に含有されている第三級有機リン系化合物の酸化物(配位子として用いた第三級有機リン系化合物が反応系で微量の酸素により酸化されて生成した酸化物)を低級アルコール相に逆抽出して除去することを特徴とするものである。【0028】(低級アルコール)低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等が使用される。なお、低級アルコールには少量、例えば30重量%以下、望ましくは20重量%以下の水を含有させていてもよい。特に低級アルコールに10〜20重量%の水を含有させて用いた場合には該低級アルコール相へのルテニウム錯体の抽出量が減少するので望ましい。上記抽出処理における非極性有機溶媒相/低級アルコールの使用量は重量比で1/0.2〜10の範囲内である。【0029】(抽出方法)抽出条件としては0〜100℃、望ましくは20〜60℃の温度範囲で10分〜5時間、望ましくは30分〜3時間の接触時間で実施される。また、該抽出処理及び抽出液の分離処理は前記した触媒液と塩基性物質の水溶液及び非極性有機溶媒との抽出処理及び分離処理の手段に使用されたものと同様の装置及び方法が採用される。【0030】上記非極性有機溶媒相/低級アルコールの抽出処理及び抽出液の分離処理によって、得られた非極性有機溶媒相から有機溶媒を蒸留等によって留去することにより、第三級有機リン化合物の酸化物が減少し、且つルテニウム錯体が高濃度に濃縮されたオイル状の残留物が得られる。一方、低級アルコール相には第三級有機リン化合物の酸化物が逆抽出されて含有されており、該低級アルコール相を蒸留等によって低級アルコールを留去して回収し、第三級有機リン化合物が濃縮された残留物が得られる。【0031】(酸処理)上記油状物(オイル状の残留物)にはルテニウム錯体が高濃度で含まれているので、これを水素化反応に循環使用できれば工業的に極めて有用である。ところで、このようにして得られたルテニウム錯体が高濃度に濃縮された油状物には、高温の水素化反応条件下におくと配位子である有機リン系化合物(有機ホスフィン)を遊離する物質が含まれている。この物質は水素化反応液中には無く、ルテニウム錯体を塩基性物質で処理して濃縮分離する過程において有機ホスフィン誘導体から変性して生成したものと考えられる。従って、回分反応において、この回収されたルテニウム錯体を主たる触媒として用いる場合には、反応系に大量の有機ホスフィンが存在することになり水素化反応に好ましくない影響を及ぼす。即ち、有機ホスフィン及び無水コハク酸の双方が高濃度で存在すると両者は容易に反応してしまい、水素化反応が阻害される。【0032】かかる場合には、回収されたルテニウム錯体を含む油状物を水素化反応に再使用する前に酸で処理するのが好ましい。この酸処理により、有機ホスフィンは酸との反応物に変換され水素化反応に供していても何等の悪影響を及ぼさなくなる。使用する酸としては、前記の触媒を調製する際に使用されるpka値が2より小さい酸であれば使用することができるが、これらのうちメタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ラウリルスルホン酸等のアルキルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等のアリールスルホン酸が好ましく、特にp−トルエンスルホン酸が好ましい。【0033】酸の使用量は酸の種類によって異なるが、通常、油状物に含まれる反応条件下で遊離する有機ホスフィンと当量(遊離酸量として)ないしそれ以上である。油状物を酸で処理するに当たり、水素化反応に使用する反応溶媒に油状物を溶解して処理するのが効果的である。反応溶媒の使用量は特に制限されないが、水素化反応条件における溶媒濃度とほぼ等しくするのが好ましい。【0034】酸による処理は、通常20〜300℃、好ましくは、100〜250℃の範囲で行われ、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気下で処理するのが好ましい。以上のように酸処理をして回収したルテニウム錯体を含有する溶液は、これに無水コハク酸等の基質を加えて水素化反応を実施することができ、その反応活性は、新しく調製した触媒と同等であり、有効に触媒として回収されるのである。【0035】なお、典型的な連続反応の場合には、大量に循環される循環液と反応生成液との混合物中に基質と回収されたルテニウム触媒とが導入されることになるので、反応系での基質及び有機ホスフィンの濃度は低くなり、回分反応の場合の如き反応阻害は生じない。上記回収したルテニウム錯体触媒を用いる水素化反応条件としては前記した反応条件が採用可能であるが、触媒が効率よく回収できることから触媒濃度を高くし、低圧化する条件、例えばルテニウム濃度(金属として)100〜500ppm、反応圧力(水素分圧)1〜50kg/cm2 、反応温度150〜220℃の範囲内で実施するのが工業的に有利である。【0036】【実施例】次に、本発明を実施例及び参考例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。参考例1ルテニウム−トリオクチルホスフィン−パラトルエンスルホン酸系触媒を用いた無水コハク酸の水素化反応を次の通り行った。反応は図1に示す気液分離器1、蒸留塔2付きの循環装置を使用して行った。触媒容器3に0.056重量%のトリス(アセチルアセトン)ルテニウム、0.51重量%のトリオクチルホスフィン、0.22重量%のパラトルエンスルホン酸をトリグライム(トリエチレングリコール ジメチルエーテル)に溶解し、窒素雰囲気下200℃で2時間加熱処理し、新触媒容器5に入れ新供給触媒液とした。この触媒液を3500ml/時の流量でオートクレーブ(反応器)8に供給し、気液分離後、蒸留塔の缶出液として回収リサイクルしておいた。【0037】一方、水素圧縮機6より7.9Nm3 /時の水素ガスをオートクレーブに送り40気圧に調節した。オートクレーブを205℃へ昇温し、無水コハク酸80重量%、γ−ブチロラクトン20重量%から成る原料液を375g/時の流量で連続的に供給した。反応液は60℃に冷却後、常圧で気液分離した後、蒸留塔で生成物の水及びγ−ブチロラクトンと触媒液を分離し、触媒液は触媒容器に戻すが、反応開始7日後よりその中の一部の流れとして29g/時の流量で触媒液を抜出し、抜出し触媒容器4に保存した。【0038】抜出した分に相当する29g/時の流量で新触媒容器5から新触媒をオートクレーブに補給した。反応は、30日間連続して行ったが7日目以降安定した成績が得られた。反応液、生成液中の原料、生成物、高沸点物質の定量は、ガスクロマトグラフィー及びGPCにより行った。7日目以降の反応成績は平均して、次の通りであった。【0039】無水コハク酸転化率 99.5%γ−ブチロラクトン 97.5%高沸点物質 2.5%又、抜出し触媒液の組成は下記の通りであった。無水コハク酸+コハク酸 4重量%γ−ブチロラクトン 4重量%トリグライム 65重量%高沸点物質 26重量%Ru濃度 92ppm【0040】参考例2上記参考例1で得られた抜出し触媒液の濃度を以下のようにして行った。抜出し触媒液878.1gを減圧蒸留装置付きのジャケット式反応器に入れ、減圧蒸留により溶媒であるトリグライムを留去した。この時、液温を160℃以下に保つように減圧度を70〜5mmHgの範囲で制御した。溶媒留去後、濃縮触媒液を295.75g得た。質量の濃縮率は33.68%であった。このようにして得られた触媒濃縮液をトリグライムで希釈して、後記条件のガスクロマトグラフィーで分析したところ、トリオクチルホスフィンのピークは観測されなかった。これにより、抽出処理前の濃縮液にはトリオクチルフォスフィンは存在していないことがわかる。【0041】実施例1参考例2で得られた触媒濃縮液115g、0.1N−NaOH水溶液334.56g及びデカン133.82gを撹拌機付き抽出槽に入れ、内温40℃で1時間撹拌した。静置すると、約15分で上からデカン相、水相、デカン及びアルカリ水溶液のいずれにも不溶のオイル相の三相に分液した。この三相を各々分離し、その質量と含有ルテニウム濃度をICP分析により定量し次の結果を得た。【0042】この時のデカン相/水相/オイル相へのルテニウム分配比は、89.77/0/10.23であった。【0043】上記で得られたデカン相10.05gと90%メタノール水溶液10.09gを抽出フラスコに入れ、20℃で10分間撹拌し、次いで静置した後、メタノール水溶液相とデカン相を分液した。この二相を各々分離し、その質量とトリオクチルフォスフィン酸化物(TOPO)含有量を定量し、次の結果を得た。この時のメタノール水溶液相/デカン相へのTOPO分配比は18.4/81.6であった。【0044】実施例2実施例1で得られたデカン相10.02gと95%メタノール水溶液10.00gを用いて抽出処理を行ったこと以外は実施例1と同様にして行い、その結果を下記に示す。この時のメタノール水溶液相/デカン相へのTOPO分配比は33.8/66.2であった。【0045】実施例3実施例1で得られたデカン相10.11gと85%メタノール水溶液10.03gを用いて抽出処理を行ったこと以外は実施例1と同様にして行い、その結果を下記に示す。この時のメタノール水溶液相/デカン相へのTOPO分配比は9.9/90.1であった。【0046】実施例4実施例1で得られたデカン相9.41gと100%メタノール9.42gを用いて抽出処理を行ったこと以外は実施例1と同様にして行い、その結果を下記に示す。この時のメタノール相/デカン相へのTOPO分配比は48.6/51.4であった。【0047】比較例1実施例1で得られたデカン相20.03gと50%メタノール水溶液20.03gを用いて抽出処理を行ったこと以外は実施例1と同様にして行った。その結果、メタノール水溶液相19.87g中のTOPO濃度は0重量%であった。【0048】比較例2実施例1で得られたデカン相20.03gと水20.03gを用いて抽出処理を行ったこと以外は実施例1と同様に行った。その結果、水相19.84g中のTOPO濃度は0重量%であった。【0049】【発明の効果】本発明方法によれば、第三級有機リン系化合物を配位子として有するルテニウム錯体を水素化反応生成液から効率よく且つ経済的に回収することができ、且つ回収したルテニウム錯体を必要に応じて水素化反応に再利用することができる。【図面の簡単な説明】【図1】本発明の一実施態様を示す概略説明図である。【符号の説明】1 気液分離器2 蒸留塔3 触媒容器4 抜出し触媒容器5 新触媒容器6 水素圧縮機7 原料容器8 反応器 第三級有機リン系化合物を配位子として有するルテニウム錯体の存在下に有機カルボニル化合物を水素化して得られる反応液から目的生成物を除去して得た触媒液を、塩基性物質を含む水溶液及び非極性有機溶媒で順次又は同時に又は逆順序で抽出処理し、主として塩基性物質を含有する水溶液相と主としてルテニウム錯体を含有する有機溶媒相とを形成させて相分離し、次いで、得られた該有機溶媒相を低級アルコールで抽出処理し、該有機溶媒相と低級アルコール相とを形成させて相分離し、該有機溶媒相から有機溶媒を留去することを特徴とするルテニウム錯体の分離回収方法。 該触媒液を先ず塩基性物質を含む水溶液で抽出処理し、次いで非極性有機溶媒で抽出処理する請求項1に記載のルテニウム錯体の分離回収方法。 該触媒液を塩基性物質を含む水溶液と非極性有機溶媒との混合物で抽出処理する請求項1に記載のルテニウム錯体の分離回収方法。 低級アルコールとしてメタノールを用いる請求項1ないし3のいずれか1項に記載のルテニウム錯体の分離回収方法。


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