生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_血漿または血清試料の調製方法
出願番号:1996005601
年次:2005
IPC分類:7,G01N33/48,G01N1/10,G01N1/28


特許情報キャッシュ

北島 昌夫 矢沢 建一郎 JP 3664278 特許公報(B2) 20050408 1996005601 19960117 血漿または血清試料の調製方法 富士写真フイルム株式会社 000005201 田中 政浩 100085109 北島 昌夫 矢沢 建一郎 20050622 7 G01N33/48 G01N1/10 G01N1/28 JP G01N33/48 H G01N1/10 H G01N1/28 J 7 G01N 33/48 G01N 1/10 G01N 1/28 2 1997196910 19970731 8 20020910 竹中 靖典 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は全血から血漿または血清試料を調製する方法に関し、特にヘマトクリット値の高い全血から血球を破壊させることなく血漿や血清試料を高い分離率で取得しうる方法に関するものである。【0002】【従来の技術】 血液中の構成成分例えば代謝産物、蛋白質、脂質、電解質、酵素、抗原、抗体などの種類や濃度の測定は通常全血を遠心分離して得られる血漿または血清を検体として行われている。【0003】遠心分離は既に確立された技術ではあるが、検体が微量のときには回収量が少なく、特に小児や小動物を被検者とする場合には必要量の検体を確保することが難しいという問題がある。また、検体のHctが高い時にも分離が困難であった。【0004】【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、全血から血漿を分離する際の大きな障害となる高ヘマトクリット検体、具体的には新生児や、脱水状態にある患者からの全血で記録されることのある、ヘマトクリット値が60〜70%の範囲の全血でも、確実に血漿分離ができる手段を提供することにある。【0005】【課題を解決するための手段】全血からの血漿分離技術の開発における問題点は、以下の3点に要約される。(1) 血漿分離の過程で赤血球の破壊(溶血)を起こさせないこと。赤血球の破壊により、血球内成分、特にHb、GOT、LDH、Kなど血漿中よりも血球内の存在量が血漿中よりも著しく多い成分の血漿中への放出が起こって誤差の原因となり、また、Hbの血漿中への放出により光学的に測光の妨害となる。(2) ヘマトクリット値が高く(50%以上)、赤血球の分離が難しく、且つ、より溶血を起こし易い検体についても確実に血漿分離ができること。ヘマトクリットが高くなると「血液の粘性が」急激に増加する結果分離が著しく難しくなる。(3) 血漿分離の過程で組成の変化が起こらないこと。【0006】本発明者は、上記課題を解決して、高ヘマトクリット値の全血検体であっても溶血を起こさせることなく高い分離率で血漿を分離取得しうる手段を開発するべく鋭意検討の結果、全血検体にヘマトクリット値を低下させることのできる薬剤を特定濃度範囲内になるように添加してから血漿を分離することによりこの目的を達成することができた。【0007】 すなわち、本発明は、全血に、無機塩またはアミノ酸もしくはその塩の水溶液であって浸透圧が血漿より大きい水溶液を、全血の体積の20%以下、かつ、該無機塩またはアミノ酸もしくはその塩の濃度が全血1mlあたり10〜200μmolの濃度となるように混合し、次いで血球成分を遠心分離して回収することを特徴とする、全血から血漿または血清試料の調製方法に関するものである。【0008】【発明の実施の形態】本発明の方法が適用される全血検体は、ヘパリン、NaF、EDTA、モノヨード酢酸などの抗凝固剤や解糖阻止剤などの有無を問わない。本発明の方法が威力を発揮するのは高ヘマトクリット血液であり、ヘマトクリット値が50〜70%特に、55〜70%のものである。【0009】無機塩やアミノ酸やその塩は全血における血球と血漿の分離を促進してヘマトクリットを低下させる作用を有するもの(以下、「HL剤」と称することがある。)である。【0010】無機塩、アミノ酸およびその塩であるHL剤はいずれも水溶性であって溶解度が20℃で100mM以上、好ましくは1M以上、さらに好ましくは3M以上のものが適当である。無機塩の例としては1価または2価のアルカリ金属またはアルカリ土類金属とハロゲン元素、NO3、SO4またはCO3との組合せからなるものを挙げることができる。代表例には、NaCl、CsCl2、Li2SO4、CaCl2、Rb2SO4、Cs2SO4などがある。アミノ酸の例としては天然アミノ酸を挙げることができる。代表例にはGly、Ala、Asp、Glu、グリシンアミドアスパラギンなどがある。無機塩やアミノ酸は水溶液のpHが5〜8、好ましくは6〜7.5になるようにし、そのため、無機塩やアミノ酸塩はNaHCO3のように水素塩であってもよい。また、アミノ酸もAspやGluのような酸性アミノ酸はアルカリ金属やアルカリ土類金属等の塩とし、LysやArgのような塩基性アミノ酸の場合にはハロゲン元素、NO3、SO4、CO3等の塩とすることができる。【0011】HL剤の選択に当たっては、測定目的に対する適合性、すなわち血漿中のどのような成分を測定するかにより、化合物を検討する必要がある。例えば、血中のナトリウムやクロルを測定するしようとする場合にNaClを使用すれば、測定値は大幅にずれてしまうし、無機燐を測定しようとする場合に燐酸塩は使えない。また、測定に使用する試薬の反応性に影響を与える化合物は使えない。例えば、カルシウムの測定の干渉物質となるマグネシウムや鉄、銅、バリウム、亜鉛を含む化合物は、カルシウムを測定しようとする場合には使えない。【0012】上記のHL剤は水溶液として使用される。HL剤の濃度は0.1〜5M程度、好ましくは0.5〜3M程度、さらに好ましくは1〜2.5M程度が適当である。【0013】HL剤水溶液にはHL剤以外の成分も加えておくことができる。例えば、HL剤の乾燥防止を目的としてグリセリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール等を加えても良い。また、pHを調節する目的で緩衝剤を加えても良い。さらに、分析の目的に応じ、濾過血漿中での被検物質の分離を容易にするために各種の化合物を加えることができる。HDLコレステロール測定の分画試薬であるデキストランやリンタングステン酸等、LDLコレステロールとの選択的な結合試薬がその例である。このような成分の他の例として、各種抗原や抗体(修飾を加えたものを含む)など血漿中の特定成分と反応性を有する化合物がある。【0014】HL剤を全血に加えると赤血球膜の柔軟性が失われて変形しにくくなる。通常、全血を濾過しようとすると赤血球の見かけの大きさより十分に小さな空隙、例えば直径1〜2μmのキャピラリーであっても通り抜けてしまうことが知られているが、HL剤を添加することにより赤血球の強度の変形はなくなるので、濾過が非常にし易くなる。【0015】HL剤によるヘマトクリット低下効果は、HL剤を添加する全血中の血漿体積に対するHL剤のモル濃度に比例する。一方、HL剤の濃度が200mmol/l以上になると血球の破壊(溶血)が起こり易くなり赤血球の主成分であるヘモグロビンが血漿中に溶出してくる。そこで、HL剤の全血への添加量はHL剤の濃度が全血1mlあたり10〜200μmol程度、好ましくは10〜100μmol程度、更に好ましくは20〜60μmol程度となるようにする。HL剤水溶液の添加量としては厳密な制限はないが、HL剤の添加量をあまり大きくすると全血の希釈率が大きくなりずきて、秤量誤差を大きくするので好ましくない。また、希釈倍率が高くなると測定感度との関係で、測定時の精度や正確度が問題となる。そこで、HL剤水溶液の添加量は容積比で全血の20%以下、好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下とする。添加量の下限はHL剤水溶液におけるHL剤の溶解度等に応じて決まり、通常1%以上である。このように、HL剤を少量添加するだけで濾過がしやすくなるので、測定法の感度や正確度への影響が少ない。そこで、HL剤水溶液の添加量は容積比で全血の20%以下、好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下とする。添加量の下限はHL剤水溶液におけるHL剤の溶解度等に応じて定まり、通常1%以上である。【0016】HL剤を加えると、HL剤は血漿に溶解して血漿の浸透圧を高める。HL剤の添加により血球内と血漿中での浸透圧の間にギャップが生ずる。この血球内外の浸透圧差を緩和させるような力が働く。すなわち、血球内の水を血漿中に排出し、血球内の浸透圧(すなわち溶質濃度)を高くし、血漿の浸透圧を下げて血球内外の圧力差をなくすような力が働く。その結果、血球の体積は減少し、血漿の体積が増加する。その結果として、ヘマトクリットが低下する。【0017】HL剤の添加により赤血球の体積が減少し、またフリーの血漿量が増えるので、血漿の回収率が向上する。【0018】HL剤によるヘマトクリットの低下は、HL剤の濃度と共に上昇するが、血球膜は強度が弱いので、ある程度以上濃くなると血球は破壊、溶血してしまう。HL剤の作用は主としてその浸透圧に由来するので、全血中(正確には血漿中)の溶質分子数に比例する。HL剤の添加量が多すぎると血球内外の浸透圧差が大きくなりすぎて、血球が破裂したり、血球膜の一部に穴があいて、血球内成分が血漿中に漏出する。【0019】一般に血液検査は血漿中の成分濃度の測定を基本としている。赤血球が破壊したり血球膜の一部に穴があくと、赤血球内成分が血漿中に漏出してしまう。赤血球内には高濃度のHb(ヘモグロビン)が詰まっているので、このような漏出が起こると血漿が赤くなる(溶血という)。赤血球の破壊は僅かであってもHbの漏出による血漿の着色は無視できず、項目によって測定値に強く影響する。例えば、健常者の血液検査において、全血球の0.1%が破壊したとすると、CPK、ALPなど多くの酵素の測定値は正しく測れない。赤血球内には血漿中よりも濃度の高い成分(GOT、GPT、LDH、K)があるのでこれらの項目の測定についても溶血の影響を直接受ける。そこで、血漿の分離、回収に当たっては、溶血ができるだけ少ない条件で実施する必要がある。【0020】健常者の全血中にはおよそ15g/dlのヘモグロビン(Hb)が含まれている。Hbが血漿(血清)中に漏洩(溶血)すると測定値に影響を与える。その程度は測定法、測定項目によって異なる。【0021】例えば、血糖やコレステロールの測定については溶血の影響を受けにくく、150mg/dl程度のHbが血漿中に含まれていても(全体の1%が溶血したことに相当)正しく測定される。【0022】一方、GOT、GPT、LDH、K等は溶血の影響を受け易く、特にLDHやKではHbが15mg/dl(全体の0.1%の溶血に相当)であっても、測定値は臨床診断上有意な影響を受ける。【0023】従って、血糖やコレステロールの測定のみを目的とする場合は、血漿分離法として不十分であっても良いが、GOT、GPT、LDH、K等を含めて正しく測ることを目的とする場合には、0.1%以上の溶血があってはならない。【0024】健常者のHctは40〜45%であるが、日常の臨床検査では数%の頻度でHctが55〜60%を示す検体も扱う必要がある。この場合Hbは20〜25g/dlとなるので、測定法のHbに対する許容範囲を15mg/dlとすると、これらの高Hct検体では0.07%以下の溶血に抑える必要がある。【0025】従来公知の無機塩やアミノ酸およびその塩またはレンチンなどの血球凝集素を乾燥状態で直接血液に溶解させたり、濾紙や多孔質材料に含浸、乾燥させておく方法においては、血液と乾燥固体が接触し、乾燥固体が血漿に溶解する初期の過程で局所的、一時的に溶血を起こし易い。従って、これらの方法で得た血漿は僅かながらHbの混入を伴っていることが多く、血糖やコレステロールの測定には問題がなくても、上記のGOT、GPT、LDH、Kなどの測定には耐えないものであった。この傾向はHctの高い検体ではさらに顕著であった。【0026】これに対して、上記化合物を適当な濃度の水溶液にしてから血液と接触させると局所的な濃度の上昇の程度も少なく、また血漿中の拡散も速やかに進行することから溶血は非常に起こりにくくなる。【0027】全血の使用量は0.3〜3ml程度、通常0.5〜1.5ml程度でよい。全血とHL剤水溶液の混合は単に数回振盪するだけでよい。HL剤の作用は殆ど瞬間的であって数秒のうちに平衡に達すると推定される。従って、混合に際しては温度や時間を特に調節する必要はない。【0028】HL剤を添加後は血液を秤置しあるいは遠心分離して血球成分を分離する。この遠心分離は常法に従って行なうことができる。【0029】遠心分離して得た血漿や血清は常法に従って分析が行なわれるが、本発明の方法は乾式分析素子を用いて複数項目を分析する場合に有効である。【0030】【実施例】実施例1ヘパリン添加全血2mlを1mlづつテストチューブ(No.1、No.2)に分取した。【0031】別に硫酸リチウム(Li2SO4・H2O)(和光純薬製)2.56gを10mlの蒸留水に溶かし、2Mの水溶液を調製した。【0032】No.2のテストチューブに上記2MのLi2SO4・H2O25μlを添加し、軽く転倒混和した。5分間放置後、テストチューブNo.1およびNo.2の全血をヘマトクリット管に採って、遠心分離し、ヘマトクリットを測定した所No.1:44%、No.2:34%であった。またNo.1、No.2のテストチューブ中全血の全量を3000Gで10分間遠心分離し、血漿を分離回収した。日立臨床検査自動分析機(7150)を用いてNo.1、No.2の検体を測定した。その結果は、表1の通りであった。無添加血漿(コントロール)での測定値を100%とした時のLi2SO4添加血漿の測定値の比率を計算し、表1にまとめた。表1に見られるように全項目について90%〜110%の範囲に入っていた。【0033】【表1】【0034】比較例1実施例1の2MLi2SO4水溶液に代えて生理食塩水を全血に加えて、ヘマトクリット(Hct)の低下効果を調べた。ヘパリン添加全血1.5mlに生理的食塩水を加えて混和後ヘマトクリットを測定した。健常者の全血(Hct44%)と高ヘマトクリット全血(54%)の2レベルについて調べた。結果は表2の通りであった。生理食塩水を用いた場合は赤血球の収縮などの作用は起こらないので、Hctの低下の程度は単純希釈を想定して算出した値とほぼ一致した。これらの濃度ではHctの低下効果は見られないことが確かめられた。【0035】【表2】【0036】実施例2実施例1と同様の実験において、ヘマトクリット低下剤としてRb2SO4を用いて実験した。健常者のヘパリン添加全血(Hct 44%)1.5ml=1MのRb2SO4水溶液60μlを添加した。Rb2SO4の添加後の濃度は全血1ml当たり38mmolであった。混和後Hctを測定したところ36%に低下していた。Rb2SO4添加前後の全血を遠心分離し、血漿を回収して日立7150自動分析機にて測定した。【0037】ヘマトクリットの低下率(14%)に合わせて補正係数を設定して計算をし直した。赤血球膜を自由に通過できる低分子化合物であるGLUおよびBUNについての補正係数はヘマトクリット剤の添加に基づく希釈分のみの補正(0.95)とし、その他の項目は0.85として計算した。結果は、表3の通りであった。測定した19項目の内測定値が僅かの差(0.04)でも誤差率が高く算出されるTBil(92%)を除く18項目について、コントロール(無添加)とヘマトクリット添加サンプルの補正後の差は、±5%以内であり実用上問題のない範囲にあることが確かめられた。【0038】【表3】【0039】【発明の効果】本発明により全血からの血漿分離の効率を上げ回収血漿量を増やすことができる。また、ヘマトクリットが低下し、血漿の量が増加する結果、遠心による血漿の分離が容易になる。添加する試薬を適切に選択することにより、分離回収した血漿を検体として全ての血漿成分の定量的な測定が可能である。 全血に、無機塩またはアミノ酸もしくはその塩の水溶液であって浸透圧が血漿より大きい水溶液を、全血の体積の20%以下、かつ、該無機塩またはアミノ酸もしくはその塩の濃度が全血1mlあたり10〜200μmolの濃度となるように混合し、次いで血球成分を遠心分離して回収することを特徴とする、全血から血漿または血清試料を調製する方法。 請求項1において、該無機塩またはアミノ酸もしくはその塩の水溶液の濃度が0.1〜5Mであることを特徴とする、全血から血漿または血清試料を調製する方法。


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