生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_化学的去勢方法
出願番号:1995523614
年次:2007
IPC分類:A61K 31/19,A01K 67/02,A61K 31/315,A61P 15/16


特許情報キャッシュ

ファヒーム、モスタファ・エス JP 3974649 特許公報(B2) 20070622 1995523614 19950307 化学的去勢方法 ファヒーム、ズハル 大島 陽一 ファヒーム、モスタファ・エス US 08/206,469 19940307 20070912 A61K 31/19 20060101AFI20070823BHJP A01K 67/02 20060101ALI20070823BHJP A61K 31/315 20060101ALI20070823BHJP A61P 15/16 20060101ALI20070823BHJP JPA61K31/19A01K67/02A61K31/315A61P15/16 A61K A61K CA(STN) 米国特許第05071358(US,A) 米国特許第05070080(US,A) 特開昭52−117439(JP,A) 米国特許第04610877(US,A) 5 US1995002875 19950307 WO1995024204 19950914 1998508002 19980804 17 20020305 渕野 留香 産業上の利用分野本発明は、雄豚の肉にある不快な臭い、すなわち“ボアテイント(boar taint)”を除去しつつ、去勢しない豚と比べてより大きく、脂肪の少ない豚が生産されるように雄豚を化学的に去勢する方法に関する。本発明はより人道的であり、睾丸切除による去勢(knife castration)における副作用(例えば、出血、ヘルニア、感染症など。時には死に至らしめることも含む。)がない。発明の背景ほとんどの家畜種に於いて、去勢されないものの方が、去勢されたものより、ほとんどの食肉としての特性に於いてより優れており、効率もよいことが文献で報告されている。豚においては、WoodとRiley(1982)及びHinesら(1969)によって、去勢した豚よりも去勢しない豚において、より効率よく餌が肉に変換されることが発見されている。また、Kuhlersら(1976)によって、去勢しない豚の方が、同じ重さの去勢された豚に比べて、背脂(backfat)が少なく、ロインアイ(loin eye)領域が広いことが報告されている。このため、いくつかのヨーロッパの国(例えば、英国、アイルランド、及びスペイン)では、ほとんどの食用豚は非去勢雄となっている(Walstra、1984)。しかしながら、このような明らかな利点とともに、雄豚を生産することには問題点もあり、去勢方法の発展を促している。雄豚を食肉用に飼育することに関する経済的に最も重要な問題は、調理時の雄豚の肉にある不快な臭い、すなわち“ボアテイント”である。研究によっては、市場に出ている雄豚の肉の5乃至35パーセントが、消費者にとって不快なレベルの臭いを有すると提言しているものもある(Malmfors及びLundstrom、1983)。去勢しない雄豚を飼育することに関し更に考慮すべきこととして、攻撃的行動の増加、病気にかかる豚の割合の増加、施設に対する要件、性別に分けた給餌、飼育する人間の危険の増大などがある。上述したように、雄豚を去勢せずに食肉用に生産することの主要な経済的欠点は、ボアテイントにある。この不快な臭いは、Lerche(1936)によって最初に研究され、春季発動機の始まりとともに現れ、その後の去勢によって消えることが示されている。Patterson(1968)は、クロマトグラフィ質量分析法を用いて、5α−アンドロスト−16−エン−3−オン(5-alpha-androst-16-en-3-one)即ちアンドロステノン(androstenone)を、この臭いの主要成分として単離した。この発見はすぐに追試され、5α−アンドロスト−16−エン−3α−オール(5-alpha-androst-16-en-3-alpha-o1)及び5α−アンドロスト−16−エン−3β−オール(5-alpha-androst-16-en-3-beta-ol)が副因として同定された(Beery及びSink、1971;Berryら、1971)。同じ頃、かなり異質の化合物であるスカトール(強い糞便臭を有する)が相乗的に働き、アンドロステノンの悪臭を強めることが発見されている(Vold、1970;Walstra及びMaarse、1970)。スカトールとアンドロステノンは、その生成に関して、まず無関係である。アンドロステノン及び雄豚の脂肪中にみられる他の16のアンドロステン(androstene)は、プレグネノロン(pregnenolone)とともに前駆体として睾丸(精巣)で生成される(Brooks及びPearson、1989)。これらの化合物は、精巣静脈を介して血中に放出され、脂肪内に貯えられる(Bonneau及びTerqui、1982)。5α−アンドロスト−16−エン−3−オン構造は最も親油性が高いため、主要な蓄積形態であり、従って、ボアテイントの原因となる主成分である(Claus、1979)。性夢的な刺激をうけたとき、これらのステロイドは血流中に再放出され、顎下腺へ送られて唾液中に分泌され、重要なフェロモンとして使用され得る(Gower、1972;Claus、1979)。この蓄積過程は時間の経過とともに可逆的でもあることは明らかである。なぜなら、年取った雄を去勢すると、脂肪組織中のステロイド濃度が低下するからである(Claus、1976)。雄豚の脂肪中のアンドロステノンの濃度は広い範囲にばらつき、年齢、体重、遺伝的性質、及び性的成熟の段階によって影響される(Jonsson及びAndresen、1979;Bonneau、1980;Willeke、1984)。この文献にはやや矛盾もあるが、アンドロステノン濃度は、飼育環境や性的刺激に曝される程度などの外部の刺激に影響されやすい。一般に、アンドロステノンの生成量は、豚が約70kgまたは生後約4ヶ月に達するとゆっくりと増加し始める(Bonneau、1981)。また、脂肪中に不快な臭いが生じる率が最も高いのは、95kg以上の生後5ヶ月を超えた豚であることが知られている(Walstra、1984)。ボアテイントの主要な要因として単離された別の成分にスカトールがある。スカトールは、豚の後腸内の乳酸桿菌がトリプトファンを分解するとき生成される(Yokoyama及びCarlson、1979)。スカトール濃度は食餌によって幾分か変えることができるが、通常、雄豚ではしきい値(0.20ppm)を超えている。しかしながら、去勢された豚や雌豚の脂肪では、腸内のミクロフローラ(microflora)には性による差は少ししかないにも関わらず、このような値に達することは希である(Mortensenら、1986)。このことは、スカトールの吸収速度または吸収されたスカトールの蓄積及び分解速度に対するホルモン的な影響を示唆している(Lundstromら、1988)。雄豚の臭いに関する官能パネル試験結果と、実験室における雄豚脂肪内のアンドロステノン及びスカトール濃度に対する分析結果との間には、やや高い相関乃至高い相関がみられることが報告されている。Lundstromら(1988)は、雄豚の臭いの官能パネル試験結果とアンドロステノン濃度との間にr=0.53の相関があり、同じ官能パネル試験結果とスカトール濃度との間にはそれより少し高い相関(r=0.65)があったと報告している。また、スカトール濃度とアンドロステノン濃度との間には、より低い相関(r=0.32)が報告されている。Hanssonら(1980)の報告によると、アンドロステノンを単独で用いることによる、雄豚の臭いに対する決定係数(coefficient of determinaion)は30パーセントであるが、スカトール値がモデルに加えられると、r−スクエアド値(r-squared value)0.5が得られている。これらの化合物が両方とも雄豚の臭いの程度を決定するのに重要であることは間違いなく、それらが相互作用している確率は非常に高い。歴史的にみると、ほとんどの養豚業者は、ボアテイントに対処するため外科的な去勢を行ってきた。これは、比較的簡単で、安価で、非常に効果があるが、完全な対処法ではない。豚の睾丸には血管が集まり、神経が詰まっているため、豚は通常幼年期に去勢され、睾丸切除による去勢は成熟した雄豚にはなされない。また、成長及び肉質の低下以外に、外科的な去勢には別の危険がある。即ち、感染症、重度のヘルニア、手術中または他の豚によって再度傷が開くことによる大量出血のための発育阻害または死などである。外科的な去勢にともなうこれらの問題を克服すべく、近年、別の方法が試されている。例えば、移植によってまたは食餌を通じて、雄豚をプロゲストーゲン(progestagen)により処置することが行われている(Bergerら、1981;Kluberら、1988)。ボアテイントの原因となる化合物の一つに対し雄豚に免疫を持たせることも試されている(Williamsonら、1985;Brooksら、1986)。これらの方法は両方とも問題がある。即ち、ホルモンによる処置は数回繰り返さなければならず、ある文化圏では食用の豚として許容されない。免疫を持たせる方法は、全ての動物で同じように効果があるとは限らず、交差反応する抗体が誘発され望ましくない副作用が生じる危険がある。外科的な去勢、ホルモンによる去勢、及び免疫を持たせることによる去勢には、このような問題があるため、好ましくは成長や屠肉(carcass)の質に影響を与えることなく、ボアテイントを抑制することのできる改善された去勢方法が望まれている。本発明は化学的な去勢方法に関し、このような目的を達成するものである。化学的去勢には2つの方法がある。一つは、雄の精管に硬化剤を注入し、管を閉鎖して精液の輸送を阻止し、その雄を生殖不能にする方法である。このタイプの化学的去勢は生殖を不能にはするが、ボアテイントや雄の攻撃性の要因となるテストステロン及び他の睾丸のステロイドの生成を減少させることはない。この目的に効果のある化合物は数多く示されており、例えば、10パーセントの硝酸銀または3パーセントのホルマリン(Pinedaら、1976)、95パーセントのエタノール(Freeman及びCoffee、1973)、ドンドレン(dondren)(Bierschwal及びEbert、1961)及びキナクリン(Malaviyaら、1974)がある。化学的去勢の第2のタイプであり、本発明において採用されているタイプは、組織の変異及びそれによる睾丸機能の低下に効果のある化学物質を含む。観測される効果は、注入される化学物質及びその濃度、種、動物の成熟度などに依存する。Fahimに付与された米国特許第4,156,427号及び第4,339,439号明細書には、タンニン酸亜鉛(zinc tannate)を生殖機能を衰えさせる化学物質として使用することが開示されている。出願人の初期のデータは、タンニン酸亜鉛を注射された性的に成熟したホルツマン(Holzman)系統のラットに関して集められている。タンニン酸亜鉛は牛に対しても試されているが、歩行障害を生じる結果となっている。運動障害の程度は投与量に依存しているようには見えず、投与後2乃至3日内に消えている。食欲の減退、消費した餌量の減少は報告されていない。しかしながら、豚に対して、特に乳児期の豚に対して、タンニン酸亜鉛は神経毒性があり、睾丸に注射されると痙攣を引き起こし、筋肉の協調作用を失わせ、時には死にいたらしめることもあることを出願人は発見した。タンニン酸亜鉛、乳酸その他の酸性化合物を注射すると歩行障害の問題があるため、出願人は、障害を生じることなく注射することのできる中性の生殖機能減退化学物質を開発した。Fahimに付与された米国特許第5,070,080号明細書には、グルコン酸塩鉱物(mineral gluconate)及びアミノ酸(典型的な例としては、ジンクアルギナート(zinc arginate)がある)の中性化溶液の使用が開示されている。しかしながら、ジンクアルギナートを豚に注射するとその豚は去勢されるが、ボアテイントは低減されなかった(以下の例1を参照方)。そこで、他の亜鉛塩を試してみたところ、酢酸塩鉱物(mineral acetate)は神経毒性がなく、且つ適量を投与することによって、成長や肉質を損なうことなく、ボアテイントが除去されるよう豚を化学的に去勢できることができることがわかった。発明の要約上記したように、本発明の目的は、豚肉にある不快な臭い、即ち“ボアテイント”を除去しつつ、去勢されない豚と比べてより大きく脂肪の少ない豚が生産されるように、雄豚を化学的に去勢することである。広く産業に適用された場合、このような効率の改善及び脂肪分の少ない組織の割合の増大は、食肉の供給に大きな影響をもたらすものと思われる。また、別の目的として、雄豚の去勢を大きな障害を与えることなく人道的に行い、どの年齢及び発達段階に於いても実行可能とすることがある。本発明の他の目的及び特徴は後に詳述される。本発明によると、テストステロンの生成を調整するとともに、テストステロンのアンドロステノンへの酵素による変換を妨げるように、雄豚を化学的に去勢する方法が開示される。この方法は、酢酸亜鉛や酢酸カルシウムのような酢酸塩鉱物の溶液を、豚の血清テストステロン濃度を非去勢豚の血清テストステロン濃度より低下させるのに効果がある量だけ各睾丸または副睾丸に注射する過程を含む。このように化学的に去勢された豚の成長及び肉質は、非去勢豚と比べて同程度、或いはより優れており、ボアテイントも軽減される。上記に要約した本発明は以下に述べる方法を含むものであり、本発明の範囲は添付の請求の範囲に示される。発明の詳細な説明本発明に於いては、酢酸塩鉱物溶液の雄豚の睾丸及び副睾丸への注射によって、テストステロンの生成が調整され、且つ酵素によるテストステロンのアンドロステノンへの変換が阻害されるように、睾丸の機能に変化が生じる。他の亜鉛塩(例えば、ジンクアルギナート)には、豚を化学的に去勢することはできるが、アンドロステノンの生成を抑制しボアテイントを低減する効果はないものがある。タンニン酸亜鉛のような物質は豚に対し神経毒性を有し、痙攣を引き起こし、歩行障害などを生じさせる。本方法は、生後1日の子豚から年取った豚までどの発達段階でも使用することができ、睾丸機能の阻害程度は、完全な機能除去(即ち、切断による去勢と同様)から若干の機能低下まで、投与量、睾丸の大きさ、及び豚の年齢に応じて可変である。本方法を性的に未成熟の豚に適用する場合、幾分か睾丸機能を残しておくと、睾丸でいくらかテストステロンが生成されることにより同化成長が促進されるという利点がある。この目的のため、血清テストステロン濃度を、去勢しない豚の約70%乃至約90%、より好ましくは約75%乃至約85%に減少させるのに十分な酢酸塩鉱物を注射することが好ましい。このような濃度では、テストステロンは同化成長を促進するには十分であり、副睾丸及び他の副腺の発達を効果的に刺激するには十分でない。この程度に酢酸塩鉱物を注射することにより、酵素によるテストステロンのアンドロステノンへの変換も阻害され、ボアテイントも抑えられる。この効果には更に同化成長を促す傾向もあるが、それは睾丸によって生成されるテストステロンは、いくらかでも血清中に入れば、成長を促進し、肉質に影響を与えるからである。本発明は、性的成熟の境目にある豚(即ち、生後約4ヶ月乃至4ヶ月半または約70kgの豚)に使用することができる。そのような豚は睾丸切除による去勢は危険であり、本発明により去勢しない場合は、ボアテイントが強まるのを防ぐため屠殺に送らなければならない。性的にほぼ成熟した豚を酢酸塩鉱物で処置する場合、その豚はより一層大きく成長することが可能であり、ボアテイントが強まることもない。または、より少ない投与量で、ある地域では許容可能な程度のボアテイントとしてもよい。より年を取ったまたは完全に成長した豚(即ち、体重120kg以上の豚)であっても、酢酸塩鉱物を注射することによって、完全にまたはボアテイントを許容可能なレベルまで下げるのに必要な程度に去勢することができる。一般に、血清テストステロン濃度を去勢されない豚より約20%以上低くすることが好ましい。豚に予防接種をするとき、または他の豚を取り扱う機会に注射をすることができるため、養豚業者は従来の合理的な管理手順をわずかに変更するだけで、経営費用を増加することなく、本発明を使用することができる。幼年期に睾丸切除するのになれている養豚業者は、本発明を子豚に使用することができる。また、本発明は、去勢を行わず生後4ヶ月乃至4ヶ月半になったとき豚を屠殺に送っている養豚業者も使用可能である。更に本発明は、外科的な去勢が危険すぎる年取った雄豚に使用することもできる。本方法は、乳児期の豚及び性的に未成熟の豚に対して、成長を促進することまたは生長期間を伸ばすことにより肉の生産量を増やすのに用いることができる。また、本発明を年取った豚に対して使用して、そのままでは人の食用に合わないであろうと思われる肉を、食用に合うように改質することもできる。本発明で使用するのに適した酢酸塩鉱物には、酢酸亜鉛及び酢酸カルシウムが含まれる。血清テストステロンレベルを許容レベル(例えば、去勢されない豚より約20%低いレベル)に減少させるのに必要な酢酸塩鉱物の量は、注射を行うときの豚の体重及び性的成熟度に依存する。他の因子として、睾丸の大きさ、品種(即ち、遺伝的性質)などがある。単に例として示すのであるが、生後2週間のヨークシア豚では、血清テストステロン濃度を去勢しない豚の70%以上低下させるのに、各睾丸に対し50乃至100mgの投与量で十分であった。豚の睾丸は発育の初期段階で急速に大きくなるため、生後4ヶ月乃至4ヶ月半までには、血清テストステロン濃度を去勢しない豚の70%以上低下させるのに、200乃至500mgの投与量が必要となり得る。より年取った豚またはより睾丸の大きな豚に対しては、肉のボアテイントを低減するべく屠殺に送る数週間前に注射を行うとして、望まれる効果(例えば、20%の血清中濃度減少から完全な去勢まで)に応じ1,000乃至2,500mg程度の投与量が必要となり得る。まとめると、投与量は豚の睾丸の大きさ、性的成熟度、及び望まれる効果に合わせなければならない。酢酸塩鉱物は溶液(好ましくは水溶液)として、睾丸が破裂しない程度の量で注入されるべきである。これは、例えば酢酸塩鉱物の濃度が約5乃至約30重量%のとき達成される。この程度の量の酢酸塩鉱物を有する溶液のpHは約6乃至6.8の範囲にあり、著しい膨張を引き起こすことなく睾丸または副睾丸に注入することができ、豚に不快を感じさせることもない。溶液には、薬事的及び生理的に許容できる殺菌剤、安定剤などが干渉しない程度の量だけ含まれていてもよい。それらは注射される成分に広く使用されているものである。特に好ましい注射装置は、カリフォルニア州サンタアナの“Horizon Medical Inc.”によって“UNIJECT”という商品名で販売されている。プラスチック製の容器を予め酢酸塩鉱物溶液で充填し、使い捨て用注射針に取り付ける。感染の危険を低減するべく一つの睾丸に対し一つの注射器を用いるとして、各豚に対し2つの注射器が必要であるが、各豚ごとに、好ましくは睾丸ごとに注射針を適切に消毒すれば、再使用可能な注射器を用いてもよい。豚の睾丸への酢酸塩鉱物の注射により、睾丸機能に以下に挙げる効果のうち一乃至複数が生じる:(a)精細管の萎縮、(b)瘢痕組織の形成及び精巣網の萎縮、(c)副睾丸の頭部及び体部の螺旋管(coils)の萎縮、(d)ライディッヒ細胞の萎縮及びその結果としてのテストステロンホルモンの大幅な減少、(e)精嚢、前立腺、及びカウパー腺の萎縮、(f)睾丸内の血液の微小循環の減少及びそれによる睾丸組織への血液供給の減少。上述したように、効果の程度は、投与量、豚の性的成熟度などに依存する。本発明の効果を以下の例に示す。ただし、例1は比較のために行ったものであり、本発明の効果を示すものではない。例196匹のヨークシア種の雄豚を用いて、ジンクアルギニン(zinc-arginine)錯体を睾丸内注射することによる化学的去勢効果を測定した。生後4週間の豚を無作為に4つのグループに分けた。即ち、去勢されない比較対象グループ(IM)、0.5mlの溶液として50mg注射するグループ(50I)、1.0mlの溶液として100mg注射するグループ(100I)、及び睾丸を切除するグループ(KC)に分けた。注射するときには、まずイソプロピルアルコールで注射部位を完全に消毒した。続いて1/2インチ、26ゲージの針を睾丸の背側端(dorsal end)付近に刺し、睾丸の長さの約半分だけ挿入した。これによって、化合物を睾丸のできるだけ中心に注入することができる。溶液を注入しているとき、触ってみると睾丸が若干膨張することがわかる。豚は全て雌豚のもとに返した。豚は生後約6週間で離乳させ、6週間与えて十分な大きさに成長させ、最終施設に入れてゲインテスト(gain test)を行った。生後約12週間にて、豚の体重を量り、最初の血液サンプルを取った。血液採取のため各グループから半分の豚を無作為に抽出した。全ての豚の体重を第22週めまで2週間毎に測定し、血液サンプルは適当な個体から頚部穿刺(jugular puncture)を用いて得た。血液サンプルはしばらく氷上に置いた後、遠心分離して血漿部分を分離し、後のテストステロン解析のため冷凍した。豚は、生後10週間から市場に出せる重さになるまで、8匹用の畜舎内で飼育した。即ち、各畜舎に各グループから2匹ずつを割り当てた。また、生後14週間から、2週間毎の血液サンプル採取を行った。屠殺時(104±11.4kg)には、睾丸及び副睾丸の重量測定も行った。肉のデータを収集し、脂肪サンプルを官能試験用に冷凍保存した。IM、50I、100Iのそれぞれに対する睾丸の総重量(548.8、488.7及び408.7g)及び副睾丸の重量(115.0、91.2及び79.1g)は、投薬量に対して線形に減少する結果を示した(P<0.05)。比較対象の豚及び化学物質で処置した豚は、睾丸を切除した豚と比べて、背脂が平均的に少なく(36.1、34.0、36,3及び42.7mm)、第10リブの脂肪深さが浅く(35.8、32.5、35.6及び46.2mm)、ロンギシウム領域(longissium area:LA)が広く(27.5、28.0、27.5及び23.8cm2)、より長く(79.5、80.0、79.2及び77.0cm)、枝肉として得られた割合が低かった(71.7、71.0、71.3及び73.0)(P<0.05)。また、50Iの豚のほうが100Iの豚より背脂が少なかった(P<0.05)。血清テストステロン濃度は、生後22週間において、100Iの豚の方がIMの豚より低かった(P<0.05)。また、生後20週間に於いて、100Iと他のグループとの間にテストステロン値がより低くなる傾向があった(P<0.10)。官能パネル試験による臭い評価では、睾丸除去したもののサンプルが、他のグループより低い平均値を示し(4.7、6.0、5.7及び3.1)、IMの値も50I及び100Iの値よりかなり低かった(P<0.05)。従って、ジンクアルギニンによる処置によって、血清テストステロンは低下したが、ボアテイントは増加する結果となった。例2生後15日のヨークシア種の雄豚24匹を、以下の4つのグループに分けた。各グループに同腹子が入るようにした。グループ1:比較対象グループ2:去勢グループ3:一睾丸当たり50.16mgの酢酸亜鉛を含む溶液0.3mlを注射グループ4:一睾丸当たり75.24mgの酢酸亜鉛を含む溶液0.3mlを注射研究の結果得られたデータを以下の表に示す。表1に示すように、研究の第0日(Day 0)に於いては体重に有為な差はなく、研究終了時(注射後5ヶ月)には一睾丸当たり酢酸亜鉛75.24mgを注射したグループの豚において、比較対象グループ、去勢グループ、及び一睾丸当たり酢酸亜鉛50.16mgを注射したグループの豚に比べ、よりよい成長が見られた。生殖器の重さは、表2のデータに示すように、大幅に減少した。これは、比較対象豚91−3と75.24mgの酢酸亜鉛を注射した豚95−9から得られた生殖器の写真によっても示される。表3乃至表6に示すように、生殖器の重さの減少は、血清テストステロン濃度の減少と一致している。表7は、比較対象グループに対しパーセントで表した血清テストステロン濃度の変化が、去勢されたグループでは−99.24、酢酸亜鉛50.16mg注射グループでは−50.89、及び番号91−4の豚を含めて計算した場合−74.60、含まずに計算した場合−87.94となったことを示している。(番号91−4の豚では、誤って睾丸より陰嚢のほうに注射されため、酢酸亜鉛があまり効果を発揮しなかった。)例3例2に於いて、50.16mgの酢酸亜鉛で処置した豚及び75.24mgの酢酸亜鉛で処置した豚の成長速度がより優れていたことは、研究後に豚を屠殺したとき確認された。酢酸亜鉛で処置した豚は、去勢した豚より脂肪が少なく、ロイン(loin)領域は酢酸亜鉛75.24mgで処置したグループに於いて最も値が高い結果となり、良質の肉が増えたことが示された。肉質に関するデータを以下の表に示す。例4例2で述べたグループから背脂と葉状脂肪(leaf fat)のサンプルを採取し、冷凍した。比較対象グループ及び去勢グループの豚から得られた背脂サンプルを用いて、ボアテイントに対する感度について、官能試験員(panelist)候補を選別した。10人の感覚の鋭い試験員によって全ての評価を2度行った。セッションは8回であり、各試験員に6つのサンプルを(無作為の順に)渡し、5分の休みを置いた。続いて、各試験員に更に6つのサンプルを渡した。(このときも同様に無作為の順に渡した。これらのサンプルは、前回の6つのサンプルと同じものである。)試験員は指示されて、サンプル容器のふたを持ち上げ、サンプル上部の上部開口から臭いを嗅ぎ、知覚されたボアテイントの強度を評価した。その後、試験員はふたを戻し、サンプルと評価結果を実験者に渡した。次のサンプルの試験は少なくとも30秒間待って行った。臭いを嗅ぐのに先立って、冷凍したサンプルを1/4インチの立方体にカットし、小さいプラスチック製のペトリ皿にのせ、ふたで覆ってフリーザに戻した。セッション当日、これらのサンプルをフリーザから取り出し、融解可能とした。大気温度は約20℃であった。サンプルを回転式トレーを備えた同一のTappan900ワット電子レンジで加熱した。各試験員に対し、サンプルは試験員がブースに着席してから加熱するようにした。一つのサンプル(ペトリ皿)を電子レンジに入れるときには、1乃至1/2カップだけ水の入った容器とともに入れた。この水は、サンプルがかなり小さくあまりマイクロ波を吸収しないため、電子レンジが過熱しないように使用した。水はそのままでは沸騰してしまうので、頻繁に交換した。サンプルは最高出力で120秒間加熱した。その後サンプルを速やかに試験員に渡した。実験者は、サンプルが部分的に溶けていることを確認してから試験員にサンプルを渡した。サンプルにはボアテイントに関し1乃至10の点をつけた。その結果を以下の表に示す。例5脂肪のサンプルを例2で述べたグループから採取し、1984年9月9日〜16日の間ブリストル(Bristol)で開かれた“第30回食肉研究者ヨーロッパ会議(the 30th European Meeting of Meat Research Workers)”において“Danish Meat Research Institute”のA.B.MortensenとS.E.Sorensenによって提案された方法によって、スカトールに関して分光測定解析した。その結果を以下の表に示す。上記に示したように、本発明の目的は達成され、他の有益な結果も得られていることは明らかであろう。本発明の範囲を逸脱することなく様々な変更を行うことが可能であり、上述した説明は例示として解釈されるべきであり、限定的に解釈されるべきではない。引用文献Beery, K. E. and J. D. Sink. 1971.豚組織からの3α−ヒドロキシ−5α−アンドロスト−16−エン−及び5α−アンドロスト−16−エン−3−オンの単離及び同定(Isolation and identification of 3alpha-hydroxy-5alpha-androst-16-ene- and 5alpha-androst-16-en-3-one from porcine tissue)J. Endocrinol. 51:223.Beery, K. E., J. D. Sink, S. Patton and J. H. Ziegler. 1971.雄豚の脂肪の揮発性物質における性臭(SSO)成分の特徴(Characterization of the swine sex odor(SSO)components in boar fat volatiles)J. Food. Sci. 36:1086.Berger, T., K. L. Esbenshade, M. A. Diekman, T. Hogland and J. Tuite. 1981.思春期前にゼアラレノンを消費することの雄豚の性的発達に対する影響(Influence of prepubertal consumption of zearalenone on sexual development of boars)J Anim. Sci. 53:1559.Bierschwal, C. J. and E. F. Ebert. 1961.硬化療法剤の臨床的応用(Clinical applications of a sclerotherapeutic agent)Vet Med. 56:323.Bonneau, M. 1981.ボアテイントの内分泌学的及び物質的特性(Endocrinological and physical aspects of boar taint)Conference Report On Boar Taint, 1981, Zeist. Livest. Prod. Sci. 8:573.Bonneau, M. and M. 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Nutr. 32:173. 豚の屠体におけるボアテイントを減少させつつ、去勢しない豚と同程度またはそれ以上に同化成長を促進するように豚を化学的に去勢する方法であって、酢酸亜鉛を含む溶液を、前記豚の血清テストステロン濃度を去勢しない豚の血清テストステロン濃度より低下させるのに効果がある量だけ各睾丸または副睾丸に注射する過程を含むことを特徴とする豚の化学的去勢方法。 前記血清テストステロン濃度を、去勢しない豚の血清テストステロン濃度より20%以上低下させることを特徴とする請求項1に記載の豚の化学的去勢方法。 前記血清テストステロン濃度を、去勢しない豚の血清テストステロン濃度より70%乃至90%低下させることを特徴とする請求項1に記載の豚の化学的去勢方法。 前記溶液のpHが6乃至6.8の範囲にあることを特徴とする請求項3に記載の豚の化学的去勢方法。 睾丸の大きさ、豚の性的成熟度及び望まれる効果に応じて50乃至2,500mgの酢酸亜鉛を各睾丸に注射することを特徴とする請求項3に記載の豚の化学的去勢方法。


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