タイトル: | 特許公報(B2)_L−アスパラギン酸の製造方法 |
出願番号: | 1995327072 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,C12P13/20,C07C227/42,C07C229/24 |
森 義昭 加藤 尚樹 渡辺 尚之 藤井 静司 JP 3704770 特許公報(B2) 20050805 1995327072 19951215 L−アスパラギン酸の製造方法 三菱化学株式会社 000005968 長谷川 曉司 100103997 森 義昭 加藤 尚樹 渡辺 尚之 藤井 静司 20051012 7 C12P13/20 C07C227/42 C07C229/24 JP C12P13/20 C07C227/42 C07C229/24 7 C12P 13/20 C07C227/42 C07C229/24 BIOSIS(DIALOG) CA(STN) WPIDS(STN) 特開平7−308195(JP,A) 特許第2765537(JP,B2) 6 1997163994 19970624 11 20020206 内藤 伸一 【0001】【発明の属する技術分野】本発明はL−アスパラギン酸の製造方法に関するものであり、詳しくは、マレイン酸及び/又は無水マレイン酸を原料とし、酵素作用によりL−アスパラギン酸を製造するための工業的有利なプロセスに関するものである。【0002】【従来の技術】L−アスパラギン酸は医薬、食品添加物として需要が増加している。また新たな用途開発も検討されているが、現在のところ、経済的に優れた工業的プロセスは確立されていない。従って、安価な製造コストで大量生産が可能となれば、L−アスパラギン酸の需要は急増するものと予想される。従来、L−アスパラギン酸の製造法としては、フマル酸を原料とし、アンモニアの存在下、アスパルターゼ又はこれを産生する微生物の作用によりL−アスパラギン酸を酵素法により得るという方法が知られている。しかしながら、従来法は、酵素処理後のL−アスパラギン酸アンモニウムを硫酸又は塩酸により酸析するため、経済的価値の低い無機酸アンモニウム塩を大量に副生し、結果的にL−アスパラギン酸の製造コストを高めることとなる。【0003】一方、酵素処理後のL−アスパラギン酸アンモニウムをマレイン酸又は無水マレイン酸により酸析し、L−アスパラギン酸結晶を回収した後のマレイン酸アンモニウムを含む母液を原料として利用する方法が提案されている(EP127,940)。この方法によれば、原料として大量に入手が容易で、しかも、安価な無水マレイン酸を用いるので、安定した連続操作により所望のL−アスパラギン酸を得ることができれば工業的に非常に望ましい方法となり得る。しかし、上記特許方法の場合、L−アスパラギン酸アンモニウムの晶析に当り、大量のマレイン酸を添加しないとL−アスパラギン酸結晶の回収率を高めることができない。従って、晶析工程で添加するマレイン酸の量は、晶析すべきL−アスパラギン酸の量を超える条件となる。そのため、晶析後のマレイン酸アンモニウムを含む母液を反応系にリサイクル使用すると、次第に、系内のL−アスパラギン酸濃度が上昇することとなり、安定した連続操作を継続的に行なうことができない。要するに、上記特許方法では、工業的な連続操作は不可能である。【0004】【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、L−アスパラギン酸アンモニウム水溶液から、L−アスパラギン酸を効率よく沈殿回収すると共に、酸析後に得られるマレイン酸アンモニウムおよび蒸留により得られるアンモニアを系内で循環使用してもバランスのとれた安定した連続操作が可能なL−アスパラギン酸製造プロセスを提供することにある。【0005】【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、酵素処理により得られたL−アスパラギン酸アンモニウムを脱アンモニア処理することで実質的全てをモノアンモニウム塩とした後、これをマレイン酸を用いて酸析すること及び脱アンモニア処理から排出されるアンモニアを水で吸収することにより、反応原料として再使用することが可能となり、工業的有利なバランスのとれたプロセスが得られることを見い出した。【0006】すなわち、本発明の要旨は、マレイン酸アンモニウム水溶液を原料とし、異性化反応及びアンモニアの存在下でのアスパルターゼ又はアスパルターゼを産出する微生物による酵素処理によりL−アスパラギン酸アンモニウム水溶液を得、次いで、得られた水溶液を酸析し、アスパラギン酸結晶を析出させ、これを分離回収するL−アスパラギン酸の製法において、(1)酵素処理後のL−アスパラギン酸アンモニウム水溶液を蒸留することにより、脱アンモニアし、L−アスパラギン酸アンモニウムの実質的全てをモノアンモニウム塩とすること、(2)前記酸析の酸析剤として、マレイン酸及び/又は無水マレイン酸を使用すること、(3)酸析後のマレイン酸モノアンモニウムを含有する母液を前記原料として使用すること、(4)前記蒸留工程で塔頂より留出するアンモニア含有ガスを水で吸収し、得られるアンモニア水溶液を前記酵素処理工程又は異性化反応工程に供給すること、を特徴とするL−アスパラギン酸の製法に存する。【発明の実施の形態】以下、本発明の各工程につき詳細に説明する。【0007】(反応工程)本発明では、マレイン酸モノアンモニウムを含む水溶液からL−アスパラギン酸アンモニウムを製造する。この反応はマレイン酸アンモニウムをフマル酸アンモニウムに異性化した後、これを酵素処理してアスパラギン酸アンモニウムを生成させる2段反応法、又は、マレイン酸アンモニウムの異性化とアスパラギン酸アンモニウムの生成とを同時に行なう1段反応法のいずれでもよい。マレイン酸アンモニウムをフマル酸アンモニウムに異性化する反応及びフマル酸アンモニウムをアスパラギン酸アンモニウムに変換する反応は公知であり、本発明はこれらの反応自体は公知法に準じて実施することができる。また、異性化反応は化学反応でもよいが、マレイン酸等が熱劣化を受けやすく、不純物の蓄積が起こりやすいこと等の観点から、よりマイルドな反応条件を設定しうる酵素処理による異性化反応が望ましい。【0008】異性化反応を酵素処理により行うには、マレイン酸イソメラーゼあるいは、マレイン酸イソメラーゼを産生する微生物を用いる。マレイン酸イソメラーゼ活性を有する微生物としては、マレイン酸を異性化してフマル酸を生成しうる能力を有する微生物であれば特に制限がなく、例えば、アルカリゲネス属、シュードモナス属、キサントモナス属、バチルス属等の微生物が挙げられる。具体的には、アルカリゲネス・フェカリス(Alcaligenes faecalis)IFO12669、同IFO13111、同IAM1473、アルカリゲネス・ユウトロフス(Alcaligenes eutrophus)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)ATCC23728、キサントモナス・マルトモナス(Xanthomonas marutomonasu)ATCC13270等を例示することが出来る。【0009】一方、アスパルターゼあるいはアスパルターゼを産生する微生物で酵素処理することは、広く知られているが、種々の処理方法のうち特に限定されるものではない。アスパルターゼ活性を有する微生物としては、フマル酸とアンモニアからL−アスパラギン酸を生成しうる能力を有する微生物であれば特に制限がなく、例えば、ブレビバクテリウム属、エシェリヒア属、シュードモナス属、バチルス属等の微生物が挙げられる。具体的には、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)MJ−233(FERM BP−1497))、同MJ−233−AB−41(FERM BP−1498)、ブレビバクテリウム・アンモニアゲネス ATCC6872、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)ATCC11303、同 ATCC27325等を例示することが出来る。【0010】原料水溶液濃度は、通常、後述する晶析工程から回収されるマレイン酸モノアンモニウム水溶液の濃度により決定される。すなわち、マレイン酸アンモニウムがフマル酸アンモニウムとなり、次いで、アスパラギン酸アンモニウムと変化するが、その水溶液濃度はほぼ一定である。前記原料水溶液の濃度は、通常、マレイン酸アンモニウムとして、45〜700g/l、好ましくは90〜450g/lである。第2反応は、アンモニアの存在下で実施される。この際の反応系内のpHは通常、7.5〜10であり、アンモニアの使用量は原料マレイン酸モノアンモニウムに対して、1.1〜1.6モル倍である。【0011】第1反応及び第2反応の温度は、10〜100℃、好ましくは20〜80℃であり、酵素反応が効率的に行なわれる温度を選定する。酵素反応の反応方式は、通常、固体化した微生物を懸濁した反応器中に原料水溶液を供給する一方、反応液を連続的に抜き出す方法、又は、固定化した微生物の固定床に原料水溶液を連続的に通液する方法が挙げられる。なお、第1反応と第2反応とを酵素反応により同時に行なう場合には、各々の性質を持つ菌を併用し、両反応に適した条件を選定して行なうことができる。また、両方の性質を有するものであれば併用の必要は必ずしもない。【0012】(蒸留工程)本発明においては、上記処理で得られたL−アスパラギン酸アンモニウムを晶析する前に、脱アンモニア処理し、実質的全てをモノアンモニウム塩とする。蒸留操作は、常圧下でも減圧下でもよく、30〜100℃の範囲で、好ましくは、40〜80℃で行う。低温下でアンモニア除去操作を行うには、減圧度を高めなくてはならず操作上の制約が大きくなる。一方、高温下では、溶質の熱劣化を招くので好ましくない。本発明で構成される全工程のうち、最も高温で処理することを余儀なくされる本工程の温度条件、特に上限温度について、この観点から上記の様に規定されるべきである。アンモニア蒸留塔の形式は、通常の棚段塔又は充填塔でよい。【0013】酵素処理により得られたL−アスパラギン酸アンモニウム水溶液を、上記の方法で蒸留することにより、蒸留釜にはL−アスパラギン酸に対するアンモニアのモル比が約1.0の残液を得ることができる。この実験事実により、酵素処理により得られたL−アスパラギン酸アンモニウム水溶液中のモノアンモニウム塩を形成するアンモニア以外のアンモニアは、アンモニア除去操作により容易に除去分離しうることが判明し、次工程の晶析操作において極めて有利な条件をあたえ得る。【0014】上記操作後の水溶液は、晶析工程に送り、L−アスパラギン酸結晶を回収するが、晶析工程に供給する水溶液中のL−アスパラギン酸アンモニウムの濃度は、通常、50〜800g/lの範囲であり、好ましくは、100〜500g/lである。濃度が低すぎると、後工程の沈殿回収においてL−アスパラギン酸の回収率が低くなってしまい、高すぎると、回収スラリーの濃度が上がり、操作に支障をきたす。また、未反応のフマル酸アンモニウムおよびマレイン酸アンモニウムは、できるだけ少ない方が望ましく、通常、2g/l以下、好ましくは、1g/1以下に制御される。【0015】(酸析工程)上記のアンモニア蒸留工程で得られた液に無水マレイン酸及び/又はマレイン酸を添加して、L−アスパラギン酸を晶析させる。添加するマレイン酸、無水マレイン酸は、溶融液でも、粉末でも、水溶液でも、またスラリーであってもよい。この二種類の酸を任意の比で混合することも何ら制限をうけるものでない。【0016】(マレイン酸+無水マレイン酸)/L−アスパラギン酸モノアンモニウムのモル比としては、0.3〜1.2の範囲であり、好ましくは、0.5〜1.0がよい。このモル比が小さすぎると、晶析回収でのL−アスパラギン酸の回収率が充分でなく、また大きすぎると、添加したマレイン酸及び/又は無水マレイン酸の合計のモル数が、晶析回収されるL−アスパラギン酸のモル数を上回り、晶析回収で得られる母液を異性化してリサイクルする場合に、このモル数の差に相当するL−アスパラギン酸が濃縮され、リサイクル工程を含むプロセスを構成する際に問題となる。本発明では、酸析に先だってアンモニア蒸留によりジアンモニウム塩をモノアンモニウム塩としているので、マレイン酸及び/又は無水マレイン酸の使用量を多くしなくてもL−アスパラギン酸結晶を効果的に回収することができる。もし、添加するマレイン酸及び/又は無水マレイン酸の合計モル数が、晶析回収されるL−アスパラギン酸のモル数を上回る場合には、リサイクル工程を含むプロセスのバランスをとることが極めて困難となる。このように本発明は、L−アスパラギン酸アンモニウム水溶液から、L−アスパラギン酸を効率よく晶析回収し、またマレイン酸を用いて晶析回収する際の母液をリサイクルするプロセスに関し、プロセス上、バランスのとれた工業的に有利な方法と言える。【0017】マレイン酸及び/又は無水マレイン酸の添加は、特に限定するものではないが、10〜90℃の温度範囲、好ましくは、20〜80℃で行う。低温下で酸の添加を行うと、小粒径のL−アスパラギン酸の結晶しか得られないため、固液分離工程、特にリンス効率が悪化する。すなわち、固液分離で得られる湿ケーキの母液保持量(含水液量)が多く、さらに充分なリンス効果が得られないため、結晶純度が低下するか、リンス量を増やしてL−アスパラギン酸の回収率を低下させるかの状況になる。一方、高温下では、マレイン酸の熱劣化があることから好ましくない。【0018】L−アスパラギン酸の回収率を上げるため、必要に応じてマレイン酸及び/又は無水マレイン酸の添加により得られたスラリーをさらに冷却する。温度は、特に限定するものではないが、0〜80℃の範囲、好ましくは、10〜50℃まで冷却する。低温下ではスラリーの粘性が高く取扱いが困難になり、高温下ではL−アスパラギン酸の回収率が低下してしまう。マレイン酸及び/又は無水マレイン酸の添加、それに引き続き行われる冷却の一連の操作は、特に限定されるものではないが、得られるスラリーを充分に撹拌し得る反応槽を使用することが好ましい。また、回分式、連続式のいずれで行っても何ら問題はないが、工業的には、連続法が好ましい。【0019】(固液分離工程)次に、得られたスラリーから固液分離、必要に応じてリンスすることによりL−アスパラギン酸結晶を回収する。固液分離で得られる母液の主成分は、マレイン酸モノアンモニウムであり、溶解度分のL−アスパラギン酸モノアンモニウムも含まれている。本発明では、この母液を反応工程に供給する。すなわち、上記酸析工程で酸析剤としてマレイン酸及び/又は無水マレイン酸を用い、これが変化したマレイン酸モノアンモニウムを反応原料として用いることが重要である。【0020】スラリーの固液分離は、特に限定されるものではないが、0〜80℃の温度範囲、好ましくは、10〜50℃で行う。低温下ではスラリーの粘性が高く取扱いが困難になり、高温下では、L−アスパラギン酸の溶解度が高くなり、回収率が低下してしまう。得られた湿ケーキは、要求されるL−アスパラギン酸の品質、湿ケーキに含まれる不純物量により、必要に応じてリンス操作を行う。リンス操作は、特に限定されるものではないが、湿ケーキに水をかけた後に固液分離を行ってもよいし、湿ケーキを水中で懸濁洗浄後固液分離してもよい。リンス操作に用いる水の量は、特に限定されるものではないが、湿ケーキに対して5重量倍以下、好ましくは、3重量倍以下で行う。リンス量が少なすぎるとリンス効果が充分でなく、多すぎるとL−アスパラギン酸の回収率が低下する。リンス水の温度についても特に限定されない。リンス後は乾燥して目的とするL−アスパラギン酸の結晶を得ることができる。分離操作は、限定されるものではないが、ヌッチェ、遠心分離等の常法により行う。また、回分式、連続式のいずれで行っても何ら問題はないが、工業的には連続法が好ましい。【0021】(吸収工程)蒸留工程で塔頂から蒸気として得られたアンモニア含有ガスは、水で吸収する。吸収に用いる水の量は、ガス中のアンモニア濃度、操作方法にもよるが、通常、ガス量に対して0.1〜10重量倍、望ましくは1〜5重量倍である。用いる水の量が少なすぎるとアンモニアが充分吸収されず、逆に多すぎると、得られるアンモニア水溶液濃度が低くなり、リサイクルプロセス系内での水のバランスを取ることが困難になる。【0022】アンモニアガス濃度は、主に蒸留操作条件によるが通常1〜50重量%程度である。アンモニア濃度が低すぎると蒸留塔底液のL−アスパラギン酸濃度が高くなりすぎスラリー粘性が高くなり、引き続き行われる晶析工程で支障を来す。逆に高濃度のアンモニアガスを得るには、高い蒸留塔を要し、効率が悪い。操作温度は、特に限定されないが、アンモニア蒸留における塔頂温度を考慮して0〜80℃、好ましくは10〜50℃がよい。高温下では、アンモニアの蒸気圧が高くなり好ましくなく、また0℃以下の低温下では液が凝固する可能性があり望ましくない。また、操作圧力は、常圧でも減圧でも構わない。【0023】アンモニア吸収が容易に行われるため、吸収装置として特に制限はなく、一般的な吸収装置、すなわち充填塔、ぬれ壁塔、スプレー塔などが挙げられる。また、実験室レベルの小スケールで行う場合は、ただ単にアンモニアガスを水中にバブリングするような簡単な操作でも充分にアンモニアは吸収できる。また操作としては回分操作、連続操作いずれでも良いが、工業的には連続法が好ましい。得られたアンモニア水は、晶析母液とともに、必要に応じてアンモニアを添加し、pHを調整した後、反応工程にリサイクルする。【0024】このpH調整に用いるアンモニアの量は、異性化反応、アスパルターゼによる酵素処理方法、および晶析工程で添加したマレイン酸と無水マレイン酸の合計量によるが、反応工程への合計添加量の、固液分離で得た母液中に含まれるマレイン酸に対するモル比で、0.8〜3.0の範囲、好ましくは、1.0〜2.5である。このモル比が小さすぎると、酵素処理する反応液のpHが十分に高くなく、マレイン酸アンモニウム及びフマル酸アンモニウムの変換が充分に行われないばかりか、1.0より小さいと化学量論的にもマレイン酸アンモニウムあるいはフマル酸アンモニウムが残存してリサイクルの効率が悪化する。一方、モル比が大きすぎると、反応液のpHが高くなりすぎてマレイン酸アンモニウム及びフマル酸アンモニウムの変換が充分に行われず、好ましくない。反応器での、アンモニアおよび晶析母液の混合時には中和熱を発生するので必要に応じて除熱する。温度は、特に限定されないが、それぞれの反応温度を考慮して5〜80℃、好ましくは、10〜50℃がよい。高温下では、アンモニアの蒸気圧が高くなり好ましくない。また、反応温度より低温で供給しても何ら問題ない。【0025】本発明においては、酸析工程で用いたマレイン酸及び/又は無水マレイン酸から変化したマレイン酸モノアンモニウムを原料として、反応工程、蒸留工程、酸析工程及び固液分離工程と順次処理することにより、リサイクル系で連続的製造プロセスを組むことが可能である。しかし、この場合、系内の不純物成分の蓄積を防止するため、例えば、蒸留後のL−アスパラギン酸アンモニウム水溶液の一部(1〜20重量%)をブリードすることが好ましい。ブリード液からL−アスパラギン酸を結晶として回収する方法としては、通常、硫酸又は塩酸等の無機酸を添加して行なうのが好ましい。無機酸の添加量はアスパラギン酸アンモニウムに対して当量以上である。また、必要により、酸析母液中のマレイン酸モノアンモニウム濃度を調節するため、母液を濃縮してもよい。【0026】【実施例】以下に実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。尚、L−アスパラギン酸(以下ASPと略記することがある)、マレイン酸(以下MAと略記することがある)およびフマル酸(以下FAと略記することがある)の分析は高速液体クロマトグラフィーにより、ASP結晶中のアンモニア(以下NH3と略記することがある)含量の分析はイオンクマトグラフィーにより定量した。〔実施例1〕リサイクル操作リサイクル0(A1)反応工程通常の培養方法により得たアスパルターゼ活性を有するブレビバクテリウム・フラバム MJ−233−AB−41(FERM BP−1498)、および通常の培養方法により得たマレイン酸イソメラーゼ活性を有するアルカリゲネス・フェカリエス IFO−12669を含むそれぞれの液の限外ろ過膜(旭化成社製−ACV−3050)による濃縮菌体液60g(湿菌体約50重量%)づつを、反応液(マレイン酸150gおよび、25%アンモニア水220mlに水を加えて全量を1000mlとした水溶液、pH9)に添加して、30℃で24時間反応させた。反応終了後、限外ろ過膜により菌体を除去し、得られたろ液を分析したところASPが170g/l(理論収量の99%以上)、FA1g/l、NH328g/l(NH3/ASPモル比1.3、pH9、すなわち、アスパラギン酸ジアンモニウム塩が全アンモニウム塩に対し0.3モル倍)であった。【0027】(B1)アンモニア蒸留工程(A1)で得られた酵素反応液1Lを、2Lの三つ口フラスコに仕込み、ラボ用エバポレーターを用いて、80℃、300〜400mmHgの条件下、アンモニアを留出させた。留出したアンモニア蒸気は、水300gを予め仕込んだ1000ml耐圧瓶に、そのまま連続的に室温下でバブリングし、アンモニアを吸収させた。途中圧力を大気圧に戻し、温度を室温近くまで冷やした後、釜残液のpHを測定し、pH6〜7になるまでアンモニアを留出させた。蒸留後の釜残液組成は、ASP231g/l、FA1g/l、NH330g/l(NH3/ASPモル比は1.0、すなわち、全てがモノアンモニウム塩)、739mlの容量であった。また、アンモニアを吸収した液の組成は、NH31.1重量%、558gであった。(操作(A2)へ)【0028】(C1)ASP晶析工程(B1)で得られたL−アスパラギン酸モノアンモニウム水溶液739mlを1000mlジャケット付きセパラブルフラスコ内でジャケットに温水を流すことで60℃に保温し、撹拌しながらMA120g(MA/ASPモル比は0.80)を添加した。MAの添加後、撹拌を続けながら30分間60℃で保温した後、1時間かけ、20℃まで冷却し、さらに30分間保温した。【0029】(D1)固液分離工程(C1)で得られたスラリーは、ヌッチェで固液分離し、さらに蒸留水410gでリンスし、減圧下、約60℃で乾燥したところ、137gの白色固体を得た。得られた固体は、99.3重量%ASPでマレイン酸アンモニウム0.6重量%、フマル酸アンモニウム0.1重量%を含んでいた。ASPの回収率は、80%であった。(E1)晶析母液濃縮工程一方、固液分離で得られたマレイン酸モノアンモニウムを含む母液は、ASP32g/l、FA1g/l、MA112g/l、NH321g/lの組成であり、pHは約4.5、容量1070mlであった。母液はロータリーエバポレーターにより、80℃、減圧(300〜400mmHg)下、水を飛ばし3倍の濃度に濃縮した。(操作(A2)へ)【0030】リサイクル1(A2)(B1)得られたアンモニア水、(E1)で得られた晶析母液濃縮液、25%アンモニア水73gおよび蒸留水を添加し全量で1lとした反応液(pH9)を用い、(A1)と同様の方法で酵素処理を行い、ASP170g/l(理論収量の99%以上)、FA1g/l、NH328g/l(NH3/ASPモル比1.3、pH9、すなわち、ASPジアンモニウム塩が全アンモニウム塩に対し、0.3モル倍)の液1lを得た。【0031】(B2)(A2)で得られた反応液1lを、2l三ツ口フラスコに仕込み、温度80℃に保つため圧力を300〜400mmHgの範囲で制御し、アンモニアを留出させた。留出したアンモニア蒸気は、水300gを予め仕込んだ1000ml耐圧瓶に、そのまま連続的に室温下でバブリングし、アンモニアを吸収させた。途中圧力を大気圧に戻し、温度を室温近くまで冷やした後、釜残液のpHを測定し、pH6〜7になるまでアンモニアを留出させた。蒸留後の釜残液組成は、ASP237g/l、NH331g/1(NH3/ASPモル比は1.0、すなわち、全てがモノアンモニウム塩)、容量は、724mlであった。またアンモニアを吸収した液の組成は、NH31.0重量%、591gであった。(操作(A3)へ)【0032】(C2・D2)(B2)で得られたL−アスパラギン酸アンモニウム水溶液724mlは、(C1)と同様の操作によりASPを晶析した。さらに得られたスラリーは、(D1)と同様の方法により固液分離、乾燥処理を行い、138gの白色固体を得た。得られた固体は99.3重量%ASPでマレイン酸アンモニウム0.6重量%、フマル酸アンモニウム0.1重量%を含んでいた。ASPの回収率は、60%であった。【0033】(E2)一方、固液分離工程で得られたマレイン酸モノアンモニウムを含む晶析母液は、ASP32g/l、FA1g/l、MA113g/l、NH321g/lの組成であり、pHは4.5、容量1057mlであった。その後、(E1)と同様の操作により3倍の濃度に濃縮した。【0034】上記(A2)〜(E2)と同様の操作を順次条件を変えずに3回繰り返しL−アスパラギン酸の製造を行ない、各繰り返し反応における反応率(原料マレイン酸アンモニウムに対するL−アスパラギン酸アンモニウムの生成率)、L−アスパラギン酸の晶析回収率及び回収結晶の純度を求めたところ、表−1に示す結果を得た。【0035】【表1】【0036】【発明の効果】本発明によれば、L−アスパラギン酸の酸析剤として反応原料であるマレイン酸を用いるとともに、酵素反応後の脱アンモニア工程から排出されるアンモニアを水で吸収し、反応原料として利用することができる。従って、アンモニアも系外に排出されることなく、系内で循環利用されるので工業プロセス上、極めて好ましく、本発明のプロセスで連続運転を実施しても、酵素反応の活性に悪影響を及ぼすことなく、高純度のL−アスパラギン酸結晶を得ることができる。【図面の簡単な説明】【図1】本発明のプロセスを示すフローシートである。 マレイン酸アンモニウム水溶液を原料とし、異性化反応及びアンモニアの存在下でのアスパルターゼ又はアスパルターゼを産出する微生物による酵素処理によりL−アスパラギン酸アンモニウム水溶液を得、次いで、得られた水溶液を酸析し、アスパラギン酸結晶を析出させ、これを分離回収するL−アスパラギン酸の製法において、(1)酵素処理後のL−アスパラギン酸アンモニウム水溶液を蒸留することにより、脱アンモニアし、L−アスパラギン酸アンモニウムの実質的全てをモノアンモニウム塩とすること、(2)前記酸析の酸析剤として、マレイン酸及び/又は無水マレイン酸を使用すること、(3)酸析後のマレイン酸モノアンモニウムを含有する母液を前記原料として使用すること、(4)前記蒸留工程で塔頂より留出するアンモニア含有ガスを水で吸収し、得られるアンモニア水溶液を前記酵素処理工程又は異性化反応工程に供給すること、を特徴とするL−アスパラギン酸の製法。 異性化反応および酵素反応を同時に行う請求項1記載の製法。 (1)工程で得られた脱アンモニア後のL−アスパラギン酸モノアンモニウムを含有する反応液の一部をパージする請求項1記載の製法。 (4)工程で用いる水の量が、アンモニア含有ガスに対して0.1〜10重量倍である請求項1記載の製法。 (4)工程の吸収温度が0〜80℃である請求項1の方法。 各工程が順次連続的に行われることを特徴とする請求項1の製法。