タイトル: | 特許公報(B2)_イノシトール立体異性体の製造方法 |
出願番号: | 1995322505 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,C12P7/02 |
神辺 健司 吉田 信 平沢 清 佐藤 聖 JP 3630344 特許公報(B2) 20041224 1995322505 19951117 イノシトール立体異性体の製造方法 北興化学工業株式会社 000242002 神辺 健司 吉田 信 平沢 清 佐藤 聖 20050316 7 C12P7/02 C12P7/02 C12R1:01 JP C12P7/02 C12P7/02 C12R1:01 7 C12P 7/00 C12N 1/00 BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) CA(STN) JSTPlus(STN) Biosci Biotechnol Biochem(1994),Vol.58,No.11,p.2046-2049 3 1997140388 19970603 10 20011205 ▲高▼ 美葉子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明はアグロバクテリウム属微生物を利用し、安価なミオ−イノシトール(myo−inositol)を原料として、付加価値の高いD−キロ−イノシトール(D−chiro−inositol)、L−キロ−イノシトール(L−chiro−inositol)、シロ−イノシトール(scyllo−inositol)、ネオ−イノシトール(neo−inositol)(以下、これらを単に「イノシトール立体異性体」という。)等のイノシトール立体異性体を製造する方法に関する。【0002】【従来の技術】イノシトールの立体異性体の生理作用についてはいくつか知られている。例えば、D−キロ−イノシトールは、インシュリン非依存性糖尿病の治療薬又は予防薬として注目されている〔ダイアベイテス フロンティア(Diabetes Frontier)第4巻,第637頁〜第638頁,1993年〕。また、L−キロ−イノシトールは生体内における情報伝達作用に有用であることが知られている〔バイオケミストリー(Biochemistry)第33巻,第8367頁〜第8374頁,1994年〕。さらに、シロ−イノシトールは、脳肝症患者の脳中での減少が報告され、発症との相関が注目されている〔ライフサイエンス(Life Sciences)第54巻,第1507頁〜第1512頁,1994年〕。また、D−キロ−イノシトール、シロ−イノシトールは研究用試薬として使用されている。【0003】一方、D−キロ−イノシトールを得る方法としては次の(a)〜(g)などが知られている。(a) ブーゲンビリアやサトウマツ(Sugar pine)、アメリカ杉等の植物から、これに含まれているピニトール(pinitol)を適当な溶媒で抽出し、次にヨウ化水素酸等で脱メチル化してD−キロ−イノシトールを得る方法。(b) 大豆や白つめくさ等に微量含まれているD−キロ−イノシトールを抽出精製する方法〔ジャーナル オブ アグリカルチャー アンド フード ケミストリー (J. Agric. Food Chem.)第32巻, 第1289頁〜第1291頁, 1984年〕。【0004】(c) クロレラの培養細胞を用いてミオ−イノシトールをD−キロ−イノシトールへ変換する方法〔モナシェフテ フュール ケミ−(Monatsh. Chem.)第102巻, 第459頁〜第464頁, 1971年〕。(d) ネズミ由来の細胞を用いてミオ−イノシトールからD−キロ−イノシトールへ変換する方法〔ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(J. Biol. Chem.)第267巻, 第16904頁〜第16910頁, 1992年〕。【0005】(e) カスガマイシンを強酸で加水分解して、その構成糖であるD−キロ−イノシトールを得る方法(米国特許第5,091,596号明細書)。(f) 出発原料として1−クロロ−2,3−ジヒドロキシ−4,6−(1−クロロ−2,3−ジヒドロキシシクロヘキサ−4,6−ジエン)を用い、D−キロ−イノシトールを合成する方法〔ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー(J. Org. Chem.)第58巻, 第2331頁〜第2333頁, 1993年〕。(g) 出発原料としてハロゲノベンゼンを用い、数段階の反応を経てD−キロ−イノシトールを得る方法〔ジャーナル オブ ザ ケミカル ソサイアティ パーキン トランザクションズ (J. Chem. Soc. Perkin Transactions 1)第741頁〜743頁, 1993年〕等がある。【0006】また、L−キロ−イノシトールを得る方法としては次の(h)、(i)の方法が知られている。(h) 天然ゴム中に含まれているケブラチトール(L−キロ−イノシトールのモノメチルエーテル体)を酸処理により脱メチル化し、L−キロ−イノシトールを得る方法。(i) 微生物は特定されていないが、土壌微生物によりミオ−イノシトールからL−キロ−イノシトールに変換する方法〔ソイル サイエンス ソサイアティーオブ アメリカ ジャーナル (Soil Sci. Soc. AM. J.)第41巻, 第733〜第736頁, 1977年〕。【0007】さらに、シロ−イノシトールを得る方法としては次の(j)、(k)、(l)などがある。(j) ウラジロガシ(Quercus stenophylla)等に含まれているシロ−イノシトールを抽出精製する方法〔薬学雑誌, 第89巻, 第1302頁〜第1305頁, 1969年〕。(k) ミオ−イノシトールを原料に4段階の反応により化学合成する方法〔西ドイツ特許公開第3,405,663号公報〕。(l) ミオ−イノシトールを原料に2段階の反応により化学合成する方法〔リービッヒ アナーレン デール ケミー(Liebigs Ann. Chem.)第866頁〜第868頁, 1985年〕。【0008】また、イノシトール立体異性体が混合物として得られる方法としては次の(m)、(n)、(o)などが知られている。(m) ミオ−イノシトールにラネイニッケルを触媒として作用させ、立体異性体のシロ−イノシトール、キロ−イノシトール、ネオ−イノシトール、ムコ−イノシトール、アロ−イノシトール、エピ−イノシトールを得る方法〔カーボハイドレイト リサーチ(Carbohydrate Research)第166巻, 第171頁〜第180頁, 1987年〕。(n) ゴキブリの脂肪体を用い、ミオ−イノシトールからD−キロ−イノシトール、シロ−イノシトール、エピ−イノシトール、ネオ−イノシトールへ変換する方法〔バイオケミストリー(Biochemistry)第12巻, 第4705頁〜第4712頁, 1973年〕。【0009】(o) 牛の脳細胞より抽出した粗酵素液を用い、ミオ−イノシトールからシロ−イノシトールおよびネオ−イノシトールへ変換する方法〔バイオケミカル アンド バイオフィジカル リサーチ コミュニケーションズ (Biochemical and Biophysical Research Communications)第77巻, 第340頁〜第346頁, 1977年〕。しかしながら、アグロバクテリウム属の微生物を用い、ミオ−イノシトールを原料とし、D−キロ−イノシトール、L−キロ−イノシトール、シロ−イノシトールおよびネオ−イノシトールを製造する方法については知られていない。【0010】【発明が解決しようとする課題】前記の(a)から(o)のイノシトール立体異性体を製造する方法は、いずれも工業的規模で製造する方法としては必ずしも満足しうるものではない。すなわち、植物からD−キロ−イノシトール、L−キロ−イノシトール、シロ−イノシトールを抽出する前述の(a)、(b)、(h)、(j)の方法は、植物体中における含有量が少ないため、抽出と精製が困難であり、収率も低い。また、前記(c)、(d)、(j)、(n)、(o)に記載のクロレラ、ネズミの細胞、土壌微生物、ゴキブリの脂肪体細胞、牛の脳細胞などを用いてD−キロ−イノシトール、L−キロ−イノシトール、シロ−イノシトール、ネオ−イノシトール、エピ−イノシトールなどを得る方法では、放射標識した物質を検出する程度の反応であるため、収率が低い。【0011】前記(e)に記載のカスガマイシンを強酸で加水分解してD−キロ−イノシトールを得る方法では、精製工程が煩雑である。また、前記(f)、(g)に記載のD−キロ−イノシトールを化学合成する方法は、立体特異的な合成が必要とされるため、反応収率が低い。さらに、前記(k)に記載のミオ−イノシトールからシロ−イノシトールを化学合成する方法は、操作が煩雑であり収率も低い。また、(l)に記載の方法は酸化白金を触媒として用いるので、コストの面で問題がある。【0012】また、前記(m)に記載のラネイニッケルを触媒として用い、シロ−イノシトール、キロ−イノシトール、ネオ−イノシトール、ムコ−イノシトール、アロ−イノシトール、エピ−イノシトールを得る方法は、100℃で反応するため、加熱操作が必要であり副反応が伴うこと、および反応液中に多成分のイノシトールが同時に生成されるため、各成分の分離が困難であり、収率も低い。本発明の目的は、従来法に比べて安価に、かつ簡単な操作で効率よくD−キロ−イノシトール、L−キロ−イノシトール、シロ−イノシトールおよびネオ−イノシトールを得る製造方法を提供することにある。【0013】【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意検討を重ねた。その結果、アグロバクテリウム属に属する微生物をミオ−イノシトールを含有する培地で培養すると、培養液中にD−キロ−イノシトール、L−キロ−イノシトール、シロ−イノシトールおよびネオ−イノシトールが効率よく生成すること、また、この培養液より得たアグロバクテリウム属に属する微生物の菌体または菌体処理物をミオ−イノシトールに作用させると、D−およびL−キロ−イノシトール、シロ−イノシトールおよびネオ−イノシトールが簡単な操作で効率よく生成することを見いだした。すなわち、第1の本発明の要旨とするところは、アグロバクテリウム属に属する微生物をミオ−イノシトールを含有する液体培地で培養し、培地中にイノシトール立体異性体を生成蓄積させることを特徴とする、イノシトール立体異性体の製造方法にある。【0014】また、第2の本発明の要旨とするところは、アグロバクテリウム属に属する微生物をミオ−イノシトールを含有する液体培地であらかじめ培養し、該培養液から分離した菌体を液体培地又は緩衝液中でミオ−イノシトールに作用させてイノシトール立体異性体を生成蓄積させることを特徴とする、イノシトール立体異性体の製造方法にある。さらに、第3の本発明の要旨とするところは、アグロバクテリウム属に属する微生物をミオ−イノシトールを含有する液体培地で培養し、該培養液から分離した菌体の菌体処理物を緩衝液中でミオ−イノシトールに作用させてイノシトール立体異性体を生成蓄積させることを特徴とする、イノシトール立体異性体の製造方法にある。【0015】【発明の実施の形態】次に、本発明によるイノシトール立体異性体の製造方法について具体的に説明する。本発明の製造方法の原料であるミオ−イノシトールは動植物及び微生物に広く分布している。特に、穀物中に六燐酸エステルのCa、Mg塩であるフィチン酸として多量に存在しており、公知の方法により米糠等をアルカリ加水分解し、精製して得られる。【0016】本発明において使用する微生物は、アグロバクテリウム属に属し、ミオ−イノシトールをミオ−イノシトール以外のイノシトール立体異性体に変換する能力を有する微生物であればいずれの菌株でもよい。具体的に例示すると、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)、アグロバクテリウム・ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter)、アグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)、アグロバクテリウム・ルビ(Agrobacterium rubi)など(以下、特に、ことわりのないかぎり「アグロバクテリウム」という。)があり、これらはATCC(アメリカン タイプ カルチャー コレクション)、IFO((財)発酵研究所)、IAM((財)応用微生物研究奨励会)などより入手できる。アグロバクテリウム属細菌のある菌株は、植物に根頭癌腫病や毛根病を起こすことが知られているが、同属には植物病原性がない菌株も多く、バラの根頭癌腫病に対する拮抗微生物として培養細菌が農業用に利用されている例もある。また、植物以外への病原性は知られておらず、特に、人間を含めて動物に対しては無害で安全性の高い微生物群である。【0017】本発明の製造方法は3つの方法に分けることができる。それらを製造方法(A)、(B)、(C)として順次説明する。製造方法(A)ミオ−イノシトールを含む液体培地にアグロバクテリウム属に属する微生物を接種して好気的に培養することにより、イノシトール立体異性体を生成蓄積させることができる。液体培地は、目的を達する限り何等特別の制限はなく、炭素源、窒素源、有機栄養源、無機塩類等を含有する培地であればよく、合成培地・天然培地のいずれも使用できる。炭素源としてはミオ−イノシトールを0.1〜1.5%、好ましくは0.2〜0.8%添加し、窒素源としては硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウムあるいは尿素等を0.01〜1.0%、好ましくは0.05〜0.5%添加するのが望ましい。有機栄養源としては酵母エキス、カザミノ酸等を極微量(0.005〜0.05%程度)添加すると、菌株によっては有効な場合がある。そのほか必要に応じ、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、コバルト、マンガン、亜鉛、鉄、銅、モリブデン、リン酸、硫酸等のイオンを生成することができる無機塩類を培地中に添加することが有効である。培養液の水素イオン濃度はpH6〜10、好ましくはpH7〜9に調製し培養すると、効率よくイノシトール立体異性体を得ることができる。【0018】培養条件としては菌株や培地の種類によっても異なるが、培養温度は15〜40℃、好ましくは20〜35℃である。培養期間は通常1〜7日、好ましくは2〜5日である。また、培養は液体培地を振盪したり、液体培地中に空気を吹き込むなどして好気的に行えばよい。培養液から目的物を採取する方法は、通常の水溶性中性物質を単離精製する一般的な方法を応用することができる。すなわち、培養液を活性炭やイオン交換樹脂などで処理することにより、イノシトール立体異性体以外の不純物のほとんどを除くことができる。その後、イオン交換樹脂のカラムクロマトグラフィーを用いる方法や溶液に対する溶解性の差を用いて分離する方法及び再結晶法などの方法を適宜組み合わせて用いることにより、目的物を単離することができる。【0019】カラムクロマトグラフィーを用いる方法としては、カーボハイドレイト リサーチ(Carbohydrate Research)第166巻,第171頁〜第180頁(1987年)やジャーナル オブ アメリカン ケミカル ソサイアティー(J. Am. Chem. Soc.)第73巻,第2399頁〜第2340頁(1951年)に記載されている強塩基性イオン交換樹脂をホウ酸型にしてカラムにつめ、ホウ酸の濃度を徐々に高めて流すことにより、イノシトール立体異性体の各成分を分離する方法が有効である。このカラムを用いて、ミオ−イノシトール、D−キロ−イノシトール、L−キロ−イノシトール、シロ−イノシトール及びネオ−イノシトールの混合物をカラムに供すると、シロ−イノシトールは樹脂に保持されることなくカラムを素通りし、他のイノシトール立体異性体は、0.5M程度のホウ酸溶液を流すと、まずミオ−イノシトールが溶出し、続いてD−キロ−イノシトールとL−キロ−イノシトールが同時に溶出し、その後ネオ−イノシトールが溶出する。また、強塩基性イオン交換樹脂を(OH−型)にしてカラムにつめ、イオン交換水を流して分離する方法もイノシトールの分離に有効な方法である。例えば、ミオ−イノシトール、D−キロ−イノシトール、L−キロ−イノシトール、ネオ−イノシトール混合濃縮液を本方法のカラムに供すると、まず、ミオ−イノシトールとネオ−イノシトールがほとんど同時に溶出し、ついで、D−キロ−イノシトールとL−キロ−イノシトールが同時に溶出する。さらに、フルクトースとグルコースを工業的規模で分離する方法として知られている、強酸性イオン交換樹脂(カルシウム型)をカラムにつめ、水で展開して分離する方法も、前述と同様のイノシトール混合物の分離に有効である。すなわち、ミオ−イノシトール、D−キロ−イノシトール、L−キロ−イノシトール、ネオ−イノシトール混合濃縮液をこのカラムで展開すると、ミオ−イノシトール、D−キロ−イノシトール、L−キロ−イノシトールがほとんど同時に溶出し、その後遅れてネオ−イノシトールが溶出する。このようにしてカラムクロマトグラフィーで得られる溶出液を任意に分画し、カラムクロマトグラフィーを幾度か繰り返すか、又は組み合わせることにより、純粋な物質を得ることができる。【0020】一方、溶液に対する溶解度の差を利用して分離する方法としては、イノシトール立体異性体の水や低級アルコールに対する溶解性の差を利用して、分離することができる。例えば、シロ−イノシトールとネオ−イノシトールは、水に対する溶解性が他のイノシトールと比べて低いので、これらの物質が他のイノシトール立体異性体と混在している分画においては、溶解しやすいイノシトール立体異性体を最少必要量の水を加えて溶解して、溶液として除き、シロ−イノシトール又はネオ−イノシトールを固体として得ることができる。また、低級アルコールに対する溶解性の差を利用して、D−キロ−イノシトールとL−キロ−イノシトールの混合物を分離することができる。すなわち、D−キロ−イノシトールはL−キロ−イノシトールに比べてメタノールに対する溶解性が高いので、両者の混合物に適当量のメタノールを加え、D−キロ−イノシトールを溶解し、L−キロ−イノシトールを固体の状態に保ちガラスフィルターなどで濾別する。この溶解と濾別の操作を数回繰り返すことで純粋な物質を得ることができる。【0021】再結晶法に関しては、イノシトールを水に溶解し、低級アルコールを任意の量を加えて混合溶媒系中で容易に結晶化することができる。生じた結晶は、ガラスフィルターや濾紙で母液より分離することができる。菌株の種類や培養日数により、生成するイノシトール立体異性体の量及び存在比は異なるが、以上述べた分離方法を単独あるいは組み合わせて、必要に応じて繰り返し用いることにより、培養液または反応液からイノシトール立体異性体を適宜純粋な物質として単離することができる。製造方法(A)による製造法を実施例1に示した。【0022】製造方法(B)製造方法(B)は、製造方法(A)により得た培養液から菌体を集め、これを液体培地又は緩衝液中でミオ−イノシトールと反応させることにより、イノシトール立体異性体を生成させるものである。菌体は、製造方法(A)により得た培養液を、遠心分離、濾過などにより集菌したものを用いればよい。また、液体培地は製造方法(A)と同様のものを用いればよい。緩衝液としてはリン酸緩衝液、トリス緩衝液、グッド(Good’s)のCHES緩衝液などを10〜500mM、好ましくは20〜100mMの濃度で用いればよい。反応条件は、菌株や培地、緩衝液の種類によって異なるが、反応温度は15〜60℃、好ましくは25〜55℃であり、反応時間は1〜50時間、好ましくは3〜48時間であり、液体培地または緩衝液のpHは6〜10、好ましくは7〜9である。反応終了後の反応液からの目的物を単離する方法は製造方法(A)と同様に行えばよい。製造方法(B)による製造法を実施例2に示した。【0023】製造方法(C)製造方法(C)は製造方法(B)の菌体を菌体処理物に代えて反応させる方法である。菌体処理物としては、菌体を機械的破壊、超音波処理、凍結融解処理、乾燥処理、溶媒処理、界面活性剤処理、酵素処理などをしたもの、又はこれらより得られる酵素画分、菌体及び菌体処理物の固定化物などがある。上記の菌体を処理する工程では緩衝液に還元剤としてメルカプタン、ジチオスレイトールなどを添加するのが好ましい。反応条件は、菌株や緩衝液の種類によって異なるが、反応温度は15〜60℃、好ましくは25〜45℃であり、反応時間は1〜50時間、好ましくは3〜48時間であり、緩衝液のpHは7〜10である。緩衝液の種類と使用濃度は製造方法(B)と同じである。また、緩衝液には補酵素としてβ−NAD+・3H2Oを原料のミオ−イノシトール1gに対して1〜8g、好ましくは2〜5gを添加する。反応終了後の反応液から目的物を単離する方法は製造方法(A)と同様にして行えばよい。製造方法(C)による製造法を実施例3に示した。【0024】【実施例】以下、実施例により本発明を具体的に説明する。〔実施例1〕 製造方法(A)(1) イノシトール立体異性体の生成ミオ−イノシトール0.5%(15g)、(NH4)2SO4 0.1%、K2HPO40.7%、KH2PO4 0.2%、MgSO4・7H2O 0.01%および水98.49%を含むpH7の液体培地3000mlを、100mlずつ500ml容のバッフル付き三角フラスコに分注し、オートクレーブ滅菌した。各々の三角フラスコにアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens) IAM 1037株 (財団法人応用微生物学研究奨励会より購入)を接種し、27℃で3日間振盪培養した。培養液を遠心分離(8000rpm、10分間)し、上清を培養濾液とした。この培養濾液を高速液体クロマトグラフィーにより下記の条件で分析した。その結果、培養濾液中にはシロ−イノシトール0.89mg/ml(反応収率17.8%)、キロ−イノシトール0.15mg/ml(反応収率3.0%)、ネオ−イノシトール0.02mg/ml(反応収率0.4%)が生成した。【0025】高速液体クロマトグラフィーの分析条件は以下のとおりである。【0026】(2) イノシトール立体異性体の単離培養濾液を強酸性イオン交換樹脂デュオライト(登録商標)C−20(H+型)800mlを充填したカラム(内径6cm、長さ30cm)に通過させ、その後このカラムを800mlのイオン交換水を通過させて洗浄した。この溶出液を、強塩基性イオン交換樹脂デュオライト(登録商標)A−113 PLUS(OH−型)800mlを充填したカラム(内径6cm、長さ30cm)に通過させ、その後このカラムを1200mlのイオン交換水で洗浄し、溶出液を得た。このようにして得られた溶出液中にはイノシトール立体異性体以外の不純物はほとんど存在していなかった。この溶液を強塩基性イオン交換樹脂デュオライト(登録商標)A−113 PLUS(ホウ酸型)300mlを充填したカラム(内径3cm、長さ43cm)に通過させ、イオン交換水600ml、0.2Mホウ酸溶液600ml、0.5Mホウ酸溶液1500mlの順で流し、溶出液を分画した。成分の分析は高速液体クロマトグラフィーで行った。素通りした画分及びイオン交換水で溶出した画分を濃縮し、水−エタノール(1:2)の混合溶媒中での結晶化により、純粋なシロ−イノシトールを1516mg(収率10.1%)得た。また、0.5Mホウ酸溶液での溶出画分にはまずミオ−イノシトールが溶出し、続いてキロ−イノシトール(D−体とL−体の混合物)が同時に溶出し、次にネオ−イノシトールが溶出した。分画したフラクションのうち、キロ−イノシトールとネオ−イノシトールを多く含む分画を別個に集め、それぞれ減圧下濃縮した。それぞれ分画濃縮液を、強塩基性イオン交換樹脂アンバーライト(登録商標)CG−400(OH−型)200mlを充填したカラム(内径1.8cm、長さ80cm)に供しイオン交換水で溶出した。次に、この溶出液を分画したものを集め、これを強酸性イオン交換樹脂アンバーライト(登録商標)CG−120(カルシウム型)200mlを充填したカラム(内径1.8cm、長さ80cm)に供し、イオン交換水で溶出し、溶出液を分画した。以上のカラムクロマトグラフィーで、キロ−イノシトールを高純度(95%以上)に含む分画が得られ、これらを濃縮し、水−エタノール(1:9)の混合溶媒中で結晶化した。また、ネオ−イノシトールを高純度(95%以上)に含む分画を濃縮乾固し、蒸留水10mlを加え不純物を溶解し除き、水に対して溶解度の低いネオ−イノシトールを、白色結晶として得た。以上の操作で純粋なキロ−イノシトールを315mg(収率2.1%、比旋光度〔α〕D+10°(c=1.0,H2O)、D−体とL−体の存在比D:L=58:42)、ネオ−イノシトールを23mg(収率0.2%)単離した。【0027】〔実施例2〕 製造方法(B)(1) 菌体の生産実施例1の培養で得られたアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)IAM 1037株の培養液を遠心分離して得られた菌体を、蒸留水200mlで洗浄後、再度遠心分離し、洗浄した菌体を得た。【0028】(2) 異性化反応上記により得た洗浄した菌体15gを、ミオ−イノシトール2.5gを含有した0.05Mリン酸緩衝液(pH7.0)500ml(ミオ−イノシトール濃度5mg/ml)中に加え、50℃、20時間ゆるやかに撹拌しながら反応させた。反応終了後、反応液を液体クロマトグラフィーにより分析したところ、シロ−イノシトール1.2mg/ml(反応収率24.0%)、キロ−イノシトール(D−体、L−体の混合物)0.1mg/ml(反応収率2.0%)、ネオ−イノシトール0.1mg/ml(反応収率2.0%)が蓄積していた。反応液からのイノシトール立体異性体の各成分の単離方法は、実施例1に記載の方法に準じて行い、シロ−イノシトール520mg(収率20.8%)、D−及びL−キロ−イノシトール32mg(収率1.3%)、ネオ−イノシトール27mg(収率1.1%)を得た。【0029】〔実施例3〕 製造方法(C)(1) 無細胞抽出液の調製アグロバクテリウム ツメファシエンスIAM 1037株を実施例1と同様な培地100mlで、27℃、20時間振盪培養した。次いで、培養液を遠心分離(8000rpm、10分間)して菌を集め、ジチオスレイトール0.3mg/ml含む20mMリン酸緩衝液(pH7.0)で洗浄したのち、再度遠心分離にて集菌を行い、これを同じ組成のリン酸緩衝液22mlに懸濁した。この菌懸濁液を超音波破砕機(BRANSON社製、SONIFIER CELL DISRUPTOR 185)で処理し、菌体を破壊した後、16000rpm、10分間の遠心分離を行い、その上清として無細胞抽出液(タンパク量として4mg/ml)を得た。この無細胞抽出液を20mMリン酸緩衝液(pH7.0)に対して透析し、ミオ−イノシトールの異性化反応に供した。【0030】(2) ミオ−イノシトールの異性化反応ミオ−イノシトール2mg/ml溶液を50μl、β−NAD+・3H2O 40mg/ml溶液を10μl、0.5Mグッド(Good’s)のCHES緩衝液(pH10.0)を20μl及び無細胞抽出液(タンパク量として4mg/ml)を20μl含む総容量100μlの溶液を37℃で3時間培養した。反応後、それぞれの反応液20μlを高速液体クロマトグラフィーで分析し、基質としたミオ−イノシトールから生成された異性体の同定を行った。【0031】その結果、基質としたミオ−イノシトール(0.29mg/ml)に加えて、シロ−イノシトール、キロ−イノシトール(D−体とL−体の混合物)、ネオ−イノシトールがそれぞれ0.16mg/ml(反応収率8.0%)、0.04mg/ml(反応収率2.0%)、0.02mg/ml(反応収率1.0%)の濃度で検出された。【0032】【発明の効果】本発明の製造方法によれば、従来法に比べて安価で、かつ簡単な操作でD−キロ−イノシトール、L−キロ−イノシトール、シロ−イノシトール及びネオ−イノシトールが得られる。 アグロバクテリウム属に属する微生物をミオ−イノシトールを含有する液体培地で培養し、培養液中にイノシトール立体異性体を生成蓄積させることを特徴とする、イノシトール立体異性体の製造方法。 アグロバクテリウム属に属する微生物をミオ−イノシトールを含有する液体培地であらかじめ培養し、該培養液から分離した菌体を液体培地又は緩衝液中でミオ−イノシトールに作用させてイノシトール立体異性体を生成蓄積させることを特徴とする、イノシトール立体異性体の製造方法。 アグロバクテリウム属に属する微生物をミオ−イノシトールを含有する液体培地で培養し、該培養液から分離した菌体の菌体処理物を緩衝液中でミオ−イノシトールに作用させてイノシトール立体異性体を生成蓄積させることを特徴とする、イノシトール立体異性体の製造方法。