生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_新規な耐熱性β−ガラクトシダーゼ
出願番号:1995305249
年次:2006
IPC分類:C12N 9/38,C12N 15/09,C12R 1/01


特許情報キャッシュ

大津 奈穂美 元島 英雅 皆川 悦雄 司城 不二 JP 3766461 特許公報(B2) 20060203 1995305249 19951031 新規な耐熱性β−ガラクトシダーゼ よつ葉乳業株式会社 591181894 久保田 藤郎 100074077 大津 奈穂美 元島 英雅 皆川 悦雄 司城 不二 20060412 C12N 9/38 20060101AFI20060323BHJP C12N 15/09 20060101ALN20060323BHJP C12R 1/01 20060101ALN20060323BHJP JPC12N9/38C12N15/00 AC12N9/38C12R1:01 C12N15/00-15/90 SwissProt/PIR/GeneSeq BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) 特開昭62−208285(JP,A) Appl.Environ.Microbiol., 56 [7] (1990) p.2251-2254 Biotech.Bioeng., 26 (1984) p.1141-1145 3 FERM P-15236 1997121866 19970513 12 20020826 特許法第30条第1項適用 平成7年7月5日 社団法人日本農芸化学会発行の「日本農芸化学会誌 第69巻臨時増刊号」に発表 高堀 栄二 【0001】【発明の属する技術分野】 本発明は、新規な耐熱性β−ガラクトシダーゼに関し、詳しくは、サーマス・エスピーA4株(FERM P−15236)由来の新規な耐熱性β−ガラクトシダーゼに関するものである。 本発明のβ−ガラクトシダーゼは、温泉の熱水,泥などのサンプルより分離したサーマス属細菌に由来し、本酵素は耐熱性に優れており、食品工業用酵素としてきわめて有用なものである。【0002】【従来の技術および発明が解決しようとする課題】低乳糖牛乳の生産や乳清中に含まれる乳糖の分解を効率よく行うために、固定化β−ガラクトシダーゼを用いた連続乳糖分解システムが開発され、一部で実用化されている。固定化される酵素の性質は、基質である乳糖との親和性が高いとともに、固定化してもその活性を失わず、殺菌処理などによる加熱に耐えうることが望ましい。そこで、種々の好熱性細菌由来のβ−ガラクトシダーゼが検討され、これまでにサーマス(Thermus) 4-1A株( D.A.Cowan et al. Biotech. Bioeng.,26, 1141-1145(1984)), バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus) ATCC 8005 株( H.Hirata et al. J. Bacteriol., 166 (3), 722-727 (1986)、H.Hirata et al. Appl. Environ. Microbiol., 49 (6), 1547-1549 (1985) ) 由来のβ−ガラクトシダーゼが報告されているが、サーマス属細菌の耐熱性β−ガラクトシダーゼについては、アミノ酸レベルやDNAレベルで、その構造が明らかにされたものはまだない。ところで、現在、汎用されているβ−ガラクトシダーゼは、酵母である Kluyveromyces flagilis, Kluyveromyces lactis 、カビである Aspergillus oryzae,Aspergillus niger 由来のものである。これらは、いずれも高収率で生産できるため安価であるが、耐熱性という点ではバチルス・ステアロサーモフィルス由来のものに比べて劣っている。しかし、バチルス・ステアロサーモフィルス由来のβ−ガラクトシダーゼは酵素の収率が低いため、一般に汎用されていない。【0003】そこで、本発明が解決しようとする課題は、耐熱性に優れたβ−ガラクトシダーゼを産生する微生物を探索して、該微生物由来の酵素を精製し、それが効果的に乳糖を分解することを証明することである。また、本発明のサーマス属細菌由来のβ−ガラクトシダーゼは、自然界からスクリーニングされたもので、そのN−末端アミノ酸配列から新規の酵素であることが明らかとなった。さらに、精製した該耐熱性β−ガラクトシダーゼは従来のサーマス属細菌由来のものよりも基質親和性が高く、より実用的なものである。また、本酵素のN−末端アミノ酸配列が決定されたことにより、このアミノ酸配列より推定されるDNA配列をプローブとしてサーマス属及び他属細菌の耐熱性β−ガラクトシダーゼをクローニングすることも可能となった。【0004】【課題を解決するための手段】本発明者らは、まず各地の温泉より採集した熱水や泥などのサンプルよりスクリーニングを行い、β−ガラクトシダーゼ活性の高い微生物菌株を選択した。この菌株の菌学的性質を調べ、本菌はサーマス属細菌であると同定した。次いで、該菌株由来のβ−ガラクトシダーゼを精製し、諸性質を決定すると共に、そのN−末端アミノ酸配列を決定した。相同性検索の結果、従来報告されているバチルス・ステアロサーモフィルス由来のβ−ガラクトシダーゼIとは40.9%の低い相同性が示されたことから、本発明のβ−ガラクトシダーゼは新規な酵素であると確認した。また、この精製酵素は従来のサーマス属細菌由来β−ガラクトシダーゼよりも基質親和性が高いことが証明された。本発明はかかる知見により完成されたものである。【0005】 請求項1記載の本発明は、サーマス・エスピーA4株(FERM P−15236)由来の菌体内酵素で、配列表の配列番号1に記載のN−末端アミノ酸配列を含む新規な耐熱性β−ガラクトシダーゼであり、請求項2記載の本発明は、配列表の配列番号1に記載のN−末端アミノ酸配列を含む耐熱性β−ガラクトシダーゼ産生能を有するサーマス・エスピーA4株(FERM P−15236)である。【0006】【発明の実施の形態】以下に本発明を詳細に説明する。耐熱性に優れたβ−ガラクトシダーゼを産生する微生物の探索は以下のようにして行った。各地の温泉から採集した熱水や泥などのサンプルを、X-gal を含むサーマス属細菌用平板培地に塗沫して70℃で2日間培養し、出現したコロニーのうち青色または緑色を呈しているものを選び、上記と同じ組成の液体培地に移して培養する。培養終了後、培養液から遠心分離などの固−液分離を行って菌体を集めた後、超音波破砕処理,ホモジナイザー処理などによって菌体を破砕して粗酵素液とする。この酵素のo−ニトロフェニルβ−D−ガラクトピラノシド(ONPG)に対するβ−ガラクトシダーゼ活性を測定し、最終的に該β−ガラクトシダーゼ活性が高く、増殖が早い菌株を選択する。このようにして、静岡県の熱川温泉より分離した菌株を選択した。本菌は、好気性のグラム陰性桿菌であり、カロチノイド系と考えられる油溶性の黄色色素を産生することから、サーマス属に属するものと同定した。本菌をサーマスA4株と命名した。本菌は工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託されており、その受託番号はFERM P−15236である。【0007】次に、本発明のβ−ガラクトシダーゼの採取と精製は以下の方法により行うことができる。選択した菌株を、サーマス属細菌用液体培地を用いて大量培養し、培養物から遠心分離等の固−液分離手段によって菌体を回収する。次いで、該菌体をリン酸ナトリウム緩衝液等に懸濁し、適当な破砕手段によって破砕して粗酵素液(cell free extract) とする。この粗酵素液について、ONPGに対する加水分解活性を指標としてβ−ガラクトシダーゼを精製する。まず、上記の粗酵素液を80%飽和の硫安等による硫安塩析を行い沈殿を回収し、該沈殿をトリス−塩酸緩衝液等に分散させた後、同じ緩衝液に対して透析処理を行う。次いで、各種のクロマトグラフィーを用いて分画し、精製する。例えば、イオン交換クロマトグラフィー,ヒドロキシアパタイトカラムクロマトグラフィー,ゲル濾過クロマトグラフィー,疎水性クロマトグラフィー等を適宜組み合わせて精製する。【0008】このようにして精製した後、常法に従って酵素の諸性質を決定する。本酵素のN−末端アミノ酸配列の決定は、例えばプロテインシークエンサーを用いて行うことができる。決定されたN−末端アミノ酸配列を他のβ−ガラクトシダーゼのN−末端アミノ酸配列と比較することが可能である。さらに、所望により本酵素に対して遺伝子工学的改良を加えることにより、より実用的なβ−ガラクトシダーゼを創製することも可能である。【0009】以下に、本発明のβ−ガラクトシダーゼの理化学的性質を示す。(1)作用 ラクトースをガラクトースとグルコースに加水分解する。(2)基質特異性 ラクトース(Km=20mM),ONPG(Km=5.9mM)(3)至適温度 酵素の熱による失活を無視した見かけの至適温度は90℃以上(4)耐熱性 85℃で2時間保温後、75%残存活性(5)至適pH 5.5〜8.0(6)分子量 86kDa(単量体)(7)阻害剤 鉄イオン,銅イオン,PMSF(8)活性剤 マンガンイオン,コバルトイオン,亜鉛イオン,DTT,β−メルカプトエタノール,システイン(9)N−末端アミノ酸配列 配列表の配列番号1記載の通り【0010】【実施例】以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれにより制限されるものではない。実施例1各地の温泉(温度65〜94℃、pH7前後)から熱水およびそれに接している微生物マットなどを採取した。これらをサーマス属細菌用平板培地(1リットル中、4g ポリペプトン、2 g 酵母エキス、1% ラクトース、1 g MgCl2 、10g GELRITE、10ml X−gal溶液(20mg/mlジメチルホルムアミド溶液)、100ml 10×basal salt solution(この溶液1リットル中には6.89g NaNO3 、1.5gCaSO4 ・2H2 O、1.1g NaHPO4 、1.03g KNO3 、1.0g MgSO4 ・7H2 O、1.0g ニトリロ三酢酸、0.08g NaCl、10ml FeCl2 水溶液(0.28g/L)、10ml Nitsch’trace element solutionが含まれている) (なお、Nitsch’trace element solution 1リットル中には2.2g MnSO4 ・H2 O、0.5g ZnSO4 ・7H2 O、0.5gH3 BO4 、0.5ml H2 SO4 、0.046g CoCl2 ・6H2 O、0.025g Na2 MoO4 ・2H2 O、0.016g CuSO4 が含まれている) )に塗沫して70℃で培養した。【0011】2日ほど培養するとコロニーが生じるので、そのうち青−緑色を呈しているもののみを画線分離した。分離により青色を呈さなくなるものもあったが、十分に青色を保っているコロニーを液体培地(先述の平板培地の組成よりMgCl2 とGELRITEを除いたもの)に移して70℃で48時間培養した。培養終了後、培養液を遠心分離して集菌後、菌体を超音波破砕して粗酵素液とし、これのONPGに対するβ−ガラクトシダーゼ活性を測定した。その結果、β−ガラクトシダーゼ活性が高く、増殖が速い菌株(A4株と名付けた)を選択した。本菌株に由来するβ−ガラクトシダーゼを以後A4−β−Galと称することにする。このA4株は静岡県の熱川温泉より分離された菌株で、菌学的性質を調べた結果、好気性のグラム陰性桿菌で、カロチノイド系と考えられる油溶性の黄色色素を産生することから、サーマス属に属するものと認められ、サーマスA4株と命名した。本菌株はFERM P−15236として工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託されている。【0012】実施例2実施例1で得られたA4株(FERM P−15236)を実施例1に示したと同様の液体培地を用いて90リットル容ジャーファーメンターで70℃で2日間培養し、約70リットルの培養液を得た。この培養液よりA4株の菌体を遠心分離によって回収した。遠心分離により得た菌体(約720g、湿物重)のうち半量(360g)を4リットルの50mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)に懸濁し、5℃以下にて約20時間循環させながら連続的に超音波破砕した。これを遠心分離して得た上清(比活性は0.115unit/mg)に80%飽和となるよう硫安を加え、4℃で一晩放置した。生じたタンパク質の沈殿を遠心分離にて回収し、1リットルの50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)に分散させて、同じ緩衝液に対して透析を行った。【0013】透析を終了したサンプル約3リットルを300mlずつQ−Sepharose陰イオン交換クロマトグラフィーで分画した。分画条件は以下の通りである。カラム:Q−SepharoseFF(Pharmacia製)カラムサイズ:Pharmacia XK50 (50×240mm)緩衝液:A:50mM Tris−HCl(pH8.0),0.02% NaN3 B:1M NaCl/緩衝液A溶出:十分に吸着させてから、2時間でNaCl濃度を0Mから1Mまで直線的に上昇させて溶出させた。流速:4ml/minフラクションサイズ:8mlこのようにして活性画分(約960ml)を回収し、Q−Sepharose活性画分(比活性は0.269unit/mg)を得た。これを常法に従い硫安塩析、透析により脱塩濃縮して約600mlにした。【0014】次に、これを50mlずつハイドロキシアパタイトカラムで分画した。条件は以下の通りである。カラム:ギガパイト (生化学工業)カラムサイズ:Pharmacia XK50 (50×70mm)緩衝液:A:10mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.0), 0.02%NaN3 B:500mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.0), 0.02% NaN3 溶出:目的タンパク質はこのカラムと弱い相互作用しか持たないので、十分な量の緩衝液Aを流して目的タンパク質を溶出してから、緩衝液Bの20%、100%のステップワイズで他のタンパク質を溶出した。流速:4ml/minフラクションサイズ:8ml活性画分を回収し、ハイドロキシアパタイト活性画分(約430ml、5.04unit/mg)を得た。【0015】さらに、これを50mlずつMono Q HR10/10カラムを用いたHPLCで分画した。分画の条件は以下の通りである。カラム:Mono Q HR10/10(Pharmacia製)緩衝液:A:50mM Tris−HCl(pH8.0),0.02% NaN3 B:1M NaCl/緩衝液A溶出:十分に吸着させてから、40分間でNaCl濃度を0Mから0.4Mまで直線的に上昇させて溶出させた。流速:4ml/minNaCl濃度が約0.3Mのときに活性のピークが得られたので、この活性画分を回収し、Mono Q活性画分(約115ml、8.10unit/mg)を得た。この際のクロマトグラムを図1に示した。なお、図中の実線はA4−β−Galの相対活性を示し、破線は280nmにおける吸光度を示し、一点鎖線はグラジエントの塩濃度を示す。【0016】Mono Q活性画分を限外濾過(分画分子量30000)によりおよそ10mlまで濃縮してからこれを1mlずつ以下の条件で分画した。カラム:YMC−Pack Diol−300(20×500mm)(YMC)緩衝液:0.1M KH2 PO4 −K2 HPO4 (pH7.0),0.2MNaCl流速:0.3ml/min活性のピークは分子量約86kDaの蛋白質のピークと重なっていた。この活性画分を回収し、ゲル濾過活性画分(約22ml、49.3unit/mg)とした。【0017】ゲル濾過活性画分約22mlに等量の1.7M (NH4)2 SO4 を加えたものを、Phenyl−Superose疎水性クロマトグラフィーにより3mlずつ以下の条件で分画した。カラム:Phenyl−Superose HR5/5(Pharmacia)緩衝液:A:50mM Tris−HCl(pH7.5),0.85M (NH4)2 SO4 ,0.02% NaN3 B:50mM Tris−HCl(pH7.5),,0.02%NaN3 溶出:十分に吸着させた後、B緩衝液の割合を0%から50%に切り替え、さらに50%から100%まで直線的に上昇させて溶出させた。流速:0.6ml/minB緩衝液の割合が100%、すなわち硫安濃度がほぼ0となったときに活性画分が溶出されたので、この活性画分を回収してPhenyl−Superose活性画分(約10ml、48.6unit/mg)を得た。この際のクロマトグラムを図2に示した。なお、図中の実線はA4−β−Galの相対活性を示し、実線は280nmにおける吸光度を示し、矢印で示したピークはA4−β−Galの相対活性のピークと重なっていることを示す。また、破線はグラジエントの緩衝液Bの割合を示す。【0018】以上に述べた精製各段階の総タンパク質量、総活性、比活性、収率、精製倍率を表1に示した。なお、タンパク質濃度および酵素活性の測定は以下の方法により行った。タンパク質濃度はBio−Rad Protein assay(Bio−Rad社製)を用いて測定した。標準にはBovine serum albuminを用いた。【0019】ONPGを基質としたときのβ−ガラクトシダーゼ活性は以下のようにして測定した。キュベット中の反応混合液(50mM リン酸ナトリウム緩衝液 (pH6.5)、1mM MgCl2 、2.8mM ONPG、全量は2.9ml)を70℃に保ち、酵素液を100μl加えて30秒後から1分間の405nmにおける吸光度の変化を測定した。o−ニトロフェノールの405nmにおけるモル吸光係数は3.1×103 M-1cm-1として計算した。なお、精製の途中の段階での各フラクションの活性は簡易的に以下のようにして測定した。測定するフラクションから10μlを96穴マイクロウェルプレートにとり、180μlのバッファー(50mM リン酸ナトリウム (pH6.5)、1 mM MgCl2)を加えた。次に、10μlの10mM ONPGを加えて、すぐに80℃のインキュベーターに入れて15分間おいた。このあとMTP−100マイクロプレートリーダーで405nmにおける吸光度を測定した。対照にはフラクションからの液の代わりに同じバッファーを用いた。なお、ONPGと同様にp−ニトロフェニルβ−D−ガラクトピラノシド(PNPG)もβ−ガラクトシダーゼの基質として用いられる。【0020】乳糖を基質としたときのβ−ガラクトシダーゼ活性は以下のようにして測定した。反応混合物(10−100mM ラクトース、10mM リン酸ナトリウム緩衝液 (pH6.5)、酵素液、全量は1ml)を70℃で1時間反応させ、反応前と反応後のラクトースの量の変化をイオンクロマトグラフィー(DIONEX社製,DX3000型) で測定した。測定条件は以下の通りであった。カラム:Carbo−pak PA−100移動相:150mM NaOH流速:0.8ml/min検出器:PAD【0021】【表1】【0022】Phenyl−Superose分画までの精製によってA4−β−Galは423倍にまで精製され、次に記すSDS−PAGEによりほぼ純品であることが確認された。そこで、このPhenyl−Superose活性画分を用いて酵素の諸性質を調べた。【0023】(1)SDS−PAGEによる分子量の推定ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)はLaemmli(U.K.Laemmli Nature (London), 227, 680-685 (1970)) の方法に準じて行い、クマシーブリリアントブルーR−250染色で可視化した。すなわち、精製各段階のサンプルをタンパク質濃度が約1mg/mlとなるように調製し、常法に従ってSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行い、クマシーブリリアントブルーで染色した。精製各段階のサンプルをSDS−PAGEにかけたものを図3に示した。なお、図中レーン1は分子量マーカー、レーン2は菌体破砕物の上清、レーン3はQ−Sepharoseで分画した活性画分、レーン4はハイドロキシアパタイトで分画した活性画分、レーン5はMono−Qで分画した活性画分、レーン6はゲル濾過で分画した活性画分、レーン7はPhenyl−Superoseで分画した活性画分、レ−ン8は逆相HPLCで精製した際のメインピークをそれぞれ示している。ここで、A4−β−Galは分子量がおよそ75kDaの位置にバンドを形成した。一方、ここには示さないが、ゲル濾過分画の際、A4−β−Galの分子量はおよそ86kDaと見積もられた。これらのことから、A4−β−Galは分子量が約86kDaの単量体であると推定した。SDS−PAGEにおいて分子量が低く見えるのはA4−β−Galの疎水性が大きいためと考えられる。【0024】(2)ミカエリス定数A4−β−Galのミカエリス定数(Km)は、初期基質濃度を変化させたときの反応初速度の変化を測定し、Lineweaver−Burkプロットを用いて算定した。ONPGに対するKm値は5.9mM、乳糖に対するKm値は20mMであった。なお、第2表に比較としてサーマス4−1A株( D.A.Cowan et al. Biotech. Bioeng.,26, 1141-1145(1984))、バチルス・ステアロサーモフィルスATCC8005株( H.Hirata et al. J. Bacteriol., 166 (3), 722-727 (1986)、H.Hirata et al. Appl. Environ. Microbiol., 49 (6), 1547-1549 (1985) のβ−ガラクトシダーゼのミカエリス定数も示した。【0025】【表2】【0026】(3)温度依存性A4−β−Galの温度依存性は、活性測定時に反応混合液を70℃に保つ代わりにそれぞれの目的温度に保って測定することで決定した。80℃以上ではONPGの熱分解が起こるので、酵素液の代わりに50mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)を100μl加えて同様に測定した値を用いて補正した。この条件下でのA4−β−Gal酵素の熱による失活を無視した見かけの至適温度は90℃以上であった。【0027】(4)pH依存性A4−β−GalのpH依存性は、活性測定時に反応混合液中の50mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)に代えて目的のpH緩衝液を加えて同様に測定することにより決定した。緩衝液には、50mM クエン酸ナトリウム緩衝液 (pH3.5〜6.0)、50mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH5.5〜8.0) 、50mM グリシン−ナトリウム緩衝液(pH8.0〜9.0)を用いた。その結果、A4−β−Galの至適pHはおよそ5.5〜8.0であった(図4参照)。なお、図中の─●─はクエン酸ナトリウム緩衝液、─■─はリン酸緩衝液、─▲─はグリシン−NaOH緩衝液を用いたときの結果を示した。【0028】(5)耐熱性A4−β−Galの耐熱性は、酵素液を目的温度で規定した時間保温し、保温終了後すぐに70℃で残存活性を測定することで決定した。A4−β−Galは85℃までであれば2時間保温した後も75%以上の活性を保持していることが明らかになった(図5参照)。なお、図中の─●─は75℃,─■─は80℃,─▲─は85℃,─◆─は90℃,─▼─は95℃のときの結果を示した。また、70℃では20時間保温後も活性の低減が見られなかった。【0029】(6)各種金属イオン、阻害剤による影響二価の金属イオン(Mn,Mg,Fe,Zn,Cu)は最終1mM、阻害剤(EDTA, PMSF, DTT,β−メルカプトエタノール, システイン, ヨード酢酸)は最終10mMとなるように反応混合液に添加し、通常通り活性測定を行った。その結果、マンガンイオン,コバルトイオン,亜鉛イオン,DTT,β−メルカプトエタノールおよびシステインはA4−β−Galを活性化した。鉄イオン,銅イオン,PMSFはA4−β−Galを阻害したが、ヨード酢酸による阻害はみられなかった(図6(a), (b)参照)。なお、図中の(a)は金属イオンによる影響を、(b)は阻害剤による影響を示した。【0030】実施例3A4−β−GalのN−末端アミノ酸配列を決定するため、逆相HPLCによる精製を以下の条件で行った。メインのピークを回収し、そのままプロテインシークエンサーにかけた。【0031】A4−β−GalのN−末端アミノ酸配列は、逆相HPLCで精製したA4−β−Galサンプルを常法に従い473A Protein Sequencer(Applied Biosystems)で分析して決定した。その配列を配列表の配列番号1(ただし、Xは決定できなかったアミノ酸残基を示す。)に示す。N−末端より15残基目までが決定できたが、そのうち1残基(5番目)は決定できなかった。このアミノ酸配列とこれから推定されるDNA配列についてデータベース(NBRF−PIR,Release 43.0)に登録されている配列との相同性検索を行ったところ、バチルス・ステアロサーモフィルスのβ−ガラクトシダーゼI(アクセッションナンバーA29836)のN−末端部分と40.9%の相同性があることが判明した(図7参照)。【0032】【発明の効果】 本発明により、サーマス属細菌の産生する菌体内酵素であり、配列表の配列番号1に記載のN−末端アミノ酸配列を含む新規なβ−ガラクトシダーゼが提供される。さらに、このアミノ酸配列から推定されるDNA配列を用いて、サーマス属及び他の属の細菌等から相同性のあるβ−ガラクトシダーゼをクローニングすることが可能となり、実用的なβ−ガラクトシダーゼの創製に貢献できる。このβ−ガラクトシダーゼは耐熱性に富むので、食品工業用酵素として有用である。【0033】【配列表】【0034】配列番号:1配列の長さ:15アミノ酸残基,うち1残基は未決定配列の型:アミノ酸配列の種類:ペプチド配列の特徴 Thermus sp.A4 株由来のβ−ガラクトシダーゼのN-末端アミノ酸の配列存在位置:N-末端配列Met-Leu-Gly-Val-X-Tyr-Tyr-Pro-Glu-His-Trp-Pro-Lys-Glu-Arg【図面の簡単な説明】【図1】 Mono−Qカラムクロマトグラフィーのクロマトグラムを示した図である。【図2】 Phenyl−Seperoseクロマトグラフィーのクロマトグラムを示した図である。【図3】 SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果を示した写真である。【図4】 A4−β−GalのpH依存性を示した図である。【図5】 A4−β−Galの耐熱性を示した図である。【図6】 (a)はA4−β−Galの金属イオンによる影響を、(b)はA4−β−Galの阻害剤による影響を示した図である。【図7】 A4−β−Galと B. stearothermophilus由来のβ−ガラクトシダーゼIとのN−末端アミノ酸配列を比較した図である。 サーマス・エスピーA4株(FERM P−15236)由来の菌体内酵素で、配列表の配列番号1に記載のN−末端アミノ酸配列を含む新規な耐熱性β−ガラクトシダーゼ。 配列表の配列番号1に記載のN−末端アミノ酸配列を含む耐熱性β−ガラクトシダーゼ産生能を有するサーマス・エスピーA4株(FERM P−15236)。 サーマス・エスピーA4株(FERM P−15236)を培養し、培養物から請求項1記載の耐熱性β−ガラクトシダーゼを採取することを特徴とする新規な耐熱性β−ガラクトシダーゼの製造法。


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