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タイトル:特許公報(B2)_過酸化水素の測定方法、その方法を用いた過酸化水素測定センサーおよびその製造方法
出願番号:1995281603
年次:2005
IPC分類:7,G01N27/416,G01N27/327


特許情報キャッシュ

松田 十四夫 白石 晴樹 吉田 真三 JP 3699756 特許公報(B2) 20050715 1995281603 19951030 過酸化水素の測定方法、その方法を用いた過酸化水素測定センサーおよびその製造方法 アークレイ株式会社 000141897 青山 葆 100062144 柴田 康夫 100083356 鮫島 睦 100100158 松田 十四夫 白石 晴樹 吉田 真三 20050928 7 G01N27/416 G01N27/327 JP G01N27/46 311K G01N27/30 353R G01N27/46 338 7 G01N 27/416 G01N 27/327 特開平2−57958(JP,A) 特開昭56−037549(JP,A) 特開平03−113360(JP,A) 特開昭58−129245(JP,A) 特開平05−203608(JP,A) 特開平08−304327(JP,A) 特開平09−101280(JP,A) 17 1997127053 19970516 13 20020816 黒田 浩一 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、溶液または分散液、例えば血液、尿等の生体試料や食品試料等の液体試料中の成分の測定に使用できる過酸化水素の濃度の測定方法、およびそれに使用する過酸化水素測定センサーとその製造方法に関する。【0002】【従来の技術】溶液中のある特定の物質(被測定物質)の量(従って、その濃度)を測定する方法として、試薬や酵素等を用いて、それと被測定物質との反応に関与する過酸化水素の量を測定することによって、間接的に被測定物質の量(従って、その濃度)を測定する方法が広く知られている。例えば、下記の式(1)の反応を触媒する酸化酵素を用いて、基質(S)を酸化し、生成した過酸化水素(H2O2)の量を測定することにより、基質(S)の量を測定することができる。式(1)中、PはSからの生成物である。酵素S + O2 → P + H2O2 (1)【0003】また、生成する過酸化水素の量の測定方法としては、過酸化水素測定センサーを用いて過酸化水素を酸化し、その時の酸化電流値を測定する、電気化学的方法が知られている。従来の過酸化水素測定センサーは、銀/塩化銀電極(飽和KCl)の参照電極に対して0.6V程度の一定の電位を、白金よりなる測定電極(アノード)に印加し、過酸化水素を測定電極で酸化して、得られる酸化電流を測定している。しかし、この測定方法では、過酸化水素を酸化することができる電位を印加するため、その印加電位以下の電位で測定電極上で酸化される物質、従って、過酸化水素の酸化電位以下の電位で測定電極上で酸化される物質、例えばアスコルビン酸や尿酸等の物質が被測定液体試料中に共存している場合、これら共存物質も同時に酸化され、その酸化電流により、測定される過酸化水素量に誤差が含まれるという問題点がある。【0004】前記問題点を回避する方法として、例えば、特公平3−38540号公報に開示されているように、過酸化水素に対して選択性の透過膜で測定電極を被覆し、過酸化水素以外の測定電極により酸化され得る物質が測定電極に到達することを防ぎ、共存物質の酸化電流による妨害を防ぐことが可能である。しかしながら、このような過酸化水素選択性透過膜で測定電極を被覆する方法では、その膜がある種の抵抗層の作用をするので過酸化水素に対する電極の感度低下が起こるという問題点がある。また、従来の過酸化水素測定センサーは、電極材料に高価な白金を使用するので、電極の製造コストが高くなる問題点もある。【0005】【発明が解決しようとする課題】従って、本発明の課題は、これらの問題点を解決し、過酸化水素の酸化電位以下の電位で測定電極上で酸化される他の物質が被測定液体試料中に共存していても、それら共存物質の妨害を受けることなく、過酸化水素に対しても感度低下を起こすことなく高感度であり、また、精度良く過酸化水素を測定できる、被測定液体試料中の過酸化水素の量の測定方法、その測定方法に用いる過酸化水素測定センサー、およびその過酸化水素測定センサーの安価で簡易な製造方法を提供することである。【0006】【課題を解決するための手段】本発明の第1の要旨において、上記課題は、過酸化水素と測定電極との間で電子伝達メディエータとして作用する物質を使用する、液体試料中の過酸化水素の濃度を測定する方法であって、液体試料中の過酸化水素により電子伝達メディエータを酸化して、測定電極により酸化された電子伝達メディエータを電気化学的に還元してその際に得られる還元電流または電気量を測定することを特徴とする過酸化水素濃度の測定方法により解決できることが見いだされた。【0007】本明細書において、「電気化学的に還元してその際に得られる還元電流または電気量を測定する」こと自体は当業者に周知の工程であり、基本的には、物質(本発明においては、酸化された電子伝達メディエータ)の電気化学的還元に際して生成する還元電流または電気量が存在する物質の量に依存することを利用して、試料中のその物質の存在量を測定する方法を意味する。このような電気化学的測定方法は、例えばポテンシャルステップクロノアンペロメトリーやダブルポテンシャルステップクロノアンペロメトリー等のクロノアンペロメトリー、パルスアンペロメトリー、ノーマルパルスボルタンメトリー、デファレンシャルパルスボルタンメトリー、サイクリックボルタンメトリー、カソーディクボルタンメトリー、ポーラログラフィー、ポテンシャルステップクロノクーロメトリーやダブルポテンシャルステップクロノクーロメトリー等のクロノクーロメトリー等の方法を用いることができる。【0008】尚、本発明の方法では、電気化学的測定方法により測定の直接の対象となる物質は、過酸化水素自体ではなく、液体試料中に存在する過酸化水素により酸化された電子伝達メディエータである。この酸化された電子伝達メディエータの量は、測定すべき液体試料中の過酸化水素の濃度と一定の依存関係(通常、過酸化水素の濃度が高い程、酸化された電子伝達メディエータの濃度が高くなる傾向にある)を有する。従って、酸化された電子伝達メディエータを還元することができる電位を測定電極に印加してその際に得られる還元電流または電気量を測定することによって、酸化された電子伝達メディエータの量が判り、上記依存関係に基づいて液体試料中の過酸化水素濃度を求めることができる。【0009】具体的には、本発明の方法に基づく過酸化水素濃度の測定に際して、測定すべき液体試料と同じ系であって、過酸化水素濃度が既知の試料(通常、過酸化水素濃度が異なる複数の試料)を用いて、過酸化水素濃度と電子伝達メディエータの酸化および電気化学的な還元により得られる電流との関係(いわゆる検量線であり、この関係は、電子伝達メディエータを媒介とする過酸化水素濃度と還元電流との関係である)を予め求めておく。次に、濃度が未知の試料についても同様に得られる還元電流または電気量を測定する。そして、この測定電流または電気量と上記関係から、測定すべき試料中の過酸化水素濃度を求めることができる。最終的に過酸化水素濃度の値を得るには、検量線のグラフから読み取ることによりマニュアル的に行うこともでき、また、マイコンを用いる一般的なデータ処理法により実施することもできる。【0010】本明細書において、液体試料とは、測定すべき物質、例えば過酸化水素を含む液体や酵素反応の基質となる物質を含む試料やそれらの希釈液であり、これは、溶液であっても、あるいは分散液であってもよい。具体的には、血液、尿、血清、血漿、漂白剤、殺菌剤、洗浄剤、果汁、清涼飲料水、それらの希釈液などを例示できる。従って、本発明において、「電子伝達メディエータ」(以下、単に「メディエータ」とも呼ぶ)とは、過酸化水素により化学的に酸化され、かつ、電極において還元される物質のことを意味する。【0011】本発明の方法では、還元電流を測定するので、過酸化水素の酸化電位以下の電位で測定電極にて酸化される物質が液体試料中に共存していても、これら共存物質の酸化電流による妨害を受けることなく、また、過酸化水素選択性膜で測定電極を被覆する必要がないため、その膜による過酸化水素に対する感度低下を起こすことなく、高感度で、精度良く過酸化水素を測定することができる。特に、生体に由来する液体試料は、電気化学的に酸化される物質を比較的多く含み、他方、電気化学的に還元される物質をそれほど含まないので、還元電流を測定する本発明の方法には好都合である。【0012】尚、本発明の方法において還元電流または電気量を測定する際には、液体試料液中に含まれている酸素が還元され、その還元電流または電気量の影響を受けることが有り得る。そのような場合、測定電極による酸素の還元反応の起こらない範囲の電位にて還元電流または電気量を測定すれば、この問題点を回避できる。液体試料中の酸素を測定する場合には、標準水素電極に対して−0.4Vより小さい電位が用いられている現状を考慮すると、標準水素電極に対する電位として−0.4Vより高い(即ち、−0.4Vより正側)範囲の電位、例えば、−0.2〜+0.5V、好ましくは0〜+0.4V、より好ましくは+0.2〜+0.3Vの範囲の電位で還元電流または電気量を測定するのが好ましい。【0013】例えば、25℃にて参照電極に銀/塩化銀電極(飽和KCl)を用いた時には、銀/塩化銀電極(飽和KCl)の電位は、標準水素電極に対して+0.199Vであるので、銀/塩化銀電極(飽和 KCl)の参照電極に対して−0.599V以上、例えば、−0.399〜+0.301V、好ましくは−0.199〜+0.201V、より好ましくは+0.001〜+0.101Vの範囲の電位で還元電流または電気量を測定するのが望ましい。後述する実施例を参照すると、銀/塩化銀電極(飽和KCl)の参照電極に対して+0.02Vの電位で還元電流または電気量を測定すれば十分である。【0014】また、25℃にて参照電極に飽和カロメル電極(以下SCEと略す)を用いた時には、SCEの電位は標準水素電極に対して+0.2412Vであるので、SCEの参照電極に対して−0.6412V以上、例えば−0.4412〜+0.2588V、好ましくは−0.2412〜+0.1588V、より好ましくは−0.0412〜+0.0588Vの範囲の電位で、還元電流または電気量を測定するのが望ましい。後述する実施例を参照すると、SCEの参照電極に対して0Vの電位で還元電流または電気量を測定すれば十分である。【0015】本発明に用いられるメディエータとしては、過酸化水素により化学的に酸化され、測定電極において、還元できる物質であれば特に制限はない。しかしながら、銅化合物がメディエータとして適していることが見いだされた。種々の銅化合物を検討した結果、中でも、プリン誘導体と銅の錯体またはピリミジン誘導体と銅の錯体が、過酸化水素との反応性および電極反応の可逆性が良く、本発明のメディエータとしては特に好ましい。とりわけ、銅とアデニン誘導体の錯体または銅とグアニン誘導体の錯体は、安定性も顕著に良く、メディエータとして特に適していることも見い出された。【0016】これらのメディエータは、単独でも、あるいは2以上の混合物の形態でも使用することも可能である。本発明において、プリン誘導体としては、アデニン、グアニン、尿酸、カフェイン、テオブロミン、テオフィリン、キサンチン、ヒポキサンチン、プリン、プリンヌクレオシド、プリンヌクレオチドなどを例示できるが、銅と錯体を形成し、過酸化水素と電極間の電子伝達メディエータとして作用する物質となるプリン誘導体であれば、特に限定されることはない。【0017】本発明において、ピリミジン誘導体としては、シトシン、ウラシル、チミン、5−メチルシトシン、オキシメチルシトシン、ピリミジン、ピリミジンヌクレオシド、ピリミジンヌクレオチドなどを例示できるが、銅と錯体を形成し、過酸化水素と電極間の電子伝達メディエータとして作用する物質となるピリミジン誘導体であれば、特に限定されることはない。【0018】本発明において、アデニン誘導体としては、7−メチルアデニン、9−メチルアデニン、3−メチルアデニン、アデニンなどを例示できるが、銅と錯体を形成し、過酸化水素と電極間の電子伝達メディエータとして作用する物質となるアデニン誘導体であれば、特に限定されることはない。本発明において、グアニン誘導体としては、7−メチルグアニン、9−メチルグアニン、3−メチルグアニンなどを例示できるが、銅と錯体を形成し、過酸化水素と電極間の電子伝達メディエータとして作用する物質となるグアニン誘導体であれば、特に限定されることはない。【0019】上述の銅との錯体に加えて、本発明においてメディエータとして使用できる銅化合物としては、テトラキス(アセトニトリル)銅ヘキサフルオロリン酸塩、テトラキス(アセトニトリル)銅過塩素酸塩、ジプロペニル銅酸リチウム、銅t−ブチルアセチリド、メチルビス(トリフェニルホスフィン)銅、メチル(2,2’−ビピリジン)銅、ビス(2,2’−ビピリジン)銅過塩素酸塩、メシチル銅、テトラキス(トリメチルシリルメチル)四銅、テトラクロロテトラキス(トリフェニルホスフィン)四銅、ヒドリド(トリフェニルホスフィン)銅、ニトラトビス(トリフェニルホスフィン)銅、テトラヒドロホウ酸ビス(トリフェニルホスフィン)銅、シクロペンタジエニル(トリエチルホスフィン)銅、シクロペンタジエニル(トリフェニルホスフィン)銅、ペンタメチルシクロペンタジエニル(トリフェニルホスフィン)銅、シクロペンタジエニル(イソシアン化t−ブチル)銅、ビス{ビス(トリメチルシリル)アセチレン}ジクロロ二銅、(シクロペンタジエニル){ビス(トリメチルシリル)アセチレン}銅、カルボニル{ヒドロトリス(ピラゾリル)ホウ酸}銅、カルボニル(ジエチレントリアミン)銅テトラフェニルホウ酸塩、(エチレン)(ジ−2−ピリジルアミン)銅過塩素酸塩、ビス(1,5−シクロオクタジエン)銅過塩素酸塩、ジクロロ(1,3−ブタジエン)二銅、ビス(1−メチルピラゾール)銅テトラフルオロホウ塩、テトラキス(ピリジン)銅過塩素酸塩、ペンタクロロ銅酸ヘキサアンミンクロム、ヘキサニトロ銅酸鉛カリウム、ジカルボナト銅酸ナトリウム三水和物、ビスオキサラト銅酸カリウム二水和物、トリス(μ−イソチオシアナト)ジアンミン銅銀、テトラアンミン銅硫酸塩一水和物、テトラアンミン銅硝酸塩、トリス(エチレンジアミン)銅硫酸塩、トリス(エチレンジアミン)銅硝酸塩二水和物、ビス(エチレンジアミン)銅硝酸塩二水和物、ビス(エチレンジアミン)銅硫酸塩二水和物、塩化ビス(エチレンジアミン)銅二水和物、エチレンジアミンアクア銅硫酸塩一水和物、テトラキス(イミダゾール)銅過塩素酸塩、テトラキス(イミダゾール)銅硫酸塩、テトラキス(ピリジン)銅硝酸塩、ヘキサキス(ピリジン N−オキシド)銅過塩素酸塩、テトラキス(ピリジン N−オキシド)銅過塩素酸塩、ジクロロビス(ピリジン N−オキシド)銅、テトラキス(トリメチルホスフィンオキシド)銅過塩素酸塩、ジクロロビス(トリフェニルホスフィンオキシド)銅等の銅錯体や、フッ化銅、フッ化銅二水和物、塩化銅、塩化銅二水和物、塩素酸銅六水和物、過塩素酸銅六水和物、臭化銅、ヨウ化銅、酸化銅、水酸化銅、硫化銅、硫酸銅、硫酸銅五水和物、セレン化銅、セレン化銅五水和物、アジ化銅、硝酸銅三水和物、リン化銅、リン酸銅三水和物、ヒ化銅、ヒ酸銅四水和物、炭酸銅、炭酸二水酸化二銅、シアン化銅、チオシアン酸銅、ヘキサフルオロケイ酸銅四水和物、テトラフルオロホウ酸銅四水和物、テトラクロロ銅酸アンモニウム、酢酸銅、酢酸銅一水和物、シュウ酸銅一水和物、ビス(オキサラト)銅酸カリウム二水和物、ビス(2,4−ペンタンジオナト)銅、ビス(グリシナト)銅一水和物、テトラアンミン銅硫酸塩一水和物、ビス(エチレンジアミン)銅硫酸塩二水和物、ヨード(ピリジン)銅、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)銅、テトラシアノ銅酸カリウム、ジメチル銅酸リチウム、フェニル銅、(フェニルエチニル)銅、などを例示できるが、過酸化水素と電極間の電子伝達メディエータとして作用する銅化合物であれば、特に限定されることはない。【0020】メディエータは、測定電極により電気的に還元され得る位置に存在する必要がある。より好ましい態様では、メディエータは測定電極に実質的に隣接しているのが好ましい。本発明の方法は、後述する本発明の過酸化水素センサーを既存の電気化学的測定システムに組み込んで、センサーを測定すべき液体試料に浸けることにより実施するのが好ましい。メディエータが測定電極に隣接して配置されることにより、従来技術のセンサーのように過酸化水素に対して抵抗となる層が実質的に存在しないので、センサーの測定感度および精度が向上する。【0021】本発明の測定方法は、過酸化水素の酸化電流を測定して直接的に過酸化水素の量を求めるのではなく、メディエータを介在させることによって酸化されたメディエータの還元電流を電気化学的に測定する(従って、間接的に過酸化水素の量を求める)ことに特徴があり、この方法の実施に当たって必要となるその他の技術的事項(例えばセンサーを除く電気化学的方法による測定システム、測定条件等)は、当業者に知られた事項であり、本明細書においては省略する。第2の要旨において、本発明は、上記第1の要旨の過酸化水素の測定方法に使用する、メディエータが測定電極に隣接して配置されている過酸化水素測定センサーを提供する。【0022】本発明のセンサーにおいて、測定電極の電極材料として使用する材料は、電子伝導性物質から形成された集電性材料であれば特に制限はない。具体的には、カーボン材料、白金、金、パラジウム、オスミウム、銀、イリジウム等を使用できる。種々の材料を検討した結果、カーボン材料が、安価であり、また、電位窓が広く、更に、化学的にも安定であるので、本発明の過酸化水素測定センサーの電極材料としては、カーボン材料が特に好ましいことが見い出された。【0023】使用できるカーボン材料は、特に限定されるものではなく、従来からカーボン電極において使用されているものであればよい。例えば、グラファイト、パイロリティクグラファイト(熱分解黒鉛)、グラッシーカーボン、カーボンペースト、カーボンファイバーを使用できる。【0024】メディエータは、多孔性膜に担持されるのが好ましく、この多孔性膜が電極に隣接して配置され、その結果、メディエータが測定電極に隣接して配置される。本発明のセンサーに用いられる多孔性膜としては、メディエータを担持でき、メディエータと過酸化水素との反応を阻害せず、また、測定電極とメディエータとの電気化学的還元を阻害しない微細孔を有する膜であれば特に制限はない。通常、孔径0.01〜100μm、好ましくは0.1〜10μmの微細孔を有する膜であることが望ましい。後述するように、メディエータはこの多孔膜の主として微細孔内および露出表面に担持(例えば吸着)される。【0025】膜の厚さは、メディエータが過酸化水素により酸化され、また、還元されるために測定電極に実質的に隣接することが望ましい点を考慮すると、使用に際して強度的に問題が生じない範囲で薄いのが好ましく、例えば、1〜1000μm、好ましくは10〜200μm程度の厚さの膜を使用するのが好ましい。【0026】尚、本発明において、「メディエータが測定電極に隣接して配置される」における「隣接」とは、メディエータが測定電極に直接的に接触している状態および還元電流を測定できる範囲内の距離で測定電極から離れている状態の双方またはいずれかの状態を含む。この接触状態においては、少なくとも一部分のメディエータが電極に接触していれば十分であり、全てのメディエータが測定電極に接触する必要は必ずしもない。また、この離れた状態においては、少なくとも一部分のメディエータが測定電極から離れていれば十分であり、全てのメディエータが測定電極から離れている必要はなく、メディエータの還元電流を測定できる状態であればよい。従って、メディエータの一部分が測定電極と接触し(即ち、測定電極により担持され)、残りのメディエータが測定電極から離れている態様も本願発明における「メディエータが測定電極に隣接して配置される」状態に含まれる。【0027】従って、多孔性膜を測定電極上に配置した場合、測定電極側と反対側の主表面および膜の孔内に担持されているメディエータは測定電極には接触していないが、この場合であっても、還元電流を測定できる限り、本発明では、メディエータが測定電極に隣接して配置されている状態に含まれる。別法では、メディエータを測定電極に直接的に担持して使用することができる。【0028】種々の材質の多孔性膜を検討した結果、本発明のセンサーに使用する多孔性膜の材質としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、セルロースアセテート、ニトロセルロース、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等の高分子素材が適していた。【0029】1つの好ましい態様の本発明の過酸化水素測定センサーを、図1に模式的に断面図にて示す。本発明のセンサー10は、銅リード線12が接続されたカーボン電極14をガラス管16内に有して成り、カーボン電極14の露出面に隣接してメディエータを担持した多孔性膜18が配置されている。この多孔性膜18は、いずれかの適当な手段、例えば弾性材料(例えばテフロン材料)の環状キャップ20によってガラス管16の端部にて電極14に隣接した状態で保持されている。【0030】図示した態様では、判り易くするために、電極14と多孔性膜18との間、また、ガラス管16と多孔性膜18との間に空隙が存在するように描いているが、これらの空隙は実際には実質的に存在しない。図示した態様からも明らかなように、本発明に基づけば、過酸化水素測定センサーの構造を非常に簡単なものにすることができ、しかも、測定に際して、メディエータは液体試料に接触し、また、メディエータは測定電極に隣接しているので、従来技術のセンサーの膜の存在による問題点は解決される。【0031】第3の要旨において、本発明は、第2の要旨の過酸化水素測定センサーの製造方法であって、メディエータを多孔性膜に担持させ、この多孔性膜を測定電極に隣接して配置して、それによって、センサーの使用に際して、測定電極が過酸化水素により酸化されたメディエータを電気化学的に還元できるようにすることを特徴とする過酸化水素測定センサー、特に精度および安定性の良い過酸化水素測定センサーの製造方法を提供する。【0032】メディエータを多孔性膜に担持させるには、いずれの適当な方法を用いてもよい。特に好ましい方法では、メディエータを含む溶液または分散液に多孔性膜を浸漬し、必要に応じて洗浄し、その後、膜を乾燥するか、メディエータを含む溶液または分散液を多孔性膜に塗布もしくは滴下し、その後、膜を乾燥することにより、メディエータを多孔性膜の主として微細孔内およびその露出表面に担持させる、即ち、メディエータを多孔性膜に結合、例えば吸着させる。【0033】メディエータを含む溶液または分散液に使用する溶媒は、メディエータを溶解または均一に分散できるのであれば特に限定されないが、例として、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトニトリル、アセトンを挙げることができる。また、メディエータを含む溶液または分散液中のメディエータの含有量も特に限定されるものではなく、適当に選択できる。通常、0.01〜50wt/v%、好ましくは 0.1〜10wt/v%、例えば2.0wt/v%の溶液を使用すれば十分である。分散液となる場合は、メディエータは、多孔性膜の孔内への担持までもが十分となるように微細な粉末であることが好ましい。【0034】このようにメディエータを担持させるために溶液または分散液を使用する場合、多孔性膜は、使用する溶媒に対して耐性を有するのが好ましく、また、長期保存安定性を有するのが好ましい。このような観点からも、一般的には上述のような多孔性膜材料が好ましい。【0035】本発明のセンサーの製造方法では、メディエータを多孔性膜に担持させて、それを測定電極に隣接して配置することによって、測定電極とメディエータを実質的に隣接関係で容易に保持することができるという利点がある。従って、上述のような本発明の過酸化水素測定センサーおよびその製造方法に基づけば、簡単な構造のセンサーが容易にできるので、安価に電極を提供することが可能である。【0036】本発明は、過酸化水素を含む液体試料中の過酸化水素の濃度の測定に用いることができる他に、前記の式(1)の反応を触媒する酸化酵素を用いて、液体試料中の基質を酸化し、その際に生成した過酸化水素(H2O2)量を測定し、測定された過酸化水素濃度に基づいて、液体試料中の基質濃度(従って、基質量)を測定することに利用できる。即ち、過酸化水素を生成する基質の濃度を測定することに利用できる。これは、過酸化水素濃度と基質濃度との間には特定の関係があり、従って、この関係を予め求めておけば、測定された過酸化水素濃度から一義的に基質濃度を推定できるからである。このような関係は、先に説明した過酸化水素濃度と還元されるメディエータとの関係と同様である。実際的には、過酸化水素濃度を媒介変数とすることにより、基質濃度と還元されるメディエータ量(従って、還元電流または電気量)との間で直接的な一義的な関係を、基質濃度が既知の試料について測定を実施して、予め検量線として求めておく。その後、基質濃度が未知の試料について、還元電流または電気量を測定し、測定値と検量線から基質濃度を求める。【0037】このような基質と酵素との組み合わせの例としては、グルコースとグルコースオキシダーゼ、コレステロールとコレステロールオキシダーゼ、尿素とウリカーゼ、乳酸と乳酸オキシダーゼ、アルコールとアルコールオキシダーゼ、ピルビン酸とピルビン酸オキシダーゼ、D−アミノ酸とD−アミノ酸オキシダーゼ、L−アミノ酸とL−アミノ酸オキシダーゼ、ガラクトースとガラクトースオキシダーゼ、NADHとNADHオキシダーゼ等があげられるが、過酸化水素を生成する酵素と基質との反応であれば、制限されることはない。【0038】更に、本発明の過酸化水素の測定方法を利用して、過酸化水素を生成または消失する反応を触媒する酵素の酵素活性を、生成または消失した過酸化水素を測定することにより評価することもできる。その他にも、本発明は、試薬や酵素等を用いて、被測定物質の反応に関与する過酸化水素を測定することによって、間接的に被測定物質の濃度を測定することに利用することができる。【0039】【実施例】添付図面を参照して、実施例により本発明を更に具体的に説明する。実施例1(アデニン銅錯体の合成)14.8mmolのアデニンを150mlの0.1N−NaOH水溶液に溶解した溶液に、50mlの0.2N−CuSO4水溶液を少しづつ撹拌しながら加えた。室温で1日放置後、ガラス濾過器を用いて吸引濾過して、生成した結晶を分離した。得られた結晶を水とエタノール(1:1体積比)の混合溶媒で再結晶し、アデニン銅錯体の結晶を得た。【0040】実施例2(アデニン銅錯体を吸着させた多孔性膜の作製)孔径1μmのPTFE製メンブランフィルター材料(厚さ100μm、日本ミリポアリミテッド社製、商品名:オムニポアメンブレン JAWP 047 00)上に、実施例1にて得たアデニン銅錯体の2.0wt/v%エタノール溶液5μlを滴下して浸透させた後、常温で乾燥して、過酸化水素と電極間の電子伝達メディエータとして作用するアデニン銅錯体をフィルター材料表面およびその孔内に吸着させた多孔性膜を得た。【0041】実施例3(過酸化水素測定電極の作製)図1に模式的に示す本発明に係る過酸化水素測定センサー10を作製した。内径3mmガラス管16の中に、銅リード線12を接続した電極としてのグラッシーガーボン(東海カーボン社製、商品名:GC−30S)14を配置し、その先端に、実施例2において作製した多孔性膜18をテフロンキャップ20を用いて装着し、アデニン銅錯体を電極に隣接して配置した過酸化水素測定センサー10を得た。【0042】実施例4(過酸化水素に対する電極の応答性の確認)実施例3において作製した過酸化水素測定センサーを、0.5Mの硝酸カリウムを含むpH5.0のBritton−Robinsonの緩衝液(25℃)に入れ、電位掃引速度5mV/秒でサイクリックボルタモグラムを測定した結果を図2の(a)に示す(参照電極:銀/塩化銀電極(飽和KCl))。尚、センサーを除いて、電気化学的に還元電流を測定するシステムとして、ポテンショスタット(扶桑製作所社製、商品名:MODEL 312)、電位走査ユニット(扶桑製作所社製、商品名:MODEL 1104)、X−Yレコーダ(グラフテック社製、商品名:WX2400)を用いた。【0043】次に、0.5mMの過酸化水素と0.5Mの硝酸カリウムを含むpH5.0のBritton−Robinnsonの緩衝液(25℃)を用いて、上記(a)の場合と同様にしてサイクリックボルタモグラムを測定した結果を図2の(b)に示す。図2から明らかなように、過酸化水素の添加により還元電流が増加することが認められる。また、曲線(b)から還元ピーク電位は、銀/塩化銀電極(飽和 KCl)の参照電極に対して+0.02Vであった。【0044】実施例5(過酸化水素の検量線の作成)実施例3において作製した過酸化水素測定センサーを、0〜3mMの種々の濃度の過酸化水素と0.5Mの硝酸カリウムを含むpH5.0のBritton−Robinsonの緩衝液(25℃)に入れ、実施例4と同様にしてサイクリックボルタモグラムを測定し、還元電流のピーク電流値(応答電流)と過酸化水素濃度との関係を求めた結果を図3に示す。この際、検量線の作成に用いた電流値の測定電位は、参照電極に対して+0.02Vであった。【0045】図3から明らかなように、過酸化水素濃度に依存した応答電流が得られており、実施例3において作製した過酸化水素測定センサーが、過酸化水素測定用のセンサーとして機能していることが判る。即ち、アデニン銅錯体が、過酸化水素の濃度に依存して化学的に酸化され、それを還元して得られる還元電流は、過酸化水素の濃度に対応している。【0046】実施例6(グルコースの測定)実施例3において作製した過酸化水素測定センサーを0〜10mMのグルコースとSigma Chemical Company社製グルコースオキシダーゼ タイプII(EC1.1.3.4.)2500U/mlと0.5Mの硝酸カリウムを含むpH6.0の酢酸緩衝液(25℃)に入れ、電位掃引速度10mV/秒でサイクリックボルタモグラムを測定し、SCEの参照電極に対して0Vにおける電流値とグルコース濃度との関係を求めた結果を図4に示す。グルコース濃度に依存した応答電流が得られており、実施例3において作製した過酸化水素測定センサーにより、グルコース濃度を測定することができることが分かる。すなわち、下記の式(2)の反応を触媒するグルコースオキシダーゼを用いて、グルコースを酸化し、生成した過酸化水素(H2O2)を実施例3において作製した過酸化水素測定センサーで測定することにより、グルコース濃度を測定することができる。グルコースオキシダーゼグルコース+H2O+O2 −−−→ グルコン酸+H2O2 (2)【0047】尚、前記実施例では、電極材料としてグラッシーカーボンを用い、メディエータとしてアデニン銅錯体を用い、多孔性膜として孔径1μmのPTFE製メンブランフィルターを用いたが、先に例示した他の電極材料、メディエータ、多孔性膜を前記のような実施例において使用することができる。【0048】【発明の効果】本発明によれば、被測定液中の共存物質の影響を受けることなく、過酸化水素に対しても感度低下を起こすことなく高感度であり、精度良く、過酸化水素の濃度を測定することができる。【図面の簡単な説明】【図1】 図1は、本発明の過酸化水素測定センサーの模式的断面図である。【図2】 図2は、実施例4にて測定したサイクリックボルタモグラムの結果である。【図3】 図3は、実施例5にて測定した過酸化水素応答の結果を示すグラフである。【図4】 図4は、実施例6にて測定したグルコース濃度と測定電流の関係を示すグラフである。【符号の説明】10…センサー、12…リード線、14…電極、16…ガラス管、18…多孔性膜、20…キャップ。 過酸化水素と測定電極との間で電子伝達メディエータとして作用する物質を使用する、液体試料中の過酸化水素の濃度を測定する方法であって、 液体試料中の過酸化水素により電子伝達メディエータを酸化して、 測定電極により酸化された電子伝達メディエータを電気化学的に還元してその際に得られる還元電流または電気量を測定することを特徴とする過酸化水素濃度の測定方法。 還元電流または電気量を測定する方法が、酸素の還元反応が起こらない範囲の電位で、還元電流または電気量を測定する方法であることを特徴とする請求項1記載の過酸化水素の測定方法。 還元電流または電気量を測定する方法が、標準水素電極に対する電位として−0.4Vより高い範囲の電位で、還元電流または電気量を測定する方法であることを特徴とする請求項1または2記載の過酸化水素の測定方法。 過酸化水素と測定電極との間で電子伝達メディエータとして作用する物質が、銅化合物から選択される少なくとも1種から成ることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の過酸化水素の測定方法。 前記銅化合物が、プリン誘導体と銅の錯体およびピリミジン誘導体と銅の錯体から選択される少なくとも1種から成ることを特徴とする請求項4記載の過酸化水素の測定方法。 前記プリン誘導体が、アデニン誘導体およびグアニン誘導体から選択される少なくとも1種から成ることを特徴とする請求項5記載の過酸化水素の測定方法。 電子伝達メディエータとして作用する物質が隣接して配置されている測定電極を有して成ることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の方法に使用する過酸化水素測定センサー。 測定電極が、カーボン、白金または金からなることを特徴とする請求項7記載の過酸化水素測定センサー。 電子伝達メディエータが多孔性膜に担持されていることを特徴とする請求項7または8の過酸化水素測定センサー。 電子伝達メディエータが測定電極に直接的に担持されていることを特徴とする請求項7または8の過酸化水素測定センサー。 電子伝達メディエータとして作用する物質を担持させた多孔性膜を測定電極上に装着し、それにより、電子伝達メディエータとして作用する物質を測定電極に隣接するように配置することを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の過酸化水素測定センサーの製造方法。 電子伝達メディエータとして作用する物質を含む溶液または分散液を多孔性膜に塗布もしくは滴下し、乾燥して、電子伝達メディエータとして作用する物質を担持させることを更に含むことを特徴とする請求項11記載の製造方法。 電子伝達メディエータとして作用する物質を含む溶液中に多孔性膜を浸漬し、必要に応じて洗浄を行い、乾燥して、電子伝達メディエータとして作用する物質を担持させることを更に含むことを特徴とする請求項11記載の製造方法。 多孔性膜が、高分子素材からなることを特徴とする請求項11〜13のいずれかに記載の製造方法。 高分子素材が、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、セルロースアセテート、ニトロセルロース、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンおよびポリオレフィンから選択される少なくとも1種から成ることを特徴とする請求項14記載の製造方法。 請求項1〜6のいずれかの方法または請求項7〜10のいずれかのセンサーを用いて、酵素を用いた酵素反応によって液体試料中の基質を酸化することにより生成した過酸化水素濃度を測定することにより、液体試料中の基質の濃度を測定することを特徴とする基質濃度の測定方法。 酵素がグルコースオキシダーゼで、基質がグルコースであることを特徴とする請求項16記載の基質濃度の測定方法。


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