タイトル: | 特許公報(B2)_アルカリホスファターゼ水溶液の安定化方法 |
出願番号: | 1995262720 |
年次: | 2006 |
IPC分類: | C12N 9/96,C12N 9/16 |
許 静之 野沢 正之 JP 3824690 特許公報(B2) 20060707 1995262720 19951011 アルカリホスファターゼ水溶液の安定化方法 第一化学薬品株式会社 390037327 特許業務法人アルガ特許事務所 110000084 有賀 三幸 100068700 高野 登志雄 100077562 中嶋 俊夫 100096736 的場 ひろみ 100101317 許 静之 野沢 正之 JP 1994256404 19941021 20060920 C12N 9/96 20060101AFI20060831BHJP C12N 9/16 20060101ALN20060831BHJP JPC12N9/96C12N9/16 B C12N 9/00-9/99 G01N33/48-33/98 BIOSIS/CAplus/WPIDS(STN) JSTPlus(JDream2) PubMed 特開平01−131200(JP,A) 特開昭59−021390(JP,A) 特開昭59−014788(JP,A) 特開平01−174382(JP,A) 特開平02−138974(JP,A) 特開平06−014778(JP,A) HELVETICA CHIMICA ACTA,1982年,65,2668−2681 2 1996168377 19960702 13 20020816 光本 美奈子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、酵素免疫測定法(EIA)等に基づく臨床検査及び研究試薬に用いられるアルカリホスファターゼ又はその誘導体の水溶液の安定化方法に関する。【0002】【従来の技術】近年、酵素免疫法、化学発光酵素免疫法等が臨床検査に多用されている。このような酵素免疫法において用いられる酵素のうち特に重要なものとして、アルカリホスファターゼ又はその誘導体(以下、「ALP等」という)があり、これを安定に保存することは、試薬、製品の性能を保障する上で非常に重要である。【0003】【発明が解決しようとする課題】従来、これらのALP等は、HEPES〔4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸〕(pH7.5〜8.2)、TEA(トリエタノールアミン)(pH7.6〜8.0)、Tris〔トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン〕(pH8.0〜8.5)等の緩衝液中に保存され、またこれらの緩衝液中で反応されているが、これらの系中における高温(25℃以上)及び長期保存下でのALP等の安定性は充分ではなかった。【0004】このため、操作性、再現性等の観点から、ALP等は溶液状態での保存、37℃程度での反応が望まれているにも拘らず、その使用条件は厳しく制限され、低温において操作したり、凍結乾燥状態で保存する必要があり、操作の煩雑、コストの上昇等の問題点が生じている。【0005】これらの問題点を解決すべく、長年にわたって、ALP等の安定化技術に工夫が試みられてきた。代表的な方法としては、酵素の化学的な修飾法や、二価金属イオン、例えば、Mg2+、Zn2+、Mn2+、Cd2+あるいは水溶性スルフィド類の添加が挙げられる。しかしながら、これらの方法による安定化は充分でなく、酵素溶液の安定性の問題を完全にクリアするものではなかった。【0006】従って、本発明の目的は、比較的高温(25℃以上)であってもALP等を失活させず、長期にわたりALP等の水溶液を安定に保存できる方法を提供することにある。【0007】【課題を解決するための手段】 斯かる実情に鑑み本発明者らはALP等の水溶液の安定化方法について鋭意研究を行った結果、ALP等の水溶液に、リン酸アルカリ金属塩及びイノシトールリン酸エステル塩から選ばれる安定化剤を添加すれば、高温下でもALP等が長期間安定に保存できることを見出し、本発明を完成した。【0008】 すなわち、本発明は、アルカリホスファターゼ又はその誘導体を含有する水溶液に、リン酸アルカリ金属塩及びイノシトールリン酸エステル塩から選ばれる安定化剤を添加することを特徴とする該水溶液の安定化方法を提供するものである。【0010】【発明の実施の形態】 本発明において、安定化剤としては、リン酸アルカリ金属塩及びイノシトールリン酸エステル塩が挙げられる。このうち、リン酸アルカリ金属塩としては、リン酸カリウム、例えばKH2PO4/K2HPO4等が挙げられる。またイノシトールリン酸エステル塩としては、フィチン酸ナトリウム(イノシトールヘキサリン酸ナトリウム)等が挙げられる。【0011】これらの化合物は、これら自身を緩衝物質として使用しても、またこれらを他の緩衝溶液に添加して使用してもよく、いずれの場合も同等な安定化効果が得られる。【0012】これらの安定化剤の使用量は、用いる安定化剤の種類、安定効果、溶解性等により異なるが、一般にALP等を含む水溶液中で1mM以上、特に2.5〜500mMの濃度となる量であるのが、充分な安定化効果を得る上で好ましい。例えば、リン酸又はその塩の場合、水溶液の濃度が10〜250mMとなる範囲で使用するのが好ましく、フィチン酸ナトリウムのような化合物は1分子内に6個のリン酸基を有するため、他の化合物に比べて低い添加濃度、例えば1mM程度という非常に低い濃度としても、安定化効果が得られる。【0013】本発明の安定化剤を含む水溶液のpHは5.5〜8.5の範囲とすることが好ましく、特に5.5〜7.5の範囲とすることが好ましい。なお、本発明のような安定化剤を用いずにpHを5.5〜8.5の範囲としても本発明の如き安定化効果を得ることはできない。【0014】本発明の安定化方法は、ALP又はその誘導体を含有する水溶液に適用できるが、ここでALP誘導体としては、特に限定されないが、ALPと蛋白(抗原、抗体、アビジン等)、ペプチド、ハプテン、補酵素(ビオジン等)、糖類(レクチン等)、核酸(DNAプローブ、RNAプローブ等)などとの結合物が例示される。ここで用いる蛋白、ペプチド等は特に限定されず、被検物の種類等により、種類、濃度等を適宜選択、決定すればよい。また、ALP等の水溶液中の濃度は特に限定されないが、0.05〜5000μg/ml、特に0.5〜1000μg/mlが好ましい。【0015】【発明の効果】本発明の安定化方法によれば、利用に便利な溶液の状態でALP等を長期間安定に保存することができ、そのまま反応に使用することもできる。また、高温においてもALP等の安定化が図れるため、免疫反応の速度を速めることができ、測定時間の短縮、測定感度の向上が図れる。更に、酵素免疫測定法等に用いる臨床検査試薬中のALP等が活性の低下を起こさないため、良好な測定再現性が得られる。【0016】【実施例】以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。【0017】実施例1ALPの種々の安定化剤による安定化効果:1.ALP溶液の調製(1)緩衝液の調製;表1に示した安定化剤を含む緩衝液2種類(KH2PO4/K2HPO4、HEPES/フィチン酸ナトリウム)と従来の緩衝液2種類(HEPES、TEA)、(すべての濃度は100mM)の各々100mlに、塩化ナトリウム(150mM)、BSA(1%)、塩化マグネシウム(2mM)、塩化亜鉛(0.2mM)、アジ化ナトリウム(0.1%)を加えた。次いで6N塩酸でpHを次の如く調整した。KH2PO4/K2HPO4=7.0、HEPES/フィチン酸ナトリウム=7.0、HEPES=7.0、TEA=7.6【0018】(2)ALP溶液の調製;既知濃度のALP溶液を、(1)で得たそれぞれの緩衝液で希釈し、10μg/mlとした。【0019】2.アッセイ方法上記の4種類のALP溶液(10μg/ml濃度)から一定量を取り、温度負荷試験(50℃/10分,Stress +)を実施した。同時に、残り液を対照組として4℃(Stress -)に10分間保存する。負荷試験が終了後、緩衝液をファルマシア社製のPD−10カラムにてTEA緩衝液に交換する。対照組も同様に緩衝液交換を行う。緩衝液交換後のサンプルから500μl を取り、p−ニトロ−フェニル−ホスフェート50μl を加えて、2分間反応した後、停止液を加え、負荷試験前後の酵素の活性を405nmでの吸光度にて測定した。測定結果を表1に示す。【0020】【表1】【0021】本発明の方法によれば、温度負荷試験後でもALPの活性が96%以上残されていることが判る。これに対して、従来の方法では活性が82%以下に低下した。【0022】実施例2α−胎児蛋白(AFP)抗体のALP標識抗体(ALP−AFP結合物)の種々の安定化剤による安定化効果:A.ALP−AFP結合物の調製1.N−アセチル−DL−ホモシステイン チオラクトン(AHTL)によるAnti−AFP抗体のチオール化(1)4℃で攪拌下、α−AFPの精製抗体5mg/0.5ml−0.1M NaHCO3/0.15M NaCl/0.2M イミダゾール緩衝液(pH9.0)にAHTL 0.6mg/0.01mlを添加して、1時間反応させた。(2)反応が終了したら抗体サンプルをSephadex G−50カラムにのせ、PBS/1.0mM EDTAで脱塩する。ボイド カラムに出てくるチオール化抗体をプールして、蛋白量を測定した。過剰のAHTLは2番目のピークに溶出された。【0023】2.Sulfo−SMCCによるALPへのマレイミド(MI)の導入(1)攪拌下、14.4mg(102.5nmol)ALP(0.1M Tris/0.15M NaCl)に対して、1.5mg(約30nmol)過剰のSulfo−SMCC溶液(10mg/ml)を滴下し、室温にて1時間反応させた。(2)反応終了後、サンプルをSephadex G−50カラムにのせ、PBS/1.0mM EDTA緩衝液で脱塩した。ボイド カラムに出てくるマレイミド化されたALP(ALP−MI)をプールして、蛋白量を測定した。過剰のSulfo−SMCCは2番目のピークに溶出された。【0024】3.抗体と酵素反応チオール化抗体液(364μg/ml)を攪拌下、ALP−MI液(306μg/ml)を滴下した。室温で攪拌しながら2時間反応させる。【0025】4.β−メルカプトエタノール(β−ME)による活性基の遮断抗体と酵素結合物溶液100(体積)にβ−ME 1(体積)(最終濃度1mM)を加え、室温で30分インキュベーションした。【0026】5.ゲル濾過による結合物中の遊離の抗体及び酵素の分離上記の複合体溶液をゲルSW−3000(東ソー社製)カラムにのせ、0.1M Tris/0.15M NaCl(pH7.0)を溶出緩衝液として、結合物と遊離の抗体とALPが溶出されるまでフラクションした。【0027】B.ALP−AFP結合物溶液の調製1.緩衝液の調製実施例1の1(1)と同様に、表1に示した緩衝液4種類を調製する。【0028】2.Aで調製された高濃度のALP−AFP結合物から1μg/mlまでに上記の緩衝液4種類で希釈する。【0029】C.アッセイ方法上記のALP−AFP結合物溶液4種類の一部について温度負荷試験(50℃,10分)を実施する。残りをコントロールとして4℃に10分間保存する。10分後、すべてサンプルから50μl を取り、抗AFP抗体結合固相50μl 及びAFP抗原サンプル10μl 、希釈液50μl を加えて、5分間反応後、洗浄3回を行い、ALP基質であるアマダチルメトキシフェニルホスソリルジオキスタン(AMPPD)を加え、負荷試験した前後のALP−AFP結合物の活性を測定した。測定結果を表1にまとめた。【0030】本発明の方法によれば、温度負荷試験後でもALP−AFP結合物の活性が94%以上残されていた。それに対して、従来の方法では75%以下に低下した。【0031】実施例3安定化剤を含む緩衝液のpHを変化させたときのALPの安定性試験:1.緩衝液の調製;安定化緩衝液(K2HPO4/KH2PO4,HEPES/フィチン酸ナトリウム)と従来用いられる緩衝液(MES,HEPES,TEA)計緩衝液5種類(すべて濃度は100mM)100mlに、塩化ナトリウム(150mM)、BSA(1%)、塩化マグネシウム(2mM)、塩化亜鉛(0.2mM)、アジ化ナトリウム(0.1%)を加える。6Nの塩酸でpHを5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5(K2HPO4/KH2PO4)、7.0、7.5、8.0(HEPES/フィチン酸ナトリウム)、5.5、6.0、6.5(MES)、7.0、7.5、8.0、8.5(HEPES)、7.6(TEA)に調整した。【0032】2.アッセイ方法;実施例1の1(2)と同様にして、上記の緩衝液で酵素溶液10μg/mlを調製し、実施例1の2と同様な温度負荷試験を行い、酵素活性を測定した。その結果を表2及び表3にまとめた。【0033】【表2】【0034】【表3】【0035】実施例4安定化剤を含む緩衝液のpHを変化させたときのALP−AFP結合物の安定性試験:1.ALP−AFP結合物の調製;実施例2のAと同様にして調製した。【0036】2.緩衝液の調製;安定化緩衝液(K2HPO4/KH2PO4,HEPES/フィチン酸ナトリウム)と従来用いられる緩衝液(MES,HEPES,TEA)計緩衝液5種類(すべて濃度は100mM)100mlに、塩化ナトリウム(150mM)、BSA(1%)、塩化マグネシウム(2mM)、塩化亜鉛(0.2mM)、アジ化ナトリウム(0.1%)を加える。6Nの塩酸でそれぞれのpHを5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5(K2HPO4/KH2PO4)、7.0、7.5、8.0(HEPES/フィチン酸ナトリウム)、5.5、6.0、6.5(MES)、7.0、7.5、8.0、8.5(HEPES)、7.6(TEA)に調製した。【0037】3.アッセイ方法;上記の緩衝液を用いて、1で調製された高濃度のALP−AFP結合物から1μg/mlの溶液を調製して、実施例2のCと同様にして、温度負荷試験を行い、該結合物の活性を測定した。その結果を表4及び表5にまとめた。【0038】【表4】【0039】【表5】【0040】安定化剤を含む緩衝液2種類についてpH5.5〜8.5いずれのpHにおいても酵素、又は酵素標識抗体の安定性向上効果が得られた。より好ましくはpH5.5〜7.5の範囲である。それに対して、安定化剤を含まない緩衝液は、いずれのpHにおいても安定化を向上させる効果が認められなかった。【0041】実施例5ALP−AFP結合物に対する安定化剤であるフィチン酸ナトリウム及びリン酸塩濃度の影響の試験1.ALP−AFP結合物の調製;実施例2のAと同様にして調製した。【0042】2.緩衝溶液の調製;表4に示した緩衝液3種類:1).トリス 130mM、塩化ナトリウム150mM、BSA 1%、塩化マグネシウム 2mM、塩化亜鉛 0.2mM、アジ化ナトリウム 0.1%としたトリス緩衝液、2).トリス緩衝液に安定化剤フィチン酸ナトリウム 1、2.5、5.0、10.0、40.0mMを添加したトリス/フィチン酸ナトリウム緩衝液、3).KH2PO4/K2HPO4 10〜250mM、塩化ナトリウム 150mM、BSA 1%、塩化マグネシウム 2mM、塩化亜鉛 0.2mM、アジ化ナトリウム 0.1%としたKH2PO4/K2HPO4緩衝液。これらはすべてpH7.4に調整した。【0043】3.アッセイ方法;高濃度のALP−AFP結合物溶液から上記11種類の緩衝溶液でそれぞれの1μg/ml濃度の結合物溶液を調製する。結合物の温度負荷試験(37℃,2週間)を実施すると同時に、対照組を−80℃に保存する。温度負荷試験が終了後、実施例2と同様にして残存活性を測定した。結果を表6にまとめた。【0044】【表6】【0045】フィチン酸ナトリウム、リン酸塩とも試験したすべての濃度で本発明の効果が得られた。【0046】実施例6室温放置時のALP−AFP結合物の安定性に対する安定化剤の効果1.ALP−AFP結合物の調製;実施例2のAと同様にして調製した。【0047】2.緩衝液の調製;130mM トリス緩衝液(塩化ナトリウム 150mM,BSA 1%,塩化マグネシウム 2mM,塩化亜鉛 0.2mM,アジ化ナトリウム 0.1%)に、安定化剤(フィチン酸ナトリウム 10.0mM,KH2PO4/K2HPO4)を加えたものと、安定化剤無添加のものをコントロールとするトリスの計3種類の緩衝液のpHをいずれも7.0に調製した。【0048】3.アッセイ方法;1で調製された高濃度のALP−AFP結合物を上記3種類の緩衝溶液で1μg/mlになるように希釈する。この3種類の結合物溶液を室温25℃で放置する。0から各週にサンプリングして、その後、実施例2のCと同様にして残存活性を測定する。測定結果を図1に示した。【0049】フィチン酸ナトリウム、KH2PO4を用いることにより、いずれも室温での安定性向上効果が得られた。【0050】実施例7温度によるALP−AFP結合物の安定性に対しての安定化剤の効果1.ALP−AFP結合物の調製;実施例2のAと同様にして調製した。2.緩衝液の調製;実施例6の2と同様にして調製した。【0051】3.アッセイ方法;1で調製された高濃度のALP−AFP結合物を上記3種類の緩衝溶液で1μg/mlになるように希釈する。結合物を10、20、25、30、40℃、10分間で放置した後、それぞれ50μl をサンプリングし、実施例1のCと同様にして残存活性を測定する。測定結果を図2に示した。【0052】酵素の緩衝液に安定化剤未添加に比べ、本発明の安定化剤を添加した後温度に対する耐性が向上したことが示された。【図面の簡単な説明】【図1】実施例6において、ALP−AFP結合物の安定化剤による効果を示す図である。【図2】実施例7において、ALP−AFP結合物の安定化剤と温度による影響を示す図である。 アルカリホスファターゼ又はその誘導体を含有する水溶液に、リン酸アルカリ金属塩及びイノシトールリン酸エステル塩から選ばれる安定化剤を添加することを特徴とする該水溶液の安定化方法。 アルカリホスファターゼ又はその誘導体が、アルカリホスファターゼ、又はアルカリホスファターゼと抗原、抗体、アビジン、ペプチド、ハプテン、補酵素、糖類もしくは核酸との結合物である請求項1記載の安定化方法。