生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_新規グリコペプチダーゼとその製造方法
出願番号:1995237357
年次:2006
IPC分類:C12N 9/24,C12R 1/01


特許情報キャッシュ

井上 康男 井上 貞子 北島 健 JP 3795558 特許公報(B2) 20060421 1995237357 19950914 新規グリコペプチダーゼとその製造方法 生化学工業株式会社 000195524 遠山 勉 100089244 松倉 秀実 100090516 川口 嘉之 100100549 井上 康男 井上 貞子 北島 健 JP 1995187578 19950724 20060712 C12N 9/24 20060101AFI20060622BHJP C12R 1/01 20060101ALN20060622BHJP JPC12N9/24C12N9/24C12R1:01 C12N 9/00-9/99 CA/REGISTRYBIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) JSTPlus(STN) PubMed J. Biol. Chem.,1994年,269 [26],p.17611-17618 J. Biochem. Biophys. Methods ,1989年,20 [1],p.53-68 Biochim. Biophys. Acta,1981年,657,p.457-467 4 FERM BP-5116 1997094088 19970408 12 20020910 田中 晴絵 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、新規なグリコペプチダーゼおよびその製造方法に関するものである。詳しくは、中性に至適pHを有する微生物由来の新規酵素および微生物を用いた該酵素の製造方法に関するものである。【0002】【従来の技術】グリコペプチダーゼ(以下PNGaseともいう)は、糖タンパク質上の糖鎖結合アスパラギン残基から糖鎖を切り出すアミダーゼである(一般に、ペプチド:N-グリカナーゼとも呼ばれる)。その存在は、発明者らが最近動物細胞中に発見するまでは、植物と微生物に限局され、タンパク質糖鎖の構造と機能の研究における試薬としての有用性が注目されてきた。【0003】現在試薬としては、アーモンド由来のPNGase(以下、PNGase Aともいう)、微生物(フラボバクテリウム・メニンゴセプティカム、Flavobacterium meningosepticum)由来のPNGase(以下、PNGase Fともいう)が市販されている。PNGase Aは、酸性に至適pHを有しており、PNGase Fはアルカリ性に至適pHを有している。【0004】中性pH条件下でPNGaseの酵素反応を行う場合、中性に至適pHを有するPNGaseが酵素反応の効率の点から望まれる。中性に至適pHを有するPNGaseとしては、動物細胞由来のPNGaseが報告されている。このPNGaseはマウスの臓器(脳、脾臓、肝臓、腎臓)およびマウス由来の繊維芽細胞(L−929)に存在していることが報告されている。【0005】酵素を工業的に生産する場合、微生物に産生させるのが生産効率の点から望まれる。しかし、微生物由来のPNGaseとしては、唯一上記のPNGase Fが知られているのみである。しかもPNGase Fはアルカリ性に至適pHを有しており、中性に至適pHを有する微生物由来のPNGaseは知られていなかった。よって、中性に至適pHを有するPNGaseの獲得量にも限界があり、生産効率の点でも満足できるものではなかった。【0006】【発明が解決しようとする課題】糖タンパク質糖鎖や糖ペプチド糖鎖の構造や機能の解析などの研究にとって、中性に至適pHを有するPNGaseは極めて有用であることが期待される。また、中性に至適pHを有するPNGaseを工業的に生産するためには、該酵素を微生物を用いて製造する方法の開発が望まれる。【0007】本発明は上記観点からなされたものであり、中性に至適pHを有する微生物由来のPNGaseおよび微生物を用いた該酵素の製造方法を提供することを課題とする。【0008】【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決するために、中性に至適pHを有するPNGaseを産生する微生物を鋭意検索した結果、スフィンゴバクテリウム(Sphingobacterium)属に属する細菌の一種がPNGaseを産生することを見出し、さらにこのPNGaseは中性pHで高い活性を有することを見出し、本発明に至った。【0009】すなわち本願発明は、下記の理化学的性質を有するPNGaseである。▲1▼作用:糖タンパク質または糖ペプチド中のアスパラギン残基とN−アセチルグルコサミン残基間のアミド結合を加水分解する。▲2▼基質特異性:アスパラギン結合型糖鎖を含有する糖タンパク質または糖ペプチドに作用する。▲3▼至適反応pH:25℃においてpH7付近▲4▼安定pH範囲:25℃においてpH5〜9▲5▼至適反応温度:pH7.1において25℃付近▲6▼熱安定性:25℃で少なくとも48時間失活しない。【0010】また本願発明は、スフィンゴバクテリウム属に属し、PNGase生産能を有する細菌を培養し、その培養物から前記性質を有するPNGaseを採取することを特徴とするPNGaseの製造方法を提供する。【0011】尚、本発明のPNGaseを、「本発明酵素」または「PNGase SM」ということがある。【0012】【発明の実施の形態】以下に、本発明の実施の形態を説明する。<1>本発明のPNGase(1)本発明酵素の取得法本発明のPNGaseは、上記性質を有する新規酵素である。本発明酵素は、例えば、スフィンゴバクテリウム(Sphingobacterium)属に属する細菌を培養し、その培養物から採取することができる。スフィンゴバクテリウム属に属する細菌としては、スフィンゴバクテリウム マルチボラム(Sphingobacterium multivorum)が挙げられ、具体的にはスフィンゴバクテリウム mOL12−4sが挙げられる。【0013】具体的には、本発明酵素を生産する微生物を適当な培地に接種して培養し、培養後の培養物(液体培養のときは培養液)から菌体を遠心分離などによって収集し、菌体を超音波処理などにより破砕して得られる菌体破砕液、または浸透圧ショックによって菌体外に放出される酵素活性を持つ画分や、培養液中の菌体を遠心分離した後に得られる培養上清等を出発物質として、次いでPNGase活性を指標として一般的な酵素の分離法を適用することにより、所望の精製度の酵素標品を採取することができる。なお、本発明酵素はペリプラズムおよび培養上清中に活性を有し、特にペリプラズムにおける活性が高いことから、出発物質としてペリプラズム画分を用いることが好ましい。【0014】本発明酵素を産生する微生物の培養は、この微生物が資化可能な炭素源(デアミノノイラミン酸(以下「KDN」ともいう)を含むオリゴ糖、グルコースなど)、窒素源(酵母エキス、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー、大豆粕などの有機窒素源;塩酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、尿素、硝酸アンモニウムなどの無機窒素源)、無機塩(カルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウムなどの硫酸塩、リン酸塩、塩酸塩など)などを含む培地中で、好気的な培養法(振盪培養、通気攪拌培養など)によって生育に適した温度で数時間〜数日間培養することによって行うことができる。【0015】培養物から収集した菌体から、超音波処理などによる破砕、あるいは浸透圧ショック等の適当な方法によって放出された酵素を含む画分や、培養液中の菌体を遠心分離した後に得られる培養上清等から、例えば、硫酸アンモニウム(硫安)、硫酸ナトリウム等による塩析;透析;限外ろ過法;吸着クロマトグラフィー、陰イオン及び陽イオン交換クロマトグラフィー;疎水性クロマトグラフィー;ゲル濾過法;電気泳動法など公知の酵素精製法、さらには糖タンパク質を結合させたアガロースゲル等を用いたアフィニティークロマトグラフィーによって目的とする精製度の酵素標品を得ることができる。【0016】本発明酵素のPNGase活性は、糖鎖の還元末端のN-アセチルグルコサミン残基とアスパラギン残基とのアミド結合を介してタンパク質またはペプチド中のアスパラギン残基に結合した糖鎖(本明細書において、アスパラギン結合型糖鎖ともいう)を含有する糖タンパク質または糖ペプチドに本発明酵素を作用させて、アスパラギン残基とN−アセチルグルコサミン残基間の結合(N-アセチルグルコサミニルアスパラギンのアミド結合)の加水分解により生成するペプチドまたは遊離する糖鎖を定量することによって測定することができる。具体的には、本発明酵素を糖ペプチド基質に作用させ、N−アセチルグルコサミニルアスパラギンのアミド結合が酵素的に加水分解され、糖鎖が遊離して生成する単純ペプチド(糖鎖を含有しないペプチド)を定量する方法が挙げられる。【0017】基質としては、ウシ胎仔血清フェツインをサーモリシン消化することによって得られる2種類の糖ペプチドのN−末端アミノ酸残基を、N,N−ジメチル化(([14C]CH3)2-)することによって標識した糖ペプチドを用いることができる(Journal of Biological Chemistry, 第269巻, 17611-17618ページ (1994年)、Archives of Biochemistry and Biophysics, 第319巻, 393-401ページ (1995年))。これらの糖ペプチドとして具体的には、[14C]Leu-Asn(CHO1)-Asp-Ser-Argと[14C]Leu-Ala-Asn(CHO1)-CmCys-Ser((CHO)はアスパラギンに結合した糖鎖を、CmCysはカルボキシメチル化システインを表す)が挙げられる。糖鎖(CHO1)は、典型的な3本鎖をもつコンプレックス(複合)型糖鎖構造をもつアスパラギン結合型糖鎖である(糖鎖工学、13〜16頁 (株)産業調査会、1992年発行)。【0018】さらに、オバルブミン(ovalbumin)由来の糖ペプチドのN−末端アミノ酸残基をN,N−ジメチル化([14C]CH3)2-)することによって標識した糖ペプチドも、本発明酵素の基質として用いることができる。このような糖ペプチドとして、具体的には[14C]Glu-Glu-Lys-Tyr-Asn(CHO2)-Leu-Thr-Ser-Val-Leu-Hse((CHO2)は高マンノース型糖鎖構造をもつアスパラギン結合型糖鎖を表す)や[14C]Glu-Glu-Lys-Tyr-Asn(CHO3)-Leu-Thr-Ser-Val-Leu-Hse((CHO3)はハイブリッド(混成)型糖鎖構造をもつアスパラギン結合型糖鎖を表す)を挙げることができる(Journal of Biological Chemistry,第269巻,17611-17618ページ (1994年)、Archives of Biochemistry and Biophysics,第319巻,393-401ページ (1995年))。なお本明細書においては特にことわらない限り、単なる「アスパラギン結合型糖鎖」という用語には、「コンプレックス(複合)型のアスパラギン結合型糖鎖」、「高マンノース型のアスパラギン結合型糖鎖」及び「ハイブリッド(混成)型のアスパラギン結合型糖鎖」が包含される。【0019】酵素によって生成するペプチドを、ペーパークロマトグラフィーまたは濾紙電気泳動を行うことによって分離し、生成したペプチドが移動する部位の放射能を測定することによって、酵素活性を測定する。また、酵素反応によって遊離する糖鎖の還元末端残基が持つ還元能を、Park-Johnson法(Journal of Biological Chemistry, 181巻, 149-151ページ, (1949))によって測定するとともに、遊離糖鎖を糖組成分析で構造確認することによっても、活性測定が可能である(Journal of Biological Chemistry, 266巻, 22110-22114ページ, (1991))。【0020】(2)本発明酵素の理化学的性質本発明酵素の理化学的性質を示す。▲1▼作用:糖タンパク質または糖ペプチド中のアスパラギン残基とN−アセチルグルコサミン残基間のアミド結合を加水分解する。加水分解により、糖鎖の還元末端にジ−N−アセチルキトビオース構造を保持した遊離の糖鎖を生成するとともに、糖鎖の結合していたアスパラギン残基をアスパラギン酸残基に変換する。▲2▼基質特異性:アスパラギン結合型糖鎖を含有する糖タンパク質または糖ペプチドに作用する。▲3▼至適反応pH:25℃においてpH7付近であり、具体的にはpH6.5〜8.5、より好ましくはpH7〜8、特に好ましくはpH7である。▲4▼安定pH範囲:25℃においてpH5〜9▲5▼至適反応温度:pH7.1において25℃付近▲6▼熱安定性:25℃で少なくとも48時間失活しない。【0021】<2>本発明酵素を産生するスフィンゴバクテリウム mOL12−4s本発明酵素を産生する微生物スフィンゴバクテリウム mOL12−4sは、養魚場の汚泥から、デアミノノイラミン酸(KDN)を含有するオリゴ糖アルコールを唯一の炭素源とする集積培地で培養し、菌体破砕液中に4−メチルウンベリフェリルKDN(4−MU−KDN)を加水分解する活性を有するものとして選択された微生物であり、本発明のPNGaseの他にも、デアミノノイラミニダーゼ(KDNase)を産生することを特徴とする。【0022】尚、本発明酵素を産生するスフィンゴバクテリウム mOL12−4sは、平成6年5月24日に、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所にFERMP−14325の受託番号で寄託され、平成7年5月26日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、FERM BP−5116の受託番号で寄託されている。【0023】本発明酵素を産生するの微生物の菌学的性状は後記実施例1に示す通りであり、これらの性質からスフィンゴバクテリウム(Sphingobacterium)属に属する細菌であると同定された。尚、本菌は、スフィンゴバクテリウム マルチボラム(Sphingobacterium multivorum)である可能性が高い。【0024】【実施例】つぎに実施例により本発明を更に詳しく説明するが、この実施例は本発明の一例を示すものであり、これに限定されるものではない。尚、本実施例において、PNGase活性の測定は、下記の方法によって行った。【0025】<酵素活性測定法>基質として、ウシ胎仔血清フェツインをサーモライシン消化することにより得られる2種類の糖ペプチドのN−末端アミノ酸残基を、ナトリウム・シアノボロヒドリド(シアノ水素化ホウ素ナトリウム)存在下で、H14CHO(Dupont/NEN, USA製)を用いた還元メチル化反応を行って、N,N-ジメチル化(([14C]CH3)2-)させて放射性標識した糖ペプチドを、シアリダーゼ(Arthrobacter ureafacients由来、Nacalai製)消化してシアル酸を除去したアシアロ体(以下、asialo-[14C]fetGPともいう。Journal of Biological Chemistry, 第269巻, 17611-17618ページ (1994); Archive of Biochemistry and Biophysics, 第319巻, 393-401ページ (1995))を用いた。これらの糖ペプチドは、[14C]Leu-Asn(CHO1)-Asp-Ser-Argと[14C]Leu-Ala-Asn(CHO1)-CmCys-Ser((CHO)は糖鎖を、CmCysはカルボキシルメチル化システインを表す)であり、糖鎖(CHO1)は、典型的な3本鎖をもつコンプレックス(複合)型糖鎖構造をもつアスパラギン結合型糖鎖である。前者はasialo-[14C]fetGP I、後者はasialo-[14C]fetGP IIとそれぞれ呼ぶ。100mM 2−モルホリノエタンスルホン酸(MES;シグマ社製)緩衝液(pH 7.0)、0.25M ショ糖、10mM ジチオスレイトール(DTT)を含む10μlの酵素液に、1μlの210pmol(15,000 cpm)のasialo-[14C]fetGPを加えて、ポリプロピレン・チューブ中で25℃、24時間反応を行った。反応産物のペプチドを、ペーパークロマトグラフィーまたは濾紙電気泳動を行うことによって分離し、生成ペプチドが移動する部位の放射能を測定することによって酵素活性を測定する。ペーパークロマトグラフィーおよび濾紙電気泳動は、以下の要領で行った。【0026】ペーパークロマトグラフィー: 反応液を Whatman 3MM濾紙にスポットし、1−ブタノール/エタノール/水(4/2/3, v/v/v)の展開溶媒によって1時間展開する。濾紙を風乾後、バイオ・イメージング・アナライザー(Fujix BAS 2000)によって放射能の移動度と量を解析、定量した。【0027】濾紙電気泳動: 反応液を Whatman 3MM 濾紙にスポットし、ピリジン/酢酸/水(5/0.2/95, v/v/v、pH 6.5)中で、13 V/cm、3時間の条件で電気泳動を行った。濾紙を風乾後、バイオ・イメージング・アナライザー(Fujix BAS 2000)によって放射能の移動度と量を解析、定量した。【0028】また、本明細書において「1ユニット(U)」とは、25℃でasialo-[14C]fetGP Iから14C-ペプチドを、1時間で1μmol生成する酵素量として定義した。【0029】【実施例1】スフィンゴバクテリウム mOL12−4sの取得養魚場の汚泥を、KDNオリゴ糖アルコール(J. Biol. Chem. 265, 21811-21819 (1990)記載の方法で調製)0.05%を添加したM9液体培地(1L中に、Na2HPO4 6.0g、KH2PO4 3.0g、NH4Cl 1.0g、NaCl 0.5g、MgSO4 1mM、CaCl2 0.1mMを含む)に接種して25℃で48時間培養した。培養液を、KDNオリゴ糖アルコールを含むM9寒天培地プレートにストリークして25℃で48時間培養し、KDNオリゴ糖アルコールを唯一の炭素源として生育する微生物として、66コロニーが得られた。【0030】各々のコロニーを形成する微生物を、KDNオリゴ糖アルコール 0.05%を含むM9液体培地に接種して培養し、遠心分離により集菌した。得られた菌体を超音波処理により破砕し、破砕液中のKDNase活性及びシアリダーゼ活性を、4−MU−KDN法により測定した。これらのうち、KDNase活性が認められ、シアリダーゼ活性が認められなかった破砕液が由来する微生物をmOL12とし、以下の選択に用いた。【0031】mOL12株のコロニーをKDNオリゴ糖アルコール 0.05%を含むM9寒天培地にストリークし、4株のコロニーを分離し、各々mOL12−1、mOL12−2、mOL12−3及びmOL12−4とした。各々のコロニーをLB平板培地にストリークし、単一コロニーをKDNオリゴ糖アルコール 0.05%を含むM9液体培地に接種して培養し、菌体破砕液のKDNase活性及びシアリダーゼ活性を、各々4−MU−KDN法及び塩化セチルピリジニウム法により測定した。4−MU−KDN法及び塩化セチルピリジニウム法について以下に説明する。【0032】(1)4−MU−KDN法4−メチルウンベリフェリルKDN(4-MU-KDN)のケトシド結合が酵素的に加水分解される(次の反応)と、蛍光性の 4−メチルウンベリフェロンが遊離される。その蛍光を測定する。【0033】4-メチルウンベリフェリルKDN → KDN + 4-メチルウンベリフェロン具体的には、1.4 nmolの4-MU-KDNを、20μlの0.1 M トリス酢酸緩衝液 (pH 6.0)/0.1M NaClに溶解した菌体破砕液に加えて、25℃、30分間反応させ、反応後、反応液20μlをとって、2.5 mlの85 mMグリシン炭酸塩緩衝液 (pH 9.3) と混合して、蛍光強度を測定した(励起波長365 nm、測定波長 450 nm)。蛍光強度測定については、Biochemistry 第18巻、第13号、2783-2787ページ を参照した。菌体破砕液を加えずに上記と同様の反応を行ったときの蛍光強度をコントロールとした。【0034】本方法に用いた4−MU−KDNは、以下に示すDr. Thomas G. Warnerによって開発された方法によって得られたものであり、Dr. Thomas G. Warnerから恵与されたものを用いた。【0035】KDNは、酵素的に既知の方法[Auge, C.,ら,Tetrahedron 46, 201-214 (1990)]にしたがって、D−マンノースとピルビン酸からNeu5Acアルドラーゼを用いて合成した。KDNを乾燥後、10mlの無水酢酸、10mlのピリジンに懸濁し、室温で一晩反応させた。反応液を氷冷し、メタノールを加えて反応を停止させ、溶媒を除去した。残渣をメタノールに溶かし、Dowex 50(H+)カラム(4×5cm)にかけて、メタノールで溶出した。溶出物は溶媒除去後、エチルエーテル中で過剰量のジアゾメタンを加えて、メチルエステルとした。生成した完全アセチル化メチルエステル物は、シリシック酸カラム(2.5×17cm)にかけて、ヘキサン中で酢酸エチルの濃度勾配をかけて溶出し、メチル2,4,5,7,8,9−ヘキサ−O−アセチルKDN(K1)を得た。次いで、既知の方法[Warnerら,Biochemistry 18, 2783-2787 (1979)]にしたがってK1をグリコシルクロリドに変え、4−メチルウンベリフェロン(4−MU)のナトリウム塩と反応させて、K1と4−MUを重合させ、4−メチル−2−オキソ−2H−1−ベンゾピラン−7−イル 4,5,7,8,9−ペンタ−O−アセチルKDN(K2)を得た。【0036】K2 0.5gに4mlのメタノール、続いて4mlの0.5Nの水酸化ナトリウムを加えて懸濁し、37℃で1時間置いた。さらに、4mlの水酸化ナトリウムを加え、37℃で90分間置いた後、pHをDowex 50(H+)樹脂を加えて中和して、pH6.0とした。濾過して樹脂を除き、溶媒を除去した。残渣に対して、少量の10mMアンモニア水を加えて、pH9とした後、セファデックス(Sephadex) G−25ゲル濾過によって高純度の4−MU−KDNが精製された。【0037】尚、4−MU−KDNは、Schreiner, E. and Zbiral, E. (1990) Liebigs Ann. Chem., 581-586に記載の方法によっても得られる。【0038】(2)塩化セチルピリジニウム 法基質として、ニジマス卵巣液由来のKDN含有糖タンパク質を用いた。酵素反応を上記(1)項に述べた条件と同様に行なった後、反応液に2mlの0.1%塩化セチルピリジニウム(CPC)を加えた。KDN含有糖タンパク質は、CPC存在下で複合体を形成して沈殿するが、酵素反応によって遊離するKDNは沈殿しない。反応液を30分放置した後、遠心分離(3000rpm、10分間)し、得られる上清のKDN量をチオバルビツール酸法(Analytical Biochemistry 第205巻、244-250,(1992))で定量することによって酵素活性を測定した。【0039】mOL12−4をLB平板培地にストリークした際に形成されたコロニーは、「大」、「中」及び「小」の3種類の大きさに分かれ、それらのうち、「大」コロニー及び「中」コロニーを形成する株には、KDNase活性が認められなかったが、「小」コロニーを形成した株は、KDNase活性を示し、シアリダーゼ活性を示さなかった。これらのKDNase活性のみを示した株のうちの1株をmOL12−4sとした。【0040】上記のようにして分離されたmOL12−4sの同定を、市販の腸内細菌以外のグラム陰性桿菌同定キット(ビオメリュー社、API 20NE)を用いて行った。試験された主な菌学的性状を以下に示す。【0041】【0042】以上の結果から、mOL12−4sは、スフィンゴバクテリウム(Sphingobacterium)属に属する細菌であると同定され、スフィンゴバクテリウム mOL12−4sと命名された。本菌は、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に、ブダペスト条約に基づく国際寄託としてFERM BP−5116の受託番号で寄託されている。尚、本菌は、菌学的性状から、スフィンゴバクテリウム マルチボラム(Sphingobacterium multivorum)である可能性が高い。【0043】【実施例2】PNGase SMの生産ミラーのルリア・ブロス(LB)培地(ギブコ・BRL製)を、2リットルの三角フラスコに800ml分注し、オートクレーブした。この培地にスフィンゴバクテリウム mOL12−4sを接種した後、振盪培養機を用いて、25℃で48時間培養した。【0044】<1>PNGase SMの抽出(1)菌体破砕によるPNGase SMの抽出培養終了後、遠心分離 (15,000×g, 40分間) により、培養液から菌体を集めた。得られた菌体を、氷冷した 0.1M NaClを含む 0.1 M トリス−塩酸緩衝液 (pH 8.0) に懸濁し、再び遠心分離を行うことによって菌体を洗浄した。この洗浄操作を3回行なった後、0.15M NaClを含む50 mM トリス−塩酸緩衝液(pH 7.4)に菌体を懸濁し、超音波処理して菌体を破砕した。【0045】この菌体破砕液を遠心分離(10,000×g, 30分間)して得られる上清を冷却し、この上清に硫酸アンモニウムを90%飽和になるまで加え、4℃で放置した。これを遠心分離(150,000×g、1時間)して沈殿物を得た。この沈澱物を100mM MES緩衝液(pH7.0)、0.25M ショ糖、10mM ジチオスレイトール(DTT)に溶解してPNGase SMの酵素液を得た。【0046】(2)浸透圧ショックによるPNGase SMの抽出上記と同様にしてスフィンゴバクテリウム mOL12−4sを培養し、遠心分離(15,000xg、40分間)により、集菌、洗浄をおこなった。この菌体を、既知の方法[Nossal, N.G. and Heppel, L.A. (1966) J. Biol. Chem. 241, 3055-3062]に従って浸透圧ショック処理し、菌体外に酵素を遊離させた。すなわち、菌体1gに対して40mlの蔗糖20%を含む0.1M EDTA/33mM トリス−塩酸緩衝液(pH7.1)に菌体を懸濁し、25℃で10分間放置した後、菌体を遠心操作(13,000xg、10分間)して沈殿させた。この菌体を、1mM 酢酸マグネシウムを含む20mM トリス−塩酸緩衝液(pH7.1)に懸濁して0℃で10分間放置することにより浸透圧ショックを与えた。上記菌体懸濁液に、その1/10量の1M NaCl/1M トリス−塩酸緩衝液(pH7.1)を速やかに加えた後、再び遠心分離(13,000xg、30分間)し、菌体を除去した。得られた上清に、硫酸アンモニウムを90%飽和となるように加え、4℃で一晩放置した。生じた沈殿を、遠心操作(17,000xg、30分間)して、本発明酵素を含むペリプラズム画分として集めた。【0047】これらの工程だけではPNGase SMは完全に精製されないが、PNGase SMの粗酵素として使用することができる。精製は、必要に応じて通常の酵素の精製方法によって行うことができる。その際、PNGase活性およびPNGase SMの理化学的性質を指標とすることができる。【0048】<2>PNGase SMの精製上記(2)のようにして得られたペリプラズム画分を、10mlの0.1M NaCl/0.1M トリス−塩酸緩衝液(pH8.0)に溶解し、0.25M 蔗糖/0.1M NaCl/20mM トリス−塩酸緩衝液(pH8.0)に対して透析したものを、DEAE-トヨパール(Toyopearl) 650Mカラム(東ソー株式会社製; 2.2x11cm、42ml;透析溶液と同組成のもので平衡化したもの)にかけ、60mlの同溶液で溶出してくる画分を集めた。この画分は、限外濾過(YM10膜;アミコン社製)によって13mlまで濃縮し、CM-トヨパール 650M カラム(東ソー株式会社製;2.2x11cm、42ml;0.25M 蔗糖/0.1M NaCl/20mM トリス−酢酸緩衝液(pH6.0)で平衡化したもの)にかけて、60mlの0.25M 蔗糖/0.1M NaCl/20mM トリス−酢酸緩衝液(pH6.0)によって溶出した。溶出液をプールし、限外濾過(YM10膜;アミコン社製)によって7mlまで濃縮した。ここで得られた酵素画分は、比活性が26mU/mgタンパク質であった。【0049】【実施例3】本発明酵素の性質(1)作用・基質特異性上記の方法(実施例2の<1>の(1))で得られたPNGase SMの酵素液、および基質として[14C]Leu-Asn(CHO1)-Asp-Ser-Arg(以下、asialo-[14C]fetGP Iともいう)または[14C]Leu-Ala-Asn(CHO1)-CmCys-Ser(以下、asialo-[14C]fetGP IIともいう)を用いて、前記の酵素活性測定法に従い、ペーパークロマトグラフィーによって酵素活性を測定した。その結果、糖鎖を含まないペプチドの生成がペーパークロマトグラフィーによって確認された。このことから、本発明酵素であるPNGase SMは、糖タンパク質または糖ペプチド中の、アスパラギン残基とN−アセチルグルコサミン残基間のアミド結合を加水分解することが示された。また、上記asialo-[14C]fetGP IおよびIIに含まれる糖鎖((CHO1)で示してある部分)はコンプレックス(複合)型のアスパラギン結合型糖鎖であることから、本発明酵素は少なくともコンプレックス(複合)型のアスパラギン結合型糖鎖を含有する糖タンパク質または糖ペプチドに作用することが示された。【0050】また、オバルブミン(ovalbumin)由来の糖ペプチドで高マンノース型糖鎖をもつもの(Glu-Glu-Lys-Tyr-Asn(CHO2)-Leu-Thr-Ser-Val-Leu-Hse((CHO2)は高マンノース型糖鎖構造をもつアスパラギン結合型糖鎖を表す);以下、ovGP-highManという)およびハイブリッド(混成)型糖鎖をもつもの(Glu-Glu-Lys-Tyr-Asn(CHO3)-Leu-Thr-Ser-Val-Leu-Hse((CHO3)はハイブリッド(混成)型糖鎖構造をもつアスパラギン結合型糖鎖を表す);以下、ovGP-hybridという)を基質として、asialo-[14C]fetGP Iと同様に反応させた結果、これらも基質になることが確認されたことから、本発明酵素は高マンノース型およびハイブリッド(混成)型のアスパラギン結合型糖鎖を含有する糖タンパク質または糖ペプチドにも作用することが示された。【0051】(2)至適pH・安定pH範囲上記の方法で得られたPNGase SMの酵素液を、それぞれ100mM トリス−塩酸緩衝液(pH7.1)、100mM トリス−酢酸緩衝液(pH5.5)および100mM トリス−酢酸緩衝液(pH8.6)に対して4℃で4時間透析した。それぞれの酵素液10μl(それぞれ本発明酵素を0.42mU含む)に基質として[14C]Leu-Asn(CHO1)-Asp-Ser-Arg(asialo-[14C]fetGP I)1μlまたは[14C]Leu-Ala-Asn(CHO1)-CmCys-Ser(asialo-[14C]fetGP II)1μlを加えて、前記の酵素活性測定法に従い、ペーパークロマトグラフィーによって酵素活性を測定した。それぞれの基質において、pH7.1の条件で反応させた時の活性を100%とした時の各pHにおける相対活性を表1に示す。【0052】【表1】【0053】この結果から本発明酵素の至適反応pHは、25℃においてpH7付近であることが示された。また本発明酵素はpH5.5およびpH8.5において酵素活性を有していることから、本発明酵素は25℃において少なくともpH5〜9の範囲で安定であることが示された。【0054】またasialo-[14C]fetGP Iを基質として用いて、本発明酵素活性に及ぼすpHの影響を更に詳細に調べた。用いた本発明酵素が0.17mUである点以外は、上記の方法と同様に行った。pH7.0の条件で反応させたときの活性を100%とした時の各pHにおける相対活性を表2に示す。なお、表中のMESは2−モルホリノエタンスルホン酸を、またCHESはシクロヘキシルアミノエタンスルホン酸をそれぞれ表す。【0055】【表2】【0056】この結果から、本発明酵素の至適反応pHは、25℃においてpH7付近であることが示された。また、pH7〜pH8で、pH7.0での活性の90%以上の活性を有すること、及びpH6.5〜pH8.5の範囲でもpH7.0での活性の約60%の活性を有することが示された。また本発明酵素は25℃において少なくともpH5〜9の範囲で安定であることが示された。【0057】(3)至適反応温度本発明酵素は、pH7.1において25℃付近で高い活性を有することから、本発明の酵素の至適反応温度はpH7.1において25℃付近であることが示された。【0058】(4)熱安定性本発明酵素は、pH7において25℃で少なくとも48時間失活しなかった。また、実施例2で精製した本発明酵素を含むサンプルは、4℃で少なくとも2週間安定であった。【0059】(5)分子量本発明酵素は、セファクリル(Sephacryl) S-200 (ファルマシア社製)クロマトグラフィー(1.8x135cm;20mM トリス−塩酸緩衝液(pH8.0)/0.5M NaClで溶出)において分子量20,000〜30,000付近に溶出された。このことから、本発明酵素の分子量は、ゲル濾過法において約20,000〜30,000であると推定される。【0060】【発明の効果】従来のPNGaseとは異なり、中性に至適pHを有する本発明酵素は、糖タンパク質や糖ペプチドの構造や機能解析などの研究に有用な試薬などへの活用が期待される。また本発明酵素により、糖タンパク質や糖ペプチドの機能を改変できる可能性もあり、機能改変された糖タンパク質や糖ペプチドの新しい生理活性物質としての利用などが期待される。また本発明の方法を用いると、微生物により本発明酵素を製造させることができるので、工業的スケールで大量に本発明酵素を調製することができる。 下記の理化学的性質を有するグリコペプチダーゼ。(1)作用:糖タンパク質または糖ペプチド中のアスパラギン残基とN−アセチルグルコサミン残基間のアミド結合を加水分解する。(2)基質特異性:コンプレックス(複合)型糖鎖構造、高マンノース型糖鎖構造、及びハイブリッド(混成)型糖鎖構造であるアスパラギン結合型糖鎖を含有する糖タンパク質または糖ペプチドに作用する。(3)至適反応pH:25℃においてpH7付近(4)安定pH範囲:25℃においてpH5〜9(5)至適反応温度:pH7.1において25℃付近(6)熱安定性:25℃で少なくとも48時間失活しない。(7)ゲル濾過法によって測定される分子量:20,000〜30,000。 スフィンゴバクテリウム属に属する微生物によって産生されることを特徴とする請求項1記載のグリコペプチダーゼ。 スフィンゴバクテリウム属に属する微生物がスフィンゴバクテリウム mOL12−4s(FERM BP−5116)である請求項2記載のグリコペプチダーゼ。 スフィンゴバクテリウム属に属し、グリコペプチダーゼ生産能を有する微生物を培養し、その培養物から請求項1記載のグリコペプチダーゼを採取することを特徴とするグリコペプチダーゼの製造方法。


ページのトップへ戻る

生命科学データベース横断検索へ戻る