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タイトル:特許公報(B2)_スフィンゴ脂質セラミドデアシラーゼ
出願番号:1995175627
年次:2005
IPC分類:7,C12N9/80


特許情報キャッシュ

伊東 信 栗田 豊久 喜多 克洋 JP 3669595 特許公報(B2) 20050422 1995175627 19950620 スフィンゴ脂質セラミドデアシラーゼ タカラバイオ株式会社 302019245 中本 宏 100078503 井上 昭 100087022 伊東 信 栗田 豊久 喜多 克洋 JP 1994190133 19940721 20050706 7 C12N9/80 C12N9/80 C12R1:38 JP C12N9/80 A C12N9/80 C12R1:38 7 C12N9/00-99 PubMed JICSTファイル(JOIS) BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) 特開平06−078782(JP,A) 特開平07−107988(JP,A) J. Biochem.,1988年 1月,103(1),1−4 J. Biol. Chem.,1995年10月,270(41),24370−4 2 FERM BP-5096 1996084587 19960402 13 20020619 阪野 誠司 【0001】【産業上の利用分野】本発明は基質特異性の広い新規なスフィンゴ脂質セラミドデアシラーゼに関する。更には、該スフィンゴ脂質セラミドデアシラーゼを用いて、酵素学的にリゾスフィンゴ脂質を製造する方法に関する。【0002】【従来の技術】従来、糖脂質中の分子内セラミドに作用してこのセラミド部分をスフィンゴシン塩基と脂肪酸とに加水分解し、リゾ糖脂質と脂肪酸を生成する酵素として、ノカルディア属に属する微生物が生産する酵素(特開昭64−60379号公報)が知られている。この酵素は糖脂質セラミドデアシラーゼと命名されているが〔ジャーナル オブ バイオケミストリー(Journal of Biochemistry)、第103巻、第1〜4頁(1988)〕、GD1a、GM1、GM2、GM3等のいわゆる酸性糖脂質であるガングリオシドには作用するが、Gal Cer、Glc Cerには全く作用せず、Lac Cer、Gb3 Cer、あるいはアシアロ(asialo) GM1等の中性糖脂質にはほとんど作用しない。また、セラミドのスフィンゴシン塩基と脂肪酸との結合を加水分解する酵素がセラミダーゼ(Ceramidase ;EC3.5.1.23)と称されているが〔ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(Journal of Biological Chemistry)、第241巻、第3731〜3737頁(1966)、バイオケミストリー(Biochemistry) 、第8巻、第1692〜1698頁(1969)、バイオキミカ エ バイオフィジカ アクタ(Biochimica et Biophysica Acta)、第176巻、第339〜347頁(1969)、サイエンス(Science)、第178巻、第1100〜1102頁(1972)〕、この酵素は糖脂質のセラミド部分のスフィンゴシン塩基と脂肪酸との結合を加水分解することはできない。すなわち、従来知られている酵素では中性糖脂質のセラミド部分のスフィンゴシン塩基と脂肪酸との結合を加水分解することはできなかった。一般に、天然に存在する糖脂質(スフィンゴ糖脂質等)は同一糖鎖を有する分子でも脂肪酸の違いによって著しい分子多様性を示す。例えばウマ腎臓から得られたフォルスマン糖脂質(Gb5Cer) は、脂肪酸部分の違いによって少なくとも10種の分子種が存在する。最近、糖脂質の脂質二重膜中での存在様式、抗原性の発現等は脂肪酸分子種に大きく影響されることが明らかになり、糖脂質の生理機能を考える上で脂肪酸の構造が重要視されるようになってきた。またスフィンゴ脂質(糖脂質及びスフィンゴミエリン)の分解や合成にたずさわる酵素の基質特異性が脂肪酸分子種に依存していることも見出されている。このような問題を解決するには、ヘテロな脂肪酸分子種を有する天然型のスフィンゴ脂質を単一の脂肪酸を持つ糖脂質に簡便に変換する技術の開発が待ち望まれている。また、スフィンゴ脂質の脂肪酸に代えて蛍光物質を導入して蛍光標識スフィンゴ脂質を作成できれば、スフィンゴ脂質の細胞内代謝や輸送経路の解明等に貢献する重要な試薬になるばかりでなく、スフィンゴ脂質合成酵素や分解酵素の高感度な基質になることが期待される。従来知られているリゾスフィンゴ脂質の製造法は、ヒドラジン分解法やアルコール系溶媒中でのアルカリ加水分解法が知られている。しかし、これらの方法ではアミノ糖を含むスフィンゴ糖脂質の場合、糖鎖部分のアミド結合が分解されてデ−N−アセチルリゾ糖脂質を生じる。またシアル酸を含む糖脂質(ガングリオシド)の場合、シアル酸部分が脱アシル化される。そのため、脱アシル化後、脂質部分に保護基を付けてから再アシル化を行い、その後保護基を外す必要がある。これらの一連の化学操作は多くの手間と技術的な熟練を要する。しかも、現在の化学的手法ではシアル酸を複数有する例えばGQ1bのようなポリシアロガングリオシドからリゾ体を調製することは非常に困難である。また、スフィンゴミエリンの場合、コリンリン酸基が外れる可能性があり、収率の点で問題がある。また、リゾスフィンゴ脂質を生物学的に得る方法が知られている(特開平6−78782号公報)。この方法では、目的とするリゾスフィンゴ脂質以外に多くの副産物が生じる。そのため、これら副産物を取り除く必要があり、工業的にもその操作のステップ、収率の点で問題があった。【0003】【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、従来知られているスフィンゴ脂質セラミドデアシラーゼよりも基質特異性の広い酵素、特に中性糖脂質にもよく作用するスフィンゴ脂質セラミドデアシラーゼを提供することにある。更には、該スフィンゴ脂質セラミドデアシラーゼを用いた糖脂質工学等の分野に有用なリゾスフィンゴ脂質を酵素学的に、工業的に製造する方法を提供することにある。【0004】【課題を解決するための手段】 本発明を概説すれば、本発明の第1の発明は、下記の理化学的性質を有することを特徴とする、シュードモナス属に属する細菌より得られるスフィンゴ脂質セラミドデアシラーゼに関する。(1)作用:スフィンゴ脂質中の分子内セラミドに作用して、スフィンゴシン塩基と脂肪酸とに加水分解し、リゾスフィンゴ脂質と脂肪酸を生成する。(2)基質特異性:中性糖脂質及び酸性糖脂質に作用する。(3)至適pH:至適pHが5〜7である。(4)至適温度:至適温度が40℃である。(5)pH安定性:5℃、16時間の処理でpH4〜9の範囲で安定である。(6)熱安定性:60℃において30分間、安定である。(7)分子量:52,000〔ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)による〕。 本発明の第2の発明は、リゾスフィンゴ脂質の製造方法に関し、第1の発明のスフィンゴ脂質セラミドデアシラーゼを用いてスフィンゴ脂質を処理することを特徴とする。【0005】本発明者らは、糖脂質関連酵素を得るために、種々のサンプル(例えば、土壌、海水、淡水等)を採取し、スクリーニングに用いた。このスクリーニングの過程で、驚くべきことに、中性糖脂質及び酸性糖脂質をスフィンゴシン塩基と脂肪酸とに加水分解し、リゾ糖脂質と脂肪酸を生成する、従来知られていない新規なスフィンゴ脂質セラミドデアシラーゼ活性を見出した。更に、本発明者らが、鋭意検討を行った結果、本発明の酵素を生産する微生物を特定し、更に該酵素を精製し、また該酵素の理化学的性質を明らかにし、また更に、該酵素を用いてスフィンゴ脂質を処理することにより、リゾスフィンゴ脂質を効率よく製造することに成功し、本発明を完成させた。【0006】以下、本発明を詳しく説明する。本発明のスフィンゴ脂質セラミドデアシラーゼの製造方法は特に限定されるものではなく、本発明のスフィンゴ脂質セラミドデアシラーゼ生産能を有する微生物、若しくは細胞等でよい。例えば、シュードモナス エスピー TK−4(Pseudomonas sp. TK−4) が挙げられる。本菌株は、本発明者らが土壌中より新たに検索して得た菌株で、その菌学的性質は以下のとおりである。(1)生育温度範囲:〜41℃(2)グラム染色:陰性(3)形態:桿菌(4)運動性:陽性(5)好気的条件下での生育:陽性(6)嫌気的条件下での生育:陰性(7)カタラーゼ:陽性(8)オキシダーゼ:陽性(9)O−Fテスト:F(10)O/129感受性試験:非感受性(11)色素の精製:+/−(12)アンモニウムイオン及びグルコース合成培地中での生育:陽性(13)アミノ酸の炭素源としての利用:Arg、Asn、His、Glu、Ser、Ala(14)7.5%NaCl含有肉汁培地(nutrient broth) 中での発育:陰性(15)ブタンジオールデヒドロゲナーゼ活性:陽性(16)グリセロールからのガス産生:陽性(17)グルコースからのガス産生:陽性(18)2.5%ペプトン水からの硫化水素の発生:陽性(19)糖の資化性:ガラクトース、スクロース、アラビノース(20)GC含量:約69.4%(21)単極毛を有する。以上の結果より、本菌株はシュードモナス属に属する細菌であると同定される。【0007】本菌株は、Pseudomonas sp. TK−4と命名され、G−182と表示され、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所にFERM BP−5096として寄託されている。【0008】本発明の酵素は、例えば上述した菌株を栄養培地中で培養し、培養後の培養物から酵素を分離することによって得られる。培地に加える栄養源は、該菌株が利用し本発明の酵素を生産するものであればよく、炭素源としては例えば、グリセロール、グルコース、スクロース、糖蜜等が利用でき、窒素源としては例えば、酵母エキス、ペプトン、コーンスティープリカー、肉エキス、脱脂大豆、硫安、硝酸アンモニウム等が適当である。その他、ナトリウム塩、カリウム塩、リン酸塩、マグネシウム塩、亜鉛塩等の無機質及び金属塩を加えてもよい。また培地中にアシアロGM1などの糖脂質を0.01〜0.5%添加して本発明の酵素の生産性を高めることができる。本発明の酵素の生産菌を培養するに当り、酵素の生産量は培養条件によって大きく変動するが、一般的に培養温度は20〜35℃、培地のpH5〜8が良く、1日から7日の通気かくはん培養で本発明の酵素が生産される。培養条件は使用する菌株、培地組成等に応じて本発明の酵素の生産量が最大になるように設定するのは当然のことである。上述した菌株によって生産された本発明の酵素は主に菌体外に存在するので、培養物を固液分離し、得られた上清から通常用いられる精製手段により精製酵素標品を得ることができる。例えば、塩析、有機溶媒沈殿、イオン交換カラムクロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトカラムクロマトグラフィー、ゲルろ過カラムクロマトグラフィー、凍結乾燥等により精製することができる。酵素の純度は例えば、ポリアクリルアミドゲルディスク電気泳動法等によって検定することができる。【0009】本発明により得られるスフィンゴ脂質セラミドデアシラーゼの酵素化学的及び理化学的性質は次のとおりである。(1)酵素活性の測定スフィンゴ脂質セラミドデアシラーゼの酵素活性の測定は次のようにして行う。基質溶液〔アシアロGM1、2mMと0.6%(w/v)トリトン(Triton) X−100を含む50mM酢酸緩衝液、pH6.0〕10μlに酵素液10μlを加え37℃で30分間反応させる。100℃で3分間加熱して酵素反応を止め、遠心濃縮機で反応液を濃縮乾固する。これを50%メタノール10μlに溶かしてTLCプレート(シリカゲル60、メルク社製)にのせ、クロロホルム/メタノール/0.02%CaCl2 水溶液(5:4:1)で展開した後、糖脂質をオルシノール硫酸法で発色させる。このTLCの展開溶媒で、脂肪酸を失った糖脂質は本来の(native) 糖脂質よりも少し遅いRf値を示す。このスポットをTLCクロマトスキャナー(島津CS−9000、島津製作所社製)を用いて波長540nmで定量する。【0010】(2)作用スフィンゴ脂質中の分子内セラミドに作用して、スフィンゴシン塩基と脂肪酸とに加水分解し、リゾスフィンゴ脂質と脂肪酸を生成する。【0011】(3)基質特異性(1)の酵素活性の測定法に従って本発明の酵素の基質特異性を調べたところ、下記表1に示すようにガングリオ系の酸性糖脂質のみならずガングリオ系、グロボ系、ラクト系のスフィンゴ糖脂質及び単糖とセラミドが結合したセレブロシドにも作用してリゾ糖脂質と脂肪酸を生成する。表1中、GM1及びアシアロGM1はウシ脳から調製し〔メソッズ イン エンザイモロジー(Methods in Enzymology)、第83巻、第139〜191頁(1982)〕、その他の基質はヤトロン社製である。【0012】【表1】【0013】(4)至適pH本発明の酵素の至適pHは図1に示すように5〜7付近に高い活性を有している。活性測定に用いる緩衝液は、pH3.0〜6.5においては50mM酢酸緩衝液、pH6.5〜9.0においては50mMリン酸緩衝液、pH10においては50mMグリシン緩衝液を使用する。図1は本発明の酵素の至適pHを示す図であり、縦軸は相対活性(%)、横軸は反応pHを示す。図中、黒丸印は酢酸緩衝液を、白三角印はリン酸緩衝液を、白丸印はグリシン緩衝液を示す。【0014】(5)至適温度本発明の酵素の至適温度は図2に示すように40℃で最大活性を示す。すなわち、図2は本発明の酵素の至適温度を示す図であり、縦軸は相対活性(%)、横軸は反応温度(℃)を示す。【0015】(6)pH安定性本発明の酵素をそれぞれのpHにおいて5℃で16時間保持した後、pHを6.0に戻して酵素活性を測定してpH安定性を調べた。緩衝液としてpH3.5〜6.0においては50mM酢酸緩衝液、pH6.0〜8.0においては50mMリン酸緩衝液、pH8.0〜9.0においては50mMトリス塩酸緩衝液、pH9.0〜9.5においては50mMグリシン緩衝液を使用する。図3に示すように本発明の酵素はpH4〜9の範囲で安定である。すなわち、図3は本発明の酵素のpH安定性を示す図であり、縦軸は残存活性(%)、横軸はpHを示す。図中、白丸印は酢酸緩衝液を、黒丸印はリン酸緩衝液を、白三角印はトリス塩酸緩衝液を、白四角印はグリシン緩衝液を示す。【0016】(7)熱安定性本発明の酵素の熱安定性を調べたところ図4に示すように60℃、30分間の処理でも90%の活性を保持している。すなわち、図4は本発明の酵素の熱安定性を示す図であり、縦軸は残存活性(%)、横軸は温度(℃)を示す。【0017】(8)分子量 本発明の酵素の分子量は、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)により、52,000を示す。【0018】(9)酵素反応生成物の構造確認本発明の酵素の分解生成物の確認は、アシアロGM1を酵素で消化した後、分解生成物を逆相HPLCで精製し、ファーストアトムボンバードメント−マススペクトル(FAB−MS)分析に供して行う。まず、3mg/mlのアシアロGM1(C 18:0,d 18:1分子量1254)と0.6%トリトンX−100を含む50mM酢酸緩衝液pH6.0、1mlに酵素液200μlとトルエン10μlを加えて37℃で3日間反応を行う。反応終了後5倍量のクロロホルム/メタノール(2:1)を加えて分配を行い、上層をとって蒸発乾固させた後、500μlのクロロホルム/メタノール/水(3:48:47)に溶解して逆相カラムクロマトグラフィーに供するサンプルとする。使用カラムはODS−80T(4.6×75mm、東ソー社製)、流速は1ml/min、分画サイズは1.5mlである。カラムにサンプルを添加した後メタノール/水(6:4)を10ml流し、次に60分間で100%メタノールまでグラジエント溶出を行い、最後にクロロホルム/メタノール/水(60:30:4.5)を5ml流す。リゾアシアロ(lysoasialo) GM1の画分を集めて精製標品とし、FAB−MS分析(マトリックスはトリエタノールアミン)に供す。その結果を図5に示す。すなわち、図5はアシアロGM1を本発明の酵素で消化した後、得られる生成物のFAB−MS分析の結果を示す図であり、縦軸は相対強度、横軸は質量数/電荷数(M/Z)を示す。図中、中央部に600〜1200(M/Z)の拡大図を示し、上部に基質として用いたアシアロGM1(上段)と、生成物であるリゾアシアロGM1(下段)の構造、分子量、シグナル〔(M−H)- 〕の位置を示す。また、Sphはスフィンゴシン塩基を、Cerはセラミドを示す。【0019】図5に示すようにリゾアシアロGM1の分子量988に相当するシグナル987が最強シグナルとして得られる。また、リゾアシアロGM1の糖鎖部分の非還元末端からGalが外れたことを示す825のシグナルと、更にそこからN−アセチルガラクトサミン(GalNAc)が外れたことを示す622のシグナルが観察される。これらのデータから本発明の酵素の反応生成物はリゾ糖脂質であり、その糖鎖部分にアシアロGM1の糖鎖部分を持っていることが示される。【0020】上記のFAB−MS分析で得られた結果のほかに、(I)本発明の酵素による消化で得られた生成物はニンヒドリン反応陽性であること、(II) 生成物をエンドグリコセラミダーゼ(EC.3.2.1.123:糖鎖とセラミド、あるいは糖鎖とスフィンゴシンの間のグリコシド結合を加水分解する酵素)で処理するとアシアロGM1の糖鎖部分を生ずること、(III)この糖鎖部分はニンヒドリン反応陰性であること(すなわちGalNAcのアセチル基は外れていないこと)、を確認している。【0021】上記の結果より、本発明の酵素がスフィンゴ脂質中の分子内セラミドに作用してこのセラミド部分をスフィンゴシン塩基と脂肪酸とに加水分解し、リゾスフィンゴ脂質と脂肪酸を生成する反応を触媒することが明らかとなった。【0022】本発明の酵素を用いて、リゾスフィンゴ脂質を製造するには、該酵素が作用するスフィンゴ脂質であればいかなるものでも基質として用いることができる。例えば、酸性糖脂質としてはGQ1、GT1、GD1、GD3、GM1、GM3等の各種ガングリオシド及びスルファチド、中性糖脂質としてはグロボシド、アシアロGM1、セレブロシド等、スフィンゴリン脂質としてスフィンゴミエリンが挙げられる。これらの基質を緩衝液中に懸濁させ、本酵素を作用させることで各種のリゾスフィンゴ脂質を得ることができる。例えば、反応液中の基質濃度を1〜20mg/ml、反応温度37〜40℃、反応pH5.0〜6.0、通常は酢酸緩衝液を用いて、緩衝液の最終濃度が25mMとなるようにして反応を行う。また、反応液中には界面活性剤としてトリトンX−100を終濃度0.8%となるように添加する。反応終了後、ODS逆相カラムクロマトグラフィーで反応生成物と未反応スフィンゴ脂質を分離する。溶出液としては、クロロホルム/メタノール/水(5/4/1、v/v)を用いることができる。HPLCのモニターは、溶出液をHPTLCで分析することにより行うことができる。HPTLCの展開溶媒はクロロホルム/メタノール/10%酢酸(5/4/1、v/v)、発色は糖脂質及びリゾ糖脂質はオルシノール硫酸法、スフィンゴミエリン及びリゾスフィンゴミエリンはクマシーブルー法で行うことができる。リゾスフィンゴ脂質だけを検出したい場合は、ニンヒドリン法を用いることができる。このように、本発明の酵素を用いてリゾスフィンゴ脂質を製造することができる。【0023】また、得られたリゾスフィンゴ脂質を再アシル化することにより各種の誘導体を得ることができる。例えば、リゾスフィンゴ脂質への脂肪酸の導入は、ジシクロヘキシルカルボジイミドの存在下、脂肪酸とN−ヒドロキシコハク酸イミドとのエステルを合成し、リゾスフィンゴ脂質と反応させる方法、脂肪酸塩化物を合成し、リゾスフィンゴ脂質と反応させる方法等により再アシル化された誘導体を得ることができる。【0024】また、本発明の酵素を用いて得られるリゾスフィンゴ脂質のスフィンゴシン部分のアミノ基を標識することにより、蛍光標識スフィンゴ脂質誘導体(蛍光標識ネオスフィンゴ脂質)を合成することができる。例えば、ダンシルクロリド、4−フルオロ−7−ニトロベンゾフラザン(4−Fluoro−7−nitrobenzofurazan 、NBD−F)、10−ピレンデカン酸等による標識が可能である。【0025】以上、詳細に説明したように、本発明によりスフィンゴ脂質セラミドデアシラーゼが提供され、更には、該スフィンゴ脂質セラミドデアシラーゼを用いるリゾスフィンゴ脂質の製造方法が提供される。該酵素は、非常に広い基質特異性を有する酵素であり、糖脂質の機能解明の研究、及び糖脂質工学等の分野において有用である。更には、該酵素を用いて製造したリゾスフィンゴ脂質は、スフィンゴ脂質の細胞内代謝や輸送経路の解明、スフィンゴ脂質の細胞内での機能解明等の細胞工学に有用な基質及び試薬を製造することが可能となる。【0026】【実施例】次に実施例により本発明を更に詳細に説明するが、この実施例は本発明の一例を示すものであり、本発明はこれらになんら限定されるものではない。【0027】実施例10.5%ペプトン、0.1%酵母エキス、0.2%NaCl、及び0.1%アシアロGM1を含む液体培地に、シュードモナス エスピー TK−4(FERM BP−5096)を接種し30℃で48時間培養した。培養終了後、培養液を6000rpm、60分間の遠心分離によって菌体を除去して培養上清を得た。以降の操作はすべて5℃で行った。培養上清に80%飽和になるまで硫安を加え、一晩放置した後6000rpm、60分間の遠心分離によって沈殿物を集める。この沈殿物を少量の0.2%ルブロールを含む20mM酢酸緩衝液pH6.0に溶解し、同緩衝液に対して一晩透析した。透析後の酵素溶液をトヨパール(Toyopearl)HW−55F(東ソー社製)のゲルろ過クロマトグラフィーに供した。カラムサイズは40×300mmで、溶出は0.2%のルブロール及び0.2MのNaClを含む20mM酢酸緩衝液pH6.0を用い、流速1ml/min、分画サイズ5mlで行い、活性画分を集めた。次いでこの画分を0.2%のルブロールを含む20mM酢酸緩衝液pH6.0で平衡化したDEAM(ベーカーボンド社製)のカラムクロマトグラフィーに供した。カラムサイズは2.3×150mmで、溶出は同緩衝液を用いて流速2ml/minで行い、非吸着画分を集めた。次いでこの画分を0.2%のルブロールを含む20mM酢酸緩衝液pH6.0で平衡化したCM−5PW(東ソー社製)に添加した。カラムサイズは5×50mmで、溶出は流速0.5ml/min、分画サイズ1.5mlで0〜1M NaClのグラジエントで行い、活性画分を集めTSK−G3000SW(東ソー社製)のカラムを用いたゲルろ過クロマトグラフィーに供した。溶出は0.2%のルブロール、及び0.2MのNaClを含む20mM酢酸緩衝液pH6.0を用い、流速1.5ml/min、分画サイズ1.5mlで行い、活性画分を集めた。次いでこの活性画分を0.2%のルブロールを含む2mMリン酸緩衝液pH7.0で平衡化したハイドロキシアパタイトのカラムクロマトグラフィーに供した。カラムサイズは1.4×70mmで、溶出は開始緩衝液から終濃度400mMのリン緩衝液pH7.0までのグラジエント溶出を行った。次に得られた活性画分を集めて精製酵素とした。該精製酵素は、アシアロGM1を加水分解し、リゾアシアロGM1と脂肪酸を生成する活性を有していた。【0028】実施例2 リゾスフィンゴ脂質の製造(1)リゾアシアロGM1の製造スフィンゴ脂質としてアシアロGM1を用いた。アシアロGM1は、メソッズイン エンザイモロジー、第83巻、第139〜191頁(1982)に記載の方法でウシ脳から調製した。2.5mg/mlのアシアロGM1と本酵素及び0.8%のトリトンX−100を含む25mM酢酸緩衝液pH6.0を37℃で3日間保温し、反応を行った。反応終了後、反応液の5倍量のクロロホルム/メタノール(2:1)を加えて分配を行い、上層をとって蒸発乾固した後500μlのクロロホルム/メタノール/水(3:48:47)に溶解してODS逆相カラムクロマトグラフィーに供した。このクロマトグラフィーによって反応生成物と未反応スフィンゴ脂質(アシアロGM1)を分離した。使用したカラムはODS−80T(4.6×75mm、東ソー社製)で、流速は1ml/min、分画サイズは1.5mlである。溶出液としてはクロロホルム/メタノール/水(5:4:1、v/v)を用いた。HPLC溶出液のモニターは、溶出液をHPTLCで分析することによって行った。HPTLCの展開溶媒はクロロホルム/メタノール/10%酢酸(5:4:1、v/v)、発色はオルシノール硫酸法と、リゾスフィンゴ脂質だけを検出するためにニンヒドリン法を用いた。次に、リゾアシアロGM1の画分を集めて精製標品とし、FAB−MS分析(マトリックスはトリエタノールアミン)に供した。その結果を図5に示した。縦軸は相対強度、横軸は質量数/電荷数(M/Z)を示す。リゾアシアロGM1の分子量988に相当するシグナル987が最強のシグナルとして観察された。また、リゾアシアロGM1の糖鎖部分の非還元末端からGalがはずれたことを示す825のシグナルと、更にそこからN−アセチルガラクトサミン(GalNAc)がはずれたことを示す622のシグナルが観察された。更に、該精製標品は、反応生成物はニンヒドリン反応陽性であり、生成物をエンドグリコセラミダーゼで処理するとアシアロGM1の糖鎖部分を生じた。この糖鎖部分はニンヒドリン反応陰性であった。これらの結果より、反応生成物の精製標品の構造は確かにリゾアシアロGM1であることが確認された。【0029】(2)リゾスフィンゴミエリンの製造スフィンゴ脂質としてスフィンゴミエリン〔マトレヤ(Matreya)製〕を用いて実施例2−(1)と同様の方法で行った。但し、ODS−80Tカラムの代りにシリカゲル60カラムを用いた。また、HPTLCの発色は、クマシーブルー法とリゾスフィンゴ脂質だけを検出するためにニンヒドリン法を用いた。このようにして得られたFAB−MS分析の結果を図6に示す。縦軸は相対強度、横軸は質量数/電荷数(M/Z)を示す。この図6は、400〜550(M/Z)の拡大図である。図6に示すように、リゾスフィンゴミエリンの分子量466に相当するシグナル467〔(M+H)+ 〕が最強シグナルとして得られた。【0030】実施例3 リゾスフィンゴ脂質を用いた誘導体の合成(1)単一脂肪酸のリゾスフィンゴ脂質への導入リゾスフィンゴ脂質への脂肪酸の導入(再アシル化)は、脂肪酸塩化物を合成してリゾスフィンゴ脂質と反応させる方法で行った。リゾスフィンゴ脂質としては、GM1を用いて実施例2−(1)と同様の方法で調製したリゾGM1を用い、脂肪酸としてはC2:0、C14:0、C16:0、C18:0、C22:0、及びC24:0の分子種を用いた。反応に用いたリゾGM1の2〜3モル当量の脂肪酸を小型ナス型フラスコに入れ、そこに5〜10mlの塩化チオニルを加えた。冷却管をつけて還流しながら湯浴上約80℃に加熱した。なお、この時外気からの水分を遮断するため、還流塔の先端には塩化カルシウムを詰めたガラス管を装着しておいた。反応終了後、ドラフト内で窒素気流により塩化チオニルを除去した後、水酸化カリウムを入れた真空デシケーター中に1〜2時間放置した。塩化チオニルの臭いがないことを確認してから、反応生成物が入ったナス型フラスコにジエチルエーテルを加え、溶解した。ここに、あらかじめ1mlの0.3M炭酸水素ナトリウム溶液に溶かしておいた1μmolのリゾGM1を加えて2〜3時間かくはんした。反応の進行状況はTLCで確認した。反応終了後、反応液を超純水に対して透析し、再アシル化GM1を得た。この方法で脂肪酸炭素鎖の長さに関わらず、約90%の収率で目的とする脂肪酸をリゾGM1に導入することができた。【0031】(2)蛍光標識ネオスフィンゴ脂質の合成リゾスフィンゴ脂質のスフィンゴシン部分のアミノ基を標識することにより、蛍光標識スフィンゴ脂質誘導体(蛍光標識ネオスフィンゴ脂質)を合成した。リゾスフィンゴ脂質としては実施例3−(1)と同様にリゾGM1を用いた。ダンシルクロリドで標識する場合は、リゾGM1(1μmol)を0.2M炭酸水素ナトリウム溶液1mlに溶かし、これに等量の0.25%ダンシルクロリドアセトン溶液を加えた。暗所で37℃、1時間静置した後、超純水に対して透析を行った。一方、NBD−Fで標識した場合は、0.5nmolのリゾGM1を500μlを加えて湯浴上60℃で1分間保温した。反応終了後直ちに氷冷し、超純水に対して4℃で約2時間透析した。いずれの標識反応の場合も、常に遮光することが必要である。合成された蛍光標識ネオスフィンゴ脂質の確認及び合成収率の測定はTLC分析によって行った。展開溶媒はクロロホルム/メタノール/10%酢酸(5:4:1、v/v)を用いた。収率はダンシル化GM1(ダンシル−II3 NeuAcα−Gg4−スフィンゴシン)の場合ほぼ100%、NBD−GM1(NBD−II3 NeuAcα−Gg4−スフィンゴシン)の場合は70〜80%であった。【0032】【発明の効果】本発明によって、基質特異性の非常に広いスフィンゴ脂質セラミドデアシラーゼが提供された。更に該酵素を用いることによって種々のスフィンゴ脂質からリゾスフィンゴ脂質を製造する方法が提供された。更にこのようにして得られたリゾスフィンゴ脂質はその遊離アミノ基を利用して、例えば標識した脂肪酸を再導入したり、あるいは直接蛍光標識したり、更には例えばアルブミン等の糖鎖を有しない蛋白質と常法に従って結合させたりすることによってスフィンゴ脂質誘導体に変換することができ、糖質関連酵素の活性測定用基質、及び精製用アフィニティークロマトグラフィーのリガンドとして、また抗スフィンゴ脂質抗体の抗原として、あるいはスフィンゴ脂質の機能解明の研究に用いることができる。更には、スフィンゴ脂質の細胞内代謝や輸送経路の解明、スフィンゴ脂質の細胞内での機能解明等に有用な基質及び試薬として用いることができる。【図面の簡単な説明】【図1】本発明により得られるスフィンゴ脂質セラミドデアシラーゼの至適pHを示す図である。【図2】本発明により得られるスフィンゴ脂質セラミドデアシラーゼの至適温度を示す図である。【図3】本発明により得られるスフィンゴ脂質セラミドデアシラーゼのpH安定性を示す図である。【図4】本発明により得られるスフィンゴ脂質セラミドデアシラーゼの熱安定性を示す図である。【図5】本発明により得られるスフィンゴ脂質セラミドデアシラーゼを用いて、アシアロGM1を消化した後、得られるリゾアシアロGM1をFAB−MS分析に供した際のスペクトルを示す図である。【図6】本発明により得られるスフィンゴ脂質セラミドデアシラーゼを用いて、スフィンゴミエリンを消化した後、得られるリゾスフィンゴミエリンをFAB−MS分析に供した際のスペクトルを示す図である。 下記の理化学的性質を有することを特徴とする、シュードモナス属に属する細菌より得られるスフィンゴ脂質セラミドデアシラーゼ。(1)作用:スフィンゴ脂質中の分子内セラミドに作用して、スフィンゴシン塩基と脂肪酸とに加水分解し、リゾスフィンゴ脂質と脂肪酸を生成する。(2)基質特異性:中性糖脂質及び酸性糖脂質に作用する。(3)至適pH:至適pHが5〜7である。(4)至適温度:至適温度が40℃である。(5)pH安定性:5℃、16時間の処理でpH4〜9の範囲で安定である。(6)熱安定性:60℃において30分間、安定である。(7)分子量:52,000〔ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)による〕。 請求項1記載のスフィンゴ脂質セラミドデアシラーゼを用いてスフィンゴ脂質を処理することを特徴とするリゾスフィンゴ脂質の製造方法。


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