タイトル: | 特許公報(B2)_新規な光学分割法 |
出願番号: | 1995158907 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,C07B57/00,C07D209/20,C07M7:00 |
緒方 直哉 JP 3696930 特許公報(B2) 20050708 1995158907 19950626 新規な光学分割法 ダイセル化学工業株式会社 000002901 古谷 聡 100087642 溝部 孝彦 100076680 持田 信二 100091845 義経 和昌 100098408 緒方 直哉 20050921 7 C07B57/00 C07D209/20 C07M7:00 JP C07B57/00 310 C07B57/00 365 C07D209/20 C07M7:00 7 C07B 57/00 310 C07B 57/00 365 C07D209/20 C07M 7:00 緒方直哉,月刊新素材,1991年,Vol.2,No.7,p.45-50 2 1997012482 19970114 9 20010904 特許法第30条第1項適用 平成7年5月10日 社団法人高分子学会発行の「高分子学会予稿集44巻3号」に発表 吉良 優子 【0001】【産業上の利用分野】本発明は新規な光学分割法に関し、詳しくは、光学活性基を有する温度応答性ポリマーを用いることを特徴とする新規な光学分割法に関するものである。ここにいう温度応答性ポリマーとは、溶液中で、ある温度で可逆的に可溶←→不溶になる性質をもつポリマーのことである。本発明に用いる光学活性基を有する温度応答性ポリマーは、溶液に溶解しているポリマーが、ある温度で不溶化するときに光学異性体混合物の中の一方の光学異性体を選択的に取り込むという特異な性質を有するものである。【0002】【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】有機化合物の中には、不斉中心を持つものが多くあり、それに由来する光学異性体が存在する。光学異性体は、沸点や溶解度などの物理的性質にはほとんど差が見られない。しかし、生理活性には多くの違いが見出されることがしばしばある。したがって、光学異性体の一方(D体またはL体)を得ることは、医薬品、農薬、食品などの分野に関しては非常に有用なことである。【0003】例えば、グルタミン酸の場合、L体(S体)には旨味はあるが、D体(R体)には旨味がない。また、甘味料アスパルテームの場合には、S体は甘味を呈するが、R体は苦味を呈すると言われている。医薬品の場合においても、D体、L体でその薬効、毒性において、顕著な差を示す場合もあるため、厚生省は、1985年度版医薬品製造指針において、「当該薬物がラセミ体である場合には、それぞれの異性体について、吸収、分布、代謝、排泄動態を検討しておくことが望ましい。」と記載している。【0004】このような社会的要請に基づき、ラセミ体から光学活性体を得る種々の手段が考案されている。光学活性体をラセミ体から得る方法としては、優先晶出法、ジアステレオマー法、酵素法、クロマトグラフィー法、膜分離法などがある。優先晶出法は、ラセミ体の過飽和溶液に希望の結晶を接種し、その結晶のみを成長させ、析出させる方法である。これは、優れた方法にもかかわらず、その実績が少ないのは、次のような理由による。すなわち、あるラセミ体を優先晶出法で分割しようとするには、先ず、ラセミ体と両活性体の溶解度を測定し、ラセミ体>活性体であること、沸点は活性体の方がラセミ体より高いこと、ラセミ体の過飽和溶液には活性体は溶けないこと、更には、ラセミ体と活性体の赤外線吸収スペクトルが一致することなどを確かめておく必要がある(山中宏、田代泰久、季刊化学総説、No.6, 1989, P4-5) 。また、固−液分離のタイミングと濾過時間を短縮することが、技術的に重要な問題であることなどからして、優先晶出法は、特殊な結晶にのみ適用可能な技術である。ジアステレオマー法は、ラセミ体に光学活性な酸または塩基を作用させて、生成したジアステレオマー塩の溶解度の差により、分別結晶によって分ける方法である。この方法は、分割剤がラセミ体と容易に塩、または誘導体を形成するものでなければならないことによる分割剤の選定の困難さが付随する。また、高純度の光学活性体を得るのも困難であることや、ラセミ体と等量の分割剤が必要であるという制約がある。【0005】酵素を用いる光学分割法は、酵素の持つ基質に対する立体特異性を利用している。この方法は、光学活性体を大量に得る方法としては適しており、例えば、ヒダントイナーゼ反応と化学的脱カルバミル化反応を組み合わせた酵素法によるD−アミノ酸の工業的規模の生産技術が確立している(S. TAKAHASHI, "Biotechnology of Aminoacid Production", H. YAMADA et al., Kodansya Ltd., (1986), P.289)。また、米国特許第4,800,162 号には、酵素をキャピラリー型膜に固定化することにより、光学活性体を得る方法が記載されている。しかしながら、酵素法の場合には、光学分割しようとする対象ラセミ体に適合する酵素を見つけることが極度に困難であり、したがって、非常に限定されたラセミ体にしか適用できないという欠点を有している。クロマトグラフィー法は、キラルな化合物を固定相とし、D体、L体と固定相(充填剤)との相互作用によって光学分割する方法である。HPLC(高性能液体クロマトグラフィー)法の進歩及び大きな光学認識能を持つ充填剤の開発によって、対象化合物の範囲が拡大するとともに、処理能力も向上しているが、まだ工業規模で経済的に行われる域には達していない。【0006】膜による光学異性体の分離は、効率良く、連続して光学活性体を得ることができるという利点がある。このため、膜による光学分割法も近年、研究が盛んになされてきている。その例を挙げるならば、特開昭61−50603号公報や特開昭62−180701号公報に不斉認識能を持つクラウン化合物を含浸させた多孔質膜を用いる方法が、英国特許公開第2,233,248 号公報に光学活性ポリマー膜を用いる方法が、開示されている。しかし、これまでの膜による光学分割法は、膜の一方の側にラセミ体溶液、他方の側に溶媒を接触させるという濃度勾配法がとられている。この場合、光学分割対象物によっては、透過性や分離性に問題があることがあった。【0007】従って、本発明が解決しようとする課題は、上記の各種光学分割法の欠点に鑑みて、大量の光学活性体を経済的、汎用的に得るのに適した新規な光学分割法を提供することである。【0008】【課題を解決するための手段】 本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行い、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は、光学異性体混合物を光学分割するに際し、分離対象の光学異性体混合物水溶液に光学活性基を有する温度応答性ポリマーを溶解し、相転移温度以上に温度を上げて前記光学活性基を有する温度応答性ポリマーを固化析出させて、同時に一方の光学異性体を吸着分離することを特徴とする新規な光学分割法であり、前記光学活性基を有する温度応答性ポリマーが、N−n-プロピルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド又はN−シクロプロピルアクリルアミドと光学活性基を有する重合性モノマーとの共重合体である新規な光学分割法に係わるものである。【0009】水溶性ポリマーの中には、水溶液状態において、低温で溶解、高温で不溶となり、冷却されると再度溶解するという可逆的な溶解挙動を示すものがある。これらのポリマーの分子構造は、親水性部と疎水性部から成り立っている両親媒性物質である。これらポリマーは、水溶液状態にあるとき、温度に敏感にしかも可逆的に応答するので、温度応答性ポリマーと呼ばれ機能性材料として注目されている。このような温度応答性ポリマーとしては、ポリビニルアルコール部分酸化物、ポリビニルメチルエーテル、メチルセルロース、ポリエチレンオキシド、ポリビニルメチルオキソゾリジノン、ポリN−アルキルアクリルアミドなどが知られている。中でもポリN−アルキルアクリルアミドについては多くの研究がなされており、その水溶液は熱刺激に対する応答性がよく、固有の相転移温度を有する。このようなポリN−アルキルアクリルアミドの具体例としては、ポリN−n-プロピルアクリルアミド、ポリN−イソプロピルアクリルアミド、ポリN−シクロプロピルアクリルアミド等が挙げられる。【0010】本発明に用いる光学活性基を有する温度応答性ポリマーは、溶液に溶解しているポリマーが、ある温度で不溶化するときに光学異性体混合物の一方を選択的に取り込むという特異な性質を有するものである。本発明に用いる光学活性基を有する温度応答性ポリマーとしては、このような性質を有するものであればどのようなものでもよいが、具体的には、N−置換アクリルアミド誘導体と光学活性基を有する重合性モノマーとの共重合体が挙げられる。特に好ましいものとしては、N−イソプロピルアクリルアミドと光学活性イソブチルアクリルアミドとの共重合体が挙げられる。ポリN−イソプロピルアクリルアミド水溶液は、低温では溶液が透明になり、高温になると溶液が白濁する。これは、低温では親水性であるカルボニル基が水和サイトとして働き、ある温度以上になると疎水性であるイソプロピル基の運動性の増大によって脱水和効果が現れ白濁すると考えられる。本発明は、このポリN−イソプロピルアクリルアミドのようなN−置換アクリルアミド誘導体に光学活性基を導入し、光学分割への応用を図ったものである。【0011】本発明において好ましく用いられる、N−イソプロピルアクリルアミドと光学活性イソブチルアクリルアミドとの共重合体を製造するには、先ず、塩化アクリロイルと光学活性ブチルアミンとから光学活性イソブチルアクリルアミドを合成し、次いで、重合開始剤としてアゾイソブチロニトリル(AIBN)を用いて、N−イソプロピルアクリルアミドと光学活性イソブチルアクリルアミドとを共重合させる。共重合体の分子量は 5,000〜100,000 程度が好ましい。【0012】本発明の光学活性基を有する温度応答性ポリマーを用いてラセミ体を光学分割するには、分離対象のラセミ体水溶液に温度応答性ポリマーを溶解後、相転移(液体→固体)温度以上に温度を上げてポリマーを固化析出させて、同時に一方の光学異性体を吸着分離する。【0013】【実施例】以下に、製造例及び実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。尚、例中の%は特記しない限り重量基準である。【0014】製造例1((S)−イソブチルアクリルアミドの製造)下記式(1) で表される塩化アクリロイル3.09g(34mmol)を塩化メチレン20mlに溶解し、氷冷下で激しく攪拌しながら、下記式(2) で表される(S)−(+)−ブチルアミン 5.0g(68mmol)をゆっくりと滴下した。滴下終了後、氷冷下で4時間攪拌して反応させた。反応物の精製として、まず水で分液し、後は5%の炭酸水素ナトリウム、水、飽和食塩水、硫酸水素ナトリウムの順に投入することで不純物を取り除き、残った濾液をエバポレーターにかけて溶媒を留去し、下記式(3) で表される(S)−イソブチルアクリルアミド3.21g(28mmol)を得た。この生成物の元素分析値、IRスペクトル、MSスペクトル、 1H−NMRスペクトルをそれぞれ表1、図1、図2、図3に示した。この製造における反応スキームは下記のとおりである。【0015】【化1】【0016】【表1】【0017】製造例2(N−イソプロピルアクリルアミドと(S)−イソブチルアクリルアミドとの共重合体の製造)下記式(4) で表されるN−イソプロピルアクリルアミド0.21g(1.83mmol)と製造例1で得られた(S)−イソブチルアクリルアミド0.10g(0.79mmol)とをジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、重合開始剤としてAIBNを加えた後、真空ラインを使って重合管を封管し、70℃で25時間振とうして重合反応を行った。次いで、重合管を開管し、減圧蒸留してDMFを留去した後、ジエチルエーテルを用いて沈澱させ、減圧乾燥して粉末を得た。この粉末を酢酸エチルに溶解してからジエチルエーテルで再沈し、下記式(5) で表されるN−イソプロピルアクリルアミドと(S)−イソブチルアクリルアミドとの共重合体 0.3gの白色粉末を得た。得られた共重合体の 1H−NMRスペクトルを図4に示した。共重合体中の(S)−イソブチルアクリルアミドの含有率は 30mol%であった。この製造における反応スキームは下記のとおりである。【0018】【化2】【0019】製造例3((R)−イソブチルアクリルアミドの製造)S体のブチルアミンの代わりにR体のブチルアミンを用い、製造例1と全く同様にして、(R)−イソブチルアクリルアミドを製造した。【0020】製造例4(N−イソプロピルアクリルアミドと(R)−イソブチルアクリルアミドとの共重合体の製造)N−イソプロピルアクリルアミドと製造例3で得られた(R)−イソブチルアクリルアミドを用いて、製造例2と全く同様にして、N−イソプロピルアクリルアミドと(R)−イソブチルアクリルアミドとの共重合体を製造した。【0021】実施例1(N−イソプロピルアクリルアミドと(S)−イソブチルアクリルアミドとの共重合体による光学異性体の吸着分離)製造例2で得られたN−イソプロピルアクリルアミドと(S)−イソブチルアクリルアミドとの共重合体(以下共重合体Aと略記)を用いて光学異性体の吸着分離実験を行った。なお、この実験におけるUV測定に関して、セルは石英製ブラックセルを、UV計は島津製作所製UV1200を使用し、波長は 190〜350nm で行った。先ず、共重合体A 0.1gをD−トリプトファン水溶液10ml(濃度 0.1%) に室温で混合し、直後に混合液のUVスペクトルを測定し、図5の昇温前の結果を得た。その後、これを昇温し、50℃で10分間放置し白濁させ、遠心分離器にかけて沈澱後、その上澄み液をとり、UVスペクトルを測定し、図5の昇温後の結果を得た。昇温前後のUVの差からD−トリプトファン水溶液の昇温前後の濃度差は 1.2×10-2mmol/リットル(5.3%)であった。【0022】次に、共重合体A 0.1gをL−トリプトファン水溶液10ml(濃度 0.1%) に室温で混合し、直後に混合液のUVスペクトルを測定し、図6の昇温前の結果を得た。その後、これを昇温し、50℃で10分間放置し白濁させ、遠心分離器にかけて沈澱後、その上澄み液をとり、UVスペクトルを測定し、図6の昇温後の結果を得た。昇温前後のUVの差からL−トリプトファン水溶液の昇温前後の濃度差は 0.0mmol/リットル(0.0%) であった。この実験から、N−イソプロピルアクリルアミドと(S)−イソブチルアクリルアミドとの共重合体は、D−トリプトファンは吸着するが、L−トリプトファンは吸着しないことがわかる。【0023】実施例2(N−イソプロピルアクリルアミドと(S)−イソブチルアクリルアミドとの共重合体による光学分割)製造例2で得られたN−イソプロピルアクリルアミドと(S)−イソブチルアクリルアミドとの共重合体(共重合体A)を用いて光学分割実験を行った。共重合体A 0.1gをラセミ体のトリプトファン水溶液10ml(濃度 0.1%) に室温で混合した。その後、これを昇温し、50℃で10分間放置し白濁させ、遠心分離器にかけて沈澱後、その上澄み液をとり、光学分割カラムによりD体とL体の組成割合を分析した結果、D体0%、L体 100%であった。【0024】実施例3(N−イソプロピルアクリルアミドと(R)−イソブチルアクリルアミドとの共重合体による光学分割)製造例4で得られたN−イソプロピルアクリルアミドと(R)−イソブチルアクリルアミドとの共重合体(以下共重合体Bと略記)を用いて光学分割実験を行った。共重合体B 0.1gをラセミ体のトリプトファン水溶液10ml(濃度 0.1%) に室温で混合した。その後、これを昇温し、50℃で10分間放置し白濁させ、遠心分離器にかけて沈澱後、その上澄み液をとり、光学分割カラムによりD体とL体の組成割合を分析した結果、D体 100%、L体0%であった。【0025】【発明の効果】本発明の光学活性基を有する温度応答性ポリマーを用いることを特徴とする新規な光学分割法は、分離対象のラセミ体水溶液にこのポリマーを溶解後、温度を上げてポリマーを固化析出させて、同時に一方の光学異性体を吸着分離するというものである。それゆえ、本発明の光学分割法は、装置及び操作が簡単で、大量の光学活性体を経済的、汎用的に得るのに適しており、工業化に有利な方法である。【図面の簡単な説明】【図1】 製造例1で得られた(S)−イソブチルアクリルアミドのIRスペクトルである。【図2】 製造例1で得られた(S)−イソブチルアクリルアミドのMSスペクトルである。【図3】 製造例1で得られた(S)−イソブチルアクリルアミドの 1H−NMRスペクトルである。【図4】 製造例2で得られたN−イソプロピルアクリルアミドと(S)−イソブチルアクリルアミドとの共重合体の 1H−NMRスペクトルである。【図5】 N−イソプロピルアクリルアミドと(S)−イソブチルアクリルアミドとの共重合体と、D−トリプトファン水溶液との混合液の昇温前後のUVスペクトルである。【図6】 N−イソプロピルアクリルアミドと(S)−イソブチルアクリルアミドとの共重合体と、L−トリプトファン水溶液との混合液の昇温前後のUVスペクトルである。 光学異性体混合物を光学分割するに際し、分離対象の光学異性体混合物水溶液に光学活性基を有する温度応答性ポリマーを溶解後、相転移温度以上に温度を上げて前記光学活性基を有する温度応答性ポリマーを固化析出させて、同時に一方の光学異性体を吸着分離することを特徴とする新規な光学分割法であり、前記光学活性基を有する温度応答性ポリマーが、N−n-プロピルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド又はN−シクロプロピルアクリルアミドと光学活性基を有する重合性モノマーとの共重合体である新規な光学分割法。 光学活性基を有する温度応答性ポリマーが、N−イソプロピルアクリルアミドと光学活性イソブチルアクリルアミドとの共重合体である請求項1記載の新規な光学分割法。