タイトル: | 特許公報(B2)_バリンの精製法 |
出願番号: | 1995144843 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,C07C229/08,C07C227/40,C07C227/42,C07C309/31 |
長谷川 和宏 金子 哲也 高橋 宣子 佐野 千明 JP 3694921 特許公報(B2) 20050708 1995144843 19950612 バリンの精製法 味の素株式会社 000000066 長谷川 和宏 金子 哲也 高橋 宣子 佐野 千明 20050914 7 C07C229/08 C07C227/40 C07C227/42 C07C309/31 JP C07C229/08 C07C227/40 C07C227/42 C07C309/31 7 C07C227/38-42 C07C229/08 C07C309/31 特開昭62−096454(JP,A) 特公昭42−025059(JP,B1) 特開昭52−003016(JP,A) 特開昭56−016450(JP,A) 特公昭40−011373(JP,B1) 特開昭51−149222(JP,A) 3 1996333312 19961217 7 20010917 小柳 正之 【0001】【産業上の利用分野】本発明はバリンの精製に適する新規なバリン・イソプロピルベンゼンスルホン酸塩結晶及び該塩を使用するバリンの精製法に関する。L−バリンは、医薬用のアミノ酸製剤の原料及び各種医薬品の合成中間体として有用である。また、D−バリンは、農薬等の化学品の中間体として有用である。【0002】【従来の技術】バリンは、大豆蛋白質等の蛋白質を加水分解する方法、あるいは、バリンを生成する能力を有する微生物を培養する方法により、製造されている。これらの方法で得られた蛋白質加水分解液、発酵液などのバリンを含有する水溶液からバリンを分離精製する方法として、例えば、(1)イオン交換樹脂で処理することにより酸性および塩基性アミノ酸を分離除去したのち、中性アミノ酸区分を分取し再結晶を繰り返して、バリン以外の中性アミノ酸を除去する方法(Biochem.J., 48, 313(1951))(2)バリンを含有する水溶液に塩酸を添加し、バリンの塩酸塩結晶を生成・析出を繰り返す方法(特開昭56−16450号)が従来行われていたが、前者は方法が非常に煩雑であり、ロイシン、イソロイシンとの分離が困難であること、後者はバリンの塩酸塩結晶の水への溶解度が高いため、収率が低くなってしまう等の問題があった。【0003】一方、他の精製法として、バリンと選択的に付加物を生成するテトラクロルオルトフタル酸、スルホイソフタル酸、フラビアン酸等の沈澱剤をバリンに作用させ、バリンを精製する方法(特公昭42−25059号)が挙げられる。しかし、使用する沈澱剤が高価であり、工業的に入手困難であること、生成した付加物の溶解度が高く、高収率でのバリンの回収が困難であること、付加物からバリンを単離する方法が煩雑であることの問題があった。【0004】また、バリンの類似の構造をもつ中性アミノ酸であるロイシンの沈澱剤として、これまでに1,2−ジメチルベンゼンスルホン酸(特公昭40−11373号)、p−トルエンスルホン酸(特開昭52−3016号)が知られているが、この物質は、ロイシンに対しての特異的な沈澱剤であるため、バリンの沈澱剤に適用することは困難であった。このように、沈殿剤は特異的なものであるため、バリンに適した沈殿剤を見つけることは容易でない。【0005】【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、安価な沈澱剤を用いた、簡便で高収率であり、かつ、高純度なバリンの精製法を提供することにある。【0006】【課題を解決するための手段】本発明者らは上述の事情を鑑み検討を重ねた結果、バリンを含有する水溶液にp−イソプロピルベンゼンスルホン酸を添加して反応させたのち、冷却すると難容性塩であるバリン・p−イソプロピルベンゼンスルホン酸結晶が選択的に析出することを見出し本発明を完成するに至った。【0007】すなわち、本発明は、(1)バリン1モルとp−イソプロピルベンゼンスルホン酸1モルとからなる新規なバリン・p−イソプロピルベンゼンスルホン酸塩結晶、及び(2)バリンを含有する水溶液にp−イソプロピルベンゼンスルホン酸またはその水溶性塩を添加して、バリン・p−イソプロピルベンゼンスルホン酸塩結晶を生成・析出させた後、該塩を分離取得し、次いで該塩を分解してバリンを取得することを特徴とするバリンの精製法に関するものである。【0008】本発明の方法で適用できるバリンは、L体またはD体である光学活性体、ラセミ体、または両者の混合物のいずれでも良い。バリンを含有する水溶液としては大豆蛋白質等の蛋白質を加水分解した加水分解液より塩基性アミノ酸を分別、除去したアミノ酸混合液、バリンを生成蓄積する能力を有する微生物を培養して得た発酵液あるいはその発酵液から菌体を除去した液、もしくはそれをイオン交換樹脂あるいは吸着樹脂で処理して得られた液等、または、ヒダントイン誘導体等を経由する合成法で得られた粗DL−バリンの水溶液等、種々の水溶液を使用することが可能である。【0009】本発明で使用するp−イソプロピルベンゼンスルホン酸は、イソプロピルベンゼンとその1.5倍モルの濃硫酸をガラス容器に入れ、120℃で熱しながら2〜3時間加熱することで容易に製造することが可能であり、工業的に安価に入手可能である。また、p−イソプロピルベンゼンスルホン酸は、遊離酸として用いても良く、またその水溶性塩、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、または、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等の形で用いても良い。p−イソピロピルベンゼンスルホン酸またはその水溶性塩の使用量は水溶液に含有するバリンに対して等モル以上、好ましくは1.0〜1.1倍モルであり、特に大過剰量を使用する必要はない。【0010】p−イソプロピルベンゼンスルホン酸またはその水溶性塩を3g/dL以上のバリン濃度を有する水溶液に添加し、pHを1.5程度に調整することにより、目的の難溶性の付加化合物であるバリン・p−イソプロピルベンゼンスルホン酸塩結晶を容易に生成・析出することができる。バリン・p−イソプロピルベンゼンスルホン酸塩結晶の生成・析出に適する溶液のpHは、0.1〜2.3であり、特に1.0〜1.7が好ましい。pH調整に使用する酸は、塩酸、硫酸等の無機酸が用いられる。必要に応じて、p−イソプロピルベンゼンスルホン酸の混合液にバリン・p−イソプロピルベンゼンスルホン酸塩の種晶を添加すると、効率的に結晶を析出することができる。また、バリン水溶液が希薄な場合、濃縮して該塩結晶を析出させることができる。この場合、p−イソプロピルベンゼンスルホン酸は、濃縮の前後のどの段階で加えても良い。バリン水溶液を中性で濃縮を行った場合は、遊離バリンの結晶が析出するが、そのまま、適量のp−イソプロピルベンゼンスルホン酸を添加し、pHを1.5程度に調整することで容易にバリン・イソプロピルベンゼンスルホン酸塩結晶を生成させることができる。また、適量のp−イソプロピルベンゼンスルホン酸の共存するバリンの希薄溶液をあらかじめpH2程度に調整した後、濃縮を行うことにより、バリン・p−イソプロピルベンゼンスルホン酸塩結晶を析出させることも可能である。【0011】析出したバリン・p−イソプロピルベンゼンスルホン酸塩結晶を分離取得するには、通常の固液分離の方法、例えば、濾過、遠心分離等の方法を採用すればよい。分離された結晶は高純度であるが、洗浄、脱水などの処理、再結晶操作等の通常用いられる精製方法を行えばさらに精製することができる。【0012】このようにして得られたバリン1モルとp−イソプロピルベンゼンスルホン酸1モルとからなるバリン・p−イソプロピルベンゼンスルホン酸塩結晶は新規物質であり、下記のような物性を示す。白色板状結晶。水、エタノールに可溶。水に対する溶解度:7.8wt%(pH1.5、10℃)結晶構造:単斜晶系結晶密度:1.28g/cm3元素分析:C;52.9%,H;7.3%,N;4.4%,S;9.9% (calc. C;53.0%,H;7.3%,N;4.4%,S;10.1%)【0013】バリン・p−イソプロピルベンゼンスルホン酸塩結晶から遊離バリンを単離するには、大量の熱水に溶解せしめた溶液を弱塩基性イオン交換樹脂(OH型)と接触せしめるか、あるいは水酸化ナトリウムなどのアルカリを添加する。イオン交換樹脂を使用する場合、p−イソプロピルベンゼンスルホン酸が吸着し、透過液に遊離バリンが得られる。これを常法、例えば、濃縮晶析することにより、バリンの結晶が得られる。樹脂に吸着した沈澱剤(p−イソプロピルベンゼンスルホン酸)は、水酸化ナトリウム溶液等のアルカリ溶液で樹脂を再生する際にアルカリ塩として溶出する。アルカリを添加する方法においては、バリン・p−イソプロピルベンゼンスルホン酸塩結晶の水懸濁液に水酸化ナトリウム等のアルカリをそのまま、あるいは水溶液にして添加し、pHを5〜8、好ましくは6〜7に調整することでp−イソプロピルベンゼンスルホン酸をアルカリ塩として溶液中に溶解し、遊離バリンを析出させ、析出したバリンを分離取得する。アルカリ塩として分離回収した沈澱剤(p−イソプロピルベンゼンスルホン酸)は、そのまま次回の沈澱剤として再使用が可能である。【0014】以下、実施例により、本発明を具体的に説明する。尚、実施例中のバリン及び他のアミノ酸の定量は日立L−8500型アミノ酸アナライザーにより行った。【0015】【実施例】参考例1(p−イソプロピルベンゼンスルホン酸の製造)イソプロピルベンゼン140mL(1モル)に濃硫酸84mL(1.5モル)を加え、120〜130℃の温度で2.5時間攪拌加熱を行う。イソプロピルベンゼンの未反応分が残留していれば層分離が見られるので、層分離が確認されなければ反応は終了し、p−イソプロピルベンゼンスルホン酸を主要成分とする溶液が得られる。この溶液を350mLの水中に注ぎ、炭酸水素ナトリウムで部分中和した後、塩化ナトリウムでスルホン酸をナトリウム化することでp−イソプロピルベンゼンスルホン酸のナトリウム塩結晶を析出させた。得られた結晶を濾過分別後、減圧乾燥した。このp−イソプロピルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩は水に易溶、エタノールに微溶であった。得られた結晶の1H−NMRスペクトルを図1に示す。【0016】実施例1L−バリン10gと参考例1で得られたp−イソプロピルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩19gに水70mLを加え硫酸でpHを1.5に調整した後、液温を50℃にし、固体分を溶解させた。次に、溶液を10℃まで冷却し、L−バリン・p−イソプロピルベンゼンスルホン酸塩結晶を析出させ、析出結晶を濾過分別後、減圧乾燥した。得られたL−バリン・p−イソプロピルベンゼンスルホン酸塩は白色微結晶であり、結晶系は単斜晶系で結晶比重は1.28g/cm3であった。結晶の粉末X線回折図を図2に示す。X線回折は、線源としてCu−Kα線を使用して測定した。元素分析結果は、C;53.1%,H;7.2%,N;4.4%,S;10.0%であった。【0017】実施例2L−バリン14gおよび、L−ロイシン、L−イソロイシン、L−グルタミン酸、L−アラニンをそれぞれ1.1g溶存する溶液100mLにp−イソプロピルベンゼンスルホン酸のナトリウム塩26.6g(バリンに対して等モル)を添加し、pHを1.5に調整した後加熱溶解した。次いで、溶解液を冷却し、L−バリン・p−イソプロピルベンゼンスルホン酸塩結晶を析出させ、取得した。析出結晶を遠心分離により回収した後、これを大量の熱水に溶解し、この溶液をOH型にした弱塩基性イオン交換樹脂に貫流させることで脱p−イソプロピルベンゼンスルホン酸を行った。その透過液を濃縮晶析して、遊離L−バリン結晶9gを得た。母液の分析によりバリンの沈澱率は70%、遊離L−バリンの純度は97%であった。他のアミノ酸の含量は、3%以下であった。【0018】実施例3L−バリン14gおよび、L−ロイシン、L−イソロイシン、L−グルタミン酸、L−アラニンをそれぞれ0.42g溶存する溶液100mLにp−イソプロピルベンゼンスルホン酸のナトリウム塩26.6g(バリンに対して等モル)を添加し、pHを1.5に調整した後加熱溶解し、冷却により析出したL−バリン・p−イソプロピルベンゼンスルホン酸塩結晶を取得した。析出結晶を遠心分離により回収した後、これを大量の熱水に溶解し、この溶液をOH型にした弱塩基性イオン交換樹脂に貫流させることで脱p−イソプロピルベンゼンスルホン酸を行った。その透過液を濃縮晶析することで、遊離L−バリン結晶9gを得た。母液の分析によりバリンの沈澱率は70%、遊離L−バリンの純度は99%であった。他のアミノ酸の含量は、1%以下であった。【0019】実施例4D−バリン10gおよび、D−ロイシン、D−イソロイシンをそれぞれ0.3g溶存する溶液100mLにp−イソプロピルベンゼンスルホン酸のナトリウム塩19g(バリンに対して等モル)を添加し、pHを1.5に調整した後加熱溶解し、冷却により析出したD−バリン・p−イソプロピルベンゼンスルホン酸塩結晶を18g取得した。析出結晶を遠心分離により回収した後、これを大量の熱水に溶解し、この溶液をOH型にした弱塩基性イオン交換樹脂に貫流させることで脱p−イソプロピルベンゼンスルホン酸を行った。その透過液を濃縮晶析することで、遊離D−バリン結晶6.5gを得た。母液の分析によりバリンの沈澱率は70%、遊離D−バリンの純度は99%であった。他のアミノ酸の含量は、1%以下であった。【0020】実施例5DL−バリン10gおよび、L−ロイシン、L−イソロイシンをそれぞれ0.3g溶存する溶液100mLにp−イソプロピルベンゼンスルホン酸のナトリウム塩19g(バリンに対して等モル)を添加し、pHを1.5に調整した後加熱溶解し、冷却により析出したDL−バリン・p−イソプロピルベンゼンスルホン酸塩結晶を9g取得した。析出結晶を遠心分離により回収した後、取得したDL−バリン・p−イソプロピルベンゼンスルホン酸塩結晶を大量の熱水に溶解し、この溶液をOH型にした弱塩基性イオン交換樹脂に貫流させることで脱p−イソプロピルベンゼンスルホン酸を行った。その透過液を濃縮晶析することで、遊離DL−バリン結晶3gを得た。母液の分析によりバリンの沈澱率は30%、遊離DL−バリンの純度は99%以上であった。【0021】比較例1L−バリン20gにp−トルエンスルホン酸1水和物32.5gと水47.5gを加え、室温溶解後10℃に冷却する。この操作により析出したバリン・p−トルエンスルホン酸結晶はわずかであった。L−バリン・p−トルエンスルホン酸の10℃での水(pH1.5)への溶解度は48wt%。【0022】比較例2L−バリン15gにp−ノルマルプロピルベンゼンスルホン酸のナトリウム塩28.5gと水56.5gを加え、硫酸でpHを1.5に調整後50℃で溶解。その後10℃まで冷却し、L−バリン・p−ノルマルプロピルベンゼンスルホン酸塩を13gを得た。母液の分析によるバリンの沈澱率は30%にすぎなかった。L−バリン・p−ノルマルプロピルベンゼンスルホン酸の10℃での水(pH1.5)への溶解度は29wt%。得られる結晶は白色微結晶で、結晶系は斜方晶系、結晶比重は1.27g/cm3であった。【0023】比較例3L−バリン15gおよび、L−ロイシン,L−イソロイシン,L−グルタミン酸をそれぞれ1.2g溶存する溶液150mLにスルホイソフタル酸ナトリウム34.5g(L−バリンに対して等モル)を添加し、pHを1.5に調整後、加熱溶解し、その後冷却によりL−バリン・スルホイソフタル酸塩を析出させ、分離取得した。取得したL−バリン・スルホイソフタル酸の結晶中のバリン純度は98%、他のアミノ酸は2%であった。また、バリンの取得率は70%であった。これを大量の熱水により溶解し、OH型にした弱塩基性イオン交換樹脂に貫流し、脱スルホイソフタル酸をし、遊離バリンを得ようと試みたが、脱スルホイソフタル酸が充分に行えず、この方法では完全な遊離バリンを得ることは困難であった。そこで、強酸性イオン交換樹脂を用いて、脱スルホイソフタル酸を試みたが、この方法ではバリンを強酸性イオン交換樹脂から溶離する際にバリン結晶が溶離液中におよび樹脂塔内に析出してしまい、効率の良い脱スルホイソフタル酸の操作を行う上で困難であった。【0024】【発明の効果】以上説明したように、本発明により得られたバリン・p−イソプロピルベンゼンスルホン酸塩結晶は、バリンの精製に用いると安価でかつ簡便に高純度のバリンを製造することができ、非常に有効である。すなわち、バリン・p−イソプロピルベンゼンスルホン酸塩結晶を製造し、バリンの精製を行う操作には、該塩の溶解度が低いためバリン取得率が高い、また、該塩の特異性のためバリンとの分離が容易でないロイシンやイソロイシンのようなアミノ酸との分離効果が高いといった効果がある。また、p−イソプロピルベンゼンスルホン酸は安価なイソプロピルベンゼンをスルホン化することで簡単に工業的に製造可能であり、入手が容易であるため、本発明は、工業的に安価にかつ容易に適用可能である。また、該塩からのバリンの分離・取得及びp−イソプロピルベンゼンスルホン酸の回収・再利用も容易である。【図面の簡単な説明】【図1】参考例1で得られたp−イソプロピルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩の1H−NMRスペクトルである。【図2】実施例1で得られたL−バリン・p−イソプロピルベンゼンスルホン酸塩結晶の粉末X線回折図である。 バリン1モルとp−イソプロピルベンゼンスルホン酸1モルとからなるバリン・p−イソプロピルベンゼンスルホン酸塩結晶 バリンを含む水溶液にp−イソプロピルベンゼンスルホン酸またはその水溶性塩を作用させて、バリン・p−イソプロピルベンゼンスルホン酸塩結晶を生成させたのち該塩を分離し、次いで該塩を分解してバリンを取得することを特徴とするバリンの精製法。 p−イソプロピルベンゼンスルホン酸の水溶性塩がアルカリ金属塩であることを特徴とする請求項2に記載の方法。