タイトル: | 特許公報(B2)_体液中の白血球(好中球)保存方法 |
出願番号: | 1995138701 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,A01N1/00,C12N1/04 |
内田 壱夫 JP 3619570 特許公報(B2) 20041119 1995138701 19950512 体液中の白血球(好中球)保存方法 株式会社いかがく 000141875 福島 三雄 100085316 野中 誠一 100100376 内田 壱夫 20050209 7 A01N1/00 C12N1/04 JP A01N1/00 C12N1/04 7 A01N 1/00 C12N 1/04 CA(STN) REGISTRY(STN) 特開平05−023179(JP,A) 特開昭60−061659(JP,A) 特開平04−118557(JP,A) 4 1996310901 19961126 6 20020315 吉住 和之 【0001】【産業上の利用分野】この発明は、生体から採取した各種体液中に遊出あるいは元から存在する白血球(好中球)を計測、診断する際に、試料採取後の体液中白血球(好中球)の量や質の変化を防止して正確な計測値、診断を得るための試料の保存方法に関するものである。【0002】【従来の技術】各種体液中の白血球(好中球)は、炎症性疾患を診断する上で非常に重要な臨床検査対象である。この検査は、体液中の白血球(特に炎症細胞である好中球)数を計測し或いは顕微鏡で観察して炎症性疾患の病態を判定するものである。ところが、採取した試料をそのまま室温で放置すると試料中の白血球(好中球)は、その機序は不明であるが細胞数の減少と変性が生じることは良く知られている。本発明者の実験によると、例えば尿試料を室温で長時間保存すると、顕微鏡の視野での細胞数が顕著に減少しており、細胞の形態も著しく変性していることを認めた。また、尿試料を採取する場合に適時に採取して各尿試料を用いる逐次尿法と一日の尿をためて用いる蓄尿法があるが、従来から前記の細胞数の減少および変性を阻止する方法として以下の方法が提案されていた。逐次尿においては、(1)採尿直後に遠心分離し、沈渣に固定液としてホルムアルデヒドまたはグルタールアルデヒド等を加える。(2)保存剤としてクエン酸−EDTAを加える(特願平2−90638号の方法)。(3)採尿直後に低温室に入れて低温に保持する。蓄尿においては、下記(1)〜(4)のように防腐剤を加えたり、或いは(5)のように低温に保持したりする。すなわち、(1)トルエンまたはキシロールを2〜3ml/lを加え、時々震盪混和する。(2)中性ホルマリンを5〜10ml/l加える。(3)クロルヘキシジンの5%溶液を5ml/l加える。(4)市販のホウ酸またはパラホルムアルデヒド錠剤を加える。(5)低温室に入れて低温に保持する。【0003】しかし、逐次尿、蓄尿に対する、いずれの方法も採尿直後の作業が厄介であり、また低温に保持する方法は輸送、保存が厄介であるとの理由で実際には用いられていない。逐次尿に対する(1)の方法、蓄尿に対する(1)〜(4)の方法では、人体に対し非常に危険性の高い強毒性物質を用いねばならない。また逐次尿の(1)の方法では細胞数の完全な保存は保証されない。この点は逐次尿の(2)の方法でも同様である。蓄尿の場合の(1)〜(4)の方法では、防腐作用として尿中の細菌の繁殖を抑制するだけであって細胞の自己消化を抑制することはできない。【0004】【発明が解決しようとする課題】体液(例えば尿)中の生体細胞が破壊、変性する原因は次の二つである。一つには、尿に常在または病的に存在する細菌が繁殖して細胞に直接付着、またはその毒素により生体細胞を破壊すること、二つには、生体細胞は体液中に遊出しても代謝作用を継続して行っており、低栄養時に細胞内の食作用空胞で自己を消化して代謝に必要な栄養補給を行い、やがて自己融解することである。現状では、この両方の作用を阻止し、かつ厄介な手間をかけず、安全である保存方法がないとされてきた。しかし、本発明者は、生体細胞、特に白血球(なかでも好中球)が体液中で破壊、変性する機序の考え方自体が間違っていることが、適切な保存方法を生み出し得ない原因と考え、その機序の解明こそが課題であるとした。【0005】【課題を解決するための手段】このような実情に鑑み、本発明者は、従来の体液中の細胞(特に白血球)が崩壊する機序の解明、それに基づく細胞保存方法の確立を目指すべく鋭意研究の結果、下記に示すような新たな事実を見出して本発明をなしたものである。すなわち、白血球(特に好中球)が体液(例えば尿)中で崩壊する様子を観察すべく以下のような実験を行った。種々の尿(遠心分離で既存の生体細胞は前もって除く)に血液由来好中球(いわゆる不活性型好中球、これは尿路での出血による尿中への出現を想定)、及び唾液由来好中球(いわゆる活性型好中球で、細菌や異物を貪食、殺菌能力が高い。このタイプの好中球が炎症患部へ遊走、集積する。)を添加し37℃、15時間放置後(膀胱内での滞留時間を想定)その崩壊を観察したところ、血液由来好中球(不活性型)で平均43%、唾液由来好中球(活性型)73%といずれのタイプの好中球も尿中で崩壊するが、特に活性型好中球が崩壊しやすいことがわかった。さらに、好中球の崩壊と尿のpHとの関係でみると、血液、唾液由来の好中球ともに酸性域(pH5以下)での崩壊がアルカリ域に比べて少ないことがわかった。また、放置温度および時間と好中球の崩壊との関係をみると、温度が高いほど、放置時間が長いほど崩壊が起こることがわかった。pH、温度、時間依存性で好中球が崩壊することから、好中球の崩壊現象に酵素の関与が考えられた。この崩壊現象は、尿中でも緩衝液中でも起こることから好中球内の酵素によっている。つまり好中球内のライソゾーム酵素によると考えられ、酸性域での崩壊にはカテプシンB、アルカリ域での崩壊には顆粒球エラスターゼ、プロテナーゼ3等のセリンプロテアーゼが最も関与すると考えられる。【0006】次に、酵素が関与する細胞崩壊なら酵素阻害剤を用いることにより、崩壊現象を阻止できるはずと考え、関与が考えられる酵素に対する特異的阻害剤について検討した。酸性域ではカテプシンB(SH酵素)に対する阻害剤(ヨードアセトアミド、アンチパイン、PCMB、エチルマレイミド、E−64)を作用させたところ、血液由来好中球(不活性型)に対しては、好中球の残存率が80〜90%と崩壊阻止効果を認めた。一方、唾液由来好中球(活性型)に対しては残存率が40〜60%と不活性型好中球に比べ崩壊阻止効果が低かった。次にアルカリ域では顆粒球エラスターゼ、プロテナーゼ3(いずれもセリンプロテアーゼ)に対する特異的阻害剤(p−APMSF ,p−ABSF,アンチトリプシン)について検討した。血液由来好中球(不活性型)に対してABSFは著効を示したが(残存率95%)、唾液由来好中球(活性型)に対しては全く効果を示さなかった(残存率1%)。アンチトリプシンは、いずれの好中球に対しても無効であった(アンチトリプシンは蛋白質で分子量が大きく、細胞内に入れないためと考えられる)。これらの観察結果から、血液由来好中球(不活性型)の崩壊は酸性域、アルカリ域ともにライソゾーム酵素に対する阻害剤を用いることにより崩壊現象を阻止可能なことから、ライソゾーム酵素の活性化による自己融解と考えられる。しかし、唾液由来好中球(活性型)の崩壊は、これとは別の細胞崩壊機序が存在すると考えられる。【0007】唾液由来好中球(活性型)の細胞崩壊の機序を解明する為の実験:好中球の細胞膜に存在する活性酸素産生系酵素であるNADPH オキシダーゼを活性化すると、好中球は活性酸素を産生すると同時にライソゾーム酵素も活性化されることが知られている。したがってNADPH オキシダーゼをNADPH 添加により活性化させると、NADPH の濃度依存性に活性型好中球の崩壊が認められた。また同様にNADPH 添加によるNADPH オキシダーゼ活性化にともなう好中球の崩壊をpHとの関係で、それぞれのpHにおける活性酸素による細胞崩壊とライソゾーム酵素による崩壊を分別測定したところ、pH4ではほとんど細胞崩壊を認めず、pH5及びpH6ではライソゾーム酵素による細胞崩壊が活性酸素による細胞崩壊を上回ったが、NADPH オキシダーゼの至適pH7からアルカリ域では活性酸素による細胞崩壊が100%を占めた。上述のように活性酸素による細胞崩壊を認めたことから、活性酸素による細胞崩壊を活性酸素消去剤を共存させることによって阻止できるか否かを検討した。酸素消去剤として NBT、過酸化水素消去剤としてペルオキシダーゼを用いたところ、細胞崩壊は完全に阻止できることがわかった。さらに、尿中では細菌由来プロテアーゼによる細胞崩壊も考えられるので、尿路感染症原因菌(大腸菌、セラチア菌、緑膿菌、ブドウ球菌)について感染時と同等以上の菌数の超音波処理菌液を酸性域およびアルカリ域で共存させたが、細胞崩壊の原因とならないことがわかった。以上の実験成績をまとめると、白血球(好中球)の尿(体液)中での崩壊は不活性型(血液由来好中球)と活性型(唾液由来好中球)では全く崩壊機序が異なり、不活性型は好中球内のライソゾーム酵素による自己融解が主であり、活性型好中球の細胞崩壊は酸性域で一部ライソゾーム酵素による崩壊を認めるが、中性〜アルカリ域では全て活性酸素による細胞崩壊であることが明らかとなった。【0008】次に、各種体液中に出現する好中球の活性型、不活性型別に分類すると唾液、涙液、鼻汁、胸水中に出現する好中球はほとんどが活性型であり、尿、脊髄液、膣分泌液、腹水中では活性型が優位であるが不活性型も混在し、血液中ではほとんどが不活性型であることがわかった。このような状況下で体液中に出現する活性、不活性型の好中球のどちらも崩壊、変性から回避する手段として考えられるのは、体液の液性を酸性にして、酸性域で活性化するライソゾーム酵素(カテプシン類)を阻害し、なおかつ活性酸素産生系酵素(NADPH オキシダーゼなど)を同時に阻害しうる阻害剤の発見にかかっている。【0009】そこで、本発明者は、この課題の解決を目指し鋭意研究をした。まず、NADPH オキシダーゼがSH酵素であることから、種々のSH阻害剤およびNADPH オキシダーゼ活性化に関連する蛋白質リン酸化酵素の阻害剤であるH−7 やチロシンキナーゼ阻害剤であるゲニステインについて検討したが無効であった。次に、ヒト肝疾患のうち好中球の関与が最も強く示唆されているのはアルコール性肝炎で、劇症肝炎と同様の広範な肝壊死が出現するが、肝組織上、著明な好中球浸潤が認められ、また疾患の重症度が末梢血好中球数と相関するとされている(つまり好中球がエタノールとの関連で崩壊しにくい状態が想像できる)現象にヒントを得てアルコールと好中球の崩壊現象の関連に着目した。体液(例えば尿)中に活性型および不活性型の好中球を添加し、そこにエタノールを10%の割合で加えた場合、pH5〜6において好中球の崩壊阻止が認められた。同様の実験をメチルアルコール、エチルアルコール、イソ−プロピルアルコール、ノルマル−プロピルアルコールについて実施したところ、pH5〜6においてノルマル−プロピルアルコールが長時間にわたって好中球の崩壊をほぼ完全に阻止することがわかった(炭素数が4以上のアルコールは水に不溶)。アルコール類の好中球崩壊阻止機序の検討のために、血清に各アルコールを20%の割合で添加し、アルコール無添加血清と対比して生化学に関連する項目についてその影響を調べた。その結果、アルコール類は乳酸脱水素酵素、クレアチンキナーゼなどSH酵素およびロイシンアミノペプチダーゼ、コリンエステラーゼなどの水解酵素を阻害することがわかった。また、この阻害はアルコールの炭素数の大きさに依存し、イソまたはイルマルではノルマル型が阻害効果が非常に大きいことを見出した。【0010】次に、ノルマル−プロピルアルコールの好中球崩壊阻止現象における阻害対象酵素の推定の検討をおこなった。ノルマル−プロピルアルコールの活性酸素産生系抑制作用の確認のために次の実験を実施した。ノルマル−プロピルアルコール、NBT (ニトロブルーテトラゾリウム塩:酸素消去剤)の共存下(pH7、NADPH −オキシダーゼの至適pHの条件下)で活性型好中球にNADPH を添加してNADPH −オキシダーゼの活性化を図った場合、NBT は着色せず、好中球の崩壊も認められなかった。したがって、ノルマル−プロピルアルコールは活性酸素産生系に直接阻害作用を有すると考えられた。また、この際、ノルマル−プロピルアルコール自身が活性酸素を消去または他の物質(例えばアルデヒド)に変化したことによるのではないことを確認した。またノルマル−プロピルアルコールは不活性型好中球のpH4〜6における崩壊をもほぼ完全に抑制することから、カテプシンBをも阻害すると考えられた。【0011】すなわち、本発明は、体液中の白血球(好中球)を計測および診断する際に、採取した体液試料を各種酸を用いてpHを3〜5に調整して細胞自身が比較的崩壊しにくい条件におき、さらに活性型好中球(酸性域では活性酸素による崩壊とライソゾーム酵素による崩壊の両方による崩壊が認められるが、pH4以下ではライソゾーム酵素による崩壊が主である)と、不活性型好中球(ライソゾーム酵素による崩壊のみである)の混在を想定し、両タイプの好中球の崩壊をほぼ完全に阻止すべく、活性酸素産生系酵素と酸性域で作用するライソゾーム酵素に対する共通の阻害剤であるノルマル−プロピルアルコールを添加した体液中の白血球(好中球)保存方法である。なお、体液には、尿、唾液、脊髄液、涙液、鼻液、血液、膣分泌液などが該当する。また、酸としては、塩酸、酢酸などの無機酸や、乳酸、リンゴ酸などの有機酸が該当するが、塩酸や酢酸が好適である。本発明を実施するには、酢酸もしくは塩酸とノルマル−プロピルアルコールをあらかじめ混合剤として調整しておき、体液に対して規定量添加し、そのまま保存して細胞の計測および診断を行えばよい。【0012】【実施例】(1)試料採取管に尿を採取して、5倍希釈酢酸とノルマル−プロピルアルコールを1:2の割合で予め混和したものを、10%の割合で添加してよく混和した。用いた尿のpHは6.5であり、添加後のpHは4.0となった。この尿試料を37℃に保持して15時間後、および40時間後の細胞数を測定し、また細胞を顕微鏡で観察したところ40時間までは細胞数に変化はなかった。形態的にも40時間後にやや変性を認める程度であった。(2)試料採取管に脊髄液を採取して、10倍希釈した塩酸とノルマル−プロピルアルコールを予め1:2の割合で混合したものを、10%の割合で添加してよく混和した。用いた脊髄液のpHは7.2であり、添加後のpHは3.5となった。この脊髄液試料を25℃に保持して24時間後の細胞数を測定した結果、細胞数の減少を認めなかった。【0013】【発明の効果】以上に詳しく説明したように、本発明は、体液中の白血球(好中球)を計測、診断する際に、採取試料に酸として酢酸または塩酸を添加して体液のpHを3〜5に調整するとともに、活性酸素産生系酵素と酸性域で作用するライソゾーム酵素の両方を同時に阻害する阻害剤としてノルマル−プロピルアルコールを添加して体液中の白血球(好中球)の崩壊を阻止して保存する方法であり、試料採取後の計測、診断までに数十時間保存しても正確な計測値と診断が得られるものであり、体液中の細胞数の計測検査、および細胞診断検査とくに大量の試料を検査する場合に非常に大きな効果を有する方法である。 生体から採取した体液試料中の白血球(好中球)を計測或いは診断する際に、採取した体液試料に各種酸を加え、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコールよりなる群から選ばれたアルコール類を添加することを特徴とする体液中の白血球(好中球)保存方法。 アルコール類がn−プロピルアルコールであることを特徴とする請求項1に記載の体液中の白血球(好中球)保存方法。 酸として酢酸もしくは塩酸を用いることを特徴とする請求項2に記載の体液中の白血球(好中球)保存方法。 酢酸もしくは塩酸とn−プロピルアルコールを予め混合薬剤として調整しておき、これを体液試料に添加することを特徴とする請求項3に記載の体液中の白血球(好中球)保存方法。