タイトル: | 特許公報(B2)_エポキシ化合物からのカルボン酸の分離方法 |
出願番号: | 1995045885 |
年次: | 2006 |
IPC分類: | C07D 301/32,C07B 63/00,C07C 51/48,C07D 301/14 |
大山 求一 JP 3760390 特許公報(B2) 20060120 1995045885 19950306 エポキシ化合物からのカルボン酸の分離方法 ダイセル化学工業株式会社 000002901 後藤 幸久 100101362 壬生 優子 100136397 大山 求一 20060329 C07D 301/32 20060101AFI20060309BHJP C07B 63/00 20060101ALI20060309BHJP C07C 51/48 20060101ALI20060309BHJP C07D 301/14 20060101ALI20060309BHJP JPC07D301/32C07B63/00 BC07C51/48C07D301/14 C07D301/00-301/32 C07B 63/00 C07C 51/48 REGISTRY(STN) CAPLUS(STN) 特開平5−155872(JP,A) 3 1996245605 19960924 6 20010726 八原 由美子 【0001】【産業上の利用分野】 本発明は、過カルボン酸を使用するエポキシ化反応により得られたエポキシ化合物から、副生カルボン酸を水抽出により分離、回収する工程において、水洗液に副生カルボン酸と同じカルボン酸の塩(以下、単にカルボン酸塩と記す)を添加することによって、水洗工程でのエポキシ化合物の開環ロスを大幅に低減して、収率を向上させる技術である。【0002】【従来の技術】 エポキシ化合物の製造方法として、過カルボン酸によるエポキシ化反応による製法がある。この製法では、反応後にカルボン酸が副生し、これが関与する副反応によって、エポキシ基が開環してロスするエポキシ化合物が多種ある。【0003】 したがって、製造するエポキシ化合物の種類によっては、過カルボン酸を使用できず過水を用いることも多い。過カルボン酸を使用した後のエポキシ化反応粗液から、製品を取り出すためには、蒸留による分離が一般的である。これまでに、過カルボン酸を用いてエポキシ化を行った反応粗液の精製方法として、(1)蒸留による精製方法:エポキシ化合物が熱に対して比較的安定である場合には、蒸留によって精製する方法が一般的に用いられている。【0004】 (2)水洗による精製方法:反応粗液中に副生カルボン酸や過カルボン酸が存在するので、反応粗液を蒸留するとエポキシ化合物が重合や副反応を起こすことが多い。このような場合、水洗によって、重合や副反応を誘起する副生カルボン酸や過カルボン酸を除去した後、通常蒸留によって精製する。【0005】 (3)中和による精製方法(特開昭62-201878号公報):水洗によって副生カルボン酸や過カルボン酸を除去できない場合や副生カルボン酸の水溶液とエポキシ化合物とが反応しやすい場合には、中和による精製方法を用いる。単に液のPHを中和点まで調整するだけでは重合や副反応を誘起する物質を除去する場合には、アルカリ水溶液でこれらの誘起物質を除去する場合もある。その後、最終的に蒸留によって精製する。【0006】 (4)接触時間の短い装置を用いて水洗する方法(特開平5-155872号公報):副生カルボン酸や水とエポキシ化合物の反応速度が速い場合には、水洗工程でエポキシ化合物が開環ロスしてしまい(2)の技術を用いることができない。これに対応するため、例えは、遠心抽出機などの接触時間の短い装置を用いることによって、高収率を達成することができる。【0007】【発明が解決しようとする課題】 しかし、この場合副生したカルボン酸や残留過カルボン酸と熱によって、エポキシ化合物が開環してしまい、著しい収率低下をもたらす[従来技術(1)]。このような場合は、蒸留の前に水洗工程を設け、副生カルボン酸や過カルボン酸を抽出除去した後、蒸留する[従来技術(2)]。【0008】 また、水洗によって、副生カルボン酸や残留過カルボン酸を抽出除去できない場合や、副生カルボン酸水溶液との反応により、エポキシ化合物が開環ロスしやすい場合には、中和による精製方法を用いる。単に液のPHを中和点まで調整するだけでは、重合や副反応を誘起する物質を除去できない場合には、アルカリ水溶液で除去する場合もある。この後、蒸留する[従来技術(3)]。【0009】 しかしながら、従来技術(1)および(2)では、副生カルボン酸や水とエポキシ化合物の反応速度が速い場合には、ロスが大きく用いることができない。【0010】 また、従来技術(3)は、工業的規模で製造する場合には、エポキシ化合物のロスを招くとともに排水負荷が大きくなり実施できない。【0011】 このような状況に鑑み、特願平3−321724号明細書(特開平5−155872号公報)の発明者らは、従来技術2の改良方法として、有機層と水層の接触時間の短い装置を用いることによるエポキシ化合物の開環ロスを防止する方法を開示している[従来技術(4)]。【0012】 従来技術(1)および(2)はエポキシ化合物の開環ロス、従来技術(3)は排水負荷の問題があり工業的規模での利用は難しい。従来技術(4)は、これらの機械による接触時間の短縮には、自と限界がありまた、非常に高価な接触時間の短い装置を用いる必要がある。また、かなりのエポキシ化合物で、収率が改善されたもののやはり、水洗工程でのエポキシ化合物の開環ロスが確認された。さらに、エポキシ化合物の中には非常に開環しやすい物質もあり、上記装置を用いても開環ロスを防止できず収率の低下を招く場合があり、根本的な開環防止策が必要とされていた。【0013】 本研究では、水洗工程での開環ロスは、副生カルボン酸が、酸触媒として作用し水によるエポキシ基の開環付加反応によってジオールが生成することに起因しており、このジオールが水層側でのエポキシ化合物の相溶性をよくすることによって、エポキシ基の開環が促進されることが確認された。本発明は、過カルボン酸によるエポキシ化合物を製造する方法において、副生カルボン酸を水洗によって除去するとき、エポキシ化合物の開環ロスによる収率低下を防止する現実的な方法を提供するものである。カルボン酸の酸触媒としての働きを防止するために、カルボン酸塩を緩衝剤として添加する方法を考案した。【0014】 このような事実から本発明者は、鋭意検討した結果、水洗工程でのエポキシ化合物の開環ロスは、副生カルボン酸が触媒として作用し水とエポキシ基が反応することにより水溶性ジオールを生成することに起因することをつきとめ、副生カルボン酸の触媒作用を抑制する目的でカルボン酸塩を添加する方法を確立した。【0015】【課題を解決するための手段】 すなわち、本発明は、「過カルボン酸を使用して得られたエポキシ化合物を精製する際、反応粗液を水洗することによって、副生カルボン酸をエポキシ化合物から抽出分離する工程において、水洗液に、副生カルボン酸と同じカルボン酸の塩を添加することを特徴とするエポキシ化合物からのカルボン酸の分離方法」である。【0016】 以下に本発明を詳細に説明する。【0017】 すなわち、この方法は、水層に溶解したエポキシ化合物が水層中で、水やカルボン酸と反応することによって、水層中のエポキシ化合物濃度が低下し、さらにエポキシ化合物の水層への溶解を促進する反応抽出の形態で起こっていることを見出だしたことに基づいている。この方法によれば、開環ロスは接触時間に依存しなくなり、高価な装置も必要なくなる。また、開環ロスは殆ど防止することができる。【0018】 本発明の方法に適用できるエポキシ化合物を製造する際に使用される過カルボン酸としては過蟻酸、過酢酸、過プロピオン酸、過安息香酸などであり、エポキシ化反応粗液中にそれぞれ副生した蟻酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸が生じる。【0019】 本発明のポイントは反応により副生した蟻酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸のような副生カルボン酸を従来の水洗法および中和法と組み合わせただけの従来の水洗法では除去しきれない少量の副生カルボン酸を除去するために水洗時に副生カルボン酸と同じカルボン酸の塩を添加して緩衝作用を利用して除去し、結果としてエポキシ化合物とカルボン酸との反応によりエポキシ基が開環するのを防止するところにある。【0020】 使用するカルボン酸塩の量は、含まれる副生カルボン酸に対して0.1〜10モル倍、好ましくは、0.5〜2モル倍の範囲である。副生カルボン酸に対して、添加量が少ないと、緩衝剤としての効果が薄れ、多過ぎても実質的な効果はない。【0021】 開環防止に非常に有効なPHは、5以上であり、これでエポキシ基の開環を殆ど防止することができる。従って、このPHを達成する量のカルボン酸塩を添加すればよい。【0022】 本発明で使用するカルボン酸塩は、酢酸塩、プロピオン酸塩、安息香酸塩に代表されるカルボン酸塩で、塩の形態で水溶性ならば、カーボン数いくらの化合物でもよい。また芳香族、脂肪族、脂環式、複素環式を問わない。また塩は、無機化合物の塩、例えば、Na,K等の塩、有機化合物の塩、例えば、アンモニウム塩、アミン塩等でも有効である。【0023】 これらの塩を上記のモル比で添加し、通常一般的に用いられているミキサーセトラータイプや抽出塔などを用いて副生カルボン酸の抽出除去を行う。【0024】 抽出される副生カルボン酸としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸等を例として挙げることができる。【0025】 また、カルボン酸塩のワンパスの使用は、その量からみて甚だ現実的ではない。本発明では、工業的規模での製造に対応するため、カルボン酸塩含みの水を抽出工程にリサイクルする方法を確立した。【0026】 すなわち、副生カルボン酸を抽出した水溶液を、第2の抽出装置に導入し、ここで、カルボン酸を逆抽出させる。逆抽出溶媒は、水への溶解性の低い溶媒がよく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、n−ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナンなどの脂肪族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸n−アミル、酢酸シクロヘキシル、プロピオン酸イソアミル、安息香酸メチル等のエステル、クロロホルム、四塩化炭素クロルベンゼン等のハロゲン化物、1,2−ジメトキシエタン、ジメチルエーテル等のエーテル化合物等である。一般的には、カルボン酸は溶剤と分離するので、沸点が離れている方が良い。本工程を終えた反応粗液は、蒸留操作によって、精製される場合が多い。【0027】 カルボン酸塩をワンパスで廃棄することは、コスト的に現実的でないため、水層側に抽出した副生カルボン酸を別の有機溶剤で逆抽出し、カルボン酸塩含みの水を、リサイクル使用する方法を採用する。この方法によって、カルボン酸塩のロスは、殆どなくなりプロセスは現実的なものとなった。【0028】 本発明のカルボン酸の分離方法に適用可能なエポキシ化合物としては、エポキシ化シクロヘキセニル(メタ)アクリレートおよびそれらにラクトンモノマーを付加させたアダクト体[ダイセル化学工業(株)製、サイクロマーAシリーズおよび同Mシリーズ]、エポキシ化シクロヘキサンポリエーテル[ダイセル化学工業(株)製、EHPEシリーズ]、α−ピネンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、エポキシ化シクロヘキサンメタノール、3,4-エポキシシクロヘキシル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート[ダイセル化学工業(株)製、セロキサイド2021およびUCC社製ERL4221等]にラクトンモノマーを付加させたアダクト体等過カルボン酸を使用して得られたエポキシ化合物であって、通常の溶剤のように、蒸留による精製が適用できないものあればほとんどのエポキシ化合物に適用可能で、いずれの場合にも収率の向上に寄与することができる。【0029】 以下に実施例を挙げて、本特許をより具体的に説明するが、本特許はこの実施例によって限定されるものではない。【0030】 実施例1攪拌機を備えたジャケット付きSUS316製15リットル反応器にα−ピネン2725g、酢酸エチル5295gを張り込んだ後、昇温し内部温度を25℃とした。過酢酸の30%酢酸エチル溶液3880gを2時間かけて滴下した後、3時間熟成を行った。滴下及び熟成中は、内部温度を30℃に保持した。こうして、α−ピネンオキサイド(以後α−PNOと略)を含む反応粗液9329gを得た。【0031】 この反応粗液と17%酢酸ソ−ダ水溶液を反応粗液/酢酸ソ−ダ水溶液=1/1(重量比)で40段の抽出塔を用いて脱酢酸処理を行った。【0032】 回収後の抽残液には、反応粗液中に存在していたα−PNOの99.0%が残存していた。【0033】 さらに、この下層水溶液を40段の抽出塔を用いて、酢酸エチルにより酢酸を逆抽出で回収した。この抽残水(酢酸ソ−ダ)含みの液を反応粗液の抽出処理にリサイクル使用したが、α−PNOの99.0%が存在し、同様の効果が確認された。また、有機層側を20段オールダーショウによる連続蒸留法にて製品化した結果、蒸留前後でα−PNOの開環ロスは無かった。これは、リサイクル液を使用した後、蒸留した場合でも同様であった。【0034】 比較例1 実施例1と同様の方法で得られた反応粗液を水で同様に処理したところ、α−PNOの60%が酢酸水溶液との反応のため消失していた。【0035】 実施例2 実施例1と同様な方法で、シクロヘキセンからシクロヘキセンオキサイドを製造した。得られた反応粗液を33%酢酸ソ−ダ水溶液(反応粗液/水溶液=1/1)で同様に抽出塔を用いて処理したところ、抽残液中のシクロヘキセンオキサイド収率は99.6%であった。【0036】 さらに、この下層水溶液を40段の抽出塔を用いて、酢酸エチルにより酢酸を逆抽出で回収した。この抽残水(酢酸ソ−ダ)含みの液を反応粗液の抽出処理にリサイクル使用したが、シクロヘキセンオキサイドの収率は同様であった。【0037】 比較例2 実施例3と同様の方法で得られた反応粗液を水で同様に処理したところ、シクロヘキセンオキサイドの30%が酢酸水溶液との反応のため消失していた。【0038】【発明の効果】 本発明の方法により、過カルボン酸によるエポキシ化反応によりエポキシ化合物が安定的に製造されるようになった。 過カルボン酸を使用して得られたエポキシ化合物を精製する際、反応粗液を水洗することによって、副生カルボン酸をエポキシ化合物から抽出分離する工程において、水洗液に、副生カルボン酸と同じカルボン酸の塩を添加することを特徴とするエポキシ化合物からのカルボン酸の分離方法。 使用するカルボン酸の塩の添加量が副生カルボン酸に対して0.1〜10モル倍添加する請求項1記載のエポキシ化合物からのカルボン酸の分離方法。 抽出後の水洗液を第2の抽出装置により、カルボン酸を逆抽出によって系外に分離した後、その水洗液を第1の抽出装置に戻すことによって添加したカルボン酸の塩を再使用することを特徴とする請求項1記載の方法。