タイトル: | 特許公報(B2)_β−ガラクトシダーゼ |
出願番号: | 1994157607 |
年次: | 2004 |
IPC分類: | 7,C12N9/38,C12N1/20 |
徳田 賢一郎 服部 則子 鈍宝 宗彦 柴山 慶三 栗山 敏直 JP 3556704 特許公報(B2) 20040521 1994157607 19940708 β−ガラクトシダーゼ ユニチカ株式会社 000004503 西澤 利夫 100093230 徳田 賢一郎 服部 則子 鈍宝 宗彦 柴山 慶三 栗山 敏直 20040825 7 C12N9/38 C12N1/20 C12N1/20 C12R1:22 C12N9/38 C12R1:22 JP C12N9/38 C12N1/20 A C12N1/20 A C12R1:22 C12N9/38 C12R1:22 7 C12N 9/14-9/46 BIOSIS/WPI(DIALOG) JSTPlus(JOIS) J. Bacteriol., 1977, Vol.132, No.1, pages 219-23 2 FERM P-14263 1996019393 19960123 10 20010424 鈴木 恵理子 【0001】【産業上の利用分野】この発明は、新規なβ−ガラクトシダーゼに関するものである。さらに詳しくは、この発明は、各種食品や医薬品の製造に有用な新規なβ−ガラクトシターゼに関するものである。【0002】【従来の技術とその課題】β−ガラクトシダーゼは、β−D−ガラクトシド結合を加水分解してD−ガラクトースを遊離する酵素で、生物界に広く存在している。これまで、酵母、カビ、細菌等由来のβ−ガラクトシダーゼが広く研究されており、食品、医薬品用に利用されている。また、β−ガラクトシダーゼは加水分解と同時にガラクトシド結合を転移させる能力をも有しており、そのD−ガラクトース基転移能を利用したアスコルビン酸−D−ガラクトシル誘導体の製造に利用されている。具体的には、L−アスコルビン酸とラクトースまたはラクトース含有物との混合物にアスペルギルス・オリーゼ(Aspergillus oryzae)、エッシェリキア・コリ(Escherichia coli)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)等の微生物由来の酵素、牛肝臓等の動物由来の酵素、ジャック・ビーンズ(Jack beans)等の植物種子由来の酵素を処理して6−O−β−D−ガラクトピラノシル−L−アスコルビン酸を製造する方法(特開平2−311490号公報)が知られている。【0003】さらに、β−ガラクトシダーゼはガラクトオリゴ糖の製造にも利用されている。すなわち、アスペルギルス・オリーゼが生産したβ−ガラクトシダーゼでラクトースを処理することにより、一般式Gal−(Gal)n −Glc(但し式中Galはガラクトース残基、Glcはグルコース残基、nは1〜4の整数を、それぞれ表わす)で示されるガラクトオリゴ糖が得られ、このようにして製造されたガラクトオリゴ糖はビフィドバクテリウム菌の増殖因子として用いられている(特開昭55−104885号公報)。【0004】上記のほかにもβ−ガラクトシダーゼの転移作用によるD−ガラクトース基転移物の生成が多く報告されている。しかしながら、従来報告されているβ−ガラクトシターゼの多くは、D−ガラクトース基転移率が悪く、収量が低いため糖転移物の大量生産に用いるには不適当なものであった。【0005】特に、甘味料として利用されているステビオシドは、そのままでは味質が余りよくないが、ステビオシドにD−ガラクトース基を転移することにより味質が向上し、甘味料としての性質がよりよくなることが知られている。しかし、ステビオシドに対してD−ガラクトース基転移能の高いβ−ガラクトシダーゼが見つかっていなかったため、工業的に生産することはできなかった。【0006】この発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、糖転移能の高いβ−ガラクトシダーゼ、特にステビオシドに対する糖転移能の高い新規なβ−ガラクトシダーゼを提供することを目的としている。【0007】【課題を解決するための手段】この発明の発明者らは、D−ガラクトース基転移能を有する各種のβ−ガラクトシダーゼについて鋭意研究した結果、クレブシエラ(Klebsiella)属に属する細菌が、β−1,4ガラクトシド結合を有するD−ガラクトース基転移物を主に生成する転移作用の強いβ−ガラクトシダーゼを生産することを見いだし、そのβ−ガラクトシダーゼを精製し、性質を調べることにより、この発明を完成させた。【0008】すなわち、この発明は、クレブシエラ(Klebsiella)属に属する細菌が生産するβ−ガラクトシターゼであって、以下の理化学的性質、1)作用:β−D−ガラクトシド結合を有するβ−D−ガラクトピラノシル誘導体に作用し、β−D−ガラクトシド結合を加水分解するとともに、分解して生成したD−ガラクトース基を転移する、2)至適pHおよび安定pH範囲:至適pHがpH7.0〜7.5であって、pH6.5〜7.5(40℃で60分間処理)で安定である、3)作用適温の範囲:30〜40℃である、4)分子量:ゲル濾過法による測定で約32万である、を有することを特徴とするβ−ガラクトシターゼを提供する。【0009】また、この発明は、上記のβ−ガラクトシダーゼを生産する細菌としてクレブシエラ・オキシトカ(Klebesiella oxytoca)A−53(FERM P−14263)を提供する。【0010】以下、この発明を詳細に説明する。まず、この発明のβ−ガラクトシダーゼの理化学的性質を示す。(1)作用および基質特異性β−ガラクトシド結合を有するラクトース、O−ニトロフェニル−β−D−ガラクトピラノシド(以下、ONPGと略記する。)等のβ−D−ガラクトピラノシル誘導体に作用し、そのβ−ガラクトシド結合を加水分解して、ガラクトースとグルコース、ガラクトースとO−ニトロフェノール等に分解すると同時に、生成したD−ガラクトース基を転移する。(2)至適pHおよび安定pH範囲ONPGを基質として各pHのリン酸緩衝液中で40℃で10分間反応させた結果、図1に示すとおり、至適pHはpH7.0〜7.5であった。また、各pHのリン酸緩衝液中で40℃で60分間インキュベートした後の残存活性を測定した結果、図2に示すとおり、pH6.5〜7.5の範囲で90%以上の残存活性を示した。ただし、pH8.0以上の条件ではホウ酸−水酸化ナトリウム緩衝液を、pH6.5以下の条件ではクエン酸−水酸化ナトリウム緩衝液を使用した。 図1は、この発明の酵素の酵素活性に対するpHの影響を示すグラフであり、縦軸に酵素活性を、横軸にpHを示している。なお、酵素活性は測定値が最高値を示したとき(pH7.0)の活性を100とした相対活性率で表した。また、図2は、この発明の酵素の安定性に対するpHの影響を示すグラフであり、縦軸に残存活性を、横軸にpHを示しており、残存活性は測定値が最高値を示したとき(pH6.5)の活性を100とした相対活性率で表した。(3)作用適温の範囲ONPGを基質としてリン酸緩衝液(pH7.2)中で各温度において10分間反応させた結果、図3に示すとおり、作用適温の範囲は30〜40℃であった。図3は、この発明の酵素の活性に対する温度の影響を示すグラフであり、縦軸に酵素活性を、横軸に温度を示しており、酵素活性は40℃での測定値を100とした相対活性率で表した。(4)分子量分子量(MW)は、セファクリルS−400HR(ファルマシア社製)のカラムを使用したゲルろ過法によって測定したところ、約32万であった。分子量既知の試料としては、アルドラーゼ(MW158000)、カタラーゼ(MW232000)、フェリチン(MW440000)、チログロブリン(MW669000)を使用した。平衡化および溶出は、100mMの塩化ナトリウムおよび5W/V%のグリセリンを含む100mMのリン酸カリウム緩衝液(pH7.2)を用いて室温で、流速1ミリリットル/分で行った。(5)pHによる失活pH5.0以下またはpH9.5以上の範囲で40℃で1時間保つことにより失活する。(6)阻害および活性化ONPGを基質として各種試薬を所定濃度(金属イオン1mM、アルコール6.25V/V%)添加し、各種イオンおよびアルコールの活性に対する影響を調べた。結果は表1に示したとおりである。【0011】【表1】【0012】表1に示すとおり、このβ−ガラクトシターゼは、銀イオン、銅イオン、ブチルアルコールにより阻害され、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、亜鉛イオン、メチルアルコールにより活性化される。次に、この発明のβ−ガラクトシターゼの製造方法について説明する。この発明のβ−ガラクトシダーゼを得るには、クレブシエラ属に属する細菌を培養し、その培養物より目的とする酵素を採取すればよい。その具体的菌株として、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)A−53〔以下、A−53と略記する。(FERM P−14263)〕が挙げられる。【0013】このA−53菌学的性質は次の通りである。【0014】以上の同定試験結果から、A−53株はクラブシエラ・オキシトカと同定された。【0015】この他にも、A−53株の自然的および人工的変異株は勿論、クラブシエラ属に属する菌種でβ−ガラクトシダーゼ産生能を有する細菌はすべてこの発明において使用することができる。また、それらのβ−ガラクトシダーゼ遺伝子を組み入れた組換え微生物も生産菌として使用できるものと期待される。これらの菌株の培養には一般によく用いられる培地を使用することができる。具体的には、炭素源としては、ブドウ糖、乳糖、でんぷん、糖蜜等の糖類が使用できる。また窒素源としては、ペプトン、肉エキス、酵母エキス等の有機の窒素源と共に塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム等の無機の窒素源も使用することができる。また、必要に応じてビタミン、ミネラルを添加してもよい。さらにβ−ガラクトシダーゼ生産性を上げるために、イソプロピル−β−D−チオ−ガラクトピラノシド等の誘導物質を添加してもよい。【0016】培養条件としては、好気培養が採用され、例えば培養温度20〜40℃、培養液のpHは2〜10の範囲内で、1〜12時間培養することにより菌体を得ることができる。さらに、新鮮な培地を一定速度で供給しながら培養する連続培養法も適用できる。培地および培養条件は上記の条件に応じて適宜選定することが可能であることは言うまでもない。【0017】このように培養して得られる培養液から、ろ過あるいは遠心分離等の常法によって菌体を得る。このようにして得られる菌体を、例えば、ホモジナイザー、ブレンダー、音波処理装置、加圧型細胞破壊装置等を用いて菌体破砕処理を行うことにより粗酵素液を得ることができる。さらにゲルろ過クロマトグラフィー(例えば、樹脂はファルマシア社製)、イオン交換クロマトグラフィー(例えば、樹脂はファルマシア社製)、疎水クロマトグラフィー(例えば、樹脂はトーソー社製)、高速液体クロマトグラフィー(例えば、カラムはウォーターズ社製)等の適当な分離精製方法によりβ−ガラクトシダーゼ精製酵素を得ることができる。【0018】【実施例】以下、実施例を示してこの発明についてさらに詳細かつ具体的に説明するが、この発明は以下の例に限定されるものではない。なお、以下の例において%はW/V%を表す。また、β−ガラクトシダーゼの活性は、ONPGに対する加水分解力の測定による値で示した。すなわち、5mMのONPG0.25ミリリットルを含む100mMのリン酸カリウム緩衝液(pH7.2)0.74ミリリットルに、酵素液0.01ミリリットルを加えて40℃で10分間反応させた後、1.0MのNa2 CO3 0.25ミリリットルを加えて反応を停止させ、生成したO−ニトロフェノールを波長420nmにおける吸収により測定した。1分間に1μモルのONPGを分解する酵素量を1ユニット(U)とした。実施例1クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)A−53(FERM P−14263)を酵母エキス0.5%、ペプトン1.0%、塩化ナトリウム1.0%からなる液体培地に接種し、30℃で、16時間前培養した後、培養液1.8ミリリットルを1mMのIPTGを含む同培地180ミリリットルに植菌し、30℃で9時間培養した。【0019】この培養液を遠心分離し、得られた菌体の30gを100mMのリン酸カリウム緩衝液(pH7.2)に懸濁し、超音波破砕により菌体を破砕した後に遠心分離(20000gで60分間)して粗β−ガラクトシダーゼ液を得た。この粗β−ガラクトシダーゼ液は、総活性3900U、総タンパク質14300mgであった。実施例2実施例1で得た粗β−ガラクトシダーゼ液を出発原料として、(1)DEAE−セファロースファストフロー(ファルマシア社製)による精製、(2)ブチルトヨパール(東ソー社製)による精製、(3)DEAE−セファロースファストフローによる再精製を順次行い、酵素標品を得た。【0020】以下各精製工程について詳述し、併せて、各精製工程における酵素の総活性、総タンパク質、比活性、回収率を示す。(1)DEAE−セファロースファストフローによる精製実施例1で得た粗酵素液120ミリリットルを100mMのリン酸カリウム緩衝液(pH7.2)で平衡化したDEAE−セファロースファストフローのカラム(直径3.6×10cm)に通塔して酵素を吸着させ、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.2)200ミリリットルで洗浄した後、塩化ナトリウムの直線勾配(0〜500mM)で溶出し、β−ガラクトシダーゼ活性画分14ミリリットルを回収した。【0021】この精製段階の酵素液は、総活性1800U、総タンパク質654mg、比活性2.74U/mg、回収率46.2%であった。(2)ブチルトヨパールによる精製上記(1)で得た粗酵素液14ミリリットルに0.5Mとなるように硫酸アンモニウムを加え、0.5M硫酸アンモニウムを含む100mMのリン酸カリウム緩衝液(pH7.2)で平衡化したブチルトヨパールのカラム(直径1.6×15cm)に通塔して酵素を吸着させ、0.5M硫酸アンモニウムを含む100mMのリン酸カリウム緩衝液(pH7.2)で洗浄後、硫酸アンモニウムの直線勾配(500mM〜0mM)で溶出し、β−ガラクトシダーゼ活性画分を回収した。この溶液に硫酸アンモニウムを終濃度が60%飽和になるまで添加し、生じた沈澱を遠心分離(20000gで30分)で回収した。得られた沈澱を100mMのリン酸カリウム緩衝液(pH7.2)20ミリリットルに溶解し、粗酵素液22ミリリットルを得た。【0022】この精製段階の酵素液は、総活性713U、総タンパク質118mg、比活性6.0U/mg、回収率18.3%であった。(3)DEAE−セファロースファストフローによる再精製上記(2)で得た粗酵素液の20ミリリットルを100mMのリン酸カリウム緩衝液.pH7.2)で平衡化したDEAE−セファロースファストフローカラム(直径1.6×15cm)に通塔して酵素を吸着させ、100mMのリン酸カリウム緩衝液(pH7.2)120ミリリットルで洗浄した後、塩化ナトリウムの直線勾配(0〜500mM)で溶出し、β−ガラクトシダーゼ活性画分を回収した。得られた酵素液をセントリプレップ−10(アミコン社製)を用いて濃縮し、グリセロールを終濃度が20%となるように加えた。【0023】この精製段階の酵素液は、総活性723U、総タンパク質82.6mg、比活性8.8U/mg、回収率18.5%であった。また、このβ−ガラクトシダーゼは前記した理化学的性質を有していた。実施例3実施例2で得られた酵素標品と市販の酵素(大和化成社製 Bacillus circulans由来)を用いて、ステビアに対するD−ガラクトース基転移反応の比較実験を行った。【0024】反応液は最終濃度で、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.2)、1Mラクトース、0.025Mステビオシド、酵素20U/ミリリットルとなるように混合した。この反応液を、40℃で3時間インキュベートした後、100℃で10分間処理することにより酵素反応を停止した。反応生成物を以下の条件で高速液体クロマトグラフィ(以下、HPLCと略記する)で分析を行った。【0025】カラム:LiChrospher 100 NH2(250mm x 4mm)検出器:Shimadzu SPD−6A移動相:Acetonitrile−Water (80:20)流速 :1.0ml/min温度 :40℃この結果を図5に示す。なお、図5(a)は、この発明の酵素を用いたときの生成物を示すチャートであり、図5(b)は、市販の酵素を用いたときの生成物を示すチャートである。また、10分付近に見られるピークがステビオシドのピークであり、22分付近に見られるピークが糖転移物のピークである。この図5に示した結果から、この発明のβ−ガラクトシダーゼは、市販のβ−ガラクトシダーゼと比べてステビオシドに対する糖転移能が高いことが確認された。【0026】【発明の効果】以上詳しく説明したとおり、この発明のβ−ガラクトシターゼは特にステビオシドに対して優れた糖転移能を有しているため、この酵素を利用してステビオシドの糖転移物を工業的に生産することができる。また、その優れた糖転移能を利用して各種食品や医薬品の原料等となる糖転移物を大量生産することも可能となる。【図面の簡単な説明】【図1】この発明の酵素の活性に及ぼすpHの影響を示すグラフである。【図2】この発明の酵素の安定性に及ぼすpHの影響を示すグラフである。【図3】この発明の酵素の活性に及ぼす温度の影響を示すグラフである。【図4】この発明の酵素の安定性に及ぼす温度の影響を示すグラフである。【図5】(a)(b)は、各々この発明の酵素および市販の酵素のステビオシドに対するD−ガラクトース基転移反応後のHPLCチャート図である。 クレブシエラ(Klebsiella)属に属する細菌が生産するβ−ガラクトシターゼであって、以下の理化学的性質、1)作用:β−D−ガラクトシド結合を有するβ−D−ガラクトピラノシル誘導体に作用し、β−D−ガラクトシド結合を加水分解するとともに、分解して生成したD−ガラクトース基を転移する、2)至適pHおよび安定pH範囲:至適pHがpH7.0〜7.5であって、pH6.5〜7.5(40℃で60分間処理)で安定である、3)作用適温の範囲:30〜40℃である、4)分子量:ゲル濾過法による測定で約32万である、を有することを特徴とするβ−ガラクトシターゼ。 請求項1記載のβ−ガラクトシターゼを生産する細菌株クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)A−53(FERM P−14263)。