タイトル: | 特許公報(B2)_トレハロース含有腹膜透析液 |
出願番号: | 1994142305 |
年次: | 2004 |
IPC分類: | 7,A61M1/28,A61K9/08,A61K31/70,A61M1/14 |
谷村健次郎 乾 賢一 国場 幸史 JP 3589701 特許公報(B2) 20040827 1994142305 19940531 トレハロース含有腹膜透析液 味の素ファルマ株式会社 500026119 味の素株式会社 000000066 霜越 正夫 100064687 佐伯 憲生 100102668 谷村健次郎 乾 賢一 国場 幸史 20041117 7 A61M1/28 A61K9/08 A61K31/70 A61M1/14 JP A61M1/28 A61K9/08 A61K31/70 A61M1/14 523 7 A61M 1/14-1/28 A61K 9/08 A61K 31/70 ADD 特開平02−196724(JP,A) 特開平06−072883(JP,A) 2 1995323084 19951212 6 20010201 稲村 正義 【0001】【産業上の利用分野】本発明は、腹膜透析液に関し、さらに詳しくは、浸透圧剤としてトレハロースを含有する製剤に関する。【0002】【従来の技術】腹膜透析は1923年にその手技が開発され、腎不全の治療に応用されたが、その後血液透析療法の進歩により、一時下火になった。1975年になってモンクリエフ(Moncrief)がポポビッチ(Popovich)の協力を得て、腹腔内に灌流液を入れて体液と平衡になるまで放置するという治療法を開発した。この治療法に興味を持ったノルフ(Nolph)が改良を重ね、プラスチックに入った透析液を使用することで透析中も歩行可能となり、持続的腹膜透析(CAPD:continuous ambulatory peritoneal dialysis)として広く認知され、施行されるようになった。この透析法は、腹腔内に透析液を一定時間貯留させることにより、腹膜を通して体内の老廃物が透析液内に移動し、これを体外に廃液することにより、透析を行うものである。現在、日本では約7000人の腎不全患者で実施されており、透析療法のひとつとして定着している。ところで従来の腹膜透析液としては、ゼラチン、ムコ多糖、パラチノース、アミノ酸、グアガム等を添加するものが知られている(特表昭61−502464号公報、特開平1−151462号公報、特開平2−53723号公報、特開平2−196724号公報、特開平4−154725号公報)。【0003】【発明が解決しようとする課題】しかし、腹膜透析液では体内の水分を除去するために、血液よりも高い浸透圧を付加する必要がある。このため、現在数社より市販されている腹膜透析液では浸透圧剤としてグルコースが配合されている。透析液のpHは、長期保存や滅菌時のグルコースの分解を防ぐために、4.5から6.0と酸性側に調整されている。このように低いpHに調整されているために、腹膜への刺激性などの副作用が問題となっている。実際、山本らは、市販腹膜透析液に重曹を加えて溶液を中性化して投与することにより、▲1▼アシドーシスの改善と除水量の増加、▲2▼腹膜炎の減少、▲3▼臨床症状の改善などが認められたと報告している(日本臨床、49巻、1991年増刊号、血液浄化療法、532頁)。しかしながら、このような市販透析液に重曹などを添加して中性化するやり方は、電解質のバランスが崩れたり、細菌感染の機会が増大するなどの問題を生じる。また、浸透圧剤としてグルコースを含むため、腹膜を通じて大量のグルコースが吸収され、血糖値の上昇や、脂質代謝異常などの障害をもたらす。特に、糖尿病性の腎不全患者では病態の悪化につながる可能性が危惧される(湯浅繁一ら、透析会誌、14巻、279頁、1981年)。従って、本発明の目的はこれらの問題を解決することにある。【0004】【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記実状に鑑み鋭意研究した結果、浸透圧剤としてトレハロースを用いることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。【0005】すなわち、本発明は、トレハロースを浸透圧剤として含有すること腹膜透析液を提供することにある。【0006】本発明において、トレハロースの好ましい濃度としては0.13〜23%(W/V)である。【0007】本発明で用いるトレハロースには、α,α−トレハロース、 α,β−トレハロース又はβ,β−トレハロースの3種が存在するが、好ましくは天然に存在するα,α−トレハロースである。【0008】本発明の腹膜透析液には、透析患者の電解質バランスを考慮して、電解質としてナトリウムイオン、カルシウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオンなどの陽イオンや、塩素イオン、硫酸イオンなどの陰イオンを含ませることができる。そして、これら電解質の好ましい濃度は、ナトリウム110〜150mEq/l、塩素90〜120mEq/l、カルシウム0〜6mEq/lおよびマグネシウム0〜4mEq/lである。また、水分除去に必要とされる280〜800mOsm/lの浸透圧を有し、pHは6.0〜7.6の範囲にある。【0009】本発明の溶液は、公知の方法に準拠して製造することができる。【0010】【作用】トレハロースは、製剤学的に安定な二糖類であり、中性溶液中でも分解したり、着色したりすることがない。したがって、特別な製剤学的な工夫をすることなく中性化腹膜透析液を提供することができる。また、この製剤は腹膜透析中に血中のグルコース濃度を上昇させることがなく、安全に使用することができる。【0011】【実施例】〔実施例1〕α,α−トレハロース133g、塩化ナトリウム5.38g、水酸化ナトリウム1.6g、塩化カルシウム(二水和物)0.257gおよび塩化マグネシウム(六水和物)0.0508gを蒸留水に溶解し、1M酢酸を用いてpHを約7に調整した後、蒸留水で全液量を1000mlとした。メンブレンフィルター(0.22μm)で濾過後、濾液を日本薬局方一般試験法のプラスチック容器試験法に適合したポリエチレン製ソフトバッグに充填し、121℃で20分間高圧蒸気滅菌を行い浸透圧約700mOsm/lのトレハロース含有腹膜透析液を得た。【0012】〔実施例2〕α,α−トレハロース13gを用い、実施例1と同様の操作を行うことにより、浸透圧約290mOsm/lのトレハロース含有腹膜透析液を得た。【0013】〔実施例3〕α,α−トレハロース70gを用い、実施例1と同様の操作を行うことにより、浸透圧約480mOsm/lの目的とするトレハロース含有腹膜透析液を得た。【0014】次に試験用の比較液1を調製した。【0015】〔比較液1〕実施例1と同じ浸透圧になるようにα,α−トレハロースの代わりにグルコース70gを用いた。実施例1と同様の操作を行ってグルコース含有腹膜透析液を得、比較液1とした。但し、高圧蒸気滅菌することなく試験に用いた。【0016】〔試験例1〕比較液1を121℃で20分間高圧蒸気滅菌した。冷却後、各溶液の外観観察及び浸透圧、pH、430nmにおける透過率(T430)並びに284nmにおける吸光度(A284)の測定を行い、実施例1〜3の腹膜透析液と比較した。表1に示したように、グルコースを含有する比較液1は滅菌前後で大きくpHが低下し、着色が認められた(T430:97.5%以下)。また、A284は実施例1の腹膜透析液に比べ43倍の値に上昇した。A284はグルコース分解物のひとつである5−ヒドロキシメチルフルフラール類の生成を示す指標であり(日本薬局方で採用)、グルコースを含有する比較液1ではこの有害な分解物が多く生成していることが明らかである。これらの結果より本発明に係わるα,α−トレハロース含有腹膜透析液は、製剤学的安定性に優れ、全く問題ないことが判った。【0017】【表1】【0018】〔試験例2〕比較液1を105℃で10分間高圧蒸気滅菌した。冷却後、実施例1〜3の腹膜透析液と共に、60℃で1週間保存した。保存終了後、各溶液の外観観察及び浸透圧、pH、430nmにおける透過率(T430)並びに284nmにおける吸光度(A284)の測定を行った。表2に示したように、外観及びA284に大きな差を生じた。つまり、グルコースを含有する比較液1は保存後に黄色く着色し、A284は実施例1の腹膜透析液に比べ7倍の値に上昇した。これらの結果より、本発明に係わるα,α−トレハロース含有腹膜透析液は、製剤学的安定性に優れ、全く問題ないことが判った。以上のことより、α,α−トレハロースは安定な糖質素材であり、グルコースと異なり、中性化腹膜透析液に配合してもpHの低下や、有害な分解物を生成しないことが明らかとなった。【0019】【表2】【0020】〔試験例3〕一夜絶食した体重286〜483gのSD系雄性ラットを用い、実施例1の腹膜透析液及び比較液1を腹腔内に50ml/kgの割合で投与した。経時的に尾静脈より採血し、血漿中のグルコース濃度を測定した。なお、実験期間中、ラットは絶食、絶水とした。結果を図1に示した。比較液1では血漿中のグルコース濃度が高値を示したのに対して、実施例1の腹膜透析ではほとんどグルコース濃度に変化を認めなかった。この結果より、本発明に係わるトレハロース含有腹膜透析液は、血中のグルコース濃度を変化させることなく、安全に使用できることが明らかである。【0021】【発明の効果】本発明によれば、製剤学的に安定で、血中のグルコース濃度を上昇させずに安全に投与することのできる中性化腹膜透析液を提供することができる。【図面の簡単な説明】【図1】実施例1の腹膜透析液と比較液1を、それぞれラットの腹腔内に投与した後の血漿中グルコース濃度の経時変化を示した図である。 トレハロースを浸透圧剤として含有し、pHが6.0〜7.6であることを特徴とする腹膜透析液。 トレハロース:0.13〜23%(W/V)、ナトリウム:110〜150mEq/l、塩素:90〜120mEq/l、カルシウム:0〜6mEq/lおよびマグネシウム:0〜4mEp/lを含有し、浸透圧が280〜800mOsm/lであることを特徴とする請求項1に記載の腹膜透析液。