タイトル: | 特許公報(B2)_ポリグリセリン脂肪酸エステルの分離方法 |
出願番号: | 1994050426 |
年次: | 2004 |
IPC分類: | 7,C07C67/58,B01F17/44,C07C69/33,C11B7/00 |
尾坂 光亮 大友 直也 結城 明文 JP 3546462 特許公報(B2) 20040423 1994050426 19940322 ポリグリセリン脂肪酸エステルの分離方法 三菱化学株式会社 000005968 長谷川 曉司 100103997 尾坂 光亮 大友 直也 結城 明文 20040728 7 C07C67/58 B01F17/44 C07C69/33 C11B7/00 JP C07C67/58 B01F17/44 C07C69/33 C11B7/00 7 C07C 67/58 C07C 69/33 特開平6−41007(JP,A) 特開平5−222084(JP,A) 特開平6−166658(JP,A) 6 1995258157 19951009 8 20000830 井上 千弥子 【0001】【産業上の利用分野】本発明はポリグリセリン脂肪酸エステル分離方法に関し、詳しくはポリグリセリン脂肪酸エステル組成物を平均エステル化度の異なる2種のポリグリセリン脂肪酸エステルに分離する方法に関する。【0002】【従来の技術】ポリグリセリン脂肪酸エステル(以下、PoGEという。)は毒性が無く安全性に優れているので、食品、医薬品、化粧品等の分野の界面活性剤として使用されている。PoGEは、ポリグリセリンの重合度とそれにエステル結合する脂肪酸のエステル化度を制御することにより、界面活性剤の重要な性質である分子内の親水性部と親油性部の比率を表すHLBを変化させることができるという特徴を有する。【0003】PoGE組成物は、グリセリンをアルカリ触媒の存在下で200℃以上の高温で重縮合させたのち、脱塩、脱色等の精製を行うことによりポリグリセリンを製造し、次いでこれにアルカリ触媒の存在下、種々の脂肪酸または脂肪酸エステルを、常圧または減圧で、温度200〜240℃程度でエステル化またはエステル交換反応させることにより製造するのが一般的である。【0004】このようにして得られるPoGE組成物は、グリセリン重合度が2から20程度の分子量の分布を持つポリグリセリンを骨格とし、更にエステル化によりモノエステル、ジエステル、トリエステル等のエステル組成分布も有するという非常に複雑な組成物である。【0005】【発明が解決しようとする課題】PoGE組成物のHLBの制御は、エステル化反応に供する脂肪酸又はそのエステルとポリグリセリンの仕込比率を変化させることによって行われる。即ち、高HLBのものを得ようとする場合には、一般に平均重合度6以上のポリグリセリンを用い、且つ反応仕込の脂肪酸又はそのエステルのモル比をポリグリセリンに対し当モル以下にする。しかしこの方法では、目的のHLBごとに反応仕込のモル比を変化させて、別個の反応操作が必要となるのでPoGE組成物の生産効率が良くない。且つ、この反応はエステル化反応又はエステル交換反応であるので、最終反応物は平衡的な組成となるため、高HLB、すなわちエステル化度の小さいPoGE組成物を得ようとする場合、当然未反応のポリグリセリンが残存することが不可避となる。【0006】得られた反応混合物から未反応のポリグリセリンを分離することも従来から検討されてきたが、ポリグリセリンの平均重合度が4以上となると、ポリグリセリンの沸点が高くなるために、蒸留等による分離は困難である。よって従来から、ポリグリセリンと脂肪酸又は脂肪酸エステルとの反応混合物に、着色や臭気を呈する不純物を水蒸気蒸留等で除去する程度の精製を施して製品のPoGEとしていた。従って従来のPoGEにおいては、HLBが高いほど未反応のポリグリセリンを多く含有することが避けられなかった。【0007】ポリグリセリン自体は界面活性能を持たない。よってPoGE中にポリグリセリンが多く存在していると、PoGEの界面活性能が低下し、又PoGEの親水性が高くなるために油脂類への溶解が困難となる。又、食品用乳化剤としてこのようなPoGEを使用すると、風味が低下してしまう等の問題が生ずるので、PoGEのポリグリセリン含有量の低減が求められていた。【0008】【課題を解決するための手段】本発明者らは上記問題を解決すべく、鋭意検討した結果、水又は有機溶媒にPoGE組成物を溶解させると、PoGEが平均エステル化度の異なる2種のPoGEに分かれることを見出した。この現象を応用すると、エステル化反応において未反応のポリグリセリンができるだけ残存しないように反応させ、次いで反応混合物を上記により2種のPoGEに分離することにより、HLBが高くかつ未反応ポリグリセリン含有量の少ないPoGEを取得することができる。【0009】本発明はこのような知見をもとに達成されたもので、その要旨は、PoGE組成物を、水又は均一有機溶媒に溶解させ、次いで生成した溶液を2相に分離させることによりPoGE組成物に比べて平均エステル化度の高いPoGEと、低いPoGEとに分離することにある。【0010】以下、本発明を詳細に説明する。本発明において原料として用いるPoGE組成物の合成方法は任意である。一般的には、ポリグリセリンと脂肪酸又は脂肪酸エステルとを、アルカリ触媒の存在下、200〜240℃の条件で反応させ、PoGE組成物を得る。本発明に用いるPoGE組成物の好適な合成方法は、ポリグリセリンと脂肪酸又は脂肪酸エステルをまず150〜260℃、好ましくは200〜240℃にて反応させて脂肪酸又は脂肪酸エステルを95%以上反応させた後、反応温度を200〜300℃、好ましくは240〜280℃に昇温させて反応を続行する方法である。この方法によれば、同じエステル化度でも未反応ポリグリセリンの含有量の少ないPoGE組成物が得られる。【0011】反応に用いるポリグリセリンの平均重合度は任意であるが、通常は4以上のものを用いる。しかし、ポリグリセリンの平均重合度の上昇に伴ないポリグリセリンの粘度が上がり、反応操作が困難となるので、ポリグリセリンの平均重合度は、6〜12とするのが好ましい。【0012】ポリグリセリンと反応させる脂肪酸、又はそのエステルとしては、通常、炭素数8〜24の飽和、又は不飽和の脂肪酸、又はそのエステルを用いる。例としては、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキドン酸、ベヘニン酸等の飽和脂肪酸又はそのエステルや、パルミトオレイン酸、オレイン酸、エルカ酸、アライジン酸、リノール酸、リノレン酸、シリノール酸等の不飽和脂肪酸又はそのエステルが挙げられ、これらの中から選ばれる1つ又は任意の割合からなる2つ以上の混合物を用いる。【0013】本発明に用いるPoGE組成物の平均エステル化度は通常20%以上である。平均エステル化度が20%未満であると親水性が大きくなり、含水アルコール類等の溶媒に溶解した場合に全体が均一な溶液となって2相に分離し難くなる。好ましくは平均エステル化度が25%以上のPoGE組成物を用いる。PoGE組成物の平均エステル化度が高くなると、一般に未反応のポリグリセリンの含有量は少くなり且つ全PoGE分子に占めるエステル化度の低いPoGE分子の比率も減少する。従って、本発明方法によりHLBの高いPoGEを取得しようとする場合には、平均エステル化度が45%以下のPoGE組成物を用いるのが好ましい。特に前述の如く、脂肪酸のエステル化反応を95%以上進行させたのち更に昇温して反応を続行する方法で得たPoGE組成物を用いる場合には、平均エステル化率が40%以下のものが好ましい。【0014】本発明では通常ポリグリセリンの含有量が70重量%以下、好ましくは40重量%以下のPoGE組成物を原料として用いる。ポリグリセリンの含有量がないと一般に2相への分離が困難になる。本発明によりポリグリセリンの含有量が少なく、且つ高HLBのPoGEを取得しようとする場合には、PoGE組成物中のポリグリセリンは25重量%以下、特に15重量%以下が好ましい。【0015】PoGE組成物を分離する際に用いる溶媒の量は、PoGE組成物に対して0.25〜50重量倍用い、好ましくは0.67〜19重量倍である。分離に際して溶媒を多量に用いると、後続する溶媒留去工程等への負荷が大きくなり、経済的でない。又、少なすぎてもPoGE組成物の分離が生じ難い。本発明では、PoGE組成物を水又は有機溶媒からなる均一溶媒に溶解させる過程を経て2種のPoGEに分離する。最も簡単には、PoGE組成物を均一溶媒に加え、撹拌して溶解させたのち静置する。すると、溶液は平均エステル化度が低いPoGEと溶媒から成る上層(軽相)と、平均エステル化度の高いPoGEと溶媒から成る下層(重相)とに分離する。また、加温して溶解させたのち、冷却して平均エステル化度の高いPoGEを析出させることにより、2種のPoGEに分離することもできる。【0016】有機溶媒としては親水性有機溶媒が用いられ、このものは単独でも2種以上の混合物として用いてもよい。また、このものは水や疎水性有機溶媒との混合物として用いてもよい。好ましくは親水性有機溶媒と水との混合溶媒を用いる。なお、混合溶媒は単一相として存在するもの、すなわち均一溶媒でなければならない。【0017】具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール(IPA)、ブタノール、イソブチルアルコール(IBA)等のC1 〜C4 のアルコール類、アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン(MEK)等のC1 〜C4 のケトン類、アセトニトリル等の有機溶媒を単独又は二種以上任意の割合で混合したもの、又はこれらの含水物が用いられる。さらには、これらの有機溶媒とヘキサン、酢酸エチル等の疎水性有機溶媒との混合物も溶媒として用いることができる。以上挙げた溶媒の中でも、アルコール類又はケトン類の含水物は、分離操作や経済性の面から好ましく、特に、水−メタノール、水−エタノール、水−アセトン、水−メチルエチルケトン、水−IPA、水−アセトニトリル等の含水溶媒が好ましい。なお、PoGE組成物を昇温下に溶媒に溶解させたのち冷却して平均エステル化度の高いPoGEを析出させる場合には、メタノール、エタノール、アセトン−メタノール、メタノール−酢酸エチル等の溶媒も好適である。【0018】具体的な溶媒は、PoGE組成物の製法により適宜選択すればよい。即ち、PoGE組成物の平均エステル化度、エステル分布、脂肪酸の種類、ポリグリセリン含有量等により好適な溶媒は異なるが、予備実験により容易に適当な溶媒を選択できる。【0019】【実施例】次に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。実施例1ポリグリセリン(平均重合度11)463g(0.56モル)に対し、ラウリン酸を337g(1.69モル)、及び10%水酸化ナトリウム水溶液0.2gを仕込み、窒素気流下常圧240℃で2.5時間反応させた後、260℃に昇温し4時間反応させ、淡黄色半固体の反応混合物を769g得た。この反応混合物の残存ポリグリセリン量は9.9重量%、PoGE組成物の平均エステル化率は28%であった。【0020】次いで反応混合物200gを50℃で溶融し、これを50℃に保った2literのガラス容器に移し、これに50℃の70%メタノール水溶液800gを加え撹拌した。反応混合物は容易に分散し、撹拌を停止すると濁りが認められ、静置したところ2相に分離した。次いで2500rpm、5分間、室温で遠心分離により、上層、下層に各々分け、上、下層液をそれぞれロータリーエバポレーターで濃縮し、上層からPoGE固形分として99g、下層から同じく固形分として98gを得た。【0021】上層の固形物を分析したところ、残存ポリグリセリン量は18.8重量%、PoGE組成物の平均エステル化度は22%であった。下層の固形物の残存ポリグリセリン量は1.0重量%、PoGE組成物の平均エステル化度は35%であった。【0022】比較例1ポリグリセリン(平均重合度11)1207g(1.46モル)に対し、ラウリン酸を293g(1.46モル)、及び10%水酸化ナトリウム水溶液0.375gを仕込み、窒素気流下常圧240℃で2.5時間反応させた後、260℃に昇温し4時間反応させ、淡黄色半固体の反応混合物を1474g得た。この反応混合物の残存ポリグリセリン量は51.4重量%、PoGE組成物の平均エステル化率は21%であった。このPoGE組成物と実施例1で上層から得られた固形分とを比較すると、両者は平均エステル化度は同等であるが、残存ポリグリセリン量は実施例1で得られたものの方がはるかに少ない。【0023】実施例2ポリグリセリン(平均重合度11)825g(1.0モル)に対しステアリン酸を551g(2.0モル)、及び10%水酸化ナトリウム水溶液0.34gを仕込み、窒素気流下、常圧240℃で2.5時間反応させた後、260℃に昇温し4時間反応させ、淡黄色半固体の反応混合物を1340g得た。この反応混合物の残存ポリグリセリン量は22重量%、PoGE組成物の平均エステル化率は24%であった。【0024】次いで反応混合物100gをメタノール溶媒400gに溶解した後冷却した。40℃以上の温度では析出が起こらず、30℃未満の温度では溶液が固化してしまった。しかし30℃から40℃の温度範囲ではPoGE組成物を白色固体の沈澱として分離できた。メタノール溶媒の量を反応混合物に対して1重量倍以下に減ずると、析出が起こる温度では溶液が固化し分離ができなかった。メタノール溶媒の量を反応混合物に対して19重量倍とした場合、零下5℃でも溶液の固化は起こらず、白色の析出物がすみやかに沈降し、−5℃から40℃の非常に広い温度範囲で分離が可能であった。【0025】実施例3実施例2と同様に合成した反応混合物1.5gを50℃で溶融し、50℃に保った50mlのガラス容器に移し、これに50℃のメタノール28.5gを加え撹拌した。次いでこれを冷却したところ40℃付近から溶液中に白色の沈澱が析出を始めた。さらに温度を20℃まで下げてから、2500rpm、5分間、遠心分離し上層、下層(沈澱物)に分け、それぞれロータリーエバポレーターで濃縮し、上層より得られた固形分0.9g、下層より得られた固形分0.6gを得た。【0026】上層より得られた固形物を分析したところ、残存ポリグリセリン量は30.1重量%、PoGE組成物の平均エステル化度は19.7%であった。下層より得られた固形物の残存ポリグリセリン量は10.4重量%、PoGE組成物の平均エステル化度は33.1%であった。【0027】比較例2実施例3と同条件、同原料を用い、ポリグリセリンとステアリン酸の比率をポリグリセリン1.0モルに対し、ステアリン酸を0.7モルとして、PoGE組成物を得た。生成した反応混合物中のPoGE組成物の平均エステル化度は20.1%、残存ポリグリセリン量は62重量%であり、本発明により得られるPoGE組成物に比べて残存ポリグリセリンの多いものであった。本発明によれば、残存ポリグリセリンがはるかに少なく且つ、同等のエステル化度のPoGE組成物と高エステル化度PoGE組成物を同時に効率よく製造することができる。【0028】実施例4実施例1と同様にして得たPoGE反応混合物を表1に示す各種有機溶媒及びその含水物に分散させ、分液または沈澱形成の有無を観察した結果を表1に示す。【0029】【表1】【0030】【発明の効果】本発明によれば残存ポリグリセリンが少ない、親水性の高い低エステル化度ポリグリセリン脂肪酸エステルと高エステル化度ポリグリセリン脂肪酸エステルを同時に効率よく製造することができ、さらに工業的に簡便で経費的にも有利であり、同時に、ポリグリセリン脂肪酸エステルが食品や医薬化粧品のような極めて厳しい安全性を求められる用途に使用されることから、毒性や安全性に懸念を生じる事の無い方法を提供できる。 平均エステル化度が20%以上のポリグリセリン脂肪酸エステル組成物を水又は有機溶媒からなる均一溶媒に溶解させ、生成した溶液をポリグリセリン脂肪酸エステル組成物に比べて平均エステル化度の低いポリグリセリン脂肪酸エステルと溶媒からなる軽相と、ポリグリセリン脂肪酸エステル組成物に比べて平均エステル化度の高いポリグリセリン脂肪酸エステルと溶媒からなる重相とに分離し、次いで各々の相から溶媒を除去してポリグリセリン脂肪酸エステルを得ることを特徴とする、ポリグリセリン脂肪酸エステルの分離方法。 平均エステル化度が20%以上のポリグリセリン脂肪酸エステル組成物を水又は有機溶媒からなる均一溶媒に溶解させ、生成した溶液を冷却してポリグリセリン脂肪酸エステル組成物に比べて平均エステル化度の高いポリグリセリン脂肪酸エステルを該溶液から析出させ、析出した相を除去したのち、溶液を濃縮してポリグリセリン脂肪酸エステル組成物に比べて平均エステル化度の低いポリグリセリン脂肪酸エステルを得ることを特徴とする、ポリグリセリン脂肪酸エステルの分離方法。 ポリグリセリン脂肪酸エステル組成物中のポリグリセリン濃度が70重量%以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。 ポリグリセリン脂肪酸エステル組成物に対し、水又は有機溶媒を0.25〜50重量倍用いることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の方法。 均一溶媒が、含水有機溶媒溶液であることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載の方法。 有機溶媒が炭素数1〜4のアルコール、ケトン、又はニトリルであることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれかに記載の方法。