タイトル: | 特許公報(B2)_シクロヘキサンジメタノールの製造法 |
出願番号: | 1994000801 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | C07C 31/27,B01J 23/889,C07C 27/02,C07B 61/00 |
ポール・アップルトン マイケル・アンソニー・ウッド JP 4050335 特許公報(B2) 20071207 1994000801 19940110 シクロヘキサンジメタノールの製造法 イーストマン ケミカル カンパニー 594055158 石田 敬 100077517 戸田 利雄 100088269 西山 雅也 100082898 ポール・アップルトン マイケル・アンソニー・ウッド GB 9324785.6 19931202 20080220 C07C 31/27 20060101AFI20080131BHJP B01J 23/889 20060101ALI20080131BHJP C07C 27/02 20060101ALI20080131BHJP C07B 61/00 20060101ALN20080131BHJP JPC07C31/27B01J23/84 311XC07C27/02C07B61/00 300 C07C 31/27 B01J 23/889 C07C 27/02 C07B 61/00 C07C 31/27 B01J 23/889 C07C 27/02 C07B 61/00 C07C 31/27 B01J 23/889 C07C 27/02 C07B 61/00 特開平02−042035(JP,A) 特表平04−503474(JP,A) 特表平02−504363(JP,A) 9 1995196558 19950801 20 20010110 山田 泰之 【0001】【産業上の利用分野】この発明は、シクロヘキサンジメタノールの製造法に関する。【0002】【従来の技術】1,4−シクロヘキサンジメタノールは、テレフタール酸との反応により高重合鎖状縮合ポリマーを製造するのに使用され、かつある種のポリエステルやポリエステルアミドの製造における中間体として有用なものである。このような目的のための1,4−シクロヘキサンジメタノールの使用は、たとえばUS−A−2901466に記載されている。この文献は、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートのトランス異性体(315〜320℃)が対応するシス異性体(260〜267℃)よりも高い融点範囲を持っていることを教えている。【0003】1,4−シクロヘキサンジメタノール(ヘキサヒドロテレフタリルアルコール)を製造する一つの方法は、US−A−2105664の実施例3に記載されているように、スラリー相反応器中、銅クロマイト触媒の存在下、3,000psia(約206.84バール)の圧力と255℃の温度で実施する、ジエチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート(ジエチルヘキサヒドロテレフタレート)の水素化から成るものであって、収率は、77.5%と言われている。ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート(DMCD)の1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)への水素化は、次式(1)で示される:【化1】【0004】このようにして製造されたCHDMの2種の幾何学異性体は、次のとおりである:【化2】結果として得られた1,4−シクロヘキサンジメタノール成績体は、異なった融点を有するこれら2種の異性体の混合物である。Menachem Lewisら編、Marcel Decker,Inc.出版、「Fiber Chemistry」9頁に報告されているように、「脂環式エステル(すなわち、ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート)と脂環式ジオール(すなわち、1,4−シクロヘキサンジメタノール)は、共に2種の異性形、シスとトランスで存在し、それらは結合の開裂なしには相互変換不可能なものである」。更に、それに続いて、「(シス:トランス)比のコントロールは、多くのポリマーや繊維の性質がそれに依存するから、(1,4−シクロヘキサンジメタノールにおいて)重要である」と記載されている。【0005】1,4−シクロヘキサンジメタノールのシス異性体は、融点43℃で、トランスは、融点67℃である。より融点の高いトランス異性体は、高融点のポリエステルやポリエステルアミドが望ましいと考えられる場合には、シス異性体よりも好ましい試薬として使用されることが多い。上記の様に、トランス−ポリシクロヘキシルメチルテレフタレートのような典型的なポリエステルのトランス異性体は、シス異性体よりも高い融点を有する。それ故に、例えば、US−A−5124435はポリエステル共重合体を開示しているが、その1,4−シクロヘキサンジメタノール含量は、少なくとも80モル%のトランス異性体含量を有し、高い耐熱性を有する。シス−1,4−シクロヘキサンジメタノールよりもトランス−1,4−シクロヘキサンジメタノールの方が好ましいことについても、US−A−2917549、US−A−4999090およびGB−A−988316に開示がある。【0006】ジメチルテレフタレートの複数段階の水素化による1,4−シクロヘキサンジメタノールの液相製造方法は、US−A−3334149に記載されている。これは、パラジウム触媒を使用してジメチルテレフタレートからジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートへの水素化を実施し、次いで液相中で銅クロマイト触媒を使用してこのジエステルを1,4−シクロヘキサンジメタノールへ水素化するものである。該特許明細書の実施例1に記載された方法では、約40〜50分の滞留時間がその第2段階で使用される。US−A−3334149において推奨されている銅クロマイト触媒の活性は、長い滞留時間を必要とするものである。その16欄72頁以下には次のように記載されている:「銅クロマイト水素化触媒は、第1の水素化段階における副生物として形成される1,4−シクロヘキサンジカルボん酸のモノアルキルエステル(以下「酸エステル」と略す)の存在に対し鋭敏である。我々の研究によれば、銅クロマイトに対する供給物中において約2重量%までの濃度における酸エステルの存在は許容出来ることが見いだされた。しかしながら、ジアルキルシクロヘキサンジカルボキシレート供給物中における酸エステルの本質的により高い濃度、たとえば5重量%では、銅クロマイトの触媒の活性が著しく低下する。【0007】US−A−3334149に開示された1,4−シクロヘキサンジメタノールの液相製造方法において、1,4−シクロヘキサンジメタノールのトランス:シス異性体の比率は、平衡値に向かう傾向があると思われる。この平衡値については種々の報告があり、約2.57:1(トランス−:シス−1,4−シクロヘキサンジメタノール)(GB−A−988316における報告)と約3:1(US−A−2917549における報告)の間にある可能性がある。しかしながら、出発物質であるジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートは、一般に商業的には、シス異性体が多いシスおよびトランス異性体の混合物として得られる。このように、ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの典型的な商品グレードは、トランス:シス異性体比約0.5:1〜0.6:1である。1,4−シクロヘキサンジメタノールの製造時に好ましさの度合が低いシス−1,4−シクロヘキサンジメタノール異性体が過剰に存在する問題を克服する試みは、シクロヘキサンジメタノールのシス異性体からそのトランス異性体への異性化に焦点が向けられて来た。【0008】US−A−2917549は、シス−1,4−シクロヘキサンジメタノールをリチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、アルミニウムのような低原子量金属のアルコキシドの存在下、少なくとも200℃の温度に加熱することから成る、シス−1,4−シクロヘキサンジメタノールのトランス−1,4−シクロヘキサンジメタノールへの異性化方法を開示している。しかしながら、US−A−2917549の方法は、当初のシス/トランス−1,4−シクロヘキサンジメタノール水素化物を水素化域から回収し、窒素雰囲気中、金属アルコキシド触媒の存在下、200℃を越える温度で処理する必要がある。US−A−2917549に教示された方法を実施するためのプラントの建設費および運転費はかなりの高額とになるものと思われる。このようなプラントの他の不利な点は、異性化域における触媒としての金属アルコキシドの使用に伴う危険性である。このような触媒は、銅/クロムまたはラネーニッケル触媒のような水素化触媒を使用する典型的な水素化条件下では進行しないと報告されている異性化を、US−A−2917549の実施例11の教示に従って実施するために必要である。更に、金属アルコキシド触媒による製品の汚染を防ぐための工程が必要である。US−A−4999090は、アルカリ金属水酸化物またはアルコキシドの存在下150〜200℃の温度と1〜50mmHg(1.33〜66.5ミリバール)の圧力で蒸留することによりシス−1,4−シクロヘキサンジメタノールを異性化する方法を開示している。この方法は、US−A−2917549の方法に類似した欠点を持っている。【0009】GB−A−988316は、ジメチルヘキサヒドロテレフタレート(すなわちジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート)のシスおよびトランス異性体の混合物を銅/亜鉛触媒の存在下、高温高圧で水素化する、トランス−1,4−シクロヘキサンジメタノールの製造法を教示する。トランス−1,4−ジメチロールシクロヘキサン(すなわちトランス−1,4−シクロヘキサンジメタノール)を反応成績体から結晶化によって分離し、シス−1,4−シクロヘキサンジメタノールが富化された残留物を水素化域にリサイクルし、異性化によりシス/トランス−1,4−シクロヘキサンジメタノール混合物を形成させる。リサイクルを繰り返し実施することにより、トランス異性体を実質的過剰に含む1,4−シクロヘキサンジメタノール製品が得られる。しかしながら、GB−A−988316の方法は、より好ましくはリサイクルしたシス異性体富化物を新しいジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート供給物と共に水素化域に再導入するような条件下で運転される。シス異性体を水素化域へリサイクルする効果は、主として水素化と異性化の触媒作用を持っている銅/亜鉛触媒の二重機能の結果である。熱動力学的原理から予期されるように、異性化作用はシス異性体を優位に含む混合物を水素化域にリサイクルするとき、最も効果的である。しかしながら、シス異性体をこのようにリサイクルすることは、新しい問題、すなわち1−メチル−4−ヒドロキシメチルシクロヘキサンのような好ましくない副生物が生成することが知られており、このものは苛酷な条件下に水素化反応を実施した場合に形成される。このような副生物の生成を抑制するために、水素化域はGB−A−988316の教示(例えば2頁55〜79行参照)に従い、「比較的温和な条件」下に運転するのがよい。しかし、そのような温和な条件は、水素化域のワンパスについてジメチルヘキサヒドロテレフタレート(ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート)の相当量が未変化のまま残るため、ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの変換率が低下する。上記「比較的温和な条件」とは、GB−A−988316の2頁26〜32行の記載によれば、少なくとも200℃、好ましくは240〜300℃の温度と200〜300気圧(202.65〜303.98バール)の圧力を意味する。これら高い温度での高圧の使用は、このように極端な圧力に耐えるように構成された特別な合金の厚い壁とフランジを有する反応器を必要とする他に、危険である。従ってGB−A−988316の教示と同じような高圧で運転するプラントを建設することは高額となる。更に、プラントを200気圧(202.65バール)またはそれ以上で操作するのは極めて危険であり、プラントの建設費のみならず、運転費の点でも、非常に高額なものとなる。この建設費の本質的な部分は、高圧常套商業規模の水素化プラントを運転する場合に注意されるべき苛酷な安全予防措置に関連するものである。気体流をこのような高圧に圧縮し、プラント内を循環させることもまた、高い費用を必要とする。【0010】「気相」を使用している文献(GB−A−988316の1頁84行参照)もあるが、温度300℃であっても、200〜300気圧(202.65〜303.98バール)の圧力で、その実施例に記載された水素:エステル比において、シスおよびトランス−ジメチルヘキサヒドロテレフタレートはいずれもが液相にあるものと思われる。このように、GB−A−988316の各実施例では、液相条件が使用されている。ジメチルヘキサヒドロテレフタレート(すなわち1,4−ジメチルシクロヘキサンジカルボキシレート)およびリサイクル方法において使用され得るようなメタノールを含有する供給混合物を使用している実施例4では、水素化成績体中ジオールで存在する異性体は、トランス異性体約72%およびシス異性体28%、すなわちトランス:シス比=約2.57:1の平衡混合物である。【0011】気相中におけるある種のエステルおよびジエステルの水素化は知られている。例えば、気体相でエステルの水素化を行うために還元酸化銅/酸化亜鉛触媒を使用することが提案されている。例えば、GB−B−2116552およびWO−A−90/8121参照。更に、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、またはこれらの2種またはそれ以上の混合物のジメチルまたはジエチルエステルのようなジカルボン酸のエステルの触媒的水素化によるブタン−1,4−ジオールなどのジオールの製造が知られている。このような方法は、例えばGB−A−1454440、GB−A−1464263、DE−A−2719867、US−A−4032458およびUS−A−4172961に記載されている。【0012】ジエステル、代表的にはマレイン酸、フマル酸、コハク酸、およびそれらの2種またはそれ以上の混合物から選択されるC4ジカルボン酸のジアルキルエステルの気相水素化によるブタン1,4−ジオールの製造が提案されている。このような方法において、ジエステルはジメチルまたはジエチルマレエート、フマレートまたはサクシネートのようなジ−C1ないしC4アルキルエステルが都合良い。このような方法は、更にUS−A−4584419、EP−A−0143634、WO−A−86/03189、WO−A−86/07358およびWO−A−88/00937にもその記載を見ることができる。上記の気相方法の全てにおいて、エステルまたはジエステルはすべてジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートや1,4−シクロヘキサンジメタノールの蒸気圧と比較して高い蒸気圧を持つ。常套的に使用されている銅クロマイト触媒は、常套の液相水素化法におけるジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート供給物中に存在する酸性不純物に対し感受性を有するため、通常、ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート原料中に存在する酸性不純物の少なくとも大半を精製により除去している。シクメヘキサンジメタノールを製造するためには、酸性物質であるメチル水素シクロヘキサンジカルボキシレートがある程度の量で含まれている、比較的に不純なジメチルシクロヘキサンジカルボキシレート原料を使用することが出来ると言う利点がある。【0013】【発明が解決しようとする課題】従って、本発明の目的は、対応するアルキル(例えばメチル)水素シクロヘキサンジカルボキシレートおよび/またはシクロヘキサンジカルボン酸の相当量を含んでいてもよいジアルキルシクロヘキサンジカルボキシレート、例えばジメチルシクロヘキサンジカルボキシレートの水素化(または水素添加)による、シクメヘキサンジメタノールの製造方法を提供することである。また、相対的に低い圧力下に、実質的に高い安全性をもって、経済的に運転することの出来る、そのような方法を提供することである。本発明の他の目的は、酸性グレードのジアルキルシクロヘキサンジカルボキシレートの水素化によりシクロヘキサンジメタノールを製造するにあたり、その水素化工程がシス−リッチなジアルキルシクロヘキサンジカルボキシレートから直接に慣用的な水素化法で達成できるよりも高いトランス:シス異性体比を有するシクロヘキサンジメタノール成績体を与えるような方法を提供することである。故に、本発明の更なる目的は、極端な水素化条件や別の異性化工程の採用を必要とする上記従来技術の設備費や運転費の増加を避けることである。なおまた、顕著な酸含量を有するジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートのシスおよびトランス異性体混合物を、迅速にかつ触媒活性の損失を避けて反応させることにより、高変換率および高選択率で1,4−シクロヘキサンジメタノールのシスおよびトランス異性体混合物を製造する方法を提供することも本発明の目的である。【0014】【課題を解決するための手段】本発明によれば、ジアルキルシクロヘキサンジカルボキシレートの水素化(または水素添加)によりシクロヘキサンジメタノールを製造するにあたり、(a)還元マンガン促進化銅触媒(reduced mangasese promoted copper catalyst)を有する水素化域(または水素化ゾーン)を設け、(b)ジアルキルシクロヘキサンジカルボキシレートと約0.1〜15重量%の酸性物質を含む水素化可能物質の蒸気供給流であって、知られた水素含有気体:ジアルキルシクロヘキサンジカルボキシレート比を有するものを、約150〜350℃の範囲にあり、かつ該供給流の露点よりも高い供給温度と、約150〜2000psia(約10.34〜137.90バール)の範囲にある供給圧力において形成せしめ、(c)この蒸気供給流を前記水素化域へ供給し、(d)この水素化域を、反応混合物がその露点以上で水素化触媒と接触状態を保つのに有効な水素化条件に維持し、(e)蒸気供給流をこの水素化域を通過させ、(f)上記水素化域から、シクロヘキサンジメタノールを含む生成物流を回収する各工程を含むことを特徴とする方法が提供される。【0015】本発明は、気相水素化条件下で、出発物質ジアルキルシクロヘキサンジカルボキシレートが目的物質シクロヘキサンジメタノールへ極めて迅速に変換され、実質的に完全な変換が行われるのに数秒を要するに過ぎないと云うだけでなく、水素化域を通過中に起こる1,4ーシクロヘキサンジメタノールの異性化が比較的速く進行するという発見に基づくものである。これは、2種の別々の反応が含まれている点で、驚くべき発見である。例えば、水素化可能物質がトランス:シス異性体比約1:1以下(例えば約0.5:1〜0.6:1)を有するシスーリッチなジメチル1,4ーシクロヘキサンジカルボキシレートである場合、通常、約2.0:1〜3.84:1の高いトランス:シス−1,4−シクロヘキサンジメタノール比率と、ジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートから1,4−シクロヘキサンジメタノールへの本質的に完全な変換が、水素化域中反応混合物の約1分以下、典型的には約2〜15秒の範囲の滞留時間を採用することによって達成される。この滞留時間は、US−A−3334149の実施例1で使用された40〜50分の滞留時間のように従来技術で推奨された広い長い滞留時間とは、全く対照的である。【0016】ここに「滞留時間(retention time)」なる用語は、水素化域において使用された温度と圧力条件下に、反応混合物が触媒を充填された反応器の空間容積を通過するに要する時間を意味するものである。なお、従来技術によれば、アルキル(例えばメチル)水素シクロヘキサンジカルボキシレートのような酸性物質は、液相操作において、銅クロマイトのような銅含有触媒に対し有害作用を発揮するが、本発明方法の気相水素化条件下で還元マンガン促進銅触媒を使用する場合には、ジアルキル(例えばジメチル)シクロヘキサンジカルボキシレート供給物中にそのような酸性物質が例えば約0.1〜15重量%のようなかなりの量で存在しても、顕著な触媒活性の低下は認められず、許容することが出来、これも驚くべき発見である。【0017】【作用】本発明方法は、水素化域に対して実質的に液体のない蒸気状態で供給される供給流を用いて、蒸気状供給条件下に操作される。故に、供給流は、その露点を越える供給温度で水素化域に供給される。該方法は、気相条件が水素化域全体にわたって存在するように操作される。すなわち、蒸気相供給条件の利益を実現すべき場合には、供給流を触媒床の入り口端部においてその露点以上にすることが必要である。本発明方法の蒸気相供給条件の使用には、液相操作と比較して、一般により低い操作圧を使用出来ると云う利点がある。これは、一般にプラントの建設費だけでなく、運転費にもまた、顕著でかつ有利な効果をもたらすものである。【0018】水素化域において、水素化可能物質は極度に速く水素化され、上記式(1)に例示したようにシクロヘキサンジメタノールを与える。加えて、比較的速い異性化反応が採用した水素化条件下で起こる。従って、シス−ジメチルシクロヘキサンジカルボキシレートに富む水素化可能物質は、出発ジエステルよりも高いトランス異性体含量を有する1,4−シクロヘキサンジメタノールを与える傾向にある。シスーリッチなジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの水素化の場合、すなわちトランス:シス異性体比が約1:1よりも小さい物質を水素化する場合、反応成績体混合物に存在する1,4−シクロヘキサンジメタノールのトランス:シス異性体比は、気相水素化条件下で、約3.84:1にも及ぶ高い比率となり得ることが見い出された。この比率は、シスーリッチなジメチル1,4ーシクロヘキサンジカルボキシレート原料を用いて、液相反応条件下、低変換率で達成されると報告されている2.57:1〜3:1の値よりも顕著に高いものである。【0019】好ましい方法では、ジアルキルシクロヘキサンジカルボキシレートは、例えばジメチル、ジエチル、ジ−n−または−iso−プロピル、またはジ−n−、−iso−または−sec−ブチルシクロヘキサンジカルボキシレート、より好ましくはジメチルシクロヘキサンジカルボキシレートのようなジ−(C1〜C4アルキル)シクロヘキサンジカルボキシレートである。特に好ましい方法では、ジメチルシクロヘキサンジカルボキシレートは、ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートである。特に好ましい方法では、ジアルキルシクロヘキサンジカルボキシレートは、ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートである。水素化可能物質は、アルキル(例えばメチル)水素シクロヘキサンジカルボキシレートおよび/またはシクロヘキサンジカルボン酸のような酸性物質を約0.1〜15重量%、より普通には約2〜10重量%、例えば約2.5〜5重量%含んでいてもよい。【0020】ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートを供給原料として使用する場合、ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの相当量を含む原料物質が使用されてよい。原料エステルとしてのジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートは、高純度ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート、テクニカル級ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート、シスージメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート、トランス−ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートなどとして商業的に入手出来る。本発明方法のための特に好ましい原料物質は、テクニカル級ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの使用が好ましい。【0021】本発明方法は、ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの水素化に有利に用いられるが、当該方法がジメチル1,2−シクロヘキサンジカルボキシレート、ジメチル1,3−シクロヘキサンジカルボキシレートまたはジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート、およびこれらの2種またはそれ以上の混合物のいずれかまたは全ての水素化にも等しく良好に適用され得るものであることは当業者に理解されるであろう。すなわち、本発明方法は、例えばメチル水素1,2−シクロヘキサンジカルボキシレートおよび/または1,2−シクロヘキサンジカルボン酸を含むメチル1,2−シクロヘキサンジカルボキシレート、例えばメチル水素1,3−シクロヘキサンジカルボキシレートおよび/または1,3−シクロヘキサンジカルボン酸を含むジメチル1,3−シクロヘキサンジカルボキシレート、例えばメチル水素1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートおよび/または1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を含むジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートなどを使用して実施することが出来る。【0022】従来技術によるジメチルシクロヘキサンジカルボキシレートの水素化は、通常、高圧、液相法として実施されて来た。ジメチルシクロヘキサンジカルボキシレートが比較的高分子量であり、熱分解が起こり易いような温度(例えば約300℃)以下において比較的低い蒸気圧を示すにも拘わらず、蒸気相供給条件を利用するジメチルシクロヘキサンジカルボキシレートの水素化のための実施可能な商業的水素化プラントが設計出来ると云うことは、驚くべきことである。また、従来技術によれば、ジアルキルシクロヘキサンジカルボキシレート原料中の酸性物質の存在は銅含有触媒の活性に悪影響を及ぼすことが教示されているが、還元マンガン促進銅触媒と気相水素化条件を使用した場合には、そのような不利益が認められないことも、驚くべきことである。【0023】本発明方法がシス−リッチなジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートから、トランス:シス異性体比が通常報告されている液相条件下の平衡比率よりも過剰である1,4−シクロヘキサンジメタノール成績体混合物を生成せしめることも驚くべきことである。すなわち、通常報告されている液相条件下でのトランス:シス異性体平衡比は、シス−リッチなジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートを使用した場合、好ましい条件下では約3:1の高さに達することが出来るが、気相水素化条件下で実施される本発明方法では、シス−リッチなジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートから1つの工程でトランス:シス異性体比が3.84:1にも及ぶ1,4−シクロヘキサンジメタノールの製造を可能にするのである。トランス−ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートを使用する場合、1,4−シクロヘキサンジメタノール成績体のトランス:シス異性体比もまた、この平衡比率約3.84:1に向かう傾向がある。【0024】銅含有触媒は、低い操作圧においては触媒活性が短く、かつ低いと云う当該技術分野における先入観から考えると、本発明の方法が数カ月またはそれ以上の長期間にわたり、所望のシクロヘキサンジメタノール成績体に対する高い選択性および出発ジアルキルシクロヘキサンジカルボキシレートの高い変換率で操作され得ると云うこともまた驚くべきことである。【0025】従来技術では、ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート(ジメチルヘキサヒドロテレフタレート)の水素化ではかなりの量の副生物の形成を免れないことが明らかにされている。故に、GB−A−988316は、1−メチル−4−ヒドロキシメチルシクロヘキサンのような不必要な副生物の形成により生じる問題を認めている。本発明の方法が、ジメチルシクロヘキサンジカルボキシレートの相対的に低い蒸気圧と比較して非常に過剰な水素の存在および非常に高い水素の蒸気圧の使用にも拘わらず、反応がジメチルシクロヘキサンジカルボキシレートから所望の成績体、すなわちシクロヘキサンジカルボキシレートへ高い変換率で、しかもその成績体への非常に高い選択性およびそれに起因する非常に低い副生物の収率で迅速に進行するように操作出来る事実を見い出したことは、驚くべきことである。よって、好ましい条件下、ジメチルシクロヘキサンジカルボキシレートからシクロヘキサンジメタノールの形成は、98モル%以上にも及ぶ高変換率と96モル%以上にも達する高選択率をもって達成することが出来る。触媒活性に潜在的に害的影響を及ぼす原料中の不純物の存在にも拘わらずこのようなことが行われる事実が見いだされたことは驚くべきことである。【0026】商業的なプラントにおいて、本発明方法は、通常、連続的に運転、操作される。少なくとも2つの水素化域を設定するのが好ましい場合があり、それぞれに異種エステル水素化触媒が充填され、並列に連結される。これら域はそれぞれを蒸気状供給原料混合物の供給から独立して分離することが出来る。よって、分離された域を残りの域または両域で実施されている条件とは実質的に異なる条件に付する場合があり、例えば、他の1つまたはそれ以上の域で本発明方法が継続している間に、当該域の触媒充填物を再活性化または入れ換えることも可能である。この配列もまたWO−A−91/01961で教示されている条件下での操作を可能にする。この場合は、並列につながった2つの水素化反応器が用いられる。触媒の新しい充填物による操作の第1相においては、反応器の1つのみを使用し、他方の反応器は水素中の触媒と共に待機モード(standby mode)に保持する。触媒活性がやや低下する程度まで運転した後、第2の反応器の使用を開始し、第1の反応器は待機状態に置く。更に運転した後、両反応器を並列に使用し、消費が終了した後、触媒充填物全体を入れ換える。【0027】本発明の方法は、通常、約150〜350℃の供給温度で運転する。供給温度は、約150〜300℃の範囲が好ましく、約200〜260℃の範囲が最も好ましい。供給圧は、典型的には、約150〜2000psia(約10.34〜137.90バール)の範囲である。しかしながら、蒸気相供給条件を使用するこの低圧法の利益および利点は、約450〜1000psia(約31.03〜68.95バール)の供給圧を用いる方法を実施することにより最もよく実現される。本発明方法は、蒸気状供給流をその露点以上に保持し、ジアルキル(例えばジメチル)シクロヘキサンジカルボキシレートがそのまたは各触媒床の入口端で蒸気相として存在することが必要である。このことは、蒸気供給混合物の組成を制御し、選択された操作条件下において、そのまたは各触媒床の入口端で混合物の温度が操作圧で常にその露点以上でなければならないことを意味している。「露点」の用語は、気体および蒸気の混合物がちょうど霧状または膜状の液体になる温度を意味するものである。この露点液体は、通常、蒸気相の全ての凝縮可能な成分や溶解した気体を通常の蒸気/液体基準を満たす濃度で含有している。典型的には、蒸気供給混合物の水素化域への供給温度は、操作圧における露点の10℃またはそれ以上を越える温度である。【0028】本発明方法で使用する蒸気混合物を形成するのに都合の良い方法は、液体ジアルキル(例えばジメチル)シクロヘキサンジカルボキシレートまたはジアルキルシクロヘキサジカルボキシレート溶液を熱水素含有気体流にスプレーし、飽和または部分的飽和蒸気混合物を形成するものである。代替法として、熱水素含有気体を液体ジアルキルシクロヘキサンジカルボキシレートまたはジアルキルシクロヘキサジカルボキシレート溶液を通して泡立たせることにより、このような蒸気混合物を得ることも出来る。飽和蒸気混合物が形成される場合は、触媒と接触させる前に、更に加熱するか、またはより熱い気体で希釈して、部分的飽和蒸気混合物を生成せしめる。【0029】本発明方法において、水素含有気体:ジアルキル(例えばジメチル)シクロヘキサンジカルボキシレートのモル比は、温度および圧力に依存する広い範囲内で変化し得る。水素含有気体の主要な構成分は水素であるが、他の気体を通常は少量であるが当該方法に供給された水素含有気体中に導入してもよく、かかる他の気体の例としては、窒素、アルゴン、メタン、酸化炭素などがある。蒸気供給流を、操作圧においてそのまたは各触媒床の入口端で露点以上に維持するために、水素含有気体:ジアルキル(例えばジメチル)シクロヘキサンジカルボキシレートのモル比は、少なくとも約10:1〜8000:1、望ましくは約200:1〜1000:1の範囲が好ましい。更に、水素化条件は、水素化触媒と接触する反応混合物が常にその露点以上に維持されるように選択される。従って、ジメチル1,4ーシクロヘキサンジカルボキシレートをジエステル原料として使用する場合、1,4ーシクロヘキサンジメタノールがジエステル原料であるジメチル1,4ーシクロヘキサンジカルボキシレートよりも低い揮発性を示す事実を考慮することが必要である。【0030】本発明方法で用いられる水素含有気体は、新鮮な補給(make-up)気体または補給気体とリサイクル(recycle)気体の混合物を含むことが出来る。補給気体は、水素とCOやCO2のような任意の少量成分とアルゴン、窒素またはメタンのような不活性ガスの混合物であって、少なくとも70モル%の水素を含有するものであってよい。補給気体は、好ましくは少なくとも90モル%、更に好ましくは少なくとも97モル%の水素を含有していてもよい。補給気体は、適当な方法、例えば天然ガスの部分的酸化または蒸気改質、続いて水性ガス移動反応およびCO2吸収、続いて必要に応じ、酸化炭素の残留痕跡の少なくとも幾分かのメタン化により生成することが出来る。高純度水素補給気体が必要ならば、圧力旋回吸収(pressure swing absorption)を用いることも出来る。気体リサイクルを利用する場合、リサイクル気体は、通常、水素化域の下流の成績体回収段階で十分に凝縮されなかった水素化反応成績体の1種またはそれ以上を少量含有する。例えば、気体リサイクルを用いる場合、気体リサイクル流は、通常、微量のアルカノール(例えば、メタノール)を含有するであろう。【0031】本発明方法は、蒸気相の供給流を使用して操作されるが、水素化可能物質の水素化域への供給速度を空間速度として表現し、その空間速度を液体毎時空間速度(liquid hourly space velocity)として表現するのが便利である。故に、供給速度を、水素化可能物質の気化域への液体供給速度の、水素化触媒容量に対する比率で表すのが便利である。よって、水素化可能物質の水素化触媒を通過する均等(equivalent)液体毎時空間速度は、好ましくは約0.05〜4.0h-1である。言い換えると、液体水素化可能物質を、触媒の単位容積当たり毎時水素化可能物質の単位容量約0.05〜4.0に等しい速度(即ち、触媒m3当たり約0.05〜4.0m3h-1)で、気化域に供給するのが好ましい。更に好ましくは、液体毎時空間速度は、約0.1〜1.0h-1である。より好ましくは、液体毎時空間速度は、約0.1〜1.0h-1である。水素化可能物質が環境温度で固体である場合には、それを加熱して溶融するか、適当な不活性溶媒中に溶かすことが必要であり、後者の場合には当該溶媒は液体毎時空間速度の測定目的のためには無視される。【0032】蒸気供給流が水素化域を通過する速度は、水素化可能物質の気化域への供給速度および水素含有気体:水素化可能物質のモル比に依存することは、当業者にとって容易に明らかであろう。本発明方法で使用される粒状触媒は、いかなる適切な形状に形成されてもよく、その具体例としてはペレット、リング、サドルなどがある。【0033】本発明の方法で使用される触媒は、還元マンガン促進銅触媒である。この触媒の前駆体は、典型的には、約2:1〜10:1のCu:Mn重量比を有しており、通常、約2:1〜4:1のCu:Al重量比となるようにアルミナ支持体を含有している。その具体例としては、触媒前駆体DRD 92/89があり、イギリス、クリヴランド・TS18・3HA、ストックトン−オン−ティーズ、ボウスフィールド・レーン、P.O.Box 37のディビー・リサーチ・アンド・デベロップメント・リミテッドから入手することが出来る。【0034】本発明方法で使用される触媒に対する物理的支持体としては、これまで支持体として使用されている種々のものから適宜に選択することが可能であり、そのような支持体の具体例としては、酸化亜鉛、アルミナ、シリカ、アルミナ−シリカ、シリコンカーバイド、ジルコニア、チタニア、炭素、ゼオライト、またはそれらの適当な組合せなどが挙げられる。そのまたは各水素化域は、シェル−アンド−チューブ型反応器を備えることが出来、これは等温またはほぼ等温の条件下、管内の触媒および反対に殼内の冷却剤で操作され得る多管式反応器から成ることがある。しかしながら、普通は、建設費が低い点で断熱式反応器を用いるのが好ましい。このような断熱式反応器は、水素化触媒の単一充填部を有してもよく、また同じもしくは異なった水素化触媒の触媒床の2つまたはそれ以上を有していてもよい。所望ならば、外部または内部のインターベッド(inter-bed)熱交換器を設け、入口温度を断熱型水素化反応器の入り口から下流の1つまたはそれ以上の触媒床に調節してもよい。【0035】添付図面について説明すると、図1は、単一の水素化域内でジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの水素化により1,4−シクロヘキサンジメタノールを製造するための実験装置の、簡略化されたフローチャートであり、図2は、酸性ジメチル1,4ーシクロヘキサンジカルボキシレート原料を使用した場合の還元マンガン促進銅触媒と還元銅クロマイト触媒の触媒活性を、時間に対してプロットしたグラフである。以下、実施例を参照して、本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例で使用された触媒AとBの組成は表Iに示されている。【表1】【0036】【実施例】実施例1テクニカル級ジメチル1,4-シクロヘキサンジカルボキシレートの水素化について、図1に示した装置を用いて調べた。テクニカル級供給物の組成は、以下の通りである:トランス−ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート33.32重量%、シス−ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート61.89重量%、以下の式:【化3】で示されるメチル水素1,4-シクロヘキサンジカルボキシレート0.60重量%、水分0.07重量%および残部不純物。【0037】商業的プラントでは、水素ガスを有利には水素化域へ再循環させている。リサイクル水素はジメチル1,4-シクロヘキサンジカルボキシレートの水素化によって生成したメタノール蒸気を含んでいる。よって、商業プラントの水素化域に供給された蒸気流は、一般に水素および水素化可能物質に加え、メタノールを含んでいる。以下に記載の実験装置は、商業的操作で得られるであろう結果を正確に予測できるものでなければならず、このため、蒸発器へ供給される液体供給物につき、商業プラントの再循環水素流れに含まれるであろう所定量のメタノールに相当する所定量の液体メタノールによって修正した。以下に記載の実験装置では水素を再循環させるが、再循環水素流れ中に含まれる所定量のメタノールは、対応する商業的再循環流れに含まれるものよりも比較的少ない量とした。この差異が生じたのは、実験装置内の再循環ガスが、商業プラントで好適に冷却される温度よりも実質的に低い温度に冷却されるためである。このため、実験上の再循環水素流れから、より多量のメタノールが「たたき出される」 。実験装置と商業プラントの間のこの不一致は、実験装置に用いられる器具、とくに分析器具の精巧さにより必然的なものである。この実施例および後続の全ての実施例において、メタノールを実験用の液体生成物に対し、実験用再循環水素流れ中に実際に存在するメタノール量を差し引いた、仮に実験装置を商業的な条件下に操作した場合に実験用再循環流れ中に存在する釣りあったメタノール量と実質的に等しい用量で添加する。当該実施例では、変換率や単位時間当たりの空間速度のような全てのパラメーターは、メタノール不存在下の基準で算出した。【0038】実験用装置は図1に示した。前記ジメチル1,4-シクロヘキサンジカルボキシレート供給物の約70重量%溶液を貯蔵器100からバルブ101、ライン102およびバルブ103により液体供給ポンプ104へ供給する。ビュレット105は緩衝的な供給を付与する一方、ビュレット106はバルブ101をコントロールする液体レベルコントロラー(図示せず)を付設して備え、その結果、液体供給物の、貯蔵器100から液体供給ポンプ104への一定の水頭での供給が保証される。液体供給物を非返還バルブ107および単離バルブ108を介してライン109へポンプ供給するが、ここは、加熱液体が6mm×6mmのガラスリング112床上方の絶縁蒸発器111内に入る前に電気加熱テープ110で加熱することができる。ステンレススチール・デミスターパッド113は蒸発器111の頂部に付設する。熱水素含有ガスの流れはライン114の蒸発器111の底部に供給する。ドレインバルブ116を付設して備える液体ドレインライン115は蒸発器111の基部から未蒸発液体供給物質(たとえば、重質類(heavies))の回収を可能にさせる。蒸発器111へ供給された液体供給物の蒸発は、加熱テープ117により促進される。ジメチル1,4-シクロヘキサンジカルボキシレートおよび水素からなる飽和蒸発混合物は、蒸発器111の頂部からライン118により回収する。蒸気混合物は、粒状のアルミニウム担持マンガン促進銅の水素化触媒床121(300ml、428.1g)を含む水素化反応器120の頂部に導入する前に、その温度を露点以上に上昇させるため、加熱テープ119により加熱する。当該触媒は表Iの触媒Bである。ガラスリングは反応器120内の触媒床121の上下に充填する。蒸気混合物は、ジメチル1,4-シクロヘキサンジカルボキシレートの1,4-シクロヘキサンジメタノールへの変換が断熱条件で生じる触媒床121通って下方に流れる。断熱性は、適当に位置せしめたサーモカップル(図示せず)による調節の下に、反応器120周囲に巻いた電気加熱テープ(図示せずと、反応器120の熱絶縁体により維持される。総反応は穏やかな発熱反応で、触媒床の温度は通常約1〜2℃上昇する。水素化生成混合物は、ライン122の水添反応器120に存在し、熱交換器123を通過するが、この熱交換器は、水素化生成混合物の冷却と、ライン124からの水素含有ガスの供給物の加熱を同時に行う。ライン122における1,4-シクロヘキサンジメタノールの大半の凝縮は熱交換器123で起こる。ライン124のガスはライン125からの水素含有ガスからなり、所望によりライン126から供給されたメタン、アルゴン、窒素などの不活性ガスの混合物または単独の不活性ガスを含む。ライン125のガスはライン127により供給された補給水素と、ライン128により供給された再循環水素から構成される。ライン127による補給水素は、ライン129および/またはライン130の流れにより、ライン125へ、圧力コントロラー131〜136および高純度水素シリンダー(図示せず)からのマスフロー・コントロラー137のシステムを介して供給する。【0039】熱交換器123からの加熱水素含有ガスは、ライン114を通過し、さらに電気的加熱テープ138により加熱し、蒸発器111へ供給する。熱交換器123からの冷却水素化生成物はライン139を通過し、さらにクーラー140で室温付近の温度に冷却する。クーラー140からの液体/蒸気混合物はライン141を通過して、第1ノックアウト・ポット142に入るが、ここに液体水素化生成物が集められ、バルブ143、ライン144およびコントロールバルブ145による最終的な供給によって製品ライン146へ送られる。水素および未凝縮メタノールからなる蒸気混合物は、ライン147のノックアウト・ポット142の頂部に存在し、さらにクーラー148で温度10℃に冷却される。クーラー148からの付加的に冷却した液体/蒸気混合物は、ライン149を介し、第2ノックアウト・ポット150へ供給するが、ここに凝縮メタノールが集められ、バルブ151およびライン152を介する最終的な供給により製品ライン146へ送る。ノックアウト・ポット150からのガスおよび未凝縮物質は、ライン153を介し吸引ポット154を通ってライン155内に入り、次いでバルブ156を介してガス再循環圧縮器157へ送る。ガスは、バルブ158、ライン128、125、124および114を介して貯蔵器111へ再循環する。窒素などの不活性ガス濃度のコントロールのために、再循環ガス中に、パージガス流をライン159のシステムからバルブ160のコントロールの下に流入させる。番号161はバイパスバルブを示す。【0040】本発明の装置の始動時点で、触媒充填物を反応器120へ内に入れ、次いで窒素で当該反応器をパージする。触媒充填物を次いでEP-A-0301853の教示に従い還元した。適当に酸性物質を加え、メタノールで希釈した高純度ジメチル1,4-シクロヘキサンジカルボキシレートを、次いで蒸発器111へ、速度141ml/時(液体毎時空間速度0.47h−1に相当)でポンプ輸送する。ライン118における蒸気混合物中のガス:ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートのモル比は477:1であった。反応器120の入り口温度は223℃、入り口圧力は901psia(62.12バール)であった。これにより、水素化域はジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートおよび揮発性が低い1,4−シクロヘキサンジメタノール生成物の両方についての凝縮を防止可能な条件下に操作した。水素化域の温度は、操作圧力において露点以上であった。【0041】ライン146の液体は、毛管ガスクロマトグラフィにより、長さ15mおよび内径0.32mmの溶融シリカカラム(DBワックスの0.25μm膜で内部被覆)、ヘリウム流速2ml/分(ガス供給分割比= 100:1)およびフレーム・イオン化検出器を用いて分析された。当該機器はピーク・インテグレイターを有するチャート・レコーダーを備え、市販の試料である既知組成のジメチル1,4-シクロヘキサンジカルボキシレートを用いて検定した。また、出口ガスを採取し、同様の方法でガスクロマトグラフィにより分析した。ピークの同定は、当該物質の基準試料の分析によって観察された保持時間の比較およびマススペクトルにより確認した。反応混合物中に検出された化合物には、以下のものが含まれていた:1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート、4−メトキシメチル・シクロヘキサンメタノール、ジ(4−メトキシメチルシクロヘキシルメチル)エーテルおよびメタノール。回収された反応混合物の酸性度は、滴定法によって測定された。得られた結果から、ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートは97.9%以上変換され、酸性物質は99.5%以上変換され、1,4−シクロヘキサンジメタノールへの選択率は約99.35%が得られ、少量の副産物が残部であることが証明された。貯蔵器100からのジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの供給溶液中に存在するメタノールを差し引くと、水素化反応の化学量論に従い変換されたジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート1モル毎に、メタノール2モルが検出された。結果を後の実施例2〜8の結果とともに、表IIに示す。【表2】表IIについての注)DMCD= ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートLHSV= 液体毎時空間速度CHDM= シクロヘキサンジメタノールBYPR= 副生物METH= 4−メトキシメチル・シクロヘキサンメタノールDETH= ジ−4−ヒドロキシメチルシクロヘキシルメチル・エーテルガス= 水素98%以上を含む、水素含有ガス【0042】実施例2供給物を、テクニカル級ジメチル1,4ーシクロヘキサンジカルボキシレートと一部の粗製トランスージメチル1,4ーシクロヘキサンジカルボキシレート(メチル水素1,4ーシクロヘキサンジカルボキシレートと1,4ーシクロヘキサンジカルボン酸から成る酸性物質約30重量%を含む)との混合物に変化させた。この混合物は、酸性物質6.50重量%を含むことが滴定によって決定された。結果は、表IIに示すとおりである。【0043】実施例3供給物を実施例2で用いた混合物から元のテクニカル級1,4ーシクロヘキサンジカルボキシレートに戻した。結果は表IIに示すとおりである。実施例1〜3による実験を触媒活性の明らかな損失が認められるまで継続して、実施した。実施例から本質的な触媒活性の損失が生じていないことが明らかである。変換率の僅かな変化は、実施例における異なった液体毎時空間速度の採用(これにより水素化触媒と接触する反応混合物の滞留時間に対応する差が生ずる)に帰せられる。【0044】実施例4〜7実施例1と同様の装置および方法により、表Iの触媒Aの250mlを使用して、4つの実験を行った。結果は、表IIIに示すとおりである。表IIについての注は、表IIIについても適用される。触媒Aもまた、デービー・リサーチ・アンド・デベロップメント・リミテッドから入手できる。【表3】【0045】図2は、触媒AとBを使用して行った実験において、約1.59重量%のメチル水素1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートを含むジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの供給物を用いて得られた場合の結果をプロットしたものである。各触媒は、標準条件におけるジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの変換率に基づき当初1.0の活性を持つものとした。水素化によるジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートから1,4−シクロヘキサンジメタノールの製造について、触媒Bは触媒Aよりも約30〜40%生産性が良好であった。図2は、両触媒について、残留活性の100分率を操作時間に対して同一スケールでプロットしたものであり、活性の損失速度が明らかに触媒Bゆりも触媒Aの方が大であることを示している。【図面の簡単な説明】【図1】 本発明方法の実験的規模における一実施態様を示すフローチャートである。【図2】 本発明の効果、すなわち酸性物質の存在下でも還元マンガン促進触媒はその良好な触媒活性を長時間維持することを示すグラフである。【符号の説明】100 貯蔵器111 蒸発器112 ガラスリング床120 反応器121 触媒床123 熱交換器140 冷却器142 第1ノックアウト・ポット148 冷却器150 第2ノックアウト・ポット154 吸引ポット157 圧縮器 ジアルキルシクロヘキサンジカルボキシレートを水素化することによりシクロヘキサンジメタノールを製造するにあたり、(a)還元マンガン促進化銅触媒を有する水素化域を設け、(b)ジアルキルシクロヘキサンジカルボキシレートと0.1〜15重量%の酸性物質を含む水素化可能物質の蒸気供給流であって、知られた水素含有気体:ジアルキルシクロヘキサンジカルボキシレート比を有するものを、150〜350℃の範囲にあり、かつ該供給流の露点よりも高い供給温度と、150〜2000psia(10.34〜137.90バール)の範囲にある供給圧力において形成せしめ、(c)この蒸気供給流を前記水素化域へ供給し、(d)この水素化域を、反応混合物がその露点以上で水素化触媒と接触状態を保つのに有効な水素化条件に維持し、(e)蒸気供給流をこの水素化域を通過させ、(f)上記水素化域から、シクロヘキサンジメタノールを含む生成物流を回収することを特徴とする方法。 ジアルキルシクロヘキサンジカルボキシレートがジメチルシクロヘキサンジカルボキシレートであり、酸性物質がメチル水素シクロヘキサンジカルボキシレートおよび/またはシクロヘキサンジカルボン酸である請求項1記載の方法。 蒸気供給混合物中の水素含有気体:ジアルキルシクロヘキサンジカルボキシレートのモル比が200:1〜1000:1の範囲にあり、そして供給温度が150〜300℃の範囲にある請求項2記載の方法。 供給温度が200〜260℃の範囲にある請求項3記載の方法。 供給圧力が450〜1000psia(31.03〜68.95バール)の範囲にある請求項3に記載の方法。 ジアルキルシクロヘキサンジカルボキシレートが液体毎時空間速度0.05〜4.0h-1に対応する速度で水素化域に供給される請求項3に記載の方法。 水素化可能物質がアルキル水素シクロヘキサンジカルボキシレートおよび/またはシクロヘキサンジカルボン酸1〜10重量%を含む請求項3に記載の方法。 水素化可能物質がアルキル水素シクロヘキサンジカルボキシレートおよび/またはシクロヘキサンジカルボン酸2.5〜5重量%を含む請求項7記載の方法。 ジアルキルシクロヘキサンジカルボキシレートがジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートであり、水素化可能物質がメチル水素1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートおよび/または1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を含むものである請求項3に記載の方法。