生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_グアーガム酵素分解物を有効成分とする鉄吸収促進剤
出願番号:1993054967
年次:2005
IPC分類:7,A61K31/715,A61P7/06


特許情報キャッシュ

高橋 秀久 上田 佳宏 JP 3698738 特許公報(B2) 20050715 1993054967 19930219 グアーガム酵素分解物を有効成分とする鉄吸収促進剤 太陽化学株式会社 000204181 高橋 秀久 上田 佳宏 20050921 7 A61K31/715 A61P7/06 JP A61K31/715 A61P7/06 7 A61K 31/715 A61P 7/06 2 1994247860 19940906 6 20000121 八原 由美子 【0001】【産業上の利用分野】本発明は、鉄吸収促進剤に関する。より詳しくは、食品中の鉄分の吸収を腸において促進させることによって、鉄欠乏性貧血症状を改善せしめ、または予防することにより、ヒトの健康を増進させる鉄吸収促進剤に関する。【0002】【従来の技術】鉄は生体内における増血作用には欠かせない因子である。鉄の欠乏は出血、尿管内出血、妊娠、鉄欠乏食の摂取、腸からの鉄吸収異常等によって生じ、これが持続すると鉄欠乏性貧血症に至る。【0003】従来、鉄の欠乏に際しては、クエン酸鉄、乳酸鉄、塩化第二鉄など非ヘム鉄及び肉やレバー等に含まれるヘム鉄を摂取することや、ビタミンC,システインなど鉄の吸収を促進させる成分の多い食品を摂取することが勧められている。一方、鉄の吸収を低下させるフィチン酸,リン酸,タンニン酸などを多く含む食品の摂取を避けることが望ましいとされている。【0004】また、食物繊維のなかでもカラギーナン、寒天、アルギン酸ナトリウムは鉄のほかミネラル成分の吸収を低下させることが報告されている(Harmuth-Hoene,A.E. & Schelenz, R. ; J. Nutrition, 110, 1774-1784(1980 ))。【0005】食物繊維のひとつであるグアーガムは、インド,パキスタン,米国等で栽培されているグアープラント(Cyamopsis tetragonoloba)の種子から得られる粘質多糖(ガラクトマンナン)であり、食品の安定剤,増粘剤として広く用いられている。グアーガムに関しては血清コレステロールの低下作用(Jenkins,D.J.A. et.al. ; Clin. Sci. Mol. Med., 51, 171-175(1976) ), 血糖値の上昇抑制作用(Jenkins, D.J.A. et.al. ; Lancet 24, 172-174(1976) )が証明されている。一方、グアーガムの酵素分解物の応用に関しては、血清コレステロール上昇抑制作用,血糖値の上昇抑制作用,消化管通過時間の短縮作用(飲食料品用機能性素材有効利用技術シリーズ No.4 ;サンファイバー,(社)菓子総合技術センター)が報告されている。また、グアーガムの酵素分解物には糞便中の水分の増加および単位時間あたりの糞便排泄量の増加作用のにあることが知られている(特開平2-229117)。【0006】然るに、動植物由来、微生物由来の多糖体または合成による多糖体であっても、これらの多糖体が鉄の吸収を促進せしめ、鉄欠乏性貧血を改善するという報告は見あたらない。【0007】【発明が解決しようとする課題】鉄分はレバー,ほうれん草,豚,牛,鶏のレバー等に多く含まれているが、これらの食品は人により好き嫌いが大きく、摂取不足になりがちである。鉄強化食品に関しては、クエン酸鉄,乳酸鉄,塩化第二鉄などの非ヘム鉄やレバー等に多く含まれるヘム鉄の使用が試みられている。しかしながら、非ヘム鉄は腸管での吸収率が低く、一方、ヘム鉄は、非ヘム鉄と比して吸収率は大きいが、ヘム鉄特有の苦み、金属味があるため、摂取時に不快感のあることが問題であった。また、吸収促進効果を有するビタミンC等は、味,風味,安定性の点で問題がある。そこで食品中の鉄含量が少量であっても腸管からの鉄吸収が促進され、鉄欠乏症状が改善されまたは予防できる素材が望まれている。【0008】【課題を解決するための手段】本発明者らは、鉄吸収促進効果を指標として、鋭意研究を重ねた結果、グアーガム酵素分解物が食事中の鉄の吸収を促進し、鉄欠乏症状を改善または予防せしめることを初めて見い出し、本発明を完成するに至った。【0009】グアーガム酵素分解物の原料はグアー種子に含まれる粘質多糖すなわちグアーガムである。グアーガムはβ−(1,4)−D−マンノピラノシル単位を主鎖に、α−D(1,6)結合でガラクトースが分岐した構造を持っている多糖であることから、アスペリギルス属菌やリゾプス属菌等に由来するβ−マンナナーゼを用いて酵素的にマンノース直鎖のみを加水分解することができる。このようにして低分子化された多糖を濾過することにより本発明のグアーガム酵素分解物を得ることができる。グアーガム酵素分解物は酵素の反応時間を変えることにより分子量を変化させることができるが、本特許にかかるグアーガム酵素分解物はマンノース直鎖の鎖長が、30〜200 単位の範囲に80%以上分布するものを指し、鉄吸収促進効果を保持する目的では、50〜150 単位に分布していることが望ましい。なお本発明のマンノース直鎖の鎖長とはガラクトマンナンの主鎖であるマンノースの結合している数を指し、その測定法は特に限定するものではないが、たとえば分解された多糖類を水に溶解しTOSO 803D型の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用い、水を移動相にしてG3000PWのカラムにてゲル濾過を行い、示差屈折計にて検出する。この際にグルコース数が既知の直鎖デキストリン(グルコース数30,100,200)を指標物質として測定することにより図1のようなグラフが得られた。これから30〜200単位を面積から算出できる。また好ましくは、該鎖長を含有する該多糖類を溶解した10%水溶液の粘度は、ブルックフィールド粘度計を用い、25℃において、30rpm で測定したとき5〜20cps であるものを指す。この場合、10%水溶液の粘度が5cps より低いこと、すなわちマンノース鎖長が30単位よりみじかい場合は、還元糖の含量が多くなるため、鉄吸収促進効果が期待できず、一方、マンノース鎖長が200 単位以上、すなわち粘度が20cps より高いと水溶液状での殺菌が困難になったり、また水溶液状で摂取しにくくなるなど産業上の利点が損なわれる。【0010】本特許に係るグアーガム酵素分解物は、鉄の吸収の促進効果を期待する場合、ヒトの摂取量として一日あたり10〜40gが望ましい。【0011】また、本特許に係るグアーガム酵素分解物は、鉄化合物と併用することにより更に鉄の補給効果が期待できる。この時、併用される鉄化合物としては鉄分を含むものであれば、特に限定されない。しかしながら、食品に配合されるために、食品添加物公定書に記載されている物が好ましい。例えば、グルコン酸第一鉄、鉄クロロフィンナトリウム、クエン酸鉄、塩化第二鉄、ピロリン酸第一鉄、ピロリン酸第二鉄、クエン酸鉄アンモニウム、乳酸鉄、硫酸第一鉄、三二酸化鉄等があげられる。これらの鉄は単独でもよいし、混合物としてもよい。これら鉄化合物の中では、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、三二酸化鉄等のイオンとして遊離しやすい鉄化合物が好ましい。本発明品を含んだ食品への鉄化合物の添加量は、鉄分強化剤としての性格上食品100gあたり、0.1mg 〜20mgの範囲で用いられ、好ましくは、1.0mg 〜5.0mg である。【0012】【作用】本発明のグアーガム酵素分解物が、いかなる作用により腸管からの鉄吸収を促進せしめるかは不明であるが、恐らくはグアーガム酵素分解物が食品の胃通過時間を遅延せしめることによる鉄の胃酸への可溶化性を向上、消化物の小腸通過時間を遅らせることによる鉄の吸収を上昇などが推察される。以下、実施例および試験例により詳述する。【0013】実施例1水900 部にクエン酸を加えてpHを3.0 に調整した。これにアスペリギルス属菌由来のガラクトマンナナーゼ0.2 部とグアーガム粉末100 部を添加混合して40〜45℃で24時間酵素を作用させた。反応後90℃,15分間加熱して酵素を失活させた。濾過分離して不溶物を除去して得られた透明な溶液を、減圧濃縮したのち(固形分20%)噴霧乾燥したところ、グアーガム酵素分解物の白色粉末65部が得られた。酵素重量法に従う水溶性食物繊維含有量は90%であった。また、ブルックフィールド粘度計を用い、25℃,30rpm の条件でグアーガム酵素分解物 10 %水溶液の粘度を測定した結果、16cps であった。更に、高速液体クロマトグラフィーの移動相として水を、カラムにG3000PWXL(東ソー株式会社)を用いたとき、グアーガム酵素分解物の糖鎖のマンノースの鎖長は50−150 単位の範囲に80%が包含されていた。このとき糖鎖単位の標準として、グルコース数が既知の直鎖デキストリン(グルコース数50,100 ,150 )を用いた。【0014】試験例1.変異原性試験変異原性試験はサルモネラ菌を用いる復帰突然変異試験(矢作多貴江;蛋白質・核酸・酵素,20,1178-1189 (1975))に従い、プレインキュベーション法を用いて代謝活性化によらない場合(S9Mix 無添加)と代謝活性化による場合(S9Mix 添加)の両方を行った。すなわち、滅菌した試験管に実施例1のグアーガム酵素分解物(5000, 1000, 500, 100, 50μg/ml),陽性対照物質(2−aminoanthracene, 1μg/ml),または注射用蒸留水を0.1ml, Na−リン酸緩衝液(溶媒対照)またはS9mix 0.5ml ,菌懸濁液(Salmonella typhimurium TA100 または TA98を含む)0.1ml の順に加え、37℃,20分間振とうした。これに、45℃に保温したトップアガー2mlを加えて混合してから最小グルコース寒天平板培地上にひろげ、プレートを転倒して37℃で48時間培養した。培養終了後、復帰変異により出現したコロニー数を計測した。その結果グアーガム酵素分解物の添加プレートの復帰変異コロニー数は、S9Mix 無添加及び添加の場合とも、いずれの菌株でも溶媒対照に比べ2倍以上の値は示さず、また濃度に依存した増加も認められなかった。【0015】試験例2.反復投与毒性試験薬発第313 号(昭和57粘3月31日付、GLP 基準)「医薬品の安全性試験の実施に関する基準について」およびその改正基準に従って、実施例1で得られたグアーガム酵素分解物500 及び2500mg/kg を、 Sprangue- Dawley系の雌雄ラットに1日1回、28日間毎日経口投与した。その結果グアーガム酵素分解物各投与群で雌雄とも死亡発現はなく、また一般状態の変化も認められなかった。また体重、摂餌量、尿検査(潜血,蛋白,糖,ケトン体,ウロビリノーゲン,ビリルビン,pH)、眼科的検査(眼底検査)、血液学的検査(白血球,赤血球,ヘモグロビン量,ヘマトクリット値,血小板数)、血液生化学的検査(GOT, GPT, アルカリフォスファターゼ,総コレステロール,トリグリセライド,総蛋白質,尿素窒素,クレアチニン,総ビリルビン,ブドウ糖,カルシウム,鉄)、剖検および臓器重量に関しては、グアーガム酵素分解物投与による影響は認められなかった。【0016】実施例2本例はグアーガム酵素分解物の鉄吸収促進効果を示したものである。体重約110gのウイスター系雄ラットをAIN基本飼料(コントロール)もしくはAIN基本飼料のカゼインの5%を実施例1で示したグアーガム酵素分解物で置き換えた飼料(グアーガム酵素分解物群)で10日間飼育した。更に、AIN基本飼料に含まれるクエン酸第二鉄の100 %,75%,50%にあたる量を含有した飼料を作製し、コントロールもしくはグアーグム酵素分解物群を各3グループ(各グループ6匹)に分け、各グループにこの飼料を14日間与えた。14日後にエーテル麻酔下採血し、血液中のヘモグロビン値、血清鉄を各々測定した。また、脾臓を採取し、これを湿式分解して原子吸光度計を用いて、脾臓中の鉄量を測定した。各測定値を表1に示した。【0017】【表1】【0018】表1の結果から本発明のグアーガム酵素分解物には鉄の吸収促進効果を有することが明らかである。【0019】【発明の効果】本発明のグアーガム酵素分解物は、腸管における鉄の吸収を促進せしめることにより、鉄欠乏性貧血症状の改善もしくは貧血の予防ににきわめて効果がある。しかも、グアーガムは古くから食品の増粘剤,安定剤として使用されてきたこと、またグアーガム酵素分解物に関する変異原性試験及び反復投与毒性試験の結果からも、本グアーガム酵素分解物の安全性はきわめて高く、かつ大量に供給可能で、また無味無臭であり、食品への添加が容易であることから、本発明はヒトの健康増進に貢献するところ大である。【図面の簡単な説明】【図1】示差屈折計にて検出したゲル濾過の溶出パターンの図である。 グアー種子に含まれる粘質多糖を1種類または2種類以上の酵素で部分的に加水分解して得られたグアーガム酵素分解物であって、10%水溶液の粘度が、ブルックフィールド粘度計を用い、25℃,30rpmで測定したとき5〜20cpsであるグアーガム酵素分解物を有効成分とする鉄吸収促進剤。 グアー種子に含まれる粘質多糖を1種類または2種類以上の酵素で部分的に加水分解して得られたグアーガム酵素分解物であって、該分解物のマンノース直鎖の鎖長が30〜200単位以内に80%以上分布されるように限定分解されているグアーガム酵素分解物を有効成分とする鉄吸収促進剤。


ページのトップへ戻る

生命科学データベース横断検索へ戻る